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野良犬('73)

ご存知、黒澤明の「野良犬」(1949)のリメイクであり、この年の芸術祭参加作品。

1970年と言えば、まだ黒澤が元気だった時期で、黒澤の死後でさえ、その作品のリメイクを作る監督は相当なプレッシャーを感じていたはずなのに、良くもまあ、この時期のリメイクが堂々と出来たものだと感心する。

カラーになり、時代設定も70年代になっており、冒頭部分がオリジナルに似た設定になっている以外は、ほとんど別の作品みたいな印象なので、無理にリメイクを謳う必要もなかったのではないかと思うが、やはり「黒澤」と言う名前が「客寄せ要素」として欲しかったのだろうか?

比較的シンプルな構造だったオリジナルに、色々細部を書き加え、かなり話全体を膨らませているのだが、サスペンス要素や感動要素も膨らんでいるかと言うとそうでもない所が残念な気がする。

比較的早い段階で追う相手が複数犯であることが分かり、どうやらリーダー核らしき中心人物もいないらしいと分かる辺りから、捜査陣と犯人との対決色と言うより「追いかけっこ」的雰囲気になり、後半の緊張感も薄れてしまっているように思える。

全員、仲間意識で繋がったグループ全体が犯人では、近年の某人気シリーズみたいになり、犯人の犯行動機を掘り下げる余裕もなくなる。(そう言う意味では、この時代としては新しい発想なのかもしれないが)

結局、劇中で何となく匂わせている、彼らが繋がっている共通の動機が「日本人の特定地域への差別意識への抗議」だとすると、そんな彼らにとって加害者側の一員になってしまう大半の観客にはピンと来ないはずで、そもそも、その抗議意識が「ひったくりをしたり、殺人を起こすにたる動機」になるのか?と言う素朴な疑問を抱くだけである。

当時の社会問題を都合の良いよう提起しているが、その本質は、単なる若者特有の甘えじゃないのか?とも考えたくなってしまう。

この作品のテーマを訴えるのが真の目的だったのなら、こうした物語設定がふさわしかったのかどうか?

作品としては、東京、川崎、横浜辺りを中心にロケを多用しており、当時の町並みを懐かしむのにはふさわしい映像であり、今の新宿アルタ前から歌舞伎町ミラノビル付近まで、群衆の中を銃を持った犯人を追って行くなど、今では到底撮影不可能だろうと感じるようなシーンも交え、全体的に力作感はあるのだが、ドラマ部分がかなり臭い過剰演出になっていたりして、リアリズムなのか大時代なのか、ややどっち付かずな印象が残る。

日活系の渡哲也や芦田伸介、東宝系の中丸忠雄、千石規子、志垣太郎、森次晃嗣、松竹系の松坂慶子、佐藤蛾次郎、東映系の山本麟一、他に田中邦衛など、いかにも70年代らしい、各社混在型のキャスティングだが、豪華と言うにはスター不足な感じで、何となく、斜陽期の寄せ集めB級映画的な匂いを醸し出している作品である。

※追記

升本喜年著「映画プロデューサー風雲録 思い出の撮影所、思い出の映画人」によると、この作品、オリジナル版の脚本を担当した菊島隆三と黒澤明の仲が険悪になっていた時期の作品だったらしく、著者が両者に再映画化の承認を受けに行った際、菊島氏はあっさり100万でOKしたのに対し、黒澤の方は、著者に会うこともせず、まず、監督は斉藤耕一氏を指名して来たらしいが、升本氏が、それは約束できないと拒否すると、あっさり折れ、著作権料も、菊島氏より1万でも2万でも多ければ良いと伝えて来たらしく、この当時の黒澤の精神状態が明らかに普通ではなかったことがうかがえる。

監督の森崎氏は、個人的な仲間を集め、「一色爆」なる架空名義で、オリジナルとは全く別な話を書いた後、それを知った升本氏が書き直し要求しようとしたものの、仮病を使って会おうとしない。

直接、自宅に押し掛けて書き直しを頼んだ所、了承したので安心して出来上がりを待っていたら、ほとんど書き直していない改訂稿が、クランクイン直後に届けられて唖然としたそうで、森崎監督の確信犯的な作戦に引っかかってしまったらしい。

興行的にも悪かったようで、森崎監督にしてみたら、最初から、黒澤映画を素直にリメイクしても勝ち目はないと分かっていた上での、せめてもの反抗だったのかもしれない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1973年、松竹大船、黒澤明+菊島隆三原作、一色爆脚本、森崎東監督作品。

会社クレジットの富士山の絵に、工場の終業サイレンが重なる。

トラックから積み荷の鉄線を降ろし終えた4人の工員たちに、一人の青年が単車でやって来る。

一緒になった5人は、だべりながら道路を歩いて帰っていたが、近づいて来たトラックの運転席から、轢かれたいのか!と怒鳴られ、むしゃくしゃしたのか、すぐ側にいた野良犬を抱きかかえると、道路の側道に落とす。

タイトル

バイクに2人乗りする若者

夕方、歩いていた女性の背後から近づいたバイクの後部座席の男が女性に手を伸ばすと、それに気づいた女性が悲鳴を上げる。

暗闇で争っている若者たち。

その場に、一丁の拳銃が転がり落ち、それを拾い上げた若者の一人が、銃を発射すると、その場にいた女性が腹部を撃たれて倒れる。

男たちは、車に乗り込むと、その場から逃げ去るが、その時、残しておいたバイクにぶつかり、バイクは転倒炎上する。

暗闇から、一人のスーツ姿の男が、立ち上がって逃げ去った車を見つめる。

その額からは血が流れていた。

電話に出た所轄署の刑事は、拳銃を取られた?と驚きの声を上げる。

現場は目黒区大久保町路上と言う事で、直ちに緊急手配が行われ、駅やパチンコ店前などで、若者たちが参考人として引っ張られて行く。

所轄署では、新聞記者(森次晃嗣)が、取材に行った本庁から所轄に行けと言われて来たらしいが、又、本庁へ行ってくれと拒否されたので怒っていた。

現場に残された川崎ナンバーの単車は登録されておらず、指紋も採れなかったと、匿名捜査班で報告が行われていた。採れた唯一の指紋は君のものだったと指摘されたのは、銃を奪われた刑事村上(渡哲也)だった。

大友組の小坂捜査中の君は、路上を歩いていた川島とし子と言う女性に不審尋問を行おうとしていた時、接近して来たひったくりの若者たちに襲撃され、銃を奪われた…、そうだな?と、監察官(中丸忠雄)は、監察課預かりになった村上に確認する。

逃げた車は横浜ナンバーのキャデラック、君は、相手が武器かなにかを持っているのを確認して銃を取り出したのかね?そうでないと、相手の正当防衛になってしまうぞと注意する監察官に、自分は免官になっても構わないから、捜査に加えてくれと嘆願する村上。

しかし、事件関係者に捜査をさせられないと言う規則は知っているはずだと釘を刺されてしまう。

がっくり肩を落とす村上に、手でも洗って来いと進めたのは、昔コンビを組んだ事があるベテラン刑事佐藤(芦田伸介)だった。

監察官は、幸い、被害者は負傷ですんでから良かったが、殺人事件にでもなったら、マスコミがかき立てるぞ!と今回の不祥事にいら立っているようだった。

佐藤は捜査課長に、2人で歩いて見ようと思うと告げると、便所に行って、手を洗っていた村上に、俺は大学出の監察官じゃないと話しかけ、今から俺がお前の保護観察官になったからお前は俺と一緒に行動するんだと命じる。

その後、2人が向かったのは車のアクセサリー屋だった。

蚊帳の中で応対した主人(殿山泰司)は、今頃、ナンバーから持ち主が発覚するような車で悪い事をする奴なんていないよと忠告するが、佐藤が、ナンバープレートはいくらで売っているんだ?と聞くので、主人は悪い冗談を言うな!と怒鳴りつける。

店を出た時、佐藤は、2ヶ月前に廃車になった車があるらしいのでそれを当たってみようと言うが、その時村上は、店に飾ってあった黄色いハーケンクロイツマークを観て、若者たちが乗っていた車の前に、何か黄色いマークのようなものが付いていたのを思い出したとつぶやく。

2人は石川町駅で降り、ふくだ薬局と言う店に来ると、外に出ていた左目に眼帯をした女性店員に弟の佃三郎さんはおられますか?と佐藤が聞く。

眼帯をした姉である佃みさお(緑魔子)は、弟は東京の大学に行っており、長い間会ってない。大学名も知らないと答える。

一旦その場を離れた2人だったが、村上は、何か匂いますねとつぶやき、頷いた佐藤も、しばらく物陰から薬局を張ってみる事にする。

すると、みさおが店から抜け出し、向かいの川に浮かんだ小船の船室に入って行くのが見えた。

すぐに2人がそこに近づきノックをすると、弟が来たと思ったのか、みさおが開けてくれたので中に入ると、そこは明らかに人が住んでいる様子だった。

訳を聞くと、弟が4、5人の仲間たちと、ここに集まってギターを弾いたり、歌を歌ったりして遊んでいるらしい。

みさおは、今回の事件は弟がやったんですと言い出す。

今日も、おまわりさんの何かをかっぱらったと言ってましたからと言う。

弟は、両親を失った中学生頃からぐれ始め、自分が警察に突き出すと、帰って来るなり、そんな目で俺を見るな!と言いながら私の目を殴ったんです。

その時の弟の目が忘れられず、それ以来、弟の目をまともに観たことがないと、自ら眼帯を外して、失明した左目をさらしながら、みさおは告白する。

今、弟さんはどこにいるのか?と佐藤が聞くと、鎌倉のジャズフェスティバルだと思うとみさおは答える。

すぐさま、鎌倉に向かった佐藤と村上だったが、村上は、観客の背後の方で固まっているグループの1人が持っているギターに注目する。

そこには「危」と言う黄色い文字ステッカーが貼られていたからだ。

すぐに、そのグループに近づいた村上は、佃三郎はどいつだ!「危」のステッカーを貼った車はどうした!とギターを持っていた青年に詰め寄る。

若者は、その車ならかっぱらわれたと言い、脇にいた一人の青年が自分が佃三郎(堀内正美)だと名乗り出る。

何か、かっぱらったそうだな?と佐藤が聞くと、何の事だ?としらばっくれるので、観なきゃ分からんかね?と言いながら、佐藤は拳銃を出してみせながら、事情聴取のため、グループ全員を連行しようとするが、その時、その場にぶら下がっていた交通安全用の警官人形を見つける。

彼らがかっぱらったと言っていたのは、これの事だったのだ。

早朝の鎌倉駅で電車を待つ佐藤は、彼らは本ボシじゃなかったが、「危」の付いたキャデラックは発見したそうだし、そこから指紋も検出したらしいので、もう事件は解決したも同じだ。全員検挙まで2日もかからんだろうと村上に伝える。

しかし、村上は、まだ悪い事が起きるような気がしますと不安を口にするのだった。

その後、東京に戻り、サコウ菓子店から出てきた村上がどこに行くのか?と聞くと、世界中で一番落ち着く所だと言いながら佐藤が案内して来たのは彼の自宅だった。

2人を出迎えたのは、洗濯物を庭で干していた娘の一枝(松坂慶子)だった。

佐藤は、いつものように、事件解決を祝うケーキを渡すと、出てきた妻の布恵(赤木春恵)に村上を紹介し、しばらく家にいてもらうと伝える。

台所で布恵の側に来た佐藤は、俺はすぐに出かける。本庁の呼び出し以外に出すなと、村上のことを耳打ちする。

佐藤は妻や一枝に、村上の事を、酒もタバコもやらん男で、唯一の趣味はパチンコだ。その景品のインスタントラーメンを3袋食うくらいの大食漢だと紹介するが、村上は恥ずかしそうに、2袋ですと訂正する。

その時、佐藤の無線が鳴り、その場で電話をして聞いていた佐藤の表情が緊張し、すぐに家を出かけて行ったので、矢も盾もたまらなくなった村上は、後を追いかけ、何があったんです?被害者が出たんですね?と確認する。

佐藤は、夕べだ、今は何も分かっちゃいない。分かっているのは、あの拳銃には後5発弾が残っている事だけだと言い残し、足早に出かけて行く。

射殺死体が発見されたのは、くず屋の倉庫内だった。

被害者は、そのくず回収業の社長。

刑事たちが死体を確認しようとしていた時、使用人(財津一郎)が崩れるよと心配した次の瞬間、うずたかく積み重ねてあった紙の束が崩れ落ちる。

捜査本部では、死体から発見された銃弾は、村上が奪われた拳銃から発射されたものだ。もう特捜は意味がなくなった。今、刑事部長が新聞発表したと捜査主任(山本麟一)が刑事たちに伝えていた。

そんな捜査主任に、佐藤は、村上を何とか捜査に加えさせてやってくれませんかと頼み込むが、俺を首にする気か!と言うのが部長の返事だと、捜査主任は答えるだけだった。

そんな捜査本部に顔を見せた村上は、僕の拳銃ですね?と佐藤に確認するが、佐藤は、犯人の拳銃だ!と訂正する。

トラックを洗っていたくず屋の使用人たちに刑事が事情を聞くと、殺された社長と言うのは、リヤカーを轢いていた時代からの叩き上げで、ずいぶん厳しい人物らしかった。

倉庫で一人黙々と紙くずを積んでいた社長の女房(千石規子)は、こんな所でうろうろしていて、犯人捕まるんですかね?と事情を聞きに来た刑事に嫌味を返す。

自宅に戻って来た佐藤は、村上の姿が見えない事に気づく。

受験勉強をしていた一人息子は、大学に行かせたいんだったら邪魔をしないでくれと文句を言い出したので、お前も刑事辞めろと言うのか?と一枝に迫ると、一枝は、私、お父さん好きでした。事件が解決した日、いつも甘党の父さんはケーキを買って来てくれたけど、嬉しくなかった。そりゃあ、小さい頃は喜んで食べてたけど、自分たちが喜んでいる時に泣いている人もいる事が分かると、もう食べられなくなり、それ以降は、こっそりケーキを捨てていた事知らないの?と告白する。

それを聞いた佐藤は、思わず一枝の頬を叩くと、家を飛び出して行く。

その頃、村上は、炎天下、一人で町中を歩き回り、銃を奪った若者たちを見つけようとしていた。

何の収穫もなく、川面を見つめていた村上は、犬をいじめている子供たちに警察をからかうような事を怒鳴っている男がいたので、思わず、今、何と言ったんだ!と、いら立って詰め寄ったりもする。

その頃、佐藤は、多摩川縁の土手に止められていたキャデラックから、6人の指紋を検出した事を地元署の太田刑事から聞き、6人組のひったくりか…とつぶやいていた。

太田刑事と共に、車の所有者である男が所属しているとある売春グループに出向いた佐藤は、最近入った6人がいるだろうと、事務所で麻雀をしていた佐川(田中邦衛)に聞くが、知らないと言う。

車をなくしたチンピラを、4、5人で半殺しにしていたって分かっているんだと太田刑事が攻めると、ハツオの奴なら、良いスケ見つけて来るから勘弁してくれと泣きを入れて出て行ったきり帰って来ないと言うが、刑事が部屋を出ようとしていた時、良いスケ見つけて来ましたと言いながら、その当の本人(佐藤蛾次郎)が顔を見せる。

早速所轄署に連行し、事情聴取する事にした佐藤だったが、緊張したハツオは小便がしたいと言い出す。

ハツオをトイレに行かせた間、太田刑事が取調室に入って来て、奴の指紋はシロですと教える。

トイレから戻って来たハツオに、車を取られた場所を聞くと、土曜日の晩、丸山レーヨンの女子寮の前だと言うので、何でそんな所に行ってたんだと聞くと、スケを見つけに行ったら朱実と言う女を見つけたので声をかけ、自分が小便に行ってかえって来ると、男と一緒に車に乗り込んでどっかに行ってしまっていたと言う。

その後、その女子寮に案内させ、朱実と言う女を教えさせると、あそこにいるピンクのシャツにジーンズをはいた子だとハツオは教え、そそくさと帰って行く。

佐藤は、その大城朱実(中島真智子)と言う女子工員を尾行してみる事にする。

夕方、寮を出た朱実は、一人、人気のない廃工場の中に入ったので、近くの物陰に身を隠した佐藤は、近づいて来た気配に「手を挙げろ!」と命じる。

そこにいたのは村上だった。

お願いです!この手でホシを捕まえさせて下さい!と言う村上に、尾行はもちっと上手になってくれよなと忠告した佐藤だったが、そのまま村上を伴って廃工場の中に入ってみる。

中には、朱実の他に人影はなく、何か物音がしたので村上が緊張すると、朱実は鳩を抱きながら、猫よ。夜は鳩の目が見えなくなるので襲いに来るのとつぶやく。

やがて、朱実は、沖縄民謡を口ずさみ出す。

それを見た佐藤は、彼女は夜通しでも歌うつもりだ。仲間に俺たちがここにいる事を知らせるため…と村上に教える。

やがて、外に車が近づく音がしたので、村上は朱実の口を押さえ、窓から外を監視するが、停まったのはタクシーで、運転席から降りて来た運転手は、すぐに又運転席に戻って走り去ってしまう。

佐藤は朱実に、1週間前、君が女子寮前から盗んだ車で多摩川縁まで行った事しか知らないが、あそこに何があったんだろう?優しい鳩でも野生になれば、猛禽になるらしいよと問いかける。

朱実は、おじさんたちは日本人?と突然聞いて来る。

自分ではそう思っているけど、君は沖縄からの集団就職組だね?と佐藤は聞く。

本土ではアパートを断られたり、沖縄では日本語を使うのかと聞かれたりするそうだね…と、差別されている沖縄出身者の事を佐藤は言いながら、でも、何故、人を殺すのかね?と朱実に問いかける。

朱実は、多分、その目よと、いつもそんな目つきで観られているものの気持ちは、見る側には分からないわと、佐藤の顔を観ながら答える。

その時、佐藤の無線が鳴り出す。

村上が何があったんです?と聞くと、府中の工事現場で、ヤクザが一人射殺されたと佐藤は教える。

朱実は、誰が撃ったのか教えてと迫って来る。

車に乗って逃走中だった4人の若者は、警察の検問がある事に気づき動揺するが、運転していた宮里陸(安座間政吉)は、他の3人を車から降ろして逃がすと、自分は停めてあったパトカーに車を衝突、炎上させる。

捜査本部では、今回使用された銃も村上が取られたもので、これで目黒、江東区、府中の3件で使われた事になる。

今回の被害者は手配師で、そうとうタコ部屋で労務者たちを泣かせていた奴のようだが、何故、殺されなければならんのだ?誰かが、1人1発づつ撃っているのか?と捜査主任は頭をひねる。

少年院出の連中では?と刑事から声が上がるが、何故、仲間を助けるために、命がけで車をぶつけなくちゃいかんのだ?と主任は問いかける。

廃工場内で夜を明かした佐藤は、もう日曜日か…とつぶやき、そう言えば、江東区のヤマも日曜日だったなと思い出す。

見ると、朱実の背後の壁に貼られていたカレンダーの日曜日の部分に全て赤く○印が書かれており、「川崎駅で」と言う文字も書いてある事に気づく。

村上を外に誘い出した佐藤は、あの印は犯行予定日だ。ヤマを踏んだ奴は1人ずつ逃げるつもりだろう。第2の集合場所がどこかにあるに違いないが、ここには増員を頼むから、女の子から絶対目を離すなと命じて、自分は川崎駅に向かう。

村上が一人で廃工場の中に戻ると、そこには裸になった朱実が座っており、刑事さん、私を抱いて下さい。その代わり、あの人たちを助けて下さいと言う。

村上は怒り、だから、人殺しをした奴を助けろと言うのか!と叱りつける。

朱実は、私帰ります!と言いながら立ち上がる。

川崎駅に着いた佐藤は、駅前の旅行代理店の店先に、「東京⇄沖縄」日曜出航と書かれたポスターを見つける。

佐藤が、その旅行代理店で本部に増員手配を電話をしている時、川崎駅前で出会い抱き合って喜んでいたのは、犯行グループの新里純(内田喜郎)、謝花勝紀(山城春芳)、具志竪哲(上原守次)の3人だった。

出航までまだ3時間あると言いながら、旅行代理店に入って来た彼らだったが、そこでもう1人の仲間鈴木史男(粕谷正治)と出会う。

その時、彼らは、電話をかけていた佐藤の目つきから刑事と直感し、3人はそのまま店の外に逃げ出すと、停めてあった車の窓ガラスを割り、乗り込もうとする。

佐藤は銃を取り出し、静止を命じるが、謝花が発砲した銃で右胸を撃たれて倒れる。

しかし、3人に追いつこうと側を通りかかった鈴木の足を、路上の佐藤は掴んで離さなかった。

車で逃亡した後、それを乗り捨てた3人は、別の廃工場内に潜り込むと、鈴木の奴いやがったな…とつぶやく。

謝花から銃を受け取った具志堅は、純が首からぶら下げていた小袋の中から銃弾を取り出すと、1発だけ弾倉に詰め込む。

鈴木は吐くだろうと言いながら、銃を純に手渡した具志堅だったが、謝花は、撃ちたくなかったら撃たなくていい。俺が代わって撃ってやる。1人撃つも2人撃つのも同じだと優しく声をかける。

ぶっ殺したい奴いるのか?と謝花から聞かれた純は、いるよ!一杯いるよ!と虚勢を張ったように答える。

所轄の取調室で、逮捕した鈴木を尋問していた刑事は、目黒でのヤマはお前だろう?何故、又戻って来た?と追求する。

親兄弟は?と聞くといないと鈴木は言い、俺は沖縄じゃないとも答える。

お前は、奴らに見捨てられたんだぞ!と攻める刑事。

女子寮に戻っていた朱実の元に、単車でサングラスをかけた若者が近づいて来て、何事かを告げていたので、1人で張り込んでいた村上は飛び出して追いかけようとするが、間一髪で単車の若者に逃げられてしまう。

残っていた朱実に、誰だ?今の…と聞くが、朱実は、仲間じゃありません。撃つ前に会いたいと言って来たのですと言う。

あの人、そんな事が出来る人じゃないんです。あの時も撃てなかった…、最初の事件があった晩…と、朱実は回想し出す。

あの日、女子寮の前に停めてあった車を盗み、新里純と朱実は多摩川にドライブする。

そこで、仲間たちと合流したのだが、車を降りた2人の代わりに運転をして車を移動していたサングラスの青年は、タイヤを土手のぬかるみに取られて立ち往生してしまう。

そこで、他の仲間たちが車を押し始めるが、車は抜け出せなかった。

その時、ちょっと仲間同士の言い争いが起きる。

純が、俺を邪魔にするのか?俺たちはいつも共犯か?最後に俺がやりたい事の邪魔をするのか!と叫び始めたのだ。

朱実はその時、盗んだ銃を突きつけられるが、純は撃てなかったのだ。

その後、純は、謝花や具志堅たちにも銃を向けるが、謝花が純を説得し始める。

俺たちの親がそんな目に遭わされて来たか、俺たちが日本でどういう扱いをされているか忘れたのか?と…

回想から覚めた朱実は、純は今、新宿にいますと村上に教える。

午前10時50分、新里純は新宿駅西口でやって来ない朱実を待ちくたびれていた。

新宿アルタ前に移動した純を、地下道から上がって来た村上と朱実が発見する。

自分の名を叫ぶ朱実と村上の存在に気づいた純は、群衆の中、拳銃を持って、新宿大ガード東方面へ逃げ始める。

それを追跡する村上。

歌舞伎町MILANOビル前で追いついた村上だったが、追いつめられた純は、構えていた銃を、急に自分の腹目がけて発射する。

そこに、仲間の具志堅と謝花が駆けつけてきて、倒れた純が手放した銃を拾おうとするので、村上は2人と格闘し、そこにパトカーが近づいて来る。

銃を拾った謝花は、なおも新宿駅東口方面に逃げ、地下鉄工事中の穴の中に逃げ込んでしまう。

純は死亡し、火葬場で焼かれるが、そこにやって来ていたのは朱実一人だった。

焼かれた純の骨の前に朱実が佇んでいると、そこに謝花がやって来る。

その直後、村上が飛び込んで来て謝花を捕まえると、銃はどうした!と問いつめる。

謝花は、密告したのは誰だ!仲間を殺したのは誰だ!と暴れるが、村上は、殺したのはお前たちだ!と怒鳴りつけビンタする。

外は雨が降り出していた。

署に謝花を連行した村上は、佐藤さんは?と聞くが、その場にいた刑事たちは誰も何も答えなかった。

その後、村上は馴染みの飯屋で丼飯をかき込みながら、女将(浦辺粂子)に、この店を初めて何年くらいになると聞く。

女将は、10年くらいだが、もうすぐ潰れるだろうね。客は貧乏な刑事ばかりで、みんなツケ払い。転勤すると二度とやって来ないからねと愚痴をこぼす。

みんな、何だって刑事やっているんだろう?初めて悪い奴を捕まえたときはがたがた震えるくらい嬉しいそうだからねと女将が独り言を言うので、食べ終わった村上は、俺は震えなかった。借りたツケはその内必ず返しに来るからと言い残して店を出る。

雨が降る中、買って来たケーキの箱を、濡れないように上着の中に抱えて佐藤の家にやって来た村上だったが、縁側で出迎えた一枝の背後に見えたのは、佐藤の位牌に手を合わせていた衣恵の姿だった。

焼香してやって下さいと衣恵から声をかけられた村上は、その場にケーキの箱を落とすと、無カルんだ庭先にがっくり膝を落とす。

昨日の明け方でしたと衣恵が夫の死亡時間を教える。

時々、うわごとのように仕事の事をつぶやいていました。鶴見の倉庫に、村上が1人でいるので行ってくれとか…と一枝も教え泣き出す。

その時、雷鳴が轟く。

村上は、僕が撃たれれば良かったんです!と叫びながら、地面に泣き伏せる。

その時、玄関に人が来た気配がし、衣恵が出てみると、捜査主任だった。

主任は佐藤の遺影に焼香をすると、射殺犯人を逮捕した事のご報告に参りましたと一枝に告げ、庭先で跪いていた村上には、君が逮捕したのも何かの因縁かもしれない。処分は決まった。免官だが、今回の逮捕で対応は変わるだろう。自重した方が良い。それが君が佐藤さんに出来る唯一の手向けだと言うと、急ぎますので…と一枝に断ってそのまま帰って行く。

一枝は、庭に落ちていたケーキの箱を拾い上げると村上を家の中に促す。

その夜、衣恵や一枝が布団に入った後も、村上は一人で位牌の前に正座して通夜をしていた。

奥の部屋では、息子が黙々と勉強していた。

外は台風で騒がしかった。

一枝が物音で起き上がってみると、雨戸が開いており、雨がそこから吹き込んでいた。

村上が庭先に降りて、雨戸の補強をしていたのだった。

翌朝、一睡もしなかった村上は、一枝と衣恵に朝食を勧められる。

食事をしながら、衣恵は、お国はどちらですか?と村上に問いかけ、村上は四国ですと答える。

すると、私も四国なんですよと喜んだ衣恵は、庭に咲くカンナの花を観ながら、私ね、カンナの花を観ると四国を思い出すんですと話し出す。

広島で焼け出され、高知に戻っていた私は、縁側に座って庭に咲いていたカンナを眺めていると、四つ目垣の向こう側から大きな荷物を背負ったヒゲだらけの男が覗き込み、きれいですねと言って来るじゃないですか。

後になって、花のことを言っていたと気づいたのですが、シベリアからの帰還兵でしたと衣恵は笑う。

それがお父さんだったのね!初めて聞いたわと一枝が指摘しながら涙ぐむ。

勉強部屋では、相変わらず勉強をしていた弟も泣いていた。

その後、カンナを佐藤が撃たれた現場に捧げに来た一枝は、同行して来た村上に、この花、父が植えたんです。年取ったら、四国で暮らしたい。母も連れて行きたいと言っていたので、私が送って行くと言ったら、お遍路に娘はいらないって言われました。「同行人」と書いた白い着物を着て行くのだとか…と言う。

「娘から目を離すな」それが父の最後の言葉はでした。お仲間の方達からは、さすがに刑事らしい言葉と言われましたが、親不孝ばかりしていた私のことを言われているような気がしました…と一枝は続けていた。

その時、黙って話を聞いていた村上は、骨壺を持った朱実が旅行代理店に向かっている所を発見する。

村上は急いで旅行代理店の窓口に向かうと、今まで台風で欠航していた沖縄便がようやく出ると言う説明を聞く。

振り返ると、自分に気づいたらしい朱実がバス停からバスに乗り込む所だった。

慌ててバスに追いついた村上は、強引にドアを開け、中に乗り込む。

その頃、捜査本部では、捕まえた謝花に、捜査主任が尋問している所だった。

何故自主しなかった?3人捕まって2人は死んだ。拳銃を次の仲間に渡すためだ!と主任は推理を聞かせる。

全員が銃を使用すれば「共同正犯」が成立する!もう一人の仲間はどこにいるんだ!と追求する主任だったが、謝花は全く発言しなかった。

その時、取り調べ室のドアが開き、入って来たのは、沖縄にいるはずの謝花のお婆だった。

月々の給料の半分を仕送りしていたそうだな?そんな孝行息子が人殺しをするなんてと泣いておられたぞと捜査主任が言うと、お婆を部屋の外に送り出した謝花は、あんたら卑怯だ!と激高する。

抵抗しないものを撃ち殺すのは卑怯じゃないのか!と主任も言い返す。

共同正犯は成立した。これ以上仲間を道連れにするな!仲間を助けてやれ!と主任が重ねて説得すると、謝花は水をくれと言い出す。

そして、奴は、一番憎い奴をやりたいと、どこかへ行ったと謝花は話し出す。

その時、隣の部屋から「チバレヨ!」と仲間の声が聞こえて来る。

何と言ってるんだ?と主任が聞くと、「頑張れ!」と言ってるんだと謝花は教え、それ以後口を開かなくなる。

隣の部屋にいた具志堅は、沖縄の歌を歌い出す。

それに合わせて謝花も歌い出す。

村上と朱実を乗せたバスは、沖縄へ向かう定期便が出航しかけていた港に到着する。

村上は、朱実を追ってその船の中に入り込む。

入口には、張っていた刑事たちがいて、村上に気づいて止めようとするが、村上は船内に消えた朱実の姿を探してうろついていた。

やがて、朱実のものと思われるバッグが落ちているのを発見。

さらに上の甲板で、持って来た骨壺を誰かに手渡している朱実を村上は見つける。

走りよると、骨壺を受け取っていたのは、あの時単車で女子寮の朱実に会いに来たサングラスの青年だった。

その青年比嘉清輝(志垣太郎)と村上が対峙した時、青年は骨壺を甲板に落とす。

砕け散った骨壺の中の、純の骨の中に村上の拳銃があった。

一瞬早く、かがんでその銃を拾った比嘉は、村上に銃を突きつけて来る。

撃て!殺人の現行犯として逮捕する!と村上が叫び、近づこうとすると、比嘉は発砲し、村上は左手に被弾するが、その時、下にいた刑事たちが駆けつけ、比嘉を確保する。

船を下船し、パトカーに乗せられる時、比嘉は出航して行く船を観ながら笑顔を作る。

それに気づいた刑事が、格好をつけるなと叱りつけるが、比嘉は、刑事さん、俺は本当に嬉しいんだよ。又仲間に会えるからなとつぶやく。

ようやく、奪われた自分の拳銃を取り戻した村上は、海面を観ながら、今まで出会って来た出来事を思い出して行く。

そして感情が高ぶった村上は、思わず持っていた拳銃を海に投げ込もうとするが、一瞬思いとどまって止めるのだった。