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事件記者 仮面の脅迫

NHK人気ドラマの映画版で、セット芝居が多かったテレビ版とは異なり、映画らしいロケを多用した作品になっており、テンポの良さもあって、それなりに楽しめる内容になっている。

若き事件記者と、記者クラブで報告を待つ中年キャップたち、そして、白髪まじりで爺さん言葉を話す初老キャラの八田…と、各年代の配置も面白い。

今回の話は、今で言う「報道被害」を逆手に取った犯罪を扱っている。

身に覚えのない冤罪をかけられた青年を偶然見かけた記者二人が、警察への最終確認をしないまま記事として本社に送って、それが記事になってしまった事から起こる悲劇…

いつも腹を空かせており、ちゃっかり屋のガンさんが、その誤報を送ってしまう1人で、さすがの明るい彼も落ち込んでしまうほどの展開になると言う辺りが事件の深刻さを現している。

犯人の犯行は、着想だけは見事ながら、その後の実行部分に隙があり過ぎたため、キャップたちに疑惑を持たれてしまうのがミステリとしてはちょっと物足りないが、中編映画のアイデアしては、このくらいが程よい分かりやすさなのかもしれない。

テレビ特撮もの「怪奇大作戦」のSRI的矢所長でお馴染みだった原保美も滝田裕介も山田吾一も、皆、驚くほど若い。

昔、中年イメージだった相沢キャップ役の永井智雄にしても、浦瀬キャップ役の高城淳一ですら、今の自分から見ると若く見えるのが時代の流れを感じさせる。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1959年、日活、島田一男原作、西島大+山口純一郎+若林一郎脚色、山崎徳次郎監督作品。

川の水面を背景にタイトル

「泥棒!」と叫びながら一人の女が、川にかかった小さな橋を渡り、通りに出ると、公衆電話から110番に電話を入れる。

向島で強盗との通報であった。

警視庁内にある記者クラブでは、各新聞社のキャップたちが見守る中、東京日報のアイさんこと相沢(永井智雄)と、中央日々新聞のウラさんこと浦瀬(高城淳一)が将棋を指しており、職員のみっちゃん()が帰る所だった。

そんな中、ペーさんこと長谷部(原保美)にイナちゃんこと伊那(滝田裕介)が、こっそり、タタキですよと耳打ちに来る。

イナちゃんが他社に気づかれまいと、こっそり警視庁入口から車に乗り込もうと外に出るが、その車にガンさんこと岩見(山田吾一)が乗り込んで来る。

しかし、2人が乗ったタクシーは途中でエンコしたので、仕方なくタクシーを停め、イナちゃんの払いで現場に急ぐ事になる。

ところが、現場であるアパートの二階の部屋に入ってみると、駆けつけた警官相手に、強盗に縛られていたはずの夫が、競輪でスってオケラになった自分が女房の金をちょろまかしたのをごまかすために仕組んだ狂言だったと詫びている所だった。

骨折り損だったとがっくりしたガンさんとイナさんだったが、そんな2人に、帰りは自分の車で送ってやると声をかけて来たのは、先に到着していた新日本タイムスのタケさんこと竹本(高原駿雄)だった。

タケさん運転の車で送って向かう中、イナさんは、タケさんは「地獄耳のタケさん」と言われているとガンさんに紹介し、自分は「競馬のイナさん」と教える。

警察を走り回っているからだそうだ。

その時、交番の周囲に人だかりがしているのに気づいた3人は車を停め、顔見知りの警官の大川に事情を聞く事にする。

映画館の支配人を連れ、女(楠侑子)から映画館で痴漢をされたと訴えられていたのは、恵明会病院の薬剤師水口信夫(沢井杏介)と言う男だった。

そんな中、警官を前に水口は、自分はそんなことはしていないと無実を訴えていた。

しかし、記事がなかったイナさんやガンさんは、一応その記事をそれぞれの本社に伝える。

その夜、イナさんは、アイさんお自宅を訪問。

「ひさご」の女将お近(相馬千恵子)の娘やす子(丘野美子)との結婚の仲人話をすませて来たと相沢の妻から伝えられると、イナさんは素直に喜ぶのだった。

その頃、映画館で痴漢をしたという水口と被害者の女、映画館主は、地元の上野警察署で再度取り調べられていた。

しかし、左の尻を背後から触られたと証言する女の話を聞いていた刑事は、水口が左手に包帯を巻いている事に気づく。

聞けば、数日前、スポンジ野球をしていて痛めたのだと言う。

それを聞いた刑事は、女の証言が噓だったと見抜くが、女は勘違いだったかしら?などととぼけるだけ。

映画館主などは、女のいい加減な話に怒り出す始末。

ところが、翌朝の新聞に水口の痴漢容疑記事が「エロ薬剤師」として載ってしまう。

この記事を知り、警視庁の記者クラブに抗議しに来たのは、事務長の斎木和男(垂水悟郎)だった。

2段抜きの間違い記事を書かれ、水口はもう病院に行けなくなったと言っているので、同じ2段抜きの訂正記事を載せろとキャップたちに迫る。

応対した相沢と浦瀬は、そんな斎木をなだめようと、本人に会って謝罪したいと説得するが、斎木の態度は変わらなかった。

そこに、騒動のもとになったガンさんとイナさんが出社して来たので、廊下で2人に会ったみっちゃんが、今、誤報の抗議人が来ていると教えてやるのだった。

そんな中、東京日報の部屋では、長谷部(原保美)が本社の西郷社会部長から電話を受け、苦情が来ている事情を話していた。

一方、昨日自分が送った記事でミスった事を悟ったガンさんは、ヤマさんこと山崎(園井啓介)に、心臓が強くなる薬はないだろうかと話しかけるが、胃腸に効く薬ならあるよと「ワカ末」の瓶を見せられただけだった。

イナさんの方は責任を感じ、自ら水口に会いに行くと言い、警視庁から出かける。

その後、事務長の斎木は、旅館に匿っていた水口に会い、今や君は、小平以上の痴漢と世間で思われてしまったので、名誉を回復させるためにも、自分がとことん新聞社に交渉してやるから、その間、ここに身を隠していろとアドバイスする。

しかし、水口は、恋人でありながら連絡が取れない看護婦の塩路秋子(中村万寿子)の事を気にしていた。

斎木は、薬の保管庫の鍵を預かると言い、水口から鍵を受け取って帰る。

その後、恵明会病院に戻って来た斎木は、看護婦の松本に塩路秋子の事を聞くと、水口の所へ行ったという。

その頃、イナさんとガンさんは、水口の下宿先を訪ねていたが、大家は、水口があんな男だったとは思わなかったと迷惑がっていた。

それは誤報だったのだと説明したイナさんだったが、水口は出かけており不在だと言うので、仕方なく帰りかけるが、そこに来合わせた女性が、やはり大家に水口の行方を聞いていたのを見て声をかけ、近くの食堂に誘う。

食いしん坊のガンさんが一人カレーを食う中、イナさんは、彼女が水口の恋人塩路秋子であり、痴漢に間違われた映画館は、良く2人が落ち合う場所だった事を聞き込む。

一方、恵明会病院の事務室では、出入りの製薬会社と面会していた斎木が、今日は院長も水口もいないので、自分の判断で保管庫の中の薬を君の所の薬を入れ替えてやると申し出ていた。

これまでにも斎木は、このような手口で業者から安い薬を手に入れ、差額を自分の懐に入れていたのだった。

病院に帰って来た塩路秋子は、同僚の看護婦たちが大変だと言うので、廊下の掲示板を見に行くと、水口が依願退職になったとの通達が貼ってあった。

驚いた秋子は、ちょうど薬瓶を保管庫に運びかけていた斎木を見かけ事情を聞く。

斎木は手にしていた薬瓶を隠しながら、彼女を実験室に誘うと、斎木から辞めさせてくれと言われただけで、自分は彼の居場所すら何も知らないととぼけ、秋子に言い寄ろうとさえする。

秋子はそんな斎木の態度に憤慨し、自分も退職にしてくれと言い放つと部屋を出て行く。

その頃、旅館に隠れていた水口は、小さな訂正記事が載った新聞を読んでいた。

そこに、斎木から呼び出しの電話がかかり、外で落ち合うと、あんな小さな訂正記事では役に立たない。君は院長と組合によって病院を辞めさせられた。秋子も君を軽蔑し病院を辞めたよと言われたので、それを聞いた水口は驚き、話が違う、あんたは、全部自分に任せてくれれば悪いようにはしないと言ったではないか!あんたが闇の薬で利益を得ている事も、モルヒネやコカインの横流しをしている事も知っているんだと憤慨する。

しかし、斎木は、もっと大きな訂正記事を載せなければ自殺すると、新聞社を脅してやれば良いんだと、水口に教え込むのだった。

記者クラブに戻って来たイナさんとガンさんは、塩路秋子という水口の恋人に会う事が出来たとキャップに報告する。

その時、電話を取ったアイさんの表情がこわばる。

電話の相手が水口和男だったからだ。

斎木に付き添われ、公衆電話からかけていた水口は、斎木に言われるがまま、朝刊に三段抜きの大きな訂正記事を載せなければ自殺すると一方的に言うと電話を切ってしまう。

イナさんは早速、秋子にその事を知らせに行くが、自宅にいた秋子は、脅しですよ。水口はそんな事が出来る人ではないと言う。

記者クラブでは、誤報を載せた新聞社の相沢キャップやウラさんが緊張し、そもそも、あの交番に行き会わせたのは、イナさんとガンさんを車に乗せた自分だから、責任を感じると言うタケさんまで手伝わせてくれと八田(大森義夫)に申し出る。

事情を知った村長こと村田部長刑事(宮阪将嘉)も、都内に手配をした事を記者クラブに知らせに来てくれた。

東京日報の社会部長西郷三郎(清水将夫)と、中央日々の瀬川敬三社会部長は、それぞれ、ラジオ放送を通じて、水口に早まった事は止め自分の所に連絡をくれと放送する事になる。

街宣車も、その放送内容を流しながら都内を駆け巡る。

そんな中、斎木と、最初に痴漢被害を訴えた女、河村好江がホテルで会っていた。

外から聞こえて来る水口に呼びかけるアナウンスを聞きながら、斎木は、ほとぼりが冷めるまで身を隠していろと好江に伝える。

好江と組んで水口を痴漢に仕立て上げたのも、最初から斎木の仕組んだ罠だったのだ。

その夜、水口は上野公園の近くの建物の前で、一人、斎木の来るのを待っていた。

そこに、ミルクコーヒーの瓶と菓子パンを近くの売店から買って来たと、斎木が持って来る。

記者クラブでは、キャップたちが事態の推移を固唾をのんで待っている中、ガンさんがこっそり部屋を抜け出そうとするので、何事かと思えば、夜鳴きそばのチャルメラの音に耐えかねて、食べに行く所だと言うので、ウラさんはしかり飛ばす。

そもそも、この事件のきっかけを作った当事者の1人がガンさんだからだ。

そんな重い空気を払拭するため、八田は、行きつけの小料理屋「ひさご」にお茶漬けでも食べに行こうとキャップたちを誘う。

そんな中、上野公園周辺を警邏中の警官2人が、建物の玄関前の凹みに倒れている水口を発見、水口は絶命しており、その側には、飲みかけのミルクコーヒーの瓶と、菓子パンが入った袋が落ちていた。

「ひさご」でキャップたちが茶漬けを食っている時、電話が鳴り、それを取った女将が相沢キャップに渡す。

ベーさんからの電話を受け取った相沢キャップが、水口が自殺した?!とその場で驚きの声を上げたので、それまで愉快そうに茶漬けを食べていた他のキャップたちも一斉に動きを止める。

記者たちは、早速、事件現場に集結するが、毎朝の記者が「朝刊に間に合わなかった」と愚痴ったので、事件の当事者である東京日報と中央日々の記者たちは嫌な顔をする。

現場に来ていた村長は、死因は青酸カリだと教えてくれる。

翌朝、記者クラブに、イナさんとガンさんが、さすがに自分たちが送った誤報が原因で人1人が死んだという罪の意識に苛まれて帰って来る。

いつも脳天気で元気なガンさんまで落ち込んでいるので、キャップたちは慰めるしかなかった。

しかし、気持ちの整理が付かないイナさんは、秋子を見舞って来ると出かけて行き、八田さんとガンさんもその後を追う。

自殺の知らせをイナさんから聞いた秋子は、現場にタバコの「ピース」が3箱落ちていたと聞くと、水口さんはいつも「しんせい」しか吸わないはずだと首を傾げる。

死ぬ間際に、せめてもの贅沢をしようとしたのではないかと言いかけたイナさんだったが、死ぬ人間が3箱もタバコを買うだろうか?と疑問を感じ、一緒に聞いていた八田さんも、しかもタバコは1本も吸っとらんと指摘する。

その頃、鑑識を訪れた村長は、ミルクコーヒーの瓶には水口の指紋しか残っておらず、売店の人間の指紋など、本来付いていなければいけないはずの指紋は一切検出されず、誰かが拭き取ったとしか思えないとの報告を受けていた。

ベーさんと共に事件現場の写真を観ていた相沢キャップは、路上に転がっていたミルクコーヒーの瓶を観て、どうして毒薬自殺しようとする人間が、わざわざ飲み口の小さな瓶などに毒を入れたのだろう?と疑問を口にする。

そこに、ウラさんが、八田さんが今、タバコの疑問を電話して来たと伝えに来たので、相沢は、自殺する人間がストローなんかで毒を飲むだろうか?とウラさんに問いかける。

さらに相沢キャップは、電話して来た水口は、朝刊に訂正記事を載せなければ自殺すると言っていたのに、その朝刊が出る前に死んだのも奇妙だと気づく。

同時刻、塩路秋子は、大家から電話がかかっていると知らされたので階下に降り、電話口に出ると、相手は斎木であった。

水口からの遺書が届いたので、それを秋子に見せるために、駿河台ホテルで落ち合おうと言う内容だった。

一方、記者クラブで、水口の自殺が怪しいと説明する相沢の話を聞いていた新日本タイムスのクマさんこと熊田(外野村晋)も、真相追求への協力を申し出る。

早速、上野公園近くの売店に聞き込みに出かけた記者たちだったが、毎日大勢の客の相手をしている店員は、ミルクコーヒーと菓子パンを購入した客の事など覚えていなかった。

ベーさんとガンさんは、最初に水口を痴漢呼ばわりした河村好江を探していたが、警察に届け出た彼女の名前と住所はでたらめだった事が分かったので、記者クラブの相沢キャップに伝える。

その電話を聞いていた他社のキャップたちも、何故、彼女はでたらめを言ったんだろうと首を傾げる。

その頃、その河村好江に会っていた斎木は、もう一度手伝ってくれと頼んでいた。

好江の方は警戒し、高飛びする金を要求する。

恵明会病院へ来たイナさんは、看護婦たちに水口の評判を聞いて見るが、この病院内で仲が良くなかったのは事務長くらいではないかと教えられる。

奇しくも東京日報の部屋では、八田さんが、斎木が気にかかるとつぶやいていた。

他社のキャップたちも、執拗に水口報道の訂正記事を求めていた斎木の行動に疑問を持ち始めていた。

その時、イナさんから相沢キャップに電話が入り、斎木事務長が、水口の恋人である塩路秋子にご執心だったらしいと知らせて来る。

さらに、捜査一課では斎木をマークしたらしいとの報も飛び込んで来る。

事実、佐伯逮捕の指令が全パトカーに出されていた。

村長らは神田駅にやって来ていた。

駿河台ホテルの部屋の中では、紅茶を飲んだらしい秋子がイスの中でぐったりしていた。

斎木は、その秋子の身体をベッドに運ぶと、靴を脱がせる。

斎木は、「今度はあの女の番だ…」と心の中で考えながら、ウイスキーのグラスに何か薬を投入し始める。

イナちゃんとスガちゃんこと菅(沢本忠雄)は、秋子の自宅を訪問。

家主から、斎木と言う人物から電話があり、駿河台ホテルに呼び出されていたようだと言う情報を得る。

ホテルの一室では、斎木と好江が、室内に残した指紋を拭き取ると、窓をきっちり閉め、ガス栓を開いた後、部屋から出て、廊下を挟んだ向かい側の部屋の中に入る。

好江はすぐさま、約束の鐘を要求、斎木は用意して来た10万円の札束をその場で手渡すと、用意しておいた毒入りウィスキーのグラスを渡そうとするが、その時、ノックの音が聞こえる。

素早く、好江は窓から外に逃れ、斎木が開けたドアから入って来たのは、イナさん、ガンさんにこのホテルを教えられた村田部長刑事ら刑事だった。

塩路秋子はどこにいると迫る村長に、斎木はここで先ほど会ったが、既に帰ったととぼけながらも、持っていた毒入りウィスキーをさりげなく水槽に捨てる。

窓から外壁にへばりついて身を隠していた好江は、水槽の観賞魚が死んで行くのを観て、斎木が自分を毒殺使用としていた事を悟る。

次の瞬間、斎木は、窓に現れた好江が放った銃弾を受け倒れる。

驚いた刑事たちは一瞬身を伏せるが、すぐに好江を確保、秋子の居場所を聞くと、21号室におり、鍵は死んだ斎木のポケットに入っていると素直に答える。

すぐさま、刑事たちとイナさん、ガンさんらは21号室に突入、完全に窓が閉まり切っていなかった事が幸いしたのか、睡眠薬を飲まされていた秋子は一命を取り留める。

事件が解決し、記者たちはビールで乾杯しながら、早刷りの朝刊を確認していたが、新日本タイムスだけが「布団詰め殺人事件」をすっぱ抜いていたのに気づき、クマさんも、あれはあれ、これはこれととぼけるので、休戦協定も終わりかと嘆きながら、各社の記者は部屋を飛び出して行く。

1人残ったクマさんだけが、安心したように、自分の社の新聞を広げて読み出すのだった。