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エノケンの頑張り戦術

エノケン主演のドタバタコメディだが、今回はライバル役の如月寛多と共に、最後まで意地の張り合いをして戦うというナンセンス振りを披露している。

まだエノケンの身体が動く若い時代の作品だけに、最初の自転車競争のシーン辺りから、身体を使った動きの面白さが随所に登場して来る。

そのピークとも言うシーンが、避暑地の旅館で見せる按摩対決だろう。

黒めがね姿の按摩に化けたエノケンと、それに気づかない如月寛多の意地の張り合いでの戦いが、プロレスごっこからボクシングへと移行する面白さは、トリックなしの体当たり演技なだけに最高である。

ラストの、走る列車の窓から相手を突き落としたり、走っている列車と同じスピードでエノケンが走って並ぶ辺りのバカバカしさは、後年のTVコントでも使われているものだが、スクリーンプロセスを使った手法である。

もう一つの見所は、やはり随所に挿入されている歌のシーンだろう。

ドタバタナンセンスとオペレッタ風の趣向は、今見ても楽しい。

当時の女性の水着や海水浴の様子が見られるのも、風俗資料として貴重だろう。

後半の子供の誘拐犯のエピソードなどは、それまでのタッチとはちょっと違った不気味な印象があり、中川信夫監督らしいと言えるかもしれない。

余談だが、この作品での課長役のハゲづらなどはリアルなものではなく、あくまでも作り物と一目で分かるコント用のカツラである。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1939年、東宝映画、小国英雄原作+脚本、中川信夫監督作品。

稲田(榎本健一)と三田(如月寛多)は、全く同じ作りの隣同士の家に住む、同じ会社の社員同士だったが、全く気が合わなかった。

その日も、2つ並んだ全く同じ形の玄関から、同じカンカン帽をかぶり、同時に出て来て互いの顔を見ると、そっぽを向いてそそくさと家を後にする。

駅までの一本道、互いに少しでも先を歩こうと競争になるが、やがて遅れ気味になった稲田は、通りかかったご用聞きの自転車を止め、その自転車を借り受けると、先に歩いていた三田を追い抜いて先に進む。

それに気づいた三田の方も、同じく近づいて来た自転車を止め借り受けると、それを漕いで、先行していた稲田と競争し始める。

やがて駅に着いた2人は、少しでも到着した電車に乗り込もうと入口でもみ合い、稲田が開いていた窓に飛び込んで先に乗り込むと、一旦ドアを開きかけた三田も、同じように窓に飛び込んで乗り込むのだった。

2人が勤めているのは「防弾チョッキ株式会社」だった。

机に付いた稲田は、自分の似顔絵を描いてからかう三田からの書状を読み、近くの机に座って仕事をしていた三田を睨むと、三田の服装を褒める振りをして実は辛辣にからかうほめ殺しの歌を歌い始める。

怒った三田と稲田が会社内で取っ組み合いの喧嘩を始める。

昼食時、社員食堂に来た稲田は、なかなか席が取れないので、空いていた席に座ると、そこは三田との相席だと気づき、また別の席を探すが、いつも他の社員に取られてしまい、仕方なく三田の前の席に座る。

ウェイトレスに注文した後、タバコを出すと、三田が、食事中は禁煙がエチケットだと、柱に貼られた注意書きを指す。

そこには、お食事中はタバコをご遠慮くださいと書かれてあった。

それを観た稲田は平気でタバコに火をつけ吸い始めると、ご遠慮すればいいんだろ?と訳に分からない理屈を言い出す。

しかし、近づいて来たボーイに注意されたので渋々タバコの火を消す。

先に、三田の料理が運ばれて来たので、それを観た稲田はウエイトレスを呼び、このトマトをくれと注文する。

ところが、それを聞いていた三田が、これはトマトというんじゃなく、トメトと言うのが正しい発音だなどと言い出したので、2人は口喧嘩を始め、最後には、ウエイトレスが持って来たトマトをつかんだ稲田が三田の顔に投げつけ、反撃して三田が投げた料理が別の客に当たったりする騒ぎになる。

こうした騒動を知った課長(柳田貞一)は、稲田と三田に首を言い渡さそうとするが、最終的には始末書を出せと叱りつける。

2人が自分の席に戻った後、電話がかかって来たので、それに出た課長は、相手が愛人の芸妓菊龍だったので、温泉でも海水浴でも連れて行ってやるよと甘い返事をしていた。

ところがそこに妻(柳文代)がやって来たので、慌てた課長は、温泉や海水浴場で、防弾チョッキを売り込んでくれたまえなどとごまかして電話を切る。

帰宅した稲田は、身体の弱い妻文子(宏川光子)の肩をもみながら歌っていた。

やがて、ふみ子も一緒に歌い出す。

その側では1人息子の健二(小高たかし)が無邪気に遊んでいる。

その頃、隣の三田の家では、夕食に出たトマトを、息子の五郎(川童)がトマトというので、それはトメトと言え!と三田が叱りつけていた。

稲田の妻の文子は、自分の身体の弱いのを詫びていたが、稲田の方も、自分の甲斐性のなさを詫びていた。

健二が寝付くと、この子は学校で、山や川に行けないことを1人我慢しているようで、泣かされましたと文子は不憫がる。

それを聞いた稲田が、隣の三田の所はどうなんだ?と聞くと、海岸に避暑に行くそうですと文子は答える。

稲田は、うちの坊主は学校で1番、三田の子供は2番なのに…と悔しがり、何と言っても海に行くのだと宣言する。

いよいよ海岸への避暑に出かける日、稲田と三田はいつものように同じ形の玄関から同時に外に出て顔を合わせる。

三田が自慢げに僕等は二等車で行くんだと言うので、それを聞いた稲田は、記者に三等などというのがあるのか?僕等はいつも二等しか乗ったことがないから知らなかったねなどとわざとらしく文子に尋ねる振りをする。

ところが、両家が乗り込んだ二等列車は満員で座る場所さえない。

乗客たちは陽気に金の歌を130とか150などと歌っていたが、稲田はうらやましいと言い、三田の方は、そんな金があるんだったら貯金しろと不機嫌になる。

結局、三等車の方に来た一行だったが、健二がやっぱり三等の方が空いてるねと漏らしたので、稲田は慌てて、しっと黙らせるが、聞いていた三田は、子供は正直だと笑う。

海辺では、水着姿の女性たちが、ビーチボールで遊んだりしていた。

旅館に着いた稲田が宿賃を番頭に聞くと、5円の部屋が一番安いというので、3円くらいの部屋はないのかと談判していたが、そこに三田の家族がやって来たので、稲田は急に見栄を張り、最上級の部屋を用意してくれと言い出したので、三田の方も負けじと、再興の部屋を用意しろと番頭に命じる。

結果、稲田一家は、最上等の松の間、三田の一家は、自慢の竹の間に案内される。

稲田は満足げに庭に面した縁側部分に出るが、同じように出て来た三田と鉢合わせしてしまう。

又しても隣同士の部屋だったのだ。

稲田は見栄を張り、案内して来た番頭に祝儀を50銭渡そうとするが、三田が1円出すというのを聞き、では2円と訂正すると、三田は5円と訂正し、結局稲田は10円も渡してしまうが、三田が部屋に入るとすぐに番頭を追って行き、10円は取り戻すのだった。

文子は戻って来た稲田に、この部屋は1人15円よと驚いたように教える。

さらに、仲居がやって来て、貴重品を預かりますというので、最初はそんなものないと断っていた稲田だったが、思い返して、分厚い財布を預けることにする。

それを観た文子は驚き、ボーナスがたくさん出たのねと喜ぶ。

縁側部分に来た稲田は、隣の三田が、仲居に熱い湯と温い湯の2種類温泉があると聞き、ぬるい方に入るという声を聞いたので、また見栄を張って、自分は熱い湯の方に入ると言い出す。

すると、又又、それを聞いた三田が負けん気を出し、自分も熱い湯に入ると言い出したので、稲田は、元湯よりも熱いのないかな?等と言い出す。

その会話を聞いていた互いの妻たちは慌て、おやめなさいな。身体に触ったらどうするの?と心配するが、結局、2人とも、煮えたぎったような熱い湯の中に入り我慢比べとなる。

そこは、仲居が卵を入れると、瞬時にゆで卵になるくらいの熱湯だったが、三田も稲田も、自分が先に湯から出るのを嫌ってずっと湯の中に身体を沈めたままだった。

その頃、文子と三田の妻の武子(渋谷正代)は、互いに縁側で同じテーブルに座り、どうして互いの夫同士はあんなに仲が悪いんでしょうと呆れて話し合っていた。

その後、風呂から上がって来た三田は、部屋で読書をしていたが、隣からにぎやかな音楽が聞こえて来て、商事には踊っているような影が映っていたので、こちらも負けじと、芸者を呼び集めると、ドンちゃん騒ぎを始める。

ところが、障子を開けた稲田が、今のはこれだと指差したのはレコードで、釣られやがったと笑うので、勘違いに慌てた三田は、芸者たちを追い返す。

海岸に健二を連れやって来た稲田は、山彦って知っているかと言い、近くの崖に向かってヤッホー!と叫ぶとヤッホー!と帰って来たので、ほらねと言いながら「こだまは戻るよ♬」と歌い始める。

ところが、その内、オ〜イ!と叫ぶと、誰だ〜と声が返って来たので、不思議に思って、もう一度オ〜イ!と叫ぶと、砂浜に置いてあった小舟の中から三田がムクリと上半身を起こし、さっしから誰かと思って適当に返事をしていたら、お前だったのか!と文句を言う。

夕食時、並んだごちそうを喜ぶ健二や文子とは対象的に、部屋の隅では稲田は財布の中味を気にしていた。

その夜、1人の黒めがねの按摩がその宿にやって来る。

按摩が相手をしたのは、京橋の芸妓菊龍だった。

そこに課長が風呂から上がって来て、東京に帰ることになったというので、奥さんが怖いんでしょう?などと菊龍はからかう。

廊下で見たという下っ端にあった。稲田って下っ端も来ているらしい。あんな連中にこんな所を見られたらまずいと課長が言うので、時々金でも与えて手なずけておかないからですよと、又菊龍はからかう。

次に按摩がもみに来たのは三田で、防弾チョッキを売って今日の金を稼ぐぞと妻の武子に話していた。

武子はそんな三田に、あなたはいつも否ださんと喧嘩ばかりして…、強情っ張りなんですよと注意すると、あいつの方が強情っ張りなんだと三田は言う。

そんな三田に、按摩がそろそろ根をあげるんじゃないですか?などと言いながらきつくも見始めるが、何のこれくらいと三田は痛さを我慢する。

按摩は、相当お強いようですから、指圧療法などと提案し、三田は何でも良いからやってくれと頼む。

すると、按摩は、三田の首を思いっきりひねり、身体を投げ飛ばす。

さらに、背中に飛び乗り、さば折りのような技をかけたり、まるでプロレスでもするような大勝負となる。

さらに、縁側に出た2人は、ボクシングをするかのように殴り合いを始める。

津随て、按摩が来たのは、文子の部屋で、やさしく文子の肩をもみながら、布団から足を出して寝ている健二に気づくと、優しく足を布団の中に入れてやるのだった。

文子がおいくらですか?と聞くと、どうせ頂いても元々でございますからなどとおかしなことを言う按摩は、では50銭でも…と恐縮そうに値段を言う。

その時、按摩はくしゃみをし、ヒゲが取れてしまったので、その顔を見た文子は、思わず、あなた!?と驚く。

按摩の正体は稲田だったからだ。

その頃、三田の方は、身体がこんがらがっており、骨接ぎを読んでくれと武子に頼んでいた。

稲田は文子に、帳場に預けた財布の中味はちり紙だと打ち明け、やっぱり俺は甲斐性のない男なんだ。このまま働かせてくれ。今の会社に何年いたって課長なんかになれるはずもない。そんな俺のたった1つの夢は子供なんだ。健二が喜んでくれるんだったら、按摩でも何でもやると言うので、文子は、すみません、あなたと頭を下げるのだった。

按摩の格好で旅館を出た稲田は、すぐに元の稲田に戻って旅館に帰って来ると、按摩を読んでくれと仲居に頼むのだった。

翌日、健二を連れ海に来た稲田だったが、泳ごうと誘われると、大人がこんな浅い所じゃおかしいと言って泳ごうとしない。

じゃあ、もっと深い所へと言って連れて行かれると、仕方なく海に入るが、泳ぐでもなし、あっという間に波に押し戻され浜辺に打ち上げられる。

実は稲田は金槌だったことを知った健二はがっかりする。

すっかり面目を失った稲田であったが、その直後、菊龍を連れて来た課長と浜辺でばったり会ってしまう。

稲田は、夕べ按摩に化けて菊龍に会っているので、家内だよと紹介する課長の言葉を信じなかったが、そこにやって来て挨拶をした三田には、課長の奥さんだと噓を教える。

菊龍が泳ぎたいと言い出したので、三田が海へ連れて行く。

その近くでは、ハイボールを飲んでいた御前(南光司)と呼ばれる人物が、他の見物客と一緒に、ブローカー(北村武夫)が海の中で試着して、披露している救命胴衣のデモンストレーションを見物していた。

その時、海に飛び込んだ稲田は、そのブローカーに飛びつき、海の中で格闘をした末に、救命胴衣をはぎ取って逃げてしまう。

稲田は海の中でその救命胴衣を身につけると、金槌なのに自由に泳げるようになったので、得意になって海の中でアクロバチックな動きをしながら歌い出す。

すると、それを観ていた見物客はやんやの喝采を送る。

稲田は砂浜に上がって来ると、ビーチパラソルの下で甲羅干しをしていた女たちの間に隠れる。

救命胴衣を盗まれたブローカーは稲田を探しまわっていたが、なかなか見つからない。

続いて、稲田は砂浜に首だけ出して身体は埋まっていたが、ブローカーに見つかったので逃げ出し、そこにやって来た着物姿の婦人の背後に隠れて難を逃れる。

その婦人は、何と課長を捜しに来た課長夫人であった。

稲田は婦人だと知ると課長を呼びに行き、奥様がお見えですと教えるが、困るよと課長は困惑する。

結局、婦人の目をごまかすために、菊龍は稲田夫人ということにし、課長夫婦と堤防の上のベンチに並んで座って、釣りを楽しむことにする。

菊龍と稲田がベタベタしているのを見ていた課長夫人は、私たちも昔はああでしたわねなどと言いながら、同じように、サイダーを一緒に飲もうとしたりする。

そこに事情を知らずに近づいて来た三田は、稲田と一緒に腰掛けていた菊龍に奥様と挨拶し、課長の横にいた本物の婦人には、何です?このホタテに目鼻がついたような女は?等と言い出したので、婦人は怒り出し、三田を海に突き落としてしまう。

稲田が旅館に戻って来ても、救命胴衣を探していたブローカーが追って来たので、稲田は盗んだ救命胴衣を旅行鞄の中に隠してしまう。

ブローカーが、稲田の松の間に入って中をのぞくと、そこには赤ん坊をねんねこでおぶった文子がいただけだったので帰るが、その赤ん坊とは稲田本人だった。

翌日、子供を狙った誘拐犯がこの近くに現れたので、捕まえたら、懸賞金200円出るという新聞記事が出る。

それを読んだ稲田は捕まえて懸賞金をもらえれば、ここの旅費も浮くと張り切るが、犯人はピストルを持っているそうだからやめなさいと文子は止める。

しかし、稲田は、防弾チョッキを持って来ているから大丈夫だと言って、旅行鞄の中身体して着ると、旅館を出かけて行く。

その後、着物を着た子供に扮し、泣きまねをしていた稲田に、どうしたの?と優しく声をかけて来た男(金井俊夫)がいた。

三田は、持って来た防弾チョッキを全部、町長に売ってしまったことを思い出していた。

一方、稲田の部屋に再びやって来たブローカーは、浮き袋を返してくれと文子に頼むが、文子が旅行鞄から持って来たものを見たブローカーは、それは浮き袋ではないという。

それを聞いた文子は、稲田が、防弾チョッキと救命胴衣を間違えて着て行ったことに気づく。

その頃稲田は、こんな格好しているからと言って、キチガイだと思わないで下さい。実は子さらいの犯人を捜しているんですと男に説明すると、その男は、犯人を教えてやろうか?と聞いて来る。

事情を知ったブローカーは稲田を探しに行く。

その後、近くの洞窟の中に連れて来られた稲田は、そこに捕まっていた3人の子供と一緒に、「チーチーパッパ」を歌って踊らされていた。

さっきの男こそ、誘拐犯その人で、今や、大きな包丁を持って、ニヤニヤ笑いながら、歌い踊る子供と稲田の様子を観ていた。

そこに事情を知らずに入って来たのが三田だったので、稲田は、三田に抱きつくと、警察に知らせたんだって?と一人芝居を演じる。

それを聞いた犯人は驚いて洞窟から逃げ出したので、稲田と三田は後を追いかける。

しかし、犯人がピストルを撃って来たので、稲田はここぞとばかり着物を脱いで、下に着込んでいた防弾チョッキを見せると、防弾チョッキで身を守っているという自信からか、どんなに犯人が撃って来ても一向に平気だった。

三田はそんな稲田の背後に隠れようとしてきたので、稲田は、俺の言うこと聞くか?これからはトメトじゃなくてトマトだな?と確認させ、お前は警察に知らせて来いと言って三田を遠ざける。

代わって稲田に近づいて来たのがブローカーで、その浮き袋を返せ!と言うので、それを聞いた稲田ははじめて、自分が着ているのは防弾チョッキではなく、救命胴衣だったことに気づく。

その途端、稲田の勇気は急に消滅し、もう止めましょう?と情けない声で犯人に話しかけるが、犯人はそんな言葉に耳も貸さずピストルの引き金を引く。

ところが、もうピストルの弾は撃ち尽くしていたので出なかった。

それを知った稲田は、犯人に飛びつくと、2人そろって崖から海に墜落する。

稲田は救命胴衣を着ていたので、犯人を海で捕まえても浮いていられた。

そんな稲田と犯人の元に、警官たちが乗った船が接近して来る。

砂浜に引揚げられた犯人は、完全に正気を失っており、「チーチーッパッパ♬」と1人嬉しそうに歌っているだけだった。

稲田の方も無事救助される。

その頃、三田と武子は、急に熱を出して寝込んでしまった息子の五郎を前に、医者に診せたくても、もう金がないことに悩んでいた。

隣の松の間では、誘拐犯を捕まえた懸賞金300円を手にした稲田が喜んでいたが、そんな稲田に文子は、武子さんの坊やが寝込んでいると教える。

武子は、もう二度と来れないかもしれないなどと言って、無理に五郎を海に入れたからです。いつも否ださんと強情の張り合いばかりしているから…と三田を責める。

沈み込んだ三田の目の前に、隣の障子窓から笹竹の江田の先につけた300円が投げ込まれる。

三田は驚いて松の間の窓を見るが、もう障子はしまっていた。

その時、寝ていた五郎がトマトが食べたいとうわごとで言うのを聞いた三田は、そうかトマトが食いたいかと復唱し、どっかにいる奴、ありがとうよ!と声をかける。

すると、障子窓越しに、稲田も、息子を大切にしろよと声をかける。

その後、病気が治った五郎を連れた三田一家と稲田一家は仲良く相席で東京に帰る汽車に乗っていた。

稲田がタバコを吸おうと口にくわえると、三田は気を利かせてマッチを擦ってやり疎するが、それを観た稲田は、まだいつもの強情っ張りが戻って来て、口にくわえた煙草を食べてしまう。

しかし、さすがに気が引けたのか、自分から三田にタバコを勧めながら、俺の方が強情だったよと詫びるが、それを聞いた三田は、俺の方こそ強情だったと言い返したので、又又、俺の方が強情だという言い争いになり、持っていた新聞紙を丸めて殴り合いを始める。

そんな様子に呆れた武子と文子は、どうしてああ仲が悪いんでしょうと首を傾げ、互いの夫の干支などを聞き合うと、全く正反対だということが分かったので、それじゃあ相性が悪いわよと、妙な納得をしてしまうのだった。

取っ組み合っていた三田は、とうとう稲田を窓から外に放り出す。

これでやっと厄介払いで来たと安心していると、窓の外を走って追って来る稲田の姿があった。

窓から這い上がって来ようとしたので、またその手を振りほどき、外へ放り出すが、しばらくすると、又、列車と並行する形で稲田が走って来る。

そして、又窓から中に入り込もうとしたので、見たがつかみ掛かると、今度は稲田の方が三田の身体を外に引きづりだし、2人とも列車から落ちてしまう。

走り去る列車の後ろの線路上で、もみ合う三田と稲田の姿があった。