「誰も知らない」の是枝裕和監督による新作。
今回も、大人の身勝手さの犠牲になり、離ればなれになってしまった兄弟を中心に、それぞれの級友たちや家族も交え、淡々とかつ生き生きと描かれて行く。
現実の事件をベースにし、やりきれないラストが待っていた前作とは違い、子供は子供なりに、大人は大人なりに、個性に応じたマイペースな生き方を貫いて行く姿は共感が持てる。
細かいユーモア表現も随所に挟まれており、じみなドラマ展開ながら飽きさせない。
龍之介の夢が、大きくなったら仮面ライダーになる事であり、その父を演じているオダギリジョーも元仮面ライダー役者だった事などを考えると、考え落ちになっているのかな?などとも想像してしまったりする。
ただ、福岡と鹿児島という、九州同士の都市を主な舞台にしているため、馴染みのない地方の人には、話の途中で場所の区別が付きにくくなったのではないかと言う懸念もある。
子供たちも何の紹介もなく登場して来るので、兄航一側の友達関係と、弟龍之介側の友達関係が途中でごっちゃに見えたりするのだ。
さらに、九州が舞台なのに、何故か、大阪弁の兄弟が登場すると言う辺りもちょっと分かりにくい。
子供たちが、過去、何度か引っ越しを経験しているという説明はセリフで語られており、大阪暮らしが長かったと言う事なのだろう。(九州出身者は、実はあまり関西圏には移動しないものなのだが…)
大人側の描き方も、決して子供の目線から観た反面教師的な描き方と言う訳ではなく、束縛のない自由な生き方を選んだ父健次にしても、自分なりの「かるかん」作りにこだわる周吉にしても説得力はある。
個人的には「かるかん」作りの部分に興味があり、子供の頃食べた事がある「かるかん饅頭(中にあんこが入っている)」と言うのは「かるかん」の本来の姿ではなく、より一般向けを狙って改良された製品だった事を知った。
確かに、あのあんこの外側の部分だけでは、スィーツが溢れている現代では受け入れにくいものだろう。
メインのキャストだけではなく、担任教師を演じる阿部寛、図書係を演じる長澤まさみ、保険の先生を演じる中村ゆり、山さんを演じる原田芳雄など、脇役陣も光っている。
川尻で偶然出会う老夫婦を演じているのが、りりいと高橋長英だった事は、作品を観ている最中には気づかなかったのだが、原田芳雄を含め、70年代当時の青春の旗手だった人たちが、今や老人を演じる年代になったんだな…と感慨深い部分もある。
「奇跡」と言うタイトルから、VFXを使ったファンタジーのようなものを連想する向きもあるかもしれないが、この作品に非現実的な展開はない。
ただし、白組によるVFXは一瞬登場する。(おそらく、桜島の絵が振動するアニメの部分)
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
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2011年、「奇跡」製作委員会、是枝裕和脚本+監督作品。 「ごちそうさまでした!」 食事を終えた小学生、大迫航一(前田航基)は、ベランダから見える桜島を眺めながら、積もった火山灰の掃除をし終えた後、10月分の給食費を母親ののぞみ(大塚寧々)から受け取り、学校へ出かける。 途中、友達の福元佑(たすく-林凌雅)と太田真(永吉星之介)に合流、一緒に登校するが、こちらに転校して来たばかりの航一は、桜島の土が甲子園の土に使われている事を祐から聞かされて驚きながらも、何で火山の近くに住んでいるのに、みんな平気なのか?と不思議がり、意味分からん!と文句を言うが、だったら、弟と一緒に福岡に残れば良かったのに…と祐から反論される。 タイトル 長い坂の上にある小学校に到着した航一は、又、意味分からん!と叫ぶが、その時、後ろからベルの音が近づき、図書室担当の三村幸知(長澤まさみ)先生が追い抜いて行く。 授業が始まり、担任の坂上守(阿部寛)先生は、「将来なりたい職業は?」と言う宿題に「エグザイル」と書いた生徒に、エグザイルは職業か?と質問していた。 その後、坂上先生は、「お父さんの仕事について」書いて来いと宿題を出すが、生徒の1人筒井は、大迫君にはお父さんがいません!と余計なお節介発言をする。 お父さんいないのか?と言う坂上の問いかけに、航一はちょっと恥ずかしそうに、いるけど…、今ちょっと別れていますと答える。 今回の宿題には、プライバシーの侵害だよねと反発したり、坂上なんてお母さんに言いつけて首にしてもらうからなどと大人びた発言をする女子もいた。 祐も、その坂上先生から残されて注意されていたので、将来なりたい職業になんて書いたんだ?と航一らが聞くと、「ヘラクレスオオカブト」と祐は答える。 坂上先生は航一に、お母さんの実家に戻って来ているんだったな?俺も父親がいなかったんだ。何かあったら相談しろよと声をかけてくれる。 洗面所で祐は、東京に戻りたくない?と航一に聞いてくるが、航一は、別に…。3度目だし、もう慣れているよと答える。 その頃、航一の弟、木南龍之介(前田旺志郎)は、父親の実家のあ福岡のプールで泳いでいた。 龍之介は、太陽の塔が事業仕分けされるかもしれないと、意味も分からず、磯邊蓮登(れんと-磯邊蓮登)ら友達と話し合っていた。 そんな龍之介は、鹿児島の航一から携帯がかかって来たので話をする。 福岡にいる龍之介は、プールからの帰り道、たこ焼きを買って帰るが、鹿児島にいる航一の方はバスに乗って帰宅する。 夕食後、すぐに席を立った航一が、相変わらず嫌いなキャベツを残しているのに気づいた母親ののぞみが、龍も嫌いだった…と龍之介のことを思い出したので、今頃、寂しくなっとるが…と祖母の秀子(樹木希林)が言うと、そうに決まっとる!とのぞみは、自らを納得させるようにつぶやくのだった。 その頃、龍之介は、一人、たこ焼きをおかずに夕食を食べていた。 その夜、兄の航一は夢を見た。 父と母、そして弟の龍之介と一緒に太陽の塔の下にピクニックへ行った時の夢だった。 何故か、太陽の塔の腕の部分が解体されて、工事関係者たちに運び去られようとしていた。 翌日、福岡では、龍之介が、庭に植えたトマトが熟したので、それをもいで食べていた。 その後、まだ家の中で寝ている父親、木南健次(オダギリジョー)を起こすが、ぼーっとしてギターを弾く健次の調子が出ないようなので、もう一回寝てみたら?と勧める。 龍之介は、自分で水筒に水を詰めると、学校へ行き、友達の帽子を借りると、校庭でトンボ捕りに夢中になる。 蓮登は、今日の給食が揚げパンだと教える。 一方、龍之介のクラスメイトである有吉恵美(内田伽羅)は、同じクラスでタレントの仕事をしている悠奈が芸能界の話を友達としているのを聞きながら憂鬱そうにしていたので、恵美ちゃんもついてないよね。同じクラスから2人も女優が出る訳ないものね…と早見かんな(橋本環奈)から慰められていた。 それを聞いていた龍之介は、ダウンタウンのハマちゃんとマッちゃんは、小学生時代からクラスメイトだと教えるが、お笑いは別よ…と恵美とかんなから軽くバカにされてしまう。 鹿児島では、のぞみの父親周吉(橋爪功)が、友人の山さんこと山本亘(原田芳雄)と、民間委託の駐車監視員として働いていた。 その日、山ちゃんが、相談があるんだ。今日、行って良いか?と周吉に聞いてくる。 その頃、航一は祐から、鹿児島から北上する列車「さくら」と博多から南下する「つばめ」は、共に時速260kmで走るの。この2つの一番列車がはじめてすれ違うとき、凄いエネルギーが生まれ、その時祈れば、願いが叶うんだと言う話を聞かされていた。 早速、図書室で、地図を調べ、2つの列車がすれ違うのは熊本県らしいと知るが、それに気づいた幸知先生が、熊本って美味しいわよ、馬刺…と教えてくれる。 真は、幸知先生の生足に見とれてしまう。 下校時、航一、祐、真の3人は、踏切で列車がすれ違うのを待っていたが、向こう側に立っていたはずのおばあちゃんが、列車がすれ違った直後、姿を消してしまったのを目撃、「タイムスリップ?」などと驚き合う。 航一は、さっきの祐の話を思い出し、(奇跡が)起こるかもしれんな…とつぶやいていた。 福岡では、ライブハウスの楽屋でギターを弾いていた父、健次に龍之介が、仕分けって何?と聞いていたが、ムダやから止めようって事やろ?と聞くと、父ちゃんも母ちゃんから同じ事言われとったなと返す。 しかし健次は、世の中の全部に意味あってみ?息苦しいやないか?と反論したので、龍之介はムダだけやあかんやろ…と正論で答える。 健次はそのままメンバーたちとステージに上がると、今回ハイデッカー(バンド名)に入った。15年振りにこの町でやるとは思わなかったと挨拶をし、ライブハウスの客たちから喝采を浴びる。 その夜、鹿児島の周吉の家には、山さんや商店街の西やん(田山涼成)らが集まってビールを飲んでいた。 奥の部屋では、秀子が、彼らがトイレをいつも汚すのをこぼしていた。 今日、山さんや西やんらが周吉に頼みに来たのは、九州新幹線が鹿児島まで延長されるので、それを記念した「かるかん」の新製品を作ってくれないかと言うものだった。 しかし、5年前に「かるかん」の店を畳んだ周吉としてはあまり乗り気にはなれなかった。 「かるかん」など、今の子供たちさえ食べなくなった、かつての郷土名物の菓子だったからだ。 航一は洗面所で、この酔った老人たちの話を聞きながら、意味分からんわ…とつぶやいていたが、そんな航一に、周吉が、ちょっと頼みがあると声をかけてくる。 翌日、航一は周吉と一緒に、町の菓子屋に「かるかん」を買いに行く。 どうやら、自分1人で買うのはバツが悪かったらしく、孫が食べたがったので…と言い訳するために航一を連れて来たらしい。 応対に出た店長は、周吉と馴染みの先代はもうめったに店に出ないと「かるかん」を買った周吉に教える。 帰り道、公園の観覧車に乗った周吉は、一緒に乗った航一にも1個渡し、自らも今買って来たばかりの「かるかん」を食べて、久々の味見をしてみる。 航一は、窓から見える桜島の方が気になり、何でこんな火山の近くに住むんやろ?と口にするが、それを聞いた周吉は、噴火ちゅうのは山が生きとる証拠や。じゃっどん(しかし)最近はここらもビルが増えた。今、大噴火が起きたら、この辺一帯全部引っ越しや。バッホ〜ンのゴゴゴゴじゃの…と答える。 その後、航一は福岡のプールに来ていた龍之介に電話をし、父ちゃん、好きな人でも出来てへんやろな?と確認する。 父ちゃんが再婚でもしてしまったら、もう2度と家族が元に戻る事はないと分かっていたからだった。 しかし、龍之介の方は、その日もあっけらかんと、プールから恵美とかんならと一緒に帰り、夜は、ハイデッカーの面々に恵美やかんなも交え、花火で遊ぶ龍之介はノリノリだった。 鹿児島にいる母のぞみは、同窓会に何着ていこうと秀子に話していた。 秀子は、そんなのぞみに、久保君来るの?焼け木杭に火がつくんじゃないの?とからかうが、それを聞いていた航一は、「焼け木杭」の意味が分からず聞いてくる。 そんな航一に秀子は、最近龍之介から電話あるか?と聞くが、龍之介は、ない!菜園作っているって…と答えるだけだった。 しかしそれを聞いた秀子は、菜園を作ってるってことは、1年後くらいの収穫を期待している事であり、健次は当分よりを戻す気がない事を知り、嫌だ、嫌だ…とこぼす。 自分の部屋に戻った航一は、桜島が大噴火する絵を描いてみる。 翌日、駐車監視員の仕事に出かけた周吉は、山さんに付き合って欲しい。たまった溶岩を外に出したいんだと頼むが、それを聞いた山さんは勘違いしたのか、天文館の裏に良い店ができたなどと答えるが、周吉が言うのは「かるかん」作りの事だった。 その頃、秀子は仲間と一緒にお菓子を食べており、のぞみはスーパーのレジを打つ仕事に就いていた。 周吉はその後、八百屋で長芋、その後、グラニュー糖を購入して家に帰る。 学校では、真が、将来イチローのような野球選手になりたい。イチローは朝、カレーを食べているそうだから、自分も真似をしているなどと話していた。 祐は、図書の幸知先生と結婚したいなどと願いを語るが、真から年が違いすぎるだろうと突っ込まれると、ペタジーニって同級生のお母さんと結婚したんやと航一がフォローしてやる。 その幸一の願いは、桜島がドド〜ン!と大噴火する事だと説明すると、そうなったら僕たちも死んでしまうじゃないかと突っ込まれてしまう。 その頃、福岡の龍之介は、母親、有吉恭子(夏川結衣)がスナックをやっている恵美の家に遊びに行っていた。 一緒に付いてきた蓮登は、奇跡、本当に起きるの?と龍之介に聞く。 龍之介は航一からの電話で奇跡の事を聞いており、それを友達にも話していたのだった。 蓮登は、もし願いが叶うのなら、ベイブレードを改良して、世界一強いブレーダーになりたいなどと子供っぽい夢を語る。 かんなは、恵美ちゃん、祐奈ちゃんに負けたくないんでしょう?恵美の母さんも昔、女優だったんだって?どうして辞めたのと聞く。 恵美は、うちが生まれたから…?と答えるしかなかった。 龍之介は、大きくなったら仮面ライダーになりたいと言う事と、スーパーカーに乗りたいと夢を語りながらも、兄ちゃんは、4人みんなで暮らせると願っているらしいけど、自分はそんなには思っていないと正直に打ち明ける。 その夜、龍之介は夢を見た。 4人で一緒に暮らしていた時、夕食時、仕事を辞めたと伝えた父、健次に対し、母のぞみが食って掛かり、喧嘩になった時の夢だった。 龍之介は、あんな暮らしは嫌だったのだ。 翌日、周吉は航一に手伝わせ、長芋を擦り降ろし、グラニュー糖を加えたものをせいろに入れ、蒸し上げていた。 蒸し上がるまでの間、周吉は指を嘗めてかざし、風向きをみると、今日は積もらんな…と火山灰予想をする。 蒸し上がった「かるかん」を切り分け、1片を航一に食わせて感想を聞いた周吉だったが、航一の意見は、甘いっていうか…ぼんやり?…うっすら?…と言う曖昧なものだったので、それを言うなら「ほんのり」じゃろがと周吉は訂正する。 その夜、家に集まって来た山さんらにも「かるかん」を試食させてみるが、山さんの感想は「昔と違うな」と言うものだった。 周吉は、今回は特別にグラニュー糖を用い、甘みをシャープにしてみたのだと工夫を説明するが、西やんらにはピンと来なかったようで、新幹線「さくら」をイメージするような…、餡や外側をピンクにしてみたらどうか?などと提案してくる。 しかし、それを聞いた周吉は、そんならこの話はお終いじゃと言ったきり奥へ引き込んでしまう。 奥の部屋にいた秀子は、ピンク色にするくらいしてやったら?どの世界に、自分の好きな物だけ作っている人がいるの?と現実的な話をして説得しようと試みるが、周吉は和菓子の祖神と言われる田道間守さんが大事だと言うだけだった。 その夜、航一は、福岡に入る父、健次に電話を入れ、よりを戻すんやったら急いだ方がええと説得するが、健次の方が、そんな事できるかい?その内分かるようになるよ…などと気のない返事しかしないので、その内っていつなんや?と切れてしまう。 翌日、山さんは周吉に、残念やったな「かるかん」…、でも、あそこでピンクの「かるかん」作ったら周ちゃんじゃないよと慰めていた。 周吉も、まだ大丈夫だな、俺たち…、ぞくぞくっとしたから…とつぶやく。 その頃、校庭の掃除をしていた航一は、祐たちが、奇跡を起こす旅の計画を辞めると言い出したので驚く。 どうせ奇跡なんて起きないと言うのだった。 真も、イチローは今、カレーじゃなくてうどんらしいし…などと関係ない話をする。 その日、福岡の龍之介に電話して、奇跡旅行が中止になりそうだと伝えた航一だったが、龍之介から冷静に、良かったやん。兄ちゃんの願いって勝手やさかい…と指摘されてしまう。 それでも航一は、母ちゃん、働き始めたからピンチなんや。その母ちゃんも言っとったけど、龍之介は小さい頃から父ちゃんにそっくりなんやと必死に訴える。 その電話の内容を龍之介から聞いたかんなは、家族だって会わなきゃ、その内忘れちゃうよ…とつぶやく。 航一は、その日もバスで1人帰宅する。 真は夜の公園で、1人バットの素振りをしていた。 福岡では、龍之介の家の庭先でハイデッカーのメンバーがお気楽に楽器を弾き、その様子を、江の得意なかんなが描いていた。 恵美は、CMの撮影で地元のスタジオの洗面所で懸命に歌の練習していたが、そこにやって来た級友の悠奈と出会う。 悠奈は大きなバナナのかぶり物をかぶっており、それを嫌がっていたが、恵美はそんな悠奈がうらやましかった。 なぜなら、本番での悠奈はメインで、恵美は、その後ろで歌って踊るバックダンサーでしかなかったからだ。 龍之介は、縁側で1人マンガを読んで笑い転げていた。 一方、鹿児島で、父親と妹と一緒に外出していた祐は、いつものように父親が1人でパチンコ屋に入ってしまったので、仕方なく、寂しげに幼い妹の手を引いて帰るしかなかった。 真は、ペット犬マーブルを散歩に連れて行こうとしていたが、マーブルはもう年老いて歩きたがらなかったので、仕方なく抱いてやるのだった。 龍之介は、その後も、プールで楽しんでいた。 鹿児島での久々の同窓会から酔って帰って来ていたのぞみは、途中で、小さなアヒルの玩具を購入し、路面電車で帰宅するが、その夜、寂しさのあまり、福岡の龍之介に電話をしてみるのだった。 のぞみは、龍之介がなかなか連絡して来ないので母ちゃんに会いたくないの?と皮肉っぽく聞いてみるが、龍之介は、僕、父ちゃんに似ているから、母ちゃん、あんまり僕の事好きじゃないんかな〜と思ってと答えると、そんな訳ないじゃん!と泣き出してしまう。 龍之介は、空豆の種を植えたなどという話をし出し、母ちゃんが作ってくれた豆ご飯好きやで…とフォローする。 電話を酔ったのぞみから強引に奪い取った秀子は、龍之介、離れとっても血は繋がっている。今度、かりんとうとボンタン飴送ってやると伝えて電話を切る。 翌日、学校で、クラスメイトの筒井が、知りあいから新幹線の一番列車の切符をもらったと自慢していた。 航一は歯磨きしながら、やっぱり熊本へ行こう!と祐と真に話しかける。 図書館に本を借りに行った真は、中庭に落ちていたと言い、幸知先生の自転車のベルを手渡し感謝されるが、一緒に付いて行った航一は、何で近松門左衛門なんて借りたん?と真に尋ねる。 航一たちの奇跡旅行計画は復活し、旅費は3人で12240円かかる事、一番列車同士がすれ違うのは、朝の6時40分頃だなどと調べて行く。 それから3人は、自動販売機の返却口や下の空間を探しまわり、落ちていた10円玉などを拾い集める。 真は、持っているウルトラマンなどの人形を売ろうと提案する。 その後、古本屋に本を売りに行った3人だったが、親の承諾書が必要だと店員に言われ、これは難しいと悟る。 3人は、旅行に行くには、2時間目の授業中に早退する必要があると気づく。 その日、「がちゃぽん屋」と言う店にウルトラ怪獣を売りに行ってみると、ミクラスとシーボーズが5000円づつで売れる。 やがて3人は、2両の列車がすれ違う地点は「川尻」という場所らしいと言う事まで突き止める。 しかし、まだ資金が全然足りていなかった。 航一は、自分の持っていた給食費を全額加える。 その資金で、3人は、川尻までの往復切符を購入する。 その夜、航一に福岡の龍之介から電話があり、自分も熊本へ行って良い?と言う頼みだった。 1人より2人の方が願い叶うんちゃうかな?と思って…などと龍之介はしゃべるが、それは、かんなや恵美が持っていたカンペを読んでいるだけだった。 龍之介の電話は、恵美の部屋からかけていた。 そんな事を知らない航一は、素直に半年ぶりやなと喜ぶ。 龍之介は、僕、キャベツを食べられるようになったねん。プールで25m泳げるようになったんやなどと自慢するので、バタフライは?と航一が突っ込むと、それはまだやと言うので、会ったとき教えたるわと航一は嬉しそうに伝えるのだった。 その夜、自宅に帰って来た健次に座るよう指示した龍之介は、自分はこれまで色んな事を我慢して来た。今度は父ちゃんも我慢せな…といきなり言い出す。 意味が分からず面食らう健次に、父ちゃん、子供手当もらっているやろ?その半分くれんかな?新しいギターは来月まで我慢!と一方的に命令する。 一方、恵美は母親の恭子の側に来ると、東京にオーディションで行くと伝える。 しかし、恭子は、町でスカウトされたくらいで何を言っているの?本気?と聞き返すが、恵美は本気と答える。 あんたのようなお人好しは無理。悠奈ちゃんを蹴落としても勝つくらいの気持ちじゃないと、女優は成功しないのよと説得するが、恵美は「あるもん…」とつぶやく。 鹿児島では、家の前で周吉が何事かを考えていたが、そこに帰って来た航一が頼み事があると言い出す。 翌日の2時間目の授業中、航一は、谷川俊太郎の「生きる」と言う詩を朗読していたが、その途中で、急に気分が悪くなったように座り込む。 坂上先生は、貧血か?朝飯をきちんと食べていないんだろう?等と言いながらも、保健室へ行くように指示する。 ところが、相次いで同じように、祐と真も机に突っ伏してしまう。 保健室にそろった3人は、これじゃ絶対バレるよ…と案ずるが、保険室の青木先生(中村ゆり)は、今日は何の計画をしているの?先生も昔、学校をさぼってミスチルを観に行った事がある。体温計なんてこうすれば上がるわよと物わかりの良い事を言ってくれ、脇の下でこする真似をしてみせる。 助かったと喜んだ3人だったが、坂上先生が様子を見に来て、少し熱があるようです。今、家に連絡しようとしていた所ですと説明する青木先生を無視して、体温計なんてこうすれば上がると、脇の下でこする真似をしてみせる。 もはやこれまで…と諦めかけた3人だったが、そこに周吉がご迷惑をおかけしますと言いながらやってくる。 昨日、航一が頼んでおいたのだが、周吉がちょっと学校に来るのが早過ぎたのだった。 それでも、3人は無事、学校を早退する事が出来る。 3人は校庭まで一緒に付いて来た周吉に礼を言うと、走って帰宅する。 航一は、壁に飾っていた「桜島噴火の絵」をはいで持って行く事にする。 写真立ての中に入っている龍之介と一緒に写った昔の写真を観ながら、航一は洋服を着替える。 秀子は、周吉が作ったという「普通のかるかん」を、出かける航一に渡す。 祐と合流し、遅れて来た真を待っていたが、大きなリュックを抱えてやって来た真は、マーブルが死んだと言い出す。 リュックの中にマーブルの死体を入れて持ってきたのだった。 真は、プロ野球選手になるのは諦めた。マーブルを生き返らせたいんだと真剣に言うので、それを聞いた航一と祐は、仕方なく承知する。 かくて3人は鹿児島駅に到着する。 その頃、福岡の龍之介も、かおる、蓮登、恵美を引き連れて博多駅にやって来ていた。 川尻行き列車に乗り込んだ航一は、隣のホームで、帰って来た父親らしき男性を嬉しそうに出迎える子供と母親という家族の様子を見かける。 しかし、いざ出発してみると、平行して走る新幹線の線路はみな高架で、下からは全く見えない事に気づく。 これでは新幹線をみる事が出来ず、願いがかけられない。 それでも、はしゃぎ疲れた子供たちは途中で寝入ってしまう。 ようやく目的地である「川尻駅」に到着すると、やはり新幹線の高架は高かったので、そう航一がつぶやいていると、勘違いした駅員(入江雅人)が、あれは雲仙普賢岳という山で、今から20年くらい前噴火して、50人くらいの人が亡くなったんだよと教えてくれる。 やがて、下りのホームに龍之介たちが降り立つ。 航一は、龍之介が1人で来たのではなかった事を知り、ちょっとがっくりするが、龍之介の方は、たくさんの方が楽しいやんとお気楽な発言。 航一は、新幹線見えたか?と苛立たしそうに龍之介に問いかける。 合流した子供たちは、新幹線が見える場所を探しに出歩くが、途中で、コスモスが咲いている場所を見つけたので、女の子たちを中心に寄り道してしまう。 それにいら立った航一は、皆を促して先を急ぐ。 龍之介は、今日、ここに泊まるん?と聞く。 誰も宿泊の事は考えていなかったのだ。 しかし、航一はそれを無視して、近くにあったスーパーの屋上からだったら見えるかもしれないと気づき、走り始める。 他の子供もそれに釣られて走り出すが、1人、蓮登だけは走るのが苦手で、遅れて付いて行く途中、持っていたリュックの中を確認して、何かを忘れた事に気づき、道を引き返す。 そんな蓮登に、声をかけて来たのが巡回中の警官だった。 一方、走って坂道を上っていた航一たちも蓮登がいない事に気づき、引き返す事にする。 航一は、厄介者を連れて来た龍之介に文句を言いながら蓮登を探すが、すぐに、警官と一緒に入る蓮登を見つける。 警官は蓮登に、この人たちは君の友達か?と聞くが、蓮登は知らないと答える。 どうやら蓮登は、道に迷ったと言い訳したようで、警官が一緒に目的の家を探していたらしい。 困った恵美が、近くにあった家をそうだと適当に言い、警官に礼を言って追い返そうとするが、その家は警官が良く知る家だったようで、あんたたち、東紀子さんの家の親戚?と聞いてくる。 恵美はとっさにそうだと答えたので、警官は親切ついでのつもりなのか、庭で洗濯物を干していたおばあさん(りりィ)に、恵美を孫だと言って紹介する。 仕方なく、恵美は、不思議そうにこちらを見つめるおばあさんに、こんにちわと挨拶をする。 おばあさんの家は食堂だったので、おじいさんの鎌作(高橋長英)が作った店屋物を子供たち全員がごちそうになる。 子供たちは馬刺がないかと尋ねるが、鎌作はないと言う。 航一たちが新幹線が見える場所を探していると知ったおばあさんは、駅の側に宇戸シティというスーパーがあると教えるが、航一は、さっき行ったけど高さが足りなかったと答える。 すると、おばあさんは、松橋トンネルがあると教えてくれる。 その夜、風呂にまで入れてもらえた子供たちは、大きな布に、それぞれの願いをマジックで書く。 かんなは、絵が上手になりたいと書いていた。 恵美は、おばあちゃんから紀子という娘がいたが、こんな所にいたくないと言って出て行ったと言う話を聞いていた。 子供たちは寝床の中に入り、足で「YMCA」をやっていた。 寝室から聞こえてくる騒々しい子供たちの中、おばあちゃんは鎌作と2人になると、昔に戻ったようですねと話しかける。 恵美が出て行った紀子の幼い頃にそっくりで、玄関口でこんにちわと恵美が言った時は驚いただと言うのだった。 鎌作も、ああ…、夢かと思った…とつぶやく。 その頃、のぞみは、ひょっとして、航一、龍之介に会ってるんじゃない?と秀子に聞いていた。 しかし、周吉は、明日になれば帰ってくる。そっとしとけと娘に言う。 半年振りに再会した航一と龍之介は、縁側で久々に2人きりになっていた。 一緒に食べていたスナック菓子の一番美味しい所、最後の破片を互いに譲り合う。 龍之介は、のぞみが表紙画を描いたという父、健次も参加しているインディーズバンド「ハイデッカー」のCDを兄に渡し、インディーズって何?と聞く。 航一は、もう一つ言う事やろなと教え、周吉が作った「かるかん」を弟に渡す。 それを口にした龍之介は、何や、ぼんやりした味やなと感想を言う。 それを言うなら「ほんのり」やろと航一が、周吉から教わった通り伝える。 さすが兄ちゃんやなと龍之介が褒めると、航一も、来年中学やからなと応じ、2人背中を合わせて背比べしてみる。 龍之介が、この間、母ちゃん泣いてたと電話での事を教えると、心配せんでええ、ちょっと酔っていただけやと航一はフォローする。 龍之介は、恵美ちゃんの母ちゃんがヤバそうやから、父ちゃんには会わせんようにしていると約束し、2人は寝る事にする。 翌朝、鎌作が運転する軽トラの荷台に子供たち全員乗せてもらい、松橋トンネルまで連れて行ってもらう。 目的地近くで降ろしてもらった子供たちは、鎌作に礼を言い、トンネルへと向かうが、1人残った恵美が、何か望みごとがあったら私が代わってお願いして来ますと伝える。 しかし鎌作は、もうこれで十分やけん…と言い、トラックで帰って行く。 夕べ、全員で願い事を描いた白布を旗のように木の枝に付け、トンネルの側で新幹線の到着を待ち受ける子供たち。 やがて、「つばめ」と「さくら」の1番列車同士が接近してくる。 両車両がすれ違ったとき、バッホ~ン!と航一の描いた桜島の絵が噴火し(アニメ表現)、子供たちは口々に願いを叫ぶ。 蓮登は、足が速くなりたいと願い、祐は、父ちゃん、パチンコやめて〜!と叫んでいた。 列車が通り過ぎた後、真はリュックの中を確認し、もうダメだ…、昨日より冷たくなっているとつぶやく。 帰り道、墓の横を通ったので、航一はここで埋めて行く?と聞くが、真は、連れて帰って庭に埋めると答える。 龍之介は、願い、叶うと良いなと兄に話しかけるが、航一は、願い言わなかったんやと告白する。 家族より世界選んでしもうたんやと言い、桜島の噴火の事は頼まなかった事を打ち明ける。 すると、龍之介の方も、違う願い言うてしもうた。ご免と謝る。 良いよと許した航一は、父ちゃんの事頼んだでと龍之介に頼み、子供らは川尻駅に戻ってくる。 その時、航一は、バタフライのやり方教えるの忘れた。今度教えるわと声をかける。 龍之介と航一たちは、それぞれ反対方向に向かう列車に乗り込み、帰って行く。 福岡に帰る列車の中、かんなは、さっき観ていた線路の絵を描いていた。 福岡の自宅に戻って来た恵美は、まだベッドの中で寝ていた恭子に向かい、ママ、私、やっぱり東京へ行く。女優になる。時々戻って来るけん…、時々だよと告げる。 ベッドで頭をもたげた恭子は、あんた、何の勉強会に行っていたの?と不思議そうに聞き返し、そのまま寝入る。 自室に戻って来た恵美は、部屋の中で嬉しそうに踊り始める。 龍之介が家に戻って切ると、ハイデッカーのメンバーたちが練習をしており、RKBから連絡があり、今度、「チャートバスターズ」に出られる事になったと父、健次が言う。 それを聞いた龍之介は、それは僕のお陰やから、感謝しいやと答え、メンバーたちは、訳が分からないなりに、ありがとうと礼を言う。 健次に、父ちゃん、世界って何や?と聞く龍之介だったが、健次は、少し考え、駅前のパチンコ屋違うか?と答える。 龍之介は、それは「新世界」や!と突っ込むのだった。 一方、鹿児島駅に戻って来た航一、祐、真たちは、皆元気良く走って自宅へと帰る。 自宅に戻って来た航一は、周吉にただいまを言うと、「かるかん」龍之介に食べさせたと報告する。 何て言うとった?と周吉が聞くと、まだあいつには早いわと航一は答えるのだった。 自室のベランダに出て、桜島を観た航一は、周吉がやっていたように、指を嘗めて差し出し、今日は積もらんな…とつぶやいてみるのだった。 |
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