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スパイ('65)

北朝鮮の情報を得るために、某国の謀略機関が、スパイを仕立て上げ、北へ送り込もうとしている計画に気づいた新聞記者の取材と挫折を描いた社会派作品。

当時の社会状況が良く分からないので、ここで描かれているのが、どの程度、事実に即したものであるのかは判断できないが、松本清張の作品などでお馴染みの「黒い霧」と言う文言がここでも登場している。

アメリカが共産主義から韓国や日本を防御するため、色々な謀略を人知れず日本で行なっているようだ…と言う告発なのだが、そう言うこともあった可能性はあるなと感じさせるような描き方になってる。

そう言う工作活動に女が絡み、幼なじみ同士の男との三角関係になると言う、ロマン要素の味付けがしてある。

主人公を演じている田宮二郎は、「黒の試走車」(1962)「背広の忍者」(1963)「黒の超特急」(1964)などと同じように、まじめ一方なキャラクターを演じている。

不遇な幼少期から情報機関に入り、ずっとスパイとして生きている男を演じる中谷一郎、祖国統一を願い、韓国から逃亡して来た青年を演じている山本學、そして妖艶な色気を漂わせる薄幸な女を演じる小川真由美、この3者の存在感が素晴らしい。

若い夜学生を演じている山本圭なども、まだ子供のように痩せていて若い!

山本薩夫監督だけに、一見荒唐無稽にも思えるスパイ活動を、それなりに説得力を持って見えるように、リアルタッチでクールに描いている。

地味と言えば地味な内容だが、60年代という時代の一面に触れるタイムカプセル的な意味合いはあるような気がする。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1965年、大映、夏堀正元原作、舟橋和郎脚色、山本薩夫監督作品。

タイトル(バックで、「三矢研究」に関する資料に記された核使用の容認や核兵器の国内持ち込み容認に付いて書いてあると追求する野党らしい声と、仮想敵国などという文言を使うのはいかがなものかと言う首相答弁らしき音声が流れる)

それは、「密入国者が大村収容所を逃亡した」と載った、通称「ゴミ」と呼ばれるベタ記事が発端であった。

この背後に何かある…と感じた中央新聞社社会部記者須川康夫(田宮二郎)は、社会部部長(浜田寅彦)に大村へ行かせてくれと頼むが、又、日本を覆う謀略の黒い霧か?と、近くにいた記者仲間からからかわれてしまう。

須川がいつも、何かと言えば、謀略だの黒い霧に結びつけたがるのは社内で有名だったからだ。

部長は案の定相手にしてくれなかったが、資金は前借りにし、コンビのカメラマン、コンちゃんこと紺野(福田豊土)に別れを告げた須川は、独断で長崎の大村入国者収容所に飛ぶ。

取材に応じた収容所の宮島警備官(佐伯赫哉)は、脱走したのは李起春(山本學)と言う韓国人で、六三事件で逮捕、投獄された後、脱獄して、この3日に日本に亡命して来た青年なので、本国に戻ると処刑されるのだと言っていたという。

同席していた和田警備課長(稲葉義男)は、李起春は東京に金容実と言う朝鮮料理屋をやっている知りあいがいるらしいと付け加える。

李が脱走した日、面会人があったそうだが?と須川が聞くと、警視庁外事課宇崎三郎警部と言う方が午後みえたと和田警備課長は答える。

警視庁のこともある程度知っている須川だったが、宇崎警部などと言う人物は聞き覚えがないと不思議がると、確かに提示した警察手帳は本物だったという。

警察庁に問い合わせてみたら?と須崎がアドバイスする。

李は、逃亡時、拳銃も盗んで行ったそうじゃないですか?と聞く須崎。

(回想)逃亡の日、収容所に、食料配達の「平和パン」のバンが横付けする。

その直後、塀を乗り越えて、下にいた警備員を襲撃し、銃を奪った李は、停まっていた「平和パン」のバンの助手席に潜り込み、運転手が戻って来ると、銃を突きつけて脅し、そのまま所内から外へ脱出したのであった。

(現在)警察庁に連絡してみた宮島警備官は、宇崎と言う警部はいなかったと言いながら、須川の元に戻って来る。

「平和パン」の運転手が届け出たのは翌朝6時だったことを聞き終えた須川は、大村収容所を後にして、その運転手に直に話を聞きに行く。

運転手が語るには、収容所を後にしたバンは、東本町郵便局前に誘導され、死にたくなかったら警察へ言うなと、車から降りる李から脅されたと言う。

さらに、バンを降りた李は、その場に停まっていた黒いシボレーに乗り換えて立ち去ったという。

取材を終えた須川は、この事件の裏には何かある…と確信を持ち始めていた。

東京に戻った須川は、焼き肉屋「天安館」の主人金容実(東野英治郎)を訪ね、李起春を知っているかと聞く。

李天胡の息子かな?とつぶやいた金は、ここへ来たらすぐに政府に渡す。日本、朝鮮人に意地悪だからねと答え、ここへは来はしないよと笑うのだった。

中央新聞編集局に戻って来た須川は、勝手な行動に怒った様子の社会部長が、これから編集会議だと席を立とうとしていたので、これまで取材して来たメモを渡し、会議で取り上げてくれと頼む。

しかし、会議後、社会部長からこの企画は打ち切りだと言われてしまう。

呆然とする須川に近寄って来た紺野は、どうもおかしい…と耳打ちする。

この事件、どこも動いていない。どうやら解決したみたいだと言うのだ。

米軍か?と須川は推測するが、そうでもなさそうだった。

しかし、アメリカの息がかかっている気配は濃厚だった。

黒い霧か?…と紺野はつぶやく。

アメリカは日本から出て行け!とシュプレヒコールをあげるデモのニュース。

とあるバーでは、ウエイトレスたちがツイストを踊っていた。

そんな中、須川は1人、寂しげにカウンターで飲んでいたので、ママがどうしたの?と語りかけると、1+1が2にならないってことだ…と須川はつぶやく。

そんな店に1人の女が入って来て、須川にここのママを呼んでくれと頼む。

須川が近くにいたママを呼び寄せると、その女は、ここで働かせてくれないか?とママに頼み込む。

ママは突然の申し出に戸惑い、身元がはっきりしないとね…と口ごもるが、女は自分は独り身だし、前は横浜の「ニューゼブラ」で働いていたのだが、米兵にしつこく迫られて…と経歴も明かす。

その時須川が、この人なら亭主もいないし…と言い添えると、女の知りあいだと勘違いしたママは、須川さんが言うのなら…と了承することにする。

女は、助け舟を出してくれた須川に礼を言い、則山茂子(小川真由美)と名乗る。

須川の方も、名刺を渡し、こちらこそよろしく頼むよと返事をする。

今や、黒い霧を追うより、この女を追った方が良いようにさえ思えたからだ。

その頃、大村入国者収容所を脱走した李起春は、どこかの部屋に軟禁されていた。

食事はきちんきちんと出ていたが、ベッドしか置いてない、窓さえない密室から一歩も出られない異常な状況だった。

部屋にやって来た宇崎警部と李が思い込んでいた男、井村仙一(中谷一郎)と、アロハを着た二世のような男、ピーター岡本(高橋昌也)を観た李は、話しが違う。ここを出してくれと訴える。

しかし、井村は、君は在日北朝鮮組織に入って欲しい。日韓会談に反対したあなたにはふさわしいだろうと言い出す。

李は、スパイになれと言うのか!と憤る。

アロハの男は自分たちは大韓民国の味方だと言うが、李は断る!祖国は一つだ。私が愛しているのは、全朝鮮の人民だ!スパイになるくらいなら、祖国で死刑になった方が良いときっぱりはねつける。

ピーターは、言うことを聞けば、日本で好き放題出来るよと笑いかけ、井村もけちくさい民族主義なんて捨てるんだなと説得するが、李は、犬め!と罵倒し、井村の顔につばを吐きかける。

井村は怒り、突然、李を殴りつけると、時間をやるからよく考えろと良い、壁に付いていたスピーカー兼通信機に向かい、音楽を流すよう命じる。

さらに、鼻血を出した李の足に足かせを付けて、ベッドにくくり付けると、お前は俺を犬と言ったが、その内お前も犬みたいになるぜと言い残して、ピーターと共に部屋を出て行く。

その夜、韓国の外相が来日予定と言うこともあり、計画を遂行するために、ピーターは外国人女性と共に「人文科学研究所」と言う建物から車で出発する。

その夜、井村は横浜時代に知り合った茂子を抱いていた。

茂子は、私、まだ海の匂いがする?と井村に囁きかける。

井村は茂子を抱きながら、戦時中、日本軍の諜報部員として、東南アジアで情報かく乱や収集の仕事で働いていた福島勇一時代のことを思い出していた。

昭和19年12月末、そんな井村が乗っていた船が撃沈され、命からがら生き延びたのだった。

茂子はしきりに何かを井村に話したがっていたが、井村は相手をしなかった。

しかし、茂子が、あなたの子供を産んで良い?と聞くと、事情を察し、バカなことを言うな!と不機嫌になる。

私が勝手に生んだら?と問いかける茂子に、お前が自分で死ぬようにしむけるだろう。妊娠した女を抱けるか!と井村は言い放つ。

茂子は、嘘つき!と言うと泣き伏せ、あんたは一体誰?と井村に問いかける。

お前の前にいるのは、俺の影さ。その中でも一番薄い影かもしれん。俺に似た奴なんか堕ろせ!と命じて、井村は5万円の札束をテーブルに置く。

日本は堕胎天国だ。神様がいないせいだな…と言い残し、井村が部屋を出て行くと、残された茂子は無理矢理酒を飲んでごまかす。

その頃、密室に軟禁され、ベッドに縛り付けられていた李は、スピーカーから流れて来る不協和音のメロディーに苦しめられていた。

井村は、車でとある場所に来ると、そこで待っていた男たちに、ビラの束を渡し、早く始めろと命じた後去る。

又、奇妙な事件が起こった。

韓国外務大臣来日に際し、労務者たちに反対デモをするようにビラをまいた在日を名乗る男が出現したと言うものだった。

でも、そのビラをまいたのは日本人だった…、須川はその意味を考えていた。

そんな須川の元に、京都に行っていたという紺野が帰って来る。

北側の陰謀のように見せかけるため、スパイが労務者たちを煽動しようとしたのではないか?大村入国者収容所に現れた宇崎と言う男を追ってみないか?と誘った須川だったが、紺野は今夜女房とデートや…とやんわり断る。

その夜、須川は又、いつもの店で飲んでいた。

ママは、この不況どうなるかしら?などと須川に話しかけていたが、金を持っていそうな上客が来ると、ホステス共々、一斉にそちらのテーブルへ移動してしまう。

突然1人にされた須川は、カウンターの中にいた茂子に、今夜は君と付き合うかな?寿司を食って…と冗談半分に誘ってみる。

茂子は、それだけよ…とはぐらかせていたが、そんな茂子の前に座った客は井村だった。

2人の間に緊張が走ったのを、横に座っていた須川は見逃さなかった。

須川は、茂子と井村は互いに旧知の仲と見抜く。

何故こんな所で働いている?と、ヘネシーを注文した井村が聞くと、働きながら考えてみたかったの…と茂子が答える。

捨てなきゃ2度を会わんぞ。話はお前が始末してからだ。腹の膨らんだ女なんてまっぴらだと井村は冷酷な言葉を吐き、井村は店を後にしようとするが、そんな井村に話しかけたのが須川だった。

須川は井村を昔知っていたのだ。

井村も、店に入って来た瞬間からお前に気づいていたぜと苦笑する。

結局、井村は、一杯付き合えよと誘って来た須川とテーブル席に移動して、不承不承旧交を温めることにする。

井村は須川の幼なじみで、昔からこういう態度だった。

彼は貧乏を憎んでいたし、私が当時、裕福な家に生まれたからだったかもしれない…、須川は井村を観ながらそう考えていた。

そんな須川に、井村は、俺は重大な情報、東北アジア同盟に関する情報を持っていると言い出す。

いくらだと聞くと、井村は金は入らないと良い。その代わり左翼情報が欲しいと言うので、須川は、この男、スパイだ!と直感する。

ダブルスパイみたいなものだな?と嫌みを言い、止めとこうと須川は断る。

すると井村は、この女を付けてやろうと、茂子を指して言い出したので、何?と驚いた須川は、井村、恥を知れ!と叱りつける。

客同士がもめ出したと察したママが仲裁に入るが、井村は平然と、よく考えろ。欲が出るよ。欲が…と須川に笑いかけ、店から出て行く。

そんな井村の後を茂子が追って出る。

(回想)横浜のクラブ「ニュープラザ」の前の通りで、茂子は2人の米兵に絡まれ、ジープに乗せられそうになっていた。

そこに偶然通りかかった井村が、米兵2人を叩きのめし、茂子のピンチを救ったのだった。

礼を言う茂子に、井村は、お前、本当は連れて行かれたかったんじゃないか?今夜は俺で間に合わせようと言うのか?と嫌みを言う。

しかし、茂子はそんな井村にキスをする。

その時井村は、良い匂いだ…。お前の匂いは海を思い出させる…。俺はルンペンさ…と自嘲するのだった。

(現在)そうした昔話を、結局、寿司屋に連れて来てもらって来た須川に打ち明ける茂子。

どうやって連絡を取っているのか?と須川が聞くと、あの人が来てくれるのをただ待っているだけなのだと言う。

あの人、ピストル持っているの。人を殺すんじゃないかしら?…と案ずる茂子。

須川は別れた方が良い。君がみじめになるだけだと忠告する。

この寝静まった東京にスパイがいる…。戦争の火種をかき回しているのだ。

深夜、考えながら帰宅する須川の上空を、飛行機の轟音が通過して行く。

翌日、須川は、韓国のことに詳しい田所(三島雅夫)と言う人物をインタビューのため訪れる。

田所は、自分は浪人だよと謙遜しながらも、韓国の経済を立て直すのは、共産主義の防御のためだよ。昔敵だったアメリカも、今は味方だと説明する。

アジア青年同志会の名でビラをまいたという噂がありますが?と須川が斬り込むと、そんなこと考えるまでもなく事実かどうかすぐ分かるだろう。君のような男が中央新聞にいるとは情けないねと田所は憤慨する。

須川が帰って行った後、田所にピーターが会いに来る。

ピーターは、ベトナム戦争で、日本人に反米気運が盛り上がらないかと心配だと告げるが、田所は、今の男は、ビラとアジア青年同士会を結びつけおったが、まさか、君か井村の仲間じゃないだろうね?と警戒する。

その頃、李起春は、まだ密室のベッドに縛り付けられ、音の拷問を受け続けていた。

久々に部屋に入ってきた井村は、協力するな?と言いながら、李の手かせ足かせを解いてやる。

李は、敗北した自分を恥じたのか泣き始める。

李起春、君の人生は今日から変わったんだぞ。君は在日北朝鮮情報組織の幹部になるんだ。君は北朝鮮のシンパだ。

車に乗せられた李は、神戸当たりの日雇いで稼いで買ったと言えと言いながら、腕時計を井村からはめられる。

敗戦の時、自分は北海道で情報員としてCICに雇われた…、車で李を送る途中、井村は、自分が今の仕事に就いたときのことを思い出していた。

結局、雇い主が替わっただけだった。

偽の愛国心…、全てのいかがわしさが、俺に降り掛かって来る…

井村は、天安館の近くで李を降ろす。

天安館の中には、サングラス姿の怪しげな2人組が、窓際に客として座っていた。

店の主人金容実は、李がやってくると、すぐに別室に案内する。

李は、僕は南北統一を願っているが、実は監視されていますと打ち明ける。

それを聞いた金は、君は俺に取り入った振りをしろと命じる。

その会話を外に停めた車の中から盗聴していた井村は、店にいた2人のスパイに引き揚げろと命じる。

金は李に、大阪にいる崔鐘明と言う男に会え、今は店の裏から逃げろと指示を出す。

その言葉に従い、天安館の裏に逃げ出した李だったが、外で張っていたスパイ2人に捕まり、殴られて、井村の待つ車へと連れて来られる。

その様子を、たまたま通りかかった学生田口(山本圭)が目撃していた。

走り出した車の中で、井村は、李に付けた腕時計を外し、その裏を外してみせる。

中にはマイクが仕込んであり、天安館の中で李が金と話した内容は、車の中でテープに録音されており、その再生を聞かされた李の顔は青ざめる。

則山茂子は、自宅アパートのブザーが鳴ったので、井村かと期待してドアを開けるが、そこに立っていたのは須川だった。

部屋に入ってきた須川は、店を休んでいる茂子に、井村は?と聞くが、茂子は首を振る。

やっぱり子供を生むつもり?俺は反対だな…と須川は忠告するが、あの人には私が必要なの!と茂子は訴える。

須川は、井村の奴、子供の頃、酷い貧乏だったせいでひねくれちゃったけど、良い奴なんだ。俺はあいつの仕事が分かる。スパイだよ。大きな謀略機関の一員だと思うと伝える。

怖がる茂子に須永は、逃げ出すんだ。君は井村とは別れた方が良い。俺は君を好きになりそうなんだ…と訴えるが、その時、別室に隠れていた井村が姿を現す。

井村は苦笑しながら、俺は取引を止めたぜ。取引ってのは、互角の力で釣り合うものだ。お前と俺とではちょうちんと釣り鐘だと嘲る。

それを聞いた須川は、情報提供者は他にもある。俺はちょうちんかもしれんが、俺の後ろには大新聞社という組織があることを忘れるなと反論し、宇崎のことを知りたいと迫るが、井村はそんなこと知らないと相手にしない。

連絡を待っていると言い残して須川が去ると、井村はいきなり茂子を殴りつけ、そして抱きしめる。

ベッドに茂子を押し倒した井村だったが、すぐに立ち上がると、お前の腹、邪魔になるだけじゃないかと言い、拳銃を茂子の腹の上に置く。

お前にやるよ。それで死んじゃえと言う井村に、殺してよ!と訴える茂子。

そうはいかない。俺の仕事に差し支えるからな…と井村は表情を変えない。

井村はその後、李起春を闇の整形外科医(武内亨)の所に連れて来ていた。

李起春は2人必要ないんだ…、そうつぶやいた井村は、気絶している李を、まるっきり分からない顔にしてくれと闇医者に頼む。

中央新聞社では、紺野が「田口しんいち」なる読者からの投書を瀬川に伝え、その田口を連れ、李が拉致された場所に案内させる。

田口は、ヘッドライトが逆光だったので、拉致された人物の顔は識別できなかったが、車の中にいた人物の顔は観たと証言する。

車はシボレーだったという。

その足で天安館に向かった須川は、金に、李が来なかったかと聞くと、一昨日の晩来たけどすぐ追い返したという。

社に戻った須川は、局長(松本克平)から、これ以上勝手な取材は止めろと叱られる。

須川は、何か圧力でもかかったんですか?これは非人間的行為であり、拉致行為である。日韓問題の影でうごめいている陰謀があるんです。うちでこの仕事を止めろというなら、他でやりますと必死に抵抗する。

もう一度、バーで働いていた則山茂子を訪ね、井村の写真がないか聞いた須川だったが、1枚もないと言う。

彼と離れる決心付いたか?と聞くと、もう少し考えさせて…と茂子はうつむくのだった。

店を出た後、須川は井村と高速の下で落ち合う。

井村が呼び出したのだった。

須川は、君のボスに会わせないか?CIAか?もっと別の謀略機関か?と頼むが、井村はそいつは無理だと拒否する。

井村は、金で情報を買おうと切り出すが、須川はバカにするな!俺は日本の記者だぞと断り、お前、怖いのか?お前も案外度胸ないな。貴様、後悔してるんじゃないか?自分がやっていることのむなしさに気づいている。貴様、最後には消されるぞ。足を洗うのは今しかないと説得する。

しかし、井村は、俺が選んだ俺の運命だ。お前は俺の一番嫌いな男だ。二度と会わんぞと言い残しその場から立ち去ろうとした井村だったが、近くに隠れていた紺野がその顔に向かってフラッシュを焚く。

驚いて振り向いた井村の顔がはっきり写真に写る。

計られたと知った井村は、写真を奪い返そうとするが、須川が邪魔をし、カメラを持った紺野を逃がすと、自分もタクシーに飛び乗り、その場から逃げる。

その後、再度、長崎の大村入国者収容所を訪れた須川は、帰り道、背後から迫って来た見知らぬ車に轢かれかける。

東京に戻り、田口と一緒に工事現場脇を歩いていた須川は、頭上から建築資材が落ちて来るが、田口がいち早く気づいたので助かる。

そんな中、新潟の海で漂流していたゴムボートが発見される。

砂浜に引き揚げ、中を観た警官は、ゴムボートの中に無線機らしい機会と乱数表。そしてスパイらしき男の死体を発見する。

新聞は、北朝鮮系情報員か?と言う見出しでこの事件を報道する。

新潟に飛び、そのボートで発見された死体の写真と李起春の顔写真を見比べた須川だったが、両者は全く似てなかった。

その後、検死を担当した佐々木医師(矢野宣)に死因を聞きに行くと、凍死だと言う。

夏でも凍死があるのかと驚く須川に、心臓の左だけ血液が赤かったが、これは凍死特有の賞状だと佐々木医師は説明する。

須川は、この男だと思ったんですが…と、持参して来た李起春の写真を見せ、人違いだったようですと帰りかけるが、佐々木は、その人の指紋写真は持っているか?と聞いて来る。

持っていると言うと、その場で顕微鏡で調べ、死体の指紋とぴったり同じ指紋だと断定する。

須川は顔を変えたんだなと気づく。

東京の天安館に戻った須川は、金に、李は死にましたよ。昨日確認しましたと伝える。

しかし、金は驚いたように、新潟にいるはずない。李起春は大阪にいる。変わったことがあれば、知らせて来るはずだと言う。

それを聞いた須川は、それは李じゃない!と気づく。

天安館の店には、又、サングラス姿のスパイが客としてやって来る。

大阪支部の周囲はいつも監視されていると金は言う。

金と大阪にやって来た須川には、怪しげな男たちの尾行が付いていた。

印刷所を経営している崔鐘明(永田靖)は、李を新潟から北に送ると金に伝える。

それを聞いた須川は、奴らは替え玉を北に潜り込ませるはずだよと教える。

日本赤十字新潟センターから、北朝鮮へ向かう船に乗船する人々が向かっていた。

その一行の中に紛れていた李起春を確認しに来た崔鐘明と金容実は、その男が似ているが全くの別人だと知り、列の中から引きづり出そうとする。

その時、その偽李起春は、何者かに撃たれてしまう。

その事態を知ったピーターは、とある屋敷の中で、金に李を近づけた作戦を摘発したものがいる。須川だよ。この責任は君にあると井村を責める。

キャノン大佐は君を信用してないというピーターに、井村は、何とかボスに会えないか?ボスは誤解している。ピーター、信じてくれ!と頼み込むが相手にされない。

君は須川に近づき、逆につけ込まれた。須川は知り過ぎているよ。まず君が回答を出すべきだとなおも迫るピーターに、奴を消す。巧くやる…と井村は答えるしかなかった。

その屋敷を突き止めた須川は、助かった偽の李、金、崔らと共に車でやってくるが、危険だからと、紺野だけを車から降ろすと、朝鮮人たちは先に社に戻るように指示する。

洋館に向かった須川と紺野は、裏に回った所で、扉が開いていることに気づき、用心しながら中に入ってみることにする。

中はもぬけの殻だったが、床に外国製の口紅が落ちていたのに須川は気づく。

東京に向かっていた自動車の中、後部座席に座っていた偽の李は、両脇に座っている金と崔の様子を注意深く監察していた。

金は居眠りをしており、崔の方は車窓の外に期を取られていた。

次の瞬間、偽の李は、金の側のドアを開けると、走行中の車から外へと飛び出すが、逆方向から走って来たトラックに轢かれて即死してしまう。

洋館の中を探っていた須川は、どこからかジャズのメロディが聞こえて来たので、その音源の方へ向かう。

紺野は怯えていたが、やがて、ネズミが這い回る不潔な部屋を見つける。

そこにはベッドが置かれ、その上には、手かせと足かせが無造作に放置されていた。

偽の李が飛び降り自殺をしたと言うニュースは新聞に載った。

中央新聞に戻った須川は、社会部長から、井村を告発したと知らせられる。

その時、茂子から須川に電話があり、井村が最近来ないと連絡がある。

須川は、すぐに行くと返事をするが、実は電話をした茂子の背後には井村が立っていた。

須川をおびき寄せる罠だったのだ。

井村が彼女と縁を切るらしい。何とかしないとと言いながら出かける須川に、紺野は、君は狙われているんだぞ!と忠告し付いて行こうとするが、須川は笑って、大丈夫だよ。1人で行かせろやと言い残して社を後にする。

茂子の部屋にやって来た須川は、そこに銃を構えている井村が待ち構えていたことを知る。

お前は少し知り過ぎたようだ。お前は仕事に行き詰まり、茂子と心中するのだと言い、その場で遺書を書くように強要して来る。

椅子に座らせられた須川は、お前は勝ったつもりかもしれんが、本当は負けたんだ。茂子さんはお前を愛したたった1人の女じゃないか?と言いながら、タバコを口にすると、たった1つ残念だったのは、俺が最後にあったのが懐かしい男だったことだ。ドブネズミとは言え、お前にも傷つく心があるはずだとつぶやく。

その時、寝室から銃を持った茂子が姿を現し、これは私に死ねって言った銃よ。あれから死ぬことばかり考えて来たが、一緒に死んだ方がマシかもしれないと言いながら銃口を井村に向ける。

井村は自分の銃をテーブルに置くが、次の瞬間、茂子に飛びかかり、2人はもみ合ったまま寝室の中に消える。

やがて銃声が聞こえ、井村がカーテンを開けて出て来ると、ベッドの上で撃たれた茂子が倒れていた。

須川は井村に、お前はもう元の組織には帰れないぞ。生きるためには俺たちの世界に戻るしかないんだと説き伏せようとするが、井村は、生きる?何のために?とつぶやくと、いきなり窓から外へ身を踊らす。

驚いて、アパートの下に墜落していた井村の身体に駆け寄った須川は、井村!俺が分かるか!と呼びかけるが、井村は、茂子…と言い残して息絶える。

その時、全てが終わった。

謀略機関を暴くことは出来なくなった。

社では、紺野ら記者たちが、その日も忙しそうに働いていた。

今後、謀略機関の活動はますます激しくなるだろう…。必ず探し出してみせる!…、そう須川は心の中で誓うのだった。