大長編映画の第3部に当たり、軍隊に送られた主人公梶が体験する、軍隊生活の理不尽さが描かれている。
ここでのエピソードはほとんど、後年の「戦争と人間」でも繰り返し描かれている。
同じエピソードを描いていると言うことは、作者の想像で書いているのではなく、何か元にある取材源をベースに書いていると言うことかもしれない。
徹底的にいじめ抜かれる初年兵小原に田中邦衛が扮している。
いじめる方の代表格の古参兵を演じているのは、その後も荒くれた兵隊役が多かった南道郎で、もと漫才師だったと言う経歴が信じられないような独特のキャラクターである。
この話で登場する佐藤慶扮する新城一等兵は、共産主義者(アカ)と言うレッテルを貼られ、軍隊の中でも徹底的にいじめられる存在である。
インテリ風に、理屈で反論すると言うのが、体育会系体質の軍隊では毛嫌いされると言う一面もあるのだろう。
梶も又、理論武装で対抗しようとするので、上からも古参兵達からも睨まれてしまう。
ただ彼は、銃撃など、技量に才があったため、ちょっと他の兵隊達とは違う扱いをされると言う設定になっている。
ここまで観て来た印象では、特に梶に共感出来ると言う感じでもない。
今の感覚からすると、梶も又嫌な性格に見え、ヒーローには見えない。
新城も、不遇さ故に、性格が歪んでしまった感じがある。
軍隊生活に直接関わっていない女性達、つまり、美千子や徳永看護婦、さらに言えば小原の妻などは、まだ、普通の人間らしさが残っている感じがする。
丹下一等兵や佐々二等兵などは、まだ、人間性が歪むまで軍隊生活にどっぷり浸かってない感じだから、人間くささが残っているのだろう。
逆に言えば、軍隊生活にどっぷり浸れば浸るほど、普通の日常生活での人間らしさを失って行くと言うことかもしれない。
主人公梶は、初年兵ながら、その理屈っぽい性格に加え、すでに鉱山時代に苦汁をなめて来ているので最初から、一般人が共感しにくい雰囲気を醸し出してしまっている感じがある。
これでは、どんな環境にあっても、孤立してしまいそうな気がする。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
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1959年、五味川純平原作、松山善三脚色、小林正樹監督作品。 ※劇中、今では差別用語と言われている表現も出てきますが、できるだけ映画の雰囲気を再現するため、言い換えないで使用しております。ご理解ください。 1月23日零下32度 午後8時 雪の北支 兵隊が床に入った兵舎内、古参兵が吸いかけていたタバコを、防水用バケツの中に捨てる。 梶(仲代達矢)は、同じ新兵の小原二等兵(田中邦衛)に来たぞ!と声をかける。 その声で、新兵達は全員、毛布に包まり寝た振りをする。 寝床に近づいてきた板内上等兵(植村謙二郎)は、初年兵を起こし、灯りを点けるよう命じる。 そして全員整列させると、片端からビンタをして行く。 板内上等兵は、初年兵たちに、何故殴られたか分かるか?水桶にタバコが浮いていたからだ。防火用水は常に清潔に保つよう言われていたはずだと言い、班内当番前に出ろ!と命じる。 一歩前に出たのは、小原二等兵だった。 小原はさらに殴りつけられたので、見かねた梶が、食事の後、水桶はきれいになっていたとかばう。 それを上のベッドで聞いていた吉田上等兵(南道郎)は、板内上等兵に反抗したな?誰に教わった?そこにいる新城さんか?と、ベッドに横になっていた新城一等兵(佐藤慶)を見ながら嘲笑する。 ある日、橋谷軍曹(内田良平)始動のもと、銃撃の訓練が行われる。 メガネをかけた小原は全く的に当たらず、橋谷軍曹に呆れられる。 橋谷軍曹は梶を指名し、目をつぶって撃ってみろと命じる。 銃撃の勘が良い梶は、目をつぶっても的に当ててみせたので、橋谷軍曹は、小原の目の悪さが弾が当たらない理由ではないぞと言い聞かせ、関東軍60万の中にお前のようなやつはいないと叱りつけ、梶と一緒に標的の場所まで早駈けを命じられる。 走り出した小原は、途中で自分のふがいなさに泣き出してしまう。 その頃、部隊では、工藤大尉(城所英夫)が、梶の妻である美千子(新珠三千代)からの手紙を検閲していた。 夫の梶が憲兵隊に捕まり、20日そこそこで釈放されることはないと書かれており、徴兵されたことに対する疑問と夫への不安感が書かれていた。 工藤大尉は日野准尉(多々良純)を呼ぶと、梶が銃の才能はあるらしいなどと言う情報を聞く。 兵舎には、巡回から戻って来た新城一等兵らが戻って来たので、新兵達は、古参兵たちの装備の着脱などを手伝い始めるが、新城は自分は良いと断る。 新城は梶に、俺は万年一等兵であり、俺もお前が話していても睨まれていることは忘れるな。 そんな二人の様子を監視していた日野准尉は、工藤大尉に逐一報告し、今後も監視を怠らないようにと命ずる。 その後、兵舎にやって来た橋谷軍曹は、午後は定期検査をすると新兵達に伝え、梶には美千子からの手紙を手渡す。 梶はその封も開けずに胸ポケットに仕舞うので、仲間達は読んで聞かせろとせがむが、梶は、読まないんだ。我慢できなくなるためと答える。 小山は銃の手入れをしながら、自分の母と女房が巧くいってない、かと言って女房を家から追い出すと、63のおふくろしか家に残らなくなると苦悩を語る。 その時、銃身が折れていることが判明、小山は青ざめるが、良く見ると、その銃は久保二等兵(小瀬朗)のものだと言うことが分かる。 久保が腹立ち紛れに、てねえがアカだってことはみんな知っていると梶を侮辱する。 第1868部隊 ある日、曽我軍曹(青木義朗)が新城一等兵に、初年兵と共に便所掃除をするよう命ずる。 一人黙って便所掃除に向かう新城を観ながら、初年兵は誰も動き出さなかったが、吉田上等兵は、梶、何故行かない?アカ同士だろう?とからかうので、梶も黙って便所に行き、新城と共に便所掃除を手伝うことになる。 二人が便所掃除をしていると、週番下士官が用を足しに来たので、新城は、勤務表番を拒否したらどうなりますか?もちろん、勤務表の付け方が違反していた場合ですと皮肉を言う。 下士官が無視して去ると、梶は新城に、国境は近いんですか?と聞く。 新城は、湖まではすぐだが、嵌れば助からない。このまま帰れると思っているのか?と逆に聞いて来る。 兵舎に戻って来ると、佐々二等兵(桂小金治)が踊り、他の兵隊達も歌って喜んでいた。 そんな中、新城が梶に、刑法を持っているかと聞いたので、吉田上等兵らがよってたかって新城を袋だたきにしかける。 そこに上官がやって来たので、吉田達は、新城を毛布でくるんで寝台に隠す。 ある日、梶達は行進訓練中だった。 そんな中、部隊にやって来たのが、梶の妻美千子(新珠三千代)だった。 工藤大尉の部屋に来た美千子に、同席した日野准尉は、登りの記者は明日の午後までないし、この辺に泊まる場所などないと教え、呆れる。 それでも、覚悟を決めてやって来た美千子は、梶に会わせてもらえれば、後は歩いて帰りますと気丈に答える。 兵舎に戻って来た梶は、事務室へ来るよう言われたので行ってみると、特別の計らいを持って、明朝まで休憩を許すと日野准尉から言われる。 指示された倉庫に行ってみると、そこに思いも掛けず美千子がいたので、二人は固く抱き合う。 梶は、心配しなくても良い。俺はやってのけるよと美千子に告げる。 そこへ、佐々二等兵が二人分の食事を持って来てくれる。 佐々は美千子に、戻ったら、自分の家内にも連絡してくれと住所を書いた紙を託して帰って行く。 兵舎に戻った梶は、美千子用の毛布を貸してもらえまいかと古参兵達に頼むが、吉田上等兵などは卑猥なことを口にして決して貸そうとしなかったので、仕方なく梶は、一人分の毛布だけで美千子と寝ることにする。 美千子は、今でも時々、渡合憲兵軍曹が家に来ると教える。 梶はそんな美千子に、俺が脱走したらどうする?この部隊には、兄さんがアカで、恋人に裏切られ、3年経っても一等兵のままの新城と言う人がいて、国境の向こうにはもっと良い世界があると言うと伝える。 美千子は、1人で逃げるの?私がいるじゃないと困惑する。 梶は、逃げないが、やるだけやるんだと答える。 二人は抱き合い、美千子は、約束忘れないでね。きっと帰って来るってと頼むが、梶は、ありがとう、素晴らしい夜だったと返すのみ。 その言葉を聞いた美千子は、もしかしたら、あなた、戦地へ行くのね?だから、こうして会えたのかもしれないわとつぶやく。 梶は、一つだけ聞いてくれるか?寒くてすまないけど、裸になって、あの窓の所に立ってくれないか?観ておきたいんだ。君の身体をこの目に焼き付けておきたいんだと頼む。 美千子は泣きながら裸になると、言われた通りに窓辺に立って裸身を見せ、私、何もあげるものないのと言う。 梶はそんな美千子をしっかり抱きしめるのだった。 翌朝、起床ラッパで起きた梶は、すぐに、吉田上等兵相手に棒剣練習をさせられる。 その後、倉庫に戻って来た梶は、送れないよ。すぐ演習に出るから。来てくれてありがとうと美千子に告げる。 美千子も、早く行って!たまらないからと別れを惜しむ。 その日、工藤大尉と日野准尉は、小原二等兵が妻に宛てて書いた手紙を検閲し、その内容があまりに臆病なものだったんで、本人を呼びつけ、もう一度妻への手紙をその場で書かせる。 小原は、お前の気持ちが変わらないなら、小原の家を去りなさいと書く。 その後、行軍訓練に出発した小原だったが、途中で体力を失い、ふらふらの状態になる。 見かねた兵長が、誰か小原の荷物を持ってやれと声をかけるが、全員疲弊しており、一人も志願するものはいなかった。 兵長は、俺が持ってやると言い出すが、その時梶が志願し、小原の荷物を持ってやる。 しかし、体力の限界を超えていた小原は、それでも倒れ込んでしまう。 それを見た梶は、一度くらい骨のある所を見せてみろ!出来ないなら落後してしまえ!と叱咤激励し、俺を恨みたければ恨め!と言い残して、小原の荷物をその場に置いたまま先に進んでしまう。 小原とその荷物は、荷車に乗せられて兵舎に戻って来るが、それを知った吉田上等兵らは、小原に女郎のマネを強要し、あげくの果てに、小原のメガネを足で踏みつぶしてしまう。 その時、寝台にいた新城が、梶に借りていた刑法を返すと声をかけたので、古参兵達のいじめは終了する。 小原はその夜、便所に行くと言い、寝床を抜け出すと、こっそり銃を持ち便所へ向かう。 小原は、レンガ塀からレンガを一つ抜き取ると、その奥に隠していた銃弾を一発取り出すと大便所の中に入り、銃に弾を装填すると、引き金に木の枝を刺し、銃口を自分の咽に当て、片足で木の枝を踏みつけ、引き金を引こうとする。 しかし、1、2度やっても巧く引き金が引けないので、死ぬなって言うのか?死ぬのはいつでも出来る…とつぶやきながら、木の枝を抜こうとかがんだ所で銃が暴発する。 その銃声で全員目覚めるが、部隊の中から自殺者を出したと言うことで、全員腕立て伏せの懲罰を受ける。 全員を整列させた橋谷軍曹は、お前達全員の性根が腐っている証拠だ!俺の訓練が不適切だと思うものは言ってみろ!と兵隊達を叱りつける。 その後、梶が新城に援護して下さいと囁き、工藤大尉の部屋に一人向かうと、吉田上等兵に処罰をお願いします。私的制裁は禁止されておりますと願い出る。 出過ぎたマネをすると、一生浮かばれないことになるぞと言われた梶だったが、正しい処分がされないとすると、単独行為を起こすしかありませんと梶は主張する。 後日、知らせを浮けてやって来た小原の妻(倉田マユミ)が、小原の遺骨を受け取りに来る。 妻は、私が殺したと言うことですか?と問いかける。 立ち会っていた日野准尉は、落伍者は兵隊の恥だ。弱兵として進級が送られるだけですと言い聞かす。 妻は、あれほど優柔不断な男が自殺する何て…と呆然としているので、同じく立ち会っていた梶は、小原のある部分を、あなたとお母さんが殺し、残りを私が殺したのですと詫びる。 梶は、工藤大尉に対し、吉田上等兵が私的制裁をして罰せられない理由をお聞きしたいと尋ね、工藤大尉からお前は吉田に私怨を持っていると指摘されると、原因は軍隊でありますと答えたので、横で聞いていた日野准尉は、橋谷!土性っ骨、鍛えてやれと命じる。 梶が退室すると、進級の時、あれ(梶)を忘れるな。人間バネみたいなもので、押せば押すほど反発する。 古兵なみの任務に付けろ。どうせ国境へ出るかななと日野准尉に告げる。 その後、行軍に行って帰って来た梶は、そこに新城がいることに気づき、日野准尉のやりそうなことだとつぶやく。 新城と共に、国境近くを監視させられることになった梶は、やりますか?と聞き、新城は、お前も行くか?と聞く。 梶は、無条件に自由になれますか?と聞き返す。 関東軍から来た男が向うで何に使われますか?道具ですよ。脱走兵でしかない。向こうにきれいな花が咲いているからと言って、こっちを捨てて行って良いものか…と梶は続ける。 その頃、日野准尉は、明後日から始まる銃撃大会に梶を出すと、工藤大尉に報告していた。 工藤大尉は、新城を転属要員に出せと命じる。 後日、板内上等兵と共に、国境警備を命じられた新城は、人の気配を感じ誰何する。 近くの農家に入ると、そこの主人が川に魚を捕りに行っただけだったことが分かるが、板内上等兵はその夫を捕まえ、こいつを犯人にすりゃ良いんだとうそぶく。 必死に哀願して来た妻の方に手をつけようとした板内上等兵は、その隙に家から逃げ出そうとした主人の方を射殺する。 その頃、兵舎にいた梶は、佐々二等兵から、小原の妻から手紙が来ていたと教えられる。 そんな所へ吉田上等兵が一人でやって来たので、梶は思わず、自らベルトを外し、それで殴ろうと吉田に近づきかけるが、そこに、新城が、板内上等兵が捕まえたスパイを逃がしたらしいとの知らせが来たので、梶はあわててベルトを巻いた手を隠す。 日野准尉は戻って来た新城を殴りつけ、重営倉に入れるよう命じる。 その時、野火です!と言う報告が入る。 兵舎の近くの草原から出火したのだった。 兵隊達は全員で消化に駆けつけるが、火の勢いが強過ぎて手が出ない。 やむなく、日野准尉は、全員に後退を告げるが、その時、橋谷軍曹が火の中に何かを発見する。 それは、逃亡する新城一等兵の姿だった。 梶と吉田がその後を追いかける。 新城は、湖の中の浮き島のような場所を次々に突破して行く。 梶は、吉田上等兵に近づくと、体当たりして吉田を湖に突き落とすと、自らも湖に落ちる。 二人は何とか浮き島に戻ろうとあがくが、先に浮き島に這い上がった梶は、助けを求める吉田に対し、助けてやるから約束しろ!俺と一緒に隊長の所へ行け。そして小原を自殺させたことを認めるんだと呼びかける。 何とか溺れかけた吉田を引き上げた梶だったが、そこで自分も気絶してしまう。 気がつくと、梶は病室に寝かされていた。 目の前にいた看護婦が、1時間置きにカンフル注射をした。流行性出血熱ねと話しかけて来る。 徳永と言うその看護婦(岩崎加根子)は、もう1人はダメだったと言う。吉田のことだった。 熱にうなされている間、美千子さんって呼んでたけど、恋人?奥さんと聞くので、梶は両方ですと答えながらも、自分の下の世話は誰が?と思わず恥じらいながら聞いてしまう。 そんな病室に入って来た3年生の一等兵と言う石井衛生長(田村保)は、ベッドに寝ていた兵長を罰則違反としていきなり殴りつける。 それを観ていた一人の患者が、罰則なら規則通りにやれと衛生長に注意する。 衛生長は、そのベッドの名札を観て、丹下一等兵(内藤武敏)だな?覚えておくと吐き捨てて帰って行く。 梶は思わず、その反骨精神溢れる丹下と言う男に注目する。 ある日、病室内で一人、歩く練習をしていた梶は、丹下に話しかける。 丹下は梶に、そんなことをしていると使役をさせられるぞと苦笑し、自分は内地では旋盤工だったが、軍隊に入れといた方が良いやつもいるさと自嘲気味に自己紹介する。 そこに入って来た沢村婦長(原泉)は、勝手に歩く練習をしていた梶を叱りつける。 同行していた徳永看護婦は、梶にこっそり、勝手に歩くとビンタだぞと可愛く囁きかける。 後日、梶と共に床磨きを命じられた丹下は、スターリンとルーズベルトが会談しているそうだと最新情報を教えてくれる。 そんな二人に近づいて来た徳永看護婦は、丹下に、明日、連帯復帰です。あなたの連帯は動員になりましたとと伝える。 梶には、あなたは使役でしょう?嫌なことが多いです、ここでは…とつぶやく。 翌日、丹下一等兵は軍服を着て病院を後にしようとしていた。 そんな丹下に梶は、昔、人間の隣には人間がいると教えられたと伝える。 丹下は、その言葉、覚えておこうと笑顔で答えて病院を後にする。 洗濯番を仰せつかった梶は、大型洗濯機の前の机で、一人、美千子への手紙を書いていたが、そこに洗濯物を運んで来た徳永看護婦には、ここにいたい。前線にはなかったものがある。あなたと話すことなど…と雑談をするが、そこに現れた澤村婦長に、二人ともこっぴどく叱られてしまい、部長部員に報告すると宣告される。 梶は、又、前線送りになる。 一緒のトラックに乗っていた徳永看護婦も転属させられたのだと言う。 トラックを降りた梶は、徳永看護婦と握手をしながら、僕は盲滅法信じます。会える人には会えると…と伝えるのだった。 |
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