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才女気質

頭が切れ、何事も自分が仕切らずにはおれない強気な女の家族が巻き込まれる騒動を描いた人情喜劇。

ユーモア要素として、すっかり現代っ子風になった芸子たちの生態がおもしろおかしく描かれたりしているが、全体としては普通のドラマ仕立てであり、爆笑ものと言う感じではないが、こんな母親いるいると思わせ、どちらかと言うと苦笑させられるようなタイプの話になっている。

轟夕起子が強気の女、大坂志郎が気の弱い夫、そんな二人を冷めた眼で観ている大坂志郎の母親つねを吉川満子がそれぞれ好演している。

息子役の長門裕之の結婚相手となる久子を演じているのは、新人時代の吉行和子。丸顔で、本当に初々しく愛らしい顔つきである。

男好きな妹辰江を演じている渡辺美佐子や、選挙好きな弟殿山泰司なども作品におかしさを加えている。

一夫の母スミを演じている原ひさ子は、その後も、テレビなどで可愛いおばあちゃん役が多かった人だが、このころから老け役をやっているように見える。

当時、50歳くらいで、今ならもっと若々しい中年だと思うが、当時は白髪の老婆と言った印象である。

それでも、アップになると、顔などはまだ張りがあり、老けた感じがないので、幾分「老け役」を意識した演技をしているのではないかと思う。

久子の父親で、織常の主人役は下條正巳ではないかと思うのだが、キネ旬データのキャスト欄には載っていない。

基本的には、嫁姑の衝突、新旧世代の価値観の相違と言った日常的なテーマが描かれているのだが、当時、中国からの帰還者に対し、共産主義に洗脳されているのではないかと言った警戒感が庶民の中にあったらしき描写などは、大変興味深かった。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1959年、田口竹男「悪女気質」原作、新藤兼人脚本、中平康監督作品。

踏切風景を背景にタイトル

その踏切を渡って自宅の表具商松江堂に帰って来たのは、表具師松江市松(大坂志郎)の女房、登代(轟夕起子)だった。

登代が決めて来たと言うので、仕事をしていた市松は、何を?と聞き返す。

令吉の縁談を、あんじょう、西陣の「織常」の娘久子に決めてきたと言うのだ。

仲人は、知事の地井さんに頼みたいので、お母はんに相談に行くと言いだした登代は、すぐに又出かけて行く。

その直後、仕事を切り上げた市松も、弟子の三吉を残して出かけて行く。

登代がやって来たのは、市松の母で茶屋翁屋の女将をしているつね(吉川満子)の置屋だった。

令吉のことで話がありますと切り出そうとした登代だったが、これからゴルフに出かけると言う金魚(峯品子)と言う芸者がおり、それに気を取られて話しがなかなか前に進まなかった。

つねは、その内、芸者もオートバイに乗るようになると皮肉まじりで予言する。

その後ようやく登代は、令吉が昨年大学を卒業したので、西陣の「織常」の娘久子と縁談を決めたと説明する。

その頃、市松は、馴染みの茶店にコーヒーを飲みに来る。

その市松に慌てたように、席を立ち上がり、頭を下げて出て行った娘がいた。

市松は誰だか気づかなかったが、その娘こそ、西陣の「織常」の娘久子(吉行和子)であった。

久子はその後、とあるデパートの中でホットケーキミックスの実演販売している店にやって来て、客の眼を盗んで、商売用の見本品をつまみ食いしかけていた宏子(中原早苗)に声をかける。

二人は実は同級生だったのだが、市松や登代は、その事実を知らないようだった。

久子は、今後、令吉と結婚したら、宏子の義姉になってしまうので、複雑な心境だった。

さっき喫茶店であんたのお父ちゃんに会ったけど、派手なハンチングかぶっていたと久子が教えると、あれは自分が買うてあげたもんやと宏子が笑う。

その頃、登代はようやく自宅に戻って来ていたが、気がつくと、市松の姿が見えない。

離れには、以前から部屋を貸している江川スミ(原ひさ子)と言う老婆が一人いるだけだった。

三吉に聞いてもらちがあかないことにいら立ちかけた登代だったが、そこに、のんびり市松が帰って来たので、仲人は絵描きの水雲さんに頼んでくれた。あのお母はんに、良くあんたのようなぼんやりが生まれましたなと嫌味を言う。

そして、今後、離れの江川さんに出て行ってもらおうと思うと切り出したので、さすがの市松も驚く。

スミは、かつて市松が修行させてもらった大阪の江川しょうなん堂の人であり、戦後、中国から帰って来ない息子をずっと待ち続けている人だったからだ。

しかし、登代は、もう15年も面倒見ているのだから十分だろう。戦後帰って来ない息子の一夫さんだって、中国の収容所にいると連絡があってから、もう5年も経っている。もう帰って来るはずがないと言うのだった。

登代自身、長男の庄吉を戦争で失っていたのである。

そんな言い争いをしている時、令吉(長門裕之)が帰って来て、良っちゃんの代わりに、明後日から大阪テレビの学芸部に行く事になったと報告する。

就職が決まらないと心配していた登代は安心するが、明日、見合いやでと伝える。

そこに、宏子も帰って来たので、見合いは南座ですることにしたと教える。

宏子も、スミを追い出すと言う話を聞くと反対する。

そこに登代の弟、成次(殿山泰司)もやって来て、区会議員に立候補しようと思うと報告する。

その時、電報が届く。

市松が、これが江川の奥さんを追い出すと言い出しているのだと成次に聞かせていた時、電報を受け取った宏子が、一夫さんが帰って来るって。明日12時京都に着くってと言いながら、電報を離れのスミに手渡す。

その場でそれを知った家族全員、驚愕するし、電報を読んだスミは泣き出す。

翌日、京都駅に迎えに行った宏子とスミは、列車から降り立った一夫(葉山良二)と再開を果たす。

その頃、南座で竹本義太夫の人形浄瑠璃を観劇していたのは、令吉、久子、登代たち。

令吉は正座した足の先で久子の足を触ったり、手を触れようとちょっかいを出すが、ぴしりとはねつけられる。

自宅にいた市松は、宏子とスミと帰って来た一夫の姿を観て喜ぶ。

女従業員のキヨ子にちょっかいを出していた成次の店にやって来た登代は、一夫さんは、長いこと中国にいたんだから共産党やろね?と聞いて来る。

うっかりすると、私たちの方が追い出されるかも知れないと心配しているのだった。

登代の帰宅後、その一夫が、中国での話をみんなの前で披露していた。

昭和28年に中国の収容所を出てから、あちらでダムや製鉄所で働いていたと言う。

そんな話を登代は苦々しい顔で聞いていた。

しばらく、一夫は成次の雑貨屋の手伝いをすることになる。

演説が巧いのではないかと駆り立てられたのだが、苦手だと分かったので、宣伝ビラの書き手になっていた。

そんな一夫の元にやって来た宏子は、どこかに行かないか?と誘う。

一方、妹の辰江(渡辺美佐子)がやっている小料理屋にやって来た登代は、入口の所で、店から出てきて慌てたように帰る中年男の姿を目撃する。

店の奥に行くと、辰江が一人沈んでいる。

どうやら、又、今出て行った杉浦と言う男に逃げられたようだった。

辰江は、杉浦はん、好きや。別れとないねんと嘆く。

杉浦はんには妻子がいるんやと登代は呆れるが、辰江は、押し入れから掛け布団を取り出して、それに包まってしまう。

そんな妹に、登代は、ここの二階に置いて欲しい人がいる。若い男はんやで…と頼む。

その頃、一夫と宏子は散歩をしていた。

交番の前を通るとき、一夫は警官に挨拶して通り過ぎるが、突如、見慣れぬ男から声をかけられた警官は不審がり、掲示板に貼られた指名手配犯の写真を見る。

それは、一夫にそっくりだった。

一方、令吉と久子もデートをしていた。

六甲に登った一夫は、中国の警官は、胸に「人民警察」と言う名札を付けており、世の中を良くするには、まず警官からだと思うと宏子に説明する。

コーヒー店で新聞を読みながらくつろいでた市松の席に、黙ってやって来て座った登代は、辰江の二階に江川さん親子を置いてくれるよう頼んで来たと報告する。

コーヒー店の主人(小泉郁之助)が登代の来店を珍しがり、コーヒーを差し上げましょうか?と勧めるが、登代はコーヒーたら言う物は、匂いを嗅いだだけで胸がムカムカすると言う。

コーヒー店を出た登代は、仲良く談笑しながら歩いている一夫と宏子の姿を目撃してしまう。

家に帰って来た登代は、宏子を呼び、一夫さんに近づくなと釘を刺す。

その頃、一夫は、「戸田成次」の選挙カーの側で、面白そうに、成次の演説を聴いていた。

市松は、辰江の店「高瀬舟」に来る。

辰江は、飲めない義兄がやって来たのを珍しがるが、市松は、一本付けさせて、登代がこちらに厄介持ち込んだそうだなと恐縮し、お前はんは男はん好きやからな。今回は押さえておいて欲しいんや。前途有望な青年やから頼むぜと言う。

やがて、令吉と久子の結婚式が行われ、江川スミと一夫母子は、辰江の店の二階に間借りすることになる。

荷物をほどくスミと一夫に、茶菓子を持って二階に来た辰江は、一夫に興味を示しながら笑顔を見せるが、降りる時足を滑らせて、階段から落ちてしまう。

令吉と久子が白浜に新婚旅行へ言っている間、登代は、つねの所へ挨拶に向かうが、仲人に頼んだ水雲さんの絵は、市松に表装させて持ってきてくれと頼まれる。

その時、隣の部屋で大きな音が響いたので、戸を開けてみると、芸者の金魚がゴルフのクラブを部屋の中で振り回し、電球の傘を割ったと知り、つねは唖然として興奮状態になる。

新婚旅行から戻って来た令吉と久子は、朝からキスをするなどべたべたし始める。

登代は、成次の店にやって来るが、成次は十中八九落選や。えらい借金こしらえてしまった…と落ち込んでいる。

そこにやって来た一夫までもが、落選間違いありませんと冷静に伝えたので、聞いていた登代は怒り出してしまう。

宏子は、辰江の店の二階のスミの部屋に来ては、編み機の手伝いをするようになっていた。

ホットケーキ屋は辞めたのだと言う。

そこに、一夫が帰って来て、おじさん、落選です。お母はん、ご立腹ですと教える。

不機嫌なまま自宅に戻って来た登代は、市松も久子もいないので、家中探しまわるが、三吉が先ほど出かけたと言う。

久子は、令吉がADをやっている料理番組のスタジオ見学に来ていた。

番組では、料理研究家の江上トミ先生がお料理を作っていた。

番組が終了した令吉は、久子と会うと、これから宝塚でも行こうかなどと話していた。

市松は、母であるつねの置屋にやって来る。

ここでも、成次が落選した話になるが、つねは、あてなら、あんな女、離婚するなと登代のことを批判する。

しかし、市松は、あれは賢いおなごやからな。俺のような男は、おいど、叩いてもらった方がええのやと言う。

その間ずっと、隣の部屋で、芸者ワルツの替え歌を歌っている芸子たちに苛ついたつねは、うるさい!と怒鳴るが、芸子たちは、声を小さくしただけだった。

三吉もその日の仕事を終え、銭湯に出かけると、家の中に一人残った登代は苛つく。

そこに久子と令吉が戻って来たので、座るように命じた登代は、どこにおいでやした?と聞き、何で私に黙って出かけたのかと久子を責め始める。

市松が止めに入るが、登代は止めず、久子はん、あんた、男はんのご機嫌を取っているだけで良いと思うてんのと違うか?これだから、お嬢はん育ちはダメやと皮肉を言う。

令吉に出世してもらいたくないのか?と言う登代の言葉に、久子は、出世してくれへんでも、平凡に生きていければ良いんですと反論してしまう。

その言葉に切れた登代は、そんなら、あんたのような人はいりまへんと言い、久子も負けじと、心配いりまへん。うちから帰りますと言い残して、荷造りを始める。

令吉と市松は、登代に止めさせようとするが、登代は言うことを聞かず、久子はそのまま家を出て行ってしまう。

外に出た久子は、帰って来た宏子とばったり会う。

登代は、織常に電話をかけると、出てきた主人(下條正巳)に、今、久子はんを帰したと連絡するが、相手もあっさり承知するだけだった。

令吉は怒ってしまい、自室に籠ってしまう。

市松が、久子を呼び戻そうと立ち上がりかけるが、登代は、行ったらあきまへんとぴしりと叱る。

そこに、一夫がやって来て、宏子はんをお嫁さんに頂きたいのですが…と申し出るが、登代はきっぱりお断りしますと返事する。

あんた、失業中でっしゃろ?と登代が嫌みを言うと、一夫はこれから探しますとのんきに答える。

登代は、宏子は安月給の男の所へはやれまへん!と言い張る。

一夫は、出世しなくても、平和な日本にしますと言うし、宏子も、一夫さんの所に行きますと決意を固めているようだったので、頭に来た登代は、二度とうちの敷居は踏ませません!みんな、出て行ったら良いんや!と言い放つ。

宏子と一夫が出て行った後、あんたはんも出て行ったら良いんやと市松に当たった登代だったが、市松は当惑し、わしはどっこも行く所あらへんがな…とつぶやく。

後日、登代は雨の中、織常の店の前まで来て、中に入れず路上でうろついていた。

その様子に気づいたのは、向かいの二階に住んでいた久子と令吉だった。

店から主人が出て来ると、登代はあわてて身を隠すような真似をする。

その後、辰江の店に来た登代だったが、一夫と宏子は、新婚旅行に下呂温泉へ行っていると言う。

コーヒー店では、その一夫と宏子から届いた絵はがきを、市松が嬉しそうに読んでいた。

二人は、貯金を下ろして、一泊の旅行に行ったのだった。

すっかり孤立してしまった登代は、用水路の水を一人ぼんやり眺めたりする。

やがて、登代は戦死した長男正吉の七回忌を行うことになる。

坊さん(井東柳晴)の読経の間、招待された客たちは、皆、足がしびれている様子。

読経が済み、一緒に食事でもと勧めるが、坊さんは、次に回らなければならないのでと断り、辰江に挨拶してスクーターに乗って帰って行く。

その後、仏壇の前で登代が泣き出したので、つねたち招待客は驚く。

4、5つの頃から字を教え、一中、医大と順調に進んだお前は、令吉や宏子と違い、よう出来た子やった。それが、卒業した途端、兵隊に取られ…、お前さえ生きていたら…と登代が泣き崩れる。

つねは、芝居でもしてるんでは?と覚めた目線で登代を観て、お腹空いたな…と、食事を催促すると、登代は、指図は私がします!ときっぱり言い切る。

注文した料理の膳を確認した登代は、三つ多いと首を傾げる。

市松は、わしが頼んだんやと口を挟むが、登代は、筋が通らん人は呼ばへんわと憮然とする。

そこに、久子が顔を出し、お線香上げさせていただきますと挨拶し、仏壇に向かう。

市松がつねに、久子にやや子が出来ましてなと教えるが、登代は、やや子が出来たくらいで仲直りは出来まへんでと無視する。

そこに、一夫と宏子もやって来て、線香を上げる。

登代は、親をバカにするのもいい加減にしなさい!と怒鳴りつけるが、つねは、もめ事はお登代はんに任せて…と言いながら、買ってに食事をし始める。

全員から無視されたと感じた登代は、離れに行くと閉じこもってしまう。

離れの前に来た市松は、お登代!我を張るのもいい加減にしろ!と叱る。

そこにやって来た一夫は、お母はん、失礼します。こんな不愉快な空気では…と言い残して、宏子ともに帰って行く。

市松は、全ては水の泡や…とがっかりする。

成次の妻まき(新井麗子)は、辰江の膳の食い残しの料理も自分の折りに詰め、夫と一緒にさっさと帰ってしまう。

部屋に戻って来た市松は、あれが一回お冠になったらどうしようもない。わしは今まで、一回もあいつを叩いたことあらへんのやとつねにこぼす。

料理を食べ終えたつねと辰江、令吉と久子も帰ってしまい、部屋の中には市松だけになる。

市松が一人で飲んでいると、離れからようやく登代が出て来る。

みんな、帰ったんか…とつぶやく登代に、一夫たちがお前を相手にせんのではのうて、お前が相手をせんからやと市松は言い聞かす。

市松は脱力し、隠居しようかなどと言い出すが、あんたが仕事離れたら、いっぺんに年を取ると登代は言い、この際、令吉夫婦は離れに住まわせ、経済も生活もみんな別にするんや。子供も独立、親も独立…。あんたはんは、お気張りやす。私がおいどを叩かんと開きまへんわと登代は言い出し、市松と二人で笑い合う。

かくして、令吉、久子は離れで別居生活となるが、ある日、警官姿になった一夫が登代を訪ねてきたので、登代は驚いて、離れで料理をしていた久子を呼ぶ。

一夫は、立派な警官になり、世の中を良くする為に頑張りますと決意を述べ、登代を喜ばせる。

その時、鍋がこげた匂いがすると気づいた登代が久子に注意すると、久子は、鍋をかけっぱなしにしていたと慌てて離れに戻って行く。

一夫は、市松にも挨拶に行くと言い、コーヒー屋に向かう。

帰る一夫に、登代は、お気張りやっしゃと声をかける。

その後、成次の「みのり雑貨店」に電話を入れた登代は、東京から改進党の議員が来るらしいから、あんた、挨拶に行きなさい。又今後があるやろと命じ、やっぱり私がおらんと、何一つできへんやろ?と笑いながら、あれこれ細かく指示を出すのだった。