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大日本チャンバラ伝

花登筐の原作の「大日本」喜劇シリーズ第三作目らしい。

らしいと言うのも、このシリーズを観たのは初めてだったからだ。

エノケンの「雲の上団五郎一座」(1962)や「極楽大一座 アチャラカ誕生」(1956)を連想させる旅芸人一座の話になっており、舞台上でアチャラカ芝居が行われると言う趣向も似ている。

時代遅れの歌舞伎に執着する座長と、昔やっていた少女歌劇をやりたがる妻との対立で、男優達と女優達が分裂してしまうと言う展開で、曲げ物のアチャラカと、ミュージカル風のアチャラカの2種類が楽しめると言う趣向になっている。

そこに、座長の落とし子が紛れ込み、実の娘と恋仲になりかける…と言う人情話が絡む。

主演の伊藤雄之助は、歌舞伎俳優初代澤村宗之助の次男だった人らしいが、喜劇とは言え、父親と同じ歌舞伎役者を演じているのが、大変珍しい映像のような気がする。

登場する役者達は、当時の人気コメディアンがそろっており、とぼけた味わいのある伊藤雄之助の芝居を笑いの部分で支えているが、さすがに今観て大爆笑できると言う内容ではない。

とは言え、面白い部分もあり、個人的に気に入ったのは、中村キンカンと言う赤ん坊を背負った女優が連れているお染と言う5歳児くらいの女の子が、知らない男が楽屋に来る度に、この人、お父さん?と母親に聞き、キンカンがその度に、違うよと言いながら、お染の頭をこずく繰り返しギャグ。

大人が子供を突っ込むと言う発想が、今では出来そうもない表現なので、妙におかしいのだ。

さらに、当時からCMソングなども歌っていた楠トシエが、当時のCMソングをちょっと披露したり、大村崑が、テレビの人気番組だった「番頭はんと丁稚どん」にかけて「七ふく」と言う薬を出したりする楽屋落ちも懐かしい。

劇中、トマトが下駄でタップダンスめいたことをやるのにも興味を持った。

北野武監督版「座頭市」で、下駄のタップダンスと言うのが登場するが、あれは元々、浅草の舞台でやっていた芸だったのではないかと想像したのだ。

又、今まで一度も笑ったことがないと言う娘を、何とか芸人が笑わせようとするアイデアも、後のクレージー映画や「さや侍」で使われるアイデアである。

やはり、笑いのアイデアと言うのも、誰か先人がやったことのアレンジと言うパターンが多いのかも知れない。

良く分からないのが、茶川一郎扮する女形の中村大根を、ストリップに引き抜こうとする興行主のエピソード。

実際に、そんな見せ物があったのだろうか?それとも単なる、この映画だけのネタなのか?

ズーズー弁で人気があった若水ヤエ子や、意地悪婆さん風の武智豊子、白木みのるや佐々十郎、大村崑と言った、テレビ黎明期の頃の人気者達の元気な姿が楽しい娯楽作品である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1965年、日活、花登筐原作+脚本、才賀明脚本、吉村廉監督作品。

「勧進帳」の弁慶に扮した中村馬之助(伊藤雄之助)が、見栄を切りながら花道を進んで行くが、途中に、幼児が二人座り込んでいたので、坊や、ちょっとご免ねと言いながら抱いて道を開けると、又進み始める。

「中村馬之助一座」と書かれた昇り旗を掲げた軽トラが地方の道を走っている。

タイトル

助手席に乗っていた、馬之助の妻で役者の中村トマト(楠トシエ)が、こんな不入りが続いたら、一座を続けられなくなるわと愚痴ると、隣に座っていた馬之助は、今度行く所は十年前は大入りだったから大丈夫だと答える。

今時、歌舞伎なん流行らないわよ。レビューやらしてくれないかしらとトマトが言い出したので、馬之助は止めろよと呆れる。

荷台では、文芸部の花山(大村崑)が、新しい本を書き続けていた。

次の街の「大黒屋」と言う小屋に着いた馬之助の前に、一座に入れてくれとやって来たのは、高田三吉(左とん平)と言う若者だった。

馬之助は、給料は遅れるよと念を押し、三吉の入門を認める。

そこに、一座の連中が入って来たので、三吉を紹介する。

赤ん坊を背負った中村キンカン(石井トミコ)の長女お染は、いつものように、三吉を見て、あの人がお父さん?と聞くので、お父さんはもっと良い男だよとキンカンは叱りつける。

馬之助は、今日の出し物は「番長皿屋敷」と「勧進帳」で行こうと言うが、花山は斬新な脚本を書いたんですけど…と提案する。

しかし、馬之助は、俺の弁慶が出ないと客が満足しないよと言い、無視する。

文芸部の花山の助手になった三吉は、早速街の大工の太作(堺駿二)に、芝居のセット作りの催促に行くが、大工は、婆さんが釘を買ってくれないと言いながら、曲がった古釘を伸ばしているだけだった。

馬之助の一人娘リンゴ(西尾三枝子)は、洗濯物を外に干しに行って、花山の姿を観かけたので何しているの?と聞きながら近づくと、おかずを釣っている所だと言う。

見ると、むしろの上に干されていた干物の魚を釣ろうとしていたのだ。

花山の夢は、一流の劇場で大ミュージカルを作ることだと打ち明ける。

洗濯をしていたキンカンやお染に、トマトは、スポンサーからもらったと言いながら「テルスター」と言う液体洗剤を渡すと、「照ってる、照ってる、照ってるな〜 お日様照 ってるな♩」と、ちょっとそのCMソングを歌ってみせる。

楽屋では、女形の中村大根(茶川一郎)が、同じく女形の中村カボチャ(平凡太郎)に踊りを教えていたが、カボチャの飲み込みが悪いので、ちょっと言い争いになっていた。

中村さといも(若水ヤエ子)は、夫の中村牛五郎(由利徹)の何日もはきっぱなしのふんどしを洗うから脱いでくれと文句を言っていた。

大根も、自分の腰巻きを洗ってくれと頼むが、さといもは無視する。

花山は、リンゴに歌を教えながら、一度君を東京の少女歌劇に出したいと言っていた。

そんな中、トマトと馬之助は夫婦喧嘩の真っ最中だった。

いつまでもうだつの上がらない馬之助が、これまで何人もの女を作って来たことをトマトが責めていたのだ。

セットが間に合いそうにもないので、花山と三吉で、素人なりにセットを組んでいたが、そこにやって来た太作は、物事には順序ってものがあるんだなどと言いながら、セットに近づこうとしたとき、くしゃみをしたら、花山達が作ったセットがもろくも崩れ去ってしまう。

その夜は、雨が降っていたと言うこともあってか、客席はガラガラだった。

しかも、老朽化した芝居小屋は雨漏りがし、小屋主トヨ(武智豊子)は、こんな芝居止めて、股旅もんとかストリップやってよと馬之助に頼み、明日も客が来なかったら出て行ってもらうよと最後通牒を出す。

馬之助は、落ち目だねえと一人つぶやく。

そんな馬之助に近づいて来た三吉は、宣伝ですよ、宣伝が足りないんですと励ます。

楽屋の馬之助の元へやって来たキンカンは、赤ん坊のミルク代がないと金の催促をするが、馬之助は、今夜の芝居はなしになったと答えるだけだった。

さといもは夫の牛五郎に、一座を逃げようと誘うが、牛五郎は、もうすぐ自分は幹部待遇になるし、俺は芸術家だからと言って従おうとはせず、夫婦喧嘩になる。

それを止めに入った中村ラッキョ(佐山俊二)は、さといもから「ハゲラッキョ」と言われてしまう。

そんな中、大根が人に会いに行くと言って楽屋を出て行く。

花山が脚本を書いていると、中村豚之丞(伊藤寿章)と中村滑車(天坊準)が、つまらなそうに、町に出てパイイチ(酒)でもやりたいななどと話していた。

花山は、仕事を終え戻って来た三吉に飯を食えと勧めるが、用意されていた食事は、一人前の食事をきっちり半分にした残りだった。

残りの半分が、先に食べた花山の分だったと言うことだ。

トマトは、これで3000円くらいにはなると言いながら、衣装の一部を質に持って行く所だった。

出しもの代えないと…とぶつぶつ文句を言うトマトの言葉を聞きながら、馬之助は、栄座が流行っているようだが、何をやっているんだろう?とつぶやく。

同じ町にある栄座では、中江左智子(大江美智子)の女剣劇が客を呼んでいた。

舞台上で芝居をしていた左智子は、客席に馬之助を発見する。

馬之助は、何故か舞台を観ながら泣いていた。

劇が終わった後、帰りかけた馬之助は、一座の頭取(小柴隆)から、左智子からだと言うメモを渡される。

その頃、栄座の外では、花山と三吉が、中江左智子一座のポスターを隠すように、その上から自分たちのポスターを貼っていたが、その時、三吉が急に腹痛を訴える。

花山は持っていた薬を飲めと言いながら出してみせるが、それは「七ふく」だったので、慌てて「正露丸」の瓶の方を取り出す。

その時、二人は、栄座から出て来た馬之助を目撃する。

「小料理屋ひさご」で、馬之助は中江左智子と二人きりで会っていた。

その頃、中村大根は、興行主と酒場で二人きりで会っており、家に来てストリップをやらないかと勧められていた。

今の2倍の給料を出すと言われた大根だったが、踊りには自信があるけど、バストがね〜…と躊躇していた。

馬之助は、師匠の所を出て20年、今ではこのていたらく…とかつて兄弟弟子だった中江左智子を前に恥じ入っていた。

左智子は、妹弟子の私が、その後のことはしましたと説明しながらも、修のことでお願いしたいことがありますと言い出す。

劇場に戻って来た花山と三吉は、馬之助は栄座で芝居の研究をしているとは熱心だなどと話し、三吉が、僕はチャンバラが好きなんですと自らやってみせる。

その会話を聞いていたトマトは、馬之助が帰って来たので、女剣劇やるんだって?と嬉しそうに聞くが、馬之助は俺は痩せても枯れても成駒屋だ。歌舞伎しかやらないと不機嫌そうに言うので、それを聞いたトマトは、私にも考えがあるとふくれる。

トマトは、一座の中の女性達を全員集めると、「中村トマト少女歌劇団」を結成する。

花山が「トマト少女歌劇」の方の演出になったので、旧来の花山の代理を三吉がやることになる。

浪曲劇はどうでしょう?とアイデアを出した三吉だったが、他のメンバー達が乗り気でないので、自分は文芸部長代理ですよと威張る。

その時、馬之助は大根の姿が見えないことに気づく。

ラッキョが、大根を迎えに行くと、大根は何か迷っている風で動こうとしない。

ラッキョがしつこく連れて行くとすると、「私、おばあさん、嫌い!」と言う始末。

さといもが「からす何故鳴くの?」を歌ってみせるが、訛が強過ぎて、何度聞いても「カラシ何故泣くの?」に聞こえてしまうので、花山は頭を抱える。

翌日、花山と三吉は、町の中で出会うが、互いに牽制し合う。

三吉の方は、幼稚園をやっている寺の住職(村田寿男)に、芝居で出てくれる子供はいないかと相談しに来る。

一方、花山の方は、形屋駐在所のおまわりさんに、町でバンドを探していると相談すると、そのおまわりさんは、すぐに自分のズボンのバンドを抜いて貸してくれようとするが、楽団のバンドだと聞いて納得する。

かくして、その夜の出し物は、「浪曲劇 国定忠治」と「少女歌劇 リンゴの花咲く頃」の二本立てと言うことになり、客も珍しがって、25人入ったので、小家主のトヨも喜んでいた。

浪曲をうなっていたのは、大工の太作だった。

出だし部分をうなり終えた太作は、舞台上の松の木の書き割りの根本の釘を打ち直し、又うなり出す。

国定忠治役の馬之助 が登場するが、彼のセリフまで太作が浪曲でうなってしまうので、馬之助 はセリフがほとんどなくなってしまう。

板割の朝太郎役の牛五郎が背負っているのは、ずいぶんませた太郎吉役の子供(白木みのる)だった。

朝太郎は布に包んで持って来た三室の勘助の生首を忠治に見せる。

その時、捕り手役の予定だった大根が一座から逃げたと分かり、人手が足りないと言うので、急遽、三吉が舞台袖で着物を着せられ代役にさせられていた。

豚之丞、滑車、三吉らが扮した捕り手相手に、馬之助がチャチな立ち回りをしている時、栄座では、中江左智子が見事な剣劇を披露していた。

馬之助の方は、役者が足りず、一度斬られて引っ込んだ豚之丞、滑車、三吉らが、又、別の捕り手役で再登場したりとめちゃめちゃな状態になったので、客は面白がって大受け。

小家主のトヨも、菓子類が売れるので大満足だった。

しかし、楽屋に戻って来た馬之助本人は、40年間芝居をして来たが、今日くらいバカバカしい芝居ははじめてだと肩を落とし、やっぱり歌舞伎をやるぞと言い出す。

その頃、中江左智子の方は、頭取に次の予定をキャンセルさせていた。

「大黒屋」の方では、町で雇ったポン(佐々十郎)とチイ(トニー谷)の演奏で、「少女歌劇 リンゴの花咲く頃」が始まっていた。

楽屋では、太作と酒を飲み始めた牛五郎が、ラッキョと昔、馬の足をやっていた頃の方が面白かった。役者は三日やったら止められない。こ○きと同じだと、しみじみ話し合っていた。

一方、舞台を袖から観ていた花山は、トマトらが演じているミュージカルの舞台を想像していた。

しかし、実際の舞台には、目立ちたがり屋のポンとチー、さらに、酔った牛五郎とラッキョが入った芝居用の馬まで乱入して来るし、女優達の衣装が取れたりで、もうハチャメチャな状況だった。

それでも客達には大受けだった。

結局、「トマト少女歌劇」の方が評判がいいと言うので、翌日の手描きポスターから、「少女歌劇」の文字が大きく、「国定忠治」の文字は小さくなってしまう。

女優陣にはファンが次々に差し入れを持って来るが、男の方は相手にされなくなってしまう。

後藤文左衛門と名乗る地元の大物がトマトに挨拶に来ている時、男達はふすまの陰に隠れ、女優達の楽屋に積んであった差し入れを盗もうとするが、あっさり見つかって恥をかいてしまう。

そんな中、有馬修(和田浩治)と言う青年が、中江左智子の手紙を携えて馬之助の所へやって来る。

中江左智子から、成駒屋さんの所で働くように言われて来たと言う。

本人にはまだ何も話していないと書かれた手紙を読んだ馬之助は、ここで働いてみるか?と修に声をかける。

外で、花山に会ったリンゴは映画にでも行かないかと誘っていたが、花山は新しい「ウエストサイドから来たマイフェアレディ」というミュージカルのことに夢中で、断られる。

一方、修を教える立場になった三吉は、白井権八をやらせてやると言い、演技指導を始める。

外から帰って来てそんな練習中の修を観たリンゴは、三吉から修と言う新人だと教えられると、一目で好きになったようで、花山が戻って来て、やっぱり映画へ行こうか?と誘って来ても、もう相手にしなかった。

その夜、さといもがドラム缶風呂に入っていると、夫の牛五郎が、鍋焼きうどんでも一緒に食おうと言いながら、木戸を開けて入って来ようとしたので、今は敵同士だからと言って、さといもは近づけようとしない。

人気が出て来た少女歌劇の方に参加しているさといもは、今じゃ、鍋焼きくらいでは動じなかったのだ。

ところが、そんな牛五郎の所にやって来たラッキョが、お座敷がかかっていると教える。

その会話をドラム缶風呂の中で聞いたさといもは、急に興味を惹かれたのか、鍋焼きでも良いと言い出す。

牛五郎とラッキョが呼ばれたお屋敷では、女中が、うちのお嬢様はこれまで一度も笑ったことがないので、笑わせてくれたら賞金50万円を出すと言うので、二人は張り切るが、太鼓が成り、ふすまを開けた奥の部屋に座っていたのは、まだ子供だった。

まずは、ラッキョが猿のマネをするが、お嬢様はクスリとも笑わない。

次に、牛五郎は、手品でハムサラダを取り出してみせますと言い、懐から、皿を半分取り出してみせて「半分皿だ(ハムサラダ)」と言ってみせるが、同じく反応なし。

そこに、さといももやって来て、3人組んで歌を歌い始める。

「ドンパン節」とか「枯れすすき」など、その歌は、どれもラッキョのハゲをからかうと言う子供だましだったので、お嬢様はいつの間にか姿を消し、3人の前には参加賞と書かれた箱が置いてあるだけだった。

何が入っているのかと、蓋を開けて見ると、中から飛び出したのは、一羽の鶏だった。

その頃、リンゴと外を散歩していた修は、自分も父親は知らないし、テレビに出る有名な歌手になりたいと言うので、リンゴは、私たちはミュージカルをやっているので一緒に歌いましょうと誘う。

人気が出たトマトが、マグロのトロなど、差し入れで作った豪華な食事を取っていると、隣では馬之助 が貧相な食事を取っていた。

トマトは愉快そうに、鯛の尾頭付きを馬之助 に見せびらかす。

その後、修を間に、男の役者達と女優達で言い争いが起きていた。

リンゴが、修を自分たちの少女歌劇の方に誘ったので、それを知った男達が、それじゃあ、こっちの芝居が出来なくなると文句を言っていたのだ。

騒ぎを聞きつけてやって来た馬之助 は、修に、歌の方がやりたいのか?と確認し、そんなにやりたいなら歌をやりなと勧め、今夜だけは、白井権八をやるんだよと言い聞かす。

三吉らは、座長の判断に文句を言いかけるが、俺の顔に免じて許してくれと馬之助は頼む。

その後、馬之助は、化粧をしながら、鏡台の前で泣いていた。

リンゴは、自分も「ウエストサイドから来たマイフェアレディ」に入れてくれと花山に頼む。

馬之助は舞台上の「白井権八」で、権八役の修に、息子の権八か?でっかくなりやがったなと言いながら出て来る父親の役を演じる。

その夜、寝床で目覚めたラッキョは、隣の布団に牛五郎の姿がないことに気づく。

牛五郎は、女優達が一緒に寝ている部屋に忍び込み、妻のさといもの布団に夜ばいをかけようとしていたが、途中で、なたねに抱きつかれてしまい、もがいているとさといもや他の女達が全員起きたので、又しても恥をかいてしまう。

「大黒屋」での芝居を終え、列車で次の町に向かった「中村馬之助一座」だったが、すっかり男と女優陣が分裂してしまい、町での宣伝も、「恋の花咲く乙女達」と言う歌劇と、「忠臣蔵」の双方が別々に練り歩き、路上で互いに出会うと、喧嘩を始めてしまうと言う事態になる。

そこへやって来た一台の乗用車がクラクションを鳴らし通り過ぎて行くが、その車に乗っていた中年男は、こんな町にミュージカルがあるとは嬉しいねと運転手に話しかける。

「明日座」では、「恋の花咲く乙女達」が先に始まり、イギリス人のジュリエット役のトマトが下駄でタップを披露する。

すると、そこに、アリランを歌いながら、朝鮮のジュリエットと名乗り、キンカンが登場する。

さらに、フラダンスを踊りながらハワイのジュリエットとしてなたねが登場し、3人でバルコニーの下からロミオを呼ぶ。

すると、窓が開いて出て来たのは、メイド役のさといもだった。

メイドは、今、ロミオさんはいません。私は噓を申しませんと言って窓を閉めてしまう。

3人のジュリエットが退場した後、ロミオ役の修が舞台に登場し詩を歌い始めるが、その時、帰りかけていた中年男が足を止め、舞台に注目する。

昼間、車で通りかかったあの男だった。

舞台には、着物を着た日本のジュリエット役のリンゴが登場し、ロミオとデュエットを始めていた。

前列にいた客の1人が、差し入れとして子豚を舞台上に置く。

芝居がはねた後、トマトの楽屋にやって来た中年男は「古田」と言う名刺を出し、自分は作曲家だが、修を東京に連れて行って自分の所で練習させたいと言い出す。

その場にいた修は喜ぶが、リンゴも一緒に行かせてくれないかと頼む。

しかし、馬之助 は1人反対する。

修は、リンゴと2人で練習しようと約束したのだと説明し、トマトも、2人が結婚したらぴったりよと言い出す。

しかし、馬之助はどうしても許そうとしないので、リンゴはひどいわ!お父さんなんて大嫌いと泣きながら部屋を飛び出して行く。

トマトも腹に据えかねたのか、リンゴのことは私が考えるからと、馬之助に言い残して自分も部屋を後にする。

そんなトマトと廊下ですれ違ったのは花山だった。

馬之助は修に、どうしても行くんだったら止めねえよと言い聞かすが、リンゴちゃんと一緒だとなぜいけないんでしょう?と修から問われると、お前達のためなんだと言うばかり。

あれには亭主同様の男がいる、花山だよと馬之助は教えるが、リンゴに振られたと悟った花山は、三吉を誘って、一緒に酒を飲み、炭坑節を無理矢理踊って明るく振る舞おうとする。

そこにやって来た修は、自分は東京へ行くので、リンゴちゃんを幸せに…と言い残して小屋から出て行く。

その頃、キンカンとなたねは、屋台で飲んでいた。

キンカンは、お染の本当の父親は自分にも分からないんだなどと告白していたが、その時、なたねが背後を駅の方に去って行く修の姿を目撃する。

二人は「明日座」へ戻って来ると、今、修がボストンバッグを下げて駅の方へ行ったと教えたので、それを聞いたリンゴは、駅に向かうが、着いたのは、ちょうど列車が出発した直後だった。

その列車に乗っていた修は、同じ列車で移動していた中江左智子一座の頭取に出会う。

一等車にいた中江左智子に再会した修は、あなたのりんごとは、実の兄妹だと教えられる。

修は、馬之助が自分の父親と知り仰天する。

その頃、馬之助は、修は俺が追い出したのだと告白し、それを聞いたトマトは激高し、もう夫婦も一座も放り出すと言い出す。

出て行くトマトに女優陣も同行し、牛五郎もさといもに強引に引っ張られて行く。

三吉、豚之丞、滑車の3人だけが残るが、これだけではもう芝居は出来ないし、お前達も、好きな道に進が良いと馬之助は勧める。

その言葉を聞いた3人も小屋を後にする。

1人残った馬之助は、自分が歌舞伎を演じていた頃のことを思い出す。

その後、町を出ることにした馬之助は、泣きながら歩いていたが、途中で出会った子犬を抱き上げたりして寂しさを紛らわすのだった。

そんな馬之助に目を止めたのが、近くを通りかかった警官(大滝秀治)で、持っていた指名手配の写真を確認すると、そこに写っていた前科5班の犯人は、馬之助にそっくりだった。

独立した中村トマト一座では、花山が、次の出し物として「椿姫」をやろうと提案する。

女優達は全員、椿姫をやりたがるが、花山は、椿姫はリンゴちゃんにやってもらうと言う。

そのリンゴは、小屋の近くの田んぼで「七つの子」を寂しげに歌っていたが、トマト一座に加わった三吉が迎えに来る。

早速、「椿姫」の歌の練習を始めたリンゴだったが、途中で泣き出してしまう。

そこへ帰って来たのが修だった。

リンゴは喜び、舞台を降りると修に抱きつこうとするが、修は、君と僕とは兄妹なんだ。自分は中村馬之助座長の子供だったのだと打ち明ける。

全員がそれを聞き驚いていると、お染が、交番から電話がかかっていると知らせに来る。

交番では、警官が、自分は役者だと弁解する馬之助を信用していない目つきで睨んでいた。

そこに、トマト、リンゴ、修の3人が迎えに来て、修は、お父さんだったんですねと馬之助に話しかける。

馬之助は、何もかもばれたことを知り、隠していた俺が悪かったと謝る。

疑いが晴れ、小屋へ戻る途中、修は、お願いです。僕たちと一緒に芝居をして下さいと頼む。

馬之助は、ミュージカルやろうか?と乗り気になるが、トマトが歌舞伎よと、笑顔で、いつもとは逆なことを言う。

その日、舞台に上がった馬之助、トマト、リンゴ、修の親子は、「花の忠臣蔵」の挨拶をそろってする。

荷重で、拍子木を打った花山は、三吉と一緒に、花吹雪を降らせる。

大石内蔵助役の馬之助が、さくらの書き割りの前で、芸子に扮した女優達相手に遊びながら、お軽がいないなと言うと、そこに、ひな菊役のトマトがやって来て、お軽は患っていると言いながら馬之助を座敷に誘う。

何の病じゃ?と蔵之介が聞くと、草津の湯でも治らぬ病だとひな菊は答える。

そこへウエストサイド物語のような振り付けで登場したのは、牛五郎らが扮した新撰組だった。

月形半平太、覚悟!と刀を抜きかけるが、座敷にいたのは大石内蔵助と知り困惑する。

そこへ赤穂義士の扮装をした女優陣が登場し、新撰組と対立する。

そんな所に近づいて来たのが、月形半平太役の修と、お軽役のリンゴだった。

荷重では、三吉と花山が小雨の擬音を内輪で作るが、三吉が、先輩って天才だったんですねと褒めると、やっと最後になって分かってくれたんかと花山も喜ぶ。

舞台では、花吹雪が舞い、役者一同で踊っていた。