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のんき夫婦

タイトルから、軽いユーモア人情劇かと推測していたが、途中から徐々に、究極の純愛ドラマだと気づき、最後は感動させられた。

新藤兼人の脚本が見事で、名作と言って良い作品だと思う。

冒頭、ヒステリー持ちの友子を、事情を知らない立花が柔道で投げ飛ばすシーンなどは、思わず笑ってしまう。

その後も、ユーモラスな描写は随所に挟まれ、最初の方は地方を舞台にしたユーモアものの雰囲気なのだ。

それが徐々に、理屈では割り切れない男女の愛の姿になって行く。

最初は一見、嫌な女タイプのように映る友子だが、徐々に、本当は純粋で愛すべき女だと観客も気づくようになっている辺りが巧い。

観客はどんどん友子に感情移入して行き、花森が彼女から離れられない理由が分かって来る仕掛けになっているのだ。

冷静に見れば、花森と友子は、互いに相手をダメにしている良くない関係であろう。

この映画のラストの後も、決してバラ色の未来が待っているとは思えない。

なのに、2人の関係をうらやましいと感じるのは何だろう?

もちろん、プラトニックな関係だけとは思えないが、ここには肉欲的な意味合いはあまり感じられない。

とことん相手に惚れてしまった両者の愛情の深さ、現実の生活を犠牲にしても2人で添い遂げたいと願う結びつきの強さがうらやましいのだろう。

大人になっても、こんなに打算的ではない愛情があるんだという辺りが、虚構とは分かっていても胸を打つのだろう。

茫洋とした決断力のない男を演ずる小林桂樹も、色っぽい立ち姿とは裏腹に、感情を露にしやすいタイプの友子を演じる久慈あさみも巧い。

立花を演じる加東大介、その妻を演じる中北千枝子、署長を演じる東野英治郎らの確かな助演も相まって、派手さはないながらも、実に清々しい物語になっている。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1956年、東京映画、新藤兼人脚本、杉江敏男監督作品。

平町という港町の警察署の刑事花森重太郎(小林桂樹)が、若手相手に柔道の相手をしてやっている道場に、来客だと知らせが来る。

出てみると、入口前に立っていたのは、講道館仲間だった立花(加東大介)だった。

胴衣を着替えて料亭の二階に落ち着いた2人は、戦時中、京城で別れた後のそれぞれ帰国した経緯を話し合う。

花森は、台湾、シンガポール、ラングーンなどを、コ○キをして逃げ回っていたと打ち明けると、橘の方は、逆に、北へ北へと逃れ、牡丹江近くの鶏寧に着いた後、シベリアに送られて、道路ばかり作らされていたが、今は妻の里で百姓をしているが、1年も暮らすと良い顔をせんと話す。

花森は、警察に勤めて13年、5段を取ったと近況を話す。

そんな部屋に突然入って来た女が、いきなり花森を殴り始めたので、驚いて観ていた立花は、急に花森をかばおうと立ち上がり、その女をふすまをぶち破り、隣の部屋に投げ飛ばしてしまう。

花森は、止めてくれ、今のは俺の女だと立花を止める。

隣の部屋に倒れた女友子(久慈あさみ)は、起き上がれずうめいていた。

そんな友子を担いだ立花を連れ、花森は友子の経営する小料理屋に連れて来る。

婆やのきよ(出雲八重子)に床を敷かせた花森はそこに友子を寝かし、何度も、すいません、奥さん!と詫び続けていた立花を部屋の外に連れ出すと、そう、奥さん、奥さんと言わんでくれ。俺の女房じゃないんだと説明する。

そこに銭湯から帰って来た店の若い娘3人が、花森のことを「父さん」と呼び、友子のことを「母さん」と呼ぶので、それを聞いていた立花は、一体この店は何なんだ?と聞く。

花森は、気まずそうに「小料理屋じゃのう…」と答えるだけだった。

とにかく、今日の所は帰ると言い出した立花を送って港まで見送りに来た花森は、あの女は、終戦の年に東京から出て来た女だが、3年前、亭主はフグを食って死んでしまった。その後、色々相談に乗っているうちに今のような関係になってしまって…、あいつはヒステリー持ちなんだと面目なさそうに説明する。

立花が、では奥さんはどうした?と聞くと、肺を患って、もう5年も実家の松崎で寝ていると答えた花森だったが、ところでここに来た用件は何だったんだ?と聞くと、身の振り方について相談に乗ってもらおうと思っていたんだが…と言いながら、友子さんに謝っておいてくれと再度頭を下げ、立花は船に乗り込み出航して行く。

一方、小料理屋の座敷に寝込んでいた友子は、旦那はどこに行った?ときよに聞き、加倉行きの船を見送りに港へ行ったと聞くと、引っ張って来て!とヒステリックに命じる。

そんな友子のことを、二階で化粧をする三人の娘が面白そうにからかっていたので、それを聞きつけた友子は、階段を上って来てしかり飛ばすのだった。

自宅に帰る途中、花森は、近所で遊んでいた娘の安子(松山なつ子)に、おじいちゃんと房子おばさんが来ているよと教えられる。

家で待っていたのは、妻の父親浩造(中村是好)と、義妹の房子(黒田隆子)だった。

花森が咲枝はどうですか?と病状を尋ねると、浩造は言いにくそうに、咲枝と縁を切ってもらいたいと言い出す。

そこに、安子が帰って来たので、房子が呼び寄せ膝に抱き上げると、姉さん、もう会いたくないと言ってたと花森を睨みながら告げる。

ない縁と思って、さっぱりした方が…と浩造は説得するので、花森は、安子に、どうする?お母ちゃんの所へ行くか?と尋ねる。

翌日、花森は署長(東野英治郎)に、安子はあっさり松崎に行ってしまったということを打ち明ける。

花森と友子のことを知っている署長は、お前はメ○ラになっとるんや。別れるんじゃと勧めるが、それを聞いた花森は、警察を辞めますと言い出す。

後日、再び、立花が船でやってくる。

花森は再び立花を友子の小料理屋に連れて来る。

出迎えた友子はもう機嫌を直しており、立花も講道館で5段の腕前だったと聞くと、投げられたときのことを思い出す笑う。

花森が、こいつはあれから3日間も腰が痛いと言っていたとからかう。

友子は、私はヒスですからカッとなって…と恥ずかしがる。

花森は、仕事を探している立花に対し、柔道の道場をやらんかと勧める。

私たちもやりましょうよと話に乗って来た友子は、自分は浅草公園の裏で煎餅屋をやっているんだと打ち明け、そうだ!良いうちがあると思いつき、屋へその場から電話をかける。

倉庫の権利金を2万に負けさせると、町外れじゃないかと渋る花森と立花を連れて、早速下見に出かける。

ぼろ屋だったが、中をのぞいた友子は、立花さん、良い道場になるわよと嬉しそうに勧める。

いよいよ立花道場お披露目の日、楽隊が演奏し、警察署長が挨拶をする。

そして、立花と花森による模範試合が始まる。

道場は立錐の余地もないくらい近隣から見物客が集まっていた。

来賓席に座っていた所長は、その見物客の中に友子の姿を見つけ、互いに気まずい表情になる。

国から呼び寄せた立花の妻咲江 (中北千枝子)と息子の覚(武田悦司)も、立花の晴れ姿を嬉しげに観ていた。

そこにきよ婆さんが電報を持って来て友子に手渡す。

それを読んだ友子は、あら大変!奥さん、死んじゃったと口走るのだった。

道場では、そんなことを知らない花森が、立花と互角の勝負を繰り広げていた。

小料理屋に戻った友子は、列車の手配など電話でしてやる。

葬儀の日、すでに戻っているはずの花森が店にやって来ないので自宅まで押し掛けた友子は、部屋の電機も点けず、真っ暗な中で寝転んでいる花森を発見する。

電気を点けて葬儀の様子を聞くと、親族会議に呼び出されて、さんざん油を搾られた。お前みたいな男には任せられんと、安子も取られてしもうた。向うの連中はお前のことを淫売じゃと言うとったと花森が話すので、聞いていた友子は激怒してしまう。

花森は、そんな友子の店に行こうと連れ出す。

後日、警察署に出向いた花森は、署長に退職届を提出する。

署長は、淫売屋のオヤジになると言うのか?と呆れるが、花森の決意は固く、その足で床屋に行き、それまで蓄えていたヒゲをそり落とすと、やや気恥ずかしげに浴衣姿で小料理屋に戻って来る。

店では、警察時代の仲間3人と、今度は取り締まる側じゃなどと冗談を言いながら酒を酌み交わしていた浜森、友子も丸髷などを結って、すっかり女房気取りだった。

その時、きよ婆さんが友子をそっと呼び、その友子が花森を呼んで、二階に上がってみると、若い3人の娘が荷物諸ともいなくなっていることに気づく。

きよが言うには、風呂に行くと言ったきり戻って来ないが、夕べ来た客と娘らが何やら話し合っていたというではないか。

足抜けだと気づい友子は慌て出し、同僚のいる部屋に戻って来た花森は、非常線だ!緊急手配だ!と刑事時代と混乱したかのように慌てふためく。

警察を辞めた途端、店の女に逃げられ、小料理屋が事実上ダメになった花森は、立花の道場へ出向き、そのことを相談する。

立花も、女子の方が頭良いんじゃと言いながらも、花森の運の悪さに同情するしか出来なかった。

道場の方はどうかと花森が聞けば、こちらも青年団が3人くらい来るだけだという。

こちらも気落ちして座敷で寝込んでいた友子は、訪ねて来た家主(富田仲次郎)から、もう3月も家賃がたまっていると言われ、事実上、家の明け渡しを迫られていた。

こんな時に花森が側にいてくれないので、友子はいら立っていた。

きよに花森の所在を聞くと、警察に寄ると言っていたというではないか。

花森は署長に面会していた。

署長は、警察を辞めて半年もせんうちに女たちに逃げられてしもうた。あの女とは正式に結婚するのか?と聞くと、花森はぬけぬけと、仲人を署長にお願いしたいなどと言い出したので、怒った署長は断る。

さらに花森はぬけぬけと、もう一度復職できないだろうかと頼んで来たので、あの女と別れろと友子の悪口を署長は言う。

それをたまたまドアの外で聞いたらしく、警察を訪ねて来た友子が部屋に怒鳴り込んで来る。

又又ヒスを起こした友子が、署長のことをバカアホオタンコナス!とののしって暴れ始めたので、花森はそんな友子を抱え上げて退散するしかなかった。

そんな様子を観ていた署長は、聞きしに勝る女じゃが、気は良いの…と、ちょっと感心するのだった。

それからしばらくして、立花道場を訪ねた花森は、暇をつぶすために裏で薪割りをしていた立花と会う。

商売止めたんだって?と立花から聞かれた花森は、桟橋の所で飲食店を始めたと寂しげに教える。

2人とも、鬱々とした気分を晴らすために、久しぶりに一勝負しようと言うことになる。

見物客は近所の子供たちだけだった。

友子が新しく始めた「みなとや」と言う店では、料理を担当する友子や、出前などを受け持つきよに対し、花森は手伝うことも何もなく、ただ奥の部屋で座っているだけのオヤジに成り下がっていた。

船員客が帰ったあと、ふらりと店にやって来たのは警察署の署長だった。

その顔を見た友子は機嫌が悪くなり、花森はいないと追い返しかけるが、奥から、当の花森が呼びかけたので、自分は怒って、署長に茶を出した後、ぷいと店から出て行ってしまう。

署長は花森に、もう一度警察に帰ったらどうかと勧めに来たのだった。かつては、この町のことを知り抜いている腕利き刑事だった花森を惜しんでいるのだった。

きみもここらで立ち直らなくては…、署長は花森のことを心底心配しているようだった。

友子は、港で1人、タバコをくゆらせていた。

そこに迎えに来た花森は、何をしちょるんだ、この寒いのに…。署長さんは断ったよ。今更戻れんけのと…と告げる。

私と別れろと言っていたでしょう?あなた、警察に帰った方が良いわ。そうして。私と一緒にいたら、あなたろくなことないわ…と友子は泣き出すのだった。

夏、立花を訪ねた花森は、妻の咲江から、うちの人はそこの氷屋にいる。夏は道場に来るものもいないので、氷屋を始めたのだと教えられる。

観ると、立花が自らかき氷を作っているではないか。

立花は、久々に花森の顔を見て喜ぶ。

花森は、浅草周辺を探したが、出て行った友子は見つからなかったと報告する。

ふいに姿を消した友子を探して東京まで出かけた花森は、今帰って来た所だったのだ。

立花は気の毒がりながらも、先日、骨を折った船員がやって来て話しておったんだが、岩本島の芸者に友子さんにそっくりな女がいたと言うことだったが、噂じゃけん、当てにはならんと教える。

花森は、もう探しくたびれてしもうた…と嘆息する。

それでも、その後、岩本島に渡った花森は、芸者の置屋を訪ねる。

そこにいた君香(北川町子)と言う女は、花森が友子の居場所を尋ねると、あああんたが友子さんの良い人言うの…と事情を聞いているようだった。

君香に教えられた万波亭と言う料亭で、友子は芸者として、猟師客たちとソーラン節を踊っていた。

友子は、外に客が来ていると教えられ出て行くと、そこに花森が立っていたので、喜んで駆け寄る。

花森は、何のつもりで半年も飛び出したんじゃ?と責め、慌てもんじゃな…、お前は自分勝手に思い込んどるだけじゃと説き伏せる。

友子は思わず感激して抱きつき、それを料亭の二階の客たちが見つけはやし立てる。

2人は海辺りの方へ逃れ、互いに会えてほっとしたと告白し合う。

泣いて化粧が落ちていることを指摘された友子は、海の水で顔を洗い、花森からタオルを借りて顔を拭くと、あんた泳がない?等と言い出す。

花森が呆れていると、あんたに会えて、哀しくなって、嬉しくなり、久しぶりに泣いてさっぱりしたと友子はあっけらかんと言う。

何で芸者なんかに?と聞かれた友子は、さっきあんたが会った君香さんと一緒に、私、昔出ていたことがあるの…と、昔、芸者をやっていたことを明かす。

花森は、どっかに逃げ出したんじゃと思うて、浅草公園まで探しに行った。店はやめて、おきよさんは故郷に帰ったと教える。

友子は、私は口はちゃらんぽらんだけど、心は鉄壁よと答え、花森はそう願いたいねと言いながら寝そべるが、そんな花森に友子はキスをする。

もう平田へは戻りたくないと2人とも言い出し、友子は、九州の別所に行ってみない?と提案する。

どこへでも行くよと投げやりな花森は、松崎に寄って、安子ちゃんもらって行きましょう。安子ちゃんは私のこと好きになってくれるかしら…などと熱心に口説く友子の優しさに触れ、思わず涙ぐんでしまうのだった。

顔がひりひりして来たと言い出した友子は、うちに行きましょう。心配せんでも2階はうちだけよ。今夜は新婚旅行やとはしゃぎながら、花森を家に引っ張って帰る。

その後、岩本島を出た2人は松崎に船で寄るが、桟橋で待っていた友子の元に、妻の実家に出向き戻って来た花森は、玄関払いを食った。まるで仇が来たみたいな扱いだったと悔しがる。

結局、娘の安子には会えなかったと言うことだ。

そんな会話をする2人の様子を、義妹の房子が離れた所からこっそり覗いていた。

九州別所の気楽荘と言う旅館にやって来た芸者の銀竜(淡路恵子)は、部屋で友子を観ると驚いて喜ぶ。

2人は旧知の仲だったからだ。

友子は、いきなり古い倉庫ない?荷物を入れる倉庫よ。道場開くのと一方的に頼み、銀竜を戸惑わさせる。

その頃、町中では納涼柔道大会が開かれており、その呼び物として、飛び入り5人抜きが始まろうとしていた。

そこに、うちの人を紹介すると言いながら銀竜を連れて友子がやってくる。

飛び入り参加した花森は、あっという間に5人抜きをしてみせ、商品の化粧台をもらう。

友子、花森と共に気楽荘に戻って来た銀竜は、自分の貞操を犠牲にして、かねがね言いよって来ている土建屋のオヤジに頼んでみると言い出すと、その場から大滝組の親分を呼び出す。

気楽荘にやって来た大滝親分(多々良純)は、銀竜からの頼みを聞くと、ここから1里ばかり山の方に、今度自分たちが新築した青年会館の前の建物が残っているのでくれてやると言い出し、オート三輪で、花森と友子をその場所まで連れて行く。

オート三輪も貸すから、宣伝に使うが良いと言ってくれたので、そのぼろ家を道場に仕立てた後、友子と花森は町中にオート三輪で乗り付け、ビラをまいて道場の宣伝をする。

しかし、いざ道場開きの日になっても誰もやって来ず、窓から近所の子供が2人、覗き込んでいるだけ。

夜、友子はビールを買って来て、道場に虫が入るので電気を消し、月明かりだけで2人水入らずの夕食をとるが、友子は嬉しそうだった。

こんな所まで流れて来て寂しくないか?と聞く花森に、あなたがいるから寂しくないと答えた友子は、これから2人でどんどん働くのよ。私、又、芸者でもするわよと言うので、それは止めてくれと花森は頼む。

夫婦共稼ぎよ…と張り切る友子に対し、どこまで堕ちて行くのかな…?と将来を案ずる花森。

私ね、あんたにすまない、すまないと思っているのよ。私のためにあんたをこんなにして…と声を落とした友子に、花森も、お前をこんなにしたのは俺かもしれないと詫びる。

皆が言うように、私は悪い女なのね。私を1人ぽっちにしてどこへも行かないでね?ここで死にましょう。ここでお墓に入りましょうと友子は花森にすがるのだった。

その後も、道場には誰1人やって来なかった。

ずっと道場で待ち続ける花森を見かねた友子が、私が稽古台になってあげましょうと言い出し、柔道着に着替えると、最初は相手にしようとしなかった花森も、その気持ちを汲んで、相手をすることにする。

あっけなく友子を投げ飛ばした時、窓から子供たちの笑い声が聞こえ、その子たちは、僕たち弟子入りしたいんやと言い出したので、すぐに呼び込んで学年を聞く。

1人が5年生で、もう1人は中3だと言う。

そんな中、道場の中をうかがう怪しげな老人の姿を認めた友子が誰かと聞くと、その声を聞いて入口に出て来た花森が、やあ叔父さん!と喜ぶ。

カリフォルニア帰りの寛市(左卜全)だった。

別所の旅館に花森を招き夕食を共にした寛市は、花森家の長男のお前が一体なんだ?悪い女に捕まって、にっちもさっちもいかんようになっとると言うやないか?兄貴が往きとったら何と言うだろう。あの女が悪いんじゃ、別れろ。日本人はベタベタしていけん。アメリカ人は、いけんと思うたら、男も女もすぐ別れる。お前は決断力がない。どうもあの女はいけん。アメリカでも世界中でも、女のヒステリーは悪い言われとると説教し、カリフォルニアに来んか?向うでは今柔道が流行っとる。女と別れるには、日本を飛び出すことじゃと勧める。

その後、道場に戻って来たのは寛市だけだったので、夕食の準備をして待っていた友子はいぶかしがりながらも、花森はどうしたんです?と尋ねる。

重太郎を連れてカリフォルニアに行こうと思うとる。別所の宿にいると答える寛市に、薄々事情を察した友子は、1人で夕食をとり始めると、そういう話は花森と一緒に聞かせてもらいますと態度を硬化させる。

こんな所で道場やってどうなります?あれも今が男盛りじゃ、立ち直らんとと言う寛市に、私もカリフォルニアに行けるんですか?私が悪い女だから別れさそうと言うんじゃないでしょうね?そうはいきませんよと友子は抵抗する。

重太郎の男を腐らせてどうなる?と問いかける寛市に、じゃあ、私の女は腐っていいんですか?と反論する友子。

とにかく明日船で帰る。本当に気の強い女だと呆れた寛市は、友子から寅年です!と返され、Oh!Tiger!と感嘆するのだった。

翌日、寛市と共に船で平田の町に戻って来た花森と友子を、立花が港で出迎える。

友子は、不機嫌なまま、立花さんの家で泊めてもらうと言い残し、さっさと寛市と花森から離れて行く。

立花道場で友子と対峙した立花は、あんたに世話になった自分が言うのもなんだがと前置きし、花森がカリフォルニアに行くのは良いことだと思うと遠慮がちに意見を言う。

アメリカみたいな遠い所に行ったら、もう別れるのと同じと友子が反論すると、立花は自分もカリフォルニアに付いていくつもりだ。柔道は1人では出来んから。その間、家族とは別れる決心をしたという。

花森さんは私の命の恩人です。花森さんは必ず私が連れて帰りますけんと立花も友子に頼む。

そこに、当の花森がやって来て、友子を迎えに来る。

浜辺にやって来た花森は、カリフォルニアには行かぁせんよと安心させるが、友子は、私、間違っていましたわ。あなたをダメにする所だった。立花さんみたいな他人があなたのことを想っているのに、私があなたのことを想わない訳に行かないじゃない。私、火が降っても離れないつもりでいたけど、それが私の悪い所ね。待ってるわ。行ってらっしゃいと答える。

お前にそんな事言われたら、何も出来やせんよという花森に、それがあなたの欠点よ。ぐずぐずしていたら、何も出来やしないじゃないと指摘する友子。

その後、1人で警察署にやって来た友子は、窓を閉めようとしていた署長に外の暗がりから頭を下げる。

友子を認めた署長は驚きながらも再会を喜ぶ。

友子は、うちの人がカリフォルニアに行く事になり、立ち直ろうとしていますから、署長さん、何とかよろしくお願いします。私のような悪い女が離れたら、良い人が見つかるでしょうと殊勝にも頭を下げる。

その様子を見た署長は、あんたがそうしてくれたら、花森くんも新規蒔き直しが出来るだろうと感謝する。

花森の方は、旅館で待っていた寛市の元に戻って来る。

寛市は、きっぱり別れて来たか?色事なんて、風邪みたいなもんでその内忘れると言うので、それを聞いていた花森は、それじゃ、あれが可哀想ですよと反論する。

寛市は、わしを見い、四人目じゃぞと結婚自慢をする。

その頃、友子は泣きながら1人船に乗り込んでいた。

別所の道場に1人戻って来た友子は、あの2人の子供が練習している様子を見る。

子供たちは、おばちゃん、どこ行っとったんや?先生どこや?と聞くので、先生ちょっと旅行に行ったのと答えると、おばちゃんやろと言い出す。

おばちゃんはダメよと断ると、この前やってたじゃないかと言うので、悲しみを振り払って、汗臭い花森の柔道着を着込んだ友子は、相手をすることにする。

しかし、あっけなく中学生に投げ飛ばされた友子は、花森のことを思い出し、倒れたまま泣き出したので、中学生は自分のせいで泣いたと勘違いし、しきりに謝るのだった。

夜、無人の道場に、1人布団を敷いて寝る友子。

その後、道場に戻って来た花森は玄関が閉まっているので不思議がり、裏口から中に入るが、そこには布団を敷いたまま、柔道着姿の友子が寝ていた。

友子、どうしたんじゃ?病気か?と気遣いながら枕元にやって来た花森を見た友子は、あんた…、忘れ物?と聞く。

カリフォルニアに行くのやめてしもうた。やっぱり、お前と一緒でないとつまらんと言う花森の言葉に、思わず友子は泣き出し、もう何にもする気がなくなってねてばかりでいたの。あんたの柔道着良い匂いがすると、ずっと着たままだった柔道着を愛おしそうになでると、お腹空いてふらふらよ、抱いてと甘える。

そんな友子を、しっかり抱きしめた花森も又泣いていた。

山の中に、そんな2人の花森道場はひっそり佇んでいた。