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人間魚雷出撃す

搭乗型特攻潜水艦「回天」に乗って散って行った若者の苦悩を描く反戦映画。

石原裕次郎主演で冒険活劇風な戦争映画は知っていたが、この種のシリアスな反戦映画もあったことは、今回はじめて知った。

ただ正直に言うと、あまり映画としては面白くない。

「潜水艦ものに駄作なし」と言うけれど、この作品は例外の方に入りそうな気がする。

全体的に展開が単調過ぎ、人間ドラマとして今ひとつ深みが感じられないのだ。

回天や潜水艦内のセットはそれなりにしっかり作られているし、本物の潜水艦も登場し、それらはそれなりに見応えがあるのだが、いかんせん、敵艦はチャチなミニチュアなので、迫力はまるでない。

裕次郎が大活躍するでもなし、ただ、終始考え込んでいるだけの思索型の青年として登場しているだけで、あまり役に合っているとも思えないし、森雅之演ずる橋爪艦長も特に見せ場があるでもない。

安部徹が、後年の悪役イメージとは違い明るい水雷長を演じていたり、長門裕之が実弟の津川雅彦と共演している辺りが、ちょっと興味深いくらいである。

それにしても、この当時の津川雅彦と長門裕之は、さすがに実の兄弟だけあって面影が似ている。

特に横顔などそっくりである。

いかにも低予算で作った添え物映画風なのが惜しいが、裕次郎主演映画の中では珍品の部類に入るかもしれない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1956年、日活、古川卓巳脚本+監督作品。

海上に浮かぶ船影を、潜望鏡で監視していた橋爪艦長(森雅之)は、魚雷が3発命中したのを確認する。

戦後、橋爪艦長はワシントン軍事法廷に、戦犯でも捕虜でもなく、参考人として呼ばれていた。

アメリカの巡洋艦インディアナポリスを撃沈した伊号58潜水艦は、その時、どう言う理由でその時海面にいたのか?と通訳(岡田真澄)が質問する。

インディアナポリスの情報は何もなかった…と橋爪艦長は答える。

我々は、ただ敵に遭遇しそうな海域にいたに過ぎず、インディアナポリスがテニアンに原爆の一部を運んでいたことは、呉に上陸してから知ったと言う。

その後、アメリカのマスコミ陣に囲まれ、インタビューを受けることになった橋爪艦長。

テニアンに運ばれた原爆が、広島、長崎に落とされたことをどう思うと聞かれ、テニアンに到達する前に攻撃していたら悲劇はなかった。対船魚雷を積んでいたのに、何故使わなかったのかと言う質問には、使いたくなかった。回天はやむを得ざる場合のみ使うと答えるが、どうしてですか?と聞き直されたので、忘れられないのは、4人の特高搭乗員の苦しみでありますと答えるのだった。

タイトル

昭和20年7月初旬 敗戦の色濃い時代の瀬戸内海

1号艇外れている!

回天の海中訓練を視察していた上官は、1号艇が目標から外れていると指摘する。

引き上げられた回天に乗っていたのは、黒崎中尉(石原裕次郎)だった。

反省会が開かれ、参謀(内藤武敏)はなっとらんと叱りつける。

黒崎中尉 後方20米

柿田中尉 後方5米

久波上飛曹 前方15米

今西一飛曹 館尾に成功

…と、その日の訓練の結果が黒板に記されていた。

特に、成績が奮わなかった黒崎が絞られていた。

最後に、橋爪館長が総括を行うが、2、3回出撃したうち、艦の故障などもあったので、今回のせいかは仕方ないだろうとまとめると、それを聞いていた参謀が、いつも1、2隻帰って来る。出て行く以上、戦果をあげんと何にもならん!と訓練生たちだけではなく、暗に、橋爪艦長も含め叱り飛ばす。

自分たちの部屋に戻って来た4人の訓練生たちは、失敗すると卑怯者になっちまうんだと、訓練の理不尽さを嘆くが、年長の柿田少尉(葉山良二)は、とにかく攻撃に成功することだ。分かるもんか、あんな奴に…と、参謀のことをけなす。

黒崎以外の3人は、久々の休暇で実家に戻っていた。

船育ちの今西一飛曹(長門裕之)は、浜で父の船を探していたが、その時ちょうど就航して行く船の上に、想いを寄せる女の子の姿を見つけた今西は、懸命に手を振って合図をする。

その後、出漁直前の両親と再会することが出来た今西は、船の中で寝ている弟の進(津川雅彦)と2人だけにしてくれと頼み、船底に降りて行く。

進は、胸に水がたまっているのだという。

寝たきり状態の進は、久々に帰って来た兄に、特攻隊の潜水艦乗りだね?とうらやましそうに聞く。

今西は、うちのものに言うんじゃないぞと口止めをする。

両親に心配させたくなかったからだ。

その返事を聞いた進は、じゃあ、やっぱり本当だね。僕には分かっているんだと自慢し、海のそこって良いの?と無邪気そうに聞く。

小さい頃、僕が船から落っこちたことあったでしょう。あの時、水面が明るく見えた。魚たちは上の人間の世界を笑っているようだった。あのまま、肴と一緒に遊んでいたら楽しいだろうな…。身体丈夫だったら、潜水艦に乗れたのにな…と言うので、今西は、進には向かないよと優しく諭すのだった。

きゅうちゃん来れば良いのにね、と今西の彼女の名前を挙げ、進は寝床で泣いていた。

久波上飛曹(杉幸彦)は、工場で勤労奉仕していた女学生と出会っていた。

共に、同じ島の出身同士だったのだ。

柿田少尉は、恋人の玲子(左幸子)と木立の中を散歩していた。

玲子は、あなたに会っているで十分で、負担を感じるといけないので…と言いながら、もらった婚約指輪を返そうとする。

柿田少尉は、じゃあ、預かっときますと受け取るしかなかった。

一方、帰郷せず、下宿に戻った黒崎中尉は、そこに、妹の洋子(芦川いづみ)がいたので驚く。

うちのものは皆元気かい?と聞くと、急に泣き出し、両親は大空襲で、防空壕の中に入った時亡くなったという。

今は、川越のおばさまの所で世話になっているが、兄さん、ここに置いてと頼む。

黒崎は、俺はすぐに行かなくてはいけないと言いながらも、洋子がここに居着くことは止めなかった。

そんな黒崎に、洋子は手作りだという人形を渡すと、お船に持って行ってねと頼む。

黒崎はその人形の顔を見て、お前にそっくりだなと喜ぶのだった。

いよいよ、回天4隻を積んだ伊号58号潜水艦出港の日を迎える。

甲板に整列した回天搭乗員に対し、年長者である柿田少尉は、俺に付いて来てくれと頼む。

その後、豊後水道を出た辺りで橋爪艦長による、彼らへの艦長訓辞がある。

艦内に入った柿田少尉は、搭乗員から茶を勧められるが、いつ出撃するか分からないので寝ておきますと言うと、ベッドに潜り込む。

黒崎中尉もそれに習い、ベッドに横になるが、そこには、洋子からもらった人形が飾られていた。

一方、萬田上飛曹(高品格)ら整備士と雑談していた今西一曹は、回天搭乗員の中では一番若いと言うこともあり、人に引けを取りたくないと妙に気張っていた。

出撃前の回天が攻撃を受けて壊されたら…と案ずる今西に、つい、伊号94の時危なかったなどと原整備士が話したので、萬田上飛曹が机の下の膝で小突いて止めさせる。

いよいよ伊号48は潜航を始める。

黒崎たちに、軍医長(三島耕)は、自分は君らと同じ慶応出身だと打ち明けていた。

そんな休憩室に入って来た航海長 (西村晃)は、食える時に食っとかんとなと言いながら飯を食い、掌水雷長(安部徹)と将棋を指したりし始める。

今西と柿田は、甲板上で回天を整備士たちが調整しているのを見学していた。

その後、艦橋の橋爪艦長に合流した柿田少尉はしばし会話を交わすが、その時見張り役が飛行機一機!と声をあげるが、橋爪艦長は冷静に、あれは星だと教えてやる。

7月22日 回天搭乗員に対し、敵補給路に入った。会食を決別の挨拶に代えるとの艦長訓辞がある。

休憩室で食事をしながら、航海長は今西に年を聞く。

19だと聞いた航海長は、自分が19の時には富士山に登ったと思い出話を始めたので、その時、ドンガメ乗りになりたくなった…と掌水雷長が混ぜっ返す。

その直後、音源接近!とのソナー係の声が響き、艦内に緊張が走る。

潜望鏡をあげ、船種を確認した橋爪艦長は、病院船なので見送ろうと判断する。

掌水雷長は、敵の潜水艦に会えますように…と合掌する。

やがて大型タンカーを発見、回天船用意!魚雷用意!の号令がかかる。

柿田少佐と今西一飛曹らが、お世話になりました!と乗組員たちに敬礼をして、回天に昇って行く。

1号艇には黒崎中尉、2号艇には久波上飛曹、3号艇には柿田少尉、4号艇には今西一飛曹がそれぞれ乗り込む。

航海長が、タンカーを護衛する駆逐艦に付け!と指令を出すが、1号艇の黒崎からの返信はなかった。無線が故障したのだった。

2号艇の久波上飛曹は、何か言うことはないかとの問いに、何もありませんと答え、3号艇の柿田少尉が「黒崎中尉をよろしくお願いします」と橋爪艦長に頼み、2隻だけが発進して行く。

4号艇の今西は、艦長からの指令を待つが、まずはタンカーが爆発し、続いて駆逐艦も爆発する。

2隻の回天が共に命中した証しだった。

掌水雷長は命を落として任務を遂行した2人を思い合掌する。

結局、目標は2つとも撃沈したので、今西の出撃は見送られ、故障した黒崎と共に、潜水艦内に降りて来る。

それを、梯子の下に立っていた整備士の萬田上飛曹が詫びながら向かえる。

休憩室のベッドに入った黒崎中尉たちに聞かせるつもりなのか、軍医長がレコードをかける。

今西の方は、興奮冷めやらぬと言う状態だったので、少し横になったらどうかと渡部が勧める。

その後、甲板に上がった軍医長は、そこにいた黒崎にタバコを渡すと、黒崎は、それを受け取りながら、今の日本は、こんなことで救われるんでしょうかね?と呟く。

軍医長は、生きることは人間の本能ですからねと答え、黒崎は、あいつとは高校同じでしたよと柿田少尉のことを教える。

7月29日 ベッドに横たわっていた黒崎は、吊ってある人形を観て、妹の洋子のことを思い出していた。

先任将校 浜村純)が来たので、休憩室にいた橋爪艦長は、潜航を命じるが、自室に戻る艦長に付いて行った黒崎は、今西は帰した方が良いと進言する。

しかし、橋爪艦長は、今西を残したらどうなる?再起を図るんだ。又、俺が連れて来てやると諭す。

今西は、萬田と将棋を指しながら上機嫌だった。

その後、配置に付け!との指令が下り、伊号48は浮上する。

艦橋に昇って偵察していた航海長が、左90度に機影発見、伊号48は再び急潜行する。

二機用意!回天用意!の指令が下る。

今西が回天に乗り込み、掌水雷長も魚雷の準備を終えた後、まっすぐ行くんだぞ。途中道草するんじゃないぞと魚雷に言い聞かせるように、発射管を手のひらで叩く。

敵船は巡洋艦だった。

魚雷を先に発射したので、回天に登場していた今西は、何故回天を出さないんですか?といら立って通話して来る。

魚雷は音源に向かっている。待て!と落ち着かせた橋爪艦長だったが、やがて、魚雷が命中し、掌水雷長らは万歳をする。

今西は、出して下さい!回天も出して下さい!といきり立つが、近くに他の敵艦はいないと橋爪艦長は伝える。

もし回天が到達する前に、船が沈んだらどうなる?と問う橋爪艦長に、回収できませんねと「答える航海長。

橋爪艦長は、1時間浮上と伝える。

この後、巡洋艦インディアナポリスに会うとは、神とて知る由もなかった…

休憩室へ今西を連れて来た橋爪艦長は、ムダに死なせたくないんだと説得する。

しかし、今西は、私はもう、帰りたくないんです!と答え、それを背後で黒崎中尉も聞いていた。

最も有効な時に使いたいんだと橋爪艦長は続ける。

黒崎が、練習のときのように、2人で乗り込んではいけませんか?と口を挟むと、そんなことはさせん!と橋爪艦長は拒否する。

搭乗員にパイナップル缶を持って来させた艦長は、ベッドで寝ていた航海長を朝飯だと言って起こすと、君の功績だ。特別待遇だと言って、用意したパイ缶や酒を勧める。

先任将校は、航海長と水雷さんだと褒め、上機嫌になった掌水雷長らは皆の前で歌い始める。

それに負けじと、橋爪艦長らも「同期の桜」を歌い始める。

その時、ソナー係が、船団の感度あり!静粛に!と声を上げたので、全員黙り込む。

艦長は、配置に付け!と命じる。

そんな中、黒崎中尉は軍医長に、一緒に飲みませんか?どうせ、私は出撃できないんだと誘う。

艦3!とソナー係。

橋爪艦長は、大艦隊を補足したと訓辞を始める。

萬田が勧めた酒を乾杯して、今西一飛曹は、三たび回天に乗り込む。

しかし、乗り込んだ4号艇にも故障が発見され、今西は悔しがる。

橋爪艦長は、魚雷を撃つと指示を変える。

目標空母!…命中!

今西は、がっくり気落ちして梯子を下りて来ると、黒崎の所に向かう。

駆逐艦三隻、爆雷投下!駆逐艦、本艦にまっすぐ来る!とソナー係が叫ぶ。

海中で爆雷が爆発、乗組員たちに緊張が走るが、先任将校が、爆雷、浅い!と指摘し、全員を安心させる。

黒崎中尉が今西一飛曹に、手動は出来るか?と聞く。

それを聞いた橋爪艦長は、連結装置が壊れているぞ。無駄死にはさせたくないんだと注意する。

先任将校は、爆雷が深くなって来たと、爆発深度が近づいて来たことを指摘。

艦内に水が漏れ始める。

計器類のガラスにひびが入り始め、先任将校は、米俵を船尾に運ぶように命じる。

「正」の字を書きながら、爆雷爆発の数を勘定していた乗組員は、すでに125回に達しようとしているのに気づく。

艦内の酸素が不足し始めたことに気づいた軍医長が、酸素を出した方が良いと進言、呼吸が苦しくなった乗組員たちは、酸素ボンベから伸びたボムホースに口を近づけて息を整え始める。

状況が悪化する中、体力を失い始めた乗組員たちは、この船も沈むんじゃないか?と不安を口にし出す。

航海長が、後部の浸水がひどいと艦長に報告に来る。

軍医長は、負傷した乗組員たちの治療に専念する。

そんな中、俺もいくぞと言いながら、休憩室を出て行く黒崎中尉に、今西も、僕も連れて行って下さいと言いながら付いて行く。

回天の下で待ち構えていた萬田上飛曹は、手動で動くようにしてありますと2人に報告、橋爪艦長は、持っていたウィスキーの角瓶を2人に飲ませるのだった。

その時、艦は最悪の状態だった…

必ず、駆逐艦を追っ払ってみせます!そう艦長に告げた黒崎中尉は、ベッドに吊り下げていた人形に敬礼する。

萬田上飛曹も敬礼し、しっかりやって下さいと激励する。

今西も、長らくお世話になりましたと敬礼を返し、黒崎と共に回天に乗り込む。

1号艇、4号艇異常なし!と先任将校が確認。

今西は、回天の中に持って来た母親の写真を見つめていた。

橋爪艦長が、1号艇発進!4号艇発進!と命令。

駆逐艦に1号艇が命中したらしく爆発が起こり、遠ざかって行くとのソナー係の報告。

爆雷の爆発も遠ざかって行く。

今西も駆逐艦に激突、駆逐艦はさらに遠ざかって行った…

橋爪艦長は乗組員たちに声をかける。

2人の尊い命を無駄にしてはいけない!本艦はただいまより帰途につく。しっかりやれ!

4人の魂が遠ざかって行った。

南太平洋の海深く眠るこれら若者は、今は何も語らない。

しかし、生き残った艦長として、私は彼らを語り伝えたい。再び太平洋に、かく若い血潮の流れざるがために…声なき叫びを、後の世まで…