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渋川伴五郎

戦前の大スター「目玉の松ちゃん」こと尾上松之助主演無声映画。

生涯で千本以上主演したと言われる松ちゃん映画の中でも、64分全編がちゃんと残っている唯一の作品と言われている貴重な映画である。

内容は、過去も映画化されていた、講談で有名な「渋川伴五郎」の再映画化らしい。

つまり、この時代から「有名な原作もの」「リメイク」と言う手法はあったと言う事だ。

力自慢、柔の名手と言う江戸時代のヒーロー渋川伴五郎が、妖怪と父の仇を討つという分かりやすい内容になっている。

今で言う「スーパーヒーローもの」である。

子供向けでもあるし、当時は一緒に大人も楽しんだのだろう。

全体的には、まだ、カメラをフィクス(固定)して撮っており、アップなどの手法は用いられていない。

登場する女性は、全員、男が演じているし、相撲のシーンなどでは、はっきり「肉襦袢」と分かるものを着て肥満を表現しているなど、歌舞伎の手法がまだ多用されている。

妖怪「土蜘蛛」のシーンなどもその典型で、魔物の姿は連獅子のような長い髪をかぶって演じられているし、投げる「蜘蛛の糸」は歌舞伎でお馴染みの、紙で作られた細く長い紙テープである。

土蜘蛛そのものは作り物であり、若干もそもそ動く程度で基本的には床にぺたっと這いつくばっている印象、後年の怪獣「蜘蛛男爵」や「クモンガ」のような操演技術はまだ用いられていない。

想像だが、背後から木の棒などを蜘蛛の下に差し込み、テコの要領で動かしているのではないだろうか?

祠のような建物が組み上がる所は「逆回転」、岩の間に蜘蛛の糸(と言うには太く、白い紐上のものだが)が張るのは、ストップ・モーション、つまりは「コマ撮り」手法である。

今となっては微笑ましくさえ感じる古風なトリック撮影だが、当時はこれでも「驚異の映像マジック」だったのだろう。

松ちゃんは、「目玉の…」と言われるほど目をひんむいている印象でもなく、どちらかと言うと、全編無表情な感じである。

美男子という感じでもなく、どちらかと言うと鼻の下が長く、失礼ながら「猿顔」に近い顔立ちのように思える。

今回気になったのは、男の「ヅラ(カツラ)」に、耳を出す今風のものと、耳を完全に髪で隠している2種類がある事に気づいたこと。

主役の伴五郎も耳を隠すヅラを付けている所から、エキストラ用などに用いられた簡略化されたヅラと言う訳でもなさそうだ。

戦後の時代劇ではあまり見かけない髪型だけに興味を惹かれた。

劇中に登場する大関の髪型も独特のもので、髪全体のボリュームが今の関取の髪型より多く、髪全体を頭頂部に盛り上げるように結われているように見える。

やはり、戦前の時代劇の方が、こういったディテールへのこだわりは、今よりあったのかも知れない。

ストーリーに関しては、何かもめ事が起きると、いつも伴五郎か叔父の浅山一傳齋が近くにいるという、他愛無いというか、ご都合主義の連続なのだが、その素朴な昔話風の展開は、今でも安心して観る事が出来る楽しさに満ちている。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1922年、日活京都、築山光吉監督作品。

江戸時代、浅草は今日も大にぎわい。

そこへやって来たのが、江戸見物中だった猟師の甚八()と娘のお米(片岡長正)

そんな浅草雷門に酔って踏み入って来たのが、柔の名人渋川蟠龍軒道場の門弟の1人、黒崎典膳(大谷鬼若)と薩摩武士、亘郷太夫(坂東巴左衛門)。

黒崎は、言った勢いで甚八とぶつかり、無礼者と因縁をつけ、刀に手をかけようとする。

お米は非礼を詫び、土下座をして父親の命乞いをするが、酔った典膳は聞こうとしなかった。

周囲は、その騒ぎを見守る野次馬たちばかり。

そんな所にたまたま通りかかったのが、渋川蟠龍軒の実子で道場の跡継ぎでもある、柔の名人渋川伴五郎(尾上松之助)

深編み笠をかぶったまま典膳に近づくと、最初は威張っていた典膳も笠の中をのぞいて若先生と気づき、たちまち酔いが冷めて恐縮し、すごすごと逃げ出して行く。

甚八、お米親子は、命の恩人と頭を下げ、伴五郎が立ち去った後から、あれはどこのどなただろうと名を知りたがるが、一部始終を見ていた町人の1人が、知らないのかい?あれは柔日本一渋川蟠龍軒の若様だよと親子に教えてやるのだった。

伴五郎、相撲は大好物で、その日も飛び入り相撲見学に出かけていた。

観客席には、江戸っ子の魚屋金八()も観に来ていた。

その土俵に上がったのは、またもや力自慢の亘郷太夫、関取を出せと要求したので、控えていた関取が相手をするために土俵に上がる。

ところが、郷太夫は禁止されていた逆手を使い、関取を倒してしまう。

これを見物席から見ていた伴五郎は義憤に駆られ、自ら土俵に上がって、郷太夫の相手をすると言い出す。

さすがに郷太夫は面食らうが、又若様との一騎打ちになり、あっさり柔の技で土俵上でねじ伏せられ、最後は背負い投げで負けてしまう。

これには、馴染みの金八も大喜び。

これを恨んだ郷太夫は黒崎天膳に事情を打ち明け、道場に戻った天膳が、ご子息が道場以外で柔を使ったと渋川蟠龍軒(嵐璃珀)に告げ口する。

厳格な蟠龍軒は怒り、伴五郎を呼び寄せるとことの次第を正し、土俵で卑怯な真似をした郷太夫を諌めるために柔を用いたとの説明を受けると、その場で勘当を言いつける。

理由の如何に関わらず、規則を破ったことは確かだったからだ。

これを知った妹の千代乃(片岡松燕)は、父幡龍軒にそのようなことは止めてくれと懇願するが聞き入れられず、伴五郎は千代乃とその許嫁佐々木荘平(尾上松三郎)だけに見送られ、ひっそり屋敷の裏門から出て行くことになる。

兄との別れを哀しむ千代乃の側に来た黒崎典膳は、以前から嫌っていた伴五郎が道場からいなくなったので喜ぶのだった。

道場を出たものの、行く宛とてない伴五郎は、橋の上で思案に耽っていたが、そこに天秤棒を担いで通りかかったのが懇意にしている魚屋の金八だった。

金八は、勘当されたいきさつを伴五郎から聞くと、少し考え、自分の家に来てくれと言い出す。

伴五郎はその言葉に甘えるしかなかった。

しかし、金八は、宵越しの金は持たない江戸っ子だったので、家計は火の車。

その日も、掛取り(借金取り)が3人も押し寄せ催促したため、金八は天秤棒を振り回して追い返していた。

そんな苦境を知った伴五郎は、自分も魚屋として働くことにする。

しかし、慣れぬ商売で、朝からいくら歩き回っても魚が売れるはずもなかった。

そんなある日、酔った中間3人が天秤棒を担いで歩いていた伴五郎にぶつかり因縁をつけてくる。

乱暴されても、魚屋である今の伴五郎には抵抗することも出来なかった。

その様子を観ていた黒崎典膳は、伴五郎に近づいて来ると、今では一介の魚屋に成り果てた若様をからかい、あげくの果てにつばさえ吐きかけるのであった。

こうした典膳の行為を見ていた人物がいた。

伴五郎の叔父、浅山一傳齋()であった。

一傳齋は、1人帰っていた典膳を湖畔で呼び止めると、その横暴さを縛め、半生を促すため湖に投げ落とすのだった。

ある日、相撲茶屋の近くで、関取2人が喧嘩を始める。

たまりかけた町人たちが、西の大関雪見川を呼んで仲裁を頼む。

喧嘩していた関取2人は、雪見川に注意されすごすごと引き下がるが、面白くなかったのか、東の大関岩石に御注進に向かう。

岩石はさっそく雪見川の所に来ると、良くも弟子たちを可愛がってくれたなと因縁をつけ、刀を抜いて勝負を挑む。

これには雪見川も刀を抜いて立ち向かうしかなく、周囲にいた町民たちは又しても大迷惑。

そこにやって来たのが伴五郎で、彼は近くに生えていた木を引き抜くと、それを用いて2人の大関の間に入り喧嘩を止める。

伴五郎の怪力に驚いた両大関は、観音様の門前を血で汚しては申し訳ないと悟り、共に刀を納め、仲直りの印として一緒に酒を飲もうと話し合うのだった。

そんなある日、魚屋の金八の家に、有馬家の家臣掛川三十郎なる人物が訪ねて来て、こちらに渋川伴五郎と言う方がおられまいかと応対に出た金八とその妻に尋ねる。

金八夫婦は、相手の意図を計りかね伴五郎のことを隠そうとするが、億で仔細を聞いていた伴五郎自身が出て来て名乗る。

三十郎は、有馬候がお会いになりたいと仰せなので、みどもどもとご同行願いたいと言う。

伴五郎は素直に同行することにする。

有馬候(市川寿美之丞)は、伴五郎の人柄に惚れ込んだ雪見川と岩石両大関から、殿さまのお力で伴五郎親子の仲を取り持って頂けないかと頼まれていた。

そこに先に呼ばれてやって来たのは、父、渋川幡龍軒の方だった。

有馬候は幡龍軒に、鳳の間に妖怪が出るので退治てくれないかと頼み、承知した幡龍軒が鳳の間に向かった後、今度は息子の伴五郎がやって来たので、父親と同じ依頼をする。

伴五郎が向かった鳳の間は灯りもなく漆黒の闇に包まれていた。

先に中で控えていた幡龍軒も伴五郎も、互いに相手がいることは知らず接近し合い、それぞれ相手を妖怪と思い込み、闇の中で戦い始める。

幡龍軒も伴五郎も柔の技を駆使して戦うが、互いに相手が相当に強いことに気づく。

やがて、伴五郎が幡龍軒をねじ伏せたとき、灯りを持って、両横綱と有馬候らが入ってくる。

有馬候は、伴五郎の実力を見たであろう。今や父より強くなった伴五郎の勘当を解いてやってくれと頼み、幡龍軒もそれを承諾するしかなかった。

両横綱も親子の関係修復を喜び、伴五郎には改めて、霧島山に住むという妖怪退治が有馬候より命じられる。

再び道場に戻ることが許された伴五郎は、父幡龍軒と水杯を交わし、船で妖怪退治に出かける。

一方、時ならぬ夕立にあった千代乃と許嫁佐々木荘平は、雨宿りのため近くのお堂に逃げ込むが、千代乃は急に胸が苦しいと言い出す。

心配した荘平が、遠慮がちに千代乃の胸を触ろうとしていると、それを近くの木陰から監視していた黒崎典膳が姿を見せ、不義密通じゃとぎ出す。

そこに通りかかったのが渋川幡龍軒。

典膳から密通でござると告げられるが、この2人は自分が認めた許嫁であり、これまでのお前の数々の悪行も許しがたいとして、今日限り破門にすると天膳に申し渡す。

その後、渋川幡龍軒は病を得、床に伏すことになるが、そんなある日、道場に水上武太夫なる人物が現れ、試合を申し込んでくる。

病床の渋川幡龍軒に相談した佐々木荘平がその相手を務めることにするが、手強い武太夫の技に破れてしまう。

仕方なく、病を押し、幡龍軒直々に道場に出てくると、何とか相手を倒すことが出来た。

幡龍軒は、その方はまだ心の鍛錬が足りぬわ。もう二度と来るなよと武太夫を諭すのだった。

面目を潰され、屋敷を出て来た武太夫が出会ったのは、破門され、幡龍軒に恨みを抱いて様子を見に来ていた黒崎天膳だった。

2人は結託し、数日後の夜、外出していた幡龍軒を待ち伏せ、闇討ちして逃げる。

そこに駆けつけて来たのが娘の千代乃と荘平で、斬られた幡龍軒が手に握りしめていた印籠から、仇は黒崎天膳だと知るのだった。

父親の不幸を知らない伴五郎は、霧島山の近くまで到着し、近くの農民に道を確認していた。

農民たちは、恐ろしい所だから止めた方が良いと注意するが、伴五郎は構わず、目指す山の中に入り込んで行く。

山の中には、巨大な蜘蛛が住んでいた。

どこからともなく集まった木材が組み上がり、あっという間に祠のような建物が出現する。

夜、そこへやって来た伴五郎の前に、1人の女が現れたので、怪しんだ伴五郎が捕らえようとすると、その女は変身して、魔物になる。

魔物は、両手から蜘蛛の糸を大量に投げつけてくる。

さらに魔物は、土蜘蛛に変身。

岩の割れ目に蜘蛛の巣を張ると、中に閉じこもってしまう。

伴五郎は、付いて来た農民たちに薪を集めさせ、土蜘蛛をいぶり出すやり方をとる。

薪に火をつけ、煙を岩の間に流し込むと、中から又蜘蛛が出現、魔物に変身する。

魔物は、さらに大量の蜘蛛の糸を投げつけてくるが、伴五郎は一刀両断で魔物を斬り捨ててしまう。

村人たちは、これで霧島山の妖怪が退治されたと喜び、伴五郎に礼を言うのだった。

その頃、千代乃と荘平は、渋川幡龍軒の死を兄伴五郎に知らせようと後を追って旅立っていたが、さらにその2人を追う黒崎天膳と亘郷太夫の姿があった。

郷太夫は先回りして川渡しの人足たちに金を渡し、千代乃をさらうように指示する。

やがて、千代乃と荘平が川に到着、人足に川を渡るよう依頼する。

2人は、別々の輿に載せられ人足が運び出すが、荘平の方は川の途中で放り出されてしまう。

何とか川岸までたどり着いた荘平だったが、近づいて来た郷太夫から斬られてしまう。

一方、天膳に命じられた人足たちは、千代乃を駕篭に乗せ山の中まで連れて来ると、千代乃をその場に降ろし襲いかかってくる。

必死に抵抗する千代乃の悲鳴を聞きつけたのが、猟師の甚八だった。

甚八が放った猟銃の音で驚いた人足たちは一斉に逃げて行く。

甚八は、千代乃を自分の家に連れて帰ることにする。

一方、護摩の灰である勘太は、茶屋の前で一休みしていた伴五郎の椅子のしたにこっそり自分の巾着袋を隠した後、巾着袋がないと騒ぎ始める。

それを聞いた伴五郎は、自分の椅子の下にあった金役袋を見つけ、これではないかと返してやるが、立ち去りかけた伴五郎を呼び止め、中を確認させてもらうと言った勘太は、巾着袋の中には石しか入っていない。金を返せ!と因縁をつけ始める。

伴五郎は、自分は知らんと答えるが、勘太は強引に近くの関所の中にまで届けに行く。

実はここの役人は、勘太の親戚で、2人は前からグルだったのだ。

やがて関所にやって来た伴五郎は、この役人に捕まえられ、仕置きを受ける羽目に陥る。

そんな伴五郎の噂をしていた酔った中間の話を耳に止めたのが、偶然通りかかった浅山一傳齋。

一傳齋は、その中間に事の確かさを確認すると、着物を借りると言いながら、抵抗する相手に当て身を食わせ、気絶させると、中間の着物を脱がせ、自分がそれを着て中間に化けるのだった。

笠をかぶり、坊主を隠し関所にやって来た浅山一傳齋は、見張りの門番たちに酒を差し入れ、油断させた所で、中に侵入してしまう。

牢の中に入れられていた伴五郎に声をかけた一傳齋は、側にあった大きな石を抱え上げ、それで牢をたたき壊し、伴五郎を外へと逃がすのだった。

それでも、伴五郎は追ってに追われ、川っ淵まで追いつめられると、自ら川へ飛び込むのだった。

しかし、予想外に流れは早く、伴五郎は下流の岩場にかろうじてしがみつくのがやっとだった。

それに気づいたのが、近くを通りかかったお米だった。

お米は、岩場で倒れている男が、江戸の浅草で助けられた渋川伴五郎と知ると、恩返しとばかりに、自らの家に連れて帰ってくる。

家の中には父の甚八と千代乃がおり、2人は、突然お米が連れて来た伴五郎の姿に驚くと共に再会を喜ぶのだった。

千代乃は、父幡龍軒が黒崎天膳と亘郷太夫によって殺害されたと伴五郎に知らせる。

そんな会話を家の外で盗み聞いていたのは勘太だった。

実は、勘太は甚八の息子であり、お米の兄だったのだ。

勘太は、自分の家に、さっきの侍が隠れている事を知り、又役人に知らせれば金になると思い立ち去りかけるが、その前に立ちふさがったのは妹のお米だった。

家の中から、外で隠れていた兄の姿に気づいて出て来たのだった。

お米は、あの伴五郎と言う方は、自分と父親の命の恩人なのだと説明し、役人に知らせるのだけ早めてくれと懇願するが、欲に目がくらんだ勘太は言うことを聞かない。

覚悟を決めたお米は、兄が腰に差していた刀を抜き取ると、自ら勘太を突き刺し、その後を追うように、自らの胸に刀を突き刺して自害するのだった。

そこにやって来たのが甚八で、目の前で、息子と娘が死んでいるので驚愕する。

嘆き哀しむ甚八の元に近づいて来たのは浅山一傳齋で、目の前で起きた悲劇に手を合わせるのだった。

その頃、役人の助けを受け、この地を離れようとしていた黒崎天膳と亘郷太夫を追う伴五郎、甚八、浅山一傳齋たち。

甚八が天膳たちの同行を偵察して来て、一傳齋に伝える。

伴五郎、一傳齋、甚八の3人は、天膳らの前に現れると、激しい剣劇が始まる。

天膳、郷太夫は役人の援護を受け、逃亡を図ろうとするが、役人たちは一傳齋と木の枝を振り回す甚八とで引き受ける。

やがて、伴五郎は、天膳、郷太夫に迫り、2人を斬り捨てるのだった。