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石中先生行状記 青春無銭旅行

石坂洋次郎の東北を舞台にした明るくユーモラスな青春ドラマの映画化の1作。

今では信じられないような爽やかで健康的な青春像が描かれているのだが、女好きな大人や、ずる賢い大人、果ては好色な娘などまで登場し、古風ながらもおおらかでユーモラスな展開になっている。

今回は、昔流行したらしい「無銭旅行」がテーマになっているが、劇中で言っている「中学」とは「旧制中学校」のことであり、現在の高校生くらいのことだと思う。

石中が後半、村長の部屋で酒を飲んでいるようなシーンが登場するのも、当時、地方の高校生くらいなら大目に見られていたということだろうが、女まであてがおうとするのは地方独特のものか?

美少年風の石中青年の相手をするのは左幸子だが、まだあどけなさが残る愛らしさである。

一方、丸山の方の相手をするのが野村昭子というのが愉快。

失礼ながら、この野村昭子さんや千秋実のようなタイプの風貌の人は年を取ってもあまり印象が変わらないもののようで、若い頃も一目で誰だか分かる所がすごい。

東野英治郎や十朱久雄辺りでも、おじさんながら髪には艶と張りがあり若々しい時代である。

高橋豊子や小倉繁さえも、若々しく見える時代なのが面白い。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1954年、新東宝、石坂洋次郎原作、館岡謙之助脚色、中川信夫監督作品。

東北の某地方を、女学生2人が自転車を漕いで橋を渡り、石中石次郎先生(宮田重雄)の家に来ると、庭の手入れをしていた石中先生に、又何か面白い話を聞かせて下さいと申し出る。

石中先生は、女学生なんかに話す話はないよと照れくさそうに言うが、女学生たちは、私たちは何を聞いても平気です。2人の男性を童子に好きになるなんて話はしょっちゅうしていますからなどとませたことを言う。

そこに、旧友で雑貨屋の丸山義雄(小倉繁)がやって来たので、その顔を見た石中先生は、この丸山と中学時代やった無銭旅行の話をしようと言い出し、丸山もあれは教訓的だから良いなどと賛成する。

教訓的な話ならいつも校長先生から聞いてますけどバカバカしくて…と女学生たちは不満そうだったが、そう言う教訓的とはちょっと違う話なんだと石中先生は言い、この丸山は中学時代、数学の使い手だったんだと紹介すると、この石中は文学と女の使い手だったと丸山が返す。

中学時代の石中(和田孝)と丸山(小高まさる)は、夏休みのある日、その頃流行っていた無銭旅行に出かけることになり、城跡でまず記念写真を撮った…と石中先生は思い出話を始める。

2人は最終目標地を日本海岸に決め、1日6里歩くことを約束し合う。

そんな2人が芋曹長に会わなければ良いがななどと噂していると、そこに竹刀を持ってやって来たのが、その噂の主、芋曹長こと佐々木軍三(東野英治郎)で、お前ら何している?と聞いて来る。

2人が、身体鍛錬のため無銭旅行ですと答えると、感心したように頷きながらも、あちこち服装の乱れなどを見つけては竹刀で叩いて来る。

あげくの果てに「駆け足で出発!」とまで言われたんで、2人は無理矢理駆け足で城の外まで出るはめになる。

朝から嫌な奴に会ったななどと話しながら歩いていた2人は、自転車の乗って近づいて来た知事の馬鹿息子小林謙一(井上大助)と、その子分大友に出くわす。

小林は、自分もこれから自転車で無銭旅行をやろうと思うのだが、クレオパトラから、途中で寄ってくれとラブレターをもらったなどと自慢し出したので、分かれた後、石中は嫌な奴ばかりと会うなと愚痴を言い、あいつはいつも俺のカンニングばかりしているんだと丸山も憤慨する。

その後、2人は橋を歌いながら渡ると、その川に飛び込み水泳を始める。

そんな2人を橋の上から見ていたのは山伏の村井一心斎(千秋実)だった。

その後、石中の同級生クレオパトラこと桃井園子(筑紫あけみ)が友達の女学生と一緒に自転車で通りかかり声をかけて来る。

2人が無銭旅行をしていると知り、うちに泊まらない?と誘ってくれた園子だったが、知人のうちには、無銭旅行の意義に反するので泊まらないんだと石中は答える。

丸山が、去って行った今の子がクレオパトラだと知ると、あぐら鼻だななどと論評を始め、お前好きなんだろう?などとからかって来る。

そんな2人が橋の上に上がって着替えようとすると、制服を鞄がないことに気づく。

あるのは学生帽と靴だけだったので、仕方なく、次の村の駐在にでも届けようということになり、2人は裸に学生帽をかぶり、靴を持って歩き始める。

すると、近所の子供たちが2人を発見、キ○ガイか?などとはやし立てて来たので、この近くに駐在はあるかと聞くとないと言う。

誰か服を持って通らなかったか?と聞くと、山伏が持って行ったというではないか。

追ってももう間に合いそうもなかったので、どこかの民家で服でも借りようということになり、近くの農家に立ち寄った2人だったが、気がつくと、馬小屋の藁が崩れて落ちて来た。

何事かと物陰から様子をうかがっていると、この家の姑らしきおばさんが、納屋から若い男女を引っ張り出して昼日中から何をやっていると叱りつけていた。

どうやら、若い男の方が姑の息子で、叱られている若い女の方がその嫁さんのようだった。

そんな農家からとぼとぼ外に出た石中と丸山は、自転車の園子たちに又出会う。

事情を知った園子と袖子は、2人にそれぞれが乗っていた自転車を貸す。

それに乗って道を急いだ2人はやがて、服を盗んで持っていた山伏に遭遇、田んぼのあぜ道で転びながらも追いつめるが、山伏は持っていた服や鞄を1つずつ落としながら時間稼ぎをし、あぜ道とあぜ道の間の小川を繋いでいた板橋を取り外すと、まんまと逃げ去ってしまう。

とは言え、何とか布団と鞄を取り戻し、着替えた石中と丸山は自転車を返しに戻る。

2人はもう疲れたのでこれからこの辺で泊まることにすると言うと、園子は、野宿などして身体を壊さないようにと注意して別れる。

その夜、近くの産土大神のお堂の中で泊まっていると、先ほど姑に叱られていた嫁のモヨ子(城実穂)が近づいて来て、いつも姑にいじめられると悩みを打ち明け始める。

さっきも、夫が無理矢理後ろから抱きついて来ただけなのに、まるで私が悪いかのように言われた。男ってどうしようもない生き物だと言う。

すると、お堂の中から、我慢せえ。嫁っこの古いのが姑になると声が聞こえて来る。

驚いたモヨ子は、首都を早くあの世へ行かせて下さい。それまで我慢すると言って帰って行く。

声を出したのは丸山だったが、側で聞いていたいし中も驚いたと言っていると、又誰かがお堂に近づいて来る。

今度は、さっき厩で嫁を叱りつけていた姑のタメ子(高橋豊子)だった。

タメ子が言うには、さっき帰った嫁の言うことは噓です。うちの倅を尻の下に敷き、わしを粗末にすると言う。

すると、又お堂の中から、そなたの身勝手であるぞよと声が聞こえて来るが、驚きながらもタメ子は、嫁っこは仕事もできねえのに食い意地ばかり張っている女です。この村では私ほど嫁を可愛がる者はおらないと言われているほどじゃなどという。

すると、お堂の中から、嫁は心の中はさっぱりした女子であるぞ。そなたが嫁いじめをしているのだと声がする。

それでもタメ子は、あんな嫁を褒めるなんて、そんなスケベな神様がいるかなどと口答えするので、下がれ!と大声を上げた丸山に、石中も太鼓を打ち鳴らして調子を合わせたので、さすがに驚いたタメ子は逃げ出してしまう。

翌日、「箱根の山は天下の険♬」などと歌いながら元気に無銭旅行を再会した丸山と石中だったが、空腹には耐えきれなくなっていた。

その時、野辺送りの列が通るのを見かけたので、あの後ろから付いて行けば、餅が饅頭がもらえるはずだと丸山が言い出し、すまして付いて行くことにする。

すると、背後の老婆が、あんたらも知りあいか?と聞いて来たので、今日はうちのじいちゃんの3周忌にも当たるので、これも何かの縁だと思って…などと丸山が調子の良い事を言うと、老婆は感心してしまう。

その時、丸山と石中は、寺の石灯籠の側で休んでいた山伏の村井一心斎を発見したので、捕まえようと駆け寄る。

一瞬、相手は逃げ去ったかに思えたが、すぐに姿を現し、自分は逃げも隠れもしない。お前らの服を持って行ったのも冗談で、全部返したのだから、今は何の罪もないのだと妙な理屈を言い出す。

自分は人助けのために日本中を廻っている。わしと一緒にいると何もいらない。神通力を持っているから、食べるものも寝る所にも不自由しない。その代わり、俺の言う通りにしろと言い出す。

その後、石中は村の通り道で、腹痛を起こして倒れている芝居をしていた。

それに気づいた村人たちが思案していたが、医者は3里も離れた所にしかないと言う。

その内、老婆が、腹痛には巳年生まれの女の小便を飲ませれば効くらしいと言い出し、巳年の女と言えば、幼女の和子だというので、近くで他の子供たちと遊んでいた和子にシーしなさいと言うが、幼女はシーしないと言って逃げてしまう。

その時、見ていた中年女も巳年だと言い出し、自分のを採って来ようと家に戻りかけるが、その時通りかかった村井一心斎が、自分は神通力を持っているので、これしきの腹痛ならすぐに直してやると言い出し、ホラ貝を吹き鳴らし気合いを入れると、石中はけろっとして立ち上がり腹痛が直ったという。

すると村井は、これからこのものたちに気合いを入れると2人とも気絶するから、後ろで支えてやれと言い、農民を後ろに立たせると、えい!と気合いを入れると、丸山と石中が直立したまま棒のように倒れたので、すぐ側で観ていて老婆は、生き神様ではないかと驚いて合掌し、他の村人たちも何事かとさらに集まって来る。

さらに、村井は、今から気合いを入れるとこのものは逆立ちをして歩き始めると言い、気合いを入れると、丸山がその通りをやり始めたんで老婆や村人たちは唖然としてしまう。

そんな村井が、自分はこのように神通力を持っているので、病人などがいたら祈祷してしんぜるが?と集まった村人に告げると、1人の婦人が、自分の姑が中気で8年も寝ていると言う。

所で、この倒れている学生たちはどうするか?と聞かれた村井は、急に起こすと頭痛がするので、そのままにしておきなさいと言い残し、婦人の家に付いて行くと、それを合図に見物していた子供たちや村人たちも皆帰って行ってしまう。

その後も丸山と石中はまだ地面に倒れていたが、もう誰も自分たちを迎えに来ないことを悟ると、あの村井に良いように利用されただけだったと気づき立ち上がる。

そこには、幼い男の子が1人だけずっと様子を観ていただけだった。

その後2人は、飯をごちそうになる夢も敵わず、盗んだ芋をたき火で焼いて、空腹を満たすだけだった。

あまりにみじめな自分たちに後悔し始めた石中は、そろそろコ○キの真似はやめて、金を払って泊まろうよと言い出す。

そんな2人がと山木村のとある学校の運動場に近づくと、銃剣術の練習大会が開かれているではないか。

しかも、その審査員はあの嫌な芋曹長こと佐々木軍三だった。

ところが、テントの中の見学者にクレオパトラこと桃井園子が混じっており、彼女の方も石中たちに気づいたようで近づいて来たので、今夜泊まる家がないかと石中が尋ねると、うちは宿をしているので、親友の兄ということにして泊められるが、父は村長なので、こんばんは佐々木先生も泊まるのだという。

その後、桃井園子の家で2人が夕食を食べていると、銃剣術の佐々木先生らが戻って来たというので、顔を合わせるのが嫌な2人は、園子と一緒に河原に涼みに出ることにする。

園子は友人の袖子も一緒に誘い、4人で川遊びをする。

丸山は袖子に、月の内側に三角形を作るにはなどと得意の数学の話を披露し面食らわれる。

石中は園子に、小林にラブレターを送ったって本当?と聞くと、噓、あっちが勝手に送って来るだけで、嫌らしいこと書いて来るので迷惑しているだけど、添えられている和歌だけはちょっとうまかった…と言いながら、一説を披露するが、それを聞いた石中は、それは僕が作った和歌だ。あいつは丸山の数学だけじゃなく、自分の和歌まで盗むのかと唖然としてしまう。

宿に戻ると、佐々木先生が、得意の剣舞を園子の父らに披露していたので、丸山と石中は、佐々木に見つからないように自分の部屋に戻りながらも、しゃくだな、一度、芋の奴をぺしゃんこにしたいもんだと石中が日頃の恨みを込めて呟く。

その後、園子に案内され、2人が佐々木先生の部屋を覗きに来ると、先生は芸者を抱こうとしている所だったので、2人は急に部屋の中に入り、直立不動の姿勢を取り、自分らの名前を明かすのだった。

すると、佐々木先生も良く知る生徒と分かり、まずい所を見られたと悟ったのか、隣の寝室に芸者を押し込もうとし、これは按摩だと言い、みんなで飲もうやと2人を懐柔しようとし始める。

そんな会話を聞いていた芸者は、じゃあ、私は帰って良いのか、色々用事もあるしと言い出し、帰れ、否帰ってはいかんと混乱し始めた佐々木先生は、わしはどうすれば良いんじゃと石中たちに聞く始末。

石中と丸山は、今後自分たちの頭に拳固を奮わないことを約束してもらえれば、今夜のことは校長にも奥さんにも話しませんと約束する。

佐々木先生は、校長などどうでも良いが、女房の寅子には絶対話すな。あいつは6人の子供たちを味方につけ攻めて来るから敵わんとしょげる。

石中と丸山は敬礼の真似をしながら意気揚々と部屋を出て、廊下で待っていた園子から、どう、巧くいった?と聞かれると、一緒に敬礼の真似をして部屋に帰るのだった。

翌日、2人は、最終目的地である日本海に出たので、最後の大冒険をしようと意気込みながらも、とりあえず砂浜で、園子手作りの握り飯を食べることにする。

すると、どこかからか泣き声が聞こえて来たので、何事かと声のする方向へ向かってみると、若い娘が地蔵の前で泣いており、その母親らしき女が慰めている所だった。

娘は、自分も他の娘のように嫁に行きたいと泣いている。

物音に気づかれたので、姿を見せ事情を詳しく聞いてみると、父親が長患いで村長から借金をこしらえてしまったので、この娘が村長の家に2年間女中奉公に行くことになったのだが、この村長というのが強欲で女癖が悪く、これまでも玩具にされた娘が多いので、この娘も不憫でならないのだという。

村長の名を聞くと、田辺というらしい。

とは言え、学生ではどうしようもないと思った母親は立ち上がって帰ろうとするが、娘のトセ子(左幸子)の方は、石中が色白できれいな顔立ちをしているのが気に入ったようで笑顔で帰って行く。

その2人を見送っていた丸山は、不憫だな、あのトセ子という子と言い出したので、石中は一目惚れしたか?とからかう。

その後、2人は海で思い切り泳ぎ回る。

砂浜に引揚げられた小舟の横で石中が昼寝をしていると、近づいて来た巡査ともう1人の男が、4日前に出発した知事閣下のご令息がこの村に来られているようだが知らないか?何でも、水戸黄門のような役目を仰せつかっているそうなので、この村の悪い噂が伝わってはいけないから探しているのだと聞いて来たので、丸山は冗談で、知っています。この男がその知事のバカ殿ですと石中を指す。

その言葉を真に受けた男は、自分は並野平吉と名乗り、巡査は木戸署長と紹介したので、この村の村長の名を尋ねると、田辺金右衛門と言うではないか。

2人がその田辺村長を呼びに行こうとした時、起き上がった石中が、今のはこいつの冗談で、自分は小林のバカ殿ではないと言うが、もう木戸も並野もその言葉は信じなかった。

石中がバレたらどうするんだなどと心配していると、丸山は、あのトセ子を助けてやろうじゃないか。俺はご令息って顔じゃないし、お前は学校の中でも美少年の1人追い割れているから大丈夫だと言う。

そこに、先ほどの2人が、田辺村長(十朱久雄)と、軍人の山田、郵便局の局長らを従え、波間に立ってズボンを濡らしながら、石中に平伏して挨拶する。

石中と丸山は、村長が用意した馬車に乗り、村長の屋敷まで案内されることになる。

その道々、この村は半農半漁ですなどと解説しながら付いて来ていた田辺村長に、この辺りに若い娘を人身御供にすると言う悪い奴がいるという噂を聞いたのだが?確かそいつは金貸しなどをしていると聞いたが、あなたの仕事は?などと丸山は聞いてみる。

すると、田辺村長は、網元をやっており、金貸しなどはやっていない。時々困った村民を助けることはあるが…などと苦しそうに言い訳する。

さっき、トセ子とか言う娘と会ったのだが?と丸山が続けると、田辺村長は、そんな娘誰か知っているか?などと一緒について来た取り巻き連中に聞き、今日は八幡神社の宵宮祭りがあるとごまかす。

屋敷の外で待ち受けていたのは、田辺村長の娘お千代(相馬千恵子)だった。

丸山は田辺村長に、自分らは堅苦しいのが嫌いだから、余り大げさにしないようにと注意をすると、村長は、坊っちゃまは女の方は?と聞いて来る。

丸山は、又冗談で、飯より好きですと答えたので、村長も喜び、男と生まれて来て女が嫌いなものはおりませんからなと万事承知したという風に頷く。

その直後、田辺村長は娘のお千代から、今、トセ子という娘が来たと教えられる。

お千代は、奥の隠居お八重 (村田嘉久子)の為に祈祷をしていた村井一心斎にお膳を運んで行く。

お八重は、お千代の酌で酒を飲み始めた村井に、この子は結婚したものの、婿が100日で早死にしたし、当家の主人金右衛門も嫁運が悪く、1人には死なれ、後の2人には逃げられたと教えると、村井は、そんなものは自分の神通力で大丈夫と太鼓判を押す。

お千代は、今夜は宵宮祭りがあるし、知事閣下のご令息がお泊まりになっておられると村井に教えると、今流行りの無銭旅行かな?と応ずる。

その頃、石中と丸山の前には、屋敷に来たばかりのトセ子が相手をさせられていた。

トセ子は、知事ご令息と聞かされた石中にすっかり一目惚れしたようで嬉しそうだったが、それが、トセ子に気がある丸山には面白くなかった。

石中の方は、愛想を振りまいて来るトセ子に付いて行けずトイレに行くが、そこで酔った村井一心斎と出くわす。

村井が、やあ石中くんと呼びかけて来たので、僕は小林です。今、世を忍ぶ旅をしているので石中と名乗っていただけ。パッパにインチキ山伏がいたと報告しておくよとごまかすが、村井は首を傾げていた。

部屋に戻って来た石中は村井に、村井が来ているし、奴はこっちのことに感づいているらしいと教える。

そんな2人の部屋にやって来た田辺村長が、夕食の後、奉納試合などもある宵宮祭りにご案内すると挨拶に来る。

祭りでは、5人抜きの県道試合をやっており、貴賓席に座っていた石中と丸山の前に、4人抜きの段階で面を取って挨拶に来たのは佐々木先生だったんで、互いに唖然とする。

その時、丸山が寅子さんからの伝言がありますと言いながら佐々木先生を脇に呼び寄せ、これは人助けのためにやっているので目をつぶってくれと頼むが、いかなる理由があろうと詐称をしているのはけしからんので、校長と相談の上、親を呼び出し退学処分にしてやると佐々木先生は息巻く。

丸山が、では仕方がない。先日の襦袢を着た按摩のことを奥様の寅子さんに報告しますと言い出すと、さしもの佐々木先生も二の句が継げず、握ったげんこをおさめるしかなかった。

試合会場に戻ってみると、5人目の挑戦者である大島がいなくなったというので、佐々木先生は飛び入り参加を募ったらどうかと提案する。

それで急遽、今日は知事閣下のご令息がご覧になられている、言わば御前試合なので、飛び入りで参加するものはいないかと見学者たちに呼びかけ、田辺村長も勝ったら2升、負けても1升酒を進呈すると言い出す。

すると、酔った村井一心斎が立ち上がり自分が相手になると言い出す。

貴賓席でそれを観ていた丸山は、大分面白くなって来たぞと喜ぶ。

ところが、いざ面を付け、佐々木先生と対峙すると、腰が引け、全く覇気がないだけではなく、臆病風に吹かれたのか、見物客たちの間に逃げ込んだりしたためほとんど試合の態を取らないものになる。

呆れた佐々木先生が竹刀を収め元の立ち位置に戻ろうとした時、いきなり観客席から飛び出した村井一心斎が、驚いて振り向いた佐々木先生の面を叩いたので、怒った佐々木先生は村井を追い回し、会場は大爆笑に湧く。

しかし、田辺村長の家での宴会に参加した佐々木先生と村井一心斎は意気投合、互いに愉快そうに酒を飲むのだった。

そんな中、トセ子が他の女中に混じり、嬉しそうに踊っていた。

ちらちらと目線を送って来るトセ子に照れた石中はやけ酒を飲んでしまう。

一方、隣に座っていた丸山はますます面白くなかった。

その頃、本物の知事の馬鹿息子小林と子分の大友は、桃井園子の実家の宿に到着していたが、石中と丸山は昨日泊まっていたし、園子は岩戸村に行ったと聞き残念がっていた。

その夜、酔って寝ていた石中が夜中目を覚ますと、側にトセ子がニコニコして座っており、自分の方に迫って来たので驚いてしまう。

一方、丸山の方は馬小屋に寝かせられており、そこにも女中の1人(野村昭子)が来ており、今夜一晩ここにいないと村長から叱られるというので、ではトセ子は石中の部屋にいるのかと丸山が聞くと、トセ子さんは男好きだと女中は笑う。

その後、村長から坊ちゃんたちが帰ったら、もう家に帰って良いと言われたと打ち明けるトセ子と石中の部屋に、丸山の相手をしていた女中がやって来て、丸山から手紙を預かって来たというので読んでみると、もし今夜、お前がトセ子と汚れたら、明日は一緒に歩かないと書かれてあった。

その直後、奥の間で休んでいたお千代が、誰か来て!と騒ぎ出す。

家人が駆けつけると、どうやら村井がお千代の部屋に夜ばいに入ったようで、祈祷をしてやろうとしただけなどと言い訳をするが、家人たちは騙されず、そのまま裸同然の姿で屋敷の外に放り出してしまう。

その騒ぎを聞きつけた佐々木先生も木刀持参で駆けつけるが、もう騒ぎは治まった後だった。

翌朝、石中と丸山は、田辺村長らに見送られ、これから舟川町に出て記者で帰ると言い残し屋敷を後にする。

すでに、佐々木先生は発ったと言い、村長らは全員万歳をして見送ってくれる。

その直後、一人の男が村長の元に駆けつけて来て、今、役場に知事の息子が来たと知らせたので、村長はそんな馬鹿な!と憤る。

海岸沿いを歩いていた丸山は、トセ子は博愛主義者らしいし、お前は女子使いだから、夕べは心配したと言い、石中は焼きもちかと笑う。

そんな2人を追い越して行ったのがトセ子で、坊っちゃまは良い人だけど意気地なしだから嫌いだと笑いながら去って行く。

やがて石中と丸山は、海岸に泳ぎに来ていた園子たち女学生グループと遭遇し、一緒に泳ぐことにする。

その頃、今戸村役場にやって来た田辺村長は、その場にいた小林と大友を殴りつけ、本当の知事のおぼっちゃまは今朝方帰って行かれたと叱りつける。

小林は、僕の名を騙った悪い奴がいるんだね?そいつらをここに連れて来て。対決するからと言い出す。

園子らと砂浜はまで遊びほうけていた石中と丸山は、木戸署長らが近づいて来るのを発見すると、バレたかな?と心配する。

しかし、丸山はこうなったら堂々と対決しようと言い出し、話を聞いていた園子も付いて行くと言い出す。

村役場に石中と連れて来られた丸山は、小林の姿を見ると、賭けに勝ったよ。僕たちはまんまと君に化けて成功させたと言い出し、この村は大伏魔殿だよと言う。

何のことか分からない小林を外に連れ出した丸山と石中は、詐称をした詫びを言うと、他人の和歌を盗むのは良いのか?と逆襲する。

そこに桃井園子も近づいて来て自分が受け取った手紙のことを言い出そうとしたので、小林は慌て出す。

さらに、丸山が、君の夏休みの宿題は全部引き受けたからと条件を出すと、あっさり和解することを約束し、役場に戻ると、この2人は自分の友達で、自分が頼んで化けさせていたのだと田辺村長らに説明する。

とりあえず、自分はへまをやってしまったことに気づいたらしい田辺村長は、自分のハゲ頭を差し出し、さっき自分が殴ったお詫びに殴り返してくれと言い出す。

大友が、2人とも5、6発は殴られたな?と計算し、小林は遠慮なく、田辺村長のはげ頭を殴り続けるのだった。

そこに、神輿が来たぞ!という声が聞こえたので、皆一斉に外に出て、祭り見物することにする。

田辺村長は石中と丸山の近くに来ると、今回はお前らにまんまとやられたようだが、小林の息子にはよろしく言ってくれ。馬車が来るから、今のうちにさっさと帰った方が良いぞと耳打ちして来る。

2人はその言葉に従い、馬車にゆられて帰ることにするが、その途中で、道ばたにへたり込んでいる村井一心斎の姿を観かける。

大人は根は良い奴でも、ずる賢かったり助平な奴が多い。俺たちも将来はあんな大人になるのかな?と石中が言うと、絶対、ならんぞ!と丸山は誓い、2人して、又「箱根の山は天下の険♬」と歌い始めるのだった。