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銀座の猛者(「銀座三四郎」改題短縮版)

この作品、「銀座三四郎」という作品の改題短縮版のようだ。

「銀座の猛者」のタイトルの下に、“銀座三四郎”より と小さく書かれて出て来る。

原作者が富田常雄で、元のタイトルが「銀座三四郎」で、藤田進が主役と来れば、誰が考えても「姿三四郎」の現代版を連想して当然だろう。

実際、後半、ヤクザたち相手に、次々と川に放り込むシーンは、黒澤明の「姿三四郎」を連想させる。

志村喬なども登場しているので一見黒澤映画風なのかと言えば、これがそうではなく、明るいキャラクターたちが登場する軽妙洒脱な市川崑タッチの映画になっている。

特に印象的なのは、主人公荒井熊介に思いを寄せる絹江のいかにも戦後派女性らしい聡明さと元気さ。

もう1人は、診療所の看護婦木戸美子の子供っぽさの残るお茶目さである。

木戸美子のキャラは、後年「犬神家の一族」に登場する坂口良子の可愛らしさに通ずるものがある。

この2人のキャラが生き生きしているせいか、荒井が戦時中から思いを寄せていたカナリヤこと立花マリエの印象が薄くなってしまっている。

これはもちろん意図的な演出だろう。

マリエの方が魅力的だったら、観客は最後の荒井の決断に共感できないはずだからだ。

では、作品としてこの主人公を巡る三角関係が巧くまとまっているかというと微妙な気がする。

作品として、何とも後味がすっきりしない印象が残るのは、マリエを最後の最後に登場させてしまったことだろう。

松原が、マリエさんは大丈夫だ!1人で生きていける人だと言っているのだから、それで話的にはまとまっているはずなのに、未練ありげにマリエが「鳥銀」の窓の外から寂し気に中を覗き込むなどというカットが入ってしまっているため、松原の言葉に信憑性がなくなり、マリエの方も荒井との未練が断ちがたいのだと分かってしまうため、観客の心がざわめくのである。

劇中で絹代が荒井を評して「木石(ぼくせき)」と言っているが、まさしく「情を解さない男」が、一時の情に流されて、1人の女性の幸せと引き換えに、もう1人の女性を不幸にしてしまった優柔不断な男のように見えてしまうのが辛い。

今の感覚で考えると、モテモテタイプの主人公は、どの女性とも一定の距離を置き、独身を貫くというのが一番観客が納得できる描き方ではないだろうか?

最後のマリエの登場は、単なるハッピーエンドではなく、「泣かせ」の要素を加えたかったためかも知れないが、そうした演出は明らかに作品を古めかしく見せてしまっている。

昔の娯楽映画には、最後にこうしたさりげないお涙要素を加えるというものが多かったような気がするからだ。

細かいことだが、「三等重役」などでお馴染みの河村黎吉が演じている銀平も、右目をつぶっているのかいないのか画面的にははっきりしないキャラクターになってるのも気にかかる。

セリフで「片目」と言っているので、どうやら右目は観えないという設定らしいのだが、画面によっては、普通に両目とも開いているように観えないでもない。

主役の荒井がいつからか、柔道を止めると銀平と約束しているらしいことや、銀平が荒井に何か恩があるらしいなどということは断片的なセリフで想像できるのだが、そもそも荒井と「鳥銀」との関係に関しては説明不足な部分も多く、それが「短縮版」だから分からないのか、そもそも元の作品でも描かれていないのかすら判断できないのがもどかしい。

ちなみに、精神病院の患者役を演じている伊藤雄之助は、この作品の後、市川崑監督の「プーサン」(1953)の主役を勤めることになる。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1950年、新東宝、富田常雄原作、八田尚之脚本、市川崑監督作品。

大きなリュックをからってとあるビルに入って来たのは、ひげ面でメガネをかけた引揚者のような男だった。

ビルの中にある診療所の受付でベアはいるかと声をかけると、看護婦がどなたですかと聞いて来たので、タンクと言えば分かるとその男は答える。

待合室のソファに腰を降ろしかけたその男は、横に座っていた先客(若月輝夫)が腹を押さえて苦しみ出したので、ソファに横になれ、俺が診てやると言い出したので、男は心配するが、俺は荒井の先輩だと言う。

何を食べたと聞くと、腹痛の男は、寿司を食ったとあれこれネタの名を挙げ始める。

その時、看護婦が受付の窓口からウィスキーの瓶とコップを差し出して、これを飲んで待っていてくれということですと伝える。

間もなく診療室から顔を見せた荒井熊介(藤田進)通称ベアは、そこに立っていたタンクこと松原大三(志村喬)の姿を見ると、一瞬誰だか分からないようだったが、すぐに表情を崩して喜ぶ。

診察室に招き入れられた松原は、一緒に入って来た腹痛の患者の容態を伝えると、奥の休憩室に入る。

そこに下げられていた鳥籠の中のカナリアを観た松原は、何か思い出さんかと荒井から聞かれ、そう言えば、大陸にカナリアと呼ばれた看護婦がいたなと思い出す。

その時、電話が鳴り、それを取った荒井は、急患だから出かけて来ると言い残して診療室を出て行くが、古い時計の長針が、ドアの開け閉めの振動で、3時から3時半の所に落ちる。

患者の所に向かう荒井に気づいた顔なじみらしき靴磨きの子供(青柳入頓)が、そんな汚れた靴では恥ずかしいよと言いながら、頼まれもしないのに荒井の前にやって来るとその場で靴を磨いてくれる。

荒井が金を手渡そうとすると、そんなものはいらないというので、荒井は思わず笑顔になる。

待ち合いにやって来た荒井は、女将さんが死んでしまったと、布団の周囲で落ち込んでいる芸者(一の宮あつ子)たちに、死んだように見えるだけで生きている。ヒステリーは時々こんな症状になるんだというと、寝かされていた女将(花岡菊子)がぱっちり眼を覚まし、アラ?先生などと口走る。

そんな女将に荒井は、あんまり焼きもちは焼かんことだと注意して帰る。

ところが、診療所に戻ってみるとタンクこと松原の姿がない。

看護婦の木戸美子(木匠久美子)は、2時半の汽車でお国に帰るのとおっしゃってましたと言うので、5年振りだ!と荒井が声を荒げると、でも又来るとおっしゃってましたと美子は答えるが、国は北海道だ!と言って、荒井はゆっくり話も出来なかったことを悔しがるので、もう4時で間に合わないことを悟った美子はすみませんと小さく答えると泣き出す。

「鳥銀」の主人銀平(河村黎吉)は、馴染みの荒井から電話を受け、晩飯は他所で食うと連絡を受けたので、今日はフグの良いのが入ったから一緒に食おうと思ったのに…と残念がる。

そこに、娘で女学校の体育教師をやっている絹江(山根寿子)が帰って来たので、一緒にフグを食べないかと誘うが、お父さんが作ったの?遠慮しとくと言うので、怒った銀平は、このオールドメス!と叱りつける。

絹江が、オールドメスじゃなくてオールドミスよと訂正してやると、女はメスだ!と銀平は癇癪を起こす。

翌朝、いつものように診療室奥の個室にやって来た絹江は、もう8時よと言いながら、ベッドで寝ていた荒井の額を脚気診察用のハンマーで叩いて起こす。

起きて来た荒井が、絹江さんはもう25だろう?どんな男が好みなんだ?と聞いてきたので、芸術はまるで理解せず、読むのは探偵小説ばかりの先生みたいな男性ではなく、最低でもシューベルトやスタンダールを理解するような人が良いわと答える。

荒井は、多少、ユーモアくらいは解するぞと言うと、絹江は苦笑する。

フグはおいしかったかい?と荒井が聞くので、頂かなかったわ、ミスのまま天国に行くの嫌だから…と言い残して学校に出かける。

「鳥銀」にやって来た荒井は、まだフグ鍋が煮えていたので呆れながらも、以前から気になっていた、棚に置いてある片目のだるまのことを聞くと、長年の願い事が成就したらだるまの目玉を入れるつもりなんだと銀平から聞かされる。

それを聞いた荒井は、俺に出来ることなら片棒担ぐよと言いながら、血圧を測ってみようと銀平の手を取ろうとするが、銀平は、俺の心臓は鋼鉄製よと粋がり、計らせない。

そこに姿を見せた銀平の妻の種子(飯田蝶子)は、一度診てもらえば良いじゃないと言い、夫の頑固さに呆れたようだった。

その頃、絹江は女学校で体操の指導をしていた。

一方、荒井は、空き地のバラック小屋に住む、靴磨きの少年の母親(徳大寺君枝)の治療を無料で行っていた。

その日帰宅した絹江は、両親が不機嫌そうな顔で待ち構えていたので戸惑う。

種子は絹江に、あんたは一体どこの嫁になるんだい?と問いつめる。

絹江は、先方が木石じゃ仕方ないでしょう?クマさんは私のことを妹みたいにしか思ってないのよと冷静に答える。

お前が女学生で、クマさんは大学生だったからな…と、銀平は、荒井と家族ぐるみで古くからの知りあいであることを恨めしそうに言う。

あんたの口から一言言ってくれれば良いじゃないと種子が口を出すと、俺はクマさんの恩人だぞ。その俺が何か頼み事をすれば、クマさんは何も言わずに引き受けてくれるはずだ。恩を売り物にすりゃ、一生クマさんはそのことを重荷に思うんだぞと銀平は諭す。

種子は、三菱商事の神田さんの息子さんを知っているか、話があるんだけど…と絹江に伝えるが、ベアさんが他の人と結婚したら考えるわと言い残して2階の自分の部屋に登って行く。

その後、当の荒井がやって来て、強引に銀平の腕をひねって身動きできないようにすると血圧を測る。

腕力は振るわない約束だぞと銀平は膨れるが、種子は、さすが柔道六段!と感心する。

絹江ちゃんは?と荒井が聞くと、今日は音楽会に言っていると答えた種子が、絹江のことを決めとくれと言い、銀平も偉い所から縁談があるんだよと荒井に伝える。

種子はさらに、あの人には良い人がいるらしいのよ。心当たりない?と遠回しに催促し、銀平は思っている人があるのか?と荒井に聞いて見ると、あると言うではないか。

生きているか、死んでいるか分からないのだと荒井は言うので、いるのか…と銀平はがっくり肩を落とす。

種子は、絹江はもう25よ!といら立つが、早く嫁にやれ。あの子はちょっとヒスの兆候があると荒井は答えて帰ってしまう。

ある日、診療所にやって来たのは、顔なじみの警察署の次席川本五郎(清水元)だった。

次席の用件は、精神病院に行ってもらいたいというものだったので、俺はおかしくないぞと荒井が怒ると、友人の医者から電話があって、凶暴性のある患者がいるらしいので、君の柔道で押さえて欲しいんだと言う。

しかし、荒井は、柔道を止めていると断ろうとしたので、人助けだ、頼むと川本は頭を下げる。

仕方なく精神病院の個室に出向いた荒井は、そこに入れられていた患者(伊藤雄之助)と向き合い、笑顔で懐柔しようとするが、突然掴みかかって来た相手は、荒井を柔道の技で投げ飛ばし、さらに首を絞めて来たので、やむを得ず、荒井は、自ら禁止していた柔道で患者を投げ飛ばすのだった。

すると、その患者は号泣し始める。

その頃、診療所では、看護婦の美子が1人焼き芋を食べながら新聞を呼んでいたが、そこに北海道から戻って来た松原が、軽く頭を小突いて気づかせる。

荒井は?と聞くので、美子が精神病院ですと答えると、とうとう入院したか!と松原はうなる。

しかし、荒井がそこに帰って来たので、松原は、女房は3年前に死んだと教える。

気の毒がった荒井は、俺も今、戦争の犠牲者に会って来た所だと悲しそうに教える。

俺たち医者は、病人1人も作らない世の中を作るのが先決だと荒井は呟く。

その後、料亭で久々に酒を酌み交わすことになった松原は、栄養病理学の研究はどうした?俺はお前に病理学の研究を続けて欲しいと言うが、荒井は、俺は町医者の仕事に精を出すのが良いと思っていると答える。

その夜、松原と一緒に診療室の奥の部屋で寝ていた荒井は、新橋の「カナリヤ」という店で急患ですと戸を叩かれたので、出かける用意を始めるが、一緒に眼を覚ました松原も同行すると言い出す。

バーらしき店に出向いて見ると、ヤクザ風の男が刺されたのか胸から血を流している。

荒井がその患者の治療を始めようとしている間、店の酒を嬉しそうに眺めていた松原は、二階フロアに立っていた1人のホステスに眼を留めると、カナリヤにカナリヤがいた!と驚きの声をあげる。

その声で、荒井もその場にやって来て女性を観る。

その女性こそ、戦時中、荒井と松原が大陸にいた頃、カナリヤと呼ばれており、荒井が思いを寄せていた看護婦立花マリエ(風見章子)だった。

松原は、カナリヤはカナリヤにいたわけだと感心した松原が患者の治療をしてやると言ってくれたので、久々に再会した荒井は、変わったね…とため息をつき、マリエの方も変わったでしょう?と悲し気に聞いて来たので、荒井は又、変わったよ。こんな所で会うとはねと正直な感想を言う。

マリエの方も、こんな時ににねと調子を合わせて来る。

カナリヤでしこたま飲んで診療所に帰って来た松原は、すぐにベッドに横になり寝入ってしまうが、荒井に着いて来たマリエは、部屋にあった鳥籠のカナリヤに気づく。

荒井は、大陸で約束したね。内地に帰ったら、カナリヤを飼ってマリエを待っているよって…と告げるが、マリエは笑いながらありがとうと繰り返し、でもダメなんですと悲し気に答える。

そんなことはない。例えそんなことがあったにせよ、君のせいではない。式を挙げよう。これからが本当の生き甲斐だよと説得するが、マリエは、私、あなたとは結婚できない。あの男と一緒なの。ごめんなさいと詫びる。

それを聞いた荒井は、今夜、きれいに約束は取り消そうと呟くのだった。

マリエは、今の私は、バーのマダムで贅沢な暮らしですわと答える。

そんなマリエに、酒を注いでやった荒井は一杯やろうと勧め、2人はグラスの酒を飲む。

帰り際、マリエはこのカナリヤを私に下さらない?と頼んで来たので、荒井は鳥籠ごと渡してやると、送ろうと言うが、マリエは1人で帰りたいのと言い残して去って行く。

生死不明の女にバッタリ出会ったと話しながら、翌日、「鳥銀」へやって来た荒井と松原を出迎えた銀平は、松原さんに1本つけて来いと種子に命じる。

ただ、その女とは結婚できないんだ。人の奥さんになっていた。改めてお願いがある。絹江さんをお嫁にくれないかと荒井が申し込むと、喜んだ銀平は、俺にも1本持って来い!と種子に声をかける。

もういつころっと往っても良いんだと銀平は相好を崩しっぱなし。

その日から、女学校の生徒たちも、今日は絹江先生がとても張り切っている。昨日の午後も1人で走っていたわと噂し合う。

荒井の診療所には、今日から松原大三さんが手伝ってくれますという貼紙が貼られていた。

そんな中、電話が鳴ったので、荒井が受話器を取ると、何!倒れた?と声をあげる。

カナリヤのマリエが倒れたという知らせだった。

早速往診に出向いた荒井は、カナリアの鳥籠が置いてある寝室で寝ているマリエを診て、神経衰弱なので静養が必要だと診断すると、ひどく悩んでいるね。正直に言って欲しいと頼む。

マリエは、私は浅ましい奴隷なんです。獣のような男の暴力に犯されたのです。今はその男の情夫の1人です。その男は刑務所に行くことを誇りにしているような相手ですと苦しそうに打ち明ける。

それを聞いた荒井は、バカバカしい話だ。僕は君を徹底的に回復させると約束する。

しかし、診療所に戻って来て、マリエのためにヤクザと戦うつもりだと打ち明けた荒井の言葉に松原は反対する。

我々は警察ではないと言いかけるが、相手が言い出したら聞かない性分であることを知っているので、まあ、やれる所までやるんだなと逆に励ます。

早速警視庁に出向き、川本次席に会った荒井は、君の管轄には暴力団がいる。その被害者の中には、恐怖のため自殺したものもいるんだと訴える。

それを聞いていた川本は、協力してくれるかね?と問いかけ、荒井はやろうと賛同する。

「鳥銀」に帰って来た荒井に、松原から電話がかかって来て、マリエさんは世田谷の吉田病院に入院させたと連絡して来る。

翌日、荒井の診療所には、患者ではなくヤクザが次々とやって来て、マリエを出せと脅しながら居座る。

女の行方を言うまでは商売をさせないというのだった。

派手なマフラーをした若いヤクザは、サツが怖くて渡世が渡れるか!と凄んでみせる。

その日の深夜2時、一旦引揚げたヤクザたちだったが、マスクで顔を隠して怪し気な女がやって来て、喀血して倒れたので往診して欲しい。車は外で待たせてあると依頼する。

用心しながら車に女と乗り込んだ荒井だったが、動き始めてしばらく行くと、故障だと運転手が言い出し、車が人気のない場所で停まる。

外に出ると、案の定、ヤクザたちが荒井の廻りを取り囲み、カナリヤのマダムはどこだ?マリエはどこだ?このまま無事に帰れると思うか?と脅して来たので、近くの公衆電話に近づいた荒井は、マフラーをした若いヤクザがサツに電話をかけるのか?と怯えたように近づいて来たので、サツなんか怖くないと行ってたな?と逆に脅す。

荒井が電話をした相手は「鳥銀」の銀平だった。

よんどころない事情で、例の約束破らざるを得なくなったと伝えると、銀平は馬鹿野郎!と怒鳴りつけ電話を切る。

熊田は約束を破ると言って来た。クマは会わせる顔がねえと言ってたぞと種子と絹江に伝えると、それを聞いた絹江は笑い出し自室に戻るが、すぐに真顔に戻ってしまう。

荒井は、ヤクザたちと戦い始める。

川の側に場所を移動した荒井は、次々とヤクザたちを川に放り込む。

翌日の夕刊に、銀座三四郎の登場!と、この出来事を報ずる記事が踊る。

それを読んだ銀平は大喜びで種子に、その方の約束破るんだったら問題ないんだと種子に話し、2階の絹代にも、夕べの話を勘違いするなと伝えに行くが、何故か絹江の表情は悲し気だった。

絹江が持っていた新聞には、荒井が数十名のヤクザをやっつけた活躍は「愛人のため」と書かれてあったからだった。

その後、当の荒井が「鳥銀」にやって来ると、約束を破ってすまなかったと詫びるが、銀平の方も、あしも片目ばかりに見損なった。男らしくきっぱり別れようと答える。

荒井は覚悟していたように、絹江さんによろしく…と言い残して店を後にする。

その後、世田谷の吉田病院にいた松原とマリエに会いに行った荒井は、俺はマリエさんと結婚すると言い出す。

よく考えたのか?と聞く松原に、絹江さんは俺じゃなくても相手はいる。だが、マリエさんは今度の事件で暗い影を背負う。俺が結婚するしかないと言うのだ。

廊下で2人きりで話を聞いていた松原は、とにかく女2人に会え。どっちの女性が君を必要としているかと助言する。

診療所に来て荒井に会った絹江は嫌よと答える。

私に、あなた以外の誰がいると言うの?私は誰にもあなたが好きだって言えなかった。でも私…と言いかけて泣き出してしまう。

それを聞いていた荒井は、そうか、俺がバカだったな〜…と、自らの不明を恥じるのだった。

絹江は花嫁衣装を着ていた。

その横で嬉しそうに眺めていた種子は、お前はわがままだから言っとくけど、何でもはいはいと言っとくんだよと言葉をかけるが、絹江は笑い出してしまう。

何だね、この家ともお別れなんだよと種子は注意するが、でも私たちの所、近すぎるわとぼやく。

新居がすぐ近くということだった。

外は雪が降り始めていた。

今で待機していた荒井の背後に、休業日を知らずに来たらしき客が休みかい?と声をかけて来たので、タバコを吸っていた荒井は、婚礼だよ。ここの娘さんが結婚するんだと振り向かずに答える。

すると客は驚いたように、どんな奴が花婿になるんだろう?と言いながら帰りかけるが、どんな奴が花婿かか…と荒井が笑うと、一旦去りかけていた客は驚いたように戻って来て中を覗き込む。

そこに大きなふろしき包みを背負ってやって来たのは看護婦の美子だった。

ふろしき包みの中から取り出したのは、荒井のお馴染みさんからの祝儀の贈り物の山だった。

診療所に届いたのだという。

みんな、先生を尊敬しているんですよと言う美子は、結婚って良いですわ…と憧れるように呟く。

そこに、川本次席と銀平、種子がやって来て、式を始めるのでと荒井を奥の部屋に連れて行く。

その直後、店に駆けつけて来たのが松原で、マリエさんのことだ、心配いらんよ。あの人は1人でやっていける人だ。回復したら、俺の助手をやってもらうつもりだと荒井に声をかける。

ウエディングマーチが聞こえる中、結婚式の贈答品が置かれた部屋の窓の外から中を覗き込んだのはマリエだった。

お幸せに…そうマリエは呟く。

一人今に戻って来た銀平は、嬉しそうに踏み台に登って棚の上に置いてあっただるまの片方の眼に墨を入れようとしていたが、足を踏み外して転げ落ちてしまう。

畳に落ちただるまは、ちゃんと両目が入り、しっかり起き上がるのだった。