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ステキな金縛り

幽霊が出て来るコメディや法廷もの自体は、過去日本映画にもいくつか例があるが、これはその二つの要素を組み合わせた法廷コメディとでも言うべき内容になっている。

ただ「古畑任三郎」のような推理趣味を期待すると、冒頭に事件の現場を観客も全部観ているし、その立証も霊界の力を借りると言うファンタジーの力を借りているので、ロジックで事件をひっくり返すような驚きはあまりない。

とは言え、2006年正月に放映された「古畑任三郎ファイナル」3夜連続放映を意識したような要素は小ネタ的に入っているので、そう言う知識がある人には愉快な部分があるはず。

つまり、アイデアの大元には「横溝正史の金田一シリーズ」なども感じられるので、そう言うものに親しんだ世代には馴染みやすいのではないだろうか。

全体的には、そう言う小ネタを知らなくても、誰でも安心して楽しめる「無難な展開」になっており、「くすくす笑いながら見れて、最後にちょっとほろりとさせる」と言う娯楽映画の王道のような作り方になっている。

基本的に舞台劇を観ているような、動きの少ない「無難な展開」なだけに、ものすごく尖ったギャグや、ものすごく盛り上がるような見せ場はないが、かと言って退屈と言うほどでもなく、それなりに楽しめる出来になっている。

色々なゲスト陣が登場していたりする所から、何となく、往年の「オールスター正月映画」でも観ているような雰囲気すらある。

この手の映画は特別傑作である必要はなく、全体的に明るく陽気で豪華な雰囲気があり、何となく楽しめれば良いのであって、この映画からもそんな感じを受ける。

興行的に当たっている様子なのも、その辺が大きなポイントではないだろうか。

映画的に特に「巧いな〜…」と感心するような所はあまりなく、もう少しつまんでも(編集して短くする)良かったのではないかと想像したりするが、「正月映画のようなもの」と考えれば、この上映時間もありなのかもしれない。

落ち武者の六兵衛が、旅館のテレビをしょっちゅう観ており、現代用語や今風の事柄に結構通じていると言うのが、本作品の一番のミソかも知れない。

このため、六兵衛は昔風の言葉遣いだけではなく、今風のくだけた口調でしゃべると言う表現が可能になり、一見アドリブ風にも聞こえる西田敏行演ずるキャラクターをより親しみやすいものにしている。

ヒロイン役の深津絵里もなかなかキュートに描かれているし、中井貴一の生真面目演技も、時折見せるおふざけ演技を楽しいものにしている。

 

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2011年、フジテレビ+東宝、三谷幸喜脚本+監督作品。

ローマ字でキャストが出るCGアニメ

タイトル

タイトルバックのアニメのカラスがとある屋敷に飛んで行き、そのアニメの建物の絵が実写に変わると、一台の自動車が月夜の下、その屋敷に向かう。

黒いつば広の帽子に黒いコートを来た女が、屋敷に入り螺旋階段を昇って二階の一室を開けると、そこにはコートの女そっくりのもう一人の女とキザな男がいた。

双子のようにそっくりな女二人はその場でもみ合いになり、廊下に出て階段の上で押し合っているうちに黒コートの女の方が二階から落下し、下の床で仰向けに動かなくなる。

目覚ましが鳴り、あわてて起きた弁護士宝生エミ(深津絵里)は、朝食を準備中の同棲者工藤万亀夫(木下隆行 )が朝食を勧めても無理と言い、荷物をまとめながら携帯を慌てて探すと、誰か男の写真が飾ってある部屋を飛び出して行く。

携帯で、ボスの速水悠(阿部寛)に連絡を取ると、すでに法廷に来ているらしい速水から、急げ、もう始まっているぞと叱られる。

マンションを出て道路に飛び出したエミは、危うくトラックに轢かれそうになり、運転手から怒鳴られるが、エミも負けじと、死ぬ所だったじゃない!あんた、名前を教えなさい!と運転手に食って掛かる。

法廷では、事件の犯人が逃げて行く所を目撃したと言う証人が、ここにいる被告(榎木兵衛)だったと証言していた。

反対尋問を求められた時、ようやく法廷に到着したエミは、焦って資料を取ろうとして持って来た紙袋を取りかけ、中身を床にぶちまけてしまう。

それでも、冷静を装ったエミは、あなたは20m先を逃げていた犯人の顔が見えたとおっしゃいましたが本当でしょうかね?と言いながら、裁判長石席の方へ向かうと、これが何に見えますか?と言いながら、後ろ手に隠していたバナナを一瞬取り出してみせる。

証人はバナナでしょう?とあっさり答えるが、あなたはこれがバナナに見えるんですか?と言いながら、エミは又バナナを後ろ手に隠す。

そのまま弁護士席に戻ろうとしたので、検事が今のがバナナでなかったら一体何なんだ?と突っ込んで来る。

速水法律事務所に戻って来たエミは、被告から主任弁護人を変えるように言われたと速水から聞かされる。

エミは落ち込み、向いてないんでしょうか?弁護士に…とぼやくが、速水は呆れたように、それ以前の問題だろうと指摘する。

その速水が、成美さんは知っているだろう?と聞くと、エミはいいえと答える。

君のお父さんも世話になっていた人だと呆れたように教えた速水は、その事務所から回ってきた案件だ。これが最後のチャンスだ。これ以上、お父さんの名を傷つけないように…と速水は資料を手渡す。

その後、大の甘党の速水は、常時持っている笛付きラムネ菓子を食べながら、事件の説明を始める。

被害者は、美術品バイヤーの矢部鈴子(竹内結子)、死因は転落死。事件現場には、彼女のものではないボタンが一つ落ちていた。

夫の矢部五郎(KAN)は行方不明になっていたが、奥多摩の旅館に泊まっていた所をその日のうちに発見され逮捕され、服のボタンが一つ取れていた。現場にあったものと同じやつだった。だが夫は、容疑に関しては全面否認していると言う。

早速、被告の夫、五郎に面会に行ったエミは、色々質問してみるが、五郎は、現場に落ちていたボタンは誰かが置いたんだろうと言い、奥多摩へは死にに行ったが、なかなか死ねなかったと言う。

旅館から出たことはないかと聞かれた五郎は、出ようにも出られなかった。一晩中金縛りにあっていた。落ち武者がまたがってきて身動き取れなかったからだと答えたと言う。

事務所に戻って来たエミは、あの人やってますねと結論づけるが、弁護士がそんなことじゃいかんとタバスコをピザにかけながら速水は注意し、言ったろう?だからかなり厄介だと…と言う。

五郎が泊まった旅館の住所を聞くと、鬼切村しかばね荘「歯ぎしりの間」だったと言う。

担当検事の小佐野徹(中井貴一)、菅仁裁判長(小林隆)の二人に会いに行ったエミは、被告が事件当夜、落ち武者に股がられ、金縛りにあっていたと言うので再調査したい旨願い出ると、小佐野は失笑し、たまたま当夜、旅館の女将が「歯ぎしりの間」を覗いた所、誰もいなかったと言っていると教え、後は、その落ち武者とやらを呼んで来るしかないでしょうな…とからかうと、管裁判長は、面白いことをおっしゃると応える。

奥多摩の「落ち武者の里」にバスで降り立ったエミに、良い色の服を着ておられますな、どこで買いました?と聞いてきたのは、停留所に座っていた老人(浅野和之)だった。

伊勢丹ですと応えたエミは、その老人に「しかばね荘」をご存じないですか?と聞くと知っていると言う。

その老人は知っていると答え、途中まで「アヘアへアヘア…」と、呪文のような言葉を口にしながら案内する。

「小多摩古戦場跡」と言う場所を過ぎた辺りから雨が降り始め、エミは、葉っぱを傘代わりに先を急ぐ。

ようやくたどり着いた「しかばね荘」は、幽霊屋敷のように不気味で古びた旅館だった。

中に入ると、出てきたのは、息を切らせた先ほどの老人で、彼こそ、この家の主人猪瀬だったようだ。

速水法律事務所の宝生ですと名乗り、女将に会いたいと申し出ると、猪瀬から呼ばれた妻の女将(戸田恵子)は、警察の方に何度も言いましたよと迷惑そうに顔を見せる。

エミは、当夜、たまたま「歯ぎしりの間」を覗かれたそうですけど、時々覗かれるのですか?と聞くと、当夜はたまたまふすまが開いたんですよと言いかけた女将は、これ言わなかったっけ?ととぼける。

部屋案内してもらうと、部屋は薄暗い不気味な部屋だった。

女将は、ここは「落ち武者の里」だから、そう言うのが売りになっているのでと言い訳がましく説明する。

「歯ぎしりの間」と書かれた表札が古びて、判読できないほどになっていたので、これでは間違いやすいですねとエミが突っ込むと、この廊下はこの部屋しか使ってないから間違えることはないと女将は言う。

ところが、隣にもう一つ部屋があるので、こちらは?と聞くと、それは「耳鳴りの間」と言い、今は使ってないと言う。

洗面所の場所を聞いたエミは、奥にあるその場所から部屋へ戻って来てみて、最初にぶつかるのが「耳鳴りの間」の方だったので、どうして「耳鳴りの間」は使ってないのかと聞くと、変な噂が立ってねと女将は迷惑気に言う。

それが売りなのでは?とエミが聞くと、いくら何でも本物が出たらまずいでしょうと女将は当然のことのように答える。

エミは携帯で速水に連絡を取ると、当夜、五郎は部屋を間違えて「耳鳴りの間」の方に寝てしまった可能性があると推理を述べる。

その後、帰ろうとしたエミだったが、猪瀬が言うには、さっきのアメでバスが停まったと言う。

タクシーを呼んでくれと頼むと、女将は露骨に迷惑そうな顔をするので、一晩止めてくれ、その代わり、部屋は「耳鳴りの間」にしてくれとエミは頼む。

猪瀬は、チャレンジャーだねと感心する。

「耳鳴りの間」に寝転んだエミは、これが最後のチャンスだぞ。これ以上、お父さんの名を汚さないようにと言う速水の言葉や、後は、その落ち武者とやらを呼んで来るしかないでしょうなと言う検事の言葉、面白いことをおっしゃると言う管裁判長の言葉などが思い出された。

うとうとしているうちに、アルプス一万尺を歌いながら幼い頃のエミを散歩に連れて行ってくれた父の後ろ姿を夢見ていた。

ふと気がつくと、身体が動かなくなっていることに気づいたエミは、恐ろしい形相の落ち武者が身体の上にまたがっていることに気づく。

エミはその落ち武者を捕まえると、この人を2月24日の晩、男性客にまたがってましたねと言いながら、持参してきた五郎の写真のコピーを見せる。

狼狽した落ち武者だったが、不承不承認めると、今のこと、法廷で証言して下さい!とエミに言われてしまう。

拙者は幽霊でござるぞ…と困惑した落ち武者だったが、自分のことを北条家家臣更科六兵衛(西田敏行)と教え、脈診てみるか?と腕を差し出し、トクトクしてるか?とエミに聞く。

脈がないことを知ったエミははじめて悲鳴を上げ、部屋の隅に逃げると、眉につばをつける。

それでも気丈に、エミは、幽霊でも良いから証言して下さいと頼む。矢部さんは、無実の罪で裁かれようとしています。有罪になると処刑されるんですと頼む。

それを聞いた六兵衛は、今、何と申された!と興奮気味に聞き、罪なくして裁かれると申されたな…と確認する。

わしも実は、打ち首獄門にさらされた。秀吉20万の大軍を率いて当地に進撃してきた時、小多摩城は一日で落ちた。

北条家長公と共に小田原まで逃げる所、わしは味方から敵に通じているといわれなき疑いをかけられ、首を落とされたのだと言う六兵衛は、この恨み、晴らさでおくものか!と叫びながら、刀を抜き、自らの首に押し付けると、矢部五郎殿の気持ちは良く分かるのだと言う。

速水は、再びエミから携帯で連絡を受け、これから証人を連れて行くと言われるが、何故こんな夜更けに?と聞き返す。

エミは、日光に当たると消えちゃうらしいんですよと教える。

そしてエミは六兵衛に、じゃあ、2時間後に事務所の前に集合と言うことで!と別れようとするが、六兵衛は戸惑いながら、一緒に連れて行ってもらえんだろうか?と頼む。

それを聞いたエミは、あなたは幽霊なんだから、瞬間移動とか出来るんじゃないの?と聞くが、そんなもん、無理っす、無理!と六兵衛は苦笑しながら否定する。

その時、女将が部屋に入ってきて、タクシーにようやく連絡がついたと知らせるが、彼女には六兵衛の姿が全く見えていないようだったので、エミが不思議がると、われらが見えないものもおり、その方が多いと六兵衛は解説する。

女将はタクシーは、跡10分ほどで来ると言いながら、すぐ間近にいる六兵衛がからかっても、全く無反応のままだった。

タクシーに六兵衛と乗り込んだエミは東京に向け走りながら、なぜ、見える人と見えない人がいるの?と六兵衛に聞くが、分からんと言いながらも、裁判は裁判員制度になるのかと聞いて来る。

良くそんなこと知ってますねとエミが驚くと、客の中に、怖い為かテレビをつけっぱなしでいるものが多いので良く見るのだと言う。

そんな後部座席で独り言を言っているように見える客を乗せた運転手占部薫(生瀬勝久)は、怪訝そうな顔をする。

エミはそんなことは気づかず、なぜ、落ち武者って、いつもそんな髪型をしているの?と無邪気に聞く。

六兵衛は、これは髷が崩れた形で、こんなになるほどまで戦ったと言う印なのじゃと教えるが、その会話を聞いていた運転手は、私、落ち武者じゃありませんから!この髪型だって、1時間かかってセットしたんです!と答えたので、良く見ると、運転手の髪型は落ち武者ヘアだった。

その後、六兵衛はお願いがござる。どこか腹ごしらえできる所はござらぬか?と言うので、お腹空いてるの?とエミが聞くと、運転手が、どうして分かったんです?実は何か食べたいなと思ってた所なんですよと答える。

六兵衛は、麻婆豆腐が食べたいなどと言い出し、ファミレスをめざとく見つけて、あそこでと指示して来る。

時間がないからサンドイッチでも良いわねとエミが言うと、セットメニューかなにかを…と六兵衛は贅沢を言い、運転手も、私も何か腹のたしになるものを…と口を挟んでくる。

結局、六兵衛だけをファミレスに連れて行き、ウエイトレス(深田恭子)にサンドイッチを注文しようとすると、六兵衛はしつこく麻婆豆腐が…と言うので仕方なく、麻婆豆腐を注文する。

ところがさらに前田くまは、とろけるチーズハンバーグデミグラスソースや和風カルボナーラスパゲティ、エビのクリームパスタなど、どんどんメニューを見て注文し出す。

エミは呆れながらもメニューを六兵衛の方に向けるが、六兵衛が見えないウエイトレスは、その度ごとにメニューをエミの方に向け直すので、六兵衛は癇癪を起こしかける。

メニューが来る間、六兵衛は、裁判で矢部殿とやらの無実が晴れるのなら、拙者も何とかならんかと言い出す。

こっちの名誉も回復して欲しいのだ。屍となり、あやかしとなったわしの気持ちを察してくれと言うので、何をすれば良いの?とエミが聞くと、慰霊碑を建てて欲しいと言う。

突然そんなことを言われても、誰に頼めば良いんだろうと困惑するエミだった。

やがて、注文した全部の品物がテーブルの上に並べられるが、六兵衛は食べようとしない。

食べないの?とエミが聞くと、自分ら幽霊には、これらに手を触れることも出来ない。ただ見ることと匂いを嗅ぐだけと言いながら、六兵衛はソーダ水のストローを吹いて泡立ててみせる。

その時、一人の客伊勢谷(梶原善)が、六兵衛の姿が見えるらしく、「アアッ!」と大声を上げ始めたので、エミは失礼でしょうが!と注意するが、客はそのまま店から逃げ出して行く。

かくして六兵衛を連れ、何とか事務所に戻ったエミだったが、速水には見えないらしく、エミがそこにいる六兵衛の下手な似顔絵を描いてみせても通じず、君は疲れている。事件は他のものに頼むから帰りたまえと言われてしまう。

何かを思いついたエミは六兵衛と何事かを相談し、帰る振りをする。

一人きりになったと思った速水は、机の引き出しから大好物のモロゾフのチョコレート箱を取り出すと、白とハート形のチョコを口に入れる。

続いて、タップダンスの教本を開くと、早速靴を脱ぎかけるが、その時、六兵衛がエミを呼び戻し、エミが帰って来ると、慌てた速水は、今電話中だからちょっと待てと言いながら、急いで靴を履くと、タップダンスの教本を本棚の本の中に隠し、チョコレートの箱を引き出しにしまいながら、電話している口まねをする。

そして、エミの部屋への入室を許可するが、入ってきたエミに、六兵衛は電話中と言うのは噓、チョコレートを引き出しに仕舞ったなどと逐一報告をする。

エミから「医者から甘いものは止めるように言われているのに!」などと叱られながらそのことを指摘された速水は唖然とし、本の間に隠したタップの教本まで見つけられると、隠しカメラでも仕掛けてあるのではないかときょろきょろし出す。

エミが、ここにいる六兵衛さんにずっと見られていたんですと説明すると、どっちが正しいんだ?見えるのと見えないのは?と速水は質問する。

幽霊っているんだな…、何か俺、涙が出てきた…と言いながら、速水は涙ぐみ、これは前代未聞の裁判になるぞとつぶやくのだった。

六兵衛を連れ自宅マンションイ帰って来たエミは、同棲者の工藤万亀夫に六兵衛を紹介するが、万亀夫が六兵衛二挨拶をしたので、見えるのか?と聞くと、見えないけど、君がいると言うならいるんだろうと万亀夫は答える。

その後、証人申請をしたいので写真を撮ると言い出したエミは、白い布を室内に垂らすと、その前に万亀夫に立ってくれと頼む。

心霊写真みたいなものだと言うエミに、万亀夫はこの写真に僕って必要?と聞き返す。

六兵衛は、ポイント制みたいなもので、手だけだと10ポイント、顔は50ポイント、ムービーだと1000〜2000ポイント必要になり、人が前にいないとパワーが必要なのだなどと説明をする。

その後、エミは六兵衛を夜の銀座に連れて行く。

その時、一人の金髪の女が、六兵衛が見えるらしく悲鳴を上げる。

エミは六兵衛を矢部五郎に対面させる。

五郎は、六兵衛を見て喜ぶのだった。

その後、証人申請を管裁判長と小佐野検事に見せ、意外とすんなり許可を受ける。

その後、エミは、万亀夫が出演している時代劇を収録中のテレビスタジオに見学に来てみる。

出番を終えた万亀夫が、今の演技どうだった?と聞くと、六兵衛は悪くはないが、斬られてから死ぬまでが早すぎると言い出す。

普通、斬られても、半日は生きるからなと六兵衛は言うのだが、その時、突然、万亀夫にスタッフ用の台本を見せに来たのは村田大樹(佐藤浩市)と言う売れない役者仲間だった。

今回はセリフもあるなどと自慢げに話した村田は、次の本番で、斬られた時、臭い芝居をしてわざとらしくカメラ前に近寄ると、自ら顔に血のりをつけて、目立つ自分の顔のアップで終わるようにする。

カットがかかり、モニターでチェックを始めた村田だったが、血のりを付けた顔をカメラに寄せようとした瞬間、六兵衛がカメラの前に顔を突き出し、「無念じゃ〜…」と一声叫ぶ姿がかぶっていた。

一緒にモニターを観ていたエミは、映ってた!と驚き、ポイントずいぶん使ったでしょうと六兵衛に聞き、自分のアップが台無しになってしまった村田は、今映ってやつは誰だ!とスタジオ中を睨みつける。

しかし、そのカットはオーケーになってしまい、村田の芝居は撮り直しされないままだった。

その後、エミは六兵衛と共に、ネットで発見した郷土史家の木戸健一(浅野忠信)の家を訪ねる。

木戸は、何故弁護士が自分を訪ねてきたのか不思議そうだったが、とりあえずエミを家に上げてくれる。

木戸が言うには、六兵衛は無実であり、どうやら、母方の親戚がトヨトミ方にいたので、内通していたと疑われたらしいと言う。

それを聞いた六兵衛は、この人詳しい!と感心する。

更科六兵衛は、非常に優れた武将でしたと言いながら、木戸は肖像画を広げてみせる。

そこには、更科六兵衛の哀しげな表情の肖像画が描かれていた。

木戸は、実は更科六兵衛は自分の先祖なのであり、六兵衛には子供がおり、自分はその25代目なのだと言い出す。

エミは、そのご先祖の名誉を何とか回復してあげたいので協力願えないだろうか?と頼むが、木戸は、先祖は421年前に死んでおり、そう言う話は好きではないと断る。

エミは、その更科六兵衛さんはあなたの側にいますと言うと、木戸は表情を変え、あなたには見えるのですか?と聞いて来る。

木戸は見えないながらも懸命に先祖の姿を見ようとし、六兵衛が顔に息を吹きかけると感激し、思わず、ご先祖様!お会いしとうございました!と泣き出す。

六兵衛の方も、息子よ!と感激した様子で呼びかけ、武士は人の前で泣いてはならんと注意する。

エミがそれを伝えると、木戸は、武士じゃないもんと言いながら泣き続ける。

その頃、友人らと食事をしていた小佐野検事は、この世に科学的に証明できないものなど存在しない。超能力など手品のようなものだと自説を述べ、自らその証拠としてスプーン曲げを実演してみせ、そのばで折ってしまう。

さらに、どんな奇跡にもトリックはあると言いながら、口からピンポン球を次々に出す手品を披露する。

裁判所

証人を呼んでくれと裁判長から言われたエミは、まだ到着していないと言い出す。

エミは速水に近寄ると、日が出てくれないうちは出られないのだと小声で説明する。

日暮れは何時だと速水が聞くと、18字58分で、後2時間くらいかかるとエミは答える。

速水は何とかしようと言うと、証人席の前に進みでて、裁判長に向かい、証人が来る前に私に少し時間を下さいと申し出、その場でいきなりタップダンスを始めるが、数分で終わってしまう。

小佐野検事は、意義あり!今のタップは、本件とは何の関係もありませんと当然の意見を言い、この証人喚問は中止にすべきですと申し出る。

しかし、速水は、傍聴人の負担などを考えると、日程を変更するのは難しいのではないかと反論し、裁判長も速水の意見の方に利があると判断し、休憩を言い渡す。

控え室で待機していた管裁判長は、日が暮れてから出るなんて幽霊か?と呆れてたが、夕方になり、当の更科六兵衛がその控え室に出現しても、全く気づかず、穴空き座布団を持って法廷に向かうので、それを観た六兵衛は、あんた痔か?と聞く。

エミは、更科六兵衛を証人席に立たせると、係員に両手を差し出すように頼み、六兵衛の剣をその手の上に置く。

エミは裁判長に向かうと、証人はここにいます。更科六兵衛さんは北条氏長の家臣として歴史書にも載っている有名な方ですと紹介するが、全く誰も見えない管裁判長は、どこにいるのかね?と戸惑う。

すると、速水が立ち上がり、見えなくて当然なんです。証人は幽霊なんですと説明するが、小佐野検事は、これは法廷侮辱罪だ!裁判長!いつまでこんな茶番を続けるんですか!といきり立つ。

その間、法廷の外から何やら研究員らしき人間と装置を法廷に持ち込んだ速水は、今、証人がここにいる証明をしますと言い出す。

証人台の前に設置された砂を集めた台のような所に更科六兵衛が乗ると、脇の装置に向かっていた研究員がスイッチを入れる。

すると、磁力に吸引された砂鉄なのか、六兵衛の足の下の砂が舞い上がり、六兵衛の姿の外観を浮かび上がらせる。

その際、首位の金属も吸い付けたので、小佐野検事などは飛び出しかけたペンを空中でキャッチし、崑なのはトリックだ!と大声を出す。

一旦控え室に下がった裁判長、小佐野検事、エミの3人は善後策を話し合う。

裁判長は、話だけでも聞いてみるってのはどうでしょうと和解案を出す。

証人尋問が再会するが、六兵衛が自己紹介をしても何も聞こえないので、裁判長がそれを指摘すると、エミが自分が通訳をしますと提案し、享楽3年寅の卯月3日生まれ、今年481歳になり申すと声色までまねてエミが通訳してみせる。

しかし、小佐野検事は、弁護士の一人芝居ですと指摘する。

裁判長は、何か直接、証人の言葉を聞くことが出来ませんかと言いだし、エミは困惑するが、速水がいつも持ち歩いている笛付きラムネ菓子を観て、「これだわ!」と何かを思いつく。

六兵衛が息を吹きかけたり、ソーダ水をストローで吹いて泡立てさせたのを思い出したのだ。

幽霊も、息は出せる!

その時、六兵衛は、小佐野検事が自分と目が合い、慌てたように目を外すのを見る。

エミは、笛ラムネを裁判長に示すと、六兵衛に吹いてみてと言いながら口元に持って行く。

六兵衛が息を吹きかけると、笛ラムネはヒューと音を出したので、傍聴席も裁判長達も驚く。

速水は、イエスかノーかの質問にし、1回吹くとイエス、2回吹くとノーと言うことにしてはどうでしょうと提案し、水からが笛ラムネを持って六兵衛の横に立つ。

エミはまず、あなたは更科六兵衛ですね?と聞いてみる。

笛は1回鳴った。

あなたは妖怪ですか? 笛は2回鳴る。

あなたは幽霊ですね? 笛は1回鳴る。

それを聞いていた裁判長は、これは面白いと喜び出す。

しかし、小佐野検事は、裁判に面白さを求めるものではありませんと異議を唱える。

その時、六兵衛は、どうもあの検事は、わしのことが見えているような気がする。さっき目をそらしたとエミに小声で教え、ちょっとやってみるから観ていてくれと言う。

小佐野検事はまだ滔々と異議を申し立てていたが、六兵衛がその発言に大声で茶々を入れ出す。

最初は無視してしゃべっていた小佐野検事だったが、あまりのうるささに耐えられなくなったのか、うるさい!今、俺が発言してるんだ!と六兵衛に怒鳴り返す。

裁判長は、今のはどういうこと?と小佐野に問いかける。

エミはすかさず、彼の姿が見えていますね?と小佐野検事に近づき、六兵衛は小佐野のすぐ横で、変顔をしてみせたりする。

たまらなくなったのか、小佐野検事は裁判長に休廷を願い出る。

その日の証人喚問はニュースでも大きく取り上げられ、心霊研究家(近藤芳正)が解説したり大にぎわいだったが、小佐野検事は、断固抗議する!とインタビュー達に息巻いている所が放送されていたので、事務所のテレビでそれを観ていたエミは呆れる。

速水は、なんであいつには見えて、俺には見えないんだ?と不思議がり、エミも、何かルールがあるはずだと考え始める。

エミは、新聞に、更科六兵衛の姿をちゃんと描いている法廷画が掲載されていることを発見し、早速、その画家、日村たまる(山本亘)に会いに行く。

幽霊が見える人と見えない人には何か共通点があるはずですと説得するエミに、日村は君と僕に共通点などないよと否定する。

エミは、自分は仕事が巧く行ってなかったと告白する。

すると、日村も、僕は法廷画家が本職ではなくて、世界の人をファンタジックに描くのが仕事なんだが、それでは食べていけないと言う。

最近、死を身近に感じたことはありませんか?私はトラックに轢かれかけましたとエミが言うと、最近、ピーちゃんと言う小鳥を亡くしたと日村は打ち明ける。

事務所に呼ばれたファミレスであったトラック運転手伊勢谷は、最近事故ったし、半年前に父を亡くしたと言う。銀座で出会った金髪のコールガール(篠原涼子)は、ヒモに騙され、ストリッパーにされたが、その劇場がぼやにあったと言う。

エミは、運気が下がり、死を身近に感じた人が見えるらしいと推測するが、それを聞いていた速水も、俺も最近仕事運がないが見えないぞと反論する。

エミは他にも共通点があるはずと考えるが、その時、デリバリーでお茶が届く。

シナモンティーをご注文の方?と持ってきた女性が聞くと、速水以外の全員が手を挙げる。

小佐野検事がインド料理店で一人食事を始めようとしていた時、六兵衛を連れてやって来たエミが、インド料理のどこがお好きなんですか?と聞いて来る。

小佐野は、自分は食事を邪魔されるのが一番嫌いなんだと抗議するが、エミは構わず、照明用のアルコールランプを三つ、小佐野検事のテーブルの上に並べると、幽霊を観るには3つの条件があります。

1つめは、最近ついてないこと…と言いながら、エミはランプの一つを吹き消す。

2つめは、最近身近に死を感じたことがある…と言いながら、二つ目のランプも吹き消す。

3つめは、シナモンが大好きなこと…、五郎のパンロールはシナモンを使っていますと指摘する。

さらに、最近、奥さんと会話してないそうですね?男作って出て行ったそうじゃないですか?と検事を責めると最後のランプを吹き消し、最近あなたは、ラブラドールリトリバーの愛犬ラブちゃんを亡くし、死を身近に感じた。ガラムマサラの主成分はシナモンですと指摘するが、小佐野検事は、死後の世界など絶対に信じない!と叫ぶ。

その時、六兵衛が死んだ愛犬のラブちゃんを連れて来る。

唖然としてそれを観た小佐野に、六兵衛は、霊界から連れてきた。ハチ公の隣にいたと説明する。

小佐野はラブちゃんを抱きしめると、僕の宝物ですと答える。

その姿は、店員や他の客達には異様な姿に映っていた。

エミは、こんな手を使って申し訳ありませんと謝り、小佐野検事は卑怯者…とつぶやきながらも、死に目に会えなかった。やっと別れが出来ましたと、ラブちゃんに再会できたことを感謝する。

六兵衛さんが証人席に立つの認めてもらえますか?とエミが尋ねると、反対尋問をやらせてもらうが、容赦はしないぞと小佐野検事は宣言する。

翌朝の新聞で、六兵衛の証人喚問が成立しそうだと知った化粧品会社社長日野風子(竹内結子-二役)は、どうにかしてよと夫の 日野勉(山本耕史)に頼み、勉は、心配するな、もう手は打ってあると言うと、そこに白衣装の怪しげな男が入って来る。

男は、あの有名な安倍晴明の無二の親友メイメイの35代目阿部つくつく(市村正親)と名乗る。

勉は愉快そうに、六兵衛を法廷から消してもらうんだと風子に教える。

次の証人喚問が開かれる日、裁判所は満員になる。

六兵衛と共に出廷を待っていたエミは、関係者以外立ち入れないはずの廊下に、白い帽子に白い服を着た見慣れぬ男の姿を見かけ不思議がるが、六兵衛はその男に見覚えがあるようだった。

男は六兵衛とエミに近づくと、自分は公安局公安課の段田(小日向文世)だと自己紹介し、上の命令で六兵衛を強制送還すると言い出す。

すると、そこに近づいてきた小佐野検事が、裁判が終わるまで待てと命じる。

段田は、俺に逆らうと死んだ後辛いことになるぞと脅すが、お引き取りください。強制送還すれば、私は行動を起こす。反対尋問で根本から覆してみせると言い切る。

段田は、小佐野の言葉を面白がり、お手並み拝見と行きましょうと答える。

エミは小佐野に、どうして助けてくれたんですか?と感謝を込めて聞くと、我々は敵ではない。真実を見つけることに対してはむしろ味方同士と言って良い。本当の敵は、真実を隠そうとする者ですと小佐野は応える。

いよいよ裁判が始まる。

段田も、法廷の裁判長席前の階段に立って観ていた。

その時、客席に変装して紛れ込んでいたつくつくが、「あいや、待たれよ!」と叫ぶと、急に立ち上がり、証人席の方に近づくと、六兵衛に対し呪文を唱え始めるが、ああ言うのが邪魔なんだよねとむかついたらしい段田が、小指を使って念力を飛ばすと、つくつくの身体は浮かび上がり、傍聴席の後ろに弾き飛ばされてしまったので、つくつくはごめんなさい!と簡単に謝り、変装していた服を持って、失礼しましたと言いながら、すごすごと法廷から逃げ出す。

その日の証人席の前にはハーモニカが備え付けられていた。

エミは六兵衛に、事件当夜、しかばね荘の「耳鳴りの間」にいましたね?と聞くと、ハーモニカが1回鳴る。

客の上に、朝までずっと、またがってましたね?と聞くと、又1回ハーモニカが鳴る。

その客は、ここにいる矢部五郎さんでしたね?と聞くと、又、1回ハーモニカが鳴る。

次に反対尋問に立った小野田検事は、あなたは何故、そんなことしたんですか?と聞くので、エミはあわてて、イエスかノーかで答えられる質問にして下さいと頼むが、小佐野は続けて、何故化けて出るのですか?何故、理由もないのに、人を怖がらせるのですか?などと追求して来る。

六兵衛は、どうしてって言われても…、あえて言えば、幽霊だから?と答え、それをエミが通訳するが、小佐野検事は、幽霊だって人間だ!と攻める。

答えに窮した六兵衛は、悔しいですとエミに泣きつく。

さらに小佐野検事は、天正18年、西暦1590年、小田原軍記に記載されていますと資料を提示しながら、あなたの死因は何ですか?と小佐野検事は六兵衛に聞く。

エミは意義あり!と手を挙げ、今のは本件とは何ら関係ありませんと抗議するが、小佐野は、あなたはどのようにしてこの世を去ったのですか?と追求する。

六兵衛は言いにくそうに「首をはねられた」と小声で答え、もっと大きな声で!と小佐野から言われたので、大声で繰り返す。

処刑されたと言うことですね?とまとめた小佐野は、何故処刑されたのか?反逆罪ですねと六兵衛に問いかけ、あらゆる歴史書にそう書かれている。仲間を裏切り、平気で嘘をつく。そんな人間の証言など信じられるでしょうか?答えは否だ!と言い切る。

六兵衛は、無念じゃ…と悔しがる。

速水が立ち上がり、権威ある歴史学者なら証明できるはずだと言い、木戸健一を証人席に立たせる。

木戸は、六兵衛は立派な武将だったと証言し、陣羽織は氏長から直々に拝領されたそうですと言うと、六兵衛は自慢げに、これだよこれ!と赤い陣羽織を裁判官に見せつけるが、裁判官は誰も見えない。

北条氏長から厚い信頼を勝ち得ていたと言われたが、明智光秀も織田信長から信頼されていたと小佐野が反論すると、六兵衛は怒って、あんなやつと一緒にするな!と抗議する。

木戸が、間違った歴史書は書き直すべきだと言うと、小佐野検事は、証拠を書き直せと言うのか?小田原軍記は一級の資料ですぞと追求し、朗々と自説を展開する。

完全に怒った六兵衛は、斬ってやると言い、刀を抜くと、小佐野検事に襲いかかる。

小佐野はあわてて逃げ回るが、斬られたと感じ身もだえるが、次の瞬間、何事もないことに気づき正気に戻るが、又斬られたのか、苦しむポーズをとる。

翌朝の新聞には、小佐野検事に斬り掛かる六兵衛の姿を描いた日村の法廷画が大きく掲載される。

自宅に帰ったエミは、万亀夫から、気持ちやないかな?弁護士は俳優で傍聴人は客みたいなもんやから、気持ちでしゃべらんと、客は感動せえへんのとちゃう?とアドバイスされるが、じゃあ、万亀夫君は感動させたことあるの?と反論されると急に黙り込み、涙ぐんでしまう。

六兵衛に、せっかく証言してみラッタのにごめんなさいとエミが謝っていると、リュックを背負った万亀夫が玄関口に立ち、俺たち、しばらく離れていた方が良いみたい。君は今、仕事のことで頭が一杯だから、これ以上一緒にいると、君のこと嫌いになりそうだからと言い出す。

エミはあわてて、ごめんなさいと謝るが、もっと早く、その言葉聞きたかったと言い残し、万亀夫は部屋を出て行く。

気分転換に近くの公園に六兵衛と共に出かけたエミは、缶ビールを飲みながら、どうして自分が死後の世界を信じなかったか教えましょうか?と言い出す。

自分が10歳の時に父ががんで亡くなったの…とエミは話し始める。

父は私をとても愛してくれた。

仕事が暇なときなど、良く散歩に連れて行ってくれたのだが、気分が良いと、父はアルプス一万尺を歌うの。死んでからも父に話しかけてきた。天国のお父さん、私を助けてって…。でも父の声は聞こえなかった…

それを聞いていた六兵衛は、お父上は、きっとそなたを見守っていたと思う。わしらに出来ることはない。屁のようなものだ。臭いだけ屁の方がましかもしれん。どんなに寂しかったか…。お父上も、必ずそなたを観ているはずだと言う。

今も?とエミが聞くと、おう、今も…と六兵衛は答える。

それを聞いたエミは安心したかのように、帰ろう!落ち込んでいる暇などない。私には後がないのだからと言う。

六兵衛は、そんなエミに、そなたは大したお方よのぉ。知恵もあるし勇気もある。足りないものがあるとしたら自信だ。

自分を信ぜずして、誰が信じるか!と言った六兵衛は、エミ殿、今より、姫と御呼びしてよろしゅうござるかとかしこまる。

しかし、エミは笑って、ダメ!だって姫じゃないもんと答える。

翌日、矢部五郎に面会に行ったエミだったが、五郎から、これって僕の裁判ですよね?何だか最近、ないがしろにされてません?落ち武者中心に回っているでしょうと言われてしまう。

さらに五郎は、死後の世界があるんだったら、僕の奥さんを呼んで来てくれと言い出す。

帰宅したエミからそれを伝え聞いた六兵衛は驚き、とりあえずあの世に帰るが、すぐに息を切らせてイスに座っていたので、エミは不思議がるが、あちらとこちらでは時間の進み方が違うので、もう行って帰って来た所だと言う。

何しろあちらには太古の昔からの死人の数が膨大で、ネアンデルタール人なんかもわさわさいる所だから、とても見つけるのは無理だと言う。

そんな会話を、阿倍つくつくが外から盗み聞いていた。

ラブちゃんはどうして見つかったの?とエミが聞くと、あれは飼い主に会いたい気持ちが強かったから…と六兵衛は言う。

その時、突然室内に、あの段田が出現し、棚に飾ってあったフランク・キャプラの「スミス都へ行く」のDVDを観ると、キャプラが好きとは思ってもいなかったと嬉しそうに言う。

父が好きだったのとエミが言うと、個人的には「素晴らしき人生」の方が好きだけど、これも好きだと段田は言う。

そしてアルプス一万尺の曲を口笛で吹き始めたので、エミが驚いていると、スミスと言えばこれでしょう?観たことないのか?と段田は言う。

そして、そろそろお開きにしませんか?決着はついてる。あんたは負けたと言う段田の背後に、突然黒メガネ黒服姿の大勢の男達が居並ぶ。

その時、「私に任せなさい」と言いながら入ってきたのがつくつくで、又呪文を唱え出すが、段田が息を吹きかけると、又空中に浮かび、部屋の外に飛び出して行ったかと思うと、満月の中に吸い込まれて行く。

六兵衛も観念し、お別れしなくてはならぬようだ…とエミに伝えるが、エミは一つだけお願いがあります。3時間だけ待ってくれませんか?その間に「スミス都へ行く」など観ていては?と段田に頼む。

段田は、なかなか良い所をついて来るなと言いながらも、リモコンのスイッチが押せないので、2時間9分待ちましょう。「スミス都へ行く」の上映時間だと許可を与える。

エミは六兵衛を連れ、小多摩の古戦場跡に連れて来る。

六兵衛は、その頃と同じ風景だと感激した模様。

そこにやって来た木戸が、慰霊碑はこの辺に建てますとエミに伝える。

それを聞いた六兵衛は感激し、泣き始めるが、木戸が、今泣き声のようなものが…と言い出す。

武士は人前では泣いたりしませんよねと言う木戸の言葉で我に帰った六兵衛だったが、エミは、六兵衛さんは笑っていますと噓を言ったので、六兵衛は泣き笑いのような表情になる。

エミは六兵衛にお元気で…と別れの言葉を告げるが、六兵衛は、わしは既に死んでいるわと返し、力になれず、相済まなんだと詫びる。

エミは、六兵衛さんがいたからここまでやってこれたのですと感謝する。

勝負はこれからだ。ご武運をお祈りします。自信を持ちなされと六兵衛は励ます。

どうして鈴子さんをあの世で見つけられなかった?何故か入院していた速水のベッドの側に見舞いに来たエミは語る。

鈴子さん、本当は死んでないんですもの。鈴子の荼毘を命じたのは姉の風子です。死んだのは姉の風子の方ではないのか?鈴子は姉に成り済ました…とエミは推理を聞かせる。

その後、エミは風子に会いに観葉植物だらけの屋敷に向かう。

応対した夫の日野勉は、妻はガーデニングが趣味だと言う。

しかし、良く見ると、植物は枯れている部分が多かった。

はじめて会った風子は、やったのはあいつです!と興奮気味に話し、勉からたしなめられるほどだった。

妻は心底妹を愛していましたから…と妻をかばう勉に、エミは帰り際、2人は良く似てますよね?と聞く。

勉は、そうですか?ととぼける。

病院に戻って来たエミは、ベッドの速水が苦しみ出し、ナースコールを手渡したのにも気づかず、あれは風子です。植木も枯れていましたなどと、夢中で報告するエミだったが、思わず興奮してナースコールを押したので、ようやく医者(唐沢寿明)と看護婦(西原亜希)が駆けつけて来て、速水の心臓マッサージを始める。

その時になってはじめて、速水が重篤な状態だったと言うことを知ったエミは、あちらに行ったら、公安部公安課の段田さんに渡して下さいと言いながら、急いで紙に何かを書きなぐる。

午後9時53分、速水は息を引き取る。

エミは、部屋の隅のソファに座っている速水が「最悪だよ」と声をかけて来るのに気づく。

どうやら幽霊になった速水のようだった。

次の公判日、エミの前に現れた段田は連れてきたよと言う。

風子さんに会わせてと頼むエミに、「素晴らしき哉人生」見せてくれるの?とせがむ段田。

エミはTUTAYAに借りに行くと約束する。

同行していた速水の幽霊は、もう一度、天一のラーメン食いたかったと嘆く。

上映時間130分、急がなければ朝になる…と段田はせかす。

証人席に立っていたのは、被告矢部五郎だった。

遺体確認の際、遺体は間違いなく奥さんでしたか?とエミが聞くと、怖いし気持ちが悪いのであまりはっきり見なかったと五郎は答える。

エミは、遺体が別人だった可能性があると裁判官に指摘する。

小佐野検事は意義ありと手を挙げるが、裁判長はもっと聞いてみましょうと先を促す。

遺体確認をした人はもう一人いますとエミは続ける。

姉の風子さんです。たまたま今日は、そのご本人がこの法廷に来ています!と紹介すると、確かに傍聴席に風子と勉が座っている。

裁判長が検事側の意見を聞くと、意義…なし。日野風子さんの証言を聞いてみたいと小佐野も言う。

裁判長も聞いてみたいなと言うことで、エミは傍聴席の風子に近づくと、下手に嫌がると、逆に疑われますよと耳打ちし、証人席に立たせる。

最後に妹さんに会われたのはいつでしたか?とエミが聞くと、2年前の従兄弟の結婚式でだったかしら?と風子は答える。

仲は良かったんですよね?どうして2年も会ってなかったんでしょうと疑問を口にしたエミは、妹さんの浮気のことはご存知でしたか?愛人がいたようですよと教える。

立証趣旨をもっと明確にしてもらえませんか?と裁判長が注意すると、鈴子の方が五郎に消えて欲しかった…、全ては妻の鈴子が仕組んだことだったのですとエミが発言すると、場内は騒然となる。

何故サングラスをかけているんですか?とエミが問うと、目が弱いからと風子は答えるが、エミは、あなたは風子さんじゃありませんね?妹の鈴子さんですと言い、被告の五郎に向かって、あそこにいるのは奥さんですと指摘する。

真犯人はあなたです!エミは、目の前にいる証人に指を突きつける。

鈴子だと言われた風子は、小佐野検事に、何か言いなさいよ!と迫るが、小佐野は、意義なしと言い、それだけのことを言うのだったら裏も取ってあるんだろうな?とエミに聞く。

エミは、裏は今から取りますと言いながら、証人台の上に紙を広げる。

そして、アルプス一万尺をハミングしながら、懐から何か小瓶を取り出すと、その中身を全部、紙の上に盛る。

その紙を持ち上げたエミは、「シナモンはお好き?」と言いながら、鈴子にシナモンの粉を吹きかける。

ちょっと咳き込んだ鈴子がサングラスを取ると、目の前に、黒いつば広の帽子と黒コートを着た風子が出現し、あんた良くも私を殺してくれたね!と迫って来たので悲鳴を上げる。

裁判長はどうしたのかと聞くが、鈴子は別に…とごまかす。

その時、法廷画家の日野が立ち上がり、被害者がここに来ているんだ!と指差し叫ぶ。

エミは、幽霊の風子に、あなたを殺したのは誰ですか?と聞き、風子はこの人よ!と証人席の鈴子を指差す。

裁判長が何を言ったのかと聞くと、エミは、あなたには聞こえたはずですと小佐野検事を観る。

小佐野検事は、自分を殺したのは彼女だとはっきり言いました。これ以上の証言はありませせんと裁判長に教える。

五郎は「お前…」と驚きながら鈴子に近づこうとし、鈴子は、殺すつもりはなかったのよ…と弁解する。

日野勉はこっそり逃げ出そうとするが、あえなく行く手を阻まれてしまう。

日村はスケッチをしながら手を振る。

小佐野検事の机に腰掛けた風子が、笑顔で手を振っていたからだ。

裁判長は、被告人は無罪と言い渡す。

その時、エミは傍聴席に六兵衛が混じっているように思えたが、その人物は、落ち武者ヘアのあの運転手だった。

閉廷後、裁判長に挨拶に行ったエミは、被害者の証言は今回が特別だと段田さんに言われたと報告する。

裁判長は、毎回被害者が証言してくれるわけにはいかないんだねとがっかりする。

小佐野検事は、その時になっても、今回のことは集団催眠と言い張る。

控え室から帰りかけたエミは、又、資料の入った紙袋をひっくり返してしまうが、あわてて中身を拾い集め廊下に出る。

小佐野検事は、裁判は勝ち負けではないが、今回の君は良くやった。お父さんも天国で喜んでいるでしょうと褒めながらも、何度も、裁判は勝ち負けではないを繰り返し、未練たらたら帰って行く。

エミは、その時忘れ物を思いだし、控え室に戻ると、床に落ちていたバナナを一本拾い上げる。

そして、無人の法廷に1人入って、感傷に耽り出す。

その時、六兵衛が、姫、ようやった!と声をかけ、段田氏より特にお許しを受け戻って参ったと話しかけるが、エミは全く気づいていなかった。

運気が上がってきたので見えなくなってしまったのだが、そのことに気づかない六兵衛は、あんたに会わせたい人を連れてきた。会っていただきましょう!この人です!ともったいぶって紹介したのは、エミの死んだ父親で、自宅マンションの写真立てに飾ってあった宝生輝夫(草彅剛)だった。

エミ、久しぶり!と声をかけた父だったが、エミが無反応なので困惑し、どうするんですか?と六兵衛に助けを求める。

仕方ないかと言う六兵衛は、法廷の隅に置いてあったハーモニカを吹く。

その音で驚いたエミは、アルプス一万尺のメロディだと気づき、お父さん!と呼びかける。

「本当はヤンキードゥードゥルなんだけど…」とハーモニカの前で細かいことを言う父だったが、1回鳴らして返事をする。

六兵衛さんが連れてきてくれたのね?とエミが聞くと、又、1回吹く。

お父さん、お会いしたかったですとエミが感動すると、父は僕もだよ…とつぶやき、慌てて1回ハーモニカを吹く。

父はいつしか、エミを抱きしめていた。

夜空には満月が輝いている。

お母さん、再婚したの知ってた?とエミが聞くと、ハーモニカが1回鳴る。

法廷内もずっと観ていたんだ?一回鳴る。

いつも?一回鳴る。

これからも?もちろんと答えながら、1回ハーモニカを父は吹く。

お前は1人じゃないと父が言うと、心が通じたのか、エミも1人じゃないんですねとつぶやく。

父はそんなエミに息をそっと吹きかけるのだった。

いつの間にか法廷内に来ていた速水の幽霊は、小佐野に向うの世界のことを話したがり、六兵衛は日村が描くスケッチを覗き込みながら、自分の顔が似てないなどと文句を言う。

速水はその場でタップダンスを踊ってみるが、靴の音が出ないので不思議がる。

「THE END」と文字が出るが、それを観た六兵衛は、何、小洒落て出てきてるんだとその文字を蹴飛ばし、上から大きな「完」の文字が降りて来ると、観客席に向かい、どうもありがとうございました!と礼を言う。

工藤万亀夫とエミが結婚式を挙げ、赤ん坊が生まれるまでの記念写真をバックにエンドロール

最後、六兵衛の記念碑が無事建った写真、微笑んでいる六兵衛の肖像画が映る。