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にせ刑事

山本薩夫監督と言えば、社会派で硬派な映画を撮る監督として知られているが、こういう低予算で軽いタッチの娯楽作品もあるのが意外だった。

営利誘拐の目的が金ではなかったと言う辺りに、社会派としてのひねりを感じたりするが、全体の印象としてはごく普通のプログラムピクチャーの1本と言った感じである。

刑事に憧れる腕っ節だけは強い単細胞な主人公に勝新が扮し、そのユーモラスなキャラクターが、全体的にコミカルな味わいを加えている。

コメディと言うほどではないが、コミカルタッチの捜査ものと言った感じであろうか。

興味深いのは、劇中に「大魔神」(1966)が登場することだろう。

誘拐される子供が、大魔神のファンと言う設定で、その子供が見ている回想シーンとして、「大魔神怒る」のクライマックス、十字架に掛けられた十郎達に接近するシーンがそのまま数カット映し出される。

さらに、「大魔神」のコミックまで登場すると言った念の入れよう。

どちらも大映作品だから…なのだろうが、細かく言えば、この作品は大映東京、「大魔神」3部作は大映京都の作品である。

フィルムを出すのなら、東京撮影所で作っていた「ガメラ」の方が使いやすかったのではないかと言う気もするが、暴れ回る大魔神の姿と、勝新の怒りの大暴れを重ねる意図があったのかもしれない。

劇中で、勝新が、「大魔神怒る」と「大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス」の二本立てを上映している映画館にやって来るシーンがあるのだが、これはこの映画用に看板を並べただけの特別の組み合わせではないだろうか?

と言うのも、封切り時、「大魔神怒る」は「座頭市海を渡る」の併映であり、「大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス」の併映作品は「小さい逃亡者」だったからだ。

ただ、当時、全国にあった2番館、3番館と言った地方の映画館では、封切り時と違う組み合わせで公開することも珍しくなかったので、「大魔神怒る」と「ガメラ対ギャオス」の組み合わせが、絶対あり得ないと言うことではない。

大魔神と勝新と言う、当時の大映の看板スター同士が共演していると言う風に考えると、大変興味深いものがある。

勝新扮する寅松を先輩と尊敬する若き刑事に山本學、寅松を「寅しゃん」と、何やら九州弁のように呼ぶデカ長役の伊藤雄之助も味わい深い。

捜査ものの名作!と言うほどのインパクトはないが、全編楽しく見られる痛快娯楽作ではある。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1967年、大映東京、高岩肇脚本、山本薩夫監督作品。

子供が川で溺れている。

それを道から騒ぎながら観ている野次馬達。

その後方から走って来た警官千田寅松(勝新太郎)は、観ているだけじゃダメじゃないか!と怒鳴りながら、自ら制服を脱ぎ捨て川に飛び込むと子供を確保する。

タイトル

脱ぎ捨てられた警官の制服から、銃を盗み出す男の手

無事、子供を岸まで泳いで連れて来た寅松は、子供の母親(耕田久鯉子)が泣きながら我が子を抱きしめ、周囲の野次馬達から、さすが警官だ!警視総監賞ものだななどと拍手と応援の言葉に送られて、照れくさそうに制服の場所に戻って来る。

そして、ベルトを持ち上げようとしたとき、拳銃がなくなっていることに気づく。

思わず寅松は、「泥棒だぁ!」と叫ぶ。

着物姿になった寅松は、後輩だった「鉄ちゃん」こと岸鉄郎(山本学)や、デカ長こと鶴見留次郎(伊藤雄之助)らと一緒に酒を飲んでいた。

デカ長は、やっぱり寅シャンは着物が来合うよなどとお世辞を言い、寅松の方も照れながら、これは親父のやつなんですなどと答えていた。

今日は、寅松が警官を辞め、父親の魚屋の家業を継ぐことになった送別会だった。

拳銃紛失だけだったら、戒告処分くらいですんだかもしれなかったが、盗んだハーフの男がその拳銃で殺人事件を起こしてしまったので、どうしようもなかったとデカ長は説明し、これも神様がそうさせたのかもしれんなどと慰める。

そこに、たたきが起こったとの知らせが入り、デカ長や岸ら警官全員が帰ってしまい、寅松は一人座敷に取り残されることになる。

寅松の実家は「魚辰」と言う魚屋で、その日の朝も魚河岸から仕入れを終えて帰って来た父辰蔵(加東大介)が、店の準備を娘の酉子(吉村実子)と始めると、妹である酉子は、まだ起きて来ない兄の寅松を呼ぶ。

父、辰蔵は、奴がその気になるまでそっとしておけとなだめるが、気丈な酉子は、寝ぼけ顔で店先に出て来て、準備の手伝いをしようとする寅松が、慣れていないのでまるで役に立たないことにいら立つ。

その時、表を通り過ぎるパトカーのサイレン音を聞いた寅松は、思わず外に飛び出してしまったので、酉子は呆れて、兄さんなんかが警察署長になんてなれるはずないじゃないのとバカにするが、寅松は、俺は刑事になりたいんだ!署長になんかなりたいんじゃないと言い返す。

座敷でそろばんを弾こうとした寅松だったが、すぐに飽きて、寝転ぶと、新聞に載っていたヤクザ一斉検挙のニュースなどを読み始める。

その後、元いた所轄署に遊びに出かけた寅松だったが、ちょうど護送車から降りて来た青年に、おまわり、首になったんだって?とからかわれる。

寅松から拳銃を奪って人を殺した男だった。

署内に入ると、岸が懐かしそうに声をかけて来て、今度田舎で結婚式を挙げることになったので来て欲しいと頼む。

その夜、刑事ドラマを見入っていた寅松に、晩酌をしていた辰蔵が文句を言い始める。

酉子も、横からテレビのスイッチを切って、寅松に話を聞くよう促す。

魚辰は、明治元年創業なので、今年で100年だと辰三は語り始める。

自分が4代目で、代々、名前に干支を入れると言うのも我が家の決まり。

お前が5代目になると期待していたが、お前は刑事になりたがる。

すぐに諦めるだろうと思っていたが、いまだに諦めていないのはどういう訳だと言い、酉子も、兄さん、お店、どうするつもり?と問いつめる。

しかし、寅松は、酉子と鉄ちゃんを一緒にしようとしていたんだが、あいつ、田舎で結婚するそうだ。俺は明日からばりばりやるよと言い出し、父と嬉しそうに晩酌を始める。

しかし、翌日、出前に出かけた寅松は、途中で、不良にいじめられている中学生を発見、出前桶をその場にほっぽり出して、不良達と取っ組み合いを始めるが、気づいた時には、桶の中の魚は猫に奪われていた。

電話で苦情を受けた酉子は平謝りし、刺身を作り直す辰蔵もさすがにあきれかえっていた。

その後、寅松は、岸の結婚式に出席するが、署長が祝辞を述べている間に相当酒を飲んでしまい、今までの願望からか、花嫁百合子の顔が、妹の酉子にだぶって見えるようになっていた。

寅松は、花婿岸と花嫁の前に進み出ると、こんな奴だけどよろしく頼むと、すっかり花嫁を妹の酉子と勘違いして挨拶を始めたので、岸も慌てるし、黙って聞いていた百合子は、さすがに怒って席を立ってしまう。

それを観た署長は、こんなめでたい席で酔って暴言を吐くとは何事か!と、寅松を叱責する。

その式の帰り、酔って電車内で寝ていた寅松の車両に、3人のチンピラが入って来ると、入口の前で、賭け事を始める。

3箱のピースの箱の内、1つの裏側の印がついているので、それを当ててみろと周囲の客達に声をかけ始めたのだった。

客達は全員無視するが、その内、チンピラの一人が、席に座っていた若い女性に目をつけからかい始める。

隣に座っていた男(梅津栄)などは、何か言いかけるが、チンピラに睨まれると何も言えなかった。

その騒ぎで目覚めた寅松は、その女性の前にはだかり、止めろと注意するが、3人がかかって来ると、電車内で大暴れ始める。

次の駅で扉が開くと、その女性は降りるが、寅松も3人のチンピラをホームに引きづりだし、さらに殴り続ける。

それを見かねた女は止めて下さいと止めようとするが、その時、反対側に入って来た電車に背中がぶつかり、女性はその場に倒れ込む。

所轄所に捕まり、取り調べを受けることになった寅松は、病院に運ばれた女性のことを気にするが、担当刑事は、結果が分かったら連絡が来るはずだと言う。

そこに入って来た高木警部(北原義郎)が、君のことは全部分かったと言うので、釈放されると勘違いした寅松は席を立ち帰ろうとしかけるが、高木警部は、拳銃紛失の時と同じく、君はまずいことをやっている。

1つは、寅松が酔っていたこと。もう1つは、過剰防衛だったこと。

殴られたチンピラのうち、1人は全治1週間、残りの2人は3日の怪我をしているので、君は傷害容疑者として扱うと言うのだ。

怪我をしたチンピラ3人に告訴するかと、高木警部が聞くと、3人は訳が分からなそうだったので、裁判して勝つと、治療費がもらえるぞと教える。

すると、最初は乗り気だった3人も、裁判と言う言葉を聞いた途端、自分たちもまずいことをやっているので裁判にはしたくないと断る。

入院した女性も、自分の為にやってくれたことだからと、告訴はしないことになったと刑事が寅松に教える。

女性の連絡先は、下宿のおばさんしかいないようで、他に身寄りはなかった。

事件が起こった駅の助役(丸山修)も病院にやって来て刑事と話し合うが、被害者が告訴しない以上、誰にも損害賠償を請求出来ないことが分かる。

寅松はチンピラ3人と一緒の牢に入れられるが、釈放後、取材記者から、怪我をした女性が夜間の教育学部に通っている女子大生だと聞き、入院している病院へ謝りに行く。

山口美恵子(姿美千子)と言う女子大生は、本当に悪いのは、見て見ぬ振りをしていた周りの乗客ですと言い、寅松に悪意は持っていないようだった。

それでも、背中がひどく痛むようで、水を飲ませてくれと頼むので、寅松はあわてて、病人用水飲器で水を飲まそうとするが、量の調節が出来ず、美恵子は思わずむせて、胸元が濡れてしまう。

慌てた寅松は、彼女の胸元を拭いていたが、そこに入って来た下宿のおばさん(岡崎夏子)は、寅松が美恵子にいたずらをしているのかと勘違いし怒鳴りつける。

美恵子が、自分を助けてくれた人だと説明し、誤解はすぐに解けるが、帰り際、会計で美恵子の入院費のことを聞いた寅松は、脊髄に傷があれば手術をしなくてはならなくなるし、入院費だけでも1日5000円はかかると教えられる。

家に帰ると、酉子が寅松に35000円とりあえず貸してくれる。

ところが、新聞報道では、寅松は勇気ある行動と賞賛してあり、問題は、周囲で見て見ぬ振りをしていた乗客たちにあると言う論調が大半だった。

美恵子の元にも、全国から多数の見舞い品や励ましの手紙、現金などが送られて来る。

見舞いに来た寅松は、風向きが変わって来たので喜ぶが、そこに、美恵子が助手として働いているさくら幼稚園の先生と共に、園児の隆(出川純)とその母親川上富子(木村俊恵)が見舞いに訪れる。

隆は美恵子に、自分で描いた大魔神の絵をプレゼントする。

そこに、新聞記者達がなだれ込んで来て、一旦、カーテンの陰に逃げた寅松も引っ張り出され、美恵子とのツーショットの写真も撮られる。

「魚辰」にもファンレターが届くようになり、酉子は寅松に、変われば変わるものねとからかうと、寅松は、兄さんを少し誇りに思うだろう?と自慢し、今度交番に赴任して来た佐野と言う巡査の写真を、酉子の見合い相手として見せたりする。

魚屋組合役員2人(遠藤哲平、隅田一男)が、寅松の今回の活躍のお陰で自分らも鼻高々だと言いながら、酒を持って辰蔵を訪れて来るし、テレビ局のインタビュアー(武江義雄)も、16mmフィルム撮影機を持って「魚辰」にやって来る。

辰平は、いきなりのインタビューにしどろもどろになる。

事件を担当した所轄署の署長(中条静夫)も、インタビューを受けており、その姿はテレビで放映される。

そのテレビのアナウンサー(森矢雄二)が、運輸大臣が今回の山口美恵子さんの事件を知り、治療費を全額出すことになったと言う速報を流す。

事件当時の乗客の一人だったと言う男性から、自らの反省と寅松への励ましの電話を受けた酉子は、良かったわね、兄さん、と寅松と一緒に喜ぶ。

その後、寅松と一緒に、美恵子を見舞いに行った酉子は、検査の結果、脊髄の異常はなく、その後の経過も順調で、後2、3日で退院できると言う美恵子に挨拶をしながら、寅松が美恵子を好きになったことに気づくのだった。

その頃、隆くんは、美恵子先生がまだ入院中だったので、信夫くん、ひろ子ちゃんと一緒に幼稚園の送迎バスから、自宅の近くで降りていた。

ところが、信夫くんとひろ子ちゃんは無事に家に帰ったのに、隆くんだけは家に戻らなかった。

銀行の支店長である隆の父親川上三郎(大坂志郎)は、妻の富子から、隆が行方不明になったと電話を受け、急いで帰宅することにする。

母の富子は、信夫くんの自宅を訪れ、隆くんは、他所のおじちゃんと帰って行った。そのおじちゃんは隆くんのことを知っていた。川上隆くんだろう?と声をかけて来たからと聞かされる。

やがて、自宅に電話がかかり、受話器を取った三郎は、犯人らしき男から、サツに知らせるなと脅される。

その頃、寅松は、デカ長の鶴見と、久々に二人で酒を酌み交わしていた。

鶴見は、自慢げに今回の手柄を話す寅松に、君と同じようなことをみんなが真似し始めたら大変なことになる。街には組織からはじき出されたチンピラが増えているし、日本人には勇気と暴力の区別がつかないものが多いからだと言う。

その時、女将が、鶴見に署に戻るように声をかけて来る。

警察署長(見明凡太朗)は、怨恨の線も考えに入れ、内情を調べること。極秘捜査だと鶴見達に伝える。

翌日、花束を持って、いつものように美恵子の病室に見舞いにやって来た寅松だったが、ベッドは既にもぬけの殻であり、看護婦(池上綾子)に事情を聞くと、幼稚園の先生がいらして、今朝急に退院したと言う。

寅松は不思議がり、さくら幼稚園周辺をうろついていたが、以前病室であった下宿のおばさんと出会い、川上さんの家に行っていると教えられる。

その川上家にやって来た寅松は、そこに岸が立っていたので、何かあったのか?と話しかけるが、岸は何も答えず離れて行く。

その場所で待っていると、やがて川上家から美恵子が出て来たので、近づいて事情を聞くと、隆くんがいなくなったと言う。

自分が入院していて、家までの送迎をきちんとやらなかったから自分のせいだと美恵子は泣き出す。

下宿に戻って来ても、美恵子が嘆いているので、話を聞いたおばさんは、違うよ。悪いのはあんたに怪我をさせたこの人だよと寅松を指差すので、寅松は愕然とする。

所轄署に出向いた寅松は鶴見に、手伝わせてくれと頼み込むが、これは秘密捜査であり首を突っ込むな。どこに犯人の目が光っているかもしれないから、そっと帰れ。当分、署にも出入りするなと鶴見は釘を刺す。

ご用聞きに変装した刑事が、川上家近くのマンションに詰めていた鶴見や岸と合流する。

川上家では、女中のが、父親は何ともなかったと言い、戻って来ていた。

事件当日、彼女は、父の容態が悪いと言う偽電報を受け取って、家を空けてしまって、隆くんの出迎えが出来なかったのだが、それも犯人の作戦だったらしいと分かる。

刑事の一人は、川上家の電話に録音装置を取り付けると、何かあったら、このトランシーバーで知らせてくれと三郎らに伝えて帰って行く。

早速、トランシーバーのスイッチを入れると近くのマンションで待機していた鶴見が出て、至急、隆くんの写真を、駅前のガソリンスタンドまで持って来てくれと三郎に依頼する。

三郎はすぐに自家用車でうちを出る。

そんな川上家の近くで勝手に立っていた寅松に近づいて来たご用聞き姿の刑事は、鶴見さんがカンカンですよと告げて去って行く。

先回りして、ガソリンスタンドの店員に化けていた岸が、到着した三郎に接触し、写真を受け取る。

寅松は美恵子に会い、事件の様子を知らせてくれと頼む。

その時、美恵子の部屋の壁に貼ってあった「大魔神」の絵が剥がれる。

寅松は、「大魔神」の映画を隆くんが観ていたことから、「大魔神怒る」と「大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス」を上映している映画館を探りに行くが、そこで偶然通りかかった岸と出会う。

岸は、写真の複製を頼みにこちらへ来たのだと言う。

美恵子は、川上家に来て、両親と一緒に犯人からの接触を待っていたが、そこに電話がかかって来る。

すぐに富子はインターホンのスイッチを押し、鶴見は、話を引き延ばすように依頼する。

電話に出たのは三郎だったが、犯人からの指示は、明日の11時、伊勢丹の玩具売り場に来るようにと言うものだった。

富子が受話器を取り、隆の声だけでも聞かせてくれと頼むが、すぐに電話は切れてしまう。

翌日、鶴見達刑事は、伊勢丹の玩具売り場を張り込むが、美恵子から話を聞いた寅松も、こっそり変装して人ごみの中に混じっていた。

その時、麻布笄町の川上三郎を呼び出す館内アナウンスがあり、近くの電話に出ると、階段の側に赤電話があり、その下を見ろと指示を受ける。

寅松は、鶴見達が自分の方に近づいて来たので、慌てた寅松は後ずさるが、そこは女性トイレだった。

さらに、女性客二人が入って来たので、寅松は個室の中に隠れる。

三郎は、指定された赤電話簿下にあった紙袋の中から、隆の通園用帽子とバッグを見つける。

鶴見達もそこに近づこうとしていたが、その時、「誰か来て!」と女性の声がトイレの方から聞こえて来たので、そちらに駆けつけると、誰かが個室にこもっていて出て来ない様子。

中で、トイレットペーパーをからから回してごまかしていた寅松だが、すぐにドアを開けられ発見されたので、鶴見は「寅しゃん…」とつぶやき唖然とする。

紙袋の中には犯人からの指示書も入っており、1000万を用意し、今夜10時、神宮外苑を周り、クラクションを鳴らした車に渡せと言う内容だった。

紙幣は外国で使うので、紙幣番号を控えても無意味だとも書かれていた文字は、定規を使って書かれていたし、指紋も採取できなかった。

寅松は、さくら幼稚園で美恵子から情報を仕入れていた。

三郎は退職金や自宅を担保に身代金を作ると言うことらしかった。

夜、鶴見達刑事は、外苑の闇の中に身を隠し、周囲を警戒していた。

もちろん、寅松も勝手に見張っていたが、金を持って外苑を歩き回っていた三郎に、クラクションを鳴らして近づいて来た車があったので緊張する。

しかし、それは、客にならないかと誘って来たタクシーだった。

その時、寅松は神宮球場内に人の気配を感じ、それを追って外に出るが、そこにいたのは、女と抱き合っている帽子をかぶった男だけだった。

女は起き上がると、寅松をのぞきと勘違いしたのか睨んで来たので、寅松は謝って逃げ去る。

三郎は自宅で待機していた妻の富子に、犯人が接触して来ないと電話で知らせる。

結局、隆くん誘拐事件は公開捜査になり、新聞やテレビで大々的に報道される。

事件を知った辰蔵は憤る。

やがて、川上家に犯人からの電話が入り、外苑前では、お前が帰る前に、警官達も帰って行くのを観かけた。条件を変えた。今度は5億持って来いと言い出す。

そんな金はないと三郎が拒否すると、お前が5億相当の品物を持っていることは知っている。高速の代々木から羽田に向かう道を走るようにと犯人は指示を出す。

そんな犯人梶源太郎(北城寿太郎)が電話を切った所にやって来たのが、実行犯の1人吉沢(水島直哉)だった。

吉沢は、事件を報道した新聞を見せながら、ニヤついている。

一方、三郎の電話を横で聞いていた富子は、5億もの価値があるものを持っているのね?と夫の態度から察知する。

しかし、三郎が何も語ろうとしないので、富子は、隆が殺されても良いの?隆はどうなるの?と夫に迫る。

三郎は、確かに自分はそう言うものを持っているが、それを渡すとうちの銀行が大変なことになるんだと苦渋の表情を見せる。

富子は、隆を見殺しにするんですか!と逆上し、三郎は、隆が誘拐されたのは、金目当てじゃなかったんだと苦悩する。

その頃、美恵子が来ていたと言うこともあり、あれほど息子の刑事マニア振りを嫌っていた辰蔵は寅松に、お前の勘で何とかならんのか?とけしかけていた。

酉子も、兄さんやんなさいよ!警察に気兼ねしているなんて兄さんらしくないわと同調する。

美恵子は、ひょっとすると、隆ちゃんはもう…と悪い予想をして泣き出す。

それを観た寅松は、命がけで、隆ちゃんを取り返してみせる!と息巻くのだった。

その後、美恵子は、又川上家を訪れるが、応対に出て来た富子は、もうお帰りください。主人は隆を見殺しにするつもりなのですとうつろなまなざしで言い、三郎も、妻が取り乱していますので、失礼だが、お帰りくださいと言う。

その夜の9時

富子を前に、三郎は、俺を支店長にまでしてくれた副頭取を裏切ることは出来ないと説明していた。

そこに電話が鳴る。

一方、近くのマンションで張っていた岸は、最近、犯人からの電話がかかって来なくなりましたねと鶴見デカ長に話していた。

犯人は、明日の晩、後は全て前と同じだと伝えて来る。さらに、ママ!お家に帰りたい!と言う隆の声も聞こえて来た。

それは、テープ録音したものを、犯人の女がスイッチを入れて聞かせていたものだったが、そうとは知らない、川上夫婦は、とうとう、警察へのトランシーバーには触らないままだった。

翌日、三郎が車で出かけたのに気づいた岸と鶴見は、すぐさま尾行する。

三郎は、とある屋敷の前に来ると、車から降りるが、屋敷を観ただけで、又車に乗り込み出発する。

そこは、銀行の副頭取の家だった。

そうした三郎の動きを、捜査本部の電話で聞いた主任警部(夏木章)は、さらに尾行するよう鶴見達に指示を出す。

三郎は、勤務先の共和銀行自由が丘支店にやって来る。

その頃、タクシー乗り場の近くにいた寅松は、順番待ちをしていた先頭の老人(河原侃二)を押しのけ、先にタクシーに乗り込もうとしたチンピラを見かけたので、近づいて行って引きずり出すが、それが、いつか電車内で殴った3人組の1人吉沢だと気づくが、もみ合ううちに逃げ出した吉沢が持っていた漫画を、いつの間にか手にしていた。

それは、子供向けの「大魔神怒る」の漫画だった。

それを、ラーメン店に呼び出した美恵子に見せ、寅松は、どう思う?と聞いてみる。

美恵子は、最近、お母さんの様子もおかしいと、先日の川上家での二人の対応の様子を教える。

その時、店から出て行く客の顔を観た寅松は、それが、電車内で殴った3人の1人と気づいたので、慌てて、美恵子に2人分の鳥蕎麦代を渡すと、男の後を追い店を飛び出すと、パチンコ屋に入ったその男を外に連れ出し、吉沢の居場所を聞く。

男は、渋谷の「ギロ」と言うバーのルリ子なら知っているかもと教える。

早速「ギロ」に出向いた寅松だったが、店の中にいたルリ子(滝瑛子)と言うのは、神宮外苑で夜男と抱き合っていて、寅松を睨みつけたあの女だった。

実は、その時の相手の男矢部(三角八郎)も店の奥にいたのだが、ルリ子が寅松の相手をしている隙に、サングラスをかけ、そっと店から出て行く。

寅松は、吉沢の友人を装って、借りたジャンパーを返すので、ねぐらを教えてくれとルリ子に頼むが、ルリ子はなかなか答えようとしない。

そこで寅松は、ショートで5万でどうだ?とルリ子をかうようなそぶりを見せると、喜んだルリ子は一緒に酒を飲み始める。

表に出た矢部は、犯人に電話をかけ、吉沢のことをしつこく聞き出そうとしている奴が来ていると連絡する。

犯人は、ガキの見張りを増やせと命じる。

段々酔って来たルリ子は、吉沢は、2、3日中に、4、50万入ると言っていたと言うので、寅松は緊張する。

寅松は、ルリ子が首から下げているペンダントが気になっていた。

さらにルリ子は、今日、昼過ぎにここに来たと言うではないか。

そんなルリ子が、寅松が口に加えたタバコに火を付けてくれた時、マッチのラベルに書かれた店の名が、「ギロ」ではないことに気づく。

さりげなく聞くと、吉沢が持って来たものらしい。

寅松は、そんなルリ子に抱きつく振りをして、テーブルの上のマッチ箱をそっと取り上げると、さらに、ルリ子のペンダントも巧く外して手に入れる。

マッチ箱に書かれた店名を頼りに、とある牛乳販売店にやって来た寅松は、今ルリ子から奪って来たペンダントの中に入っていた吉沢の写真を見せながら、ここに来ないか?と聞くが、応対する女将(村田扶実子)が話をしたがらなそうだったので、つい偽の警察手帳をちらつかせてしまう。

すると、女将の態度はころりと変わり、最近、牛乳を2本買いに来ると言う。どこに住んでいるのかと聞くと、あっちの方らしいと言うだけで、詳しい住所は知らないらしい。

そうした寅松の捜査の様子を、矢部は、近くからじっと監視していた。

その頃、当の吉沢は、熱を出した隆の為に、頭を濡れたタオルで冷やしてやっていたが、他の2人の実行犯村木(小山内淳)、小沼(工藤堅太郎)と、自分たちは1人5万で誘拐の手伝いをさせられたが、指示した梶は1000万も家族から要求していやがった。もっとふんだくられるのではないかと話していた。

一方、銀行に最後まで残っていた三郎は、金庫の中から書類を取り出していた。

寅松は、牛乳屋で聞いた周辺を歩き回っていたが、矢部も執拗に尾行を続けていた。

捜査本部にいた主任警部も、鶴見からの連絡を受け、三郎の尾行を続行させる。

犯人に指示された通り、代々木から高速に入った三郎の車を、鶴見達警察の車が尾行する。

犯人グループも又、三郎の車の動きを監視しており、逐一、梶に知らせていた。

車を走らせていた三郎は、道路脇に立っていた男が懐中電灯で合図したので、持って来た書類の入った封筒をその場に落として行く。

後方から付いて来たいた鶴見達は、その男を逮捕しようと駆け寄るが、男は走って、高速の降り口付近で待機していたワゴン車に乗り込むとすぐに走り去る。

寅松は、その間もずっと歩き続けていたが、監視していた矢部とすれ違っても気づかなかった。

車に乗っていた梶は、子分が持って来た封筒の中の書類を取り出して中身を確認する。

鶴見は、昭和通りを走り去った灰色のワゴン車を緊急手配する。

寅松はついに、牛乳を買ってバラック小屋に戻る途中だった吉沢を発見、捕まえて締め上げると、隆ちゃんの行方を聞く。

吉沢は苦しがり、あそこの小屋だと教える。

そんな二人を殺そうと、矢部は銃を取り出して狙うが、そこに、喧嘩と思い、警官が2名近づいて来たので諦める。

寅松は、又、偽の警察手帳を警官に見せ、吉沢を確保させると、自分は単身小屋に向かう。

小屋に近づいた寅松は、周囲に潜んでいた犯人グループ数人から襲撃を受けるが、一人立ち向かいながら、小屋の中になだれ込む。

中にいた村木と小沼も拳銃を向けて寅松に飛びかかったので、寝ていた隆は騒ぎで目覚め、起き上がって泣き始める。

敵の拳銃を弾き飛ばした寅松は、床に落ちていた拳銃を拾い上げると、それを犯人に向けて動きを封じる。

一方、鶴見達刑事も、梶のアジトに乱入し、一味を確保していた。

その後、美恵子と寅松は、隆くんをタクシーで自宅まで送り届ける。

富子は、戻って来た隆を抱きしめる。

警察で鶴見から尋問を受けた梶は、青木建設が仕事を受けることを約束させた官房長官の念書を奪うように言われただけだと言う。

その依頼主は誰だ?と追求すると、すっかり観念したのか、梶は、東西建設だと白状する。

その頃、川上家に往診に訪れていた医者は、隆を診て、ちょっと風邪をこじらせただけですと富子に伝え帰って行く。

辰蔵と酉子も、その場に来ており、事件解決に舞い上がった寅松は、思わず、美恵子に抱きついたりする。

そこに、三郎も戻って来て隆の無事を喜ぶ。

そんな川上家にやって来た岸は、やりましたね!と笑顔で寅松を見ながら、警察へ来てくれと声をかけ、三郎にも同行を求める。

所轄署に来た寅松は、待ち構えていた記者連中から取り囲まれ、総監賞ものですねなどと賞賛され、すっかり舞い上がるが、笑顔で近づいて来た鶴見デカ長は、行こうか、ブタ箱と告げる。

驚く寅松に、お前も元警官だったから、警官些少がどんなに思い罪か知っとるだろう?と言いながら、牢の前に連れて来る。

寅松は諦めたように、自らベルトと腕時計を外し、看守に渡す。

岸は鶴見に、寅松さんは犯人逮捕に協力してくれたんだから勘弁してやってもらえませんかと頼み込むが、鶴見は、明日から忙しくなるぞ。政界を取り巻く黒い霧に取り組むんだ。これも寅しゃんのお陰だよと真顔で言う。

牢に入って寝そべった寅松は、もしもし亀よ♩と口笛を吹きかけるが、すぐに、看守からうるさい!静かにしろ!と怒られてしまう。

翌日、捜査に出向く、鶴見や岸の姿があった。