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ヒューゴの不思議な発明

マーティン・スコセッシ監督による3Dファンタジー

この映画は非常に紹介しにくい内容になっている。

難解なのではない、ベースは子供向け映画のようにシンプルな作りなのだが、意外な展開があるので紹介しにくいのだ。

ミステリのように、最後の犯人だけ伏せておけば良いと言う訳にもいかない。

そうすると、この映画の魅力の基本部分をほとんど紹介できないということになるからだ。

なので、ストーリー部分だけではなく以下の短い感想文にも、どうしてもネタバレ部分を書かざるを得ない。

この紹介しにくさは、きっと映画の興行面でも障壁になるに違いないと思う。

例えて言えば、「太郎のステキな冒険」と言うタイトルの子供映画のようなものを観に行ったら、その中で黒澤明が登場するようなものだからだ。

黒澤の名を聞いて興奮するのは映画ファンだけだろう。

名前くらいは聞いたことがある程度の人では、そんなワクワク感は味わえないのではないか?

では、最初からタイトルを「黒澤明物語」にしていれば良かったのかというと、そうすると最初から黒澤ファンしか観に来ないはずだ。

この映画は、3Dという最新の映像マジックで、マジック映画の先人の仕事を再現したようなもので、その先人に付いて多少なりとも知識があった方がより楽しめる内容であることは間違いないと思う。

おお!これを映像化してくれたか!と言う感じ。

昔、映画史を書いた本などで観たことがある写真が3Dでよみがえっているのだ。

ここに描かれている人物が、晩年、駅の売店をやっていたことは本で知っていた。

孫にあたるマドレーヌ・マルテッド・○○○○著「映画の世紀を開いた わが祖父の生涯 魔術師○○○○」によると、映画の破産後、この人物は実際にモンパルナス駅の玩具の売り場をやっていたらしい。(○○○○の部分はこの人物の名なので、紹介文では意図的に伏せることにする)

この映画は、この孫娘の労作がベースになっているようだし、この孫娘がイザベルのモデルということなのかもしれない。

ただし、映画の中で語られている○○○○の過去部分は、大まかには正しいが細部はかなり違っている。

劇中に登場する機械人形の作者も○○○○ではなく、ジャン=ウジェーヌ・ロベール=ウーダンであるなど、誤解を招きかねない部分も多いので注意が必要だろう。

現実のこの人物はハッピーエンドではなかったかもしれないが、映画の中ではハッピーエンドにして救済してある。そこが又、映画ファンには泣ける所なのだ。

ただ、泣けると言っても、万人が号泣する類いの「お涙頂戴映画」にはなっていない。

ほろりとはさせられるが、特に、大感動する!と言った感じではない。

もっとハートウォーミングというか、観ていてほっとさせてくれるような映画だと思う。

3D効果も一画面ごとに計算し尽くされている感じで、濃密な美術世界が広がっている。

マーティン・スコセッシに、こうした感性があったとは…

映画の中のセリフではないが、さあ、共に夢を見ましょう!

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2012年、ブライアン・セルズニック原作、アメリカ映画、ジョン・ローガン脚本、マーティン・スコセッシ監督作品。

パリ

大きな駅の中にある大時計は7時を指していたが、その文字盤の「4」の所から、外の様子を観ていたのは、孤児のヒューゴ・カブレ(エイサ・バターフィールド)だった。

彼は、何年も、この駅の壁の裏側の世界で、時計のねじを巻いたり修理をしながら1人暮らしていたのだった。

別の場所の大時計の裏側に行き着いたヒューゴは、又外の様子を覗く。

そこからは、玩具の売店をやっている偏屈そうな老人(ベン・キングズレー)の姿が見えた。

その爺さんは、ネズミの玩具を動かしていた。

そこに、彼の孫娘のような少女がやって来て老人に話しかける。

老人はその少女を遠ざけると、居眠りを始めたようだった。

急いで壁の裏側から駅の中に出て、こっそりその玩具の売店に近づいたヒューゴは、ネズミの玩具をくすねようと手を伸ばした所で、眠っていたと思っていた爺さんから手を掴まれてしまう。

驚いたヒューゴは掴んだネズミの玩具を放してしまい、床に落ちた玩具は壊れてしまう。

さあ。捕まえたぞ!泥棒猫!と叫んだ所を観ると、老人は、最初からヒューゴを捕まえるつもりで「狸寝入り」をしていたらしい。

今までも何度もこの店から盗んでいたヒューゴは、ポケットの中のものを出せと言われ、渋々、左のポケットに入っていた布を取り出す。

中に包んでいたのは、ねじやゼンマイと言った玩具の部品だった。

そっちのポケットの中のものも出せと言われたヒューゴは、右ポケットの中から一冊の手帳を取り出してみせる。

その中をぱらぱらとめくってみた老人は、そこに描かれていた設計図のようなものや、不思議な人形をぱらぱらマンガのようにスケッチしたものを観て驚いたようだった。

お前が描いたのか?と老人から聞かれたヒューゴは頷くが、どうせどこかで盗んだものだろう?と言われてしまう。

それは盗んだものじゃないので、返して下さいとヒューゴは頼むが、誰が描いたのか言わないと返さないと老人は言う。

それでも、ヒューゴは、その手帳を返してくれと懇願するが、さっさと帰れ!さもないと、鉄道公安官を呼ぶぞ!と老人に脅されてしまう。

鉄道公安官は青い制服を着たヒゲの男(サシャ・バロン・コーエン)だった。

彼は左足を戦争で負傷しており、金属製の補助具をつけていた。

さらに、彼は、マクシミリアンという犬を連れており、絶えず、駅の構内を見回っていたのだ。

売店から一旦立ち去ることにしたヒューゴだったが、それを公安官とマクシミリアンが追い始める。

レストランの中を突っ切る際、巨大なデコレーションケーキを避けようとして楽団のコントラバスを左足で踏み抜き、絵描きのフリック(リチャード・グリフィス)とぶつかり、最後には、走り出した列車のノブに、左足の義足が引っかかってしまい、引きずられて行く。

ヒューゴは、その間に排気口から壁の裏側の世界に何とか逃げ込む。

駅の外に面した大時計の文字盤から見えるパリの町にはエッフェル塔が輝いていた。

タイトル

玩具の売店のシャッターを下ろしていた老人は、そこにいるんだろう?名は何と言う?と背後に立っていたヒューゴに聞く。

ヒューゴが名乗ると、私に近づくんじゃないと硬い表情のまま注意する。

しかし、ヒューゴは、あのノートを返して下さいと最後頼むが、これからうちに帰って燃やすんだと言いながら、老人は1人帰って行く。

駅を出て雪の降るまちを出た老人の後を、ヒューゴは思い切って追いかける。

外はヒューゴの粗末な服では寒過ぎたが、どうしてもあのノートを燃やされてはいけなかったからだ。

ヒューゴは、アパートにたどり着いた老人が、自分の部屋に戻り、妻らしき老婦人と会っている様子を、路上から見上げていた。

気がつくと、隣の部屋に、駅で時々見かける老人の孫らしき少女がいた。

ヒューゴは小石をその少女の部屋の窓に投げ、降りて来てくれと手招きする。

警戒の色を浮かべながらも、下に降りて来た少女が何の用事?と聞くと、君のパパが、僕の手帳を返してくれないんだとヒューゴは事情を話す。

パパジョルジュはお父さんではないと訂正した少女は、あなたはどう観ても真人間じゃないとヒューゴのことを睨みつける。

それでも少女は、好奇心が強いようで、秘密があるのね?素敵!秘密って!と目を輝かす。

取り戻すまで帰らないと雪降る路上で言うヒューゴを哀れんだ少女は、ノートを燃やさないように見張ってあげると約束する。

駅の壁裏にある、自分の居場所に戻って来たヒューゴは、テーブルの向こうにかけてあった布をどけ、その下に置いてある機械人形を観る。

(回想)それは、時計職人だった父(ジュード・ロウ)が博物館の倉庫に眠っていたのを見つけて来たものだった。

こんな精密に作られた機械を観たことがない。この人形は文字を書けるんだ。作ったのはマジシャンに違いないと父は感激していた。

人形は、母さんが育ったロンドンで作られたらしい。

父さんは、仕事の終わった後、この人形を修理してみようとヒューゴに約束する。

人形の背中の部分に一部には、ハート形の鍵穴があった。しかし、その鍵は博物館にはなかったと父は言う。

その日から父は、人形に関する詳細な情報やスケッチをノートに描き続ける。

そんなある日…

父の帰りを待っていたヒューゴの元に、アル中のクロードおじさんがいきなりやって来て、火事があって、父が亡くなったので、荷物をまとめて俺に付いて来い。俺の弟子にしてやると言い出す。

愕然としたヒューゴだったが、両親がいない身となった今ではその言葉にしたがうしかなかった。

クロードおじさんは、駅の壁の裏の世界に住み、そこで駅構内にある大時計の修理や時間合わせをして暮らしていた。

そして始終、酔っていた。

ヒューゴが学校のことを聞くと、壁の中で暮らして行けば学校なんか行く必要がないとクロードおじは言った。

俺がいなかったらお前は孤児院行きだ。

こうしてヒューゴは、外の世界に出ることなく、駅の壁の中でずっと暮らして来たのだった。

(回想あけ)翌朝、いつものように、駅構内に出たヒューゴは、パン屋の前に置かれたクロワッサンと牛乳を万引きして戻ろうとするが、その時公安官がいるのに気づき身を隠す。

どうやら公安官は、花屋の娘リゼット(エミリー・モーティマー)に近づきたがっているようだったが、途中で、左足の補助具が引っかかってしまい、それを恥じたのか、結局、近づくのを諦めてしまう。

その後、ヒューゴは、又、玩具の売り場にやってくる。

爺さんは、又来るんじゃないかと思っていたと言い、ノートを返して下さい。あれがないと修理できないんですと頼むヒューゴに、折り畳んだハンカチを差し出す。

置けとったヒューゴが、そのハンカチを用心深く広げてみると、中には紙を焼いた燃え滓が入っていたので、ヒューゴは思わず泣き出してしまう。

そんなヒューゴに爺さんは、帰りなさい。頼むから帰ってくれと哀しそうに頼む。

とぼとぼと店を離れていたヒューゴは、そこに爺さんの家に住んでいた少女が立っているのに気づく。

泣いてるの?と聞いて来た少女は、イザベル(クロエ・グレース・モレッツ)と自己紹介すると、素晴らしい場所に案内してやるとヒューゴを誘う。

そこは図書館だった。

そこの馴染みらしいイザベルは、司直のラビッス(クリストファー・リー)にヒューゴを紹介する。

イザベルは落ち込んでいるヒューゴに、パパジョルジュはまだノートを燃やしてないわ。夕べは、ママジャンヌと遅くまで起きていて泣いていたみたいと教える。

ヒューゴが、何故僕を助けようとするの?と聞くと、イザベルは、冒険が待っているかもしれないから。私、本の中でしか冒険を知らないのとあっけらかんと答える。

本は嫌い?と聞いて来たイザベルに、昔、父さんとジュール・ヴェルヌを読んだことがあるよと答えるヒューゴは、どうしたらノートを取り戻せる?と聞く。

男らしく頼むことよ。毅然としてねとイザベルは教えてくれるが、もう一度、玩具の売店に行き頼んでも、爺さんはさっさと帰れというだけだった。

しかし、あまりにも真剣なヒューゴの目を観ていた爺さんは、直せるか?直してみろと、昨日、ヒューゴが落として壊したネズミの玩具を差し出して来る。

道具もここにあるものを使って良いと言う。

ヒューゴはすぐさまネズミの修理に取りかかり、あっという間に元の状態に戻してみせる。

それを目の当たりにした爺さんは、お前には才能がある。明日からこの店の手伝いをして、これまで盗んだものの償いをするんだと言い出す。

それを聞いたヒューゴは、自分にも仕事があるので、その仕事を終えた後で良ければ手伝うと約束する。

やがて、玩具の売店を手伝うようになったヒューゴは、爺さんがカードマジックの名手であることに気づき、手ほどきを受けたりし始める。

壁の裏の自分の部屋に戻ったヒューゴは、あの機械人形に、覚えたカードマジックを披露してみせたりする。

やがて、何とか機械人形の修理が完成し、背中のクランクを回してみたヒューゴだったが、人形は動かなかった。

やはえい、ハート形の鍵がないとダメだということが分かる。

ある日、ヒューゴは、乗降客がイスに捨てたゴミをあさっていた男の子が、公安官に捕まえられる所を目撃する。

男の子が両親がいないと言うと、では孤児院送りだと言い、公安官は一時的に檻に入れると、菓子パン泥棒がいるので引き取りに来てくれるように警察に連絡を取る。

公安官は、電話相手で、その後、男の子を護送車に乗せるため駅にやって来た警官の奥さんがいなくなったということを心配していた。

イザベルと図書館で会ったヒューゴは、ロビンフッドの本を観て、ダグラス・フェアバンクスの映画で観たことがあると話すと、イザベルの方は、パパジョルジュが観ては行けないというので、今まで映画と言うものを観たことがないと告白する。

ヒューゴの父さん、死んだの?と聞いて来たイザベルに、ひゅーごは、その話はしたくないと口を閉ざす。

その後、イザベルに、本当の冒険してみない?と誘ったヒューゴは、とある映画館の裏側の扉の鍵を金具で開けると、勝手に映画館に忍び込み、サイレント映画のハロルド・ロイドが大時計の針にぶら下がる「ロイドの要心無用」をこっそり観る。

しかし、すぐに支配人に見つかり、2人は映画館から追い出されてしまう。

でも2人はご機嫌だった。

どうしてパパジョルジュは映画を禁止しているの?両親は同下の?とヒューゴはイザベルに聞く。

イザベルは、両親はいず、パパジョルジュは名付け親なのと答えただけだった。

ヒューゴは、父さんがはじめて観たという、ロケットが月にぶつかり、月が痛がる映画のことを話してくれたと言う。

イザベルはヒューゴがどこに住んでいるのかと聞く。

ヒューゴはイザベルを駅に連れて行くが、又、雑踏の中で公安官が立っているのに気づき、イザベルのかぶっていたベレーを取って自分がかぶると、そのまま普通に歩いてとイザベルに頼む。

しかし、2人は公安官に呼び止められてしまう。

公安官から身元を聞かれた2人だが、イザベルは、玩具売り場のもので、お会いしたことがあるでしょう?この子は田舎から出て来た従兄弟で、ぼんやりしているんですと説明する。

公安官が連れている犬マクシミリアンはヒューゴを怪しいと感じたのか睨みつけ、公安官も怪しむが、きっと、私が飼っているクリスティーナ・ロセッティと言う猫の匂いがこの子の服に付いたんでしょうとイザベルがごまかしてくれる。

その猫の名前は詩人の名前を付けたのと説明したイザベルが、その詩人の詩を朗読し始めると、公安官は、その詩人は知っているが、駅の構内で詩を朗読するのはいかんと言いながら去って行く。

どうやら詩は苦手のようだった。

私はあなたの命の恩人なんだから、あなたのメゾン(住まい)を見せてもらうわ。あなたの友達は私だけなんでしょう?とイザベルが姉さん口調で威張ったので、ヒューゴは、やっぱり駅の外に出るんじゃなかったと悔やみ、さっさと、雑踏の中に消えようとする。

それを追うイザベルは、雑踏にもまれ転倒してしまう。

ヒューゴ!と呼んだイザベルの元に戻り、助け起こしたヒューゴだったが、転んだ時、イザベルの胸元から飛び出した、首から下げたハート形の鍵を見つけて驚く。

それが必要なんだ。来て!と頼んだヒューゴは、イザベルを壁の裏側の世界へ案内する。

イザベルは、ジャン・バル・ジャンになった気分と、壁の裏側の世界を楽しんでいる様子だった。

ヒューゴの住まいである部屋に置かれた機械人形を観たイザベルは、驚くと共に、どうして私の鍵が、あなたの父さんの人形に?と不思議がる。

哀しそうな顔ねと言うイザベルに、きっと待ってるんだよ。動くのを。勤めを果たすのを…とヒューゴは答える。

ネジを巻くとどうなると思う?と好奇心に目を輝かせるイザベルに、ヒューゴは分からないと答えながらも、変な話だけど、メッセージをくれるんじゃないかと思うと言いながら、ヒューゴは人形の背中のクランクを巻き、イザベルの持っていたハート形の鍵を差し込んでみる。

機械人形はゆっくりと動きだし、テーブルの上に置いた神の上にペンで何かを書きかけるが、それは途中で止まってしまい、紙には意味不明な線しか残っていなかった。

それを見たヒューゴは絶望し、僕はバカだ!直せもしないのに!と嘆きながらソファに崩れ落ちる。

きっと直せるから…とイザベルは慰め、これが直せなかったら、僕は一人ぽっちだとヒューゴは泣く。

しかし、次の瞬間、止まってしまったかに思えた機械人形が再び動き出し、再び紙にペンで何かを書き始める。

完成したのは、文字ではなく、ロケットが右目に刺さり、痛がっている月を描いたスケッチだった。

最後に人形は、「ジョルジュ・メリエス」とサインをして動きを止める。

父さんが観たって言ってた映画だ!とヒューゴは驚き、イザベルの方は、このサインの名前はパパジョルジュのものよ。何故、この人形が書くの?と唖然とする。

ありがとう、これが父さんからのメッセージだとヒューゴは礼を言うが、イザベルはままに聞いてみるわ。意味を解き明かさないと…と呟いたイザベルは、自分のアパートにヒューゴを連れて行くと、出迎えたママジャンヌ(ヘレン・マクロリー)に紹介する。

ママジャンヌは、こんにちは…と挨拶したヒューゴを観て、礼儀正しいのね、泥棒にしては…と皮肉を言う。

しかし、ヒューゴは、機械人形が描いたスケッチをママジャンヌに見せる。

すると、ママジャンヌはショックを受けたようで、まあ、あなたたち、何をしたの!どこでこれを?と問いかけて来る。

ヒューゴは、言っても信じないでしょうが、機械人形が描いたんですと答え、意味が知りたいんですと訴える。

あの機械人形を動かすには、あなたにあげたハート形の鍵がないとダメなはずよ…と言いながら、ママジャンヌはイザベルを睨む。

そしてママジャンヌは、あなたにはまだ分からなくていいの。悲しみを知るには早すぎると言いながら、ヒューゴを追い出そうとする。

その時、足音が響いて来て、パパジョルジュが帰って来たことが分かる。

慌てたままジャンヌは、イザベルとヒューゴを空き部屋に入れ、決して音を立てないようにと命じる。

その時、ママジャンヌが部屋の奥にあるタンスの方を観ていたことに気づいたヒューゴは、パパジョルジュがママジャンヌと会話を始めたのにも構わず、タンスの中を調べ始める。

ヒューゴは物音を立てるのにも無頓着で、パパジョルジュの気を惹こうとしていたママジャンヌをヒヤヒヤさせる。やがて、タンスの上の棚に秘密があるのではないかと気づいたヒューゴは、イザベルに眼で合図をする。

イザベルは、自分の方が背が高いからと言い、イスに乗ると上の棚の中にしまってあった箱を取り出す。

しかし、喜んだ途端、イスが壊れ、イザベルは転倒、箱に入っていた多くの紙が室内に散乱する。

その紙には、色々なスケッチが描いてあった。

あの、ロケットが刺さった月に絵もその中に混じっていた。

気がつくと、ドアの所にパパジョルジュが立って、イザベルとヒューゴを睨みつけていた。

悪魔がよみがえったと言いながら、パパジョルジュは、拾ったスケッチの数枚をその場で引き裂こうとするが、ママジャンヌが、止めて!あなたの作品じゃない!と言う。

しかしパパジョルジュは、作品だと!とさらに怒り狂い、これがお前の恩返しか?!とヒューゴを睨みつける。

ヒューゴは黙って帰るしかなかった。

玄関まで送って来たイザベルは、ありがとう、映画を見せてくれて…とヒューゴに礼を言う。

落胆して駅に帰って来たヒューゴは、本を持っていたラビッス老人とぶつかり、本を床に落としてしまう。

それはロビンフッドの本だった。

謝罪しながら本を拾い返そうとしたヒューゴだったが、ラビッス老人は、これはあげる本だったが、君にあげよう、ヒューゴと言ってくれる。

鉄道公安官は、その日も花売り娘のリゼット(エミリー・モーティマー)に声をかけたそうだったが、勇気がないようだった。

毎日、喫茶店の前のテーブルに愛犬と座っている老婦人から、一番の笑顔で声をかけたら良いじゃないと勇気づけられたので、思い切ってリゼットに近づいて声をかけてみる。

花のことを聞いた公安官に、リゼットは、それはグルドンから列車出来たもので新鮮ですと答える。

その鼻の匂いを嗅ごうと顔を花に近づけた公安官だったが、その時、又、左足の義足が引っかかってしまう。

公安官は、それを恥じたように立ち上がると、戦争で足をやられたんです。これはもう直りませんと言い訳して去ろうとする。

すると、リゼットも、自分の兄も戦争で亡くなったと言いながら、花を1つ摘むと、それを公安官の胸に刺してやる。

公安官は、失礼します。マドモアゼルと挨拶して、ちょっとうれしそうに去って行く。

後日、ヒューゴとイザベラは、ラビッスに教えられ、映画アカデミーの資料室にやってくる。

そこには映画に関する本や資料が大量に収蔵されていた。

ラビッスから教えられた棚に行くと、確かに、映画の創成期のことに付いて描かれた本が見つかった。

ヒューゴとイザベルは、その本を読み始める。

映画は最初見せ物だった。

列車が走って来る映像だけで、観客は轢かれると思い逃げまとったくらい。

やがて映像に物語が加わり、芸術になって行く。

ハロルド・ロイドやチャップリンの時代だ。

そして、「月世界旅行」と言う映画が紹介されていた。

あのパパジョルジュの描いた絵と同じシーンがある映画、ヒューゴの父さんがはじめて観たと話してくれた作品だった。

ジョルジュ・メリエスは、映画には夢見るパワーがあることに気づかせてくれたが、大戦中に惜しくも亡くなった…と描かれていた。

亡くなった?パパジョルジュは生きているわ!イザベルとヒューゴが不思議がっていると、ひげを生やした青年に声をかけられる。

イザベルは、それが、この本の裏側に写真が載っている著者本人だと気づく。

イザベルは、パパはぴんぴんしているわとその著者ルネ・タバール(マイケル・スタールバーグ)に教えるが、タバール教授は、なかなかそれを信じようとはしなかった。

何か証拠あるかね?と聞いて来たタバール教授に、だって本当に生きているから…、じゃあ、一緒に来てとイザベルは誘う。

まだ、信じられない様子のタバール教授は、メリエスは私に取って憧れだよ。

実は1度だけ会ったことがあるんだ。

兄が、映画の大道具の仕事をしていたので、子供の頃、1度撮影所に連れていてもらったことがあるとタバール教授は告白する。

(回想)ロベール・ウーダンが作ったクリスタルハウスは夢のようなスタジオだった。

もちろんそれは、フィルムの感度が悪かった時代だけに、太陽光を有効に使うために考案された全面ガラス張りのスタジオだったが、メリエスはそこで、自ら脚本を書き、大道具を作り、自ら役者としても出演していた。

元々彼は魔術師だったのだ。

その頃のメリエスはとても幸せそうだった。

子供だったタバール教授に気づいたメリエスは役者の扮装をしていたが、夢が観たかったら見回してごらん。ここで作られているんだよと優しく教えてくれた。

彼は500本以上の映画を作ったんだ…

(回想あけ)何故止めてしまったの?イザベルは不思議がる。

タバール教授は、時の流れは古い映画には過酷だ。

現存するメリエスの映画は1本だけ。だが、これは今でも名作だよと、自分の部屋に2人を連れて来たタバール教授は、フィルム缶を取り出して見せてくれる。

その後、駅の天井から吊り下がった大時計の中に、ネジを巻くため戻って来たヒューゴと共にやって来たイザベルは、あの映画を見せたらパパも驚くわと期待する。

もっときらびやかな演出をするんだとヒューゴには何か考えがあるようだった。

その時、ヒューゴはうっかりスパナを1本、下に落としてしまう。

まずいことに、その落ちた側には公安官が犬のマクシミリアンと共に立っていた。

公安官は下から吊り下げ型大時計を見上げ、クロードさん?いるのか?困るじゃないか、こんなものを落としたら、誰かに当たったら大けがすると文句を言う。

ヒューゴは、もうずっと、クロードの代わりに自分が時計のネジを巻いたり修理をしているのを知られるわけにはいかなかった。

クロードは酔い潰れて返事をしないと勝手に想像した公安官は、何とかその場を立ち去る。

ヒューゴは、ラビッスさんがこの前本をくれたと打ち明けると、あの人は良き家に本をあげたがるのとイザベルが教える。

何かきっと目的がある。

イザベルを、外が見渡せる大時計に誘ったヒューゴは、時計は時を知らせ、記者は人を運ぶ。みんな目的を持っている。人間も同じだ。ラビッスさんも…。

目的をなくしたら壊れてしまうんだ…、でも直せるかも…、そうヒューゴは呟く。

それがあなたの目的なのねとうらやましがったイザベルは、私にはないわと寂しげに答える。

ヒューゴは父さんがやっていたから…と弁解するが、きっと親が生きていたら私にもあったんでしょうけど…とイザベルはつぶやく。

ヒューゴは、ここからパリの町を観ていると、世界は大きな機械みたいに見える。

この世の中には、必要でないものなんてないんだ。僕も何か目的があってここにいるんだと思う。もちろん君にも理由はあるんだよ…とイザベルに語りかける。

その日、パパジョルジュは、いつものように売店のシャッターを閉じて帰宅する。

その様子をこっそり監視していたヒューゴは、明日の晩、タバールさんを連れて行こう。それまで絶対内緒にしておこう。他に方法はないとイザベルと相談する。

イザベルはそんなヒューゴの頬にキスをして帰る。

懐中時計をベッドの横に下げ、ヒューゴは壁の裏の自分の部屋で眠ることにする。

翌朝、ヒューゴは、駅のホームの横を通る時、線路の上にハート形の鍵が落ちているのに気づき、線路に降りてそれを拾い上げる。

その時、汽車が一台、駅に近づいていた。

運転士は、線路上に子供がいるのに気づき、急ブレーキをかけようとするが、汽車は惰性が付き止まらない。

汽車は線路から脱線し、人でごった返す駅の構内を突っ走り出す。

汽車は、駅を突っ切り、表のガラス戸を突き破り、路上に転落してしまう。

それは夢だった。

目覚めたヒューゴは、機械人形が自分の方を見つめていることに気づく。

昨日吊るしたはずの懐中時計もなくなっていた。

しかし、時計を刻むゼンマイの音は間近から聞こえていた。

嫌な予感がして自分の服をはいでみると、いつの間にかヒューゴの身体は機械仕掛けになっていた。

恐怖に駆られたヒューゴは、やっと本当に目が覚めるのだった。

その頃、クロード・カブレの死体が、セーヌ川沿いに引揚げられていた。

自宅で寝ていた所に、警察からの電話を受けた公安官は、クロードが死んでいたということは、今まで誰が駅の時計のネジを巻いていたんだ?と考える。

その日、ヒューゴとイザベルは、クロード教授を連れてパパジョルジュヌのアパートへやって来る。

それを迎えたママジャンヌは、その少年をうちに入れないでとイザベルに命じる。

パパジョルジュが誰か分かったんですとヒューゴは訴えるが、夫は体調を崩して寝ているんですとママジャンヌは言う。

クロード教授は、場の雰囲気を察し、お会いできる最後のチャンスだとしたら、ご主人に礼を言いたかったんです。僕は全部観たんです。ご主人は非凡な芸術家ですとママに話しかける。

夫はかなり弱っています。過去を思い出すのが辛いんですとママジャンヌは答える。

もし、帰る前に一言言って良ければ…とクロード教授は玄関前で名残惜しそうに、あなたは今でもおきれいです。映画の中と同じように…と告げる。

それを聞いたイザベルは、ママ、女優だったの?と驚きを隠せなかった。

ママは、女優なんて…、時代が違ったし…と恥ずかしそうに答える。

観たいですか?フィルムがあるんですと、クロード教授は持って来た映写機とフィルムを見せる。

では、ちょっとだけよと言いながら、隣の部屋で寝ているパパジョルジュを起こさないように気遣いながら、ママジャンヌは映写を許す。

映写されたフィルムは「月世界旅行」だった。

ヒューゴは、父さんがはじめて観たという映画に出会えて心から喜んでいた。

途中から、フィルムに色がついていることに気づくと、ママジャンヌは、1コマ1コマ手で色を付けたのよと解説してくれる。

やがてイザベルは、そこに写っていたママジャンヌを発見し、凄い美人だったのねと褒めると、後ろから「今も変わらない」と声が聞こえる。

いつの間にか、パパジョルジュが立っていたのだ。

今でも、映写機の音はすぐ分かるとパパジョルジュことジョルジュ・メリエスは言う。

ジョルジュ、あなたは必死に過去を忘れようとしていた。でもそれは、苦しいだけだけだったわね…。もうそろそろ、思い出しても良いんじゃない?とジャンヌが声をかける。

知りたいか?とメリエスは語り出す。

君のように直すのが好きだった…とメリエスはヒューゴを観る。

私はマジシャンで、ママジャンヌはその助手だったのだ。

(回想)手品を劇場で披露しているメリエス。

2人の手品は大成功し、自分たちの劇場を持つまでになった。

そんな時、私は機械人形を作った。

魂と心を持たせた。

ある日、ママジャンヌと一緒に巡業サーカスを観に行った時、私はシネマトグラフという見せ物に出会った。

リュミエール兄弟が映画を発明したのだ。

作品はただ、汽車が駅に入って来る所を写しただけのものだったが、それは新しい手品のようだった。

私は夢中になり、リュミエールに譲ってもらえないかと頼んだが断られた。

彼は、映画はすぐに廃れる見せ物に過ぎないと思っていたようだった。

それで私は自分で撮影機や映写機を作った。

そして、映画に手品を取り入れた。

美しい妻と共に私は夢中で映画を作り、終わりなど来るはずないと思っていた…。

だが、戦争が始まった。

帰還した兵隊たちは、現実を観過ぎたせいか、誰ももう映画になんかに興味を抱かなくなっていた。

クリスタルハウスは崩壊し、私はセットや衣装を全部燃やした。

フィルムは溶かされ、ハイヒールのかかとになった。

その時、フィルムを売った金で、私は玩具の売店を買い取った。

1つだけ壊せなかったのは機械人形だった。

博物館に寄贈したが、展示もされず倉庫にしまわれた。

残ったのはセルロイドのクズだけ…

(回想あけ)人生で学んだのは、ハッピーエンドは映画の中にしかないんだと言うこと…、そうメリエスは寂しそうに語り終えた。

すぐに戻って来る。そう言い残してヒューゴは駅に戻る。

駅構内では、何度も、喫茶店の前の老婦人に近づきながら、愛犬に邪魔されていた画家のフリック氏が、大きな駕篭を持って来て開けると、中には雌犬が入っていた。

老婦人の犬は、その雌犬を気に入ったようだった。

老婦人は感謝し、フリック氏はようやく老婦人と話すチャンスを得ることが出来る。

ヒューゴは公安官に気づき、喫茶店の横に身を隠す。

公安官は、リゼットや老婦人、フリック氏に、クロードの遺体が見つかったそうです。何ヶ月も川の底に沈んでいたそうですと教えていた。

その時、ヒューゴは、老婦人とフリック氏の犬が、自分の前に来ていることに気づく。

ヒューゴは何とか、自分に興味津々と言った感じの2匹を追い払おうとするが、次の瞬間、公安官に捕まってしまう。

こいつは駅にずっと潜り込んでいた!驚いたリゼットが自分を観ていることを意識しながら、そう得意げに告げた公安官は、警察に連絡する間、ヒューゴを自室の牢に入れる。

公安官は、お前も孤児院で色々学ぶんだ。俺も学んだ、一人でも生きていけることを…と言いながら公安官は警察に電話すると、相手の奥さんは戻って来たという。

公安官が電話をしている間、ヒューゴは持っていたねじ回しで、牢の鍵をこじ開けて逃亡する。

それに気づいた公安官は、犬のマクシミリアンを放つ。

ヒューゴは壁の裏の世界に逃げ込むが、公安官も排気口が半開きであることに気づき、マクシミリアンと共に、壁の裏の世界に侵入して来る。

表に面した大時計の中に追いつめられたヒューゴは、文字盤のガラスを外し、時計の外に逃げる。

やがて、公安官とマクシミリアンが、匂いを頼りに大時計の部屋にやって来る。

ヒューゴは、時計の針を伝って、なるべく外側の方へ身を隠そうとする。

その時、時間が進み、時計の長針が傾いたので、ヒューゴは思わず、ロイドのように大時計の長針にぶら下がってしまう。

しかし、公安官はヒューゴを見つけ出すことが出来ず、マクシミリアンと共に去って行く。

ヒューゴは、時計の縁に立つと、又ガラスの一部から中に入り込み、無事、自室に戻ると機械人形を持って駅から出ようとする。

ところが、そこに公安官が待ち受けており、捕まりそうになったヒューゴの手から、機械人形が飛び出し、線路に落ちてしまう。

それを拾おうとヒューゴは線路に飛び降りるが、夢の中と同じように汽車が迫って来る。

子供がいるぞ!そう叫んだ機関士は、思い切り急ブレーキをかけるが汽車はなかなか止まらない。

その時、機械人形を抱いたヒュゴの手を、ホームにいた公安官が引っ張りあげてくれる。

公安官はヒューゴに、孤児院に行くんだ!と睨みつけて来る。

これには訳があるんだ。謎を解きたいんだ。父さん、どうして死んだのか。僕を残して…と説得しようとしたヒューゴだったが、その時、メリエスとイザベルが目の前に立っていた。

その子はわしが引き取るとメリエスは公安官に言ってくれる。

ごめんなさい。壊れちゃったと言いながら機械人形を見せたヒューゴだったが、メリエスは、良いんだ。勤めは果たしたと言いながらヒュゴの肩を抱いて駅を去る。

リゼットが、呆然とする公安官の側に近づいて来る。

とある大劇場は満員だった。

舞台に立ったタバール教授は、今日は、映画アカデミーの新たな研究員となった作品を楽しみましょうと挨拶する。

カーテンが開いてスクリーンの前に登場したのは、正装したメリエスだった。

お集りの皆さん!今日私がここに立つことが出来たのは、1人の少年のお陰ですと言いながら、客席に座ったヒューゴを観る。

客席には、ママジャンヌもイザベルも公安官もリゼットもみんな観に来てくれていた。

さあ、共に夢を見ましょう…と言いながら、舞台のメリエスが横を向いて煙草をくわえると、それはスクリーンの中で同じようにタバコをくわえた若きメリエスの姿になる。

スクリーンには、その後、国中を探しまわり見つけた新たなものも含む何本かのメリエス作品が映し出される。

映写後のパーティ会場で、公安官は、ヒューゴが作った新しいピカピカの義足をつけていた。

部屋の隅のテーブルでは、イザベルが本を書いていた。

昔、私は1人の少年と出会った。

答えは、この本の中で明らかになる…

その部屋の外の廊下には、あの機械人形が飾られていた。