TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

男はつらいよ 知床慕情

シリーズ第38作目。

今回の見所は、何と言っても、世界のミフネこと三船敏郎がゲストに出ていることだろう。

三船のイメージ通り、頑固一徹の父親役として登場するが、同じ変わり者同志として、何故か出会った当初から寅さんと馬が合うという設定になっている。

その三船の口を借り、当時の北海道の経済的不況も説明されている。

知床の風景も美しいし、劇中で流れる森繁の「知床旅情」の歌も嬉しいが、正直な所、この作品辺りになると、さすがに、渥美清さんの表情に、老いというか疲れが見えるのが寂しい。

さくらの方もさすがに年齢を感じるが、渥美さんの特に素に戻ったときの顔が、鬼気迫るような厳しい物に映る。

この当時の渥美さんの体調は今となっては分からないが、相当、疲れが重なっていたのではないだろうか。

そのために、後半、三船演ずる上野に対し、あれこれ説教をする辺りのまじめな表情はぴったりだ。

人生の酸いも甘いも味わって来た苦労人の顔がのぞく。

逆に、軽薄な芝居をやっている部分は、どこかしら無理を感じないではない。

もはや、渥美さんの顔つきが喜劇向きではなくなっているのだ。

とは言え、相変わらず話作りが巧いので、いつの間にか、そうした部分は忘れて、引き込まれていく部分もある。

三船の相手役となるのは、同じ東宝で多くの作品に出演していた淡路恵子。

さすがに、往年の色っぽさはもうないが、ベテランらしい落ち着いた芝居を見せてくれる。

セリフはないが、船長らと一緒にいつもくっついている丸顔でヒゲの男、漁協理事の文男役の油井昌由樹は、黒澤明の「影武者」(1980)で、一般素人から徳川家康役に大抜擢された人である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1987年、松竹、朝間義隆脚本、山田洋次原作+脚本+監督作品。

様々なことを思い出す桜かな…

様々なことを思い出します。

16の時、親爺と大げんかしたのは江戸川でした。

桜吹雪でございました…

今でもまざまざと思い出します故郷は柴又…

葛飾柴又、江戸川のほとりでございました…

矢切の渡し舟で帰って来る車寅次郎(渥美清)を背景にタイトル

江戸川沿いの土手で市民マラソンをやっていたので、寅さんは給水所の水を勝手にもらって飲んでしまい、準備していた青年会の青年から慌てて声をかけられるが無視して去って行く。

御前様(笠智衆)は、子供たち相手に境内でシャボン玉を作って遊んでやっていたが、そこにさくら(倍賞千恵子)がやって来て、見舞いの花の礼を言う。

御前様は、こういう大切な時に寅は何をしとるんでしょうねと愚痴るが、さくらは、兄のことは諦めていますと答えたので、いかん、いつか分かると御前様は言うが、側でぼーっと箒を持って立っているだけの源公(佐藤蛾次郎)に対しては、お前は諦めたと断言して立ち去って行く。

「とらや」の店先には「当分休業」の貼紙があった。

さくらが戻って来ると、博(前田吟)が、おばちゃんのつね(三崎千恵子)が作ってくれたラーメンを昼食として食べていた。

さくらが、今聞いて来た「跡取りの寅は何しているんですかって?」と心配していた御前様の言葉を伝えると、博は、燕も飛んでいるし、そろそろ帰って来る時期だなとのんきに答えるが、おばちゃんは情けなさそうに、こんな日銭商売では店をちょっと閉めただけで苦しくなる。そろそろ開けようかしらとぼやく。

そこに、問題の寅が帰って来て、何で店閉めてるんだ?とからかって来たので、おじちゃんが風邪をこじらせ、肺炎になって入院しているのだが峠は越えたとさくらが教える。

来週には退院できると博が補足するが、寅は急に真面目な顔になり、院長は飲めるか?甘党か?担当の名前は?看護婦は何人いるんだ?などと矢継ぎ早に聞いて来て、博たちが答えられないと知ると、頼りないとでも言いたげに、店を飛び出して行く。

病院の名前も聞かずに行った寅を、博が慌てて追いかけて行く。

病院のベッドで起き上がっていたおいちゃん車竜造(下絛正巳)は、身の回りの世話をしに来たつねに、満男が持って来てくれたというコンピューターゲームを見せ、使い方が分からないと首を傾げていた。

そこに寅がやって来て、買って来たバババを取り出すと、これをこの部屋の人たちに1人1本ずつ分けてくれとつねに頼み、やって来た担当医(イッセー尾形)に、無理矢理ウィスキーを渡そうとする。

医者はそんなものは受け取れないと拒否するが、寅はムキになって渡そうとし、廊下で口論になってしまう。

とらやの裏にある印刷所では、タコ社長(太宰久雄)の娘あけみ(美保純)が、労働者諸君!ご苦労!などと博たち従業員に偉そうに挨拶し、苦笑を誘っていた。

とらやにあけみが来ると、そこにつねが、ウィスキー返されちゃったとぼやきながら帰って来る。

こんな腐ったようなバナナを寅ちゃんが持って来たんで、私は恥ずかしかったよなどと、寅の見舞い品を全部持ち帰って来て愚痴っていると、そこに当の寅が戻って来たので、つねは慌てて、あけみに見舞い品の紙袋を隠させる。

あけみがつねに、明日から店で働くと言い出したので、寅は急に不機嫌になる。

夕食時、そんな寅に、つねは、明日から忙しくなるので、お金を上げるから昼はラーメンでも何でも食べに行ってくれと頼むと、寅は、俺は曲がりなりにもこの店の跡取りだよ。俺も明日から何でも手伝うよと言い出す。

そんな寅の言葉など全く信じていない博が、団子でも丸めますか?と聞くと、あれはダメなんだと言い出す。

さくらが、あんこを練るのは?と聞くと、これも性に合わないと言い、配達は?とあけみが提案すると、自転車に乗ると股擦れすると寅は断る。

博が、では帳簿をつけるとか?と提案すると、ダメだろと否定する。

呆れてつねが、お茶を出すとか、何でも仕事なんてあるだろ!と切れると、そんな茶坊主みたいなことが出来るか!と寅も怒り出したので、何でもやるって言ったじゃないか!とつねは嘆く。

場をおさめようと、さくらが、じゃあ、金庫番でもしたら?ここに座っているだけだけど、大切な仕事よと言うと、ようやく寅は身を乗り出す。

翌日、店を開けたとらやの前で、あけみが客寄せをしていた。

しかし、店の中で座っていた寅は、早くも飽きてあくびをしていた。

電話がかかって来たので、受話器を取った寅は、はいはいと答えていたが、肝心の相手の名前を聞き忘れていたので、さくらは叱る。

やがて、漫画など読みながら笑い出したので、あけみも注意するが、昼食時には、寅はすっかり寝てしまったので、もうそろそろ放してやったら?とあけみが言い出す。

それを聞いた寅は、まるで犬のことでも言うように扱われたことに腹を立て、店を飛び出すと、近所の若い衆を誘って飲みに出かけてしまう。

夕方、つねは怒って、もう店に鍵を閉めておけば良いと言い出す。

それを聞いていたタコ社長は、もともと寅さんに期待するのが間違いなどと言うので、つねは、店を辞めよう。つくづく嫌になった。おいちゃんと小さいアパートにでも住むよ。毎日あくせく働いても、肝心跡継ぎがあんな様じゃない!と泣き出す。

店の表に帰って来ていた寅は、そのつねの言葉を聞いてしまう。

タコ社長は、辞めるって女とだけは言わないで欲しい。この辺のみんなは一度はそう思うんだけど辞めちゃダメだよと励ます。

その時、満男(吉岡秀隆)が学校から帰って来て、鞄と上着を取って来てくれって言われたと言うので、さくらは、寅が又出て行くことに気づく。

駅で源公とじゃれ合っていた寅は、満男がさくらと一緒に鞄と上着を持って来たので、こっそり持って来いと言ったのに…と照れくさそうに言う。

電車に乗り込んだ寅にさくらは、おばちゃん辞めるって言ってたわよ。辞めたら、お兄ちゃんが帰って来る店がないじゃない。まじめになって働いてくれないの?と話しかけるが、寅はただ、すまねえと詫びるだけだった。

満男に対しては、立派になってお母さんを安心させろよと一人前に忠告した寅だったが、その満男から、おじさんも反省しろよと言われてしまい、形無しだった。

そんな寅を乗せ、電車は出発して行く。

ホームに残った満男は、あんなこと言って悪かったかなぁと呟くが、さくらは、良く言ってくれたわと褒めるのだった。

札幌に来た寅は、いつもの啖呵売で、ゴッホの「ひまわり」を4700円で売っていた。

一方、無事退院したおいちゃんは、店で、身体を慣らすため、熨斗書きなどやっていた。

テレビでは、阿寒国立公園の川湯温泉のレポートをやっていた。

女性レポーターが、食堂から出て来た一人の観光客にマイクを向けると、それは寅だった。

これ、全国放送?と聞いた寅は、カメラに向かうと、おいちゃん、おばちゃん、俺反省しているからといきなり言い出したので、テレビに気づいたおばちゃん、さくらたちは唖然とし、おいちゃんなど、心配なんかして損をしたと呟く。

北海道のある農場で牛の診療を終え車で帰ろうとしていた獣医の上野順吉(三船敏郎)は、エンジンがかからないので、車を蹴ってくれと農夫に頼む。

駅のトイレから出て来た寅は、ちょうどやって来た上野の車に手を挙げて停めると、宿がある場所まで乗っけて行ってくれないかと頼む。

上野は承知するが、又エンジンが止まってしまったので、寅に車を蹴ってくれと頼み、雪駄のまま蹴った寅はつま先をくじくが、車が動き出したので慌てて後部座席に乗り込む。

寅はすぐに背後から異臭を感じたので、臭えなと顔をしかめるが、運転していた上野は平然と、牛の糞の匂いだ。神聖な匂いだと言い、自分が獣医であることを明かす。

ご苦労さんだねと挨拶をした寅だったが、自宅に帰り着いた上野は、ちょっと寄っていかんか?茶を入れると言い出したので、一杯だけ呼ばれようかと言い、邪魔をすることにする。

家の中には上野しかいないようだったので、奥さんは?と聞くと、10年前に死んだという。

それじゃあ、楽しいことないだろう?茶飲み友達って言うだろ、誰か相手はいないの?と寅は心配する。

すると上野は、君は農政についてどう思う?といきなり難しいことを言って来る。

何百年も人間と動物は深い愛情で結ばれて来た。

それが今や、牛は経済動物になり、ダメな牛は殺されてしまう。

恐ろしいことだ。人間に例えたら、役に立たなかったら、斬って捨てるというようなもんだ!等と言いながら、手刀で寅を袈裟切りにする真似をする。

そんな所へ上野の洗濯物を持ってやって来てのが、近くにある「スナック はまなす」のママ悦子(淡路恵子)だった。

その時、電話が鳴り、それに出た上野は、逆子?と聞き、すぐに出かけることにするが、寅には、この人の店で飯でも食っていてくれ。今夜、君はここに泊まれと言い残して行く。

悦子と二人きりになった寅が、あれは少し変わり者だねと苦笑すると、あの人には娘さんが1人嫁に行ってるんだけど、東京の男なんて信用できるかと猛反対したのよと悦子は教え、自分の店に誘う。

上野はその後、離農して北海道から離れる家族と別れを惜しんでいた。

「スナック はまなす」

寅と一緒に飲んでいた船長(すまけい)、船員・マコト(赤塚真人)、ホテルの二代目(冷泉公裕)、漁協理事の文男(油井昌由樹)ら店の常連たちは、あの偏屈親爺が人を泊めるなんて…と驚いていた。

寅さんは子供はいないのか?と聞いて来た船長に、自分は最初から苦労することが分かっているので、所帯を持たないことにしたと寅が答えると、船長は、賢い人だと心底感心したようだった。

寅は、毛ガニを出されると、得意の結構毛だらけ、猫灰だらけ…と啖呵売を披露し、ますます船長たちの気に入られるのだった。

翌日、船長は、観光船「しれこと丸」を港から出航させる。

二代目は、「知床秘境ツアー」のバスに乗り込んだ泊まり客を見送ると、ホテルの看板を「空き室あり」に換える。

その日、斜里の駅前から父親の上野に電話を入れていたのは、東京から戻って来た娘のりん子(竹下景子)だった。

リン子は、電話に出た上野に、急に帰りたくなってしまって…これから帰って良いでしょう?これからタクシーに乗るからと一方的に話しかける。

何かあったのかとぼそりと聞いた上野に、りん子は、それは会ってから…と言うと電話を切ってしまう。

上野は仕方なさそうに、何日かぶりにひげを剃ると、服も着替えて、ソファでまだ寝ていた寅を起こす。

部屋の掃除をしている上野を見た寅は、まだ女がいるのか?と聞き、娘だと知ると、優しく迎えてやれ。間違っても、何しに帰って来た!なんて言うなよと釘を刺す。

寅は遠慮して家を出て行こうとするが、上野は、娘に会っていかんかと声をかけて来たので、美人か?と聞き返し、何も言わない上野の顔を観ながら、玄関に向かう。

その時、玄関で鉢合わせをしたのがりん子で、寅もりん子も面食らうが、相手が娘だと分かると、上野に挨拶してやれよと声をかけつつ、自分もりん子と一緒に又部屋に戻って来る。

老けたわね、父さんと話しかけたりん子に、上野は、何しに帰って来た!謝りに来たのか?黙ってうちを飛び出して、突然帰って来て…と怒鳴りつけたので、寅は顔をしかめ、優しく迎えてやれって言ったろう?と上野に注意するが、そうだよ、娘が一番悪いんだよなどと、今度は上野に同調し始めたので、りん子は困惑してしまう。

そこに電話がかかって来て、又往診依頼だったので、上野は寅に、もう一晩泊まっていけ。旨い肉を買って来るから、ジンギスカンでも食おうと言い残し出かけて行く。

車に乗り込んだ上野は、思わず、寅さんがいてくれて良かったと独り言を言う。

寅と二人きりになったりん子は、改めて、どちら様ですか?と聞いて来たので、寅は名乗り、どちらの?と聞かれると、柴又の…、葛飾区の…と、東京暮らしで知っているはずのりん子に必死に説明し出す。

翌日、悦子がりん子を港にいた船長やマコト、文男らの所へ連れて来ると、みんなは大喜びする。

良く帰って来たなと歓迎した彼らは、親爺さんととは?聞くが、りん子は、寅さんという人がいたので喧嘩にはならなかったと答える。

一同、あの寅さんがいてくれたかと安堵したようだった。

その夜、寅は上野の家で酔っており、ば〜ちゃん、酒飲んで〜♬などと愉快そうに歌っていたが、上野は、お前、変わってるなと話しかけて来る。

すると寅は。俺は変わった奴なら何人でも知っているよ。ちょんまげ結っている奴もいるし、歯磨きを1本食ってしまった男もいる。いつでも屁がこける奴がいたので、風呂に連れて行って、お湯の中で思い切りへをこかせたら、おなかがぺちゃんこになって浮き上がって来た。体中の空気を全部出し尽くしちゃったからだろうなと真顔で言うと、上野はそんなバカなと笑い出す。

そこに悦子と船長がやって来たので、上野は急に不機嫌になる。

上野は、そんな上野の反応など気づかない様子で、孫の顔でも観たらどんな奴でもいちころだなどとりん子に話しかけて来る。

悦子はりん子に、手紙をもらったけど、悩みあるようなこと言ってたけど…と促す。

まじめな話になりかけているのに気づかない船長が、無神経そうに「憧れのハワイ旅行」など口ずさみながら台所で魚をさばいていたので、上野は失敬な奴だと顔をしかめる。

りん子は、結婚に失敗したのと打ち明けたので、悦子は、別れたの…と確認する。

その間も、まだ台所で船長が歌い続けていたので、上野は思わず、うるさい!と怒鳴りつけ、あんな情けない男と結婚するからだ!と声を荒げる。

すると悦子は、黙ってなさいと上野を制する。

しかし、上野の怒りは収まらないようでぐずぐず言っていたが、気の毒なことだったな…と口を挟んだ寅は、船長に、酒を買って来いやと頼み、座を外させる。

そして寅は、自殺もしねえで帰って来たんだから良かったじゃないかと、ポジティブに話をまとめるのだった。

翌日、りん子と上野は、亡き母の墓参りに出かける。

港では、船長らが、良かったのは最初の半年だけだったそうだよなどと、りん子の離婚の噂をしていた。

その時、寅が一言「愛が冷めたのよ」と呟いたので、それを聞いた一同は又感心する。

東京のインテリの中には、ひとかけらの愛情もなくて夫婦の形を取っているのもいるんだ。まずしいねぇ…と寅は続ける。

昨年、1人アパートで暮らしていた時、テレビで知床半島が映ったのを観て、やも縦も溜まらなくなって帰って来たそうだと、船長が説明する。

その時、海に釣り竿をたらしていた寅が魚を釣り上げたので、慌てたマコトはバランスを崩し、海に落ちてしまう。

とらやでは、さくらが、知床にいると書かれた寅からの手紙を読んでいた。

そのさくらの側の座敷で昼飯を食っていた満男が、犯罪の陰に女ありなどと、寅をからかう冗談を言う。

船長の操縦する観光船「しれこと丸」に乗り込んだ寅とりん子は、森繁久彌が歌う「知床旅情」の曲に合わせ、目の前に広がる見事な知床の風景を堪能していた。

カムイワッカの滝は、地元育ちのりん子もはじめて観たと感動していた。

ある日、ホテルの主人が、バードウォッチングという物に連れて行ってくれたと暑中見舞いに書いてあった。

一緒にバードウォッチングに来ていたりん子が寅に流氷のことを話すと、寅は夏だというのに震え上がる。

同行していた悦子が、子供の頃何してた?とりん子に聞くと、テレビ観ながら東京へ行きたいと思っていたと言う。

そんな、まるで母子のように語り合う2人の様子を、寅は離れた所から望遠鏡でのぞいていた。

ある日、寅は、牛の出産に立ち会った上野についていくが、上野から寅さん手伝え!と言われても、牛の出産の凄まじさに圧倒され、生まれる子牛の足に縛り付けた綱を引いていた家人たちに声をかけるだけで、自分では動くことすら出来なかった。

土産は、りん子さんに託したと手紙の最後に書いてあったので、読み終えたさくらは慌てる。

そこに、裏から、タコ社長とあけみが口喧嘩をしながらやって来る。

タコ社長が言うには、あけみが、そんなに金がないなら、偽札作れば良いじゃないかと言ったと怒っている。

あけみは、もっともうちの印刷ではすぐにバレるだろうけどねなどと憎まれ口を聞いたので、タコ社長は、人の苦労も知らないで!と激怒するのだった。

あけみは、雨の中、店の外に飛びして行く。

東京に戻って来たりん子は、管理人(笹野高史)からアパートを引き払い、柴又に来る。

途中で出会った源公にとらやの場所を聞くと、源公は寅は今いないと言うので、知ってますとりん子は答える。

とらやにやって来たりん子は、寅から託された昆布などを渡し、さくらやおばちゃんたちに挨拶をする。

寅さんが、この家は鎌倉時代からある。山伏が団子を食っている写真があるなんて言ってたので、もっと古い家かと思っていましたとりん子が言うと、これを観てそう思ったんでしょうと、つねが、鴨居にかかった、戦後店に来たという修験者の写真を見せる。

りん子は、寅さん、自由なんですよ、考え方が…と褒め、みんな寅さんを観ていると、あくせく働くのが嫌になるって言ってましたと言うので、茶の間で話を聞いていたさくらは、ありとキリギリスの話ってあるでしょう?と博に語りかけるように、小学校の頃、あの話を聞くと涙が出て仕方なかったのと打ち明ける。

すると、それを受けてつねが、寅ちゃん、キュウリのなすが好きだもんねととんちんかんなことを言い出す。

その頃、上野の家では、牛のお産で筋肉痛になった上野の背中にシップをしてやっていた悦子が、そろそろ引退して都内で小さな犬猫病院でもやったら?と勧め、老後はどうするの?と聞くが、上野は、イワの上に登って、猟銃を口にくわえてズドンだと物騒なことを言う。

そんな上野に悦子は、私、引揚げることにしたと言い出す。

オーナーがあの店を売った後、網走の炉端焼きの店を手伝わないかと言われたけれど、妹が新潟にいるので、そこで一緒に暮らそうと思っていると打ち明ける。

先生とは長い付き合いだったけど、手も握ってくれなかった…と寂しげに言う悦子に、上野はただ、いかん!というだけだった。

そこに電話がかかってきたので、悦子はそっと帰るのだった。

電話はりん子からのものだった。

上野は、悦子の姿がいなくなると、急に寂しげな表情になる。

翌日、おみやげ「はまなす」の店に来ていた悦子は、客は皆素通りだと、従業員の娘と嘆く。

斜里駅に帰って来たりん子を出迎えたのは、マコトだった。

車には「知床の自然を守る会」と横断幕が掲げてあった。

5年前までは、りん子ちゃんの純潔を守る会だったんだけどな…と照れくさそうに説明するマコトは、車にりん子を乗せ移動中、寅さんがお父さんと喧嘩して、口も聞かなくなったと、留守中の出来事を教える。

港で寅と再会したりん子だったが、寅は、あのおじさんは可哀想。本当に惚れたるなら、一肌脱いでも良いぜって言っただけなのに、真っ赤になって怒って…。あれは心底惚れてるなと言うので、それは誰のことかと聞くと、「はまなす」の母さんさと寅は言う。

父さんが恋をしているなんて…、父さんはもう年よとりん子は信じられない様子だったが、男が女に惚れるのに、年は関係ない。最後には鉄砲を持ち出して来たと寅は言う。

本気かしら?と案ずるりん子に、いずれ失恋になるんだ。5年も10年も暮らしていて、恋の言葉も言えない男に、あのおばさんが惚れるか?と寅が恋の何たるかを教えると、恋って、そんなに激しい物なのかしら…と、りん子は驚く。

そこに船長がやって来て、灯台の原っぱでバーベキューをやらないかと声をかけて来る。

その夜、家に戻って来たりん子は、バーベキューに参加して下さいって言われたと父親に伝えるが、上野は、そんなもん行くか!と言うだけ。

そんな父親に愛想を尽かせたように、りん子は先に休むのだった。

悦子も参加したバーベキューの日、先に集まっていた船長たちは、車でりん子がやって来たことを知り喜ぶが、運転して来た上野も、そのりん子に促されて降りて来たので、ちょっとがっくりする。

マコトなど、来なければ良いのにな…などと、小声で憎まれ口を聞く始末。

まずは、船長が挨拶を始める。

寅さん、いつまでもこの町にいて下さい。そして、りん子さん、もうどこにも行かないで下さい。この町は住んでみれば、そう悪い町じゃないと思うよ。

寅はそっとりん子に、一人グループから離れた岩の上に座り、無関心そうに海を眺めている父親の面倒を見てやってくれと囁く。

船長の挨拶が終わると、酒を提供した悦子が立ち上がり、この夏一杯で、あの店を辞めることにして、新潟に帰ることにしたと発表する。

初耳だったグループの連中は唖然とする。

上野は、岩の上で、肉を食いながら黙って聞いているだけだった。

あんたたちと別れるのが一番辛い。先生にはこないだ話したんだけど、仕方ないって…と悦子が続けると、上野は突然、そんなことは言ってないと否定する。

黙っていたじゃない。あれは賛成したのと同じよという悦子に、そんな事言ってない。反対だったから黙っていたんだと言う上野。

すると寅が、あんたが子供みたいにだだこねたってダメと上野に告げる。

それでも上野は、いかん!許さんと言うばかり。

悦子が、私、先生の女中じゃないのよと言い、寅が、反対している訳を言ってみなと詰め寄るが、上野は、言えるか、そんなこと!と不機嫌そうに吐き捨てるだけ。

言えませんと…と、呆れたように繰り返した寅は、言わなきゃお終いだと続け、皆もそう思うだろ?今言えないことは一生死ぬまで言えないぞと迫る。

すると、上野は岩の上に立ち上がり、良し、言ってやると言いながら岩を降り、悦子の側まで歩いて来ると、俺がいかんと言う訳は…、俺が惚れているからだ!悪いか!とほえるように告白し、それを聞いた悦子は、感激して顔を押さえてしまう。

しかし、そのポロポーズを聞いていたみんなは大喜びだった。

寅は思わず、言っちゃったよ…と我がことのように呟き、船長は「知床旅情」を歌い出し、皆もそれに唱和する。

気がつくと、歌を聴いていた寅の手を、同じように聞いていたりん子がそっと握っていた。

その夜、みんなは「スナック はまなす」で飲み明かすことになり、りん子だけが家に帰っていたが、裏庭からやって来た寅が、今、おじさんと大げんかしてさ。結婚した方が良いって言ったら、出戻りの娘持つ男が結婚できるかって言うんだよ。それで、俺が聞いて来てやると言って帰って来たんだ。構わないだろ?お父っつあん、結婚しても?と聞いて来る。

りん子は、ちょっぴり寂しいけど…と言いながらも反対はしなかった。

そして、あのね、寅さん…と言いかけたので、寅は何かを待ち受けるかのように急に真剣な表情になるが、りん子が言ったのは、ありがとう、色々と…と言う感謝の言葉だけだったので、がっくりしたかのように黙って店に戻って行く。

翌朝、上野の家のりん子の元に、文男が運転するバイクの後ろに股がってやって来た船長が、寅さんから頼まれたと言って、一通の手紙を手渡す。

そこには「渡り鳥は南に帰ります。」と書かれてあった。

今朝早く、用があるって言うんで、マコトの車で…と説明した船長は、りん子ちゃんに惚れてるんじゃないかって冗談で言ったら、真っ赤な顔をして怒ったんだという。

それをきいたりん子は、船長さん、なんてことを…と絶句して家の中に駆け込んで行く。

車の助手席に乗って帰っていた寅は、運転するマコトに、お前は恋をしたことがあるか?と聞くと、あるとマコトは答える。

告白したことはあるのかと聞くと、10年前、言ったことがある。りん子ちゃんですとマコトは言うではないか。

しかし、その返事は、あなたのことは嫌いじゃないけど、愛してはいないので、友達でいましょうだったという。

それを複雑な気持ちで聞く寅。

さくらがとらやにやって来ると、りん子が珍しく訪ねて来ていた。

先に応対していた博が、東京で仕事が見つかったんだってとさくらに教える。

りん子は、父が結婚するので、父が寅さんに礼を言いたいってという。

博は、そんなりん子に、今晩、江戸川の花火大会だから行きましょうと誘う。

焼酎お見舞い申し上げます。

私、反省の日々を送っております。

最上川のほとりにて…と寅からの暑中見舞いが届いていた。

花火を売っていたポンシュウ(関敬六)が眠りこけているのに気づいた寅は、蹴って起こすと、自分が売ってやると言い。啖呵売を始める。

すると、息の合った所で、ポンシュウがサクラとなり、金を払って買ってみせる。

それに釣られて、他の客たちも、花火を買うのだった。