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亡霊怪猫屋敷

いわゆる「化け猫もの」だが、かなりアレンジというか、構成に工夫が凝らされている。

まず、モノクロ映像で現代篇を紹介し、途中からカラーになると同時に時代劇スタイルになり、最後は又モノクロの現代篇に戻るという凝った趣向である。

時代劇の方はオーソドックスな化け猫ものになっているのかというと、これもアレンジされており、壁に塗り込められるのが女性ではなく、若い男性というのがまず珍しい。

この結果、惨殺された亡霊として男が登場することになる。

基本、化け猫ものは、女性の女性に対する復讐ものなので、女性の亡霊が出現するのが普通なのだろうが、ここでは癇癪持ちの家老を敵としており、男同志の対決要素が加わっているのだ。

目が不自由な母親の設定といい、「四谷怪談」に登場する按摩の復讐話辺りがヒントになっているのかもしれない。

将監が亡霊に取り憑かれ正気を失って暴れ回る辺りも「四谷怪談」に似ている。

その分、化け猫お得意の念力によるアクロバチックな腰元踊りなどのシーンは短めにまとめてある。

この作品では、現代篇の老婆と同じ五月藤江が、時代篇の化け猫と老母も演じているので、いかにも本当の老婆という感じなのだが、そのことが逆に、シーンによっては怖いというより可愛らしく見えてしまっている部分もある。

スタントを使った化け猫の派手なアクションなどもほとんどない。

ラストも意外性があり、最初から最後まで、ぎっしり見せ場がつまった贅沢な怪談と言った印象である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1958年、新東宝、橘外男原作、石川義寛+藤島二郎脚色、中川信夫監督作品。

暗闇の中、塀の上に踞る黒猫の鳴き声にタイトル

塀の上に満月のように見えていた光は懐中電灯が照らす光だった。

暗い病院な廊下を懐中電灯が照らしながら進む。

第三東病棟の文字が浮かぶ。

やがて、不気味な死体を運ぶ白衣の男が通り過ぎる。

そんな病院の奥の研究室にいた久住哲一郎(細川俊夫)が白衣を着ながら、気持ちの悪い晩だ。あの足音は何だろう?と考えていた。

こんな灯りのない晩、研究室に近づく者などいるのだろうか?

こんな状況にいると人間は被害妄想に陥る。

6年前、私にもそんな経験があった…

走る列車…

久住の妻の頼子(江島由里子)は結核にかかり、転地療養が必要だった。

そこで、妻の郷里である北九州には兄がいることもあり、久住もそちらで開業する決意をし、列車で移動していた。

北九州に着くと、兄健一(倉橋宏明)が車に同乗し、病院兼住まいになる家を観に行くことになる。

車中も咳き込んでいる妹頼子の容態を案じた健一は、切開した方が良いのでは?と尋ねるが、久住は医者らしく、今切ると、結核菌が広がることがあるので…と答える。

健一は、久住までこんな田舎に呼び寄せたことを恐縮している風だったが、久住は、自分もしばらく空気がきれいでのんびりした所に開業したいと思っていたので…と言う。

その時、突然、車の前に黒猫が飛び出して来たので、運転手はハンドルを切り損ね、危うく自動車は、道路から飛び出して海に落ちそうになる。

頼子は驚き、轢いちゃったの?と聞くが。運転手は大丈夫と答え、そのまま車は屋敷へと向かう。

屋敷は長い石階段を登らねばならぬ高台にあり、兄が言うには、築100年以上も経った古い家で、長年雨戸も開けていなかったので、近所では幽霊屋敷などと呼ばれているんだと打ち明ける。

体力が衰えている頼子には辛そうだったが、何とか登り切った場所には、からすが木に留っていたので、頼子は又不気味がり、カラスは死人の家が分かるというではありませんかなどと言い出す。

門を開けると何か黒いものが上から落ちて来たので頼子は震え上がるが、それは黒猫だった。

猫嫌いだと言う頼子は門を入ったすぐ脇の部屋で、石臼を挽いている白髪の不気味な老婆(五月藤江)の姿を観たので驚く。

そのことを久住に告げると、戻って来てその部屋を眺めるが、そこには石臼が置いてあるだけで人影などなかった。

屋敷の中の木々にもカラスが何羽も留り、屋敷の中は荒れ放題だったが、埃が溜まった廊下に足痕がついていたので、又頼子は怯える。

久住は、コジキでも入り込んだのだろうと慰めるが、その足跡が廊下の途中で消えているのには首を傾げる。

床の間の壁には、何だか血がにじんだような後があると、又頼子が言い出したので、久住は全部神経のせいだからと落ち着かせるのだった。

やがて、屋敷の改装もすみ、久住病院は新しく開業する。

ある雨の日、床の間で休んでいた頼子の容態を診に来た久住は、愛犬のタロウの吼え方が変だと言い出した頼子を又なだめていた。

タロウが激しく鳴く中、門を潜って病院に裸足で近づいて来たのは白髪の不気味な老婆だった。

時刻は10時45分

受付で雑誌を読んでいた看護婦平松とよ子(千曲みどり)は、気がつくと老婆が目の前に立っていたのでぎょっとなる。

全身ずぶぬれ状態なので、どうしたの?どこが悪いの?と聞いても何も答えようとしないので、耳が遠いのかしら?と勝手に思い込んだ看護婦は、とりあえず、老婆にそこにいるように言いつけて、床の間にいた久住医師を呼びに行く。

ところが、久住医師が受付の所に来た時には誰老いなかったので不思議がる。

看護婦は玄関などを探しまわるが、やはり老婆はいなくなっていた。

その頃、床の間に1人残っていた頼子の元に出現した老婆は、いきなり頼子の首を両手で絞め始める。

床の間に戻って来た久住は、頼子が倒れていたので驚いて起こし、老婆がいたと聞いても、きっと錯覚を起こしたんだよと慰めるだけだった。

タロウがまだ激しく鳴いている中、白髪の老婆は門から外に出て行く。

しかし、夜中、就寝していた頼子は、隣で寝ていた久住に、又、聞こえません?足音…と言い出す。

久住には何も聞こえなかったが、頼子は、あの怖いおばあさんの足音…、怖いあなた!と怯える。

又、タロウが吼え始め、あの白髪の老婆が裸足で近づいて来る。

看護婦が老婆に気づき、どうしたの?と玄関先で聞くと、東松村の須藤ですと言うので、伝え聞いた久住は人力車で往診に出かけることにする。

時刻は11時13分ころだった。

その後、老婆は、寝室の表に立っていた。

須藤家に到着した久住だったが、出てきた須藤吉蔵(山川朔太郎)はうちでは呼んでないというではないか。

寝室で横になっていた頼子は、表から、僕だよ頼子、開けてくれないかと久住の声が聞こえて来たので、慌てて雨戸を開けると、そこに立っていたのはあの老婆だった。

急いで帰宅して来た久住は、首輪が外れ、タロウがいなくなっていることに気づく。

寝室では老婆が頼子の首を絞めていた。

庭を探していた久住は、タロウの死骸を発見し驚くが、屋敷の雨戸が開いており、そこから頼子が倒れている姿が見えたので、慌てて中に駆け込むのだった。

頼子の容態は悪化し、心配して見舞いに来た兄健一に久住は、今度ショックを受けると、命の危険があると告げる。

健一は、実は、前にも話した通り、この屋敷は幽霊屋敷と呼ばれているだけではなく、旦那寺である良福寺の和尚さんがここを潰した方が良いと言われたことがある。今回は看護婦も不気味な老婆を観ていることだし、タロウの死に方も変だし、頼子の神経のせいだけというにはおかしい所が多いので、一度、和尚さんに話を聞きに行ってみたいと言い出す。

久住も同行し、和尚の慧善(杉寛)に話を聞くと、想像したことが当たったか…と案じ顔で、あの屋敷は昔、コデマリが庭にたくさん咲いていたことから「コデマリ屋敷」と呼ばれていたのだ。

そこには大村藩の家老が住んでいたが、その家老、大層な癇癪持ちだったらしいと言う。

画面はそれまでのモノクロからカラーになり、内容も時代劇に変化する。

石堂左近将監(芝田新)は、今日囲碁の相手をする約束だった竜胆寺小金吾(中村竜三郎)がなかなかやって来ないのでいら立って、若党の佐平治(石川冷)を呼びつけて癇癪を起こす。

佐平治は、小金吾様は母親が目が不自由なので、なかなか簡単には参上できません。もうしばらくお待ちくださいと頭を下げるが、将監は聞く耳を持たなかった。

その頃、目が不自由な竜胆寺宮路(宮田文子)は、出かけようとする息子小金吾から愛猫のタマを預かりながら、このタマの様子はそなたのことを案じているようだと伝える。

しかし、小金吾は、今日は、ただ囲碁の指導を頼まれただけなので心配ないと笑い、タマに、鳴くでない。すぐに帰って来るぞと話しかけて出かける。

その頃、待ちくたびれた将監の癇癪は限度を超えており、小金吾は最近、囲碁の名人などと言われる等になり増長しているのではないかなどと言い出したので、佐平治は諌めようとすると、今度はその佐平治を斬ろうと刀を抜いたので、驚いた佐平治は廊下を逃げ出す。

そこで出会ったのが、将監の息子である新之丞(和田桂之助)で、かねてよりの父親の癇癪を知っていたので、父親を何とか落ち着かせようとし、自分はこれから登城すると報告する。

さすがに息子から諌められると興奮をおさめるしかなく、将監は、今日は夜勤の日だったなと息子を送り出すのだった。

新之丞が出かけようとしていると、ようやく遅れてやって来た小金吾と出会う。

2人は年も近いこともありかねてより仲が良かったので、今晩、そなたの花嫁のことなど話そうなどと小金吾は言う。

その後、部屋にいた婆様(五月藤江)に会った新之丞は、いつものように父上の癇癪がひどく、今日も遅刻した小金吾様に失礼があっては困るので、気遣って下さいと言い残して登城する。

囲碁を始めようとした将監は、小金吾が先に白玉を選んだので又癇癪を起こしていた。

今日は、指導者として来ましたのでと小金吾が説明すると、指導だと?勝負だ!と将監は挑戦的になる。

その頃、自宅では、猫のタマが鳴き出したので、宮路は息子のことを案じていた。

薬を煎じて持って来た五月(三重明子)に、今日は、癇癪持ちの御家老様がお相手だけに、勝ちを譲って早く帰るようにあれほど申し付けたのに、あの小金吾も、亡き父親に似て一徹な所があるので…と胸の内を吐露するのだった。

囲碁の勝負は続いていたが、将監が何度も「待った」とかけるので、小金吾も意地になり「勝負です」と譲らなかった。

それで又将監を起こして暴言を吐いたので、立ち上がった小金吾は、そのような卑怯な方とはお相手できないと帰ろうとする。

すると将監は、小金吾のことを小僧呼ばわりして罵倒したので、それでも御家老ですか!と小金吾が憤慨し部屋を出ると、将監はとうとう刀を抜いてその背後から斬りつけて来る。

部屋に戻って来た小金吾は、何度も将監から斬られ、相手の袖の一部を引きちぎりながら碁盤の上に倒れ込むと、碁石を血まみれになった手で握りしめながら息絶えてしまう。

そこに駆けつけて来たのが佐平治で、小金吾の死体を観て仰天するが、その姿を観た将監は、俺の手伝いをしないとお前の命もないぞと脅す。

佐平治はやむなく、手伝いますと命乞いをする。

やがて、小金吾の家から呼び寄せた中間の八郎太(国方伝)を前に、将監は、小金吾は碁の勝負に負けたのを恥じ、自ら出奔したと伝える。

その八郎太の報告を聞いた宮路は、到底信じられなかった。

その頃、将監は、床の間の掛け軸の後ろにある秘密部屋の中に小金吾の死体を入れると、佐平治に泥で塗り固めさせる。

仏壇の前で手を合わせていた宮路は、突如、観えない目の前に、変わり果てた小金吾が座っている姿が見えたので、どうした?その変わり果てた姿は?相手は誰じゃ?御家老か?と問いかけると、小金吾の霊は、何かを目の前に置く仕草をして消えて行く。

驚いた宮路は、五月を呼び寄せ、猫のタマの横に置かれた血染めの小布を見せる。

五月は、血が付いており「三段菱」の紋が入っていますと教える。

それを聞いた宮路は、やはりそうか…と、小金吾を殺したのは、家老の将監であることを確信する。

その後、その将監の屋敷に出向いた宮路は、その小布を取り出すと知らぬと申されますか?小金吾の亡霊が現れて、斬られたと言いました…と迫るが、かねてより宮路に思いを寄せていた将監は、しらばっくれただけではなく、無理矢理宮路に酒を飲まそうとして押し倒し、汚らわしい!とはねつけようとする宮路に狼藉を働く。

乱暴された宮路は、1人乱れた姿のまま帰宅すると、白装束に着替え、仏壇の前でタマを抱くと、お前をあのように可愛がっていた小金吾は将監に殺され、私も辱めを受けました。このままでは生きておれない。一生の願いだから、将監の家の末代まで祟っておくれ。これが私の今際の願いです。私の生き血を嘗めて、きっと願いを叶えておくれと言うなり、懐剣で自らの胸を突いて果てる。

タマは、その血を嘗めていた。

その夜、寝室で寝ていた将監は、うなされて起きるが、気がつくと、床の間の掛け軸が落ち、壁に血がにじんでいた。

将監はすぐに佐平治を呼び、壁を塗り替えさせる。

タマは、そんな将監の屋敷の庭に入り込んでいた。

部屋にいた将監の母親である婆様は、障子の外に人の気配を感じたので、里か?もう用はないと引き取らせようと声をかけるが、そちらに用がなくとも、こちらに用がございますると言う女の声が聞こえたかと思うと、静かに障子が開く。

しかし、誰も入って来る様子はなく、続いて、囲炉裏にかけていた茶瓶が揺れたので、老母は驚いて振り返る。

するとそこには、白装束の宮路が座っていたので驚愕する。

宮路が、御隠居殿、私の小金吾が将監殿に故なくして殺されました。さらに、メ○ラの私に理不尽な振る舞いをされました。石堂家の者、末代まで祟りましょうぞと告げると、驚いた老母は、私は何も知らんのだ!許して下され、宮路殿!と詫びるが、宮路の亡霊は老婆の首筋に噛み付くのだった。

ある日、庭で腰元のお八重(北沢典子)と2人きりになった新之丞は、父上の機嫌の良い時に我らの婚礼のことを話してみようと言い出すが、身分違いの私との仲など、お父上がお許しになるはずがありません。私はこのまま、若様のお側にいられるだけで幸せなのですと遠慮がちに答える。

その夜、腰元部屋にいた八重に老母が、将監が呼んでいるぞと声をかけに来る。

その頃、寝ていた将監は、又うなされて目が覚めていたが、観ると、掛け軸の横にある鎧の隣辺りに、血染めの碁石が落ちて来るのを観る。

血迷ったな!と叫び、刀を抜いた将監だったが、そこに八重が参りましたと声がしたので、ちょうど良い、腰をもんでくれと頼む。

八重が側に来て腰をもむ始めると、将監はお前はなかなか美しいのうなどと言い寄ろうとする。

そんな寝室の隅の暗がりに、老母が出現していた。

後日、新之丞から八重との婚礼の相談を受けた将監は、あんな身分の卑しい者などと…、うちは3千石の家老職だぞ!まだ元服が終わったばかりというのに女狂いとは!と烈火の如く怒り出す。

その後、老母に呼ばれた新之丞は、いたく叱られました。身分が違うと大変なご立腹。あの怒りようはちょっと尋常ではなかった。何か事情があるのではないか?と伝えるが、それを聞いた老母は、腰元たちから聞いたのですが、昨夜遅く八重が将監に呼ばれたそうじゃと教える。

その夜、新之丞は将監の寝室の前で中の様子をうかがっていた。

部屋の中では、将監が八重をいたぶっていた。

その時、床の間の壁に又血のシミが浮き上がる。

新之丞が部屋に飛び込むと、将監には自分の息子が、惨殺された小金吾に見えた。

さらに、抱いていた八重も、いつの間にか宮路に見えたので、思わず斬りつけてしまう。

もはや将監は錯乱状態になり、猫の幻影に怯え、障子の影に写った巨大な化け猫を斬りつける。

その直後、老母の部屋の前の廊下に血が落ちていることに気づいたお里(辻祐子)が部屋の障子を少し開けて中をのぞいてみると、行灯の側で、老母が傷ついた左手を嘗めていた。

老母の方もお里に気づき中に入るよう命じると、お前、観たな?観られたからには生かしてはおけんと言い出したので、恐怖に駆られたお里は部屋の外に逃げ出そうとするが、化け猫の念力にたぐり寄せられ、のど笛に噛み付かれる。

お里は、廊下から庭先に落ちるが、再度、化け猫の念力で廊下にジャンプして戻ると、又噛まれるのだった。

新之丞は、八重の死体を自室に寝かせ、その前で供養をしていた。

その頃、老母は夜の庭の池の前に来ると、鯉を手づかみで捕ると、軒下の中に潜って行く。

その様子を観ていた佐平治が将監に報告し、2人は軒下を捜査に行くが、そこには里と老母の死体が置かれていた。

老母が自室の行灯の油を嘗めていると、槍を持った将監と佐平治が入って来ると、良くも母上を殺したなと叫びながら、突如、槍を突いて来る。

すると、老母の白髪の中から猫の耳が飛び出し、将監と戦い始める。

その後、将監は供養をしていた新之丞の部屋に来て、怪しいものを観なかったかと聞くが、又もや、新之丞の姿が小金吾の姿に見えたので、急に将監は暴れ出すと寝所にやって来る。

床の間の壁には血のシミが浮き出ており、その部屋には、小金吾、宮路、八重、そして老母の姿の化け猫がそろって出現していた。

もはや完全に正気を失っていた将監に、新之丞のやむなく小刀を抜いて相手をする羽目になる。

両者は互いに相手を斬り、相打ちになって部屋に倒れる。

そこに駆けつけたのが佐平治だった。

カメラは、その寝所から廊下の外に咲くコデマリの花を映す。

花の色がカラーからモノクロに変化し、今の時代に話が戻る。

慧善和尚は、過去帳を調べた所、健一と頼子兄妹の先祖は佐平治だったと教え、怨霊は仏の名を忌むというので、このお札を貼っておきなさいと言いながら、久住にお札を授ける。

蝋燭の光の中、久住は頼子の側に寄り添っていた。

屋敷の外には札が何枚も貼ってあったが、頼子は、自分が子供の頃にも病弱だったので、良く母親がお札をもらって来たら直っていたなどと打ち明ける。

しかし、外は強風が吹き始め、お札が剥がれると、又あの白髪の老婆が屋敷の外に出現していた。

雷まで鳴り出したので、怯えた頼子は雨戸を閉めてと頼む。

久住がすぐに雨戸を閉めに行くが、その時、1人になった頼子は、枕元から老婆が近づいて来るのに気づく。

老婆は恐怖で口も聞けない頼子の首に両手を伸ばし絞め始める。

やがて、門が強風で開くと、床の間の壁が崩れ落ち、その奥に埋もれていたミイラが姿を現す。

老婆はいつしか姿を消し、部屋に戻って来た久住は、完全に死んだような頼子を抱き起こそうとする。

その時、久住は、崩れた壁の中のミイラに気づくが、そのミイラは自然に倒れ、同時に壁全体が崩れ落ちてしまう。

第三東病棟の暗い研究室の中にいた久住は、近づいて来る足音に緊張していた。

やがてノックが聞こえたので、誰?誰ですか?と問いかけるが、しばらく答えはなかった。

ドアが開いて姿を現したのは、笑顔の頼子だった。

夜食を持って来たのだというので、怖くなかったかと聞くと、怖かったのでずっと目をつぶって来たのと頼子は笑う。

久住は6年前を思い出し、本当にあの時、君は死んでしまったかと思ったよと言う。

ミイラを供養したら、もう老婆もでなくなったのだった。

研究室はいつの間にか明るくなっていたが、その時、頼子は部屋の隅に子猫を見つけ抱き上げたので、久住は、あれ?猫、平気になったのかい?と聞く。

頼子は、笑顔でうちで飼ってあげましょうかというので、久住も、それも良いねと笑顔で答えるのだった。