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絵の中のぼくの村

絵本作家田島征三の原作の映画化。

子供時代を慣れない田舎で過ごした双子の少年が経験した不思議な経験を淡々と描いてある。

河童や一反もめんのような妖怪や土地の精霊のような三婆が登場したりしている。

彼らは、少年の目にだけは写るのか?

しかし、この作品は、良くある子供向けファンタジーと言った感じではない。

背景となっている時代が時代だけに、貧しい家の子や偏見を持った教師や、閉鎖的な村人たちなど嫌な現実も登場し、その姿も兄弟はしっかり目に焼き付けている。

優しい彼らの母親ですら、1人の少年だけは家に上げようとしない。

これは、当時を知らない世代の人が観ると、理解できない行動だと思う。

姉の育子が言っているように、この母親は教師ということもあり、普段はどんな貧しい家の子でも同じように可愛がっている知性を持った人なのである。

そんな人でも、当時は、親として最後のタブーがあったのだ。

この辺は、当時を知らないとピンと来ないかもしれない。

センジは、河童の化身だったという風にファンタジックに解釈することも出来るし、何か、当時、差別されている人の象徴だったとも解釈できる。

主人公の兄弟たちは、まだその頃幼かったということもあり、その辺を深く考えることはないし、映画も結論を出すようには描いていない。

あくまでも、観た人が自由に解釈できるように描いてある。

この映画は、良くある、少年たちの成長物語と言ったパターンにもなっていないし、何か、わざとらしいお涙ものにもなっていない。

あくまでも、子供の目から観た1948年頃の地方の日常生活の断片なのだ。

そんなこの作品は、子供は子供なりに楽しめるかも知れないし、大人は大人で懐かしさと共に、何か心の奥底に残っていた苦いものを思い出したりすることにもなるかも知れない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1996年、シグロ、田島征三原作、中島丈博脚本、東陽一脚本+監督作品。

トンネルを抜けた先にある駅で降りた絵本作家田島征三(本人)は、駅前に迎えにきてくれていた双子の兄の田島征彦(本人)の妻田島英子(本人)の運転する車で、兄のアトリエにやって来る。

兄征彦は、今正に、絵巻のような新作を制作中だった。

今回2人は、一緒に1冊の絵本を作る計画だった。

彼ら2人は今でこそ、東京と京都に分かれて暮らしているが、子供時代の一時期、高知に住んでいたことがあった。

その村での出来事は懐かしい経験とは言えない。抱きしめたいほど愛おしい思いでが一杯つまっている。

タイトル

昭和23年(1948年)高知の夏

土砂降りの雨の中、バケツと釣り竿を持って帰って来る2人の男の子。

一卵性双生児の田島征三(松山慶吾)と田島征彦(松山翔吾)だった。

バケツの中に入っていたのはナマズだった。

家に帰って来た2人は、濡れた服を脱ぎ、素っ裸になってはしゃいでいたので、姉の育子(真々田瑞季)が、早く着替えないと、カミナリ様におチンチンを取られちゃうよと注意するが、2人は、カミナリ様が取るのはへそだ、姉ちゃんはおチンチンがないからカミナリ様に取られたんだろうと言い返す。

食事の時、母親の瑞枝(原田美枝子)は、お姉ちゃんはあんた等みたいな子供を生むためにお腹の中に袋があるので、おチンチンなんかはいらないものはないのだと2人に言い聞かす。

その後、母屋のタシマのジンマ(小松方正)が、物置の前にバケツを置いたのはここの双子やろ?生臭くてかなわんと文句を言いに来る。

ジンマが帰ったあと、育子は、父さん、おってくれたらね。どうしてこんな所に住まんといかんが?と愚痴る。

征彦は、そのジンマの後をつけて外に出るが、ジンマは外の便所から母屋に帰ると、妻のトシエ(岩崎加根子)を前に、マッカーサーが悪いなどと独り言を言っていた。

夜中、傘をさして土砂降りの中に出て、バケツの様子を見に行った征彦だったが、中のナマズは逃げ出していた。

寝ていた征三は、雨の中、はねて逃げ、川の中に落ちて逃げ延びるナマズの夢を見ていた。

一方、征彦の方は、行水盥の中で鯉と戯れている夢を見る。

翌朝、2人ともオネショをしていた。

母が2人の布団を干している中、育子と2人の兄弟はそれぞれ学校へ行く。

春川小学校には、いつも裸足で通学している八木ハツミ(山内美佳)と言う貧しい家の娘がおり、いつも学校へ来ると、水道の水で汚れた足を洗って教室へ入っていた。

ハツミは、教室の後ろに貼られていた征三と征彦の絵を熱心に眺めていたが、2人の絵を理解できない男の子たちは、えこひいきじゃ!と騒ぎ出す。

その時、瑞枝が1人の少年を連れて教室に入って来る。

瑞枝は、兄弟の担任だったのだ。

瑞枝は、連れて来た浮浪児のような汚い格好をした少年を、新入生の中井センジ(田宮賢太朗)と紹介して一番後ろの席に座るように指示する。

センジが後ろへ向かう途中、男の子が足を引っかけようと自分の足を机の下から出すが、センジは苦もなくその足を避けると、何事もなかったかのように一番後ろの机に座る。

瑞枝は、さっき「えこひいき」と言う言葉が聞こえましたが、兄弟の絵を貼ったのは、絵が良かったから貼っただけで、自分の子供だから貼った訳ではありませんと説明する。

下校時、育子と一緒に帰って来ていた女子中学生等が、双子の兄弟を珍しがって取り囲む。

恥ずかしがってしゃがみ込んだ2人を育子が立たせて先に帰る。

そんな兄弟の後をセンジがずっと付いて来るので、君んちはこっち?と聞くと、首を振ったセンジは去って行く。

そんな子供たちの様子を見ながら、木の上に座った不思議な3人の老婆(小川港、北川留壽、筒井二三四)が、あの子は、中井村の感化院から出て来た子だとおしゃべりをしていた。

家に帰って来た兄弟は、外にいたジンマから、ヤギが腹減らしている。朝草を刈って来なかっただろう?今から刈って来いと叱られたので、鎌を持って草刈りに行くが、面白くないので、畑に植えてあった里芋の茎を片っ端から刈り取り始める。

それを見つけた畑の主のウシバンバ(杉山とく子)が叱りつける。

夕方、事情を聞いた母の瑞枝は、ウシバンバに米を持って謝りに行くが、あんたは学校でえこひいきしているそうやないか?同じ顔の双子がちょろちょろして、妖怪じゃが、あの2人はなどと言われ放題だった。

それでも、帰宅して兄弟に、里芋の茎を切ったときは気持ちよかったろうね?と優しく問いかけ、母さんもやってみたかったわと笑うだけで、瑞枝は2人を叱ることはなかった。

しかし、瑞枝は学校で、イワタ校長(上田耕一)から呼び出され、軍の展覧会に兄弟の絵だけを出品したのは、こういう村では色々噂になるのでどうかと思うと注意される。

イワタ校長自身も算数の授業を受け持っていたが、いつもいたずらをする兄弟を快く思っておらず、良く2人を殴ったり、教科書自体を持っていないセンジを叱りつける。

その日、センジと征彦は居残りを命じられるが、センジの方は教科書を持っていないので免除され、征彦だけ1時間かけ算の計算をやるようにイワタ校長から言いつけられる。

しかし、征彦は放課後、さっさと帰りかけたので、見つけた教師が居残りをせんかと注意するが、僕は征三ですと言って帰ってしまう。

すると、教師は双子を見誤ったと思い、もう1人の征三を見つけたので居残りは?と注意するが、そちらも僕は征三ですと言って帰ってしまう。

帰宅後、いつものように釣りに出かけた2人だったが、餌の付け方で口論になり、やがて2人は殴り合いの喧嘩になって泣き出してしまう。

それでも、その後、征三が1人で川の中に入り、岩の隙間に手を突っ込んで魚を捕まえようとしていると、呼びにきた征彦も協力し、魚を捕まえるのだった。

同じ川の別の場所で、センジは仕掛けにはいっていたウナギを取り出していた。

帰る途中だった兄弟に出会ったセンジは、そのウナギをやろうか?などと話しかけて来るが、兄弟が断ったので、そのまま別れて帰る。

家に着いた兄弟は、庭にジンマのふんどしが落ちているのを見つけるが、何だかそのふんどしは生き物のように動いているように見えた。

おっかなびっくりふんどしに近づいてみると、急にそのふんどしが舞い上がり、兄弟の身体に蛇のように巻き付いて来たではないか。

驚いた2人は必死にふんどしを引きはがすと、家の中に逃げ込む。

その後、トシエがやって来て、地面に落ちていたふんどしを何事もなかったかのように拾い上げて母屋に帰る。

翌日、川でウナギの仕掛けを回収していた青年たちは、2本仕掛けがなくなっているのに気づく。

祭りの夜、母屋に集まっていた村の男衆の飲み会に出席させられた瑞枝は、飲めない酒を区長(中島丈博)らから無理強いされていた。

それを見かねた兄弟は、母の両脇に座って彼女を男たちから守ろうとする。

そうした瑞枝らを、ジンマは、養子言うても、草むしりもなんにも出来ない役立たずじゃと嫌みを言う。

翌日、雨の中、兄弟は家の中で大好きな絵を描いていたが、母は畑で草むしりをやっていた。

ある日、兄弟は他の男の子たちと一緒に素っ裸かで川で遊んでいたが、その脇の道をハツミが通りかかって、2人に微笑みかけたので、チンチン観られたと川の中にしゃがみ込んだ2人は、こんな暑い日にも、親の手伝いをして働いているハツミの姿に驚いていた。

3人の不思議な老婆たちは、最近里芋畑が荒らされるが、センジの仕業に違いない。双子の母親は転勤になった。双子は出品した絵が賞をとったそうじゃ。教育委員会で働いている父親が戻って来たらしいなどと噂し合っていた。

夕食の席で、父親の健三(長塚京三)は、絵で賞をもらったからと言って、絵描きになるなんて言うなよ。いくら絵を描いた所で食える訳がないと兄弟に言い聞かすが、それを聞いていた瑞枝は、父さんの血を引いたんじゃろうね。父さんも昔はね…と微笑みながら言いかけるが、健三に、いらんこと言わんで良いと口止めさせる。

その日、姉の育子は弟たちと一緒に寝ることにする。

そんなある日、父が家で読書をしているので、兄弟はいつものように川に釣りに出かける。

征彦の麦わら帽が風に飛ばされ川に落ちたので、征彦はその場で服を脱ぐと川に飛び込むが、帽子を追いかけて泳いでいる途中で溺れかける。

その時、川の中から「相撲、取ろう」と言う声が聞こえて来る。

兄の異変に気づいた征三も川に飛び込み助けようとするが、気がつくと、足が立つ浅瀬にいることに気づき、征彦にもそう教える。

その後、釣りを始めた2人だったが、征彦は、さっき川の中から「相撲取ろう」と言う声が聞こえたと言うが、征三は聞いてないと言う。

その時、向かい側の木の間で何かが動くような音がしたので、思わず2人はそこに目をやると、顔の黒いかっぱのような生き物がこちらを眺めていた。

驚いて固まってしまった2人だったが、その直後、魚をたくさん持ったセンジが近くの草むらから姿を現したので、何か観なかったかと聞くと、何もいないと言い去って行く。

その日、帰宅した征彦は高熱を出してしまう。

扁桃腺が腫れていることが分かったので医者に連れて行き、日頃から身体が弱い征彦は、この際、入院して扁桃腺を切ってもらうことにする。

兄と別れて1人になった征三は、林の中に入り込み、そこに落ちていたホラ貝を拾う。

吹いてみるが、もちろん鳴るはずもなかった。

入院して寝ていた征彦に、医者の娘が漫画本などを持って来てくれる。

一方、征三の方は、こっそりジンマの母屋に上がり込み、床の間に置いてあった巻物を勝手に広げて観てたが、そこにジンマとトシエが入って来て、ジンマの方は、お前らは絵が好き課?と聞いて来る。

うんと答えた征三は、恥ずかしくなってすぐに自分の家に帰る。

その後、姉の育子の横で寝ていた征三は、本を読んでいる育子の着物の横から、膨らみかけている胸が見えたので、思わずふざけた振りをして触ってみる。

後日、誰もいないと思っていた小屋の中に入って、1人ホラ貝の練習をしていた征三は、いきなりセンジが上から降りて来たので仰天する。

センジは、ホラ貝をくれというが、征三が拒むと、貸してみろ、取らないからと言って、ホラ貝を吹いてみせると、征三も鳴るようになると言い残して小屋を出て行く。

吹いてみると、確かに少し鳴るようになっていた。

そのホラ貝を持って表に出た征三は、働いているハツミに会う。

そんなハツミに、征三はホラ貝を吹いてみせるのだった。

征彦の方も、起き上がることが出来るようになったので、医者の家出絵を描いていると、同年輩くらいの娘が観て感心する。

その夜、征三と一緒に風呂に入っていた瑞枝は、女の身体に興味を持っているらしい征三に、自分の身体を示しながら説明してやるのだった。

ある日、家にいた征三は、1人で魚取りの仕掛けを作っていたが、その途中、錐で自分の左手を突いてしまう。

そこに帰って来た父親の健三は、黙ったまま固まっていた征三に気づく。

やったなと聞いて来た父の姿に安心したのか、急に泣き出した征三に、オキシフルの置き場所を聞いた健三は、消毒の後包帯を巻いてくれる。

その後、母に連れられて病院から帰って来た征彦と征三は再会する。

そんなある日、ジンマが寝込んでしまう。

ジンマはその後、あっという間に亡くなり、野辺の送りに健三一家も参加する。

それを林の中から、あの不思議な3人の老婆が見送っていた。

ジンマはトシエに何を残した?屋敷はトシエのもんじゃ。ジンマの魂が飛んでいきよる…などと3婆は話し合っていた。

ある日、兄弟は教室の入口を雑巾で濡らし、入って来たイワタ校長を転ばしてしまうといういたずらをやる。

怒ったイワタ校長は、どうせお前等がやったんじゃろ?と言いながら兄弟の頭を殴ると、どうせ貴様に決まっとると言いがかりをつけ、全く無関係のセンジまでビンタする。

睨みつけたセンジの態度に切れたイワタ校長は、根性を入れ替えてやると言いながらさらに殴りつけ、教科書持ってないなら帰って良いと言い出す。

センジは黙って学校から出て行く。

下校途中、蔵の裏で兄弟たちは、ハツミがじっと僕の方を観ていたとか、センジ可哀想やったなと話し合う。

その後、鬱憤を晴らす為に近くの畑にやって来た2人は、夜間作業用にぶら下げてあった電球を、石を投げて割り始める。

それに気づいた畑の主は、こんなことされたら畑に入れんようになるわと嘆き、近くに林に逃げ込んだ兄弟はそれをじっと覗いていた。

ある日の学校での体育の時間、征彦は、イワタ校長の意地悪で、足の速い生徒とペアを組まされ、校庭を走らされることになる。

征彦は走るのが嫌いだったので、だらだら走り、負けてしまったので、級友たちからからかわれるが、次の瞬間、級友たちが脱いでいた靴や下駄などを平の外の畑に向かって投げ捨て始める。

すると、それを観ていた征三も同じことをやり始め、先生たちから止められる。

その夜、2人は、帰って来た健三から叱られる。

ある日、センジと一緒に帰っていた兄弟は、いじめっ子たちに遭遇し、センジは1人戦い始める。

いじめっ子たちが退散した後、センジは2人に、今後遊びに行って良いかと聞いて来たので、今度の日曜日に待っていると約束する。

ところが、次の日曜日、約束通りセンジが裏側から近づいて来ると、瑞枝が征彦を呼び、あの子だけは家に上げちゃダメと注意する。

その様子を外で察したセンジは、分かってたと言いながら帰って行く。

母の横で聞いていた育子は、今までどんな貧しい子でも同じように可愛がって来たのに、どうしてセンジだけいけないのか?と問いかけるが、瑞枝は何も答えようとはしなかった。

兄弟は外へセンジを追って行き、ホラ貝を吹いたりして呼んでみるが、それ以降、センジは学校へ来なくなった。

冬のある日、南天の実を餌に、鳥を捕る仕掛けを作っていた兄弟は、前日の仕掛けを観に行くと、仕掛けは壊れており、近くの木の間にコジュケイが身を潜めているのに気づく。

それを捕まえた2人だったが、その途端、急に辺りが暗くなり、誰かの笑い声が聞こえて来る。

驚いた兄弟は、コジュケイを逃がしてしまい、気がつくと山の中で道に迷っていた。

崖を滑り落ちた2人は、コウゾを蒸している作業をしている一団の姿を見つける。

その中に、一緒に働いているハツミがいるではないか。

ハツミの方でも2人に気づくと、蒸したサツマイモを2つ投げてくれる。

ジンマが死んだ後、トシエは瑞枝に、手料理や縫った雑巾などを持って来てくれた。

瑞枝は、兄弟の絵を熱心に観ている健三の姿を見る。

翌日、学校へ行った征三は、いつものように裸足で登校し、入口の所で足を洗っていたハツミが泣いているのに気づく。

足があかぎれになり、その痛さに泣いていたのだった。

しかし、そこにやって来た同級生たちが、ハツエをバカにして教室に入っていくので、征三もヤギみたいにメエメエ鳴いとるとついハツエをからかってしまう。

その後、自己嫌悪に陥った征三は、教室に入らず、ずっと校庭に座っていた。

そんな征三に、砂煙を立てながら近づいて来る三婆の姿が見えた。

帰宅した征三は、兄と同じように扁桃腺を腫らし熱を出してしまう。

そんな征三の様子を観ていた三婆は、目を狙ったのに咽に来るとは…と、自らの力の衰えを嘆き合っていた。

その冬、征三は兄同様、扁桃腺の手術をした。

そして又、暑い夏が来た。

川で泥鰌を捕って帰る2人は、魚を捕って帰るセンジの後ろ姿を観たので声をかける。

センジは振り返って手を振ったが、センジの姿を観たのはそれが最後だった。

それ以来、村人も誰もセンジのことは話さず、あたかも最初からそんな人間はいなかったようだった。

その日持ち帰ったウナギは、健三がさばき、焼いて皆で食べた。

その後、兄弟は何故かそろって目が悪くなり、メガネをかけるようになる。

京都の征彦の家の庭に立つ現在の兄弟。

もし僕が1本の木だとすると、今でもあの村に根を張って栄養を吸っていると思う。

今はもう、あの村は絵本の中にしかない。

そんな大人になった兄弟の姿を上空から観ていた三婆の声が聞こえて来る。

あれから何年経ったろう?

50年にちょっと少ないくらいじゃろう。

わてらを待ちよるもんがおる所へ帰ろう。

どこにいる?

あてらの家へ…

ぶつぶつ言わんと、ちゃんと風に乗りや…

三婆の声は、森の方へ向かって飛んでいくのだった。