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東京の恋人

三船敏郎と原節子と言うコンビに、森繁まで絡むと言う今考えると豪華なキャスト陣で描く都会派コメディ。

中央部がパッカ〜と開閉していた時代の勝鬨橋の本物映像がふんだんに出てくるだけでなく、ストーリーにもしっかり絡んでいる。

当時の勝鬨橋の上には路面電車が通っており、つまり、上下二本のレールも橋の上に刻まれており、それも中央部で別れていたと言うことを今回知った。

本物と偽物のダイヤの指輪をめぐるドタバタ劇と、薄幸な運命の女性の最期が同時に進行して行く。

いわゆる「泣き笑い」劇だが、全体的にからっとした印象なのは、明るい歌なども織り交ぜた東宝カラーだからだろう。

戦後の原節子は、黒澤とか小津監督と言った巨匠たちの作品でまじめと言うかどこか重い(?)演技をたくさん残し、それがどこか近寄りがたいオーラを発すイメージになっているような気がするが、個人的には、こうした軽い喜劇で見せる爽やかな笑顔の娘役の方が魅力的に見える。

三船も、まだこの時代は、後年の怒鳴るような三船独特のワンパターン演技になっておらず、爽やかな青年をそれなりに器用にこなしているように見える。

森繁の女好きな社長と言うキャラクターはもう完成しており、清川虹子、藤間紫と言った達者な姉御たちを向こうに回し、最終的には弱気なダメ男をきっちり演じてくれており笑える。

小泉博が、あまり目立たない脇役の一人と言うのも珍しい気がするが、これだけ芸達者がそろうと、当時はこの程度のポジションだったのかもしれない。

所で、宝山堂の妻役を演じている澤村貞子が、くしゃみをした後、必ず肩を自分でとんとんと叩く描写があるのだが、何かおまじないなのだろうか?

東京独自の風習なのか、当時は日本全国どこでもお馴染みの動作だったのか?映像も含め、あまり観たことがない動作だ。

水が干上がった川底なのか、窪地にバラック小屋が連なっている映像など、戦後間もない頃の東京中央部の風景が観られるのも貴重。

 

 

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1952年、東宝、井手俊郎+吉田二三夫脚本、千葉泰樹監督作品。

正太郎(小泉博)忠吉(増渕一夫)大助(井上大助)の三人は、今日も明るく朝から歌を歌いながら靴磨きの仕事に出かける前に、アパート住まいのにがお絵描きユキ(原節子)に声をかける。

すると、二階の窓から顔をのぞかせたユキが、余り物の食べ物を下に放って寄越す。

しかし、その日は、大助の分がなかったので、大助はむくれるが、玄関に降りて来たユキは、ちゃんと大ちゃんの分も持ってきてくれる。

三銃士を気取る3人の青年たちとユキは、いつも4人そろって路面電車の乗って銀座へ出かけるのだった。

勝鬨橋を通る時、ちょうど橋の中央部が開く時間にぶつかったので、電車は一旦停止するが、川の中央を走って行くモーターボートを観ながら、水上ジェットに乗りたいななどと大ちゃんたちは話し合っていた。

そんな会話を聞きながら、同じように川を観ていた彼らのすぐ横に乗っていた一人の青年黒川(三船敏郎)が、切符を売りに来た車掌に切符代用の細かい金を持っていないと言い始める。

車掌の困りましたなと言う声を聞いていたユキは、自分の小銭を大ちゃんに渡して、その黒川に貸させる。

大ちゃんは、自分たちはいつも並木ビルの前にいるから、返すのはいつでも良いよと声をかけ、黒川は恐縮して小銭を借り受ける。

ユキは、その黒川に札を財布にしまう時、洒落た指輪やタイピンをしているのをつい見てしまう。

一見金持ちのように見えたのだ。

並木ビルの前に到着した三銃士たちは、いつもの通り路上に店を広げ始め、ユキも並木ビルの下に三脚を立て、見本の似顔絵を並べる。

すると、地元のヤクザ山本(河村黎吉)が近づいてきて、今度、一緒に拳闘でも観に行かないかとユキに声をかけてくる。

ユキは迷惑がり断ると、三銃士の3人が山本を囲んでにらみを利かせる。

すると、山本は、こんなチンピラが付いていたか、覚えてやがれと捨て台詞を残して去って行く。

そんな並木ビルと路地一つ隔てた隣には「宝山堂」と言う宝石店があり、そのショーウィンドーには50万円と値札が付いたダイヤの指輪が飾ってあった。

その前の道に車で乗り付けてきたのは、並木ビルの中にある「赤間工業」の社長赤間(森繁久彌)と、「お多福」と言う小料理屋の女将で愛人の小夏(藤間紫)だった。

小夏は、ショーウィンドーの中の指輪をめざとく見つけると、赤間におねだりを始める。

一方、赤間の方は生返事をしながら、ショーウインドーの中の鏡に映るユキの美貌に見とれていた。

その後、小夏を引き連れ、並木ビルの中の会社に出社した赤間は、パチンコ玉が売れていますと言う社員の報告を聞く。

その時電話がかかり、受話器を取った小夏は、相手が赤間夫人の鶴子(清川虹子)だと知ると、今、社長は、ちょっと席を外していますなどとさんざんじらし、あわてて止めようとする目の前にいた赤間から、さっきの指輪を交わせる約束を取り付ける。

電話を代わった赤間に、鶴子は、夕べはどうした、一昨日はどうしたと、次々に最近毎晩のように帰りが遅い亭主に質問を投げかけ、今日は、何があっても早く帰って来るようにと命じる。

外の路上では、黒川が大ちゃんに、借りた小銭を返しにくるが、貸したのはあの人さと、ユキを教えられたので、黒川は礼を言いながら金を返そうとする。

しかし、それは貸した額より大きい札だったので、ユキはお釣りを持っていないと断る。

黒川は釣りなんか良いよと札を押し付けようとするが、ユキが固辞するので、結局、大ちゃんに靴磨き代の前払いとして両替してもらい、きっちりした金額をユキに返すと、大ちゃんには靴を磨いてもらうことにする。

代ちゃんの隣に座っていた忠ちゃんこと忠吉が、玩具のカメラをいじっているのを観た黒川は、そんなもので写るかい?と聞く。

その後、宝山堂にやって来た黒川は、主人(十朱幸雄)から注文されていたダイヤの指輪のイミテーションを差し出す。

彼は、イミテーション作りが仕事だったのだ。

主人は、妻(澤村貞子)にショーウィンドーに飾った本物の指輪を持って来させると、二つを見比べながら、本当にそっくりだと、黒川の仕事を褒める。

本物は金庫の中にしまわせようと妻に渡した時、店に入ってきたのが小夏で、主人が持っていたイミテーションの指輪を良く見せてくれと言うと、やっぱり本物は良いわねとうっとりする。

主人はそれは偽物で、本物はこっちの方ですと言いながら、妻が持っていた本物の指輪を見せると、小夏はその指輪をぺろりと嘗め、やっぱり本物は酸っぱいわねなどと妙なことを言い出す。

その言葉に釣られた主人までもが、本物の指輪を手にすると、ペロペロなめ始めたので、横で観ていた妻は不機嫌になる。

黒川は呆れて帰ってしまうが、その後、小夏は、赤間にはこのイミテーションの方を売って、差額のお金を私に頂戴などと言い出す。

偽物を本物の料金で売るなどと言うことは出来ないと主人が驚くと、小夏は、本物を売って、私がそれを返しにくるから、差額分と偽物を私がもらえば良いのよなどと入れ知恵をする。

その間、偽物と本物の二つの指輪は、ショーケースの上に並べて置いてあったが、妻が本物を金庫にしまおうと手を伸ばしかけた時、くしゃみをした弾みに、偽物の方を掴んで持って行ってしまう。

主人は、残った本物を偽物と思い込み、ショーウィンドーに飾ることにする。

外に出た黒川は、ユキに似顔絵を描いてもらうことにするが、赤間工業の給仕のタマ子が近づいてじろじろ観たので、恥ずかしげに出来上がった絵を持って帰ってしまう。

タマ子はユキに、うちの社長さんが来てくれって。大きな肖像画を書いてもらいたいと言っていると伝える。

会社に行ってみたユキは、赤間社長と、明日の午後1時〜2時まで絵を描きにくると言うことで約束し、桃の缶詰とタバコを買って来いと言いながら、タマ子にパチンコ玉40個渡し、これは接待用だと社員に帳簿に書かせる。

表の大ちゃんに靴磨きをさせていたのは、ユキと同じアパートの住民で、この近辺を縄張りをする街娼のハルミ(杉葉子)だった。

戻って来たユキから赤間に呼ばれたと言う話を聞くと、赤沢って嫌な奴だから気をつけた方が良いと忠告する。

その後、ハルミは一日立っていたが、一人の客も捕まえられないうちに夜を迎える。

ハルミは咳き込むようになっていた。

ビルから退社してきた赤沢は、こちらも帰りかけたユキに、お近づきの印に食事でもいかが?と誘うが、ユキは連れがおりますので…と三銃士の三人を紹介する。

がっかりした赤間に、私がお相手しましょうか?とハルミが声をかけるが、赤間はしらけてそのまま宝山堂に入ると、指輪の偽物を作ってくれないかと主人に依頼する。

そのショーウィンドーの指輪はイミテーションですと、間違えて本物を飾っていることに気づかぬ主人が説明すると、ではそれを売ってくれと言う。

その頃、ハルミは町をさまよい歩くが、やがて雨が降ってくる。

やがてハルミはふらつき始めるが、それに気づいたのが、ちょうど通りかかった黒川だった。

黒川は、ハルミの身体の異状に気づくと、アパートまで連れて行くが、向井の部屋のユキが、帰って来たハルミと黒川に気づく。

黒川が、この人熱があるようなんだけどと伝えると、医者を呼んできますとユキが言うので、僕が呼んで来ますと言いながら黒川はアパートを出る。

横になったハルミはユキに、あの人の名刺をもらっておいてと頼み、ユキは玄関に降りて行くが、もう黒川は車を停め、近くの診療所へ向かった所だった。

診療所に来ると、出てきた看護婦が、先生は今蕎麦屋に行っていると言うので、黒川は、その看護婦を連れてその蕎麦屋に向かうが、すでに医者は食べ終え、銭湯に行ったと店員が言う。

それで、黒川は、その銭湯の男湯から、猿股姿の医者(柳谷寛)を呼び出すと、そのままアパートまで送り届けると、よろしく頼むと言いながら車で帰ってしまうのだった。

翌日、宝山堂に来たのは小夏だった。

赤間からもらった指輪を本物と思い、さっそく買い戻させに来たのだが、主人から、昨日、赤間社長は、本物なんかに用はないとおっしゃって、偽物を安くお売りしましたと聞くとまあと呆れる。

赤間は、会社にキャンバスを持ち込んだユリのモデルになっていたが、実はこの会社も景気が良くなったので秘書を欲しいと思うのだが、あなたは興味はありませんか?などと話しかけ、その度に、姿勢を崩さないで下さいと百合にたしなめられる。

そこにやって来たのが、騙されたと知った小夏で、ポーズをとっていた赤間に食って掛かる。

あんたは、私にこんな偽物の指輪なんかくれて!自分の女房は名前ばかり上品だが、実際はデブヅルで、私は顔も身体のそそられるって言ってたじゃないですか!などとまくしたてていた背後の入口には、そのデブヅルこと鶴子が立って顔を紅潮させていた。

それに気づいた赤間は青ざめるが、小夏の方はまだ気づいてないのか、延々と鶴子の悪口を言い続けていた。

やがて、その鶴子が小夏を押しのけると、赤間を責め始める。

逆上した鶴子は、商売もののパチンコ玉を握りしめると、豆まきのようにそこら中に撒き始める。

会社の窓は破れ、並木ビルの下を通っていた通行人は、突然上からパチンコ玉が降ってきたので騒然となる。

そんな中、机の下に避難していたタマ子は、小夏が手放したダイヤの指輪が目の前に転げ落ちて来たのを発見する。

社長のイスに座った鶴子の興奮が収まった頃、タマ子が、これが落ちていましたと偽のダイヤの指輪を鶴子に返す。

その時、ユリはその鶴子を立たせると、赤間に又座って下さいと事務的に伝え、又、絵を描き始める。

鶴子は赤間にこれの本物を買って頂戴!そして、温泉に連れて行くのよと命じ、赤間は、ただ素直に「はい!」と答えるしかなかった。

鶴子は、あんなものは給仕にでもやっておしまいなさいと叱るので、赤間は昨日買ったばかりの指輪(実は本物)をタマ子にあげてしまう。

その偽物と勘違いされた本物のダイヤの指輪をもらったタマ子は、嬉しそうに三銃士たちと電車で帰っていたが、大人用の指輪は、まだ子供のタマ子には大き過ぎてぶかぶかだった。

翌朝、アパートに来てハルミの往診をしていた医者は、見舞っていたユリに送り出される時こっそりと、経過は芳しくないと打ち明ける。

肺病のようだった。

医者が帰ったあと、ハルミの側に戻ってきたユリは、希望を失っているハルミを叱咤激励するが、例え病気が治っても、その後の未来に夢が持てないハルミはどこかむなしそうだった。

そこに顔をのぞかせた三銃士の面々は、卵や花や、玩具のカメラであまり巧く写らなかった写真などを見舞い品としてハルミに渡す。

その写真を観たユキは、そこに、並木ビルの前でハルミと一緒に写っている黒川の姿を発見する。

その日、三銃士たちがいつもの通り銀座へ出かけると、昨日のヤクザが子分たち(堺左千夫ら)を引き連れて前に立ち塞がると、ちょっと顔を貸せとすごんでくる。

その様子を偶然観かけたのが、たまたま近くを通っていた黒川で、人通りの少ない裏町に連れて行かれた三銃士の後を追って行き、乱暴しようとしか買っていたヤクザに、止めておけ、そいつらの仲間が銀座8丁目に何人いるか分からんぜと声をかける。

ヤクザはしらけ、その場は子分を引き連れて帰ってしまう。

感激した三銃士は、黒川に会えたことを喜び、黒川はそんな三銃士を茶店に連れて行き、アイスクリームをごちそうしてくれる。

三銃士ははじめて食べる本物のアイスクリームに感激するが、ハルミさんからあんたの名刺をもらってくれと言われていると頼む。

ハルミとは、昨日あなたに助けられた病気の娘であり、ユリと言うのが似顔絵書きの名前で、三銃士たちの憧れの仲間と知った黒川は、僕も君たちの憧れの仲間に入れてくれと頼み、名刺も手渡す。

ユリが病院から薬をもらってハルミの部屋を訪ねると、ハルミは何かを布団の中に隠したので、何を隠したの?どうして隠すの?と聞くと、田舎の母親からの手紙だと言う。

かねてより、母親は死んだと聞いていたユリは驚くが、実は母親は、戦争で父親を失った後、一周忌も住まないうちに再婚したのだと言う。

連れ子って辛いものよと言うハルミの話を聞いたユリは同情する。

そんな母も、自分に背いた娘のことが心配らしいので、返事を書きたい。代筆してくれないかとユリに頼む。

ユリは承知し机に向かうが、ハルミは、お母さん、私もますます元気ですと噓を言い始める。

呆れたユリだったが、ハルミはさらに、この春、落ち着く所に落ち着きました。お母さん、驚かないでね。私結婚したのよ。今、この手紙を書いているアパートは6畳1間ですけど、世界で一番の愛の巣よ。主人は造船所の職工で、金持ちではないけどとても優しく、休みの日は、炊事やお洗濯を手伝ってくれます。この前、私がちょっと風邪を引いた時、銭湯に行っていたお医者様を裸のまま連れてきてくれたりしたくらいです…などと言うので、途中でユリはそんなことは書けないわと戸惑うが、ハルミの真剣さに負けて書いてしまう。

友達が撮ってくれた写真を同封しますと言い、ハルミは、忠吉がくれた黒川と一緒に写った写真を一緒に送ってくれとユリに頼む。

ユリは複雑な表情になる。

後日、ユリは三銃士と一緒に、黒川の自宅を訪ねて行く。

名刺の住所を探していた彼らだったが、意外なことに黒川の家は金持ちでもなんでもなく、貧相な一軒家だった。

玄関で声をかけると、クリーニング屋だと勘違いした黒川が裏に回ってくれと言うのでそちらに向かうと、黒川は上半身裸になり屋根の修理をしていた。

やがて、クリーニング屋ではなく、ユリたちだと気づいた黒川は恐縮し、はしごを降りてくるが、道具箱を上に忘れたと言い、大ちゃんに取りに行かせ、一行をうちの中に招き入れる。

屋根に上った大ちゃんは、富士山が見える!と喜ぶ。

全員、店屋物の夕食をすませると、すっかり上機嫌になった黒川は「春高楼の花の宴〜♩」と「荒城の月」を歌い出す。

帰るみんなを送りがてら、ユキと一緒に夜道を歩いていた黒川は、亡くなった父が宝石商をやっていたので、見よう見まねで自分もブローカーのようなことをやっていると打ち明ける。

ユキも、はじめてお会いしたときは、ずいぶんキザな方だと思っていましたわと打ち明ける。

三銃士の歌を歌い出した三人を観ながら、気持ちのいい連中ですねと黒川が褒めると、心の中に宝石を持っている人でしょうねとユリも答える。

翌朝、海辺に建つ高級マンションの一室で目覚めた鶴子は、洗面所で顔を洗おうとし、指から外したダイヤの指輪を一旦小物置の上に起き、歯磨きを取ろうとしたとき、その歯磨きチューブが指輪をはじいてしまい、指輪は洗面台の吸水口に落ちてしまう。

驚いた鶴子は、まだベッドで寝ていた赤間を叩き起こすと指輪を落としたと騒ぎ出す。

50万もの指輪(実は偽物)を落としたと知った赤間は驚いて飛び起きると、釣り竿の糸を吸水口の中に入れてみる。

すると、海抜300尺もある部屋だったので、延々と糸は伸び、竿を持った鶴子にリールを巻かせてみると、何と糸の先には魚が釣れていた。

その後、赤間はマンションの管理人を呼び、100万もする指輪を落としたと嘘を付き、パイプを分解させてみるが、指輪は見つからなかった。

その頃、馴染みの食堂に集まった医者、三銃士とユリ、給仕のタマ子らは、ハルミの治療費が1日500円はかかると知り、みんなで協力して金を出し合おうと相談していた。

食堂の主人も食料を分けてくれるし、女店員も協力を約束してくれた。

ある日、宝山堂にやって来た鶴子は、水洗便所の水槽に浸かっていたのを見つけたが、輝きが悪くなったので磨き直してくれないかと指輪を主人に見せるが、それを見た主人はこれは偽物ですと言い出す。

ちょうどそこに黒川が来たので観てもらうと、黒川も即座に、これは僕が作った偽物ですと言うではないか。

じゃあ、偽物を売ったのか!と憤る鶴子に、主人はあわてて、赤間さんには本物と偽物の両方をお売りしましたと説明する。

ではその本物はどこにあるのかと不思議がった鶴子は、給仕のタマ子にやった指輪がそれだと気づく。

その話しを一緒に聞いていた宝山堂の妻は、自分が最初に取り違えたことなど知らないで、一体どこで入れ替わってしまったんでしょうね?と不思議がると、またもやくしゃみをしてしまうのだった。

自宅に戻って来た鶴子は、風呂につかっていた赤間に対し、一体、もう一つの指輪は誰にやったの?と問いつめると、お前が給仕にでもやってしまえと言ったから、タマ子にやったよと答えるが、鶴子はあのフーチャカピーチャカにやったんじゃないの?と小夏を疑い、取り返さないと、そんな首なんかちょん切るわよと脅すが、興奮し過ぎてシャワーのコックをうっかりひねってしまったので、頭から水をかぶってしまい、慌てて赤間の方に寄りかかったので、赤間も風呂の中でひっくり返ってしまう。

その頃、本物だとも知らずに指輪をはめて電車に乗っていたタマ子は、ユリや三銃士たちに、ハルミさんの為に、これを売ろうかしらと相談していた。

窓が開いていたので、指輪をいじりながら外を観ていたタマ子は、ちょうど勝鬨橋の中央付近を通過中、ゆるかった指輪を窓から落としてしまう。

指輪は、ちょうど橋の開閉部分の真ん中に落ちる。

慌てたタマ子と三銃士たちは次の駅で電車を降りると、勝鬨橋が開き始め、タマ子らは係員に止められてしまう。

指輪は、開いた橋の中央部から隅田川に落ちてしまう。

正太郎などは、薬指にはめずに、親指にでもはめておけば良かったんだよなどとタマ子に注意するが、ようやく橋が閉じ、通行が出来る時には、もう指輪はどこにも見つからなかった。

タマ子は、川に落ちてしまったのよ。もっと早く売っておけば良かったわと悔やむが、そんな探し物をしている三銃士たちの様子に気づいた警官の橋爪も声をかけてくる。

出社したタマ子は、赤間と鶴子から、指輪を返すよう求められるが、川に落としてしまったと答えると、嘘をつくなと叱られてしまう。

証人がいますと、タマ子は反論し、三銃士とユリを連れてきて、指輪を落としたことを証言してもらうが、興奮した赤間と鶴子は、お前らグルになっているな?と疑いのまなざしで迫る。

それを聞いたユリは、私たちには誇りがあります。今の言葉を謝って下さいと憤る。

しかし鶴子も、こんな大道芸人や浮浪児たちに言っても無駄よと屈辱し、警察に連れて行きましょうと赤間に勧める。

警察署には、宝山堂夫婦、小夏、黒川、橋爪警官など関係者たちが全員呼ばれ、警察署長(小杉義男)が、全員から証言を聞き、判断を下すことになる。

その結果、犯罪の事実はなく、ちょっとした行き違いがあっただけと言うことが分かる。

警察署からの帰り道、宝山堂の妻は又くしゃみをし、肩を叩きながら、誰が本物と偽物を間違えたんでしょうね?と嘆くが、主人は、お前だって、私と結婚する時、私を仲人と間違えたじゃないかと呆れる。

黒川と一緒に帰っていたユリは、そもそもあなたが平気で偽物なんかを作っているからみんなが迷惑をするんです。私は偽物なんか大嫌いです!と言い出し、黒川を当惑させる。

黒川は一体どこが悪いんです?と反論しながら歩いていたが、やがて二人は勝鬨橋にさしかかる。

僕はまだ話があるような気がするんですが?と詰め寄る黒川だったが、残っているのは、二人がどこで別れるかだけじゃありませんか?と言うユリの冷たい返事で封じられ、さらに開閉を始めた橋を早足で先に渡ってしまったユリと、渡り損ねた黒川は、川の両岸に立ち、互いに無言で見つめ合うのだった。

むしゃくしゃした黒川は、小料理屋「お多福」にやって来る。

小夏は喜び、いじわるね。もっと早く来て下さるかと思っていたのに…と甘え出し、奥の座敷に案内する。

指輪代50万が手に入ったら、20万で店をきれいにし、20万で電話を引き、10万で着物や帯などたくさん買って、残りを赤十字に寄付するつもりだったのなどとぬけぬけと言う小夏に、黒川は呆れる。

一方、どうしても指輪が取り戻したい鶴子は、パイプの分解に3万8000円もつぎ込んだが無駄だったと嘆いていた。

赤間は仕方なく、後6万2000円ほどかけるかと答えるが、鶴子は川をさらうのよと言い出す。

それを聞いた赤間は、相手は隅田川だぞと呆れる。

アパートで寝ていたハルミの容態は悪化していた。

チョウチョが見えるなどと熱でうなされ始めたのだ。

医者は、身寄りのものを呼んだ方が良いかもしれないと告げ、ユリは田舎のお母さんを呼びましょうと言うので、正太郎が手紙の住所に電報を打ちに行く。

しかし、今から連絡したのでは、母親が到着するのは明日になるはずだった。

医者は、何とかそのくらいまでは持つだろうと言ってくれるが、ユリはその時、友達が写した写真を同封してくれとハルミから頼まれていたことを思い出す。

その頃、黒川は、小夏から迫られ汗をかいていた。

そんなに迫られちゃ、変な気分になるよと黒川が言うと、変な気になってよと来るので、そう言われると変を通り越して寒気がするよと黒川は身を離す。

その時、店に組合長が税金の話をしに来たと言うので、ようやく小夏は座敷を出て行ってくれたので、黒川は一安心する。

その後、屋台に河岸を変え、飲み直すことにした黒川だったが、はじめてお会いしたときは、ずいぶんキザな方だと思っていましたわ。残っているのは、二人がいつ別れるかだけじゃありませんか?と言うユリの言葉を思い出していた。

屋台から出て、道路の真ん中で「バカヤロー!」と叫んだ黒川だったが、その言葉に反応して因縁をつけてきたのが、先日のヤクザたちだった。

酔った黒川を殴り倒してきたヤクザたちが通り過ぎようとしたとき、立ち上がった黒川は、待て!と止めると、次々に子分たちを倒して行く。

最後にヤクザの親玉を倒し、ノックダウンした相手に、「1、2、3…」と自ら10カウントをし始めた黒川だったが、その声に気づいて近づいてきた警官が、「10!」と振り上げた黒川の片手を掴むと「乱暴しちゃいかんね」ととがめる。

ハルミの母親タケから、7時に来るので出迎えた飲むとの電報が届く。

ユリは、黒川さんとハルミちゃんのご亭主にしようと思うと言い出すが、自分は昨日大げんかしてしまったのだと三銃士たちに打ち明ける。

ユリが代筆をした手紙の話を聞いた三銃士たちは、ハルミちゃんでも、女の夢ってそんなことなのか…と寂しげにつぶやく。

ユリは一人で黒川の自宅を訪ねてみるが、隣の住人から、黒川は昨日から帰っていないと聞かされる。

困ったユリは、至急、黒川の似顔絵を量産すると、三銃士たちに配ってもらうことにする。

高島屋の屋上の望遠鏡でのぞいたり、プラカード持ちに似顔絵を貼らせてもらったり、警察署に行ってみたりするが、黒川は見つからなかった。

実は、警察署から出てきた黒川とはすれ違いだったのだが、三銃士からの報告を並木ビルの前で待ち受けていたユリは、全身包帯を巻いたヤクザが通りかかるのを見かける。

やがて、三銃士たちは、どこかからか聞こえてくる黒川が歌う「荒城の月」に気づくと、その方向に向かう。

そこは「お多福」だった。

昼間から小夏相手にやけ酒を飲んでいたのだ。

黒川を発見した三銃士は、すぐにユリに知らせ、ユリは「お多福」に駆けつけると、黒川さん、お願いがあります。ハルミちゃんが危篤なんです。お母さんが田舎から出て来るんですけど、あなたが旦那様と言うことになっているんです。旦那様は造船所の工員と言うことになっており、あなたじゃないといけないんですと説明するが、酔った黒川は、あなたは僕に言いがかりでも付けに来たのですか?偽の夫になって、お母さんを騙してくれと言うんですね?あなたは、偽物は大嫌いじゃなかったんですか?と絡み出す。

年取った母を安心させてやりたいだけなんですと頼むユリの話を一緒に聞いていた小夏は、行ってあげなさいよ。可哀想じゃないと黒川に声をかけるが、黒川は断ります。僕は偽物作りだが、偽物の役は出来ないですときっぱり言い放つ。

その会話を後ろで聞いていた三銃士たちは、ユリに、もう諦めよう。見損なったよ。あの人は本物だと思ってたんだが…と悔しがり、ユリもその言葉に従って店を出て行く。

一人になった黒川は小夏に、眠くなったから、奥を借りると言って、座敷に向かうと、そこに横になる。

アパートでは、ハルミが苦しんでおり、食堂の女店員が一人で様子を見守っていた。

夜、上野駅にやって来たユリと三銃士たちは、プラカードに「ハルミちゃんのお母さん」と書いて列車の到着を待っていたが、そこに、「お多福」でユリからそれとなく聞いていた「造船所の工員」風の服に着替えた黒川がやってくる。

僕はどうすれば良いんですと聞く黒川に、ユリは喜びながらも、あなたはお母様に会ったら、にっこり笑って!と芝居の要領を教える。

そこに、ハルミの母親のタケ(岡村文子)が近づいてくる。

黒川は作り笑顔で「お母さん、いらっしゃい!」と出迎え、その顔を観たタケも、あんたがハルミの…と感激する。

アパートに帰ると、一足先にハルミの部屋に向かったユリが、お母様が来てくれたわよ。旦那様も…。黒川さんが来てくれたのとハルミに耳打ちする。

その後黒川は、はるみ、お母さんだよと亭主風の口調で部屋に来ると、感激の対面を果たしたハルミとタケと付き添うが、ユリが自分の部屋に帰りかけると、そっと追ってきて、僕はこの後どうなるんです?と聞く。

ユリは、お母様がいる間は、続けて下さいと言い残して帰る。

黒川は、えっ!ずっとですか?と戸惑うが、その夜は、ハルミとタケの間に川の字スタイルで寝るしかなくなる。

翌日、廊下でユリに会ったタケは、あんな立派な旦那様がいるとは思わなかった。例えこのままハルミが助からなくても、それがせめてもの救いですと感謝する。

部屋の中では、ハルミが、ありがとう。もう良いの…と黒川に告げていた。

それでも部屋に残っている黒川に、タケは会社に行かなくていいんですか?と聞くが、休みを取ってあるから大丈夫です。社長は、僕と小学校時代の友達だからなどと適当に答える。

そうした会話を、ユリはドアの外でじっと聞いていた。

タケは、黒川は外に出ると、身体は良いし気だても良い、器量もまんざらでもないなどとハルミに黒川のことを褒める。

黒川はもう破れかぶれだと割り切っており、その様子を観ていたユリは思わず笑ってしまう。

その頃、勝鬨橋の下の隅田川に鶴子を伴いやって来た赤間とは、「赤間工業作業場」と染め抜かれた旗を船の上に翻し、20万もする指輪だから、しっかり探してくれと潜水夫2人に檄を飛ばしていた。

鶴子は、金目のものだったら何でも揚げてと欲を見せる。

しかし、川に潜った二人の水夫(山本簾)は、川底で金笊を持ち、どじょうすくいを始める。

その日、仕事から帰って来たユリは、銭湯に出かける所だったタケと出会う。

タケは、ずっと私が二人と一緒にいるのも無粋ですからと微笑む。

アパートに戻って来たユリは、廊下で洗濯をしている黒川の姿を見つける。

良く見ると、黒川はハルミのエプロンを付け、ハルミの下着まで洗っていたので、驚いて私がやりますと声をかけるが、黒川は構わんですとそのまま作業を続ける。

部屋に入り、ハルミに声をかけたユリだったが、ハルミの返事がなく、明らかに容態が急変していたので、黒川を呼ぶ。

黒川は医者を呼びに走ろうとするが、ユリに言われて、腰に付けていたエプロンを外してユリに投げて行く。

隅田川では、船に上がってきた潜水夫たちが獲物を赤間と鶴子に見せていたが、見つけたのは、赤間社の1円50銭するパチンコ玉スペシャルと、鍵が一本だけだった。

空は暮れ始め、川開きの花火が上がっていた。

医者や仲間たちが駆けつけ、ハルミの周囲に座って様子を観ていた。

外から聞こえてくる花火の音に気づいたハルミは、お父さんが亡くなった空襲の日みたい…とつぶやく。

ユリが花火だと説明すると、あなた、鏡…と黒川に声をかける。

黒川が手持ち鏡で顔を映してやろうとすると、そうじゃなくてもっと上とハルミは訴えたので、ようやく意味を理解した黒川は、鏡で外の花火を映してハルミに見せる。

ハルミは、花火ってどこに消えて行くんでしょう?静かに、溶けるように亡くなって行くわとつぶやくと、お母さん、ユキさん、黒川さん、皆さんありがとうと感謝の言葉を言い終わると、一瞬苦しみ、そのまま息を引き取る。

母やユキは泣き崩れる。

タケは、ハルミの遺骨を持って列車で帰って行き、上野駅にみんなで送りに行く。

駅からの帰り道、黒川は、あのお母さんは、僕たちの芝居など最初から気づいていたと思うんだとユリに話しかける。

仲良く連れ添って歩く二人の様子を少し遅れて付いて行きながら見守っていた三銃士は、モーターボート、おごらせちゃおうよと相談し合う。

勝鬨橋の下では、いつまで金をつぎ込んでも指輪が見つからないので、もうダメだ…、例え今日指輪が出たとしても、わしは破産だ!と肩を落としていた。

しかし、鶴子の方は、こうなったら女の意地よ!とムキになっていた。

モーターボートに乗り、そんな赤間たちの船に気づいたユリは、あれは欲望と言うなの船ね。これは希望と言う船よとつぶやく。

モーターボートは、確かに「HOPE号」と言う名前だった。

鶴子は、船の上で、自ら潜水服を着込むと水の中に飛び込み、赤間は疲れ切ったような表情で、空気入れのテコを押し始める。

その横を、ユリ、黒川、三銃士たちが乗ったモーターボートが通り過ぎ、海の方に向かって走り去るのであった。

墨田川の底の岩には、50万円のダイヤの指輪が静かに乗っていた。