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筒井康隆原作の映画化作品だが、元々、舞台用の脚本だったものなのか、全体的に、マンションの中だけを中心に展開する密室劇に近い印象になっている。

筒井作品の映像化作品は何本かあるが、「時かけ」以外はマイナーなものが多いこともあってか、実写作品はあまり知られていないように思う。

この作品も、いかにもインディーズ作品なので、存在は知っていても今まで観る機会がなかったが、ようやく観ることが出来た。

結論から言うと、かなり筒井作品の中では成功している部類ではないかと思う。

舞台劇らしく、話が良く練り上げられているので、基本的に展開が面白いのが一番の要因だろう。

コメディ仕立てなので、あまり特撮などのチャチさが気にならないこともある。

低予算映画なのは明らかだが、そんなにチープで目も当てられないと言うほどでもない。

個人的には、好きなミステリ要素とファンタジー要素の両方が出て来る所も気に入った点だと思う。

島本匠太郎を演じている原田大二郎は、1982年の映画「蒲田行進曲」での思い上がったスター橘のイメージと、どこか重なって見える。

当時の有名人達が多数出演しているので、世代的になじみ深いほとんどの顔ぶれは分かるのだが、唐木記者を演じている北村総一朗と、ジョージ・西尾を演じている団時朗は、しばらく誰だか分からなかった。

北村総一朗は痩せており、団時朗の方は太って口ひげを蓄えているからなのだが、両方とも、声を聞いているうちに、ひょっとしたら?と気づいた次第。

北村総一朗のしゃべり方は、今もほとんど変わっていないと思う。

筒井康隆は素人らしく、悪のり気味のオーバーでわざとらしい演技をしているのだが、やっている本人は楽しそうだ。

頭のおかしい織田を演じているジャイアント吉田は、小野ヤスシ率いるコミックバンド「ドンキーカルテット」にいた人。

タモリの出演シーンはほんの一瞬だが、人を食ったその芸で笑いを誘う所が凄い。

全編に渡り、キ○ガイやメ○ラなどと言う放送禁止用語がばんばん出てきたり、女性の裸が出てきたりとアングラ風なので、とてもテレビ放映など出来る内容ではないし、SFと言うよりは、ミステリ要素とSF要素を盛り込んだ不条理ドタバタ劇とでも言った感じだが、当時の筒井ワールドの雰囲気は味わえる十分楽しい映画になっていると思う。

 

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1986年、筒井康隆大一座+プルミエ・インターナショナル、筒井康隆原作+脚本、桂千穂脚本、内藤誠脚本+監督作品。

赤ん坊を背負った女が坂道を昇って来る。

高級マンションの一室では、居間のソファの上で、人気歌手杉梢(水沢アキ)の上に、彼女のマネージャー黒木(峰岸徹)が覆いかぶさっていた。

梢は黒木に、ここに泊まらなかった方が良かったんじゃない?と、寝室で寝ている夫の俳優島本匠太郎のことを気にしながらつぶやく。

しかし黒木は、ご主人に坂口のことを知られたら怖がって逃げ出すんじゃないかと梢に耳打ちする。

梢は、今でも坂口のことを夢に観るのよと嫌がる。

黒木は、あの坂口が刑務所を出たよ。あれからもう5年も経ったか…、でも大丈夫さ、君は名前も変えて有名人になったし、整形して…と言いかけ、梢からやめて!と口止めされる。

黒木はそれでも、あいつは老いぼれだし、片腕もなくしている、何も出来やしないさと言い、怖がる梢を安心させる。

その時、玄関チャイムが鳴り、家政婦の美智代(中村れい子)が入って来る。

黒木は、今日のパーティに月刊芸能の後藤さんを呼ばなくては…と言い出し、電話をかける。

台所で、料理の準備をし始めた美智代に、もう準備は大丈夫?と確認した梢だったが、まだ買い物が残っているとメモを見せるので、自分も一緒に出かけようと言い、梢は着替えのため自室に向かう。

12時頃全員そろうと電話し終えた黒木は、美智代が一人で居間に来たので、近寄ってキスしようとするが、私、奥様とのこと知っていますと言われると、しらけてしまう。

そこに、着替え終わった梢が出てきたので、3人そろって買い物に出かける。

マンションの入口横に座っていた、元映画監督の管理人(奥村公延)は、梢が出かける後ろ姿に気づくと、レンズを持って、その姿を覗き観る。

そのマンションにやって来たのが、赤ん坊を背負った女、政子(松金よね子)だった。

チャイムの音がするのに、誰も出ないことに気づき、嫌々ながらベッドから起きてきた島本匠太郎(原田大二郎)は、休みの日くらいゆっくり寝かせてくれよなどとぶつぶつ言いながら、玄関を開けると、政子が立っていたので固まってしまう。

政子の方も、匠太郎と会えて感激している様子。

ずかずか入って来ると、ソファに背負ってきた赤ん坊を寝かせながら、誰の子だと聞く匠太郎に、あんたの子だと政子は言う。

この子が出来た時、正式に結婚してくれるんでしょと言ったら、あんた飛び出して行ったじゃないと言うので、匠太郎は愕然としながら、生んだのか?と聞くと、政子は生んだのよと答える。

居間でも自分は夜のお勤めして、テレビなど観なかったけど、週刊誌であんたのことを知ったと政子はここを見つけた経緯を説明する。

匠太郎は、今日の所は帰ってくれないか?今からパーティで記者達がたくさん来るし、もうすぐ妻が帰って来るから…と迷惑がるが、政子は一向に動こうとしない。

その頃、スーパーにやって来た梢は、他の主婦達が自分に気づいた様子を観ると、急に見栄を張り、買いかけていた肉の量を増やし、黒木が買いかけていた洋酒をより高級なものに変更させていた。

マンションでは、まだ政子が居座っていた。

せっかく自分は大阪から出て来たのに追い返すつもりか?と政子が言うので、匠太郎は、特に別れた女じゃないかと言い返す。

すると、政子は、いつ別れた?と問いつめて来る。

今さら妻にしてくれなくても良い。お妾さんで良いのよ。もう一件家買って住まわせてくれさえすれば良いと言い出したので、金は全部妻が持っている!その赤ん坊だって、誰の子か分からんじゃないかと匠太郎は逆ギレし出す。

すると、政子は、こうなったらマスコミの人に何もかも話すと言うので、もう君の為に家はめちゃくちゃになる。お前は、芸術も何も分からん豚だとののしり、話はマネージャーに会ってやってくれ。今日はとにかく帰ってくれと頼む。

しかし、意地になったかのように、政子は帰らないと居直る。

その態度の硬化を観た匠太郎は、脅迫だな?いくら欲しい?と言うと、へぇ〜…、金をくれるの?お金奥さんが持ってるんじゃなかったの?と政子が嫌みを言い出したので、逆上した匠太郎は、いくらいるんだ?この淫売!と吐き捨てる。

政子も、淫売と言ったな!と逆上するが、その時ソファの上の赤ん坊が泣き出したので、政子は赤ん坊をあやし始めるが、匠太郎はガウンの紐に気づく。

その頃、梢は8万以上にもなった料金を、レジで黒木に払わせようとしていたが、黒木は財布の中身が足りないので、カードを出す。

それもレジ係が使えないと断ったので、美智代に持ち合わせがあるだろう?と黒木は頼る。

政子は、この子は匠一と名付けたんやと言うので、急に匠太郎が、その子のために家一軒買ってやろうと言い出したので、政子は、あんたはやっぱり悪い人じゃなかったんやと感激する。

キスして昔みたいに…と抱きついてきた政子の首を、匠太郎は紐で締め付ける。

その時、又赤ん坊が泣き出したので、泣くな!と怒鳴りつけた匠太郎は、倒れた政子の身体をソファの下にとりあえず押し込む。

その時、梢達3人が部屋の前まで帰って来るが、どこかから赤ん坊の泣き声が聞こえて来たので不思議がっていた。

黒木は、誰かの隠し子じゃないか?このマンションはタレントが多いからなどと悪い冗談を言う。

玄関から3人の声が聞こえた来たので、慌てた匠太郎は、赤ん坊を寝室に連れて行く。

その直後、帰って来た梢が寝室の中に入ってきて、起きるよう声をかけるが、匠太郎は梢に背中を見せ、赤ん坊を毛布の中に隠してごまかす。

その時電話が鳴ったので、寝室から出てきた匠太郎が出ると、自分のマネージャーの吉田からだったので、黒木くんはもう来ていると教えると、インタビューの仕事を取ったので、記者を連れて行って良いかと言うので、匠太郎は必死にダメだと断るが、又寝室から赤ん坊の泣き声が聞こえて来たので、電話を切ると寝室に戻る。

その直後、又電話が鳴ったので、今度は黒木が取ると、相手は、梢はいるかと馴れ馴れしい口調。

しょっちゅう梢の亭主気取りでかけてくる頭のおかしい男織田(ジャイアント吉田)からだと分かったので、黒木はうんざりする。

織田は外の公衆電話からかけていたのだが、その公衆電話は大きく揺れていた。

上からは瓦も落ちて来るくらいの大きな地震が発生したのだった。

黒木は、梢には、島本匠太郎と言う亭主がいるんだから、あんたは一度、病院に行った方が良いんじゃないかと警告して電話を切る。

その匠太郎が紙袋を持って部屋から出ようとした時、チャイムが鳴り、出てみると、三河屋(中村誠一)がビールを持って来ていた。

たった今、大きな地震があり、震度4か5だったんじゃないかと言うが、匠太郎は全くこっちでは感じなかったと言う。

三河屋が台所にビールケースを持って行ったので、匠太郎はソファの上に置いていた紙袋を持って再び部屋から廊下に出て、ダストシュートにその紙袋を捨てて戻って来る。

しかし、ソファの上には、もう一つ紙袋が残っており、匠太郎が今捨てたのは、先ほど美智代や梢がマーケットから買ってきたばかりの肉が入った袋だったことに気づいていなかった。

居間に戻って来た匠太郎は、美智代がソファの所に掃除機をかけようとしていたので、慌てて、ここは掃除機を掛けなくて良いと注意する。

しかし、美智代は、奥様からかけるように言われていますので…と困惑するが、ごまかす為に、匠太郎は美智代にいきなりキスをする。

その様子を、居間に入ってきた黒木は偶然目撃し、驚いて又姿を消す。

その時、チャイムが鳴る。

やって来たのは、パーティに一番乗りでやって来た芸能誌の記者唐木(北村総一朗)だった。

匠太郎が出迎えていると、ソファの上の紙袋に気づいた梢が、美智代ちゃん、ロース、こんな所に置いちゃダメよと注意し、台所に持って行かす。

匠太郎は、政子の身体を隠しているソファに座ろうとする梢や黒木を邪魔し、自分がそのソファに陣取る。

唐木も、さっき大きな地震があったことを話すが、その部屋にいた黒木達は誰一人気づかなかったと言う。

その頃、匠太郎、梢の部屋の隣に住んでいた浜口じゅん(イヴ)とベッドインしていた歌手のジョージ・西尾(団時朗)は、電話を聞きながら、震度5の自信があったそうだ。このマンションって、そんなに耐震構造だったっけ?と不思議がっていた。

匠太郎の部屋では又電話が鳴り、黒木が出ると、又先ほどの頭のおかしい織田からだった。

織田は、ぶっ殺してやるからな!と物騒なことを言うので、すぐに切った黒木は、何事かと注目していた唐木や匠太郎に、元梢のファンクラブの会員だった男だが、梢が結婚後、自分がその亭主だと信じ込んでいるようで、一日に5、6回も電話をかけて来る頭のおかしい奴だと教える。

すると、興味をもったらしい唐木が、今度、そう言うキ○ガイ特集をやってみようかななどと言い出し、匠太郎にも、自分が妻だとか、あんたの子供がいるなどと言って来る変なファンがいたんじゃないかと聞いて来る。

しかし、匠太郎はすぐに、そんなファンはいないと強く否定し、何故か大声を上げて怒り出す。

一瞬我に返った匠太郎は、最近、芸能界にその手の事件が多いだろう?などとごまかしてみせる。

そんな匠太郎のソファの隣に梢が座る。

美智代が用意したビールをつぎ、全員で乾杯使用としていた時、又、チャイムが鳴る。

ゲストの記者達が数人やって来て、今外で火事が起きているので、ベランダから観ようと提案する。

みんながベランダに出て火事見物をし始めた時、匠太郎は美智代に、さっきのロース、僕が自分で料理するから、その間、誰も台所に入れては行けない。秘伝のレシピを見られたくないからと言いつける。

火事を見飽きた記者達が居間に戻って来て、匠太郎に、今の「笑金四郎シリーズ」はいつまで続くの?とか、梢の新曲「銀色の真昼」がヒットしているなどと雑談を始める。

唐木記者は、家政婦の美智代もタレント志望と聞き、眼をつける。

他の記者が、このマンションの他の人からも地震についての問い合わせがあったそうで、それはジョージ・西尾と浜口じゅんだと言うと、二人はどういう関係なんだと記者達は興味を抱く。

このマンションは水谷プロの経営と言うこともあり、たくさんのタレントが暮らしていることは良く知られていたし、浜口じゅんは匠太郎の前の彼女だと言うことも知られていた。

梢は、そうしたことを気にしない様子で、じゅんちゃんを呼ばない?と言い出す。

その時、チャイムが鳴り、作曲家の都留(山下洋輔)がやって来る。

それを出迎えた梢は、首にかけていた真珠のネックレスが都留のアロハのボタンに引っかかってしまい、ちぎれて、真珠が床にこぼれ落ちてしまう。

客達は全員、真珠を拾おうと床にかがみ込むが、それに気づいた匠太郎が、大声で自分が拾うので気にしないでくれと全員に呼びかける。

都留や美智代が拾っているのも無理矢理止めさせる始末。

そうした中、突然、室内に一人の着流し姿の男が入り込んでいた。

真珠を全部拾い終わった匠太郎は、ロースを料理しに台所へ向かう。

坂口に気づいた黒木は驚きながらも、冷静を装い、客達に、この人は不遇時代の梢の面倒を見て下さった方だと紹介し、坂口にウイスキーのグラスを渡す。

その頃、隣でジョージとベッドイン中だった浜口じゅんは、パーティに来ないかと言う梢からの誘いの電話を受けるが、今、仕事の打ち合わせ中だと言って断る。

都留は、坂口が遠くに行っていたと言う話をアフリカに行っていたと勘違いし、自分も行ったことがあるなどと話が弾み出す。

その時、チャイムが鳴ったので、週刊芸能の後藤さんじゃないか?とみんなが言うので、黒木が玄関ドアを開けてみると、そこに立っていたのは、どう観てもヒトラー(タモリ)で、「ダス ムチデ シバクテ」と言っている。

唖然としながら、黒木はドアを閉め、何事もなかったかのように居間に戻ってきて、誰もいなかったし、チャイムは幻聴だったようだと言う。

その直後、又チャイムが鳴ったので、今度は梢が出てみると、そこにいたのは管理人だった。

ゴミ焼却場にこの紙袋が落ちていたが、中に新しいロース肉が入っていたので、こちらのではないかと思って持ってきたと言う。

礼を言って受け取った梢は、美智代を呼ぶと、二人でおかしいわと首を傾げる。

これは確かに、さっき自分達が買ってきた品物で、だとすると、今、匠太郎が料理しているロース肉は何なのかと言うことになるからだ。

客達は、今僕たちは後藤さんを待っているけど、そう言えば「ゴドーを待ちながら」と言う芝居があり、あれは最後までゴドーが来ないんだよななどと言う話になっていた。

黒木と梢は、坂口が、ヒモだなんて言ったりしない、金づるなんだから…などと危ない独り言のようなことを言い出したのでヒヤヒヤし、食事の用意ができたので食堂の方へどうぞとみんなに声をかける。

その時、又チャイムが鳴り、匠太郎のマネージャーの吉田(阪脩)が、週刊思潮の井本(納谷六朗)を連れて入って来る。

食堂のテーブルで都留の隣に座った坂口は、叩き殺してやったとか、やっぱりシャバが良いなどと、危ない過去の話をし始めるが、都留はそれを全部外国の話と勘違いして話を合わせる。

客達は、匠太郎が料理したロースを口にするなり、その旨さに驚く。

柔らかく、筋がなくて、味の素のような味がした。

一方、居間で井本のインタビューを受けることになった匠太郎は、最近の芸能人の私生活の乱れについて聞かれると、急に興奮し出し、そう言うことを暴き立てたがるマスコミ批判を始める。

井本が、マスコミ批判の話でも良いと許可を出すと、芸能人の芸と言うのは半分はその人の経験から出て来るものなのだ。芸の為なら、自分の私生活を犠牲にするのが本当の芸能人などと、匠太郎は自説を述べ始めたので、一緒に聞いていた吉田は焦り出す。

芸能界は時には悪いことだってしなけりゃいけないこともある。暴力団と関係しても良いんだ!過去を暴いている奴を倒せ!などと異常に興奮し出したので、吉田がしっかりして下さいと声をかけると、我に帰った匠太郎は、これはどうも取り乱しまして…と井本に謝る。

しかし、井本は今の匠太郎の発言を面白がり、すぐに社に帰って記事にまとめますと帰ろうとしたので、慌てた吉田は、自らの財布から札を出しながら、どうか表現を控え目にお願いしますと井本に頼むのだった。

井本が帰ると、吉田は匠太郎に、何かあったんだな?と問いつめて来るが、匠太郎は食堂で食事をして来いと追い払う。

美智代が、居間のテーブルの上にあったコップ類を持って行った後、誰もいなくなったのを見計らった匠太郎は、急いで、ソファの下に隠しておいた政子の身体を引きづりだし、自分の寝室に運び入れる。

その直後、居間では、唐木が美智代にタレント志望だって?と声をかけ、美智代はその節はよろしくお願いしますと頭を下げると、所で、君は島本匠太郎とはどういう関係?と聞きながら、馴れ馴れしく美智代に抱きついて来る。

その時、匠太郎が寝室から出て来たので、唐木はあわてて身体を離し、君の方から電話をくれると良いななどと言いながら名刺を美智代に手渡し食堂へ戻って行く。

美智代は、部屋にあったトロフィーを手に取ると、自らがそのトロフィーを手にし、客達の前で舞台に立っているシーンを思い浮かべるが、そんなにスターになりたいのかね?と匠太郎から声をかけられ我に帰る。

匠太郎は、この世界の人間は、みんな海千山千の連中だから気をつけないと…と美智代に語りかける。

美智代が、でも、すぐに年を取ってしまいますと反論すると、分かった、僕に任せておきなさいと言いながら、美智代を抱きしめキスをする。

その時、食堂から出てきた黒木は、その様子を背後から目撃し、あわてて又食堂へ戻る。

その後、匠太郎と美智代が居間から出て行き、電話が鳴ったので、黒木が取りに向かう。

電話の相手は地震研究所らしく、先ほどの地震のことについてマンションがそのエネルギーを吸い取った可能性があるので犬神博士と言う人物と共に調べに行きたい。今日中じゃないと、エネルギーが消えてしまう恐れがある…、と言うことらしかった。

黒木は迷惑がりながらも、断ることが出来なかった。

そこに梢がやって来て、食堂の浜口がべろんべろんに酔ってしまい、何を言い出すか分からないので怖い。さっきも整形のことを言い出したので慌てたわ。金が欲しいんでしょうねと言う。

それを聞いた黒木は、やるか?ばらそうって言っているんだと言い出す。

梢は、誰がやるの?あなたがやって下さるんでしょうね?殺すなら早い方が良いでしょう?居間なら酔っぱらているから相手も油断しているわと答える。

その時、梢が床に落ちていた匠太郎のガウンのヒモを拾い上げると、黒木は、君もヒモを引っ張るんだと命ずる。

黒木は、せっかくここまで来たんだから、又昔みたいな生活になりたくない。昔やったことをもう一度やるだけだとつぶやき、梢は食堂から坂口を連れて来るとソファに座らせる。

坂口は、いくらで手を切ってくれるのか?って言うんだろう?俺が捕まったあの出入りも、元はと言えばお前が原因だからな。月に一度、はした金をもらいだけだと、時々、自分の背後に立っている梢と黒木の方を降り浮きながら話し出す。

梢と黒木は、ヒモを手にチャンスをうかがうが、酔っている坂口が時々振り返るのでなかなか首に巻けない。

芸能界なんて悪人ばかり、中でも一番悪人に見えるのは、お前と黒木…と言いかけた坂口の首に、黒木はヒモを巻き付け、梢と共に両方から引っ張る。

坂口が倒れると、二人はその身体をソファの下に押し込み隠す。

その直後に匠太郎がやって来て、食堂の客達を居間に招く。

又チャイムが鳴ったので、客達全員が「後藤さん!」と声を合わせる。

しかし、黒木が玄関ドアを開けると、そこにいたのは見知らぬ女性だった。

関口芳枝(和田アキ子)と名乗ったその女性は、友人の政子さんがここに来ているはずだから呼んでくれと言う。

黒木は当惑し、そのような人は来ていないと答え、後ろで様子を観ていた匠太郎も知らないと言う。

芳枝は、自分は今浅草のキャバレーで働いているが、大阪時代の友人だった政子が泊まりに来て、赤ん坊を連れて行った方が話がしやすいと言い、自分の子供を連れてこのマンションに行くと言って出かけたまま戻らないと言う。

話を聞いた黒木は、誘拐の疑いがありますね。その政子と言う人は精神異常者ではありませんか?と聞いたので、芳枝は政子さんはそんな人じゃないし、島本さんと結婚の約束をしたんですってと言うので、警察に行ったら?と勧めるが、それを聞いた匠太郎は慌てて、警察に行く前に、もっとあちこちを探してみたら?刑事に来られたりしたら迷惑だからと言い聞かす。

渋々承知し、芳枝が帰って行くと、匠太郎は梢にキ○ガイだよと言う。

すると又、唐木記者が興味を持ち、芳枝を追って行こうとしたので、匠太郎や黒木が制止する。

その時、都留が、さっきアフリカの話をしていた人はどうした?と言い出す。

帰りましたと答えた梢は、みんなで歌でも歌いません?と話をそらせたので、都留がピアノを弾き、全員で「銀色の真昼」を歌い始める。

その時、寝室から死んだと思っていた政子がヨロヨロと出てきたので、驚いた匠太郎は、持ってたビール瓶で政子の頭を殴って寝室に押し込む。

カメラマンを電話で呼び出した記者が、このマンションの他の部屋で、色々不思議なことが起きていると言う報告があったそうだとみんなに教える。

その時、チャイムが鳴り、何かの計測装置を持った大学の地震研究所の柴山(上山克彦)が、所長だと言う犬神博士(筒井康隆)を連れて入って来る。

犬神博士は、今回の異常現象について聞かれたので、みんなを馬鹿にしたような口調で解説を始める。

嫌な人物のようだった。

万物にはみんな、それぞれ固有の振動と言うものがあり、それはみんな違うと博士は話し始める。

今回起こった地震の波動と、このマンションの固有振動の波長が共鳴し、周囲のエネルギーを吸い取ってしまったので、このマンションが当たり前のマンションになるはずがない。空間がゆがみ、トンネル現象で別の空間と結びついてしまったのじゃと、分かったような分からないようなことを言う。

それは具体的にどういうことかと黒木が聞くと、221号室の絵描きさん(山藤章二)は、奥さん(如月小春)の観ている目の前から突然消え失せ、318号室のモデルさん(田代葉子)のバスルームに現れたのですと柴山が教える。

突如入浴中に絵描きが出現したモデルは驚き、全裸のまま部屋を飛び出し絵描きの部屋まで走って向かうと、奥さんに事情を話す。

弁解をしながら追いかけてきた絵描きさんは、怒った奥さんからケーキを顔にぶつけられてしまう。

トポロジー的交差で空間と空間が繋がったもので、外部の世界とも繋がっているようだ。振動の共振が起きた時に起こる現象じゃと犬神博士は意味不明の解説をする。

再び、柴山が、506号室の女流評論家(太田淑子)の部屋では、衣装戸棚とアフリカが繋がっていたと補足する。

それを聞いていた黒木は、あっ!さっき観たのは本物だったんだと口走ったので、皆、何事かと注目すると、さっきチャイムが鳴ったので出てみたら、廊下にあり得ない人物が立っていたんだと説明する。

その時、又チャイムが鳴り、青坂警察署の刑事と名乗る男(筈見純)が入ってきて、ここの焼却炉で赤ん坊の薄幸都賀見つかったので調べていると言う。

それを聞いた梢は、そう言えば1時間ほど前、廊下で赤ん坊の泣き声を聞いたと言い出す。

その声はどこから聞こえたかと刑事が聞くと、美智代は、この部屋からだったように思うと言い出したので、匠太郎は慌てて、この部屋にいるはずがないじゃないかとこわばった笑顔で否定する。

刑事が言うには、白骨は割と新しかったと言う。

自分がのけ者にされたように感じたのか、突然犬神博士が持っていた、みんながバカなことを言っとる!と言いながら、ステッキを振り回したので、それが当たった計測装置が壊れてしまう。

その時、突然、壁を突き抜けて、ビールケースを持った三河屋が出現する。

その場にいたみんなは驚き、一体どこから入ってきたんだと聞き、三河屋も戸惑いながら、普通に入ってきたと思ったんですが…と説明する。

犬神博士は、みんな観たろう?今のが空間のゆがみじゃと解説するが、刑事は三河屋を警察に連行しようとするので、犬神博士がステッキで刑事を殴る。

その後、台所に向かった三河屋と美智代が戻って来て、冷蔵庫の中が北極になっていると報告に来る。

冷蔵庫の中にシロクマが見えたのと言うので、扉を閉めて来たことを確認した犬神博士と柴山達は台所に向かう。

その時、唐木が、さっき変な女が来たろう?と黒木に聞く。

事情を聞いた記者達は、その政子と言う女は、この部屋に来たんじゃないのか?島本匠太郎と会ったんじゃないか?と言い出す。

焼却炉で見つかった白骨と言うのは、その政子が連れてきた赤ん坊じゃないのか?と推理し、みんな面白がり出す。

しかし、黒木は、焼却炉にはまだ火が入ってなかったそうだと言う。

そもそも何で管理人は焼却炉などを何度も観に行ったんだ?と記者達から疑問が出ると、あの人は元映画監督だから、覗くのが好きなんだと黒木が説明する。

唐木が、女と赤ん坊は…と言いながら、首を絞めるジェスチャーをしてみせたので、観ていた吉田マネージャーは怒り出すし、黒木も汗をかいていた。

ロース肉の入った紙袋を管理人が持ってきたのはどういうことだ?と言う疑問が出てきて、俺たちがさっき食べたのは何だったんだと言うことになる。

その時、都留が突然立ち上がり、昔、アフリカに行った時、奥地の土人に騙されて、人間の肉を食べさせられたことがあったが、柔らかくて、筋がなくて、味の素のような味がしたと青ざめた表情で言い出す。

さっきの肉は、その時と同じ味で、さらに柔らかかったから…、赤ん坊の肉だったんだ!と都留は叫ぶ。

それを聞いた吉田マネージャーは嘔吐を催し、トイレに駆け込むが、そこはトイレではなく、無限の星が輝く闇の世界だった。

吉田マネージャーは、その中に墜落して行く。

それに気づいていない他の客達が談笑している時、コーラでも飲みましょうよと言う浜口じゅんの声がすぐ間近から聞こえて来たので、みんなは寝室の方に目をやると、そこから裸の浜口じゅんとジョージ・西尾が出てきかけて、みんなに気づくと慌てて寝室に戻る。

犬神博士と梢と匠太郎が、出てきなさいと呼びかけるが、二人は着るものがないので出て来れないと言うので、その辺にあるものを羽織ってくれば良いと教える。

渋々、寝室内にあった衣装を羽織って出てきた二人は、あんた達はどこで何をしていたんだ?と聞く犬神博士に、じゅんの部屋にいたはずなのだが…とジョージが説明する。

唐木は好奇心満々で、二人の話を聞き始める。

台所を調査した犬神博士は、冷蔵庫の中は既に北極ではなかった。空間のつなぎ目は移動しているらしいと言う。

柴山は突然、じゅんのファンだったんですと言いながら、じゅんに抱きつくので、犬神博士が何をしとるんじゃと叱りつける。

その時、突然、ソファの裏側から管理人が出現する。

それに気づいた匠太郎は、君は人のプライバシーに立ち入りすぎるぞ!と注意するが、管理人は戸惑ったように、屋上の給水塔に昇ろうと鉄梯子を昇り、上げ蓋を上げたと思ったら、ここに出ていたんですと説明する。

ソファの下を覗き込んだ柴山は、上げ蓋があったと出してみせる。

梢と黒木は冷や汗をかくが、管理人が言うには、向かいのビルから電話があって、給水塔の上に人間が寝ていると連絡があったのだと言う。

刑事は、その給水塔を観に行くと部屋を出、代わりに、さっき電話で呼んだ夕刊日本のカメラマン(高塚玄)がやって来たので、呼び出した記者は、浜口じゅんとジョージ・西尾の二人を写真に撮らせる。

それを見ながら、匠太郎は「身から出たサビだ!」とののしるが、じゅんは、何よ嫉妬して!と言い返す。

それを聞いた梢は、噂には聞いていたけどやっぱりあなた達はそう言う関係だったのねと怒り出す。

その時、一人の男が部屋に侵入して来る。

男は、頭のおかしい織田だった。

織田は、黒木の声を聞くと、いつも電話に出てきて、俺と梢の邪魔をするのはお前だなと言いながら、紙袋から包丁を取り出すと、いきなり黒木の胸を突き刺す。

イスに倒れ込んだ黒木は、心臓を一突きされており即死だった。

警察を呼べ!とみんなは騒然とする中、美智代は泣き出すし、梢と匠太郎は怒り出す。

そこに、先ほど来た関口芳枝が警官(二宮寛)を連れて入って来る。

記者達はちょうど良いと、今起きた殺人事件を教え、取り押さえていた織田を引き渡すが、その時、芳枝は、ジョージ・西尾が来ているねんねこは、政子が来ていたものや。やっぱりあの子は、この家の中でどないかされたんや!と騒ぎ出す。

警官がジョージに事情を聞くと、寝室にあったものを着ているだけだとジョージは必死に弁解する。

赤ん坊はどうした?と警官は追求し、それを聞いていた都留は、やっぱり、赤ん坊の肉食ったんだ!と言い出し、トイレのドアを開けると、そこが宇宙のようになっていたのでみんな唖然とする。

それを観た警官が、何だ?この馬鹿げた仕掛けは…と口走ったので、犬神博士は、この愚か者め!とステッキで叩く。

警官は怒って公務執行妨害だ!と息巻くが、犬神博士は時間も歪んどる。これが本物の宇宙だったら、我々は真空の中に吸い込まれておっただろうと言う。

そのとき唐木が、大変だ!さっき吉田がここに入ったんだと気づく。

しかし、次の瞬間、その吉田マネージャーは、居間のシャンデリアの上にしがみついていた。

みんなで吉田を降ろし訳を聞くと、トイレに入ったと思ったら、ずっと落ちて行って、気がついたらここに出ていたと言う。

その時、芳枝が匠太郎に政子をどうしたと詰め寄る。

美智子は突然、唐木に何でも話しますと言い出す。

自分は黒木と関係があったのに、この男がで私を…と匠太郎を指差す。

それを聞いた梢は怒り出すが、お前も整形のこと黙っていたじゃないか!と匠太郎は言い返す。

その時、又、死んだはずの政子が寝室からふらふらと出て来たので、政子!あんた、何されたん?と芳枝が聞くと、政子は黙って匠太郎を指差す。

そこに、給水塔の上に倒れていた坂口の身体を背負って刑事が戻って来る。

坂口も死んではおらず、良くも俺を殺そうとしたな!と言いながら、梢に迫って来る。

その時、突如、ターザン(南伸坊)が蔦にぶら下がって部屋を横断する。

冷蔵庫の中からはシロクマがはい出してきていた。

居間は大騒ぎになり、警官が天上に向けて拳銃を発砲すると、鶏が数羽落ちて来る。

犬神博士は愉快そうに笑っているし、時計は急速に進んでいた。

その時、玄関に来た男(梨元勝)が、後藤ですが…と声をかけるが、騒然とした居間からは誰も返事をしなかった。