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戦争と人間 第二部・愛と悲しみの山河

大長編映画の第二部に当たる。

この映画では、戦争に突っ走る日本と中国の中で、何組かの男女の愛の姿が描かれている。

丸顔だった少女自体とは別人のような美少女に成長した順子(よりこ)を演じる吉永小百合を始めとして、第一部とは別人のように容貌が違う役者が同じ役柄を演じているのがちょっと面白い。

第一部で中村勘九郎が演じていた俊介を北大路欣也が、吉田次昭が演じていた標耕平を山本圭が演じているが、両者とも少年時代は下がり眉なのに、青年になると両者とも上がり眉になり、全く似ても似つかないのがおかしい。

梅谷邦を演ずる和泉雅子や辻萬長が演じている大塩雷太などは、第一部で登場した子役のイメージが希薄なので、まだ救われているように感じる。

余談だが、この時代の和泉雅子は、やや肥満が始まっているようにも見える。

さて、いよいよ、往年の日活の看板だった吉永小百合、和泉雅子と言った青春スターが登場しているが、彼女らが物語の中核と言う感じはない。

この第二部での中核になるのは、悲劇の朝鮮人徐在林を演じる地井武男、不倫に身を焦がす俊介を演じる北大路欣也、そして屈折したインテリ青年を演じさせたら右に出るものがいない山本圭の3人だろう。

特に、前半のクライマックスとなる地井武男の芝居は感動的で、彼の代表作の一本ではないかと思う。

歴史を描いた物語だけに、全体的に女性の描き方は類型的すぎる気がし、特に佐久間良子演ずる狩野温子は、古い女性のタイプの典型の一つとして描かれている為か、いつもうじうじと自虐的で、今の感覚で観ると魅力的にはとても思えない。

栗原小巻が演じている抗日運動に身を捧げる金持ちの娘役とか、岸田今日子演ずる怪しげな女諜報員と言った、活動的で魅力的な女性もいるだけに、ちょっと損な役回りのようにも見える。

男の方でも、加藤剛が演じている服部医師や高橋英樹が演じている柘植などは、類型的な二枚目以上のキャラクターではなく、あまり魅力的には見えないのだが、他に個性の強いキャラクターが多いので、女性達よりはあまり気にならないだけのような気もする。

アヘンをコート姿で追う高橋英樹などは、何だか2時間サスペンスの刑事物でも観ているような通俗臭も漂う。

妻温子に執拗に迫る夫役の西村晃もそうだが、この第二部は、愛をテーマにしているだけ、かなり通俗っぽい表現が増えているような気がする。

一方、さすがに山本薩夫監督だけあって、特高による拷問描写などは見応えがある。

 

 

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1971年、日活、五味川純平原作、山田信夫+武田敦脚本、山本薩夫監督作品。

第一部のあらすじ

日活の会社クレジット

昭和7年5月15日 515事件

尾崎事件

昭和8年1月30日 ヒトラー内閣成立

2月24日 日本、国連を脱退

5月10日 滝川事件

7月11日 神兵隊右翼クーデター未遂

昭和9年3月1日 満州国帝政実施へ

11月20日 士官学校クーデター

昭和10年2月

満州 大石頭付近

朝鮮人徐在林(地井武男)と共産匪たちは、雪山の中、近づいて来る馬車を狙っていた。

タイトル

襲撃を終えた徐在林と女兵士全明福(木村夏江)らは、歌を歌いながらアジトに戻る。

3月 東京 伍代家

美しい娘に成長していた伍代順子(吉永小百合)は、俊介(北大路欣也)の部屋に遊びに来ていた標耕平(山本圭)と会うのを楽しみにしていた。

久慈温子の描いた絵を観ていた耕平に、俊介は、伍代の資金で学校へ行くのは嫌かと誘っていた。

夜学に行って苦労している耕平に対する申し出だったが、耕平は辞退する。

帰りかけた耕平に、俊介は、今のは順子(よりこ)が親父を口説いたんだとこっそり打ち明ける。

その頃、プロレタリア絵画を描いていた灰山浩一(江原真二郎)は、特高に捕まり、伍代に売った絵で得た金を何に使った?と聞かれ、拷問を受けていた。

小説家の陣内志郎(南原宏治)も又、特高で拷問を受けていた。

原稿料を誰に渡した?小林多喜二がどういう死に方をしたか知ってるだろうと脅される。

ファッショ文学運動を起こしただろう?時代はそこまで来ているのだと取り調べる刑事は言う。

お滝(水戸光子)と俊介は、灰山に面会を申し込みに警察に来るが、応対した刑事(高城淳一)から病気だと言われ断られる。

しかし、窓から階下を覗いていた俊介は、拷問を受け、血だらけになり廊下を連行される灰山を発見、驚いて、思わず窓ガラスを手で割ってしまう。

しかし、特高刑事は、よけいなものを観るな!灰山は今、病気なんだ!と叱りつける。

俊介は、狩野と表札がかかった家を訪れていた。

兄英介の婚約者だった旧姓久慈温子こと狩野温子(佐久間良子)に会った俊介は、兄にお会いになりましたか?兄は結婚していませんと伝える。

近くを散策しながら温子は、英介さんのことはさっぱりしました。婚約破棄を言われたときのことは良く覚えていますと答える。

俊介は、あなたには幸せになって欲しいと申し訳なさそうにつぶやく。

それを聞いた、温子は、あなたは御若いのに大きいわと褒め、私なんか芥子粒みたいに小さいの…と卑下してみせる。

時々遊びに来ていらしてねと誘った温子だったが、土曜日と日曜日は主人が出張でいないのでおいでにならないでねと付け加える。

伍代産業東京本社

防人会と言う聞き慣れぬ団体から、伍代を批判するチラシを見せられた英介(高橋悦史)は、1枚10厘、全部で1000円でビラを全部買い取ろうと応対する。

自宅に戻った英介は、父、由介(滝沢修)から、今に軍中心の世の中になる。国の歯車がどちらに回るか分からんだろうと言われる。

そこに、長女由紀子(浅丘ルリ子)が、満州の叔父様から速達が届いたと持って来る。

それを読んだ由介は、自分は近く満州に行く。おまえも満州に行けば?と勧める。

それを聞いていた英介も、特務機関には柘植もいるぞと妹をからかう。

俊介は、日曜日に再び温子の家を訪れる。

温子は喜びながらも、どうして土曜日に来て下さらなかったの?いえ、どうして来たの?と自分が遠回しに言った、夫がいない時に来てもらいたいと言う気持ちを、俊介が素直に受け止めたことを喜んで抱き合うと家に上げる。

しかし、いざ座敷に俊介を上げてしまうと、さすがに温子も、それ以上のことをする勇気はなく、あなたには大きな未来があり、それが台無しになるとか、私は汚れています。愛情のひとかけらもないこんな生活を受け入れて、本当に馬鹿だったなど、又、自虐的な発言をし出す。

そんな温子に俊介は、今頃後悔してなんになります?と迫るのだった。

後日、自宅で俊介は、由紀子から、あなた、温子さんに何を言ったの?もう、あなたには会えないって落ち込んでいたわ。もう会わない方が良いと言われてしまう。

しかし、俊介の方も、姉さんは何故満州に行かないんだ?と、柘植のことを想いながら、行動に移さない姉のことを詰問する。

由紀子は、自分は男の人が命を賭けて生きているか?それに自分がどう関わるのかに興味あるだけなのだと答える。

満州 四平衡 交通中隊

特務機関の柘植大尉(高橋英樹)は、そこの建物内で行われている、共産匪の捕虜を使った人体実験を見せられる。

ホスゲンガスを吸わせたり、青酸を注射したり、電流を流したりと、それは観るに耐えない光景だったので、石井軍医正がやっていることは作戦の一環として行っているのかと疑問を口にするが、上官は思慮を慎めと注意する。

昭和10年5月2日 午後11時

天津 日本租界内 北洋飯店にいた親日派新聞 国権報胡社長射殺

午前4時 振報白社長射殺

その後、鴫田駒次郎(三國連太郎)は、男達に金を渡していた。

伍代喬介(芦田伸介)に会っていた女諜報員鴻珊子(岸田今日子)は、喧嘩にならないように、天津の事件は鴫田がやったんでしょう?とかまをかけていた。

そこに、成長した大塩雷太(辻萬長)が帰って来る。

珊子は、北支に第二の満州国を仕立てようとしている。誰が動くの?北支自治政府が出来たら、今やっている貿易を合法化するつもりでしょう?と喬介を問いつめる。

倉庫にやって来た雷太は、白永祥(山本學)が、仕事の話をしている振りをして、老いた馬車の御者から金日成の動きについて情報を聞いている所を立ち聞きしてしまう。

すぐさま、仲間が白に警戒を促したので、御者は去って行くが、近づいてきた雷太は白に、おまえは、匪族のスパイだろう?憲兵に言ったら銃殺だぞと脅す。

白は、君は人間に害しか与えないと答える。

怒った雷太は、白に得意のナイフを投げつけるが、そこにやって来た梅谷邦(和泉雅子)が身をもって白をかばい、ナイフは邦のスカートの裾を荷車に貼付けただけだった。

父親が警官同士だった邦は雷太に、何故人を憎んでばかりなの?どうして白さんと仲良しになれないの?と問いかける。

その後、雷太は喬介に、白は共産匪のスパイだ。遊撃地区を限定しろなどと話していたと告げ口に行く。

社長室にいた高畠は、証拠もないのに軽々しくそう言うことを言うのは止めたまえと注意するが、すでに憲兵隊を呼んでおいたと雷太は言う。

伍代は仕方なさそうに、白のことは前前から気づいていたが、利用していただけで、こちらの情報が漏れることもあれば、逆にこちらが流した噓の情報で相手をかく乱することも出来ていたと言う。

見殺しにするんですか?と高畠は憤り、王道楽土のスローガンが泣きますよと言い残して部屋を出て行く。

倉庫にやって来た高畠は、社長が呼んでいると言って、雷太を遠ざけると、白に金を渡し、消えるように勧める。

白は感謝し、母の形見のヒスイの指輪を、邦に渡してくれと頼んで群衆の中に消えて行く。

その直後、伍代公司にやって来た憲兵隊は、高畠に同行しろと迫るが、そこにやって来た喬介は、その男は高畠ではない。高畠は伊通に出張していると告げると、高畠には、その場で出張を命じる。

喬介が憲兵隊を別室に連れて行くと、同僚が良かったですね。さすが社長だと感心するが、高畠は、私を社長が助けたのは、まだまだ使い道が残っているからですと冷静な分析をする。

ハルビン

レストラン内でロシア人イワーノフ(大月ウルフ)と会っていた梁恩生(米倉斉加年)は、日本軍の軍事物資のことを聞いていた。

店内には、柘植大尉もおり、ちょうど店を出る所だったが、それに気づいたイワーノフは、今のは特務機関の奴だから気をつけたまえと、梁に忠告する。

本部に戻った柘植は、アヘンの密売ルートを掴んだと言いながら、部下達と共に捜査に出る準備をしていたが、その時、町中から爆発音が響いて来る。

窓から外を見やった柘植大尉は、軍需倉庫が爆発されたと知る。

犯人を捜していた関東軍は、馬車が通りかかったので止めて中をのぞくが、乗っていたのは趙瑞芳(栗原小巻)だった。

大山中尉の所で麻雀をやっていて遅くなったと言うので、兵隊達は馬車を通過させるが、その御者が右手から出血していたことには気づかなかった。

御者は梁であり、乗っている瑞芳には倉庫の見取り図の手配を頼んだだけだったが、こうした事態になって迷惑をかけたことを謝る。

しかし、そんな馬車の前に、柘植大尉ら、特務機関員達が立ちふさがり、銃撃を加えてきたので、梁は馬に鞭打って、その場を突破するのだった。

満州にやって来た伍代由介は弟の喬介と共に、地元の大地主であり、瑞芳の父でもある趙大福(龍岡晋)の家を訪れ、奉天は発展しますと言いながら、暗に鉱山を譲ってくれないかと依頼していた。

喬介は、こんな御時世では大財閥は出て来んでしょうなと牽制する。

しかし、大福は、鉱山なら既に合弁済みですと答える。

それを聞いた喬介は、それは軍の眼をごまかす為の、名目だけですなと言い返す。

満州のブロック経営ですかと、息子の延年(岩崎信忠)も口を出す。

馬車に乗って帰る喬介は、兄由介に、巧くかわされたなと話しかける。

由介は、軍が出てきたらダメだと言うが、それを聞いた喬介は、軍人を嫌って通る時代じゃないだろうと兄を諌める。

その後、アヘンがあると思われる場所に張込みをしていた柘植大尉に、近づいてきてタバコの火を借りたのはイワーノフだった。

イワーノフは柘植に、ここに品物はない。この紙に書いた所にあると言いながら、紙片を手渡す。

自分の正体を知っている相手に警戒した柘植だったが、イワーノフはアヘンが歴史を作ると言い残して去って行く。

ロシア人の売春婦宿を経営していた戸越ユキ(吉永倫子)は、ノックが聞こえたので、入口の覗き窓から外を観ると、外国人客が立っていたので扉を開けるが、その男は囮で、その背後に隠れていた柘植大尉ら特務機関員達が中になだれ込み、すぐに、屋敷の中野捜査を始める。

その売春宿には、客として鴫田がおり、自分は伍代の所で働いている鴫田と言うものだが、止めた方が良いんじゃないですかと、柘植に忠告する。

しかし、その直後、部下達が暖炉の中に隠してあったアヘンを見つけ出す。

その後、伍代喬介は、特務機関本部に呼び出された柘植大尉に、うちで禁制品を売っていると言うのか?と逆に問いただしていた。

そこに、すぐに憲兵隊を釈放されたと言って鴫田が戻って来る。

喬介は、正義感だけで満州はいかん。ソ連を北にして、日本を守ると言うこともあるだろうと話し始める。

喬介は、満州国が持っている資金6400万元のうち、5分の1はアヘンからの収益だと教え諭すと、私を指したのは誰だ?ドスケノ・イワーノフか?と言い当て、押収した物はどこに隠してあると詰め寄るので、柘植大尉は、伍代産業のやり方は疑問に思っていると言い返す。

すると喬介は、そう言う考え方だと、出世の邪魔はしたくないが、そう言うことになるかもしれんぞと脅して帰って行く。

柘植大尉は、いら立ったようにすぐさま憲兵隊に電話を入れる。

東京の伍代の屋敷では、秘書の武居弘道(波多野憲)が由紀子に、柘植大尉が東京に帰って来ており、一ヶ月ほど前から参謀本部に勤務していると知らせるが、由紀子は、それが私とどういう関係があるの?と冷たく言い返す。

その時、お滝が、柘植から電話が入ったと知らせに来る。

由紀子は一旦、いないと言ってと断ろうとするが、途中で思い直して電話に出る。

柘植は、一度会いたいと言って来るが、今日明日は無理なので、12日の12時に帝国ホテルのロビーで会いましょうと由紀子は指定する。

その頃、列車に乗って上京していた相沢三郎中佐は、身売りされる女達が、デッキの所で女買いから叱られながら泣いている様子を目撃していた。

その頃、日本中の子供達は、餓えに泣いていた。

12日、関東軍の参謀本部で、石原莞爾中佐(山内明)や柘植大尉とすれ違った相沢中佐は、統制派の指導者だった軍務局長永田鉄山の部屋に入ると、いきなり軍刀を抜き、永田を惨殺する。

相沢中佐は、青年将校派たちに同調した皇道派だった。

その直後、柘植から、今日は行けなくなったとの電話を受けた由紀子は、2、3日中に時間を作っていただけないかと言う相手に対して、何か勘違いをなさっていません?女はいつまでも待っていませんと言い捨てて電話を切ってしまう。

その頃、料亭にいた英介は、右翼から事件を電話連絡で受けていた。

そこにやって来たのは、狩野温子だった。

彼女の夫が事業に失敗し、30万ほど融通してもらえないかと依頼しに来たのだった。

その後、料亭からそろって出てきた温子と英介は、車の側に立っている俊介を発見する。

俊介は温子に、夕べ、兄と電話をしているのを聞きました。これはどういうことです?と迫る。

温子はいたたまれなくなり、その場を逃げるように去り、一人車に乗り込んだ英介は、これはどういうことだ?学生のくせに人妻に惚れて、野良犬のように人のことを付けて…と馬鹿にする。

狩野の家にやって来た俊介は、中に入れてくれと頼むが、玄関口にいる温子は、あなたのおっしゃる通りです。どうにもならないんです、あなたとのことは…と言うだけで、決して玄関を開けようとはしなかった。

ある日、伍代家にやって来た標耕平は、俊介から本を借りたいと申し出、俊介の書棚の中を探しまわっていた。

そこにやって来た順子は、私の部屋に来てと呼び、すでに本棚から抜き取っておいた「改造」などの本を耕平に返す。

耕平は驚き、この本のことは何も観なかった。良いですね?と言い聞かせるが、順子は、私、耕平さんの為ならどんなことでもしてよと迫る。

そんな順子に、耕平は、君は何も分かっちゃいない。日本は今、戦争に向かって大きく動いている。戦争の邪魔になる人間は草の根を分けて探しているのです。いつか詳しく話しますと説明するが、順子は、きっとよ?あなたのこと、もっと知りたいの!と強いまなざしで耕平を見つめるのだった。

昭和10年12月

山にこもっていた共産匪達のグループを慕い集まっていた農民達は、食料不足と寒さから、子供達を次々に死なせていた。

子供の遺体を埋める母親の姿を見守る全明福

徐在林は下山を提案するが、今ここにいる赤色開放部落の人間の中には女子供がいると白永祥が反対する。

徐在林は、俺たちは臆病者と言われたくない。この場で決を採ると手を挙げさせるが、下山の案に手を挙げたものはほとんどいなかった。

その時、逃亡者が出たとの知らせが来る。

雪山を降りようとする人影を発見した徐在林は、銃を向けて撃とうとするが、それを止めたのは全明福だった。

同志を撃つのは止めてくれと言うのだ。

グループの隊長は徐在林に、おまえは利敵者だ。一番の利敵行為は内部対立だと告げるが、そんなことを言うのは、俺が朝鮮人だからか?と徐在林は反論する。

白永祥は、撃てよ、朝鮮人と挑発するが、全明福が泣きながら徐在林に抱きつき、諍いを止めさせる。

白は、東北抗日連合軍の檄文を読み始める。

4年の血戦の中、我々中国人は中国人を撃つべきではない。中国民族のため、内戦をやめようと言う文だった。

結局、徐在林は、全明福や数名の同調者と共に、金日成将軍の抗パルチザン部隊に合流するため、長白山へ向かうことにする。

その途中、討伐部隊が近づいてきている所を目撃する。

全明福は、本拠地を襲う気だと気づくが、徐在林が動こうとしないので、あんた、仲間を見殺しにするの?と問いかけ、自分一人で本拠地に知らせに行こうとする。

裏切り者にはなりたくないと言うのだった。

明福が馬を走らせようとしたとき、徐在林は陽動作戦を取ろうと言い出し、討伐部隊に目立つように別方向へ走り出す。

討伐部隊は、逃げる徐在林達一行に気づくと追撃して来る。

途中、全明福が撃たれて落馬してしまう。

そんな全明福の身体を抱いて、徐在林は一人雪山を進んでいた。

おまえを殺すものか、絶対医者に見せてやると言いながら歩く徐在林だったが、途中で力尽き倒れてしまう。

もう空腹で動けなくなったのだが、明福も既に死んでいた。

徐在林は泣きながら、明福の遺体に雪をかぶせると、来年ここに花が咲くだろう。桃色の花を咲かしてくれ。今は雪で辺り一面同じようにしか見えないからな。その桃色の花を目印にここに来るから…と語りかける。

その後、沈み行く太陽に向かって、一人雪の中を進む徐在林の姿があった。

………………………………… 休憩 …………………………………

昭和11年2月26日未明

首相官邸に押し入った青年将校達は、秘書の松尾を射殺すると、鈴木貫太郎、高橋是清と言った重鎮達を次々と襲撃して行く。

226事件である。

伍代俊介と標耕平は今の社会状況に関して議論を交わしていた。

俊介は、伍代は戦争で儲けた。自分は学校を辞めて満州へ行こうと思うと言い出す。

それを聞いた耕平は、温子さんから逃れる為?贅沢な苦しみだよ。一人で生きるってことは甘くないと諌める。

226事件の首謀者15名は、天皇陛下万歳を叫んで処刑される。

満州に来た俊介は、雨の中、中国人の人力車の車夫(高原駿雄)が日本人客と言い争いをしているの目撃する。

どうやら日本人客が、約束の料金をケチっていることに、車夫が文句を言っているらしかった。

その日本人客が、中国人を侮蔑的な言葉でののしっていることに耐えきれなくなった俊介は、つい、わずか20銭もお持ちじゃないのでしょうか?と嫌みを言ってしまう。

その日本人は20銭を取り出すと、ぬかるんだ地面に投げつけ帰りかけるが、その際、あんたの名前を聞いておこうと言う。

俊介は自分の名前を名乗る。

車夫は怒って、地面から20銭を拾おうとはしなかった。

そうした様子を近くで観ていたのは梅谷邦だった。

邦と俊介は、雨の中、一緒に帰ることにする。

新京飛行場で内蒙古機関長、田中隆一を見送っていたのは、関東軍第二課長武藤章()だった。

そんな武藤に伍代喬介が会いに来る。

東京

伍代由介と会っていた石原莞爾(山内明)は、これ以上、支那に出ると、日本と同じ国益を持つアメリカ辺りが出て来る可能性があると説明していた。

昭和11年11月

エイニン省ホンゴルド付近

関東軍が後ろ盾になり作った内蒙古軍事政府軍が進撃を始める。

その頃、耕平は、侵略戦争反対のビラを壁に貼る仕事をしており、兄同様、特高から追われていた。

工場で働いている耕平に会いに来た順子は、耕平が休んでいると聞き、落胆して帰りかけるが、一人の行員が追ってきて、刑事が来たと耕平に伝えてくれと耳打ちする。

耕平の下宿で、戻っていた耕平にそのことを伝えると、耕平は急いで、共産主義関係の印刷物や本を火鉢で燃やしながら、一週間くらい前、左翼の一世検挙があった。今は何でも、治安維持法に引っ掛けようとしているんだと説明する。

順子は、自分に出来ることならどんなことでも手伝うと言う。

しかし耕平は、僕のことなど忘れて下さい。順子さんと結婚したいと夢見たこともありましたが、自分はその内刑務所に行きますと言う。

それでも順子は、いつまでもあなたを待つことは出来てよと訴えるのだった。

特高に捕まり、牢に入れられた耕平は、向かいの牢に入れられている朴(井川比佐志)と言う朝鮮人の存在を知る。

耕平と同室の学生島津(斉藤真)が言うには、朴は普段、トラックの運転手をしていると言う。

耕平は島津に、ドイツと日本は防共協定を結んだそうだなどと最新情報を教えていたが、看守にしゃべるなと怒鳴られ、島津は取り調べと称して牢から出される。

戻って来た島津は、全身拷問を受けたらしく血まみれの状態だった。

さらに、額を触ってみると高熱を発していたので、耕平は看守に水を飲ませてやってくれと頼むが聞き入れなかった。

仕方ないので、便所へ行かせてくれと頼み、便所の水道から水を持ってきてやった耕平は、それを島津に飲ませる。

「天皇制打倒」の文字が刻まれた壁に手をつけ、その冷たさを島津の額に何度も付けてやる耕平。

耕平が捕まったことを知った順子は、伍代由介に助けてやってくれと頼むが、由介は、裁きを受けて戻って来るべきだ。法は間違っていないんだよと言い聞かす。

気の毒な境遇でしょう?と同情する順子に、自分で選択の道を間違ったのだから、自分で始末しなければいけないと、由介は冷静に教え諭す。

耕平は、特高刑事(草薙幸二郎)に拷問を受けていた。

天皇制について聞かれた耕平は、何の恩恵も受けていないと答える。

刑事は、扉を開き、隣の部屋で逆さ吊りにされて拷問されている朴の様子を見せるが、スリやかっぱらいじゃあるまいし、殴られて吐けるか!と耕平は抵抗する。

入院した島津の代わりに、半死半生になった朴が同じ牢に入れられる。

朴は、もう口がきけないらしく、耕平の手のひらに指で筆記して思いを伝えて来る。

どうせ死ぬなら、朝鮮で死にたい…

家族は?と聞くと、朴は首を振る。

みんな殺された。関東大震災の時、日本の憲兵に…

死ぬなよ、朝鮮があんたの手に戻るまで、殺されたって死ぬな!そう耕平は呼びかけるが、もう朴の答えは帰って来なかった。

新京 関東軍本部

石原莞爾が参謀長板垣少将(藤岡重慶)、参謀副長今村均大佐、武藤参謀らを前に、内蒙古の拘束を止め、中央の統制に従うように意思統一を図っていた。

その後、その石原と会った伍代喬介は、酒を飲みながら、自分はあんたを模範としてしたのだと告白する。

石原は、自分の意見はすなわち軍中央の意見であり、東京の伍代さんも自分と同じ意見で、これ以上、支那に手を伸ばすべきではないと言われていたと教える。

大連でホテル住まいしていた俊介は、東京から手紙が来たと言うので受け取りに部屋を出るが、その姿をロビーから発見したのが、いつしか、車夫と言い争いをして俊介に諌められた男(西村晃)だった。

俊介の部屋を訪れた男を、俊介は、温子の夫、狩野だと気づく。

温子から手紙が来ますか?と狩野が聞くので、来ません。私が存じているいるのは久慈温子さんですと答えながら、出て行くようにドアを開ける俊介。

部屋を出ながら、狩野は、温子をここに呼ぼうと思う。今日でも電報を打つので、旅なれない温子は一週間くらいかかるかもしれない。わしが留守の間、可愛がってくれますか?と嫌みを言うので、あなたは温子さんにふさわしくない男だと俊介は言い放つ。

その後、俊介から大連に来るようにと書かれた手紙を受け取った温子は、それを友人である伍代由紀子に見せていた。

由紀子は、あなたは私が反対しないことを知っていらしたのでは?と答える。

温子は、29年間、自分の願う生き方をして来なかった。でも、一度だけ、自分の願う生き方をしたい。私は昔、英介さんの婚約者だった女です。でも、私の心はもう、俊介さんに向かって走り出しているのですと打ち明ける。

それを聞いていた由紀子は、満州には日本と同じ姦通罪と言うのがあるの知ってます?ご主人はあなた達を告訴することが出来るのよと忠告する。

大連の港で待ち受けていた俊介は、船から降りる日本人達の中に温子の姿を発見し、すぐさま温子の為に用意したホテルに連れて行く。

そして部屋に着いた俊介は、決めて下さい。僕はここにいた方が良いのですか?出て行った方が良いのですかと聞くと、温子は分かっているじゃありませんか。私は人の荷物にしかなれない女なんですと又、自虐的なことを言う。

二人はレストランで食事をしながら、今後のことを話し合う。

俊介は、兵役があると言うので、その分だけ楽しく過ごすんです。今すぐ、ハルビンへ行きましょうと誘い、温子もすぐに同意する。

そんな二人を観ていたのは狩野だった。

部屋に戻り着替え終わった温子に電話がかかり、おまえが泊まっているホテルがやっと分かったと言う狩野の声が聞こえて来ると、それまで晴れやかだった温子の表情が曇る。

何事かと聞いてきた俊介に、やっぱりダメなんです。私が恐れているのは、このまま二人が暮らせば、あなたの一生が台無しになってしまいます。夫はあなたを訴えないでしょう。その代わり、嫌がらせの人を寄越すでしょうと温子は吐露する。

そこに、狩野がやって来て、離婚すると思っているらしいが、私は決して離婚しませんと俊介に伝える。

その後、叔父の喬介に会いに行き、5万貸して欲しいと頼んだ俊介だったが、強請られたな?と言われてしまう。

みっともないと思わないか?色恋沙汰には手を貸さんと一旦断った喬介だったが、すぐに気が変わったのか、その場で5万を手渡すと、条件がある。伍代として天津へ行け。高畠と協力して、紡績工場に適した土地を探してくれと頼む。

金をもってホテルに帰り着いた俊介だったが、温子の姿は既になく、手紙が残されているだけだった。

そこには11時30分の列車と書かれてあった。

私は狩野に付いて行きます。私一人、滅びた方が良いと思います。少しずつ死ぬ方が良いと思います…と綴られてあった。

すぐさま駅に向かった俊介は、走り出した列車の窓に温子の姿を求めてホームを走るが、列車の中で気づいた温子の窓のカーテンを、こちらも俊介に気づいた狩野が締めてしまう。

緩遠地方百霊廟付近 

西安郊外 臨童などでは抗日運動が高まっていた。

共産軍と戦うのを止め、日本と戦おうと民衆達は声をあげていた。

華清宮では、中国国民党政府軍事委員長蒋介石逗留地

西安 旧東北軍総帥 張学良司令部

12月11日 午後10時

旧東北軍将領連席会議で、張学良が5年前から領土を奪われてきたと演説をしていた。

そこに乗り込んで来たのは孫銘久率いる軍で、庭に隠れていた蒋介石を捕虜にする。

西安飛行場では、周恩来や葉剣英が会っていた。

趙延年はホテルで会った服部医師に、蒋介石は生きているでしょうかと尋ねていた。

同席していた梁思生は、どうなろうと中国は混乱状態になると解説する。

瑞芳は兄の延年と席を外して何事かを相談、服部医師が、愛国戦線は即、他国への侵略になると自説を披露していると、瑞芳は街に用事が出来たので一緒に行きませんか?と服部を誘う。

外に出ると、日本人夫婦の名でホテルに部屋を取ってあると瑞芳は教える。

昨年、ハルビンの軍需工場が爆破されたが、その事件で私を逮捕に来るそうですと瑞芳は言う。

服部医師は驚いて、関係あるの?と聞くと、瑞芳は黙って頷く。

ホテルの部屋に入った瑞芳は、ここで日本人に化けて続けますと言うので、服部医師は、君は今、生け簀の中の鯉のようなものだ。香港へでも行って身を隠す方が賢明だと伝える。

しかし、瑞芳は、平和なときだったら、私は金持ちの娘として楽しく暮らせたはずです。でも、平和は失われました。私、みんなが死んで行く中、一人で暮らせますか?と問いかける。

亡命して運動を続けると言う方法もあると服部医師は説得しようとするが、瑞芳は、私は逃げないことにしましたときっぱり答えるのだった。

その頃、瑞芳の父大福は、自宅にやって来た関東軍に捕まっていた。

奉天港州医科大学

学校を出て歩いていた服部医師は、道の両側で店を開いていた露天商の栗売りの男から「あの人安全だろうか?」と小声で話しかけられる。

服部は警戒するが、自分たちは仲間なので大丈夫だと言うその男は、危険が迫っているので僕ら移動するから、その間、三日経ったら亡命しろと伝えてくれと頼まれる。

蒋介石は昨日、南京に戻った。抗日戦線結成した…とも。

それを服部から伝え聞いた瑞芳は、これで中国の歴史、大きく変わりますと喜ぶ。

瑞芳はここを脱出して遊撃地区へ行くと言うので、それを聞いた服部は、死にに行くようなものだと止める。

その時、無断で部屋に入って来たのは鴻珊子(岸田今日子)だった。

そろそろ瑞芳の写真がこのホテルにも回って来る頃よ。指したの誰だと思います?伍代喬介よ。目的は鉱山…と珊子は服部達に教える。

そして、瑞芳さんの身柄、私に預けない?必ず満州の外へ連れ出せるわ。実費は別にして1万でどう?その代わり、私の命令に従ってもらうわと一方的に交渉を始める。

別室で話を聞いていた瑞芳が承知したと言う風に姿を現したので、服部さんと私たちとは、会ったこともない赤の他人になるのよと珊子は命じる。

その後、自分の下宿に一人戻って来た服部は、部屋の中に誰かが潜んでいることに気づく。

大塩雷太だった。

瑞芳はどこにいる?と聞いてきたので、伍代に伝えてもらおう。軍と組んで鉱山を手に入れても、いずれ中国に奪い返されると…と服部は答えるが、得意のナイフを投げつけた雷太は、一晩考えろ。今度はあんたの咽に飛ぶぜと脅し文句を残して去って行く。

翌朝、服部は奉天駅に向かう。

雷太が待ち受けていたが、雑踏の中で服部を見失ってします。

しかし、駅構内を張り込んでいた刑事達に服部は取り押さえられてしまう。

その側を通り過ぎて行くのは瑞芳と珊子だった。

一旦は刑事達を振り払い、逃亡しかけた服部だったが、すぐに捕まってしまう。

その様子を見ながら涙する瑞芳に珊子は、私の言う通り、約束よと赤の他人のままでいるよう耳打ちするのだった。

昭和12年7月8日 午後5時30分

北京郊外 盧溝橋付近

豊台 日本軍守備隊は中国に砲撃を開始する。

陸軍参謀本部では、軍務課長柴山兼四郎大佐、作戦部長石原莞爾、指導課長武藤章、軍事課長田中新一大佐、作戦課長河辺虎四郎大佐、作戦本部支那課高橋担中佐、謀略課柘植大佐らが集結し、作戦を練っていた。

7月11日 日本内地より三ヶ師団を現地に派遣することが閣議決定

7月19日 蒋介石、廬山にて対日戦を辞せずと声明を出す

車で移動中だった由紀子は、歩いている柘植大佐を見かけたので、車から降り声をかける。

又、戦線へ転属なさるって?その午後結婚は?と聞くと、柘植は、結婚は金沢で一度したことがありますが、その女は、女は待つものではないと言っていましたと言う。

自分のことを言われ、女に跪けと言うの?と気色ばんだ由紀子は、その方に何て伝えましょうと聞く。

柘植は、この戦争が済むまで待つよう御伝え願います。待てないなら仕方ないと告げて去って行く。

釈放され、下宿で順子と会っていた耕平は、兵役に付くか?断って刑務所に入れられるか?逃げるか?と迷っていた。

彼らは釈放したんでしょう?と聞く順子に、軍隊と言う監獄に入れる為です。兄が言ってました。誰も信じるなってと耕平は答える。

兄は、愛する人を不幸せにすることだけは免れたようですと言う耕平に、順子は、私はあなたが生きていてくれさえすれば良いんですと伝える。

そして、私は今夜、いくら遅くなっても良いの。生きている証しになるかもしれないと言い、いつしか二人は抱き合っていた。

天津 抗日運動の行進を観る群衆の中にいた俊介は高畠に、ロシアの通訳になれと言って来ました。そうすれば兵役免れるかな?と聞いていた。

その時、狩野を乗せた馬車が通りかかる。

御者を勤めているのは鴫田だった。

その後、奉勅命令が下った。

宣戦布告なき戦闘がこうして始まった…