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人間の條件 第4部 望郷篇

大長編映画の第4話に当たる。

いよいよ、満州に侵攻して来たソ連軍と戦うクライマックスが描かれるが、そこまでは、前作同様、古兵による、陰湿な新兵いじめが描かれている。

新兵達を教える上等兵に任じられた梶だったが、妬みからか、古参兵たちに梶への風当たりはさらに増して行く。

本作で意外なのは、黒澤作品などでもお馴染みで、温厚そうなイメージの千秋実が、嫌な古参兵を演じていることと、勇敢な兵士役が多かった藤田進が、短気な新兵として登場して来る部分だろう。

共に、他の映画で演じているイメージとはかなりかけ離れた役を演じている。

今回は、女性キャラクターの登場シーンがほとんどないので、ほとんど営舎内のエピソードと戦闘シーンと言う男中心の物語になっている。

若き川津祐介が、梶と対立する軍人の息子として登場して来るが、彼はこの後、後半部分の重要な役割になって行く。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1959年、五味川純平原作、松山善三脚色、小林正樹監督作品。

※劇中、今では差別用語と言われている表現も出てきますが、できるだけ映画の雰囲気を再現するため、言い換えないで使用しております。ご理解ください。

他の兵隊と一緒に貨物車に乗せられ、青雲台地にある部隊に向かう梶(仲代達矢)

新しい部隊でも、古参兵の横暴さは同じだった。

その部隊で梶を名指しして来たのが、その日の朝配属になった、南満州鉄鋼株式会社時代の同僚だった影山少尉(佐田啓二)だった。

影山は梶との再会を喜び、他の兵隊達には、今日から自分が訓練に当たると自己紹介する。

夜、一人歩哨に立っていた梶に近づいてきた影山は、街の方角から聞こえて来る音を不思議がる。

梶は、祭りのにぎわいでしょうと答えるが、そんなはずはない。ヨーロッパで戦争が終わったのではないか?ドイツが降伏したんだと影山は推理する。

後日、自室に梶を呼んだ影山は、今度この部隊に20才から44才までの少年兵や第2国民兵が来るので、その訓練の助手を頼みたいと言い出す。

梶も上等兵にすると言うのだ。

梶は、影山の意図が掴めず返事を躊躇するが、お前が助手になれば、少年兵達が泣かずにすむだろうと思って…と言われると、断る理由が見当たらなかった。

梶は交換条件として、内務班の編成を根本から変えて欲しい。年次兵を初年兵から話して欲しいと願い出る。

かくして梶は、2年兵で上等兵になるが、他の年次兵達からすぐさまいじめを受け始める。

赤星上等兵(井上昭文)は、お前だけ、お山の大将になろうとするのか?と因縁をつけられ、ビンタを食らわせられる梶。

小野寺兵長(千秋実)も、古兵を嘗めると、こういうことになるぞなどと言いながら、自分の兵舎内で履く上靴(じょうか)を梶の口に押し込むが、その時、影山少尉が来たので、みんな一斉に寝た振りをする。

影山は、スピッパを口にくわえたままの梶の顔を見て、上靴を取れと命じると、寝た振りをしている古兵達には、俺は見なかったことにするが、今後は4年、5年兵と言えども許さんぞと釘を刺す。

やがて、少年兵達が来て、行軍訓練が始まる。

随行した梶に、ここは国境が近いのですかと聞いて来た寺田二等兵(川津祐介)は、父が軍人だと自慢げに言う。

裸の女の写真を持ってても良いかと聞いて来た永井二等兵には、ふんどしにでも縫い込んでおけと優しく許す梶だったが、新兵達全員に、自分以外の古兵には軍隊用語を使うように命じる。

営舎に戻ると、古兵達の新兵への、陰湿ないじめが待っていた。

軍服のボタンをちぎられた新兵を知った梶は、自分でもらって来い。それくらい、自分でするんだと教える。

食事を運んでいた炊事班の二人の新兵は、古兵に小突かれ、容器の食事をこぼしてしまったため、古兵達一人一人に配る分量が減ったと文句を言われてしまう。

炊事班の二人が、互いに責任を押し付け合い、喧嘩を始めたので、それを叱りつけた梶は、新兵全員に、おかずを全員戻して、それを古兵に渡し、自分たちは飯だけ食おうと言い出す。

その後、古兵の部屋に行き、赤星上等兵に謝罪した梶だったが、赤星は梶に、連れて行った炊事班の新兵を殴れと言い出す。

梶が黙っていると、赤星が梶を殴りつける。

梶はその後、影山少尉の元へ向かうと、私的制裁をしないと言ってくれと頼むが、影山は、古兵は下らん奴らだが、いざ戦闘が始まると、独自に行動する能力がある連中だと弁護し、梶の妻美千子(新珠三千代)から手紙が来ていると取り出す。

梶はそれを受け取ろうとはせず、その場で簡潔に読んでくれと頼み、あれの立場を利用するなと言う。

影山は、自重しろ。ここだけは切り抜けて欲しいと、短気な梶に言い渡す。

梶は、君は将校だから手紙が書けるだろう。

美千子に、梶は死なない。どんなことがあっても死なないやつだと書いてくれと頼む。

その影山少尉は、野中少尉(小林昭二)や同じ将校達との会議では、今度の戦争は負け戦だと言う自説を持っていたため、批判される。

部隊長(浜村純)は、今、日本が形勢不利に見えるのは、あくまでも戦略的作戦なんだと説明する。

それを聞いた影山は、分かりました。俺がここで死ぬことが…と皮肉で返す。

一方、沖縄に米軍が上陸したことを仲間達から聞かされた寺田二等兵は激怒していた。

梶にも、殊勝の信念をこいつらに叩き込んで欲しいと訴えるが、梶は、この女々しいことが、戦争で役に立つんだと諭すが、寺田は大いに不満そうだった。

ある夜、兵舎から出て来た新兵鳴戸二等兵(藤田進)は、近づいて来た人影に注意を払わず、形だけの簡単な敬礼をしてしまう。

しかし、相手は広中班長だったので、上官に欠礼をしたと言うことで、梶を含めた初年兵全員が腕立て伏せの罰則を言い渡される。

鳴戸は、欠礼をしたのは自分だけなので、他の新兵達は許して欲しいと頼むが、全く相手にしてもらえなかったので、その内、堪忍袋の緒が切れた鳴門は、タンポ槍を持つと、酒を飲んでいた古兵達の部屋に殴り込みに行く。

鳴戸は、大工をやっている男で腕っ節にも自信があり、古兵達より年上だった。

それでも、追いかけて来た梶は、その鳴戸を押さえつけ、必死に古兵達に謝罪する。

しかし、鳴戸の上官侮辱と反抗は免れないと言うことで、鳴門は上着のボタンを全部取られ、営巣送りになる。

3日後、ようやく釈放された鳴戸を、他の新兵達が笑顔で出迎える。

梶は、それでも赤星上等兵ら古兵達からいたぶられる。

今度は、梶が逆上し、銃剣を手に赤星に迫ろうとするが、そこに駆けつけて来た鳴戸が羽交い締めにして止める。

その後鳴戸は梶に、今度何かやる時には手伝わせてくれと頼む。

しかし、梶は、そんなことをしたら反抗罪になるし、出る所に出たら?と言う鳴戸に、出る所に出たら負けだ。敵は古兵ではない。ここだよ、軍隊だと言い聞かすと、週番士官は影山だろう?この顔を見せてやるんだと言う。

その梶に、初年兵28名連れて、陣地構築のため、国境から後退した地区での作業命令が下る。

梶は影山に、自分を遠ざけて、その間に古参兵とのいざこざをなし崩しにするつもりだろうと抗議する。

しかし、影山は、お前が戻って来たら特殊教育へ出そうと思う。南満の美千子さんの近くだと教える。

それでも梶は、俺とお前の間に未解決の問題が残っていると反論する。

影山は、お前は利口馬鹿だ。意地を張るより、安全を図ることだと言い聞かせるのだった。

そんな影山に梶は、このして行く初年兵達のことを頼むが、影山は苦労性なやつだと呆れながらも、タバコを数箱手渡してやる。

翌日、出発する梶に、鳴戸がきっと帰って来て下さいと挨拶するが、お前と俺が怒ると困るやつがいるんだ。癇癪を起こすな。何かあったら影山少尉に相談しろと梶は言い渡して出発する。

国境から離れた場所での陣地作りはのんびりしたものだった。

近々結婚する相手がいると言う新兵をからかう中井二等兵を、笑いながらたしなめる梶は、自分の妻のことを聞かれ、5尺2寸の普通の女だと教える。

その時、全員集合の呼集が掛けられる。

隊長と野中少尉が来ており、本日未明、ソ連の襲撃を受け、牛島少佐以下全員が玉砕した模様と報告がある。

ソ連軍は満州内に侵入して来たので、直ちに帰営し、抵抗線構築せよと言う。

梶達は土肥中隊は、青雲台地への帰路につくが、途中、敵機らしき機影を見て地面に伏せる。

偵察らしかった。

白樺林に来ると、この木を使って槍を作り、白兵戦の準備をしろと言う土肥中尉(松本克平)の命令が下ったので、梶は疑問を口にするが、白樺しかない場所に来たのは俺のせいではないと班長から言われただけだった。

その夜、野営の準備をしていると、弘中班長(諸角啓二郎)がいきなり、1時間後に出発と言い出す。

そんな土肥中隊に合流しに来たのが、赤星ら、古参兵数名だった。

青雲台はどうなったかと梶が聞くと、全滅で、お前の可愛い初年兵達も影山少尉もやられたと、赤星はどこか愉快そうに言う。

ソ連の侵攻で、満州の町並みが焼けている中、一人の見習士官(安井昌二)が、日本兵軍曹が残っていた屋敷にやって来て、電話を借りるが、通じないので訳を尋ねると、爆撃で通じなくなったと言いながら、のんきに略奪をしている。

その浅ましい様子を見た見習士官は、貴様らを叩き斬る!と言いながら、軍刀を抜くと軍曹らに突きつけて来る。

部隊長は、300人かそこらの中隊全員で、48時間以内に、全長3kmもの戦車壕を掘るのは無理だと合流した指揮官(渡辺文男)に反論するが、指揮官は聞こうとしなかった。

一方、弘中班でも、寺田二等兵が、家のことばかり考えているねんじと言う中年の新兵と言い争いをしていた。

梶の顔を見た寺田は、自分は少佐の子供だから嫌いでしょう?と戦争に批判的な梶を皮肉りながら、あなたは二重性格ですと痛い所をついて来る。

それに対し、梶も又、お前はアホだ。お前のおふくろが流す涙がどんなものか、お前は知らないと寺田に言い返す。

そこに、見習士官率いる部隊が合流して来る。

野中少尉は、部隊長の指揮のもと、たこつぼを掘り始める。

兵隊達は幾組みかに編制し直され、小銃班に回された梶は斥候を命じられる。

寺田ら2名の初年兵を連れ、日没前に戻って来た梶は、敵の戦車を14、5両観かけたと報告しに戻って来るが、それを聞いた部隊長は、他の報告と違う。3人でちゃんと観て来たのか?と聞く。

梶は、少年兵は未経験なので、途中に残し、自分だけが観て来たと言い、寺田も不満そうに、それを肯定する。

野中少尉は、思いやり深いな…と梶のことを揶揄する。

夜、各自たこつぼの中に入って待機となるが、中年のねんじは、たこつぼの中から人間の骨が出て来た。墓だと思うので、場所を変えて欲しいと梶に訴えて来る。

近くのたこつぼには言っていた中井二等兵が変わってやっても良いと声をかけて来るが、それを断った梶は、ねんじには元の穴に戻るよう命じ、寺田には連絡要員として、今後、弘中伍長の指揮下に入るよう命じ、これからは自分一人でやるんだ。忘れては行けないのは2つ。1つは臆病になるな。2つめは決して諦めるな。勝ち負けのことではない。自分のことだと教え込む。

中井に、ふんどしに女の写真を縫い付けて来たか?と声をかけると、もちろんと永井二等兵が答えたので、梶は良し、抱いていろと笑顔で声をかける。

翌朝、伝令が走って来て、「来ました!」と告げる。

部隊長は戦闘準備を命じ、野中少尉は、全員、位置に付け!と指令を発する。

たこつぼの中に入っていた小野寺兵長は、古兵ながら、恐怖に怯えていた。

やがて、丘の向うからソ連軍の戦車隊が現れる。

梶は、周囲にいる新兵達に、300まで近づけて撃て。弾を節約しろ!と声をかける。

戦車が砲撃を開始し、歩兵と共に近づいて来たので、梶はソ連兵を一人射殺するが、その時、はじめて自分の手で人を殺した衝撃を受ける。

ソ連の戦車隊は、日本兵が掘った戦車壕を楽々乗り越え、さらに接近して来る。

その時、赤星上等兵が撃たれて倒れる。

中井二等兵は、戦車が後方に回り込むかもしれないので、部隊長に連絡に行くと言い、たこつぼを出て後方に走りかけた所で、砲撃を受け、片腕だけが落ちていた。

梶は何とか、爆発から逃れるが、近くのたこつぼに入っていた新兵2人はやられてしまう。

寺田が伝令として、部隊長の所まで走って来るが、すでに部隊長は死亡していた。

予想通り敵戦車部隊は後方に回り込む。

ねんじは、たこつぼから這い出て一人戦車に立ち向かって行くが、撃たれて倒れる。

間もなく、結婚する予定だった新兵も、弾を持って来た所でやられてしまう。

次々に新兵達は死んで行き、梶が入っていたたこつぼには寺田が戻って来て、その直後、真上を戦車が通過して行く。

梶は、左手に大怪我をしていた寺田に、少佐の息子良くやったと褒めながら、火薬で傷口を焼いて治療してやる。

戦車部隊が通り過ぎたので、恐る恐るたこつぼから這い出た梶は、小銃部隊、誰かいないか?と大声を出すが、返事の変わりに銃弾が飛んで来たので、その場に伏せ、死んでたまるかとつぶやく。

最後の突撃だ!と決意した梶は、近くにあった小野寺兵長の穴に飛び込み、手榴弾を小野寺にも手渡すが、小野寺は、頼むから助けて下さいと震えているだけ。

ソ連の歩兵達が、たこつぼの中の様子を確認しながら近づいて来るが、梶達の穴に来る寸前に、何故か撤退して行く。

その撤退部隊に向け、さらに銃を撃とうとした新兵がいたので、梶はあわててビンタして止めさせる。

気がつくと、小野寺兵長は精神に異常を来したようで、穴から出て来ると、ナイフを振りかざしながら梶の方へ近づいて来る。

梶は、そんな小野寺を押さえつけようとするが、その最中、小野寺兵長は口から泡を吹いて息絶えてしまう。

梶は、自分が絞め殺してしまったと思い、興奮のあまり、寺田にも襲いかかろうとして思いとどまり、俺は鬼だ…と言う。

鬼になっても生き抜いてやる…そうつぶやいた梶は、穴を出ると周囲に向かい、誰かいないか?生きているものはいないか〜!と呼びかけながら、朝焼けの空に向かって歩き始めるのだった。