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金色夜叉('37)

「熱海の海岸散歩する〜♩」と言う歌や、お宮を足蹴にしている貫一の像などでも有名な「金色夜叉」の映画化である。

ただし、この映画に、有名なその曲は登場しない。

原作を読んだ事がないので、この作品がどう原作と違うのか判断できないが、ダイヤに目がくらんで別れる事になったとされるお宮と貫一の悲恋の大ざっぱなお話は推測できるような気がする。

今の感覚でこの作品を観る限り、頭の悪い人物しか出て来ない、いかにも古色蒼然とした通俗メロドラマと言った印象である。

女にふられて逆上し、理性を失って復讐を誓う間貫一は、どう観ても頭が悪い学生である。

一方、家の窮地を救うためと言う言い訳の元に、唯々諾々と政略結婚に身をゆだねるお宮も、決して頭が良い女とは思えない。

主人公であるはずのこの2人のどちらにも、心底感情移入できないのがこの作品の辛い所である。

そこに、粘着気質の野心家風妾、赤樫満枝とお坊ちゃんの富山と言う、さらに2人の頭の悪い小者が絡み、話をどんどん通俗にして行く。

一応戦前の松竹作品なので、女性ターゲットの映画として作ってあるように思えるので、どちらかと言えば、お宮の方がメインの主人公なのだろうが、当時の女性客たちは素直にこのお宮に感情移入出来たのだろうか?

お宮が将来の経済の安定性を重視し、富山を夫に選んだのは、現実的な判断として理解できるにしても、その後の彼女の心の中が見えないのが落ち着かない所。

新婚旅行の旅先で、既に富山の妻として将来の幸福を予想している所からみると、もう完全に貫一との愛情は吹っ切ったと言う事だろう。

貫一の事をいつまでも気にし、会って色々詫びたいと言う気持ちは持っていると言うのは、もはや貫一への未練ではなく、自分の中にあるわだかまり(貫一を裏切ってしまった事への後味の悪さ)から開放されたいと言う「自分可愛さ」からだと思う。

そうしたお宮のずるさを見抜いた荒尾が、貫一に会って詫びれば、(あなたはすっきりするかもしれないが)、貫一を更なる失恋と絶望の深みに追いやると助言したのはそのためである。

しかし、お宮が最後に貫一に告げたのは、自分はずっとあなたの事を忘れなかったとのに、あなたの方は心底私を愛し抜いてくれなかったと言う恨み節と、自分は妊娠したので、これを愛情の証しとして、今後は富山に愛情を注いで行くと言う、貫一への決別宣言である。

貫一の復讐心が愚かなのは最初に書いた通りだが、それに対するお宮の心理の方も、自己中心的で浅薄な印象で、悲劇のヒロインにも見えない。

安定した生活を願った彼女に待ち構えているのは、結婚前あれほど嫌っていた、破産した夫と子供との貧しい生活である。

こちらも因果応報と言った感じで後味が悪い。

ラストは、誰一人勝利者がいない、愚かな4人が勢揃いした情けないシーンと言う事ではないだろうか。

学生を演じている笠智衆も頭が悪そうだし、理屈だけで父親を批判する息子役の佐野周二も頭が悪そうに見え、かろうじて、この時代から堂々たる風格がある佐分利信だけが一応、常識ある大人に見えるくらいであろうか?

戦後の小津作品などでは上品な奥様役が多い三宅邦子が、この時代は嫌な女役が多かったと言うのも発見である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1937年、松竹大船、尾崎紅葉原作、源尊彦+中村能行脚色、清水宏監督作品。

雪が降る新年、箕輪家で行われた百人一首遊びで、一人お手つきばかりしているどんくさい男がいた。

富山銀行の息子、富山唯継(近衛敏明)であった。

今日は、この屋の娘、箕輪俊子(高峰三枝子)が富山に、自分の友人である鴫沢宮(川崎弘子)を紹介する機会として設けた会だった。

そのお宮は、富山の隣で百人一首を見つめていた。

会が終わった後、俊子の両親(石山隆嗣、岡村文子)は、富山さんは宮さんを気に入ったようだと話し合う。

宮は富山の車で自宅まで送ってもらっていた。

富山は、自分も宮と同じ上野方面に住んでおり、昔から宮の事を見かけていたが、いつも高等学校の人と一緒なので…と言うので、宮は、あの人は子供の頃から一緒に住んでいる、兄みたいな人なんですと説明する。

やがて、宮は、自宅近くで立っていたその学生を見つけ、車を停めてもらうとここで降りると言う。

富山の車が去ると、宮は、学生姿の間貫一(夏川大二郎)と並んで帰ることにする。

寒いと言う宮を、貫一は自分のマントの中に入れてやる。

すると宮は、酒の匂いがすると言うので、貫一は、新年会で飲まされたのだと告白する。

みんなが、僕と宮さんの事を祝福してさ…と、級友たちの事を話していた貫一だったが、その時、背後から、その悪友たちが雪玉をぶつけて来たので、慌てた2人は自宅の門に逃げ込む。

家に入った宮は、匪族に襲われたみたいだったと冗談を言い、2人は炬燵に入って互いに手を握りしめるのだった。

荒尾譲介(佐分利信)や風早庫之助(笠智衆)と言った貫一の級友たちは、間と宮の関係を祝う寄せ書きを、毎日のように絵はがきに書いては貫一に送っていた。

そんなある日、貫一が帰宅すると宮の姿がない。

女中が言うには、熱海に旅行に行ったと言う。

一人で碁を打っていた宮の父親(武田秀郎)は、実は宮に急に縁談の話が持ち上がり、富山と言う相手の別荘に、風邪の病気療養を兼ね、宮は出かけたのだと説明する。

なかなか金持ちらしいよと言う父親に、思わず詰め寄った貫一だったが、父親は何も気づかず、碁を一緒にやろうと誘う。

熱海に向かい、宮と会った貫一は、2人で海岸縁を歩きながら、富山との結婚を承知したのか確認するが、宮は、貫一さんがこれから大学へ入り卒業するまで3、4年かかる。例え、大学を卒業しても、今の御時世、就職できるかどうかも分からず、そんなあなたが一人前になるまで待っているのが本当かもしれないけど、今回、うちの事情も分かり、いつまでもわがまま娘ではいられないのだ。父は、貫一さんの事を、恩人の息子だから、大学まで面倒みなければいけないと言っているけど…と説明する。

それを聞いた貫一は、宮の実家がそんなに切迫している事に驚きながら、だったら自分は大学進学をを止める。明日から、僕たち2人が食べて行けるくらいの金を稼ぐよと言うが、宮は、年老いた両親のためにも、そんな生活はしたくないのだとはっきり答える。

貫一は、愛情と財産を計りにかけても、幸せになれるもんでもないよと説得しようとするが、宮が、私が富山さんと一緒になるとしたら、貫一さん、どうする?と聞いて来たので、思わずその頬を叩き、来年の今月今夜、再来年の今月今夜、僕は一生、今月今夜を忘れんぞ!一生恨んでやる!と言い残して去って行く。

やがて、宮は田宮と結婚し、旅先から母親に、私、きっと幸せだと思いますと、絵はがきをしたためていた。

その文末に、貫一の事を書きかけた宮だったが、疲れて先に布団で寝ていた富山から、もう昔の男の事は忘れなさいと言われたので、その文字を消すのだった。

「金融業 鰐渕直行邸」

そろばんを弾いていた鰐渕直行(上山草人)は、息子の直道(佐野周二)から、世間からあれこれ悪口を言われる高利貸しの仕事なんか辞めて下さいと説得されていたが、本ばかり読んでいるお前には分からんだろうが、わしは高利を低利などと噓を言って商売をしているのではない。嫌なら始めから借りなければ良いのだと反論する。

その後、直行は、妾として自宅に住まわせている赤樫満枝(三宅邦子)が、最近、入社した間貫一に色目を使い、化粧も念入りになって来たので、部屋に注意しに行く。

貫一に取られそうに思っている直行は、お前を愛していると言葉をかけるが、満枝は、気持ち悪い!と言うだけだった。

後日、貫一を誘って料亭に来た満枝は、いずれ独立するんでしょう?と貫一に確認すると、その時は個人的にご用立てさせていただきたいと申し出たので、僕の独立とあなたのご用立てとどう言う関係があるんですか?と貫一は不思議がる。

満枝は、もう鰐渕の世話になりたくないのだと意味ありげな目線を送って来るが、貫一は、自分はもう、人間全部が分からない。頼りにならないのは人の心です。資本は興味あるが、あなたと言う人間には興味がないときっぱり言い切る。

満枝は、お約束でもした方がいらっしゃるの?と問いかけ、貫一の態度から相手がいる事を察すると、私はどこまでも粘るわよと微笑む。

貫一は、その人は自分と金を計りにかけ、金を選んだんです。自分はその人に金を叩き付けてやりたいんです!と言い残すとさっさと帰って行く。

ある日、飽浦家にやって来た貫一は、保証人になっているその家の女主人から金を催促していた。

女主人は、利子はきちんと返しているではないかと抗議するが、即刻全額返していただかないときは、最後の手段をとりますと貫一は冷たく言い放つ。

最後の手段と言うと?と問いかける女主人に、貫一は差し押さえですと言い切る。

驚いた女主人は、奥にいた息子の雅之(豊田満)を呼ぶ。

部屋に現れた雅之は、かつて親友だった貫一が借金取りになっているのを観て驚愕する。

遊びに来ていた風早庫之助も姿を見せ、浅ましい姿になった貫一を観て、君の性質で良くこんな商売が出来るねと皮肉る。

貫一は、真人間に出来る技じゃありませんよ。私は学校を辞めると共に人間も辞めて、この商売になったんですと答える。

何とか特別な計らいをしてもらいたいねと頼む雅之に、私は鰐渕の手代なので、特別な計らいなど出来るでしょうか?では、差し押さえしてよろしいですねと貫一は答え立ち上がろうとしたので、風早は、投げ飛ばしてやろうとほど憎い奴でも、白線の入った帽子をかぶって、かつてストーブの前で膝を並べでいたときの自分を思い出す。

証文1枚を鼻にかけ、俺たちを侮辱した今のお前を荒尾が観たらどんなに嘆く事か!と言い、つかみかかる。

しかし、突き飛ばされた貫一は、あまり事を荒立てない方がそちらのおためですよと言い残して帰って行く。

その後、飽浦らから話を聞いた荒尾譲介は、俺には信じられん.あの男が金貸しの手代になるとは…と考え込み、鰐渕邸に乗り込むと、応対に出て来た貫一に、俺とお前が親友なら、なぜ学校を辞める時説明してくれなかったのだ?君の恋人は君を裏切ったかもしれないが、親友は裏切らんぞ。金の亡者になるとは…と言いながら泣き出し、それを黙って聞いていた貫一の方も涙する。

それを観た荒尾は、貴様には涙があるのか?と聞くが、貫一が、俺には涙なんかないんだと答えると、では絶交だ!と言い残し、荒尾と同行の級友たちは、貫一を殴りつけて帰って行く。

その後、大学のボート部にいた荒尾に会いに来たのは宮だった。

用件を尋ねると、貫一の消息を知らないか?会って色々話がしたいと言うので、この前会って、殴ってやった。あいつは親友を裏切って、高利貸しになったのですと荒尾は教える。

しかし、こうしてあなたに会うと憎めないような気がする。会うのも良いでしょう。詫びるのも良いでしょう。しかしそれは間をもっと深みに落とすようなものです。あなたは富山夫人ではないですか。ご主人を大切にしておあげなさいと荒尾は宮に言い聞かすのだった。

そんなある日、富山は、かねてより顔なじみだった満枝を料亭に呼び出すと、」君は結婚の経験はあるかね?と聞く。

満枝が、ないけど、男女間の事なら大抵の事は分かるつもりよと答えると、妻が前に付き合っていた男と会いたがっているのをどう思うかね?と聞いて来る。

自分では金を持っていると思っていたつもりだが、親父が死んでみると財産もそうでもない事に気づき、しかも手を出した株も失敗した。妻は富山銀行と結婚したんだ。何とか出来んか?と富山はすがって来る。

自分にそれだけの力はないと言いながらも、会社に電話をした満枝は貫一を呼び出し、良いカモが見つかったけど、私には荷が重い。相手は富山銀行のお坊ちゃんよと教える。

富山の名前を聞いた貫一は驚き、すぐにそちらに向かうと伝える。

料亭に到着した貫一は、富山に対面すると無表情に名乗り、どのくらい必要なのかと事務的に尋ねる。

富山が、割り箸に水をつけて机の上に数字を書くと、すぐに分かりましたと頷いた貫一は、機嫌だけは守って下さいと念を押し小切手を切る。

富山は貫一の顔を知っていたので、期限に返せなければ女房を寄越せと言うんだね?と勝手に納得する。

満枝は、貫一と一緒に帰る道すがら、恋敵にお金を貸すって良い気持ちでしょう?溜飲下がったでしょう?差し押さえで奥さん奪わないと…とからかうように聞いて来るが、貫一はうるさいよ!と叱りつけるので、満枝は気が進まないの?と尋ねる。

そんな事は何も知らない宮は、友達の俊子が丸髷にして自宅に来たので、それを褒めながら、自分の方の新婚生活も巧くいっていると話していた。

俊子は、貫一の事を聞くが、宮がその事を話したがらないので、知らなかったとは言え、自分が富山さんを紹介したので気がとがめると言う。

その晩、帰宅して来た富山は、今日、間君に会った。会いたければ会わせて良い。君が僕の妻だって事をはっきりさせてやりたいんだと宮に伝える。

その後、銀行で電話をしていた富山は、訪ねて来た満枝に、景気が思わしくない。相当切羽詰まっているので、もう少し何とか出来ないだろうか?銀行の方がどうなるか分からないんだと頼み込んで来る。

会社に戻って来た満枝は、貫一が、丸髷姿の美人と出かけたと聞き、すぐに富山の戻っていた自宅に電話を入れると、今、奥さんはいるか?と尋ねる。

いないのね?知らぬは亭主ばかりか…などと意味ありげな事を言うので、富山は、僕は女房には自信があると返事をすると、あなたがお可哀想だからちょっと電話したのと言うなり、満枝は電話を切ってしまう。

貫一が歩いていた丸髷の美人とは俊子だった。

俊子は、一度、宮に会って、許すと言ってくれと頼んでいたのだった。

宮さんを許してくれないと、私の気持ちがすまないんですと言う俊子に対し、貫一は、僕は人間の気持ちなんて考えたくありませんと、冷たく言い返すだけだった。

その後、富山は、帰宅して来た宮が化粧室にいると女中から聞くと、すぐに部屋に向かい、ちょっと待ってくれと頼む妻の言葉を無視して、強引に部屋の中に入り込む。

宮は、丸髷を結っていた。

どこに行っていたのかと富山が聞くと、宮は正直に美容院へ行って来たと答えるが、貫一と会っていたと思い込んでいた富山は、そんな言葉を信用せず、おめかしして誰に見せる?と言うなり、妻をその場に突き飛ばしてしまう。

俺の顔に泥を塗ったな!出て行ってくれ!といきり立つ夫の態度の理由が分からない宮は狼狽しながらも理由を聞く。

富山は、なぜ間に会った?君が出て行かないなら、僕が出て行こう。僕はもうお前を愛する資格がないんだ。俺はもう無一文なんだ。金で君を愛する事が出来なくなったんだ。だから、君が愛する男と歩いたからと言って、怒鳴る権利はないんだと泣き出し、制止する宮を振り切るように家を出て行ってしまう。

一方、鰐渕直行は、急に赤樫満枝から、自由になりたいので暇を頂きたいと申し出られ困惑していた。

自由になりたいと言うが、これまで、わしは君に自由にさせて来たではないか?と説得する。

しかし、満枝は、間さんにもっと粘りたいと言うので、これまでずいぶん可愛がって来たじゃないかと
鰐渕は翻意を促すが、満枝は又、気持ち悪いと拒絶するだけだった。

そこに、貫一が戻って来たので、満枝は、昨日どこへ行ってたの?きれいな奥さんと会ってたんでしょうと皮肉り、私、ここを出て行くわと伝える。

貫一は、その方が僕も気が楽になる。君は自分で筋書きを書いて芝居をしてるんだと笑う。

すると、満枝は悔しそうに、これからもうんとお芝居してやるわ!と言い返す。

富山銀行にやって来た満枝は、重役たちから、富山の居場所を知らないかと聞かれ当惑する。

満枝が知らないと答えると、再び富山の自宅に電話を入れてみた重役だったが、女中の返事はまだ戻ってないと言うものだった。

実家に戻っていた宮は、お前に家の事を任せた自分が悪かったのだと反省する父親に、富山はきっと帰ってくるわと言うのだった。

あちこちの心当たりに電話をしまくった満枝は、最後に馴染みの料亭へやって来る。

すると、案の定、そこに富山はいた。

もう高飛びする元気もないと富山はしょげていた。

一方、富山家に戻っていた宮は、客の名刺を女中から受け取り驚いていた。

そこには、間貫一と書いてあったからであった。

応接室で会った宮は、他人行儀に名乗る貫一に対し、自分も同じように富山の家内ですと応じ、主人は出かけていると答える。

貫一は借用書を取り出すと、ご用立てしたものは今日が期限になっており、今日、ご返済いただかないと最後の手段をとらせていただきますと告げる。

初めて借金をしていた事実を知った宮は、富山が帰って来るまでお待ち願えないでしょうか?と懇願するが、今の間貫一には血も涙もございません。金が目当てに嫁いで来られた奥様の小遣いほどの金ではないですか?金庫には愛情を奪うほどの金が入っているはずじゃないですか?このくらいの金なら、間貫一がくれてやりますと言いながら、貫一は借用書をその場で破って捨てる。

宮は、お金を叩き付けてあなたの気が晴れるのでしたら、私は喜んであの金を頂きます。それより、あなたは何故、私を愛してくれなかったのです?私はあなたとお別れしてから、一度として忘れた事なかった。私を許して下さい。富山を愛してやらなければいけないんです。生まれて来る子供のためにも…と告げる。

宮が既に妊っている事を知った貫一は、あなたが良いお母さんになるようお祈りしますと言い残して部屋を出る。

ちょうど玄関には、満枝に連れて来られた富山が帰って来ていた。

貫一は富山に、奥様を可愛がって下さいと告げ帰ろうとするが、満枝から結果は?と聞かれると、間貫一は日本一、否、世界一の大バカものでしたよと答えるだけだった。