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「本格謎解き」というよりは、「容疑者Xの献身」のように「泣かせミステリ」とでも言った方が良さそうな内容になっている。

話の前半部分から、ある映像がフラッシュバックのように登場して来るので、勘の良い人なら、薄々、事故の想像はできるはず。

犯人も意外と言えば意外だが、前半部分での印象が薄いので、どんでん返し的な衝撃感はそれほどない。

本格謎解きという面で見ると、(個人的に見落としているのかもしれないが)何故、折り鶴を黄色から色別に奉納して行ったのか?とか、最期まで解明されていないような部分もいくつかあるように思える。

むしろ、「例え、家族のような身近な人でも、人間は他人のことを何も分かってない」ということや、「他人を思いやろうとしたことが、結果的に逆効果になってしまう」等と言った皮肉めいた現実が随所に埋め込まれているのが興味深い。

TBS映画なのに、マスコミ被害のような部分も描いているのも面白い。

ラストは、真犯人を説得するのではなく、被害者に代わってその息子に探偵役が説教するという、ちょっと風変わりな展開になっているのも印象に残る。

その探偵役と刑事だった父親との関係もだぶらせ、父と息子の関係性をテーマにしているのだ。

ただ、映画として見ると、少し画面構成がちまちましているような印象も受ける。

人物のアップが多く、周囲の風景などを引いて撮ったシーンが少ないような気がするのだ。

このために、せっかく日本橋周辺を舞台にしながら、その辺一帯の位置関係や風情などが今ひとつ出ていないようにも思える。

全体的にドラマっぽい印象を受けるのはそうしたことがあるのかもしれない。

泣かせの部分の受け止め方は人によって違うだろう。

感動したと感じる人もいるだろうし、あざとく感じた人もいるはずである。

とは言え、映画としてはそんなに出来が悪いとも思えず、まずまずの出来と言った所ではないだろうか。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2012年、「麒麟の翼」製作委員会、東野圭吾脚本、櫻井武晴脚本、土井裕泰監督作品。

東京 日本橋

1人の警官が、外国人旅行者に道を教えている。

その警官が、ふらふらと日本橋の麒麟像に近づいているのを見つけ、何事かと見ていた。

麒麟像の下まで来たその男は、持っていた白い折り鶴をその麒麟像に置こうとするが、それを持つ手は血まみれだった。

背後から警官が、どうしました?酔ってますか?と声をかけるが、その男青柳武明(中井貴一)はその場に仰向けに倒れる。

その腹にはナイフが突き立っていたので、駆けつけた警官は、至急無線を発信する。

タイトル

日本橋署の刑事加賀恭一郎(阿部寛)は、看護士の金森登紀子(田中麗奈)と喫茶店で会っていた。

亡くなった加賀の父の三回忌の日程を確認されていたのであった。

しかし、加賀は、父からは仕事を優先しろと生前言われていましたからと答えたので、金森は、加賀さんは何も分かっておられないと睨みつける。

その時、加賀の携帯が鳴り、近くで起こった日本橋での事件を知ると、金森に詫び、出向こうとする。

金森は、仕方なさそうに自分が勤めている病院の名刺を加賀に渡す。

商店街の総菜屋で売り子のバイトが終了しかけていた中原香織(新垣結衣)の携帯が鳴る。

主人に遠慮して小声で応答すると、相手は同棲相手の八島冬樹(三浦貴大)からだったが、声の様子がおかしかった。

公園の樹木の中に身を隠すように携帯をかけていた八島は、近づいて来た警官の姿に気づき、一旦携帯を切るが、香織からすぐに折り返しの電話がかかって来たので、呼び出し音がなってしまい、警官に気づかれてしまう。

慌てて逃げ出した八島だったが、特別警戒態勢だったので、すぐに他の警官にも見つかり、捕まりそうになる。

焦って車道に飛び出した八島の前にトラックが突っ込んで来る。

麒麟像の下で現場検証をしていた警視庁捜査一課の松宮脩平(溝端淳平)と上司(松重豊)と合流した加賀は、血痕が発見された最初の現場である江戸橋からここまで7、8分かかると話しかける。

何故、誰にも助けを求めなかったんだろう?加賀はそう疑問を口にする。

小嶋は、家族は病院の方に行ったと加賀に教える。

病院で、被害者の妻()、娘の遥香(竹富聖花)、息子の悠人(松坂桃李)と出会った加賀は、残念ながら、ご主人は病院到着後、亡くなられましたと告げる。

自宅アパートに帰っていた香織の携帯が又鳴り、それを取った香織は、聞き覚えのない相手の声に戸惑い、これ、冬樹くんの携帯ですよね?と恐る恐る返事をするが、相手は、こちらは警察のものですと言う。

加賀は家族に、不審人物が青柳さんのバッグを持って行ったと伝える。

その後、加賀は、病院にやって来た香織が、警察関係者らしき人物から別の病室に連れて行かれる所を見かける。

加賀は、家族に遺留品を見せるが、それを確認していた家族たちは、ネットカフェの会員カードとメガネケースは見覚えがないと言う。

捜査会議で、青柳武明は建築部品メーカー「カネセキ金属」製造本部長だったという。

さらに、八島冬樹と言う不審な男を見つけたが、現在、交通事故で意識不明の重体との報告。

加賀は、遺留品の中にあったデジタルカメラはデータが入っていなかった。ネット王国西新宿支店のカードとメガネケースは家族も見覚えがないと言っていると報告する。

八島冬樹は、愛育の家という施設の出身で補導歴があるということも分かり、捜査本部長(北見敏之)は、八島冬樹を容疑者とすると一応結論づけ、一応捜査のコンビが割り振られる。

加賀とコンビを組まされたのは従兄弟でもある松宮脩平(溝端淳平)だった。

松宮が屋島が入院している病院へ行こうと言うと、加賀は、ちょっと別な所へ行くと言い出したので、松宮も付き合うことにする。

人形町の小物屋で青柳の写真を見た店員は、二度目に来た時にメガネケースを買ってくれたと言う。

松宮は、一目でメガネケースの店を突き止めた加賀の地元署特有の知識を褒める。

加賀は、青柳の勤め先は新宿なのに、人形町で買い物をし、日本橋で殺された訳を考えていた。

青柳家では、青柳の部下だった工場長(鶴見辰吾)が妻にお悔やみに来ていた。

工場長が青柳家を出ると、外にはマスコミ陣が待ち構えていたので、工場長は、ここは被害者の家だぞ、場所をわきまえたまえと叱責する。

加賀は、病院で入院している八島の病室に見舞いに来ていた中原香織に遭っていた。

八島は故郷で工務店に勤めていたが、そこが倒産したので東京へ行くって言い出したので、自分も付いて来たという。

加賀は、八島の通信記録を見せながら、最後にメールを送ったのがあなたですと指摘し、今日、彼はどこに勤めていたのです?と聞くと、カネダとか…?とか香織が言うので、カネセキではないかと加賀が補足する。

香織は、八島は今日は新しい会社の面接に行ったのだという。

21時半の八島さんは事故にあっているが、最後の電話はどんな電話でした?と聞くと、一瞬考えた香織は、もうすぐ帰る。遅くなってごめん…でしたと答える。

八島が持っていたバッグは、青柳武明さんというカネセキ金属の製造本部長の私物であり、青柳さんは21時頃殺された。

八島さんは逃げている途中でトラックにはねられたのではないか?と加賀が可能性を指摘すると、香織は、冬樹くんはそんな人じゃありません!と否定する。

その後、青柳の家で、松宮は八島の写真を妻に見せるが、見覚えはないと言う。

加賀が長男の悠人に話を聞こうとすると、妹の遥香が、お兄ちゃんに話を聞いても無駄。最近ずっとお父さんと話してなかったじゃないと口を挟んで来て、ダメだね私たち、お父さんのことを何も知らないし、何一つまともに答えられない…と自嘲する。

部屋を出て行った悠人は、父親との会話を思い出していた。

何で朝練休んだんだ?と、ある日父は聞いて来たのだったが、悠人にはちゃんと答えられなかった。

青柳家を出た松宮は、おじさんの三回忌出るんでしょうね?と加賀に聞く。

加賀は、金森さんから連絡行ったか?と聞き返す。

悠人が通っていた中学に出向き、水泳部の顧問だった糸川肇(劇団ひとり)に、青柳から電話があったことを確認すると、青柳悠人のことで相談があると言われ、息子との仲がうまくいかないって言ってましたという。

捜査会議の席では、青柳は事件当夜、「マイルストーン」と言うコーヒーショップでカフェラテ2つ買ったこと、中原香織はナイフのことを知らないと言っていることが報告される。

松宮は、翌日、カネセキ金属の国立工場へ行く予定ですと話しながら、加賀とたこ焼きを食べる。

翌日、国立工場で2人を応対した工場長は、八島が辞めさせられたのは、単なる人員整理であり、青柳は、製造責任者として月に1度の提起視察でこちらにも顔を出していたという。

工場を見学しながら話を聞いていた松宮だったが、その時、工場長から叱責されていた工員が、何となく自分の方に視線を向けていることに気づく。

八島に友人はいなかったか?と松宮は聞くが、派遣同士は横のつながりがないと工場長は言う。

その頃、加賀の方は、人形町周辺を歩き回っていた。

携帯を受けた加賀は「黒茶屋」と言う甘味喫茶にやって来る。

そこで働いていた青山亜美(黒木メイサ)に遭った加賀は、店内の壁に「流線型の月」と言うポスターが貼ってあったので、いよいよですかと感心する。

亜美に青柳の写真を見せ確認させると、半年くらい前から土日にこの店に来ていたが、それ以前に来たことはないと言う。

ゴルフウエアみたいなラフな格好をし、腕時計を気にしながら、デジカメを持っていた。

運動すると甘いものが欲しくなると言いながら、この店の周辺が書かれた絵地図を見ていたというので、聞いていた加賀は、さすがジャーナリストと亜美を褒める。

一方、松宮の方は、昼休み、外にあの工員が出て来るのを待ち構え、近くに連れて行って話を聞く。

俺たち、上に目を付けられると切られることあるから…と工員はおおっぴらに話せないことを打ち明け、作業員がコンベアに巻き込まれないようにインターロックというベルトコンベアに安全装置が付いているんだけど、本来、作業するときはそれを作動させていなくてはいけないんだけど、この工場では作業が遅れるというので止めているのが普通だった…と話し始める。

ある日、ベルトコンベア上で作業をしていた八島が仰向けに倒れて、背中を部品で強く打つ事故が起き、事務室へ運ばれたが、病院にも行ってないし、派遣会社から労災も出なかったという。

その後しばらく休んでいた八島は少ししびれなどが腕に残ったと言いながらも復帰したが、それが原因で、八島は切られたのではないかと言うのだった。

その責任者が、製造本部長だった青柳だったらしい。

その話を松宮は本部長に報告する。

動機がほぼ固まったと判断した本部長は、八島の意識が戻らなくても送検できるんじゃないか?と自信を持ち始める。

(回想)事件当日、アパートに帰って来た八島は、穴の開いてない靴下を探していたので、香織が出してやりながら、大家さんからたまっている家賃を全部出してって言われたと伝える。

もう良くなったんだよね?手のしびれ…。私のバイトだけじゃもう無理と迫る香織に、八島は、自分にはやりたいことがあるんだと言い出したので、自分のやりたいことやって生きていけるほど世の中甘くないよねと香織は言い聞かし、もっとしっかりしてよ!と叱りつける。

(現在)青柳武明葬儀会場

工場長が悠人に、まだ水泳やっている?と声をかけて来るが、悠人は答えなかった。

(回想)会社の食堂で、工場長は青柳から、息子が水泳大会で優勝したと嬉しそうに教えてられていた。

(現在)娘の遥香が、もっとお父さんと話していれば良かった…と後悔していた。

悠人は、ふと、会場に来ていたかつての友人、杉野達也(山崎賢人)と黒沢翔太(聖也)に気づくと、瞬間、プールの映像がフラッシュバックする。

3人で会場の外に出るが、そこに近づいて来たのが、3人がいた中学時代の教師糸川肇だった。

糸川は悠人に悔やみの言葉をかけるが、そうした4人の姿を加賀が少し離れた所から目撃していた。

翌日、容疑者の八島が殺された青柳から派遣切りを受けていたらしい。「カネセキ金属」の派遣会社が労災隠しを行っていたらしいという報道が流れる。

マスコミの情報収集が早いことに驚いていた捜査本部だったが、どうやら上が意図的に漏らしたらしいと知る。

この報道は、悠人の通う高校でも携帯のネットニュースなどで広まり、悠人が登校すると、皆一斉に彼を避けてしまう。

工場長は、労災隠しに関しては本部長からの指示だったと取材に答える。

加賀は、又、亜美から呼び出されて「黒茶屋」へ向かうと、甘味を食べていた1人の男性客を教える。

その男性客が、この近辺で青柳を目撃していたというのだった。

その男と一緒に出向いた椙森神社(すぎのもり)で、男は、先に来ていた青柳が、賽銭箱の上に紫色の千羽鶴の束を置いて、それをデジカメで撮影していたので、「願掛けですか?」とちょっと声をかけると、「ついでだったので」と青柳が答えたという。

同行して来た亜美は、青柳が「ついで」と言った言葉に注目し、絵地図を加賀に示しながら、この椙森神社は、日本橋の七福神の一つなのだと教える。

青柳の目的は「七福神巡り」だったのではないか?と加賀も気づく。

亜美はさらに、あの人がニュースで言われているような人には思えない。あくまでも勘ですが…と遠慮がちに伝えると、あなたがそう感じたんなら、それはただの勘じゃないと加賀は指摘する。

その頃、中原香織がいつものようにバイト先の総菜屋に来ると、主人から裏に呼ばれ、あんた日本橋の事件の容疑者の同棲相手なんだって?客がニュースを見たって言うんだよ。うちも客商売だから、変な噂流されても困るしね…と言い出し、暗に辞めてくれということを匂わす。

がっかりして店を出た香織がアパートに戻って来ると、そこにはマスコミが待ち構えており、香織を取り囲んで来たので、逃げるようにアパートの部屋に飛び込む。

(回想)八島は、貧しくて買えないので、自分でテーブルを作っていた。そんな貧しい毎日だったが、2人は一緒に寝ながら、今は金がないけど、力を合わせて絶対幸せになるからと誓い合うのだった。

(現在)突然、香織の携帯が鳴り出す。

病院の八島の病室に加賀がやって来た時、先に到着していた香織が、死亡した八島を前に、私が殺したんです!私が冬樹くんを追いつめて…と言いながら泣き出し、その場に昏倒してしまう。

香織を診察した医者は、倒れたのは単なる貧血ですが、彼女は妊娠しており、3ヶ月ですと加賀に告げる。

加賀が香織に話を聞いたいと申し出ると、医者は看護婦にどうだろう?と声をかける。

看護婦は、まだ精神的に負担になることは…と躊躇し、自分も香織に付き添うことにする。

その看護婦は、金森登紀子だった。

加賀は香織に、八代はナイフを日頃使っていたかと聞き、実は彼のことを何も知らなかったのでは?と問いかける。

金森は加賀を止めようとするが、香織は、八代が自分に賭けて来た最後の電話が、どうしよう…、偉いことをやっちゃったんだ…と言う言葉だったことを打ち明ける。

さらに香織の証言から、事件当日、八島は穴の開いてない靴下を探していたんですね?と確認する加賀。

香織は、彼を追いつめたのは私です。お金のことで責めたから…とまた泣き出す。

捜査会議では、ほぼ被疑者死亡で事件解決の方向へ向かいかけていたが、加賀に無理矢理促された松宮が立ち上がり、まだ疑問点が残されていることを指摘すると、会見を明日まで引き延ばすことになる。

会議室を出た松宮は、僕は腹話術の人形じゃありませんよと加賀に抗議し、七福神巡りはどこに行くんです?と聞くが、加賀は一課の指示に従うよと又松宮任せのような発言をする。

笠間稲荷神社では緑色の、 茶の木神社では水色の折り鶴が置かれていたことを宮司たちが思い出す。

黄色、緑、青と一ヶ月ごとに色違いの鶴が置かれていたらしい。

日本橋の麒麟像の前に、1人の車椅子を押した中年女性が通りかかり、疲れたようなまなざしで麒麟を見上げていた。

水天宮では半年前に、金を入れた封筒と共に黄色の折り鶴が置かれていたらしい。

水天宮と言えば安産祈願の神社なので、香織の妊娠と関係があるのかと口に出した松宮だったが、香織は妊娠3ヶ月であり、ここに折り鶴が置かれたのは半年前だと加賀が指摘する。

その折り鶴は、和紙で作ってあったという宮司の発言を元に、加賀はすぐに、一軒の紙屋に松宮を連れて来る。

店員は、青柳は和紙10色セットを買ったと証言する。

加賀と松宮は、何故、黄色からなんだろう?と頭をひねる。

再び水天宮に戻って来て、おみくじ売り場の神子さんに河童の由来を聞くと、あれは水難除けなんだという。

帰りかけた松宮が落とした八島の写真を見つけた神子さんは、あらっ?と驚く。

自宅で、悠人が見ていた評論家風の男(大石吾朗)が青柳事件の解説をしているワイドショーを、母親はバカバカしいと吐き捨てて消してしまう。

そこに、ネットの中で、父さん殺されて当然だなんて書いてある。私これからどうすれば良いのと泣きながら遥香が帰って来る。

そんな青柳家に松宮と共にやって来た加賀は、君もまだ知りたいことあるんじゃないか?と悠人に話しかける。

オヤジの自業自得だろう?日本橋でのびてたんでしょう?とバカにしたように悠人が答えると、松宮は、のびてたんじゃない。麒麟の前で力尽きたんだ…と教える。

麒麟?と聞き返した悠人は又部屋を出て行く。

加賀は遥香に、お兄ちゃん、お父さんを嫌いだったって行ってたよねと質問する。

中3のときの夏休み…と遥香は答える。

(回想)夏休み、朝食の席で、悠人が水泳を辞めたと聞いた青柳が、自分が水泳を始めた時に比べれば君は恵まれているんだよと伝えるが、そう言うのがうっとうしいんだよ!と吐き捨て、悠人は食事も満足にとらず部屋を飛び出してしまう。

(現在)遥香の話だと、その夏休み以来、悠人は父親と口をきかなくなったのだという。

妻が言うには、ちょっとした事故が学校であり、荒廃の男の子が夜、学校のプールに忍び込み、溺れたのだという。

幸い、糸川教諭が発見し、すぐに病院へ運んだので、命に別状はなかったらしい。

加賀はそんな妻と娘に、青柳さんは信心深かったか?と聞き、松宮は、周囲に子供さんが生まれる話はあったか?と聞くが、どちらもなかったという。

母親が、労災隠しって、そんなに悪いことなんですか?殺されても仕方なかったんでしょうか?と言うと、労災隠しは犯罪です。でも、殺されても仕方ない人間なんていないと思って、我々は捜査していますと加賀は答える。

その頃、自室のパソコンで「キリンの…」と検索していた悠人は愕然としていた。

事件当日、八島が面接を受けた会社は「ウッドワーク」と言う家具屋だったが、面接会場が土足禁止だったことが判明する。

当日、八島が穴の開いてない靴下を探していた理由はこれだったのだ。

八島は家具作りを強く希望していたので、「ウッドワーク」では採用しなかったが、「アズマ家具」という別会社を紹介してやったという。

「アズマ家具」に事情を聞きに行くと、紹介を受けたので経験者かと思って会ってみたけど、趣味で作ったことがあるくらいだと分かったので断ったという。

捜査会議では、捜査本部長が、カフェで青柳が遭ったのは八島だろう。かねてより青柳に恨みを持っていた八島がナイフを持っていたと想像を語るが、又しても、加賀に促され渋々立ち上がった松宮が、ナイフは木工の技術を見せるために持っていたのではないかと仮説を出す。

本部長は、さらに、明日の夜まで記者発表を待つと言い出す。

悠人は自室で、プールのフラッシュバックに悩まされていた。

その時、母親が叫ぶ声が聞こえたんで駆けつけると、妹の遥香が、左手首を自分で斬って埋まっていた。

母親が救急車!と頼んだので、悠人は素直に分かったと答える。

香織が、八代の遺骨が入った白木の箱を持って自宅アパートへ戻って来ると、加賀が待ち受けていた。

加賀は、八代の所持品を返しに来たのであった。

穴の開いてない靴下ですと言って渡された靴下を見た香織は、恥ずかしい…、穴が開いてないじゃないくて、穴を塞いだ…ですよねと苦笑する。

それは、香織が穴を繕った靴下だったからだ。

加賀は、八代が面接を受けた会社が分かった。家具店です。八代さんは家具職人になりたかったんだと思いますと教える。

それを聞いた香織は、彼のこと、何も知らなかった…と呟く。

彼に妊娠のこと告げてなかったんですね?と加賀が聞くと、冬樹くんに逃げられるんじゃないかって思ったので…と香織は肯定する。

今でも彼を信じていますか?と加賀が確認すると、香織は自信なさそうに分かりませんと答えるのだった。

加賀は続いて自殺しかけた遥香を見舞う。

病室にいた悠人は、バカだよ、自殺なんかしたら、オヤジが悪いって認めたようなものじゃないかと怒っていた。

彼女がネットやニュースを見た可能性は?と加賀が聞くと、母はただ分かりませんと力なく答えるだけだった。

犯罪はガンのようなもので、苦しみは周囲に広がると加賀は呟く。

帰りがけ、松宮に、母親に悠人に聞いたのと同じことを聞いてくれと頼んだ加賀は、自分は原点に戻ると言い去って行く。

夜の公園を通っていた香織は突然加賀から声をかけられ驚く。

加賀は驚かせたことを詫びると、行き詰まったら原点に戻る…、だからあなたもここへ来たのではありませんか?と聞く。

加賀は、八代が最後に香織に電話をしたのはここだったとベンチ脇の場所を教える。

こんな所で…と驚いた様子の香織だったが、やっぱり信じられません。冬樹が人殺しなんて…、私だけでも信じてあげなくてはいけないと思う。冬樹くんが殺せるわけがありませんと言う。

すると、加賀も、ええ、分かっていますと答える。

(回想)故郷を出て上京して来た香織と八島は、長距離トラックの運転手(田中要次)に日本橋まで乗せて来てもらっていた。

日本橋に降り立った2人は、ようやく東京に来たという実感が沸き、万歳を叫んでいた。

(現在)ここから全てが始まる。そう思ったらすごく幸せだった…、香織はその時を思い出して呟く。

いつだったんですか?と加賀が聞くと、3年前の今頃…、日記を見ると分かるんですが…、私たちそう言うのを祝ったことがなかったのでと香織は言う。

加賀は、今度調べておいて下さいと頼み、日本橋の麒麟像の前に来る。

これ知ってますか?想像上の動物。本来翼はないんですが、ここは日本のスタート地点。ここから全ての地点に飛び立っていくようにつけられたそうですと加賀が説明する。

でも、今やその麒麟像の上には高速道路が走っていたので、これじゃあ飛び立てませんねと香織は困惑し、この麒麟像、まるで私と冬樹くんみたい…と呟く。

その時、加賀は反対側の歩道にいた悠人を発見し、声をかけるが、加賀に気づいた悠人は慌てたように逃げ出す。

加賀は香織に、彼の父親がここで殺されたのです。きっと彼も原点に戻って来たのでしょうと教える。

地下街で工場長に遭った悠人は、労災隠しをやったんですか?と問いつめ、悪いことがバレたら、全部オヤジのせいにしやがってと言いながら殴りつける。

悠人を途中で見かけ後をつけていた松宮がそれを止める。

悠人は汚いことをする人間じゃないと言っていたのか?と後であった加賀は松宮に確認する。

松宮は、明日、死亡した八島を総見するそうですよと言い、加賀はそうはさせないと答える。

加賀は、麒麟像周辺が写っているビデオの中に、事件発生時、八島がその横に座り込んでいる箇所があるのを見つけ、捜査本部で本部長らに確認させる。

青柳が江戸橋付近で刺された時刻、八代にはアリバイがあったことになる。

事件は振り出しに戻ったということだった。

金森看護士と再び喫茶店で会った加賀は、年に一度くらいはお父さんのことを思い出すべきですと言われていた。

仕事を優先しろなんて言うのは男と男の約束なんですよね。でも、元気な頃に交わした約束なんて当てになりません。あなたが向かい合っているのは死んだ人であって、死んで行く人じゃない。私は何人もそんな人を見て来ましたと金森看護士は言う。

(回想)金森看護士は、死ぬ直前まで、加賀の父親隆正(山崎努)の担当で、良く将棋の相手をしてやっていた。将棋の指し方は、息子の加賀が携帯で指示した通りだった。

父の隆正は、そんな息子の手を簡単に見破っていたようだった。

俺に将棋を教えたのはオヤジだと隆正は言う。

では、隆正さんも息子さんに?と金森看護士が聞くと、あいつとは指したことがないと言い、次はどう来るかな?と呟いていた。

いよいよ隆正が最期という時、隆正は将棋盤を…と金森看護士に告げ、金森看護士はマグネット付き将棋盤を隆正の前に持って行ってやる。

(現在)最期にあなたに会いたかったんだと思います。たった1人の息子と会いたかった…、死ぬ間際、プライドや意地を捨て、本当の心を取り戻します。そんなメッセージを受け止めるのは、生きているものの義務です!だから、あなたにこんな御節介をしなければいけないんですと金森看護士は言い切る。

死んで行くもののメッセージを受け取るのが、生きているものの義務か…、加賀はそう繰り返すと、俺は大きな勘違いをしていたのかもしれないと目を見開く。

松宮を連れ日本橋の麒麟像の前に来た加賀は、息子は父親のメッセージを受け取ってたんだ。それを悠人くんに伝えたのはお前だ。だから悠人くんはここに来たんだと松宮に告げる。

捜査本部で、加賀は本部長から、お前はどこの線を追っているんだ!と迫られる。

加賀は仕方なさそうに、青柳悠人ですと答える。

翌日、再び糸川教諭に会いに行った加賀は、夏休み中プールで起こった事故のことに付いて、当夜、第一発見者だったのは糸川先生だそうだが、夜中何をしていたのですかと質問していた。

糸川は、その日は水泳大会があったので、その時の記録などをパソコンに打っていたという。

帰りかけて、ふと窓からプールを見下ろすと、誰かの用具がプールサイドに置いてあるのを見つけたので、慌てて駆けつけ、周囲を見渡すと、吉永くんという生徒がプールの中に沈んでいたという。

急いで引揚げ、病院へ運んだので、命には別状がなかったというので、その吉永くんは今どこに?と松宮が聞くと、長野に越したと聞いたことがあると糸川は答える。

何か、青柳くんの事件と関係でも?と逆に糸川教諭の方から聞いて来たので、先生は数学の先生らしいですが、数学で最初に間違った公式を覚えてしまうと、何度でも答えを間違ってしまうってことがありますよね。子供たちが正しい公式を使えるように、生徒たちに指導して下さいと加賀は妙なことを言う。

その頃、金森看護士は香織のアパートを訪れ、中の様子を見ると、引っ越しされるんですか?と聞く。

香織は故郷に帰ろうと思う。あちらの方が少しは友達もいるから…と寂しそうに答える。

子供もあちらで生むんですか?と聞いた金森看護士は、相手の顔色を観て、生まないってこと?と聞く。

すると、香織は、1人で育てる自信ないし、そんなに甘い世の中じゃないと知ってますからと言う。

机の上に飾ってあった八島の写真を見ながら、彼が今の話聞いたらどう思ったでしょうね?と金森看護士は呟く。

工場長を殴った悠人は、1日で釈放になって警察から出て来ていた。

そこに待っていたのは加賀と松宮で、日本の警察も甘いな、1日で出て来られるとは…と自嘲しながら、3年前、水泳大会に出たんだそうだな?お父さんは酸い天狗参りをしていた。心当たりがあるそうだな…と加賀は話しかける。

水天宮は水難除けのご利益がある。教えてくれないか?君がお父さんから受け取ったメッセージを…と加賀は悠人に頼むが、悠人は怒って帰ってしまう。

それを観ていた松宮は、何か都合が悪いことがあるんですねと加賀に話しかける。

その時、松宮は、八島の工場時代の友人だった行員が警察署に来るのを見て呼び止める。

(回想)工場長は、本社に八島が怪我をした日、本社にそのことを報告しないように指示を出していた。

マスコミでは違う報道をされていたので悔しくて…と言う工員に、松宮はこの件を調べると約束する。

悠人は黒沢翔太と杉野達也に携帯をかけ、後でメールをするから絶対来いよと伝えていた。

誰かに何か言われたのか?と聞く黒沢に、いいや…と一旦は否定した悠人だったが、言われたのかな?オヤジに…と答える。

その頃、引っ越しの支度をしていた香織は、2008年の日記を読み返していた。

加賀と松宮は、吉永君の今住んでいる家を見つけ、その母親に出迎えられる。

その母親とは、以前、日本橋の麒麟像を疲れ切ったまなざしで見上げていた女性だった。

その母親に紹介された吉永くんは、車椅子に乗り、完全な植物人間と化していた。

自発呼吸だけは出来るのだと母親は哀しそうに言う。

吉永くんの様子に慄然とした松宮は、学校を訴えたりなさらなかったんですか?と聞くと、事故だと言われたもので…と母親は答える。

それで納得されたんですか?と松宮も問いかける。

出来るはずありませんと答えた母親は、息子は責任感の強い子でした。リレーの選手に選ばれた時、自分だけが2年生で、他の3人は3年生だったので、自分が皆の足を引っ張ってはいけないといたんですが、大会の後、やっぱり足を引っ張ったって言って、その夜1人でプールに忍び込んで…と悔やむ。

青柳武明の名を聞いたことはありませんか?と写真を加賀が見せると、見覚えはなさそうだったが、何か思い出したようで、ハナコさん?東京のハナコさんではないでしょうか?と言いながらパソコンを立ち上げる。

自分は息子のことを記録したブログをやっているんですが、そこに「東京のハナコさん」というハンドルネームで、折り鶴の束を賽銭箱の上に置いて写した写真がアップしてあった。

載せてくれるようになったのは1年ほど前からだという。

そのブログを見ていた松宮は、何かに気づいたように、画面をスクロールしてブログのタイトルを確認する。

「〜キリンのツバサ〜いつか羽ばたく日を夢見て」と書かれてあった。

加賀たちは、吉永と3年前、水泳のリレーに出た3年生を割り出す。

青柳悠人と黒沢翔太と杉野達也だった。

東京に戻った加賀は、黒沢の家に行くと出かけた所だという。

杉野の家に向かった松宮の方も同じように出かけていると言うので、携帯で呼び出して下さいと家人に頼む。

地下街にいた悠人と黒沢の元に駆けつけた加賀と松宮だったが、杉野だけはまだ来ていないという。

約束は7時だと悠人は言うが、もうその時間は過ぎていた。

杉野は、地下鉄のホームで近づいて来る列車に飛び込もうとしていた。

松宮は、地下鉄の構内に飛び込むと、ホームで待っていた乗客の中を探し始める。

本部の方でも連絡を受けた上司が、杉野達也の緊急手配の指令を出していた。

その時、乗客が騒ぎ出したので線路内を見た松宮は、そこに倒れている杉野を発見、列車がホームに接近して来る中、自分も線路内に飛び降りると、杉野に駆け寄り、列車が通過する直前、避難用の側溝に杉野を抱いて飛び込む。

杉野が自殺しようとした理由を知っているかいと加賀は悠人に問いかける。

東京のハナコさん…、それは君のことだねと指摘する加賀。

(回想)水泳大会に修文館中学として出た悠人たち

唯一の2年生リレー選手だった吉永くんは、コースに立って前のリレー選手のタッチを待つ間緊張しまくっていた。

結果、吉永くんのスタートは、前の選手のタッチのわずか前のフライングだったのだ。

失格に終わった大会の後、吉永くんは、3年生の3人に詫び、明日から特訓やりますと頭を下げるが、すっかり気落ちしていた3年生は、明日からじゃなくて今夜からやれよと言い出す。

その夜、プールで3人は、吉永くんをプールに呼び出すと、その足を持って手の動きだけでクロールをするよう特訓を強いる。

その後、3人はそれぞれ、吉永くんを水に沈めたりいじめ抜く。

その時、学校に残っていた糸川先生が見つけ、誰だ?何をやってる!と声をかけてくる。

3人は慌てて逃げ出そうとするが、その時、吉永くんの姿が見えないことに気づく。

先に逃げたんじゃないかと誰かが言うが、そんなはずはなかった。

驚いてプールの中を確認すると、水底に沈んでいるではないか。

3人は吉永くんを引揚げ、人工呼吸を始めるが、そこに駆けつけて来た糸川先生が、携帯で救急車を呼んだから、お前らは出て行け。このことは誰にも言うな!ここには誰もいなかったことにするんだと命じる。

翌日、警察が学校へ来て、水泳部の3人も事情を聞かれるが、糸川先生は、吉永くんは水泳大会での失敗の責任を感じていたのではないかと答えていた。

(現在)吉永くんの意識が戻ったらバレます。一方で、意識が戻って欲しいと思っていましたが、意識が戻ることを恐れてもいました…と悠人は打ち明けていた。

その内、俺たちも卒業して、いつかは忘れてしまっていました。

その後、高校で修文館の友達がブログを見つけたのだという。

そこに貼られていた植物人間化した吉永くんを見つけた悠人は、「東京のハナコさん」のハンドルネームを使って、千羽鶴を神社に納めた写真と共に、早く、キリンくん、目覚めると良いですねというメッセージを送ったというのだ。

こんなことをしても許されないってことは分かってたと言う悠人に、じゃあどうして途中で七福神巡りを止めてしまったんだ?と聞く加賀。

(回想)父の青柳武明が自分のパソコンで「キリンのツバサ」のブログを読んでいることを発見した悠人は激怒する。

何してるんだ!と怒鳴る息子に、すまん!俺のパソコンが壊れたんで、使わせてもらっていたんだと謝る武明だったが、お前、女の名前で誰にメール送っているんだ?と聞いて来たので、別に悪い事しているわけじゃないよ!と怒鳴って部屋から追い出した悠人は、それ以降、怖くなって折り鶴を捨ててしまい、父とも口をきかなくなったという。

松宮は、麒麟像の前でお父さんは力尽きて倒れたのですと言う。

君は、その後、ブログを見てみたら、まだハナコさんがずっと続けていたので驚いたはずだ。

お父さんは気づいたんだ。このキリンくんが吉永くんであることを…と加賀は話す。

ブログの母親が落胆することを案じたお父さんは、自分が君の代わりになって続けたのだ。

その証拠に、君が使っていたこの和紙が使われている。

残るのは白い和紙だけだった。

やがてお父さんは、水泳大会の写真を見つけ、長年思っていた疑問が解けたんだ。この後に、君は水泳を止めたんじゃないのか?

お父さんは考えたに違いない。吉永くんの事故に、息子が関係しているかもしれないと…

(回想)杉野に、自分は吉永の父親と名乗って青柳武明が電話して呼び出す。

だから、ナイフを持っていたのか…、加賀の説明を聞いた上司は納得する。

(回想)「マイルストーン」と言うコーヒーショップでカフェラテ2つ買い、杉野に対面した青柳武明は、自分は本当は悠人の父だと打ち明け、偽名を使って呼び出したことを詫びると、3年前の事故のことについて、悠人から何か聞いてないかと尋ねる。

(現在)松宮と共に杉野を尋問していた上司が、正直に話したんだね?と聞くと、杉野は首を振り、青(悠人の当時の呼び名)が1人でやったと言ったと杉野は自白する。

(回想)青柳武明は、直接息子に聞けば良いんだろうけど、勇気がなくてねと打ち明け、君には絶対迷惑がかからないようにするからとも告げる。

コーヒーショップを出た青柳武明に、青をどうするんですか?警察に連れて行くんですか?と杉野が聞くと、青柳は、私も一緒に償うつもりだと答える。

そして、持っていた白い折り鶴を取り出すと、あいつのこと何も分かっていなかった。苦しんだのも分かってなかったと呟きながら、青柳は地下街へ降りようとしていた。

その時、杉野は持っていたナイフを取り出し、叫びながら青柳の背後に走りよると、何事かと振り向いた青柳の腹にナイフを突き刺す。

青柳は驚いたように「杉野くん…」と呟く。

地下道から表に走り出た杉野は、そこに通りかかった八島とぶつかる。

(現在)次の日、ネットを見たら、別に犯人がいるって…、奇跡だと思いました。このままバレずにすむんじゃないかって…。でも、今日、青からのメールでバレてるって、もう死ぬしかないって…と杉野は告白する。

加賀は、青柳家の悠人の室に来て、3年前、君たちが真実から逃げ出さなければ、お父さんは死なずにすんだんだと悠人に話しかけていた。

君の異変に気づいたときも、君と向き合おうとしていたんだと思う。

君はその時、お父さんと話そうとしていたか?

話していれば、お父さんが杉野くんに会うこともなかったはずだ。

なぜ、お父さんがあの場所へたどり着いたのか、君には分かるよね。麒麟の翼の本当の意味を…

(回想)私、勇気をもらったんです…と吉永君と暮らす家で話すのは、彼の母親だった。

麒麟の翼は勇気の翼だって。

(現在)それを言うためにお父さんは何とか麒麟像にたどり着いたんだ、君の罪を償うために…、そして君にメッセージを伝えたんだ。

真実から逃げるな!

自分が正しいと思ったことをやれ!

加賀の言葉を聞いていた悠人は泣いていた。

その証しがこれだ!と言いながら、加賀は白い折り鶴を見せる。

君の代わりに折った鶴だ。

君は、こんなことをするお父さんが労災隠しなんかするはずがない、自分だけはお父さんを信じよ…、そう思ったんだね?

この鶴をどうしたら良いか、君なら分かるよね?と加賀は話し終える。

その後、糸川教諭に会った加賀は。あなたが教え子のことを隠蔽したために、子供が自殺しかけたんだ!と責め、青柳さんの電話は本当はなんだったんです?3年前の事故のことを聞かれたのでは?と聞くと、全て子供たちのことを思って…と糸川は呟く。

杉野が青柳さんを刺した時、自首しなかったのは、あんたが間違ったことを教えたからだ!

嘘をついても騙しおおせるという間違ったことを…、そんなことも分からないんだったら、あんたに教育する資格はない!と加賀は突きつける。

加賀はその後、香織にも、事件が解決したことを報告していた。

八島が当夜ああ言う行動をした理由は二つあります。

一つは青柳を恨む気持ちもあったんでしょう…と加賀は、事件当夜のことを再現し始める。

当夜、青柳を見かけた八島はその後を追った。

その時、慌てて走って戻って来た杉野とぶつかるが、地下道に落ちていた青柳の鞄を見つけた八島は、その近くで腹を刺されながらも、日本橋の方へ何とか向かおうとしていた青柳の姿を目撃する。

無意識に鞄を持ち去って公園に来た八島はあなたに電話をかけた。エラいことやっちまった…と。

その後、香織を伴い水天宮にやって来た加賀は、二つ目の理由はここにありましたという。

八島さんは、ここで絵馬を買ったんです。

ただ、八島さんはこの絵馬は持ち帰るものだって言うことを知らず、この木にぶら下げていたので、神社の人が見つけて取っておいてくれたんです…、そう言いながら、加賀は絵馬を手渡す。

その絵馬の裏には、生まれて来る子供が元気でありますように…6月17日と悠人の祈りが書き込まれていた。

あなた方が麒麟像の前に降り立ったのは、6月17日ではなかったですか?八島さんはその大切な記念日を忘れていなかったんです。

その日のうちに、生まれて来る子供のためにも就職を決めたかったのです。あなたが追いつめたんじゃない。

そうした加賀の言葉を聞いていた香織は、私、生みますと言い出す。

絶対にこの子を育ててみせますと決意を述べた香織だったが、世の中甘く見ていますよねと自嘲したので、甘く見ている方が良い。どこにも光がないと絶望するよりは…と加賀は言う。

悠人が、白い折り鶴を麒麟像に捧げようとしていると、そこに黒沢も来ていることに気づく。

何のお詫びにもならないと思うけど…と言う悠人に、黒沢は行こうかと誘う。

その時、悠人は、父親が自分に向かい満足そうに頷く姿を見たように思った。

麒麟像の前にやって来た香織は、もう一度ここからスタートします、この子と…と言う。

忘れちゃいけないのは、その子のために、何があっても負けないと誓うことだと加賀は言い添える。

香織が去ると、松山が腕時計を気にしながら、遅れると金森さんがうるさいと加賀に伝える。

そこに金森看護士が近づいて来たので、行きましょうかと松山は加賀を誘う。