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坊っちゃん('66)

過去何度も映画化されて来たらしい有名な原作ものだが、個人的には初めて観る映画版「坊っちゃん」のような気がする。

当時、人気者アイドルだった坂本九ちゃんを主役としたアイドル映画でもある。

同じマナセプロ所属だった九重佑三子が、仲良しの娘役で出演している。

さらに、この作品の音楽も担当している古賀政男が、校長たぬきを演じているのも珍しい。

「百万ドルの明星 陽気な天国」(1955)など数本の映画出演経験はあるが、やはりゲスト出演としては珍しい人物だろう。

その古賀政男が、この作品で九ちゃんに古風な歌を歌わせているのは、当時、1968年が明治百年に当たると言う事で、ちょっとした「レトロブーム」になっていた風潮を意識したものだったようだ。

原作をはっきり覚えている訳ではないし、冒頭の列車で出会う女のエピソードなど、いくつかアレンジを感じるが、大筋はほぼ忠実に描いているような印象がある。

九ちゃんは、明るく、かつ江戸っ子らしく元気の良い主人公を好演している。

山嵐を、てんぷくトリオの三波伸介が演じているのは、当時、テレビの「九ちゃん!」と言う人気番組で共演していた関係らしい。

お馴染みのギャグ「びっくりしたなあ、もう」も、ちょっと押さえ気味に2度ほど披露している。

赤シャツの牟田悌三、野太鼓の藤村有弘、うらなりの大村崑なども、それぞれなかなか絶妙のキャスティングのように思える。

マドンナ役の加賀まりこも若々しいが、この当時は長いツケまつげで、フランス人形のような容貌をしている。

当時の松竹映画にしては、ベタベタした泥臭さはあまりなく、からっとした爽やかな青春映画になっていると思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1966年、松竹大船、夏目漱石原作、柳井隆雄脚本、市村泰一監督作品。

走る機関車

荷物置きから鞄を降ろした小川大助(坂本九)は、弁当の握り飯を取り出すが、その時、一枚の写真が足下に落ちたのに気づかなかった。

向かい合った前の席に座っていた女(香山美子)が、それを拾って渡す。

老婆が映ったその写真を受け取った大助は、キヨの事を時々思い出して下さい。坊ちゃんごきげんよう…と言ってくれた婆やキヨ(声-浦辺粂子?)の事を思い出しながら、握り飯を頬張る。

夜中になってとある駅に停まった時、事故の影響でこの列車はここまでです。次の列車は、明朝の9時大阪行きまでありませんというアナウンスが流れたので、大作は仕方なく列車を降りようとするが、前の席の女は、困ったように、どこか宿にでも泊まられるのですか?申し訳ないが、私をどこかの宿に連れて行ってもらえないだろうか?女一人がこんな時間に見知らぬ町で出るのは不安なので…と頼んで来たので、大作は憮然としながらも承知する。

ところが、見つけた宿では、2人を夫婦と間違えた宿側が、1つの部屋しか用意してくれなかったので、大作は、蚊に刺されながら縁側で1人座り込んでいた。

蚊帳の中の布団に座った女は、自分は構わないので、どうか中に入ってくれと言う。

それではと、蚊帳の中に入った大作は、自分は癇症で他人の布団には入れないので、少し、ノミ避けの工夫をしますと女に断って、布団の片方に、持っていた手ぬぐいをシーツのように何枚も広げて覆うと、その上に女に背中を向けて横になる。

それを見た女は、ずいぶん遠慮なさるんですねとおかしがり。あなたはよっぽど度胸がないんですね?まだ、お坊ちゃんなのねとからかう。

それを聞いた大作は、坊っちゃん?!と嫌そうに答える。

タイトル

四国松山に船で到着した大作は、人力車で赴任先の松山中学に向かう。

教員控室に校長(古賀政男)に伴われて入って来た大助は、その場にいた山村教頭(牟田悌三)と図画の吉川(藤村有弘)を紹介する。

山村教頭が、派手な赤シャツを着ているので、大助がじろじろ観ていると、赤い色は身体に良いとイギリスで流行っているので取り寄せたものだと自慢げに言うので、大助は、暑くないですか?夏にネルなんて?と素朴な疑問を問いかける。

落語家のような着物を着た吉川は、大作が東京から来たと言うと、自分と同郷なので懐かしいでゲスなどと太鼓持ちのようなお愛想を言う。

そこに入って来たひげ面の男を、校長は、大作と同じ数学教師の堀田(三波伸介)と紹介する。

松山城にやって来た大作に、案内して来た堀田は、どうして東京物理学校のような優秀な所を卒業した人間がこんな所に来たんだ?と聞くと、卒業する時、校長から四国に行かんか?と言われたので、あっさり了解しただけだと大作が答えると、今後は、先輩後輩の関係ではなく、俺、お前の関係で行こうじゃないかと堀田は喜ぶ。

その後、氷水を2人で食べながら、大助は、校長は狸、大作は山村教頭は赤シャツ、吉川はモグリの太鼓持ちみたいなので野太鼓と次々と思いついたあだ名を披露したので、愉快がった堀田が自分のあだ名を効くと山嵐だと言う。

お返しに、堀田は大作の事を生徒達は、坊ちゃんと読んでいると教え、今の宿に住んでいたら、いくら給料をもらっても追いつかないので、下宿を探すんだなとアドバイスする。

2人が店を出た所に通りかかったのは、同じ中学の英語教師古賀(大村崑)とその母親だった。

今日は父の回忌だったので、学校を休んだのだと古賀は、新任の大作に挨拶する。

その時、大作は、古賀の連れらしき、美しい洋装の女性に目を奪われる。

3人が立ち去ると、あのきれいな人は古賀のお嫁さんになる遠山那美(加賀まりこ)と言う人で、この辺では、西洋式で美人を意味するマドンナと呼ばれていると山嵐が教える。

大作はすぐに、古賀の事をうらなりとあだ名で呼ぶ。

山嵐は、本当に君はあだ名の天才だなと笑い、「びっくりしたなあ、もう…」と付け加える。

山嵐は、古賀先生の家は昔は裕福だったが、父親がお人好しだったため、他人の借金を抱え込んでしまい、今は苦しんでいるらしいと言う。

そして、生徒たちが大作の事を「坊ちゃん」と呼んでいることを知っているかと山嵐が言うので、田舎者に嘗められてたまるか!俺は俺の流儀で行く!と大作は力むのだった。

翌朝、小使いさん(三木のり平)が授業開始のラッパを吹く。

教室に入った大作は、黒板に、人力車に乗っている自分らしき落書きが大きく書かれている事に気づくが、気にしない様子で、三角形の合同に付いて話を始めるが、生徒が手を挙げ、もちっとゆるゆるとやって欲しいぞなもし…と言うので、江戸っ子の大作はむっとして、日本語がわかるのなら付いて来いと叱りつける。

ある日、大作が初めて宿直になった日の事、ゆっくり夕方、道後温泉に浸かって出て来た所を山嵐に見つかり、君は今日、宿直じゃないのか?と声をかけられたので、これから学校に戻る所だと大作は答える。

その堂々たる態度を観た山嵐は、又しても「びっくりしたなあ、もう〜」とつぶやくのだった。

宿直室の蚊帳の中の布団に横になった大作だったが、足下がもぞもぞするので、何事かと起き上がってみると、布団の中に多量のバッタが這い回っていた。

すぐに、小使いさんを呼び、掃除をさせた大助だったが、二階の寄宿舎の生徒3名が、階段から、大作のあわてぶりを観察していた事に気づかなかった。

小使いさんは、先生は、いつもここの生徒を田舎の中学生だからとバカにしていると言われていると教え、短期ですぐ怒り出す大作を諌める。

坊ちゃんというあだ名も、可愛いという意味で悪気はないのだと小使いさんは説明するが、生徒のいたずらだと気づいた大作は、二階から生徒たちの笑い声が聞こえて来ると、逆上して、階段を上って行く。

すると、水桶などが廊下に並べられ罠が仕掛けてあったので、それを難なく飛び越えた大作だったが、張ってあったロープに引っかかって転んでしまう。

さらに、ほうきの柄のようなものが差し出されたので、それを掴んで、中で持っている生徒を引きづり出そうとするが、逆に引っ張られた上に、戸を閉められたので、指を挟んでしまう。

堪忍袋の緒が切れた大作は、廊下に座り込むと、俺は一晩中動かんぞ!と宣言する。

やがて、戸を開け、廊下に顔を出した生徒を捕まえた大作は、主犯核らしき3人を宿直室に連れて行くと、何故バッタを布団に入れた?と詰問する。

すると、生徒の1人は、バッタとは何ぞなもし?それはイナゴじゃととぼける。

翌日、大作の下宿になった古賀先生の家の離れに、夕べは大変だったそうだな?と言いながらやって来た山嵐は、畳に置いてあった藤宮きよ子と書かれた手紙を見つけたので、お前の良い人か?などと興味を示すが、大作が呼んで良いというので中身を読んでみると、最近、持病のリュウマチが悪くて、1週間寝込んでいたなどと書かれているので不思議がる。

大作は、自分を育ててくれた婆やだと言うと、天下に、自分の事を心配してくれる知己が1人でもいるのは幸せじゃないかと山嵐は言う。

茶を持って来た古賀先生の母親が、息子はこの4年間、給料が上がっていないこともあり、遠山家からこの結婚はなかった事にしてくれ。今頃、親の決めた縁談など古くさいと言われたし、教頭先生も結婚を申し込んだとかと、寂しげに愚痴をこぼしたので、それを聞いた大作と山嵐は、それはおかしい。赤シャツならやりかねないといきり立つが、母親は、しょせんは人の噂だから穏便に…と2人をなだめる。

しかし、大作と山嵐は、すぐさま赤シャツの自宅を訪ね、遠山さんのお嬢さんに結婚を申し込んだのは本当かと詰問するが、野太鼓が側にいたこともあって、赤シャツは、人の噂は信用して、私の人格は疑うのですか?私は帝国大学出の学士ですぞと反論する。

それには、さすがの2人も言い訳が出来ず、すごすごと引き上げる事にする。

確かに、赤シャツを追求するには証拠不十分過ぎたからだ。

一方、赤シャツの家に遊びに来ていた野太鼓は、そろそろうるさくなって来た。坊ちゃんを釣りにでも誘って抱き込んだらどうでしょうと提案し、赤シャツも、そうだね…と応ずる。

そんな赤シャツたちの企みも知らない大作は、とある団子屋で好物の団子を何皿も注文して食べていた。

そんな大作の大食漢振りを呆れて観ていたのは、団子屋の娘山田小夜(九重佑三子)だった。

大作の方も、会話を交わしているうちに小夜の事が好きになり、夜、小夜が団子を持ってやって来た夢など観てしまう。

枕を抱いて目覚めた大作は、今日したるもの恥ずかしい!と自ら反省するのだった。

翌日、授業に向かった大作は、黒板に坊ちゃんと美人との相合い傘と、団子5皿うまいと書かれた落書きを発見する。

大作はそれを見て、団子が好きなのがどうして悪い!と開き直り、美人と言うのが、団子やの娘小夜の事だと言われると、あんな女は、東京には掃いて捨てるほどいる!などとつい言ってしまう。

さらに、いたずらも度重なると愛嬌がなくなる。悪意が見えて来る。学生たるもの、何を学ぶべきか、もっと考えるべきだろうなどと説教を始めるが、ふと気づくと、一人の生徒が、片手を机に出していない事に気づき、授業中に懐手など失礼だろう!手を出しなさい!と注意する。

すると、その生徒は恥ずかしそうにうつむき、後ろの席の生徒が、藤一は左手がないんじゃと教えたので、早合点した事を悟った大作は、その場で謝罪する。

しかし、職員控え室に戻った後も自分の軽率さを反省していたので、戻って来た山嵐が訳を聞き、藤一なら、子供の頃、丹毒を患って手をなくしたのであり、両親もいない。今は姉が墨田で団子屋をやっていると教えると、そう悩むなと慰める。

すると大作は、その姉さんの事も悪く言ってしまったのだと、大作はますます落ち込んでしまう。

次の日曜日、大作は赤シャツに誘われて、海に釣りに出かける。

しかし、全く釣りには興味がなかった大作は、ずっと船の中で寝ていたので、赤シャツと同行した野太鼓は、そろそろ弁当にしようかと声をかける。

喜んですぐに起き上がった大作は、自分の竿を上げて見るが、何と、糸の先には鯛がかかっていた。

浜辺で弁当を食いながら、赤シャツは大作に、君が学校に来てくれて生徒たちも喜んでいるが、世の中には敵も多く、学校にもいる。前任者もそうだったが、バッタ事件なども、誰かが煽動してしたって言うものもいる。先日の事にしてもそうだ…と言うので、それは山嵐の事ではないかと大作は気づく。

しかし、大作がその名を出して聞くと、赤シャツは、誰とは言っとらんと巧くかわすのだった。

その後、料亭で馴染みの芸者小鈴(市川瑛子)と会った赤シャツは、遠山さんのお嬢さんと結婚すると聞いたか本当か?と、又責められる事になる。

教員控え室で、何となく落ち込んでいる大作を観た小使いさんは、郭の女にでも振られたのかね?と冗談を言うが、そこに山嵐がやって来て、隣の机に座ったので、大作は、以前借りた氷代だと言って小銭を返そうとする。

山嵐は不思議に思い、何を言っている?と受け取ろうとしない。

しかし、大作は、執拗に小銭を返そうとする。

そんな2人の様子を、教頭席から赤シャツはニヤつきながら観察していた。

やがて、職員会議が始まり、校長は、バッタ事件について忌憚のないご意見を…と言い出す。

立ち上がった山嵐は、最近の教師の中には外国の考えや生徒に媚びているものがある。宿直にも関わらず、温泉に入っていたものもいたので注意して欲しいと言うので、すぐに立ち上がった大作は、確かに自分は、宿直の日に温泉に入ったのでお詫びするとその場で素直に謝罪するのだった。

そんな大作に赤シャツは、すかさず、教師はあまり上等ではない所へ出入りしない方が良いでしょう。蕎麦屋や団子屋など…、もっと精神的な娯楽を楽しむべきでしょうなどとと言い出したので、温泉宿で芸者と戯れるのは精神的娯楽ですか?と山嵐が鋭く突っ込みを入れる。

しかし、また赤シャツはとぼけるだけだった。

その後、藤一が学校を休んだので、心配して、又、団子屋に出向いた大作は、姉の小夜から、実は寄宿舎でバッタ事件を言い出したのは弟だったので、今日、職員会議でその事が議論されていると知って、学校に行けなくなったのだと聞かされる。

大作は、この前、知らずに藤一の腕のことを言ってしまったので怒ったのかな?と思ったので…と打ち明け、あなたの事も…と顔色をうかがうが、小夜は何も知らない様子だった。

小夜から呼び出されて顔を出した藤一は、バッタ事件の事を素直に謝罪したので、大作は許し、奥に上がって、小夜に団子を注文すると、藤一には小声で、姉さんにあの事言ってないか?と確認する。

藤一は、先生が本気じゃない事は分かっていたので、何も言っていないと笑いながら答える。

部屋には、藤一が趣味で造ったらしい船の模型があったので、船が好きなのか?と大作が聞くと、船を造る技師になりたいらしいんですけど、この身体では…と団子を持って来た小夜が哀しげに言う。

それを聞いた大作は、これからの日本を作るのは頭脳だ。君は数学が出来るんだから、もっと自信を持て。俺も多いに相談に乗るからなと励ますのだった。

次の宿直日、寄宿舎の風呂に入った大作は、生徒たちが裸で待っている事に気づき何事かと問う。

生徒たちは、先日のバッタ事件の謝罪をしに来たと言い、それを聞いた大作もその場で許してやる。

先生に敬礼!と生徒たちは片手を上げるが、一人は腰に巻いた手ぬぐいが落ちてしまい、湯船につかって罰が悪そうな顔をする。

その日、帰宅して来たうらなりは、給料の事を東京に言ったら、九州へ行けと言われてしまった。転勤です。向こうに行けば5円、給料が上がると言われたと母親に伝える。

母親はそれを離れにいた大作に伝えると、大作は考え込みながら、茶菓子として出されていた桜餅を食べる。

その頃、赤シャツは、家庭教師として那美に英語を教えていたが、古賀先生が九州に転勤なさるそうですが?と聞いてきたので、希望通り、給料が少しでも多い方が良いと言ったそうで、宮崎県の延岡と言う所へ行くそうですと教える。

すると、那美は、私のためじゃないかしら?と顔を曇らせたので、赤シャツは、結婚して、一緒に延岡に行かれるのでは?と尋ねるが、そこにやって来た母親が、この子は、先生のような将来性がある方の方が…と口を添えながら赤シャツの顔を見る。

翌日、校長に、古賀先生の転勤について抗議しに行った大作だったが、校長は、先ほど堀田先生も同じ事を言いに来たが、今回の話は古賀先生ご本人も喜んで承知なさった話だと言う。

教員控室に戻って来た大作は、古賀先生の事については、どうしても理屈では校長に負けてしまうと言う山嵐に対し、俺はどうやら君の事を誤解していたようだと説明し、ずっと机の端に置いていた「氷水代」の小銭を自分の懐に戻したので、ようやく山嵐も和解できたと知り笑顔を見せる。

うらなりは、遠山家を訪れ、応対に出た那美の母親に転勤の挨拶をし、那美にもご挨拶をしたいと申し出るが、母親は、那美は風邪で臥せっているのでお会いできないと拒絶する。

がっかりして帰りかけたうらなりだったが、庭先で洋傘を指して待っていたマドンナと出会う。

2人は近くの海辺に出かけ、マドンナは、うらなりの転勤は、自分が結婚を断ったためではないかと聞く。

しかし、うらなりは、あなたのような方と結婚しようとしていたなんて、自分が身の程知らずでしたと謝罪する。

マドンナが教頭と結婚するかもしれないと言うと、うらなりは、おめでとうと言い、あの方は、どんなに出世なさるか分からない方です。あなたが幸せになる事なら嬉しいですと赤シャツの事を持ち上げる。

その頃、自宅の大作を招いた赤シャツは、君の昇級の事に着いて話があると切り出し、この前の釣りの時に行った事を忘れないようにと意味ありげな事を言い出す。

忙しくなるのですか?今でも手一杯なのですが?と大作が牽制すると、むしろ、今より時間は減るだろう。重大な責を持ってもらう事になるからと赤シャツは遠回しに答える。

やがて、うらなりこと古賀先生の送別会が行われる事になる。

昇級の話を聞かされた事を隣に座った山嵐に伝えると、それは、俺を免職にして、君を数学主任にする気だと山嵐は推理する。

奴の叔父は県の有力者なので何でも思いのまま出来る。今度のマドンナの件だって…しかし、証拠がない。どんな悪事を企んでも、証拠を残さないんだと山嵐は悔しがる。

その時、当の赤シャツが挨拶を始める。

山嵐もその後立ち上がり、当地とは違い九州の人間は純朴で、人を貶めるような人間はいないはずなので、古賀君は好運だなどと皮肉まじりの挨拶をする。

そのあ言葉に拍手した大作も立ち上がり、向うで立派になって、跳ねっ返りの娘を見返してやって下さいなどと発言し、山嵐から拍手を受ける。

それに対し、うらなりも立ち上がり礼を言うと、後は無礼講になる。

その時大作は赤シャツに向かい、月給の話も、重大な責任を持つのもお断りしますと声をかけ、こんな所で…と赤シャツの顔をしかめさせる。

やがて、野太鼓が踊り始め、次いで、山嵐が剣舞をやると言い出し、真剣を手にして舞い始めるが、赤シャツと野太鼓に剣を突きつけたりして脅かす。

そこに芸者たちが入って来て、芸者の小夏は、そんな赤シャツにしなだれかかり甘え始めたので、慌てた赤シャツは小夏を廊下に誘い出し、ここでは普通に接してくれなきゃ困るよと注意する。

そんな赤シャツと小夏の様子を観ていた山嵐は、あれが赤シャツの馴染みだ。何とかごまかそうと苦労していると大作に耳打ちする。

大作は立ち上がり、石川啄木の「春まだ浅く」を歌い始める。

その歌を聴きながら、うらなりは涙ぐむ。

そのうらなりが船で九州へ出発する日、山嵐と共に見送りに来ていた大作は、遠くで観ているマドンナの姿を発見する。

その後、団子屋に出向いた大作だったが、祭りの日と言うこともあって、店内は満員で、小夜もてんてこ舞いのようだった。

藤一は祭りに行っているので、奥へ上がってくれと勧められた大作は、見よう見まねで団子作りを始める。

その頃、その藤一は、慌てて走って来ると、町中で出会った山嵐に、市販の学生たちと家の生徒が喧嘩をしていると教える。

のんきに歌を歌っていた大作の元に戻って来た藤一は、同じ事を伝えたので、大作は喧嘩が行われていると言う河原へ向かう。

大作と山嵐は、河原で行われていた大乱闘に入り、必死に生徒たちを止めようとするが、そこに警官がやってきたので、生徒たちは一斉に逃げ出してしまう。

その後、事件を報じた新聞には、300名乱闘、教師が煽動の文字が載っていた。

校長室に呼び出された大作は、松山中学の名誉を傷つけられたと説教され、赤シャツからも、団子屋のまねごとをしていたとは皮肉られる。

校長は、新聞の影響は強いからな…と頭を抱え、堀田先生は新聞社に抗議に行ったようですと赤シャツは教える。

お二人には責任を取ってもらいましょうかと告げられた大作は、下宿に戻ると、自ら辞職願いを書き始める。

そこにやって来た山嵐も、今、辞表を出して来た所だと言う。

大作は、東京に帰ることにする。その方が、婆やも喜ぶと漏らす。

山嵐は、あの新聞記事も、教頭の陰謀だと分かったが、奴らは又抜け道を用意している。どうせ辞職したんだ。じっくり監視しようと大作に告げる。

大作はその後、遠山家のマドンナを訪れ、古賀さんの所へ行ってくれませんか?あの人は赤シャツとは比べ物にならないくらい君子ですと頼む。

しかし、マドンナは、教頭先生は風采がおありじゃありませんか?と反論するが、赤シャツは一緒になってはいけない奴です。人を貶めるような奴はいけません。古賀先生を延岡にやったのは、あなたとの事の邪魔になるからだんです。あの男には芸者がいますと説得する。

マドンナは驚き、それは確かですか?と聞き返すので、大作はつい、むろん確かですと断言してしまう。

古賀先生をもう一度見直してやってくれませんか?古賀さんの心の中は、あなたへの愛で燃えているんですと、懸命に頼む大作を観ていたマドンナは、決心しました。古賀先生を追うべきか、世間一般の幸せを掴むべきか迷っていましたと言い出す。

大作は、では、古賀先生の所へ?と問いかけると、マドンナは力強く頷くのだった。

それを見届けた大作は、もうこれで思い残す事はなくなりましたと言い、笑顔で茶菓子を口にする。

その夕方から、大作と山嵐は、料亭「角屋」の前にある団子屋の二階で張込みを始める。

しかし、5日間、赤シャツの姿を見つける事は出来なかった。

その日は、先に小鈴が「角屋」に入り、2時間にもなるのを確認していたが、なかなか赤シャツは姿を現さなかった。

そこに、小夜が茶を持って上がって来る。

大作と山嵐が感謝して茶を飲みかけた時、代わりに窓から下を覗いていた小夜が、来ました!と告げる。

慌てて、大作と山嵐が窓から覗くと、確かに、赤シャツと野太鼓がそろって「角屋」の中には行って行く所だった。

すぐにも飛び出そうとした大作を押さえた山嵐は、今行っても、又、言い逃れをされるだけだ。夜明けを待って奴らを捕まえようと言う。

徹夜で見張りをする2人だったが、朝方、赤シャツと野太鼓が店を出て来た時には、ぐっすり寝入ってしまっていた。

そこに、小夜が起こしに来たので、慌てて部屋を飛び出して行くが、小夜はそんな2人に、朝食代わりと言って生卵を手渡す。

赤シャツと野太鼓が橋に近づいた時、小鈴と小夏が追いかけて来る。

赤シャツは外で馴れ馴れしくして来る2人を露骨に迷惑がり、芸者2人を追い払う。

橋を渡り始めた赤シャツと野太鼓は、大作たちの悪口を言い始める。

そのたもとの岩陰に隠れていた大作と山嵐が、そんな2人の前に飛び出ると、渓流沿いの岩場に引っ張り込み、ビンタをした後、懐に入れて来た生卵をぶつける。

そして大作は、マドンナは古賀さんを追って延岡に行く事になったぞと、倒れ込んだ赤シャツに教えるのだった。

いよいよ、船着き場で、大作が船に乗り込む時が来る。

小夜、藤一と共に見送りに来た山嵐は、坊ちゃんは無鉄砲だがまたとない良い男だと、キヨさんに伝えてくれと大作に告げる。

小夜は、持って来た団子を、これは私の顔です。私ですと言いながら大作に手渡す。

大作を乗せた連絡船が就航すると、近くの岬から帽子を振って見送る中学生たちの姿が見えた。

四国の味も忘れんといておくれなもし…そう言う小夜の顔が思い出された大作は、甲板で懐に入れていた団子の包みを取り出すと、笑顔で頬張るのだった。