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東京オリンピック音頭 恋愛特ダネ合戦

昭和のヒット曲「湯の町エレジー」等で知られる往年の歌手近江俊郎が、自ら音楽と監督を担当した喜劇映画。

いわゆる「異業種監督」と呼ばれる人たちは、昔から、芸術家ぶったり文化人ぶったような「生真面目で退屈な自己満足映画」を作ってしまう例が多いものだが、この近江先生、まじめさゼロ、全編ふざけ倒しの「おバカ映画」に徹していたと言う所が凄い。

自らの歌手としての地位や名声なんか、気にしていない風なのが潔いのだ。

とは言えこの作品、一応原案があるし、田村高廣、香山美子、天田俊明と言った喜劇とは縁の遠そうな俳優たちが参加している上に、松竹という大手が配給した一般向け作品なので、ナンセンス喜劇ではあるが、ふざけ倒しのハチャメチャと言うほどではない。

いつもの近江映画のように、おバカ要素+歌謡映画と言った感じであるが、予算も当時としては普通程度には使っているようでそんなにチャチな印象はないし、演出も特に巧くもないが、かと言ってド下手と言うほどでもない。

近江俊郎の名を知らない人が観れば、当時の平均よりやや出来の悪いプログラムピクチャーの1本くらいにしか感じないはずである。

60年代前半の松竹作品は、その後の貧乏臭い下町喜劇のように、ベタベタした「泣かせ」の要素はなく、からっとした笑いである。

タイトルからも明らかなように、東京オリンピックを間近に控えた1963年頃の時代背景が今観るととても貴重。

劇中で披露される「東京オリンピック音頭」と言うのは初めて耳にしたような気がする。

登場する歌手も、橋幸夫と平尾昌晃以外は、馴染みのない顔ぶれで、(当時の大人にはお馴染みだったかもしれないが)、この当時はまだ、民謡や和風のメロディが主流だったことが分かる。

由利徹や三木のり平と言った近江俊郎映画の常連もちゃんと登場しているし、初代林家三平の登場なども、登場シーンは短いながら珍しい。

香山美子と歌手三沢あけみの水着シーンがあるのは一種の男性向けサービスか?

ストーリー自体は、相変わらずバカバカしいと言うしかなく、何故、総数2名しかいない独立したばかりの小国に、2つの新聞が必死になって密着取材をするのかが、まず良く分からない。

オリンピックまでまだ300日もあり、他の外国選手団はまだ来ていない時期なので…と言う、中途半端な製作時期が関係あるのかもしれない。

当時完成していたオリンピック施設もまだ少なかったためか、ラストの国際村程度しかオリンピック関連の施設は登場しない。

ケニアとコンゴの間にある国と言いながら、ウガンダ殿下やモモリヤがターバンを巻いたインド人風のメイクなのも、まじめに考えると謎なのだが、近江大先生の作品に、そんなツッコミは無粋と言うものだろう。

12月に公開された正月映画と言うよりは直前の「年忘れ映画」のようなもの、理屈抜きでバカバカしさを笑って楽しめば良い作品だったはずである。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1963年、松竹、中野実原案、松井稔+伊知地道明+小林久三脚本、近江俊郎監督作品。

ミスオリンピックの壇上に居並ぶ女性たちの絵をバックにタイトル

「ピンクレディ」「女性毎朝」等という雑誌をバックにキャストロール

「ミスオリンピック」と書かれたアドバルーンが3本揚がる。

それぞれ「スポーツ用品なら」「スパルタ堂」と書かれたゼッケンを背負い、赤いトレーニングウェアで神社まで走って来たのは、「スパルタ堂」の主人水野文左衛門(南利明)と、その娘章子(香山美子)の2人。

章子は、映画の主役と賞金100万円が手に入るという、歌って踊れる現代女性「ミスオリンピック」に選ばれるように、神社に祈ると、ついでのように、要旨のパパもお守りくださいと付け加える。

「トビ印の釣り具」のポスターが飾ってある「スパルタ堂」の前で掃除をしていた章子の母武子(若水ヤエ子)は、18、9の少年がどこに入ろうとどうでも良いよとぼやきながら徹夜明けで帰って来た下宿人で太陽新聞社の新聞記者の杉山平八郎(田村高廣)を出迎える。

本来スポーツ担当ではない杉山だが、東京オリンピックが間近と言うこともあり、応援に回されているのだと言う。

杉山の部屋を掃除していた章子は、うちの父はああ見えても、昔はマラソンとウォーキングでは、オリンピックの金メダル候補だったのよと意外なことを杉山に教える。

何でも、ベルリンのときはコレラにかかってしまい予選落ち、前の東京オリンピックは戦争で中止になってしまったので、結局夢は叶わなかったのだという。

掃除を終えた章子がそのまま部屋を出ようとしたので、布団ぐらいしいてくれよと甘えた杉山だったが、章子は、私、あなたの奥さんじゃありません。毎朝の早野(天田俊明)さんみたいになってみなさい。早野さんとあなたでは原爆と線香花火くらいよ発破をかける。

杉山と早野は同郷で中学も同級、今やライバル同士の関係なのだが、いつも早野に特ダネを抜かれてばかりいたのだった。

下に降りて来た章子に朝食のご飯をよそってもらいながら、文左衛門は、杉山さんとハッスルしているようだが、今どの程度まで行っているんだ?手を握るくらいか?などと露骨なことを聞いてしまう。

キスくらいまでなら良いけどななどと続ける文左衛門を睨みつけた章子に、杉山さんに大原部長から電話よ。至急来いって!と、奥で電話を取った武子が伝える。

杉山が社に駆けつけると、大原部長(由利徹)は、オリンピックの第一陣が来日するんだと言い出す。

オリンピックまで後300日もありますよと驚く杉山に、3日に横浜に総勢2名で来ると言うので、たった2名?と杉山が戸惑うと、最近独立したばかりのイケタニヤと言う小国で、ウランとダイヤの鉱山が見つかったことで一躍有名になったと大原部長は説明する。

イケータニヤ国のことは林博士(並木一路)に聞いて来い。毎朝に抜かれるなよと大原部長に言われた杉山は、早速林博士に会いに行く。

林博士は、イケタニヤとはイクエイター(赤道)の真上にあることでその国名が付いたそうで、ケニヤとコンゴの間にある、山と湖しかない小さな国だと説明してくれる。

そのイケタニヤには、戦時中、国土開発のため、津山博士という人物が助手を連れて訪れており、独立の功労者と言われている。イケタニヤの言語は大変難しく、今、日本でイケタニヤ語を理解できるのは津山博士だけだろうと言うではないか。

林博士ですら、2、3の言葉くらいしかしゃべれないらしい。

杉山は、その足で津山博士の家を探しに行くが、近所で通りかかった娘に家を訪ねる。

すると、その娘は小学校の側にあると教えてくれ、今、その小学校の校庭に自衛隊員がいるので、時間だから急いでと伝えてくれないかと頼む。

その小学校の校庭に行くと、確かに、自衛隊員の幸一 (平野こうじ)が、月江(武部秋子)
雪江(西条ゆかり)英子(大原永子)ら3人娘と共に、国旗の掲揚の練習をしていた。

杉山が今出会った娘の伝言を幸一に伝えると、3人娘たちは、あけみさんきれいだったでしょう?ミスオリンピックに推薦しようと思うんだけど、彼女のお母さんがオリンピック反対論者なのと教えてくれる。

道を教えてくれた娘はあけみというらしいが、その母親は、期待していたオリンピク道路が家の前に取ってしまい、立退料を取り損なったので、オリンピックが大嫌いになったそうなのだ。

家の前に道路が出来たら良かったじゃないですかと杉山が不思議がると、質屋だから、目立つ所にあると客が来なくなるという。

その津山質屋と言う店こそ、津山博士の家だと分かるが、3人娘に案内されて行ってみると、「本日休業」の札がかかっているではないか。

今日は定休日だったのか…とがっかりした杉山だったが、3人娘が言うには、今日は法事で、寺に行っているのだという。

正念寺と言うお寺に行ってみた杉山が、庭で掃除をしていた小僧に、杉山博士は来ておられますかと聞くと、小僧は呆れたように「杉山博士なら、去年亡くなりました」と答える。

その頃、毎朝新聞社では、小谷部長(トニー谷)が部下の早野三郎(天田俊明)に、うちの販売店が推薦して来たんだが、ミスオリンピックの父だ、イケタニヤ語が分かるのはと説明していた。

太陽新聞社に帰り、津山博士は亡くなっていたことを報告した杉山に、大原部長は、津山博士は助手を連れて行ったのではないか?その助手を捜すんだと指示を出す。

そんなことさえ気づかなかった杉山が又出かけようとしていた時、電話が入り、章子が今から会いたいと言う。

仕事中なんだが…と迷惑がりながらも、指定された茶店に出向いた杉山は、町内の青年会だと言う、明(人見明)電器屋の浩(大泉滉)、酒屋の光夫(平凡太郎)の3人を章子から紹介される。

杉山はその3人組を観て、青年会って、いかれポンチのことかと失礼なことを言う。

彼らが杉山を呼び出した用件は、章子をミスオリンピックに推薦したいので、太陽新聞で大キャンペーンをして欲しいと言うものだった。

それを聞いた杉山は、とんでもないと断り、今僕には特ダネが目の前にぶら下がっているんだと言うなり店を出て行く。

章子は席を立った杉山に追いすがるが、杉山は特ダネ掴んだら君に告白したいんだと打ち明け、店を出て行く。

明がどうなっているのかと章子に近づくと、章子は突然、私、ミスを辞退するわ。杉山君が特ダネを追い出したのよ!と言うと、自分も店を飛び出して行く。

訳が分からない明は、章子について一緒に帰宅することにする。

章子は、ミスより大切なことがある。結婚よ!と言うので、明は自分に言われたのかと思い照れるのだった。

その頃「スパルタ屋」では、早野が武子に、章子を我が社でミスオリンピックになれるよう応援したいと申し込んでいた。

そこへ章子と明が帰って来たので、武子が早野の申し出を伝えると、実は今、杉山の方に断られたのだと知らせると、聞いた武子は、杉山さんが?と見損なったような表情になる。

しかし、章子の方は、早野に対し、手続き、すぐじゃなくても良いんでしょう?と気をもますのだった。

その頃、杉山は、津山質店の女将、つまり亡くなった津山博士の細君玉枝 (清川玉枝)に、昔、博士がイケタニヤに同行した助手の話を聞こうと店を訪れていたが、オリンピック嫌いの玉枝も、その妹も、全く相手にせず、自分で調べなさいよ。うちは鎌倉時代から毎朝新聞なのよと冷たい返事しかしなかった。

その様子を観ていた娘のあけみ(三沢あけみ)は、がっかりして店を出た杉山の後を追って来て、質屋に泣き落としは効かない。ビジネスライクにギブアンドテイクよと言いながら、近くの茶店に誘うと、自分を太陽新聞がミスオリンピックに推薦してくれるなら、助手の情報を教えてあげると申し出る。

一緒について来た女友達も、あけみちゃんは、今度、オリンピアレコードからデビューするのと杉山に教える。

その頃、章子は、杉山に会いに太陽新聞社の編集部に来ていたが、出かけているので応接室で待つように記者に案内される。

そこに、当の杉山が津山あけみを連れて帰って来て、大原部長に、この子を我が社でミスオリンピックとして応援しましょうと持ちかける。

その声を聞いて応接室から出て来た章子は、あけみを観ながら、ふ〜ん、分かったわ。そうだったの…と言い残すと、これには訳があるんだと必死に説明しようとする杉山を無視して帰ってしまう。

直後、章子は、毎朝の早野に電話をかけ、そちらでミスオリンピックの応援してもらうことに決心がついたと伝える。

それを早野から聞いた小谷部長は、太陽が津山の娘と手を組んだと教える。

杉山と大原部長は、津山あけみを連れ、里子(小畠絹子)が女将をしているお茶漬け屋「瑳峨野」にやって来る。

あけみは、約束通り、津山と一緒にイケタニヤに言った助手は山下清吉という当時大学生だったと教える。

その山下は、その後養子に行ったが、マラソンの金メダル候補で、ベルリンと前の東京に出る予定だったらしい。

それを聞いた杉山は、章子の父親のことではないかと気づく。

しかし、その頃既に、早野は「スパルタ屋」を訪問しており、お父さんは、昔、津山博士とイケタニヤに行っていた山下清吉さんではないかとズバリ切り出し、本人からあっさりそうだと返事を受けていた。

武子が補足するには、水野文左衛門と言うのは、代々、うちに入ると名乗らねばならない先祖からの名前なのだと言う。

それを知った早野は、ぜひ我が社専属のイケタニヤ語通訳になってもらいたいと、持って来た契約書を文左衛門に差し出す。

武子は喜び、章子はちょっと複雑な表情になるが、結局、文左衛門は契約書にサインしてしまう。

そこに帰って来たのが杉山で、文左衛門に、うちの社の通訳になってもらいたいと申し込むが、たった今、毎朝と契約した所だと聞かされると、早野を見ながら出し抜かれたか!と悔しがるのだった。

社に戻って、そのことを報告した杉山は、大原部長から、大阪まで3時間で走る汽車がある時代、お前はトロッコだ。ハッスルしろ!と小言を食う。

今度失敗したら、俺の方の首が危ないんだ…と思わず、大原部長は自分の首に手をやり、本音を漏らすのだった。

その夜、「嵯峨野」で女将の里子相手に酒を飲んでいた杉本の元へ、早野もやって来て、ま、悪く思うなよと慰めながら、いよいよ明日来るんだなとつぶやく。

翌日、横浜港に、横断幕を用意して待っていたのは、早野と水野文左衛門、そして杉本の3人だった。

やがて、船から、ターバンを巻いたそれらしき2名が下船して来るのを発見する。

イケタニヤのウガンダ殿下(如月寛多)と、アラブモンゴリア親衛隊モモリヤ(白川晶雄)は、歓迎団が待っていただけではなく、津山博士のかつての助手まで来ていたのに感激する。

ウガンダ殿下は、モモリヤは、過去、アベベの記録を2度破ったことがあるマラソン選手だが、日本の排気ガスに慣れさせるために今回連れて来たのだと貴賓室で説明する。

それを同時通訳していた文左衛門だったが、杉山と早野は、最初からウガンダ殿下は、日本語を話しているように思えた。

確認して見ると、ウガンダ殿下は、津山幸之助博士から日本語を習ったのだと教える。

そして、殿下は、イケタニヤでも近々オリンピックをやりたいので、その時の歌を作りたいと思っている。そのためには、西洋文化と東洋文化がちょうど良くミックスしている日本がぴったりだと思うと言う。

その時、殿下に何事かを囁いたモモリヤが、突然、席を立ち、文左衛門の側に来ると「パパ」と言い出す。

殿下が言うには、何と、モモリヤ選手は、文左衛門がイケタニヤに残して来た忘れ形見だと言う。

それを聞いた早野は、スクープだ!と喜ぶが、プライバシーの侵害だから、このことを記事に書かないでくれと頼む。

そして殿下は、もう一人会いたい人がいると言い出し、それは津山博士だと言うので、杉山は、すでに博士は亡くなったと伝える。

驚いた殿下は、その後、モモリヤ、杉山、早野、文左衛門らと津山博士の墓参りをする。

その後、津山あけみの友人月江と雪江が、オリンピック嫌いの母が嫌がっているので、あけみのミスオリンピックへの応募を辞退すると杉山に言いに来たので、驚いた杉山は、ここだけの話だけれどと断り、ウガンダ殿下から聞いた話を月江と雪江に打ち明けてしまう。

その頃、当のあけみは、「オリンピアレコード」東京スタジオで、デビュー曲のレコード収録をやっていたが、そこにやって来た月江と雪江から、今、杉山から聞いたばかりの情報を教えられる。

それは、ダイヤの鉱山を山ごとあけみがもらえると言うものだった。

津山質店では、青年団トリオが応対した玉枝に、電器店の浩の店から持ち出して来た定価48500円トランジスタラジオの新品を質草に、2万円貸してくれと交渉中だったが、そこに月江と雪江と共に帰宅して来たあけみが、イケタニヤから勲章と100億円の価値があるダイヤの鉱山をもらえるらしいという杉山情報を伝える。

青年団トリオは、その情報を、早速「スパルタ屋」の武子と章子に知らせに行く。

章子はそれを、毎朝の早野に知らせ、早野は小谷部長に伝えると、その場で「スクープ記事」を書いてみせる。

翌日、毎朝のトップには、「百億円のダイヤ鉱山、津山博士の遺族に贈呈」と言う記事が掲載される。

それを観た太陽新聞の大原部長は、秘密を漏らしたお詫びを殿下にして来いと杉山に命じていた。

その話を一緒に聞いていた仲間の記者たちも、この際、秘密保持のため、殿下たちを今より安全な場所に移ってもらおうと提案する。

責任を感じた杉山は、自分に任せてもらえないか、手はある…と応じる。

その日、ウガンダ殿下とモモリヤ選手は、自動車メーカーの社長と共に、平尾昌晃が歌っているキャバレーで、太陽新聞社から接待されていた。

自動車メーカーの社長は、ここまで乗って来た我が社の自動車ニューオールド64年型を、お国で買ってもらえませんかと勧めるが、殿下は、ガソリンで走る車はいらない。我が国では、ウランで走る原子力自動車を作りますからと断る。

トイレに立った杉山は、廊下で、やって来たの早野と遭遇したので、一体あの情報をどこで手に入れたんだと迫るが、早野は相手にせず、一緒にトイレに入る。

杉山は、どうしてここに殿下がいることが分かった?とさらに追求するが、早野は、ここにいるのか!と喜ぶ。

杉山は、又余計なネタを相手に提供してしまったと焦るが、早野が用を足している隙に席に戻ってみると、ウガンダ殿下たちの姿が消えていた。

ボーイに聞くと、赤坂の「中川」に移られたという。

料亭「中川」では、芸者の赤坂百々太郎がウガンダ殿下たちを前に、座敷で歌を披露していた。

その席には、8mmシネカメラの会社社長が同席して、自社製品を殿下に売り込んでいた。

一緒に酒を飲み、すっかり上機嫌だった文左衛門に来客ですと仲居が伝えに来たので、庭に出てみると、そこで待っていたのは杉山だった。

杉山は文左衛門に、殿下のモモリヤ選手を、うちの専属旅館がある熱海に招待し、お父さんはそこでモモリヤ選手のコーチをやらないかと申し出る。

文左衛門は、しかし自分は毎朝と専属契約を交わしているので…と難渋するが、親子の情愛の方が大切でしょうと説得する杉山の言葉に従うことにする。

熱海にやって来た文左衛門は、自らサイドカーに乗り、モモリヤ選手のマラソンの練習のコーチを始める。

走るモモリヤの前をサイドカーが走ることで、その排気ガスに耐える訓練だった。

モモリヤ選手は、1時間32分16秒と好記録で、文左衛門は満足する。

そんな中、モモリヤ選手は、異母妹に当たる章子に会いたいと文左衛門に頼む。

その頃、ウガンダ殿下が宿泊していた西熱海ホテルでは、良い環境を提供してもらえたので、これでゆっくりオリンピックの歌が選べると、殿下が杉山に礼を言っていた。

オリンピックには、日本調の歌を選びたいという殿下の発言やスパルタ屋の章子がモモリヤ選手の異母妹であることなどが、翌日の太陽新聞に載る。

そんなウガンダ殿下に会いに来たのは、「弁藤敏(ベントービン)」と言う、どこかで聞いてことがあるような名刺を差し出した羽織袴姿に破れた靴下姿という奇妙な男(長門勇)だった。

弁藤は、オリンピックの歌を作ったと言い、その場で数曲歌い始めるが、みんな、どこかで聴いた曲ばかりだった。

そこに、突然、看護婦と医者が入って来て、これはうちの患者ですと殿下に謝罪しながら、弁藤を連れて行く。

「スパルタ屋」で働いていた章子の元に武子が帰って来て、モモリヤと言う選手は、パパの子だってさと言うので、章子はまさか!と驚く。

そこに、早野から電話が入り、パパの居場所が熱海だと分かったので、明日迎えに行くと言う連絡を武子は受ける。

そのパパこと文左衛門がのんびり温泉につかっている間、殿下とモモリヤは、ホテルの宴会場で、歌手の榎本美佐江が歌う「ふたり傘」に聞き入っていた。

翌朝、殿下に会い奥様の話を聞いた杉山は、8年前に死んだので、日本人女性と結婚したいという発言を聞き込む。

ホテルの前では、いつものように、モモリヤの練習のためにサイドカーを出発させようとしていた文左衛門だが、何故かエンジンの調子が悪く、運転手があれこれ操作を続けていた。

そこに車でやって来たのが、早野に付いて来た武子と章子で、そこに杉山もホテルから出て来て鉢合わせになる。

どうしてここが分かった?と聞く杉山に、早野はうちの支局のものが、トレーニング中のモモリヤ選手を発見したんだと説明し、文左衛門に、うちと専属契約しているじゃないかと抗議する。

武子と章子は、色の黒いモモリヤを好奇と侮蔑の目で見つめ、耐えきれなくなった章子はその場を逃げ出す。

湖の側で泣いていた章子に近づいて来たモモリヤは、パパ許せと、文左衛門を弁護しながら、自分の指にはめていた指輪を章子の指にはめてやる。

優しいモモリヤの態度で気を取り直した章子は、モモリヤのママは?と聞くが、モモリヤは哀しそうにいないと話し、亡くなったママから幼い頃聞かされていたらしい信州の子守唄を歌い出す。

ホテルに帰って来て、章子から指輪を見せられた文左衛門は、これは博士のものだと言い出す。

指輪の裏には、確かにKT(津山幸之助)のイニシャルが彫ってあった。

(回想シーン)

津山幸之助(三木のり平)は、イケタニヤの女性キラキラ(扇町京子)と付き合っていた。

そのキラキラに、津山博士は、ずっと持っていてくれと指輪を贈り、受け取ったキラキラは、ベビーできたらその子に渡すと約束し、2人は口づけをかわそうとするが、そこにやって来たのが学生だった山下清吉だった。

山下は、当地で栽培したという日本製ミカンを津山博士に食べてもらうのだった。

津山博士は、山下とチラチラはうまくいっているのか?などと聞くが、背後に大蛇が近づいているのに気づいた山下が震えている理由には気づかなかった。

山下と津山博士は、当時のイケリヤの国王の側で、現地の娘が踊る姿を見学する。

話を聞き終えたウガンダ殿下は、それではキラキラを愛したのは津山博士の方だったのか。私の勘違いでしたと謝るが、一緒に話を聞いていた杉山は、今の話はしばらくモモリヤには伝えない方が良い。彼は今、自分のまぶたの父がオリンピックコーチだと言うことで頑張っているのだからと頼む。

武子と章子も、事実が分かり、ほっとすると同時に、杉山の提案に賛成するのだった。

杉山は、早野にも、せっかくのニュースだけど、ここは互いに我慢しようじゃないかと説得する。

ミスオリンピックが選ばれる当日、早野が「嵯峨野」で茶漬けを食べていると、女将の里子が、杉山さんが章子さんのミスオリンピック応募に反対していたのは、好きだからよと教える。

それを聞いた早野は、そうだったのか…、水臭いなぁと苦笑するのだった。

テレビでは、「ミスオリンピック」決定前のイベントとして、神楽坂浮子、橋幸夫、市丸らがそろって「東京オリンピック音頭」を歌っていた。

やがて、アナウンサーが登場し、応募者全員がステージ中央に居並んだ中、71番の水野章子と、85番の津山あけみを、ダブル当選者として発表する。

水着姿の2人がステージ中央に進み、それぞれ、王冠とガウンを賭けてもらう。

アナウンサーの説明では、両者の得票が接戦だったためダブル受賞ということになったのだという。

津山質店の二階では、祝賀会が開かれ、月江や雪江に促され、幸一が得意の歌を披露する。

「スパルタ屋」の座敷でも、青年会の3人も交え、祝賀会が行われていた。

文左衛門も嬉しそうに、これで晴れてモモリヤのコーチが出来ると言うが、早野と杉山の姿がないので、すき焼きをごちそうになっていた光夫がどうしたんだろうと心配する。

その頃、杉山は、いまだに特ダネ一つ満足に取れない自分のふがいなさを反省しながら「嵯峨野」で一人飲んでいた。

ミスオリンピックに選ばれた章子は、もはや遠い人になってしまったと落ち込んでいたのだった。

そこにやって来た早野は情けない旧友の姿を観てしっかりしろ。そんなことだから、嫁さん一人捕まえられないんだと励ます。

その言葉を聞いた杉山は、ウガンダ殿下が、今度は日本人と結婚したいと言っていた言葉を思い出し、いきなり立ち上がると店を飛び出して行く。

太陽新聞の翌日の紙面には「ウガンダ殿下、在日中に婚約か!」と言う大きな見出しが躍っていた。

スパルタ屋の2階で寝ていた杉山を、その朝刊を持った章子が起こしに来て、とうとう特ダネを取ったわねと知らせると、杉山さん、あなた、特ダネ取ったら、私にプロポーズするって言ってたわねと迫る。

しかし、杉山は、手遅れだ…、今の君は映画スター、さしずめ僕なんか予選落ちさ…と自虐的なことを言うので、私、映画は、今度の1本だけで辞めるつもりなのと宣言した章子は、キスをねだるように目をつむるのだった。

その側のテーブルには、東洋映画の「東京オリンピック音頭」の台本が置かれていた。

東洋映画のスタジオでは、又、橋幸夫が「東京オリンピック音頭」を歌っていた。

「カット!」の声と共に、クレーンカメラで降りて来た監督(林家三平)は、カメラマン(佐山俊二)から、すみません、今のシーン、カメラにフィルムを入れ忘れていましたと謝られるが、僕は早撮りだから、同じシーンは撮らないと言い出す。

そんな監督のそばに寄って来た武子は、スタッフの皆さんで飲んで下さいと、「ピース」のタバコを1箱だけ手渡す。

そこへ、津山玉枝も近づいて来て、「ホープ」を渡そうとするが、途中で気が変わったのか、橋幸夫の方に私サインを求める。

休憩時間、スタジオの外に出た章子に近寄って来た早野は、惜しいな、これ1本で辞めるんだって?と話しかけ、一緒に出て来た杉山には、特ダネ持って行かれたか…とうらやましがる。

ステージでは、市丸が「東京オリンピック音頭」を歌ってた。

その後、国際村でモモリヤを指導する文左衛門に会いに来ていた章子に、同行していた杉山が、映画スターになってダイヤモンド鉱山まで手にするあけみさんがうらやましくないかい?と尋ねるが、章子は習い覚えたイケタニヤ語で、ダイヤモンドより素晴らしいあなたがいるわと笑ってみせる。

そんな2人の仲睦まじい姿を見ながら、ウガンダ殿下は、この国際村に、ダイヤモンドをちりばめたイケタニヤハウスを建てたいと早野に打ち明けていた。

そこに、サイドカーに乗った文左衛門とモモリヤ選手が通りかかったので、みんなもその後ろから付いて嬉しそうに走り出すが、サイドカーが出す排気ガスが、背後のみんなに降り注ぐのだった。