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憎いあンちくしょう

裕次郎、ルリ子コンビによるロードムービー

仕事に追い回されるマスコミの寵児が、ある新聞の応募欄を観て、最初は自分の仕事がらみの取材のつもりが、いつしかそれを、自らの存在を確かめるために実戦することになるというお話だが、それを阻止しようとするマネージャー役のキャラクターと、2人の間に結ばれていた奇妙な男女関係の設定がなかなか面白く、最初は美談に写っていた遠距離恋愛、純粋愛などという口先だけのきれいごとを、最後ではひっくり返してしまう展開も説得力があり痛快である。

きれいごとを作り上げようとするマスコミ代表の対比的なキャラクターとして、長門裕之演ずる一郎なるディレクターも登場するが、こちらはいかにも類型的で軽薄な人物として描かれている。

同じマスコミが作り上げた虚像としての自分を、自ら否定するため突っ走る大作。

それをマネージャーとして阻止することを名目に、最終的には自らの愛を確認しようとする典子。

そうしたマスコミ人間たちをどこかで軽蔑していたはずの依頼人美子が、最後は、自分では一歩も現実を歩き始められない臆病者であり、マスコミ陣の代表のような大作から叱咤激励される逆転の面白さ。

単純なマスコミ批判ではなく、最終的には、人間の価値は社会的立場や名声の有る無しに関わらず、個々の心の持ちよう次第で決まるのだと気づかせる辺りが巧い。

後半は地方ロケを多用し、大阪で群衆に取り囲まれる大作などのシーンは、エキストラを使ったのではなく、本当に裕次郎を一目でも近づいてみたいという本物の群衆のように見える。

ジープを出発させた後の展開は、やや単調な感じだが、それまでの大作と典子の掛け合いが魅力的である。

特にアバンタイトルの事務所内での2人の行動は今観ても秀逸。

明るく、べたついておらず、からっとした男女関係なので、今観ていても泥臭さや嫌らしさを感じず新鮮である。

後半の博多山笠の群衆シーンと山沿いの道で2人が協力し合って進むシーンは外ロケだけではなく、スタジオでの芝居と合成を使って見せているため、さすがにその部分だけは若干作り物めいている。

この時代の裕次郎はまだ十分魅力的だが、それを食ってしまうような浅丘ルリ子演じる典子の愛らしくもパワフルな女性像が、何とも魅力的で、強く印象に残る作品である

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1962年、日活、山田信夫脚本、蔵原惟繕監督作品。

ラジオスタジオの中でマイクに向かってしゃべっていた北大作(石原裕次郎)は、スポンサーである日本フードの「ソーダラップ」を飲んでみせる。

ディレクター(草薙幸二郎)は、もういっぺん!と採り直しを頼むが、それを無視してスタジオを後にした大作は、オープンカーで自宅兼事務所がある「グリーンマンション」前まで乗り付け、そこで待っていたファンの女子高生と記念撮影をした後、部屋の寝室の前に貼られていたスケジュール表を無視し、「オコストコロスゾ」と寝室のドアに殴り書きをすると、寝室のベッドに倒れ込む。

3時40分

1人の女が大作の部屋には行って来ると、スケジュール表に「730」と書き、ハート形で囲む。

関東テレビからの電話がかかって来たので、それに応対している女は、大作のマネージャー榊田典子(浅丘ルリ子)だった。

先生は今、歯を磨いていると嘘を付き、電話を切った典子は、脱いだ自分のハイヒールで寝室のドアをノックする。

しかし、反応がないので、洗面器の中に目覚まし時計を入れ、ベルの音を増強したものを寝室の中に放り込む。

渋々起きて来た大作がシャワールームに入ると、水を浴びせかけた典子は大笑いする。

タイトル

典子は、オープンリールのテープレコーダーで音楽をかけると、アンプル栄養剤と薬を大作に渡し、ジュースを飲んでいる大作の側に立って、その日のスケジュールを読み上げ始める。

午前2時、六本木のナイトクラブで恋人とデートタイムと読み上げた典子は、今日は何の日か分かっているの?あれを観た?と壁に書いたハートで囲った「730」の文字を指すと、730日よ、記念すべき日よ!と訴えるが、それを聞いていた大作は、だからダメになるって言うんだ。仕事に私情を挟むな!と怒鳴りつける。

そんな事務所に、取材陣がなだれ込んで来る。

大作は、その場で手相の写真を撮られたり、ボディビルの真似をさせられたりと早くも仕事が始まる。

やがて、テレビ局で、黛敏郎と菅原通済相手に「現代愛」に付いて座談会をする大作。

それをコントロールルームからモニター越しに観ている典子とディレクターの一郎(長門裕之)

大作は、現代愛なんて信じませんよと言い放つ。

その後、羽田に、西部劇「荒野の男」の外国人主演男優が来日したのを迎えに行った大作に同行した一郎は、人員整理をする。

その後、深夜2時、六本木のナイトクラブに来た大作は、女性ファンから踊ってと声をかけられるが断ったので、気取っているわと悪口を言われてしまう。

約束通り大作と踊った典子は、ハンドバッグの中を探し、3日も前に買っておいた、私たちの愛を忘れて来ちゃったと泣き出す。

2年前、俺はマスコミに通じたマネージャーを求む、当分の間無報酬と言う広告を出した…と大作は回顧する。

その頃俺は、1曲CMソングを作っただけの青年だった。

ソ連のロケットが月に刺さったら、作曲を辞めると言ってたわ…と典子が回想を補足する。

一旦車で帰りかけていた2人だったが、又、元のないとクバブに引き返し、再び踊り始めた典子は、さっき行ってた約束のこと…、私が欲しくないの?と挑発すると、大作も、欲しくないと言ったら噓になると冷静に応じ、前も同じように話さなかったか?と確認すると、典子は離さない!と言って大作に抱きつくのだった。

その後、大作は、典子を「さつきアパート」まで車で送り届ける。

自室に戻った典子は、下着姿になった自分の姿をタンスの扉の裏の鏡に映し、全然、イカしちゃってるわ!と自画自賛する。

一方、グリーンマンションの自室に戻った大作の方は、ベッドに潜り込むと、つまんねえな…、しょうがねえな…と愚痴りながら朝を迎える。

やけになった大作は、叫んで無理に寝ようとする。

目覚めた大作は「ワカ末」とソーダを朝食代わりに飲みながら新聞を読んでいたが、その中に「ヒューマニズムが理解できるドライバーを求む 中古ジープを九州まで運んでもらいたい ただし無報酬」と言う広告を発見し興味を持つ。

その時、一郎が事務所に顔を見せたので、取材を兼ね、一緒に広告を出した井川美子(芦川いづみ)なる女性を訪ねてみることにする。

典子はその日予定されていた仕事のため球場に先に出かける。

スクラップ工場のような所で、問題の中古ジープと美子と対面した大作は、面白かったら番組に出演してもらうと持ちかけるが、美子はあっさり断る。

一郎は、何万という興行広告から選ばれたんですよと説明するが、美子には興味がなさそうだった。

一方、典子の方は、その日雨になって野球場での仕事がキャンセルになったので、大作と典子は車で帰っていた。

その車中、手紙の交換だけで一回も会ったことがない恋人が熊本でジープを欲しがっているから送るって?と典子は、大作が話す話を聞くと、私たちとはまるっきり逆だわ…とおもしろがっていた。

だから、スタジオに呼ぼうとしたんだと大作も答える。

事務所に戻って来た典子は濡れた服を脱ぐと、大作のシャツとズボンを借りて着る。

ギターを弾き始めた大作に、久しぶりだなと喜ぶ典子は、大作が歌う唄に合わせて踊り出す。

その途中でズボンは脱げてしまった典子は、酒が欲しいと言い出す。

大作がブランデーを注いでやり、2人で乾杯する。

仕事が中止になり、3時間も空き時間が出来たので、どうする?と問いかける典子に、大作はさあねと気のない返事をする。

妙な沈黙が続いたので、典子は冗談めかして、テンコはもう飽きたかな?ジャンに聞きたいことがあるわ。夕べあの後、まっすぐ家に帰った?と聞くと、大作は、女を拾ったよと答えたので、それで?と聞き返すと、抱いたさと言う。

本当?と聞くと、本当!と言うので、思わず、噓よ!と否定する典子。

その時、あ、そうだ!大作が良いアイデアがある。テレビドラマ、頼まれていただろう?…と前置きし、自分たちのことをドラマの筋書きのように説明し出す。

主人公はマスコミの寵児、女はマネージャー、2人ははじめて2時間半もの自由な時間を持つことが出来た。

737日間も付き合ってためか、今や2人はどうしようもない倦怠感に捕われていた。新鮮さを失わせないために。1つ、キスしない。2つ、関係を持たないことなど色々約束事を決めた。

始めは新鮮だった約束事も、2年も経つと枷になった…

それを聞いていた典子も、その後を次いで言う。

女もそうだわ。それには少し部屋が明るすぎる。女はムードを欲しがっている…と言いながら音楽を流すと、寝室に入って、バスタオルを身体に巻き付ける。

そこに入って来た大作は、典子のバスタオルを剥ぎベッドに押し倒そうとする。

すると、典子は、嫌!こんなことでは嫌!と拒否し始めたので、大作は身を引いてしまう。

典子は、嫌!嫌!と泣き出していた。

大作は雨の中、車乗って出かけると、誰もいない港の側に車を止め、ボンネットの上にシャツ姿で大の字に寝そべり、自らの熱を冷ますように、雨に濡れるのだった。

事務所に残っていた典子の方は、かかって来た電話を投げつけていた。

大作は車を動かそうとしていたが、何故かエンジンはかからなかった。

その頃、予定されていた番組にやって来ない大作を心配していた一郎に、スタジオにいた典子は、必ず来ますよと弁解していた。

一郎は、本番まで後12分!生放送なんだよ!と一郎はいら立っていた。

その時、濡れ鼠状態になった大作がスタジオに到着、ただちに着替えて本番に臨むが、髪をタオルで拭いていた典子の手を、大作は苛立たしそうに振り払う。

「今日の産業広告」と言う番組が始まり、長崎製菓やワカ末のCMが流れる。

大作が相手をするその日のゲストは、あのジープをただで九州まで運んでくれと新聞で呼びかけた井川美子だった。

九州にいる恋人は敏夫と言い、残りの月賦を払うため2人で働くんですか?と聞くと、美子は愛ですと答える。

どうして会ったこともない相手を愛せるんですか?何故ここへ来たんですか?と意地悪な質問をすると。私にはもうお金がないんですと美子は正直に打ち明ける。

熊本の僻村で、敏夫さんがジープを待っているんです!と美子はカメラの前で涙ながらに訴える。

すると、大作が、僕が運びます。運ばせて下さいと発言する。

美子は、大作の言葉を真に受けず、急ぐんです。待てないんですと言うので、大作は、今夜出発します。僕のために行きます。ジープはどこにあるんですか?と訴える。

それを聞いたテレビのプロデューサーが、典子に文句を言いに来る。

スタジオを出た典子は、ラジオを聞いていた聴取者たちが集まっていたジープの元へやってく来ると、野次馬を避け、中古ジープに乗り込むと出発しようとする。

観に来ていたおばさんたちは、そんな大作を励ます。

そんな大作に、同行して来た美子が、これをもっていて下さい。敏夫さんから来た手紙を書き写したノートです。おりたくなったら読んで下さいとノートを渡す。

一旦、グリーンマンションに戻って来た大作を、先に部屋に戻っていた典子が冷たく見つめる。

部屋に大作が入って来ると、カーテンの影で笑っていた典子が、いつまで遊戯続けるつもり?あなたの失言は私が解決しておいたわと話しかけて来る。

大作は苛立たしそうに、俺はこいつを観た時、決心したんだ!と、最初に広告を見つけた新聞を示すと、どけよ!と邪険にするが、典子は、休戦しましょうよ。謝るわと。契約不履行で訴えられるわ。損害賠償取られてしまう!ジャガーで行きましょうと説得を続ける。

しかし、大作の気持ちは変わらないようで、駐車場に降りて来ると、これで行くんだと言って、中古ジープに乗り込み、ジャガーを持って来てくれと言いながら、車の鍵を典子に投げ渡す。

鍵を受け取った典子は、スケジュールはどうなるのよ!と泣き出す。

そこに、大作の姿を見つけたファンの女の子たちが近寄って来るが、クラクションを鳴らして蹴散らすと、ジーープは出発する。

事務所に戻った典子は、必ず戻ってくるわ。戻りかけているかもしれない…と、1人想像していた。

そこへ一郎がやって来てドアの前で入ろうとしていたが、しまっていると知ると、電話で座談会の催促をする。

美子の住まいである江戸川アパートに停めてあったジャガーの所へ来た典子は、クラクションを鳴らして、窓から美子に顔を出させると、預かって行くわ!純粋愛のためにと声をかけるが、美子は愛は信じるものですと声をかける。

ジャガーで大作のジープを追い始めた典子は、大作は今頃、バックミラーを気にしている。その内、私が追って来るのを待っているわ.その内、自分の頭を叩くわなどと、又1人で想像しながら運転する。

その頃、大作は箱根を通過していた。

あくびしながらジープを止めると、車の下に潜り込んで修理を始める。

そこにジャガーで近づいて来た典子が、おはようございますと声をかけると、大作は、やっぱり追いかけてきやがったと呆れたように答える。

チェッ、喜んでいるくせに…と冷やかす典子に、大作は嫌だと拒否し、お食事だけでもと典子が誘っても、嫌だと答えるが、結局、一緒に近くの店でトーストを食べることにする。

その側には、一郎がサングラスをかけ、密かに待機していた。

典子が大作に渡した朝刊には、「北大作を紛糾せよ!禁約付き座談会放棄」等の文字が載っていた。

しかし、全く気にしない様子の大作は、店主に缶ビールを包んでもらい、ジープに乗り込むと出発する。

その方角を確認した典子は店の電話を借り、一郎に報告する。

一郎が乗った車は、先行する大作のジープの横に並ぶと、後部に隠れて乗っていたカメラマンが大作の姿を写し始める。

一郎はトランシーバーで2号車に連絡を取る。

正体不明の2台の車に挟まれた形の大作は苛つく。

スーダラブ氏を歌い始めた大作に気づくと、2号車にアップを撮るよう一郎が指示を出す。

そして、一旦車を停めた一郎は、今撮ったばかりの16mmフィルムをジャガーで追って来た典子に手渡し、現像を急がせる。

ジャガーが、自分を追い抜いて走り去ったので、最初はまだ付いて来たなと苛ついていた大作は、どこへ行くんだ?と訳が分からなくなる。

名古屋から京都に入る所で、ジャガーが停まっているのを見つけた大作はジープを停め、蕎麦屋に入るが、そこのテレビに、自分がジープを運転している様子が映し出されていたので驚き、あんちくしょう!と口走るが、店の客たちは、目の前にいる大作がテレビの中の大作と同一人物だと気づくと、握手を求めて来る。

中には、トラックの運転手らしき客(高品格)が、俺たちなんか毎日とんぼ返りしているんだ。俺たちが騒ぎゃ、こいつの人気が上がるんだなどと嫌みを言ったりする。

蕎麦屋の客に見送られ、大作は、出発したジャガーを追ってジープで追いかける。

ジャガーは寺の境内に入ったので、大作もそこまで追って来て、ジャガーから降りた典子に、どうしてあんなことした?と責める。

すると、典子は、ごめんなさい。やらないと一郎さん、首になるのと事情を説明し、私が悪かったわ。そうぞ九州へ言って下さいと低姿勢になるが、売名行為と分かっているのに行ける訳がないじゃないか!と大作は怒り出す。

ジープの所に戻ると、見知らぬ青年がジープを観ており、尾崎宏 川地民夫)と名乗ると、あんたの身代わりでこれからジープを運転すると言い、美子から預かったノートを捨てたので、それを拾って数ページ読んでみた大作は、尾崎に降りろと命じる。

しかし、尾崎が、気取るなよ。裏街道は知りゃ良いんだろ?と生意気な口をきいたので、殴って降ろすと、又自分が乗り込んで出発して行く。

それを観ていた典子は、行かないで!スケジュール、びっしりつまっているのよ!と叫ぶ。

取り残された典子に興味を持ったらしい尾崎が付き合ってよと誘って来るが、典子は全く相手にもせず、ジャガーの乗り込むと大作の後を再び追い始める。

典子は、食堂でスタッフたちと乾杯をしていた一郎の元に戻って来るが、一郎は、もうこのヒューマンドラマは終わったんだよ。橋谷さん、局長賞もらったんだよと言い、もう愛の道具に使われるのはご免だよ。あんたは振られたんだよ。行っちまったんだよと言いながら店を出て行く。

しかし、典子は、行かさないわ。私が停めてみせるわ!と意気込むと、又ジャガーに乗り込む。

大阪の町中を通過していた大作のジープは待ち受けていた群衆の好奇の目にさらされるが、のろのろ運転していたジープに「ニュー大阪夕刊」の記者を名乗る奥山(佐野浅夫)が乗り込んで来て、どこで交代するんですか?電話を受けたんです。交代要員は尾崎宏でしょう?などと聞いて来る。周囲は、野次馬だけではなくマスコミ陣も取り囲んでいた。

仕方がないので、ジープを停めた大作に、大阪でジープを放棄するんですか?などと記者たちが聞いて来る。

そこに、典子のジャガーが追いついて来る。

ホテルに泊まった大作と典子は、互いに出て行けと言い争いになる。

目的もないのに、何で行けるの?と責める典子に、本当に運べるかどうか、本当の自分を知りたいんだと答える大作。

行かさないわ!死ぬわ!と叫び、ハンドバッグの中に入れていた薬を口に入れた典子を、大作は洗面所に連れて行き、無理矢理吐かせる。

そのまま部屋を飛び出して行った大作に、典子が行かないで!と呼びかける。

下に降り、ジープを動かそうとした大作だったが、又故障したのか、なかなか動かない。

そこに典子も降りて来たので、大作はいきなりバックをし、動いたので、そのままジープを前進させる。

典子は、取り囲んだ群衆に向かい、北大作には影武者がいるんです!聞いて下さい!と呼びかけるが、マスコミ陣は誰1人、彼女の言葉に耳を貸すものはいなかったので、敗北を悟った典子はその場に膝をついてしまう。

ホテルの部屋に戻った典子は、薬の空き瓶を観て、持っていたスケジュール帳を破り捨てると、洗面所に行って吐く。

スケジュール帳も水の中に沈んでいた。

私を棄てないで…、私にはあなたしかいないのよ…と呟いた典子だったが、その時、床に落ちていた車の鍵を見つける。

再びジャガーに乗り込んだ典子は、またもや大作のジープを追い始めるが、その頃、大作は、出航間際だった明石フェリーに乗り込んでいた。

長距離を走って来たため、すでに汚れ切ったジャガーは、そのことに気づかず、道路をひたすらに死ぬ向かって走っていた。

夜通し走っていても、一向に大作のジープに出くわさないことを不審に感じた典子は、反対方向から走って来た長距離トラックなどを停め、大作の行方を聞くが、全く手掛かりはつかめなかった。

その頃、大作は、浜辺に来て、海の水で顔を洗っていた。

典子は公衆電話ボックスから、めぼしい宿に電話を入れ、大作が泊まっていないかどうか探し続ける。

さらにジャガーで走りっていた典子は、「宇高国道フェリー」の看板を発見、そうだわ!とようやく気づく。

その頃、大作は砂浜で寝て一夜を明かしていた。

フェリー乗り場に到着した典子は、ジャガーの中で、付いたフェリーから降りて来る車を監視していた。

大作は、近づいて来た近所の子供に起こされ目を覚ます。

フェリーの甲板上で朝刊を読む大作。

待っていたフェリーがようやく到着し、降りて来る車の中に大作のジープを発見した典子は、その後を追う。

大作の方も、ジャガーに気づく。

泥道をひた走るジープとジャガー。

ジープが泊まっているのを見つけた典子は、その目の前にあった「旅館 魚信」と言う旅館に泊まるが、その時、ジープの下に入っていた大作がはい出して来て、向かいの旅館に泊まる。

互いに、二階の部屋から相手を見つけるが、その夜、典子は泣いており、大作の方は寝汗をかいていた。

翌朝、ジープが先に出発し、その音で目覚めた典子も急いでその後を追いかける。

広島を通過し、関門トンネルを通り抜けた2人は九州に入る。

ちょうど「山笠祭り」で賑わっていた博多市内を通過する時、2人は、群衆から景気付けの水をかけられ、車から降ろされる。

祭りの群衆にもみくちゃにされていた典子を救い出した大作は、バカ!と言いながらビンタをする。

おバカやろうだ!お前は!と怒鳴る大作に、私を連れて行って!とすがる典子。

付いて来るんだと、ようやく言ってくれた大作に、あなたは死にたいのよ!と詰め寄る典子。

博多を出発した2人の車は、険しい山間の道にさしかかる。

大作は、一旦ジープを降り、遅れ気味のジャガーとジープをロープで繋ぎ、2人の車が同時にエンジンを吹かし、勾配を登り切ろうとする。

その途中、繋いでいたロープが切れ、勾配を滑り落ちたジャガーは崖から落ちそうになる。

慌ててジープを降り、ジャガーに近づいて来た大作は、動くなよ!と典子に言い、抱き上げてそっと車から降ろす。

次の瞬間、ジャガーは後部から崖下に転落して行く。

典子もジープに乗せ、その後も走り続けた大作は、ようやく目指す「洗川村」に到着する。

そこにヘリコプターも接近して来る。

小坂敏夫(小池朝雄)が待ち受けていた洗川診療所に到着した2人を見つけた村人たちは、大作さんだ!と喜びながら駆けつけて来る。

その近くにヘリコプターが降り立ち、中から、一郎と美子が降り立つ。

さあ、感激の握手をして下さいと勧めても、何故か、美子と敏夫は動こうとしなかった。

そのヘリの近くに、ジープで大作たちがやって来ると、一郎が無理矢理恋人同士に握手をさせようとしていたので、それを止めさせる。

そして、東京から預かっていたノートを美子に返す大作。

一郎はまだ、3年振りのご対面だね。俺が欲しいのは純粋愛だよ。あんた本当に小坂敏夫さん?などと迫りながら、無理矢理ヒューマンドラマを作ろうとしていたが、それを側で観ていた典子が、急に、違う!そんなの愛じゃない!と叫んだので、良い子は思わず、手にしていたノートを落としてしまう。

そんな典子を大作は抱きしめ、馬鹿野郎!泣く奴があるか!俺たちが運んだんだ!と周囲を取り囲んだ村人の中で叫び、追いすがって来た一郎を無視すると、美子と敏夫の手を取って、2人で行くんだ!愛は言葉じゃない!と伝える。

その後、大作と典子は2人だけで山の中を歩いて行く。

疲れ切った大作が草原に倒れ込むと、微笑んだ典子が身をかがめ、2人は熱いキスをかわす。

2人の頭上には、熱い太陽が輝いていた。