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もず

1960年に放送された水木洋子の書き下ろしテレビドラマ「もず」の映画化。

今驚かされるのは、これがテレビドラマだったということ。

近親憎悪というか、血のつながりがある親子だけに、他人以上にべたべたとした依存心や嫉妬心などが入り交じった、愛憎相半ばするかなり複雑な心理状態と、そこから生まれる女2人の醜いののしり合いや、それとは裏腹な切っても切れない強い絆などが描かれている。

元になったテレビ版では、どう言った描き方だったのか興味がある所だが、この当時からすでに、こうした女性ドラマの中心は、もう映画からテレビに移行していたということかも知れない。

ホームドラマといい女性ドラマといい、それまで松竹の得意分野だったジャンルがテレビに移行したのでは、この後急速に松竹が衰退する訳である。

この映画版では、全編、ベテラン女優陣の芝居合戦と言った感じで、酸いも甘いも噛み分けた大人の女たちが次々と出て来て、中途半端な男などは裸足で逃げ出してしまうような壮絶な舌戦と芝居を繰り広げて行く。

有馬稲子の始終不機嫌そうな暗い芝居も印象的だが、逆に、陽気なおなかを演じている乙羽信子やいかにもさえないおばさんを演じている高橋とよ、清川虹子と言った芸達者陣の存在感もすごい。

登場シーンは多くないが、いつも厳しい表情の女将を演じている山田五十鈴の、底知れぬ怖さなども見所。

そして、複雑な境遇の母親を演じている淡島千景の陽気さと癇癪持ちの演じ分けの見事さ。

陽気な作風が多い渋谷監督にしては珍しい、全く救いのない暗い話になっている。

正直、気の弱い男には、観続けるのが辛いほどの親子間のリアルに見える修羅場が何度も登場するが、この作品、公開当時当たったのだろうか?

男客も多かったのだろうか?

今、この手の暗いドロドロした作品は、なかなかメジャー系作品では描けないと思えるだけに、当時の一般客の反応が気になる所である。

女優芝居がメインの中、唯一、男優として出演場面が多い藤村役を演じている永井智雄は、NHKの人気ドラマだった「事件記者」の相沢キャップとして有名な人。

余談だが、この映画の中、明らかなミスカットがある。

「一福」に最初に藤村が2階の座敷に来て、すが子が娘のさち子を紹介した後のカット、画面は左右にふすまがある真ん中から奥の部屋が写っており、その部屋にすが子と藤村がいるのだが、左側のふすまから何やら黒いカメラレンズのような物の一部が突き出て、ゆっくり下がりながらふすまの陰に消えているのだ。

部屋の中には藤村とすが子しかいないはずで、これは明らかにスタッフのミス。

しかも、指摘されないと気づかないような画面の端という訳でもなく、結構画面中央に近い部分なだけにすぐに目立つ。

今なら、その場でビデオチェックして、こうしたミスは現場で発見できるので、「もう一回!すみません、こちらのミスです」となるはずなのだが、当時はフィルムなので、現像をすませた後のラッシュではじめてこの手のミスに気づくことになる。

その段階で「見落としたのか?」それとも「ミスには気づいたが、撮り直すチャンスがなかったのか?」何とも気になる所である。

低予算、短期間仕上げを要求される添え物映画のような作品ならともかく、このようなシリアスな映画でこうした例は珍しいような気がする。

ふすまから頭を出した黒い物体が何なのかも気になる。

本番だし、演じている俳優のすぐ側なので、スチールカメラとは考えられない。

音声部のマイクにしては、一部だけ見えた黒い物体が大きすぎる。

固定カメラでの本番中に照明が動くということも考えにくく、映画カメラの一部だとすると、2台同時に回していたということだろうか?

だとしても、このBカメラ(?)、俳優に近すぎるような気がする。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1961年、松竹、水木洋子原作+脚色、渋谷実監督作品。

繁華街の一角にある小料理屋「一福」に来ていた客が、店のテレビが故障しているのでプロレスも観れないなどとぼやいていた。

そんな客は、2階に上がって行く住み込み女中の岡田すが子(淡島千景)を観て、あれで33なんだって?などとうさんくさそうにおてる(桜むつ子)に聞く。

2階の座敷に来ていたのは、6つの時に分かれたきり20年も会っていなかったすが子の娘、さち子(有馬稲子)だった。

久々の対面に興奮気味のすが子は、旨そうにビールを飲むが、そんな母親の姿を、さち子は戸惑ったような目で観ていた。

気を利かせて、親子の対面の邪魔をしないようにしてやっていたおてる(桜むつ子)が2階の様子を見に来ると、すが子は、戦後1度も会ったことがなく、自分が20の時に生んだ娘でもうすぐ30だと嬉しそうに教える。

ビールを飲もうとしないさち子に、今上がって来たおてるのことを、小さい子供があって、今亭主と別れ話をしているのよなどと教えるすが子。

さらに上機嫌のすが子は、下にいるおなか(乙羽信子)に、ビールの追加を頼む。

陽気でお調子者っぽい性格のおなかは、前に勤めていたスタンドバーが潰れたのだという。

そんな仲間話に興味がない様子のさち子は、どうして私と松山で暮らさないの?とすが子に聞く。

婿さんのことを母から聞かれたさち子は、3年…、別れてからも3年と答える。

その元夫に痣をつけられた右腕などをめくってみせるので、すが子は、幼子にするように、指につばをつけてこすってやったりする。

さち子は、東京で美容室の店に入ったと報告すると、その場で、母親の髪をセットしてやると言い出す。

嬉しそうなすが子は、今日はどこに寝ようかな?等と呟き、ここには決まった女中部屋などないので、毎晩、空いた部屋に寝ているのだと愚痴る。

そこに、すが子の馴染み客である藤村(永井智雄)がやって来る。

店の女将(山田五十鈴)は、2階に来ているのは誰?と、いつまでも下に降りて来ないすが子の客のことを、不機嫌そうにおてるに聞いていた。

藤村の部屋に来たすが子は、ベタベタと甘えかけ、それをこっそり覗いて引いたさち子に気づくと、こちら藤村レンズの社長さんと紹介する。

さち子は、固い表情のまま名乗る。

すが子は、そんな娘の気持ちなど気づこうともせず、美容師になりたいらしいんですけど、どこか良い口はありませんかね?などと言うので、藤村は、妻が全身美容の教室を始めたので聞いといてやろうなどと返事する。

すが子は、おちょうしを持って来たおなかに、あの子に宿を取ってやりたいけどと相談するが、その後、さち子は黙って帰ってしまったことに気づいたすが子は周囲を探しまわる。

店に戻って来たすが子に、3000円置いてあったとおてるが教えると、見くびってるのよとすが子は吐き捨てる。

後日、銀座でさち子を見かけた藤村は、飯でも食おうか?と誘う。

ある深夜、2階の座敷で横になっていたすが子を見つけた女将は、寝るんだったら仕事を休んでしっかり寝て欲しいと嫌みを言い、身なりだけはきちんとしておくれよと着るものにも注意をする。

雨の中、銭湯に行っていたおてるとおなかが店に戻って来ると、しばらくして藤村もやって来る。

他の店でも配っていたんだなどと言いながら、余り物のカステラのような物を土産に渡すので、受け取ったすが子は嫌な顔をする。

看板だろう?どっかへ行こうと誘う藤村に、おっくうがって断ったすが子は、どっかで振られた帰り?と嫌みを言う。

膝枕をさせ、藤村の耳掃除を始めたすが子に、俺が素人と付き合ったらどうする?などとからかうように藤村は問いかけて来る。

お互い年なのに、このままずるずるやってもキリないからねなどと続ける藤村は、君も総統くたびれて来たななどと無遠慮に指摘しながら、すが子の顔を良く見ようとしたりする。

帰ろうとした藤村は、銀座でばったり親戚の子にあったよなどと話し、ナイトクラブに連れて行った。今、彼女は江戸川の小さな美容院に住んでいるらしい。お別れのキスをしてやったよなどと言うので、驚いたすが子は、あの子は私の娘ですよ。6つの時に別れた…と言いながら藤村に迫る。

それを聞いた藤村は愛想が尽きたように、女はいくらでもいるよ。もう来ないよと言い残して帰ろうとするので、追いすがったすが子は、3ヶ月分の小遣いと言いながら手を出す。

藤村は呆れたように財布から1万円札を取り出すと、今日の勘定もこれでと言いながらすが子に手渡して店を後にする。

心配げに観るおてるやおなかに、まごまごしていると養老院行きさとすが子は自嘲する。

その後、すが子は、さち子が勤めていた「ルミ美容室」を訪ねて来る。

藤村から聞いて来たことを悟ったさち子は、わざわざ店を探し出して来た母親を迷惑そうだった。

美容院なら私が探してやるからなどと言い出した母親に、立派な美容院を紹介するって言ってたのに、今度は雇われマダム?などと揶揄したさち子は、本当に一緒に暮らしたいの?今の方が良いんじゃないの?と言い、この前店に会いに行った時、正直母親の姿に幻滅したのだと打ち明ける。

それを聞いたすが子の方も、私もお前はもっと田舎の純朴なこと思っていた…。覆水盆に返らずか…などと言い返し、住所が変わったら知らせてね。同じ東京に住んでいながら、どこにいるのかも分からないなんて辛いからなどと言い残して、小遣いを握らせると帰りかける。

その哀れな後ろ姿を見送っていたさち子は、思わず泣き出してしまう。

その時、近く工場のサイレンが鳴り響いたので、思わず振り向いたすが子は、泣いている娘の姿を発見し、走って戻って来ると、こんな苦労をさせてすまなかったねと抱きしめ、幸子は母さんも元気でねと言葉をかけ、2人とも泣くだけだった。

ある日、「一福」の女将は、おてる相手に愚痴っていたが、その時電話が鳴り、それはすが子に電話してきた藤村だった。

電話に出たすが子は、どっちを取るかと言われりゃ子供を取るわよ。美しい思い出だけに生きましょうなどと生返事をして電話を切ってしまう。

その会話を聞いていた女将は、お客さんを断っちゃダメじゃないか。無理に働いてもらわなくっても良いんだよなどと叱る。

店の主人(深見泰三)が硯で紙に何かを書くと、つかつかとすが子の側に来て頬を叩く。

表に貼り出されていたのは「女中さん入用」と書かれた紙だった。

首になったと知ったすが子は玄関先で泣くが、窓から顔を見せた女将は、お医者なんかだしにするからだよと、すが子がいつも病気がちで医者に行くことを理由にさぼりがちだったのを当てこする。

さち子の方は、新しい美容院でテストを受けていた。

マスター(佐藤慶)は気に入ったようで採用することに決めるが、うちでは基礎だけではなくセンスも求めるからと忠告する。

その時、おてるから電話が入り、すが子の体調が悪いというので、さち子はマスター(佐藤慶)に、母の加減が悪いので勤めるのは2、3日後からにして欲しいと頭を下げ、急いでいるというから今日テストしてやったのにと嫌みを言われる。

店を辞めると知ったルミ美容室のマダムは、腰掛けとして宿屋代わりにうちに勤め、他の店にテストを受けに行ってたなんて…とさち子をなじる。

もっと親を大切にしなさいよ、自分のことばかり考えるんじゃなくて…と忠告したマダムだったが、すでに引っ越すために荷物はまとめてあると知ると、さっさと出て行って頂戴と声を荒げるのだった。

おてるとおなかが、浅草の一恵(高橋とよ)の家で寝込んでいたすが子を見舞いに来る。

一恵はおとよの知りあいで、元大店の女将だった人だった。

寝ていたすが子は起き上がり、男性ホルモンお不足だったなどというので、おなかなどは、ばからしい。お金払って男性ホルモン打つなんて…とからかう。

そのおかなが、今度旦那を見つけたので店を辞めるのだとおてるが教える。

おなかは嬉しそうに、白タクの運転手で、子供が6人もいるんだけどねとあっけらかんと言う。

鍋焼きを注文に出ていた一恵が戻って来るのと同時に店屋物が届いたので、皆で一緒に食べることにする。

おてるが一恵に、さち子の縁談勧めたんだって?と余計なことをしたとでも言いたげに聞くと、すが子は、2廻りも違う相手よと苦笑する。

一恵は、お母さんの方も紹介したんだけど、案の定若い方をだってさと言う。

先方の母親は78だと聞いたおてるは、亭主が先に死んだら親の面倒観なきゃ行けなくなるじゃないか!浅はかだよとおてるが文句を言うと、部屋を出て行った一恵は、廊下で泣きながら鍋焼きうどんを食べる。

夜、さち子が美容院から帰って来ると、すが子は薬を買って来ると言って出かける。

さち子は一恵から、昼間、自分の縁談話をした時の母親の反応などを聞かされ、いつまでも自分一人で独占しようたって、そうはいかないよねぇなどと同情したように言われる。

一恵は断りましょうときっぱり言う。

その後、すが子が戻って来て甘太郎を買って来たからと一恵にお裾分けすると、一恵は縁談断ることにしましたからと伝える。

部屋に戻って来て甘太郎を差し出すと、さち子はあんこ物は嫌いと不機嫌そうに言う。

それをきっかけに、自分が稼いで来ると思って、まるで私が薬や甘太郎買って来たのが無駄遣いかなにかのように…とすが子は切れ、2人は口喧嘩を始める。

すが子が買って来た薬を飲んだら?これ鎮静剤よと勧めると、私はヒステリーじゃないとすが子は怒鳴り始める。

あげくの果てに、私なんかくたばりゃ良いと思っているんだろうと捨て台詞を吐いたすが子は、お前のために1人で苦労して来たんだ。それが、ようやく2人で暮らせることになったらこんなことになるなんて…と愚痴るので、さち子は、こんなうちにいるのがいけないのねと反省する。

その後引っ越したすが子は、友人の阿部ツネ(清川虹子)と共に、船橋ヘルスセンターへ出かけ、愉快に1日を過ごしていた。

一方、留守番をしていたさち子は、故郷から急に、青年会の酒田(川津祐介)が上京して訪ねて来たので、同じ美容院に勤めているアヤ子(岩崎加根子)にビールを買って来てもらう。

アヤ子は、自分の家にあったビールを持って来てくれるが、一緒に頼まれていた砂糖を忘れたと謝る。

さち子は、27、8になるアヤ子は足の指が1本ないのだけれど、それだけでお嫁に行けないと思っているのよなどと酒田に教えながらビールをついでやる。

坂田は、さち子の写真を撮りまくる。

父親のことを聞かれた坂田は、中気で仕事を休んでいると答えるが、その時、アヤ子が再び、砂糖を持って来てくれたので、坂田に会わそうとするが、坂田は降りて来なかった。

2階に上がって来たさち子に坂田は、青年会にいる頃からさち子のことが好きだったが、目立てやの息子と旧家の娘さんとは身分が違い過ぎて言い出せなかった。

胸を病んで故郷に帰ったら、さっちゃんは東京に出て行ったと聞いたので、思い切ってやって来たのだと告白し出す。

しかし、さち子は、あんた年下じゃないとはねつけ、荒れてるわね。変わったわ…と呆れたように呟くと、止してよ。押し付けがましいじゃない。図々しいわよと叱りつける。

その冷たい返事を聞いた坂田は、階段を降り、黙って帰り支度を始めるが、付いて来たさち子に、俺、今、岐路に立っているんだ。さっちゃんの返事一つで、俺、東京で仕事を探すよ!と言いながら抱きついて来ようとする。

私にはどうしようもないのよ!とさち子が突き放すと、君が嫌なら、俺は今勤めている田舎の役所を辞めないと坂田は言う。

さち子は、お母さんが帰って来たらしいわと外を観て、ちょっと玄関前に出てみたりするが、それは芝居だったので、自分で笑い出す。

戻って来たさち子は、私はお母さんを抱えているのよ。当分結婚なんか出来ない。20年も別れていたから、人にとられるような嫉妬心があるみたいなの…と母親の気持ちを代弁し、結婚ってそんなに幸福?生活の方便じゃないと冷めたように言うので、坂田も呆れたように、君も変わったな…と呟くのだった。

草津節を歌い踊りながら、ツネと共に愉快そうに帰って来たすが子は、2階に上がって、客が帰ったあとらしき様子を観る。

拭き掃除など始めた所に、さち子が帰って来たので、客は誰だい?と聞いたすが子だったが、松山の友達よというだけでそれ以上はしゃべろうとしない。

人が親切にしてやっているのに邪魔扱いして!と又すが子は癇癪を起こす。

堅気の女が男を連れ込んで酒を飲ませるなんてするもんじゃないと叱り、ツネも一緒になって説教し始めるが、さち子は玄関口の電気を消して黙らせると、2階に上る。

興奮したすが子は、薬でも飲まなきゃ眠れやしないとぼやきながら2階に上がる。

着替えをしていたさち子の下着の肩ひもが切れていることに気づいたすが子は、何をされたんだい?と心配し、さち子がその下に黒のブラジャーを着ていることを知ると、又小言を言うので、さち子は、今日簡易保険が来たわ。私の掛け金の方が多く、受取人は母さんなのね。いつも死ぬ死ぬと言っているくせに、影では保険を受け取る算段しているのはおかしいと言ってるのよと文句を言い返す。

翌朝、慌てふためいて下に降りて来たさち子は、母さんが起きないのとツネに告げ、医者を呼びに外に飛び出して行く。

2、3日後、雨が降って来た中、買い物に出ていたツネは、リヤカーを引っ張っていた八百屋の小僧が大根を1本落としたのに気づき拾い上げると、落としたのを自分が買うから負けてくれと交渉し、リンゴも2個20円で、合計30円で一方的に買って行く。

さち子の元へ戻って来たツネは、今30円で買った大根とリンゴを129円で売りつけるのだった。

もう布団の上に起きていたすが子は、世話焼かせてすまなかったね。あんまりむかついたから、薬の量をちょっと増やしたんだよと弁解し、2、3日、口も聞かないんだものと案じるさち子に詫びる。

そう言うの、ノイローゼとかヒステリーって言うのよと言い残して、下にリンゴを擂りにいったさち子だったが、すが子の方は、すっかり老け込んだ顔に久々に化粧してごまかすと、又華やいだような表情に戻ったので、上がって来たさち子は、母さん、藤村さんの所へ戻った方が良いんじゃないの?母さんのような暮らしをして来た人は、世間並みの暮らしをしようとすると退屈なのよと話しかける。

私のために自分を殺しているんだわ。お金は送りますから、この際、別々に暮らせる?と持ちかけると、そんな話を男と相談してたのかい!と、又、すが子は癇癪を起こす。

私は、下のおばさんみたいに田舎芸者で身売りしているんじゃないんだから!と吐き捨てたすが子は、雨の中、出て行こうとする。

降りて来たさち子は、良いのよ。あのままにしてあげて。あの人は、その方が幸せなのよとツネに頼む。

しかし、石階段の所で、すが子の下駄の鼻緒が切れたのを見かねたツネは助けに出て行く。

家に一旦戻って来たすが子は、高慢ちき!下駄の鼻緒でもすげてろ!と叫びながら、下駄をさち子に投げつけて来る。

その後、行方不明になった母を探してあちこち電話を入れたさち子だったが、「一福」の女将などは、おっ母さんなんてここにはいないよ!と怒鳴りつけ電話を切ってしまう。

そんなさち子は、駅に向かう坂田と偶然出くわす。

坂田は今日の最終で故郷へ帰ると言うので、自分も帰ろうかな?もう疲れちゃったとさち子が漏らすと、切符を渡すから、間に合うように必ず駅に来てくれ。待っているからと言い残して坂田は駅へ向かう。

探し疲れたさち子が家に戻ってみると、中から笑い声が聞こえて来るではないか。

出迎えたツネは、すが子は今日一日、デパートや映画館にいたと説明し、さち子のために買って来た前掛けや草履や人形や鯛寿司などをすが子は笑いながら披露する。

すが子は、さち子の顔を観ると、にこりと笑って見せただけで、どこへ行くったって、私にはさち子の所しか行く所ないんだものと甘えたように言う。

さち子は台所で、1人呆然としながらも、坂田から受け取った切符を破り捨てるのだった。

はしゃいで、ツネの前で深川などを踊ってみせていたすが子だったが、急に気分が悪いと言い出す。

翌日、美容院で病院から電話をして来たツネの報告を聞いたさち子は、チフスじゃなかったの?と驚愕し、日当を払うので世話をしてくれと頼む。

呆然としたさち子は、心配するアヤ子に、結核性脳炎ですってと教える。

そんな2人を、やって来たマスターが、私用でお客さんを放っておいちゃ困るよと叱る。

藤村を呼び出して喫茶店で会ったさち子は、母は、100%死ぬのは確実なんですと告げて泣き崩れる。

入院したすが子は、部屋に残って世話をしていたツネに、病気が治ったら、さち子を連れて100円温泉へ行こうと呟いていた。

その内、早く結婚させなきゃ!と言い出したすが子は、あの子は強情っ張りだけど、父親も母親もいなくて1人で生きて来たんだもの。当たり前よ。私は母親として生きようと思ってね…とうわごとのように語る。

氷でも口に含まないと、何も食べないんじゃぁ…などと言いながらツネが病室を出て行くと、ベッドで寝ていたすが子は、さち子!さち子〜!と叫び出し、頭が痛いよと苦しみ出す。

やがて、窓の方に目をやったすが子は、さち子かい?と誰もいない空間を見つめ、良く来たねえと喜ぶ。

そして、枕元の赤ん坊をあやすように、よしよし良い子だねぇ…と何かをなでる仕草をしながら、ねんねんよ〜♬おころりよ〜♬と子守唄を歌い始める。

その頃、さち子は藤村から、母親の入院代を出させようとしていた。

しかし、藤村は、そう図々しく金をせびられたんじゃ、男は浮気も出来んよと開き直り、3000円くらいだったら出せるけど、病院の費用を全部出すなんて…と渋っていた。

直る見込みがあるんだったらともかく…と言うので、さち子は、会っていた旅館の寝室を開け、私が母さんの代わりにと言い出す。

すると藤村は、ズベ公だねぇ君も…と苦笑し、早く帰って看病してやんなさいと忠告する。

さち子はヤケになったようにウィスキーを飲み始めたので、一緒に暮らしていると口調も似て来るもんだね。争えんもんだ…と呆れた様子。

やがて、酔ったさち子がウィスキーを藤村の服に浴びせ、身を投げ出したので、藤村は、良いのか?と呟いて、その身体を受け止める。

その後、金をもらって病院に駆けつけて来たさち子だったが、出迎えたツネから、遅かったよ、最後までさち子さんに会いたがっていたんだよと告げられる。

病室に来たさち子は、ツネに勧められるまま、死んだすが子の手を組ませてやる。

看護婦がやって来て洗面器にお湯を張り、こんな安らかな顔をして…と言いながら、すが子の顔を見ていたツネは、枕元に隠してあったビニール袋を引きずり出し、何が入っているのかを中を確認する。

それは、さち子名義の貯金通帳とお守りだった。

それを聞いていたさち子は、いや!お母さん、死んじゃ、いや!と叫びながら、すが子の痛いにすがりつくのだった。

葬式の後、墓参りにやって来たおてるやおなか、一恵、アヤ子たちに、ツネは、結局、お葬式もお墓も、全部、あの人の貯金で出したのよ。入院費はさち子さんが少し出したけれどと教えていた。

飛ぶ鳥後を濁さずよね…とおなかが感心したように呟く。

最後まで墓に手を合わせていたさち子は立ち上がると、思わず顔を両手で押さえ、嗚咽を押し隠すのだった。