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青春太郎

NHKドラマ「太郎」の映画化だが、今までこのドラマが映画化されていること自体知らなかった。

放映当時、熱心に観ていた記憶があるが、すでに内容は忘れており、石坂浩二扮する太郎が活躍する熱血サラリーマンもので、そんな女性にモテモテの太郎をハラハラしながら慕う山本陽子が出ており、最後は2人が結ばれるということくらいしか覚えていなかった。

今、何故当時、夢中になって観ていたか分かった。

原作者が「若大将」シリーズの田波靖男さんと分かったからだ。

つまり、「太郎」は「若大将サラリーマン編」みたいなもので、ファイト溢れる青年サラリーマンが苦難を乗り越えて商談を成立させていくシンプルなサクセスストーリーと、絶えず主役が女性にモテモテだという設定は、若大将シリーズの魅力に通ずるものがある。

期せずしてこの後、若大将シリーズの方も1969年の「フレシュマン若大将」からサラリーマンものに変化している。

若き石坂浩二は、美形という感じやスポーツマンタイプではないが、痩せたインテリ風の風貌で文句なくかっこいい。

この映画版は、その人気ドラマを東京映画が撮っているので、キャストがかなりテレビ版とは違っており、東宝系の役者が目立っている。

主役の太郎の石坂浩二、半沢役の伴淳三郎、田子役の砂塚秀夫、「千代の家」の板前修吉役のなべおさみ辺りだけが、オリジナル通りのキャストらしい。

他はほとんど別の役者が演じている。

長谷川業務部長 有島一郎→清水将夫

早坂営業統括部長 高松英郎→多々良純

大石開発課長 金子信夫→松村達雄

杉山ひろみ 本間千代子→藤あきみ

花田和助 柳家小さん→若宮忠三郎

花田せつ子 中北千枝子→都家かつ江

花田紀子 菊容子→大信田礼子

千代 黒柳徹子→北村昌子

当時のテレビドラマファンだったら、「イメージ違い過ぎ!」と怒り出すくらい違っている。

下宿屋の高校生の娘役が、テレビ版では「好き好き魔女先生」こと菊容子だったというのも驚きだが、映画版の大信田礼子と言うのも、最初は丸まるとした顔で誰だか分からないくらい若い。

黒沢年男と酒井和歌子は、別の映画でもコンビを組んでいたが、この時代の2人はとにかく若い。

ワコちゃん(酒井和歌子)などは、まだふっくらとした子供顔に近いが、ひょっとすると、彼女が演じる半沢の娘花子役と、池内淳子が演ずる太郎の姉悦子役は、映画版オリジナルのキャストかもしれない。

下宿屋で歌を披露している永井秀和は、俳優永井秀明氏のご子息で、この年、レコード大賞新人賞を受賞した甘いマスクの新人だったが、その後、あまり目立った活躍はしてないように感じる。

黒沢年男のエピソードに重点が置かれているように見えるのも、東宝系のキャストを生かす展開にするためだろう。

高橋紀子や沢井桂子などの女優陣も、東宝でお馴染みの顔ぶれ。

その結果、この映画は面白くなっているかというと、残念ながらあまり面白くなっていない。

太郎の活躍感が若干薄れているような気がするのだ。

太郎は、若大将のように歌ったりスポーツをすると言った、他に魅せる要素がないキャラクターなので、仕事をいかにこなして行くかという駆け引きの部分と女性との恋の行方が見せ場のはずなのだが、どちらともあまり成功しているとは思えない。

恋の行方の方は、女性にあまり興味がなさそうなキャラクターなので、一方的に片思い風の芸者の志津香とは深い仲になりそうな気配は最初からないし、見合い相手の糸子にも全く興味なし。

さらに、半沢の娘花子や下宿屋の紀子辺りは子供扱いで、全く恋の相手になりそうもない。

これではヒロイン不在で、ロマンス要素が皆無ということになる。

仕事の方も、大きく分けると2つの仕事が描かれているが、どちらも太郎の努力が実ったと言うよりも、何となく結果的に成功が転がり込んだだけのように見えなくもない。

元々のテレビドラマの方もそう言う感じだったのかもしれないが、どうも映画で痛快さを味わえる展開ではない。

黒沢年男が演じている坪井にしても、何だか優柔不断のように見え、魅力的に写らないのだ。

かろうじて、ラスト、機転を利かし活躍した感じに見えるのは、姉の悦子くらいだろうか?

他の登場人物たちは総じて魅力が薄い。

主人公である太郎もその例外ではないので、作品全体の印象自体が薄くなってしまっている。

これでは評判にもならなかっただろうし、シリーズ化などもなかったのは当然に思える。

成功していれば、若大将の後を担う新シリーズになっていたかもしれず、惜しまれる作品である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1967年、東京映画、田波靖男原作+脚本、中平康監督作品。

歩道を歩く赤いスカートをはいた女は、白いバッグを提げていた。

そこにぶつかった青年は、謝りながら、落ちたバッグを拾うと彼女に渡すが、相手の女性(高橋紀子)はバッグの中をその場で確認し出したので、青年は憤慨して、僕はスリじゃありませんよと文句を言う。

その時、その女性は別の男にバッグを奪われ大声を上げたので、思わず青年はそのスリに飛びつく。

タイトル

スリを撃退し、再びバッグを女性に渡した青年は、中味を確認して下さい!と言い残すとその場を立ち去る。

そこに駆けつけた警官2人に、女性は、今これを掏られて、こちらの方に助けてもらったんですと言いながら、バッグの中には200万も入っていたと説明する。

「世界物産株式会社」開発部

営業部の早坂部長(多々良純)が、開発課の大石課長(松村達雄)に、ブラジルのポルト商会へニッタの自動車を200台売る件は、先方が倒産してしまったので、横浜に200台そのままストップしている。新田自動車に返品も出来ないし、こんな開発案を提出した責任はどうしてくれるんだと叱りつけていた。

この案件を考えたのは田子(砂塚秀夫)だったが、彼も、取引先が倒産したというのでは、どうしようもないようだった。

その時、それは営業の努力不足ではないですか?と言う声が部屋の奥の方から聞こえる。

君は誰だ?と早坂部長が睨むと、札幌支店の営業から転勤して来た大文字太郎(石坂浩二)だ青年は名乗る。

先ほど、スリを捕まえた青年だった。

責任のなすり合いをする前に、行き場を失った自動車200台の転売先を見つけるとこですと言うので、君にやれるのかね?と早坂部長が言うと、太郎はやってみますと答える。

早坂部長が不機嫌そうに帰ると、台風と同じで、じっとしていれば通り過ぎたのに…と大石課長は、余計なことを言ってしまった太郎に嫌みを言う。

そんな太郎に、今晩暇か?一杯やっか?と聞いて来たのは、課長代理の半沢(伴淳三郎)だった。

その夜「千代の家」と言う半沢の馴染みの店に付き合った太郎は、あれこれ半沢から説教を聞かされるが、それを一緒に聞いていた板前の修吉(なべおさみ)と女将の千代子(北村昌子)は、半沢さんは、いつも人に言っていることを自分でやっていれば、今頃重役にでもなっていたのにね…と嫌みを言われてしまう。

半沢は太郎に、酒は飲んでも飲まれるなとアドバイスするが、その後、自宅ですっかり酒に飲まれて寝込んでしまったのは半沢の方だった。

そんな父親の前で、ビールを持って来た娘の半沢花子(酒井和歌子)にもう結構ですと断ろうとした太郎だったが、もう栓を抜いてしまったので…と戸惑う花子は、お酒って美味しいのかしら?と言い出したので、飲んだことないんですか?と驚いた太郎が、彼女のために注いでやると、一口嘗めて、苦くて飲めないと言い、庭先に捨てようとするが、寝ていたはずの半沢が、もったいないと言いながらそのコップを取り上げて自分が飲む。

何か料理を持って来い。料理学校に通っているんだろうという父に、花子は、洋裁学校よと反論する。

半沢は、又、酒は飲まなくちゃならんものだが、飲まれたらダメだと念を押す。

翌日、会社で「アイスノン」を額に結びつけ、二日酔いに苦しんでいたのは半沢だった。

それを観た大石課長は、もう若くないのに無茶するからだ。酒に飲まれちゃいかんよと説教する。

その大石課長から、車の転売先の当てはないかと聞かれた部下たちは、見つからないと嘆く。

そこにやって来た太郎は、タクシー会社には断られたが、その会社で、車の売れそうな別口をいくつか紹介してもらったと言い、半沢に、この中に知っている会社はないかと問いかける。

半沢は、大きな声を出すなと注意しながらも、瀬川交通と言うのは知っている。社長は瀬川充と言って、大変なケチだと小声で教える。

それを聞いた大石課長はがっかりするが、太郎は、むしろケチなら儲かることには敏感なのでは?と言い出し、田子に、ニッタ自動車の主催するパーティの券を持っていたね?と確認する。

今夜7時、赤坂プリンスだと田子が教えたので、そんなただ酒が飲める場所なら、ケチな瀬川社長が来ないはずがないと読んだ太郎は、田子や松原(守田比呂也)、半沢と一緒に、そのパーティ会場へ乗り込むことにする。

しかし、瀬川社長の顔を知っているのは半沢だけだったので、田子と松原は、寿司でも食おうと言いながらその場を離れ、太郎だけが粘ってみることにする。

そこにビールを持って来て注いでくれた芸者が意外そうに太郎に声をかける。

太郎は一瞬、相手が誰だか分からなかったが、スリを捕まえた時、200万をバッグに入れていた女性だった。

新橋の「蔦の屋」の志津香と自己紹介した彼女に、一人の酔客が絡んで来る。

太郎は、一応その酔客に注意するが、酔客はしつこく、言うことを聞きそうにもなかったので、太郎はちょっと身体を志津香から引き離そうと力を入れるが、バランスを崩した相手は、こちらもかなり酔って近くにいた半沢にぶつかってしまう。

半沢は、ぶつかった酔客の顔を見て、瀬川さんだと驚いたので、それを聞いた太郎も慌てて謝罪する。

その後、下宿先の下駄屋に帰って来た太郎は、そこの娘の紀子(大信田礼子)から、倉敷からお客さんが来ていると教えられ、今、二階でご飯食べてると女将のせつ子(都家かつ江)も不思議そうに言われたので、すぐに相手が分かった太郎は、二階の部屋に上がると、そこでお櫃のご飯を全部茶漬けにして食ってしまったらしき、高校時代からの友人の坪井新太郎(黒沢年雄)と会う。

坪井は高校の美術の教師だが、今回は修学旅行の下見として1週間ばかり上京することになったが、宿を用意するという観光会社の連中は下心がありそうなので、ここに泊めてくれないか?と頼んで来る。

そして、お櫃を下げにきた紀子には、太郎の姉から預かって来たという土産を手渡すと、太郎に頼みがあるとかしこまる。

東京に住みたいのだが、良い仕事はないか?一応免許は持っているので、タクシーの運転手でもなれるんだなどと言いと、さっさと布団を自分で敷くと、寝ようと言い出す。

翌日、ホテルの社長専用ルームに出向いた半沢と太郎は、高級ウィスキー2本を手みやげに持参して、昨日の詫びを言う。

土産の効果があったのか、瀬川は一応許し、受け取ったウィスキーを、客に出す水を持って来たホテルの部屋係に渡すと、例の所へと命じる。

その後、テーブルに着いた瀬川は、太郎たちにただの水を勧めると、タバコを切らせていると言い出したので、半沢が自分のタバコを差し出すと、箱ごと受け取り、その中味を全部、テーブル備え付けのタバコ入れに入れ、半沢に1本どうかね?と勧める。

呆れた太郎が、社長はお吸いにならないんですか?と尋ねると、自分はやらないことにしているというではないか。

太郎は、話を変え、社長はタクシー会社もやっておられるようですが、海外への輸出用にそろえたニッタ自動車が200台あるので、それをまとめて買っていただけないか?と切り出すが、そういう話をするなら料亭を用意しろ。時間は今日でも良いと言い出し、芸者を呼ぶなら、昨日のあの子を呼べと言う始末。

聞きしに勝るケチ振りだと呆れながら、部屋を辞去した太郎と半沢は、ホテルのバーの横を通る時、先ほど自分たちが土産として渡した、サントリーのインペリアルをボーイたちが客用の棚に置いているではないか。

帰社した太郎は、この件を大石課長に報告するが、大石課長は、接待するのは良いが、もっと簡単なもので良いのではないか?成果は期待できるのか?食い逃げされるなと念を押す。

太郎は、今回は課長に同席願えないか?半沢さんは二日酔いで無理なんですと頼む。

その時、太郎に電話が入ったと女子社員のひろみ(藤あきみ)が言うので出てみると、それは芸者の志津香だった。

ご飯をごちそうさせてくれないかしら?と誘って来たので、渡りに船と喜んだ太郎は、東銀座の喜楽寿司と場所を確認すると、課長に早めの昼食の許可を受けて出かける。

その直後、ひろみが田子に昼食をおごると誘ったので、田子は大喜びする。

「喜楽寿司」では、9kgもあるヒラメを調理している最中だった。

太郎は志津香に、自分がお座敷で君を呼んだら来てくれるかい?と聞き、志津香はすぐに快諾する。

接待のためで、相手は昨日の社長なんだと言っても、そう言うことに慣れている様子の志津香は気にしないと言う。

そんな「喜楽寿司」にやって来たのは田子を同行したひろみだったが、店を探しあぐね、ようやく到着した時、太郎と志津香が店を出て来たので、あの女の人誰だろう?と言いながら好奇心を満足させると、もう休み時間が残り少ないのでカレーにしようと言い出し、嬉しそうに寿司屋に入りかけた田子をがっかりさせる。

その夜、「料亭 ふじ」には、大石課長と太郎が瀬川社長を前に接待をしていたが、瀬川は志津香の到着だけが目当てのようだった。

そこに当の志津香が到着し、瀬川の横に座るが、瀬川は太郎たちに、自動車は載ってみんと性能が分からん。今度の日曜日、試運転させてくれ。その時、志津香を一緒に来させろと言い出す。

志津香は日曜はダメなの?と一応断るが、廊下に太郎を呼び出すと、行った方が良いんでしょう?と話しかけて来たので、太郎は無理をすることはない。嫌なら嫌で良いんだと返事するが、志津香は、行く代わりに3つの条件を飲んでくれと言い出す。

1つ、志津香を軽蔑しないこと。2つ、今後も友達として付き合ってくれること。3つ、あなたも一緒に来てくれること…と言うものだった。

下宿の下駄屋では、息子の秀夫(永井秀和)がのんきに歌を歌っており、履物職人の父親和助(若宮忠三郎)から小言を言われるが、将来は一流歌手になって儲けてやると反論していた。

そこに2階から降りて来た紀子が、今日はお櫃のご飯が余っていると首を傾げていたが、そこに帰って来た太郎に、せつ子 も、二階のお客さんが手紙を読んで考え込んでいると耳打ちする。

二階に上がってみた太郎は、手紙を隠した坪井が、食欲がないんだなどと言い訳そして来たので、隠し事があると察し、訳を聞かせろと迫る。

坪井は、絵の勉強をするには東京の方が良いと思うというので、倉敷にも美術館はあるし良い所だと思うけどと太郎が反論すると、刺激がなくてぼけて来るんだなどというので、他に理由があるんだろうと太郎が問いつめると、実は結婚したい人がいるんだが、相手は地元でも指折りの資産家の娘なので、俺のような貧乏画家なんかにはやれないと家が許してくれない。それで、駆け落ちしようかと思っているのだと坪井は打ち明ける。

彼女って誰だい?と聞いても、坪井は答えず、悩みを明かしたことから、急に又腹が減ったようで、階段から、さっき残したご飯、又下さい!と下に声をかける。

次の日曜日、瀬川社長は、ニッタ自動車の助手席に志津香を乗せ試運転に芦ノ湖方面に向かうが、後部座席に乗った太郎と半沢の存在が邪魔らしく、途中で、腹が減ったのでホットドッグと飲み物を買ってくれと言って2人を降ろすと、急に車を出発させる。

半沢は、車が売れれば良いんだよと見過ごそうとするが、志津香のことを案じる太郎は、何とか追いかけようと周囲を見回し、農業用トラクターを見つけると、それに半沢を乗せ、自ら運転して後を追いかける。

瀬川社長は、運転しながら抵抗する志津香にちょっかいを出し続けたため、途中でハンドルを切り損ね、路肩に激突してしまう。

そこにのろのろと近づいて来たのが太郎たちのトラクターで、気絶した社長と志津香を箱根総合病院に連れて行く。

さすがに、志津香に脳しんとうを起こさせた瀬川社長は反省し、病院で太郎に、車は全部買い取るし、故障した今日の車の弁償もすると詫びる。

その頃、半沢の方は、乗ったトラクターを、借りた農家の奥さんの牛に引かれて帰っていた。

太郎は、3日間の休暇をもらって故郷の倉敷に帰っていた。

実家である大文字酒造は、今や、姉の悦子(池内淳子)が1人で切り回していた。

太郎が墓参りに行くと言い出すと、悦子は自分も一緒に行くと言い、帳場の電話で松浦と言う相手に電話を入れると、姪御さんのご都合はいかがでしょう?と聞き出す。

墓参りに出かけた太郎は、母さんが死んでからもう3年か。姉さんいつまで1人でいるの?うちは親爺が早く死に過ぎた…と呟くが、悦子は、あんたがうちを継いでくれないから…、今は稼業だけで精一杯。父は戦死だったから仕方ないでしょうと答える。

そこへ、電話で呼び出した西海銀行常務の松浦(柳永二郎)が、姪の中田糸子(沢井桂子)を連れて墓参りのような体裁でやって来たので、悦子は太郎に紹介する。

帰宅した後、悦子は太郎に、さっきの糸子さんどうだった?等と切り出し、あの人と結婚してみる気ない?と言い出す。

水島の方に土地を持ってらして、今、工場用地として買われたそうだなどと情報を教えるが、その時、太郎に帰郷していた坪井から電話が入り、会いに行くと、やっぱり掛け持ちをしなくては行けないようだ。相手の人に良い縁談が持ち上がっているんだと坪井はいう。

その人の名を聞いた太郎は、坪井が中田糸子という人なんだと答えると驚く。坪井は、知ってるのかと怪訝な顔になるが、太郎は、俺も骨を折ってみるから、駆け落ちは待ってくれと伝える。

帰宅した太郎は、悦子に、糸子さんと会って話をしてみたいと伝えると、脈があると勘違いした悦子は、喜んで引き受ける。

後日、広い庭園のある茶室での見合いのような形で再会した太郎と糸子は、庭で2人きりになると、坪井のことを話す。

高校時代からの友人だと自己紹介した太郎は、駆け落ちしなくても、皆から祝福される結婚する手もあるはずだと説得する。

糸子は、あの人が画家になるなんて言っているので、家族が許してくれないのだと事情を話す。

そうした2人の様子を茶室から観ていた松浦や、糸子の母まき(東恵美子)、悦子らは、巧くいっているようだと安心する。

そんな茶室に戻って来た太郎は松浦に、お持ちの土地が工業用地になったそうですね?と聞くと、石油コンビナートの一環の化学工場が出来るそうで、相手は備前化学というと教えてくれる。

太郎は、見学をしたいと申し込むと、松浦は快く、自分の車で案内してくれる。

一方、先に帰宅したまきは、家の玄関先に来ていた坪井を見つけると、これ以上糸子と付き合うのは止めて欲しい。今日も良い相手とお見合いして来た所だと告げる。

相手は誰です?と聞いた坪井は、大文字酒造の坊ちゃんですと聞くと顔色を変える。

帰宅して来た太郎は、外で坪井が待っていたことを知るとにこやかに迎えるが、坪井の方は、良くも俺をバカにしていたな!と言いなり、太郎の顔を殴りつける。

太郎は誤解だよと止めるが、怒りで理性を失った坪井は、言い訳するなと言い残して帰って行く。

その後、会社に戻った太郎は会議に出席していたが、開発課の半沢が仕入れた公害対策用機械が全く売れないと、又、早坂営業部長がクレームをつけていた。

又もや太郎が営業の努力が足りないのではないか?と反論したので、早坂営業部長は、だったら君らで売れば良いじゃないかと言葉を返す。

太郎は、承知しました。その代わり、売れた場合は見返りを要求しますよと、つい挑発的なことを言ってしまう。

直接、備前化学の中村(井関一)専務に会いに行った太郎は、岡山の水島プラントを当社にお任せいただけませんか?と切り出すが、中村専務は、うちはおたくとはライバル関係の東都通商と付き合いがあるので難しいと答えるが、何か言いよどんでいる様子。

それを目にした太郎は、資金のめどが立たないのでは?と思い切って突っ込んでみる。

うちが資金面を何とかしたらお取引いただけますか?と太郎が言うと、中村専務は、何億もの金が動くんだよと、若い太郎を信じかねている風だった。

会社に戻り、長谷川常務(清水将夫)に融資の相談をした太郎だったが、無理だとあっさり拒否される。

その夜、「千代の家」に半沢と来た太郎は珍しく愚痴っていたので、売れない機械を仕入れた本人である半沢は、今時、公害のない会社が1つでもあればと思ってやったことだ。日本は公害に甘いんだと同調する。

翌日、やっぱり二日酔いになった半沢は、アイスノンを額に巻いていた。

太郎は、花子に喫茶店に呼び出され、父が何か失敗したんですか?と聞かれていた。

父の上着にアイロンをかけようとしていたら、こんなものが出て来て…と、花子が出してみせたのは「退職届」だった。

それを観た太郎は、きっとプラント用に購入した機械が売れないのですと説明し、半沢の窮地を察するのだった。

会社に戻った太郎は、松浦という人から電話があったと言われ、上京してホテルに滞在していた松浦に会いに行く。

想像通り、糸子とのことを切り出されたので、太郎は、自分よりもっと良い男がいますと、倉敷の高校で絵を教えている坪井の名をあげ、自分はまだ結婚する気はありませんと返事をする。

失望した表情の松浦に、別のお願いがありますと言い出した太郎は、備前化学に融資していただけないでしょうかと頼むが、いくら仕事の話と言っても人間には感情があるからねと、露骨に松浦は不愉快そうな顔になる。

下宿に帰った太郎は、2階に坪井と糸子が待っており、先日早とちりして殴ったことを詫びた坪井は、駆け落ちして来た。仕事が見つかるまでここに置いてくれと言うので、今、そのおじさんに会って来た所だと教える。

そんな話をしている所に、松浦本人が訪ねて来る。

下に降りて応対した太郎は、倉敷の糸子の母親から電話が来たが、こちらに2人が来ているでしょうと言われたので、いませんよとつい答えてしまった太郎だったが、ここに靴があるじゃないですかと、入口に男女の靴が置いてあるのを指摘する。

窮地に陥った太郎だったが、その時、和助が機転を利かし、紀子を呼びつけると、こんな所に靴を置いておくんじゃない!太郎さんも自分の部屋に持って上がりなさい!と叱りつけたので、松浦はそれ以上追求することが出来なくなるが、あなたが坪井に諦めさせてくれ、糸子に倉敷に帰るようにしてくれたら、備前化学に融資することも無理じゃないと言い残し帰って行く。

とりあえず、ピンチを切り抜けた太郎は和助に礼を言うが、和助は、いつまでもうちにいたら見つかっちゃいますよと心配するので、太郎は、どっか良い所ないかな?と考え込み、半沢の家に坪井と糸子を連れて行く。

半沢は、戸惑いながらも受け入れてくれる。

翌日、糸子は国の母親に手紙を書いていた。

坪井の方は花子に、太郎が今困っている融資の話を聞かせてくれないかと迫る。

会社では、太郎が大石課長に、もう少し待ってくれ、何とかしますと説得していた。

坪井は出かけ、ホテルにいた松浦に会う。

そして、自分は糸子を諦めるので、太郎の融資の方に協力してやってくれと頼み、糸子の居場所を教える。

半沢家にいた糸子は、突然松浦がやって来たので驚く。

松浦は、坪井くんがここを教えてくれたんだ。彼はもう戻って来んよと言うので、糸子は混乱し、花子に泣きつく。

その後、太郎に会いに来た花子は、おじさんが来たと打ち明け、どうしましょう?と相談するが、太郎もどうしようもないかな…と呆然とする。

長谷川常務に呼ばれた太郎と大石課長は、乗務室に来ていた備前化学の中村専務から、松浦さんから融資を受けることが出来たと礼を言われる。

「千代の家」でインペリアルを飲んでいた太郎の元に、半沢がやって来て、太郎ちゃんのお陰で会社を辞めなくてすんだと礼を言う。

その日も泥酔した半沢を抱え、店を出た太郎は、街角で似顔絵書きをしていた坪井を見つけ捕まえると、どうしていたんだ行方不明になって…と問いつめる。

とりあえず、半沢の家に連れて来られた坪井は、結局、僕と糸子さんは幸せになれない運命だったんだと呟く。

花子は、糸子さん、とても哀しんでいたわよ。私だったら自殺しちゃうかも…などと言い、太郎は一緒に倉敷に帰ろうと説得する。

坪井は半沢に、ひょっとしたら、話がダメになるんじゃないですか?と仕事の気兼ねをするが、半沢は、俺のことなんか気にするなと答える。

その後、倉敷の橋の上で佇んでいた糸子に、東京で太郎に会ってくれました?話しかけたのは悦子だった。

しかし、糸子は、私、一生結婚しないつもりですと言い出したので、悦子は驚いて、とりあえず大文字酒造に糸子を連れて来て事情を聞く。

糸子は、坪井に不信感を抱いたようで、男の人ってそんなものなんでしょうか?と嘆く。

そこへ松浦が訪ねて来たので、悦子は糸子をその場に残し、別室に待たせた松浦に会う。

悦子は、糸子さんと太郎の縁談のことですけど、糸子さんには他に好きな人がいたんですね?すでに親戚にも話してしまいましたし、良い恥をかかされたようなものですと怒ってみせる。

こう切り出されると、さすがの松浦も返答に困り、詫びるしかなかったが、わざと怒りが収まらないような言い方で、悦子は、そうはいきませんと責め、でも、糸子さんと坪井さんを結婚させて下さるなら別ですと伝える。

坪井の将来性のことを不安がる松浦だったが、例え絵描きになれなくても、学校の先生をなさっているじゃないですかと悦子は説得する。

結婚させてもらえないなら、修道院に行くと糸子さんは言ってますよと言うと、さすがに松浦も驚くしかなかった。

そんな大文字酒造に帰って来たのが、太郎と坪井で、糸子が来ていることを知ると、太郎は、坪井は僕のことを考えて諦めてくれたんだと説明する。

そこに悦子がやって来て、おじさんは許してくれましたよと糸子に伝える。

その後からやって来た松浦は、坪井がいるのを観ると、糸子のことは頼むよと言う。

坪井は喜んで、糸子さんを必ず幸せにしますと約束するが、松浦は出来なかったら猪を撃つ銃で君の撃ち殺すよなどと冗談で返し、太郎に対しては、備前化学の融資を引き受けたから、君は早く会社へ帰りたまえと勧める。

後日、会社では、備前化学の中村専務と長谷川常務が、契約の握手を交わす。

その場に同席した太郎は、皆さんのお陰ですと感謝するのだった。

その後、太郎は、又、路上で女性からバッグをひったくったスリにタックルをする。