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密航0ライン

鈴木清順監督作品というと、観念的で難解な後期の作品イメージが強いが、日活時代は、比較的普通に観られるサスペンスものなどを何本も撮っており、この作品なども難解な所はない。

さらに、全体的にロケが多用されており、リアルな雰囲気もあるし、展開も面白く、上質の娯楽作品になっている。

長門裕之演ずる非情な記者のキャラクターがまずは面白い。

特ダネを取るためには、愛人や旧友、協力者まで売っても平気という自己中心的で冷徹な人物である点などは、「非情都市」の三橋達也が演じた主役像と似ている。

この作品では、そう言うアクの強い記者と対称的な、もう一人のまじめな記者が登場する。

この取材に対する考え方、やり方が相反する両者が競い合い、抜きつ抜かれつの取材合戦をするのが一つの骨格になっている。

やがて、強引な手法の主役の方は、自ら敵の罠に落ち…と言うありがちな展開になるのだが、それであっさり改心したり、反省するのかというと…そうではない所がクール。

主役記者の上司を演じているのは、「事件記者」の東京日報相沢キャップでお馴染みだった永井智雄。

相沢キャップの方が、記者クラブに詰めっきりのイメージが強いのに対し、本作では、地方までセスナで飛ぶなどと言う行動力がある所を見せている。

中原早苗の悪女、高階格の生真面目な刑事役、初井言栄の娼婦役などは見物。

小沢昭一演ずるうさんくさい中国人役などは、いかにも板についている感じがする。

個人的には、今まで観た清順作品の中では一番素直に面白かったし、良くできていると感じた娯楽作品である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、日活、横山保朗脚本、鈴木清順監督作品。

日東新聞の記者仁科達男(小高雄二)が友人の記者香取耕一(長門裕之)に、野球でもいかないか?寿美ちゃんと3人で飯でも食おうと誘うが、日東さん、都内版の時間ないぜと言い捨てて、自分の社に戻ると、黙々と記事を書く。

タイトル

「密航0ライン」「第8回」…

極東新聞に最近掲載されている香取の記事を読んだ日東新聞社会部今泉道夫(永井智雄)は、奴がこの記事を書くたびに何かが起こる…と、戻って来た仁科に、注意するよう伝える。

外に飛び出して車に乗った仁科は、自分を訪ねて来たらしい張随昌(石崎克巳)を見かけたので、出かける所だと車窓から声をかけると、まだオヤジさんは見つからないと言う。

張は、以前麻薬で捕まったことがある青年で、その後、洗濯屋で働きながら、父親を捜していると仁科に何度か相談に来ていた青年だった。

走り出した車の窓から、もうやってないだろうな?と声をかけた仁科は、運転する六さん(西形重治)に日東新聞社へやってくれと頼むが、ラジオから、巨人戦のウグイス嬢の声が聞こえ、六さんが寿美子ですねと声をかけて来ると、途中に会った公衆電話の前に停めさせ、そこから後楽園球場のウグイス嬢をやっていた恋人の香取寿美子(清水まゆみ)を呼び出す。

寿美子は、兄の居場所を聞かれると、最近会ってない。玲子さんなら知っているかも…と答える。

その頃、香取は、その佐伯玲子(中原早苗)の自宅アパートで、玲子を抱いている最中だった。

ことを終え、シャワーを浴びる香取は、佐伯は元気か聞く。

玲子は、兄さん?元気らしいわ…と気のない返事をしながら、かつて香取、佐伯、仁科の3人が大学で一緒に撮った写真立てを手に取りながら、昔はずいぶん仲が良かったけど、今はバラバラね…とつぶやく。

今度はいつ会える?と甘えて来た玲子に、服を着た香取は、軽くて6年、運が悪けりゃ12年だと意味不明な言葉を残してドアを開ける。

ドアの外に待機していたのは、千葉刑事(高品格)以下、地元署の刑事たちだった。

千葉刑事は、部屋から出て来た香取と目配せすると、刑事たちを従えて、玲子の部屋の中に突入する。

ちょうど入浴中だった玲子は、何事かと緊張するが、佐伯玲子、麻薬隠匿で逮捕しますと千葉刑事から言われる。

その後、仁科は、とある川沿いの屋台に、他の記者たちと一緒に潜んでいた香取を見つけるが、香取は既に、労務者風の姿に着替えており、社に電話してみろよ、とびきりのビッグニュースがあるぜと言うので、抜かれたと直感し、慌てて車の方へ駈け戻るが、その時すれ違った中国人李鮮信(小沢昭一)に気づかなかった。

車の中であわてて着替えていた仁科だったが、やがて、着替えの途中の格好のまま、公衆電話から社に電話する。

今泉部長は、佐伯玲子がさっきパクられたと教えたので、驚愕した佐伯は、ようやく着替え終わって先ほどの場所へ走る。

すると、もう野次馬が集まっており、パトカーも来ていた。

川に船を浮かべていた水上生活者らしき住居の中に突入した刑事たちの様子を、香取は熱心に小型カメラで撮影していた。

逮捕された男の中に李鮮信も混じっていたが、仁科が見ている目の前で千葉刑事が、その李の手錠を外し、川に浮かんだボートに逃がしてやる現場を目撃する。

李は、モーターボートに乗ってその場から逃走してしまう。

仁科は、別の逮捕者が、かつて級友だった佐伯敏雄(内田良平)だと言うことに気づく。

香取は、撮り終えた写真を、社のバイク便に渡していた。

そんな香取に気づいた佐伯は名を呼びかけると、証拠は俺1人ですませてやると叫けび、刑事の手を振り払って逃げようとする。

刑事たちは何とか取り押さえようとするが、急に佐伯が倒れる。

うつぶせになった佐伯の身体をひっくり返した千葉刑事は、舌を噛んで既に事切れていた佐伯の姿を悔しそうに見つめる。

香取は、そんな佐伯の姿をさえ、無言でカメラに収めていた。

留置されていた玲子に面会に来た仁科と寿美子だったが、恋人に裏切られた玲子は、同情は結構や!今後は、あの人への復讐心だけで生きていけるわと睨みつけ、自ら席を立ってしまう。

その後、プールに来ていた香取に会いに来た寿美子と仁科だったが、香取は話が死体という仁科を無視し、プールから上がって来た島倫子なるファッションモデルを紹介する。

港に来た仁科は、学生時代から香取はプランナーだった。あいつが立てたプランを佐伯が実行していたのだが、今は狂っていると、香取の妹である寿美子に伝える。

その時、海を進んで来るモーターボートに、あの時逃げた李が乗っているのに気づいた佐伯は、寿美子と共に、ヨットで側に寄ってみる。

李は、近くに来たヨットに不審の目を向けるが、仁科は寿美子と濃厚なキスをしてみせたので、呆れて目をそらすと、海に浮かんでいた何本もの竹箒を回収し始める。

その隙に、仁科も、側に浮かんでいた竹箒を1本回収する。

寿美子に箒の芯の中を調べさせると、中から出て来たのは、ビニール袋に包まれた腕時計だった。

その後、李は、回収した密輸の時計を、中華街のとある店に持ち込んでいた。

一方、仁科も拾った時計を社に持ち帰り、今泉に見せる。

今泉は、これを警察は知っていると思うか?と仁科に聞く。

李が警察や香取との協力者であることは明らかであるが、このことは警察も知らないだろうと仁科は読む。

その時、電話がかかって来たので、今泉が出、麻布の「KASUMI」クラブでガサ入れがあるそうだ。すでに香取が突っ走っていると仁科に告げる。

ルーレットなどの賭博を行っていた「KASUMI」クラブに、警察のガサ入れがあり、その中で、潜入していた香取が突入の瞬間から一部始終を写真に撮りまくっていた。

仁科が店の前に来ると、すでに野次馬で溢れ帰っており、もはや店に入れそうにもなかったが、そんな店の入口から抜け出して来た香取と李が路地の方に逃げて行くのを見つけると、近くにいた警官に、「あいつだ!」と叫ぶ。

仁科と共に駆け寄った警官は、逃亡しようとしていた李に手錠をかける。

李の身柄は、警視庁が保証していると香取は抗議するが、仁科は、君はこの男が時計の密輸をしていたのを知らなかったようだなと返答する。

すると、図星だったようで、香取は何も言い返せなくなる。

李は逮捕されたことに驚いたのか、香取さん、話違う!と叫びながら警察車両に乗せられてしまう。

ところが、記者クラブに戻った仁科は、すぐに李が戻って来て、羽田へ行こうという香取と共に記者クラブから出て行ってしまう所を目撃する。

驚いた仁科はすぐに社に電話を入れると、電話に出た島村記者(木浦佑三)は李はあっさり釈放されてしまったと言い、羽田と言うのはガセだろう。奴がすぐにバレる場所を言う分けないと懐疑的のようだった。

それでも、一応、羽田に向かった仁科だったが、そこで見たのは、モデルの島と車に乗り込もうとしていた香取の姿だけで、李の姿は発見できなかった。

香取に近づいた仁科は、君は利用できるものは何でも利用する男だが、今に手ひどいしっぺ返しを受けることになるぞ。佐伯玲子のみになって考えたことがあるか?と警告する。

すると香取は、君があの子を何とかしてやったらどうかと言い返す。

そこに羽田クラブの女事務員(小坂翠)が近づいて来て、島村さんから電話だと仁科に伝える。

島村が電話で伝えて来たのは、今朝方、玲子が証拠不十分で釈放されたというものだった。

その後、遊覧船に乗った佐伯と島村は、役の運び人らしいと目を付けた1人の若い娘源辺愛子(千代侑子)を尾行していた。

愛子は、公園の宙返りロケットの前で青年と落ち合っていた。

佐伯は、その青年が、あの父を捜していた張随昌だったことに驚く。

その公園の外では、今あそこでブツの取引があると李が、連れて来た香取に説明している所だった。

香取が乗り気ではないようだと気づいた李は、今日のは小さいけど、その内3000万くらいになるよなどと補足するが、香取は、いら立ったように、劉宗明のことはまだ分からないのかと聞く。

遊園地の中では、来園者たちが見守る中、仁科が逃げようとした張を捕まえていた。

愛子の方は遊園地から外に逃げ出すが、外で待っていた李に捕まると、香取が乗っていた車に押し込み、千駄ヶ谷のホテルの連れ込むと、李が痛めつけてブツの元締めの居場所を聞く。

しかし、愛子は、鎌倉の整形病院としか知らないと言うので、李はさらに痛めつけて割らせようとするが、黙って聞いていた香取は、心当たりがあると言い、暴力を止めさせる。

愛子は逃げ出そうとするが、それを取り押させた李が、ふともものガーターに挟んでいたヤクを見つける。

先に部屋を出ようとした香取は、付いて来ようとした李に、このまま帰す手はないぜと意味ありげな目で、床に倒れている愛子の方に目をやる。

李は、その意味を察して、部屋に残るが、外に出た香取はこっそり部屋の鍵を閉めると、千葉刑事に電話を入れ、今、千駄ヶ谷の「楽々荘」に李が、ヤクの運び人の女といるので捕まえてくれと頼む。

千葉刑事は、李はあんたの協力者じゃないのか?と戸惑うが、もう李からは、何も得られそうにないと香取は冷たく答える。

社に、張を連れ帰って来た仁科は、店屋物を勧めながら、ヤクの出所を聞こうとする。

その頃、香取は、鎌倉の「マグノリア美容医院」と言う病院を訪ね、女医の杉江晶子(東恵美子)に面会を申し込んでいた。

6月5日から10日間、あなたは医院を休んでおられますが、うちが出している週刊誌の香港の九龍城を写した写真にあなたが写っていますと、雑誌の見開き写真と部分を拡大した写真をつけつけながら、ところがあなたはこの日、外務省からパスポートが出ていない。つまり日本にいたことになっていると追求する。

すると、黙って聞いていた晶子は、銃を突きつけて来る。

しかし香取は慌てず、すでに手は打ってますから無駄ですと言いながら、相手の銃を奪うと、劉宗明って知ってますね?あなたの部屋でくつろぎたいですなと晶子を見つめる。

晶子は黙って彼を自室に案内すると、互いに服を脱ぐ。

その頃、千駄ヶ谷の楽々荘に乗り込んだ千葉刑事は、ベッドで熟睡していた李と、ノックの音でベッドから抜け出し、部屋の隅で怯えていた愛子を発見する。

張の証言を得ようと、社の仮眠室内で粘っていた仁科の所にやって来た記者が、今、李があげられたぜと教える。

仁科は、どうしても張が吐かないことを知ると、今日は遅いから帰って良いと言い、車代を持たせてやる。

仮眠室を一旦出た張だが、仁科に恩義を感じたのか、又戻って来て、父に会いに行くのにまとまった金がいるんだ。ブツを仕込んだのはマグノリアだと教える。

仮眠のベッドに入りかけていた仁科や他の記者たちは、急いで車の手配や警察への連絡をその場から電話でかけ始める。

連絡を受けた千葉刑事等は、鎌倉のマグノリア美容医院に来ると、晶子院長に面会を求める。

玄関先で看護婦が応対している声を聞きつけた香取は、晶子に俺にブツを預けるんだ!俺を信用するか、臭い飯を食うのか?釈放されたら、その日の午後1時、浜離宮で落ち合おうと部屋の中で迫るが、晶子は服を着ると黙って玄関口に向かう。

部屋の奥に逃げようとしていた香取は、晶子が残した布に「メン」と口紅で走り書きが残されていることに気づき、壁にかかっていた石膏のマスクを外し、屋上から外に逃げ出すと、マスクを隠した後、何気なく今駆けつけた風を装い、玄関から病院内に上がり込み家宅捜査を始めた千葉刑事らや仁科に、今度は日東に先を越されたらしいな…とうそぶくのだった。

しかし、病院内から警察に押収した石膏マスクからは何も出て来なかった。

それをじっと見ながら微笑む杉江晶子院長。

警察署の廊下で他社の記者たちと待っていた香取は、何気ない風を装い、先に帰ると言い出す。

一緒にいた仁科は、香取の行動を不審に感じ、そっと後をつける。

東京駅の八重洲口にやって来た香取は、ロッカーにマスクの入った袋をしまう。

その様子を近くから監視していた仁科は、今泉部長に電話で連絡。その今泉の元に、釈放ですよと言いながら記者が帰って来る。

マグノリア美容医院に、釈放された源辺愛子がやって来る。

一方、浜離宮で晶子を待っていた香取だが、周囲に怪しげな男たちが集まっていることに気づく。

姿を現したのは佐伯玲子で、新しい恋人は、ここには来られないことになっているわと香取に告げる。

マグノリア美容医院の自室ベッドの上で死んでいた晶子を見つけた千葉刑事は、こんな自殺があるか!と戸惑っていた。

玲子と一緒に車に乗せられた香取は、野球場から帰って来る寿美子を待つ場所に停まる。

玲子は、しょう坊と呼ぶ愚連隊の1人に、クラクションを鳴らしたら何をしても良いから捕まえておいでと命じ、しょう坊は車から降りると、寿美子を拉致し、自分たちの仲間の乗る別の車の中に引きずり込む。

セックスに飢えた今の愚連隊は何をするか分からないわよと後部座席に乗せた香取に脅しを入れた玲子だったが、香取は、タバコをくれないかとしらっとしているだけだった。

この取引は無駄だったようねといら立った玲子は、クラクションを鳴らし、愚連隊たちが乗った車は走りながら、寿美子の身体をもてあそび始める。

さすがに、兄として、妹が陵辱されるのに耐え切れなくなったのか、香取は条件を飲もうと言い出し、八重洲口だと玲子に伝えるが、その代わりボスに直接渡したい。劉宗明を知らないかと付け加える。

その後、八重洲口のロッカーから、石膏マスクを取り出そうとした男は、張っていた刑事に逮捕される。

男が床に落としたマスクが割れ、中からヤクの入った袋が見つかる。

千葉刑事等がロッカー周辺にやって来たのを見た玲子の仲間が、車で待っていた玲子に告げる。

その場にいた仁科は、寿美子が乗っている愚連隊の車が通り過ぎたのを発見する。

4人の愚連隊たちは、海辺のボートハウスにやって来ると、気絶した寿美子を下着姿にして、今にも襲いかかりそうな状況になる。

香取も痛めつけられていた。

3000万で妹を買い取ったと思えば良いわ。あなたは、非常を求めていると言ったわ。非常がどう言うものか知るが良い!と言った玲子は、ためらわず、海辺に立たした香取に向けて発砲し、香取は海に転落する。

玲子たちが車で逃走するのとすれ違う形で現場に、仁科や千葉刑事等を乗せた警察車両が到着する。

警官たちが残っていた愚連隊を逮捕している中、仁科はボートハウスに駆け込み、気絶していた寿美子を抱え出す。

銃弾が当たらなかったらしき香取は、海から這い上がって来るが、千葉刑事は、そんな香取に近づくと、あんたにも嫌疑がかかっているので、一旦逮捕しますと告げる。

香取は寿美子を抱いた仁科の前を一瞥もせずに通り過ぎようとするので、寿美ちゃんのマエを素通りするのか?と仁科は睨みつける。

千葉刑事は寿美子のことを心配するが、3日も静養すれば落ち着くでしょうと仁科は答える。

取調室で香取を前にした千葉刑事は、いままで色々協力してもらったこともあり、今回は釈放すると告げるが、八重洲で捕まえた男は?と香取が聞くと、舌を噛んで死んだと言うので、あんた等はいつもそうだ!と苛立たしげに吐き捨てた香取は警察を出て行く。

極東新聞に帰って来た香取は、もう「密航0ライン」を追うのは止めようと言い出した社会部長に対し、止めるというなら止めますが、ピリオドは俺に打たせてくれと頼む。

その後、寿美子が入信している病室にやって来た香取は、付き添っていた仁科に、どうして八重洲にサツを呼んだんだ?と問いつめる。俺は小石があれば転んでみる性格なんだ。今は東京は第2の香港になろうとしている。それを防ぎたいんだ!と力説するが、聞いていた仁科も、俺も記者だ!俺はお前のやり方を批判しているんだ!と反論する。

そんな仁科に香取は、切り札を握っているんだ。明日の朝刊見てくれと告げる。

香取は、その足で「新華貿易公社」と言う会社に来て、劉宗明!貴様と話があると迫ろうとするが、あっけなく、舎弟たちにぶちのめされ、階段の下の落ちる。

その無様な姿を上から見下ろす玲子は、暴力には勝てないわね…と冷笑すると、奥の部屋でパットの練習をしていた劉宗明に、手はず通り…と伝える。

佐伯は、逮捕された李に面会していた。

横浜へやって来た仁科と寿美子は、張随昌がもう5日間も行方不明になっていることを知る。

張が働いていたクリーニング屋の主人(小泉郁之助)の話では、週間極東のグラビアの中に父を見つけたと言っていたという。

仁科はすぐさま社に戻ると今泉部長に報告。

そのグラビア写真には、マグノリア美容医院の院長杉江晶子も写っていることを発見するが、他の記者の取材で、彼女はその日、日本にいたことになっていることが判明する。

仁科は密航だと気づく。

島村は、グラビアに写っている張の父親と言うのは、クーリー(苦役)のようで、偶然写ったようだと言う。

仁科は今泉部長に、自分にやらせてくれ。密航、密輸ラインを自分は合法的に暴きたい。考えがあると申し出る。

雨で野球が中止になった野球場にやって来た仁科は、放送室にいる寿美子の姿を遠目で確認すると、自分が思っているより彼女はずっとしっかりしていると確信する。

その後、仁科は、新潟、柏崎、直江津、敦賀などを周り、密航できる船の情報を密かに探し始める。

新聞には、極東の香取が行方不明か?と言う記事が載っていた。

仁科は、外国人船員などにも近づき、情報を得ようとするが、何も収穫はなかった。

そんなある日、仁科は、浦浜にあるバー「小鳩」と言う一件の飲み屋に入ってみる。

すると、一人のホステス雪子(初井言栄)が近づいて来て、2階で付き合ってよと誘う。

しかし、そこへ警官が飲みに入って来たので、思わず、仁科が目をそらすと、警官が帰ったあと、2階に案内した雪子は、あんた、何かやったのね?と言いながら布団を敷く。

日本の女と遊ぶ気はしないと仁科が答えると、あんた、密航者ね?いつ帰って来たの?と雪子が言うではないか。

脈を感じた仁科は、女の子に振られて香港に密航したいんだと嘘をつく。

すると、雪子は、世話をしても良い、前のこの店にいた子が知っていると言い出す。

ふすまに貼ってあった写真の1人がその子だと言うので、その写真を剥いだ仁科は、礼を言って帰ろうとする。

雪子は、そんな仁科にキスをねだる振りをして抱きつくと、ポケットに入れていた女の写真を素早く抜き取ってしまう。

階段を降りた所で、写真がなくなっていることに気づいた仁科は、又2階に戻ると、雪子は、本当に行くのね?口利き料1万円と請求して来る。

名前を聞かれた仁科は、台湾生まれの神戸育ち、周鳳来と偽名を使い、中国語はしゃべれないんだと教える。

雪子は、店のボーイに耳打ちし、ボーイは、とある船員、楊金東(嵯峨善兵)に話を繋ぐ。

船の手配が出来たと知った仁科は、雪子に金を渡し名を聞く。

雪子と教えたホステスだが、本名じゃないわと付け加える。

仁科が店を去った後、雪子は2階で1人寂しげに酒を飲むのだった。

日東新聞浦浜支局の支局員(雪丘恵介)は、突然、現れた風来坊風の仁科からの依頼に驚くが、本社に電話をして、間もなく、今泉部長が飛行機でこちらに来ると伝える。

セスナで飛んで来た今泉部長は、用意して来たパスポートと寿美子から預かって来た下着を仁科に手渡す。

今泉部長は、尾行して、船の名前だけでも確認させてくれないかと頼むが、仁科は無理でしょうと答える。

諦めた今泉部長は、香港支局と連絡して手配しよう。十分気をつけてくれと、人目をはばかって距離をおいた所に座っている仁科に声をかけると、パスポートを持って密航する男か…。その内、笑い話にしたいものだとつぶやく。

その夜、海員ホテルに泊まった仁科は、靴のかかとに無線を仕込み、パスポートは、左手の二の腕にテープで貼付けるのだった。

そして、最後に灰皿に、肌身に離さず持っていた寿美子の写真を置くと、ライターで火を付け燃やし、俺は今日から、中国人、周鳳来なんだと自らに言い聞かせる。

その夜、指定された場所で楊金東に会った仁科は、身体検査用に着替えろと衣装を渡される。

仁科は、左腕に貼付けたパスポートに気づかれないかと用心しながら着替える。

船の名を聞こうとしても、楊金東は答えず、乗る船は正規の貨客船であることだけを打ち明け、あなたが乗ることは船長も高級船員たちも知らない。今後は一切言葉をしゃべってはいけないと約束させる。

その後、車に乗った2人は船に向かい、途中、検問所に到着する。

あらかじめ、楊が酒を飲ませ、酔った振りをしておけと命じていたので、泥酔した演技をする仁科に、検問所監視員(宮原徳平)は何も聞こうとしなかった。

港に停泊中の船の名は、「ELIAS号」と記されていた。

タラップを登ろうとした2人の前に、今度は、2人の税関員(杉幸彦、相原巨典)が立ちはだかり、酔った演技をする仁科の身体検査を始める。

あらかじめ中に着込んでおいた女物の下着の効果もあり、税関員たちの検査はおざなりで、仁科はパスポートにも靴に仕込んだ無線機にも気づかれず船に乗り込むことに成功する。

仁科が楊に連れて行かれたのは、船の下層部だった。

そこには、得体の知れない外国人労働者や、香港に売られて行く女たちがうごめいていた。

やがて、仁科は、王(野呂圭介)と名乗る男に引き合わされる。

どっかで見た顔だと気づいた仁科に、王は、北海道で自分が捕まったときの記事を自慢げに見せてくる。

奥に案内されていた仁科は、トムという大きな黒人脱走兵から、自分が持っている銃とヤクを交換しないかと持ちかけられる。

その直後、仁科は、その中に紛れ込んでいた張の姿を発見し、緊張する。

張の方も仁科に気づき、思わず名を呼びかけたので、それを聞いた王は、手前は何者なんだ?と仁科につかみかかって来る。

思わず、部屋を飛び出した仁科に、銃を突きつけたのは佐伯玲子だった。

あなたは香取と同じです。余計なことを知り過ぎたようねと玲子は迫る。

仁科は、玲子をはね飛ばして逃走する。

女たちが詰め込まれていた部屋に逃げ込んだ仁科を、一人の女が自分のベッドに入れて隠してくれる。

しかし、それは俺の女だと言う黒人がやって来て、ベッドに寝ていた仁科を追い出す。

仁科は、荷役夫たちに、砂利が詰まったブロックに落とされる。

気がつくと、同じ砂利の上にもう1人、先客がいるではないか!

それは行方不明になっていた香取で、電線の被服を破って、中の線をむき出しにし、それをボイラー管に接触させて火花を出し、モールス信号にして社に知らせようとしている所だったのだ。

この船は、香港、マカオ、マニラなどを回るらしいからな。俺は与えられた条件の中でやると言ったろと、香取はまだ記者根性を失っていないように言う。

しかし、仁科は、殺されるぞと香取を止めようとする。

香取は、殺されてたまるか!と逆上し、飛びかかって来た仁科と取っ組み合いの喧嘩になる。

香取を殴り倒した仁科は、衣服やその場にあった燃えるものをかき集めると、火花で火をつける。

煙は上の層へ登って行き、気づいた外国人たちが砂利の上に降りて来る。

火災報知器が鳴り響く中、砂利のブロックでは、降りて来た外国人荷役夫と仁科と香取が殴り合う。

ベル音に気づき、自室でベッドに寝ていた玲子も起き出して来る。

そんな貨客船に千葉刑事等が乗り込んで来るのを玲子は発見する。

香取は、そんな玲子の部屋に逃げ込んで来ると、逃げるんだと誘う。

千葉刑事等と合流した仁科は、玲子を逮捕してくれと依頼する。

香取は、女たちが詰め込まれた一室に玲子を連れて来ると、劉宗明との関係を言えと迫る。

その部屋にいた明らかにヤク中毒になった女は、私、騙されたとつぶやく。

お前もこうなりたいのか!と香取が脅すと、密航0ラインのこと全部話すわと玲子は口を開き、劉宗明は私の父なのよ。あなたに父の確証握れる?と言う。

そして、私はこのチャンスを待っていたのよ。あなたが特ダネと掴んだ時を…。あなたは黙って私を逃がすはずないでしょう?…と言うと、玲子は香取に向け隠し持っていた銃を発砲する。

撃たれた香取は飛び退き、その場を逃げ去る。

船底部では、乗り込んで来た警官たちに張随昌も捕まっていた。

船の外に出て来た香取と仁科が互いに見つめ合う。

その時、一人の男を後部座席に乗せた車が2人の横を通り過ぎて行く。

その車の後部座席を見つめる玲子を捕まえ、千葉刑事は警察車両に乗せてながら、モールス信号には驚きましたよと仁科に話しかける。

靴のかかとに偲ばせた通信機を使ってモールス信号を警察に発信したのは仁科だったのだ。

そんな仁科に、良く密航する気になったなと話しかける香取。

だが、仁科は、俺はパスポート持っているぞと言いながら、二の腕から剥がしたパスポートを差し出してみせ、今度こそ身にしみただろうと香取に告げる。

しかし、香取は、良いことを教えてやろうか?今、すれ違ったのが劉宗明だ。暗黒社会の黒幕だと教えると、お前はお前のやり方で、俺は俺のやり方でやると言い残し、香取はその場を去る。

その左足は、先ほど、玲子が撃った弾が貫通して出血していたが、香取は痛みを我慢して歩き続ける。

その時、社の記者が寿美子を乗せた車が港に到着する。

車から降りた恵美子は仁科に合流すると、一緒に遠ざかって行く兄の後ろ姿を見つめる。

香取は、途中、耐えきれなくなり身体が傾きかけるが、又、姿勢を正して雨の中を歩き続けるのだった。