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猟人日記(1964)

戸川昌子原作のミステリ小説の映画化

このアイデアを観ていたら、「推定無罪」(1991)と言うハリウッド裁判映画を思い出した。(実際、「推定無罪」の原作がベストセラーになった当時、アメリカのテレビ局が作者の元に取材にきたそうで、あちらでも「猟人日記」は翻訳されていたので、「推定無罪」は盗作なのではないかと疑われたようである)

アイデアの類似は良くあることなので、偶然かも知れないが、こちらの作品の方が早いので、少し安心した。

ある男に突然降り掛かった女性殺人の嫌疑。

しかも、彼には逃れられないような有力証拠がそろっていた…

これは確かに、ミステリファンの好奇心をくすぐる不可解な設定だが、あまりに強固な証拠であるが故に、疑われる男性の立場になって考えると、そんな証拠を自分以外に用意できる人物は限られて来るので、自ずと犯人像は絞られてしまう。

だから、ミステリを読み慣れたファンにとっては、比較的簡単に結末を予想できるアイデアなのである。

さらに、似たようなアイデアは、横溝正史の「悪魔の寵児」などと言う作品でも既に使用されている。

そのメインアイデアはともかく、この作品には、観ていて致命的に弱い部分がある。

それは、犯人が、主人公本田の行動をあらかじめ予測して犯行に及んでいると言うことである。

これは、どう考えても不自然と言うしかない。

例えば、相川房子殺しのことを考えてみよう。

これを発見するのは本田だが、小杉美津子に抵抗され、性欲が満たされない状態で帰りかけた本田が、相川房子のことを思い出し、そのアパートを訪ねるのは全くの偶然である。

あらかじめ、二人の間で約束が交わされていたと言うような描写はない。

相川房子のアパートへ向かわない可能性の方が遥かに高いのだ。

つまり、この殺人は、あらかじめ、本田が相川房子に会う夜、小杉ミツ子と言うアリバイ証言者を作り、そのアリバイ証言者も殺すことによって、両方の殺人の容疑を本田にかけると言うトリックのはずなのだが、その作戦が成功する確率はかなり低いと言わざるを得ない。

本田が相川に会いに行かなければ、本田は事件を知ることもないし、事件に自分が関わっているとも気づかないだろう。

彼が関わることになるのは、小杉ミツ子殺しだけと言うことになり、主人公本田が次々遭遇する死体と言うサスペンスはかなり削がれる。

その後、原作を読んでみたが、原作でもこの辺の説明は何もなかった。

原作と映画の大きな違いは、探偵役が大きく変更されていることと知った。

原作では、畑中健太郎弁護士は老人で、進士一(しんし はじめ)と言う畑中の下で働く男性新人弁護士が事件を調査する展開になっている。

映画では、藤睦子(十朱幸代)と言う女性キャラを登場させ、畑中と二人で進士の役柄を共有する形に変更されている。

その他は、ほぼ、原作に即した作り方になっている。

原作には、本田一郎と相川房子が一緒に「外人部隊」の映画を観る場所は、一行だけ「新宿日活」と書いてある。

ひょっとすると、この原作が日活で映画化されたのは、そう言う繋がりもあるのかも知れない。

途中でちらり写る、「銀パリ」で歌っている本物の丸山明宏(今の美輪明宏)や、若き中尾彬の姿などが珍しい。

地味な印象がある北村和夫が探偵役と言うのも意外性はあるが、これで客が来たのかな?と言う疑問もないではない。

種子役を演じている原作者戸川昌子は、歌なども歌っていたはずだが、芝居に関しては素人だったはずで、その演技力はそれなりである。

全体的に地味な印象だし、ミステリとしてもやや疑問は残るものの、ちょっと異色のミステリ映画と言った感じだろう。

 

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1964年、日活、戸川昌子原作、浅野辰雄脚本、中平康監督作品。

法医学研究所

血液型検査の方法は、現在16通り発見されており、血液型は人によって全て異なっていると言われる。

ABO型だけではなく、RH型と言うのもあり、血液からだけではなく、唾液、精液、爪、骨、などからも検出される。

ただし、非分泌型血液場合、精液などから検出された血液は、全てO型と言うことになる。

タイトル

極東生命のタイプ室

そのビルの屋上にはハイヒールがそろえられており、女子社員が一人、外壁にぶら下がっていた。

女は自分の前に現れた優しい男との一夜を思い出しながら、手を滑らせて落下する。

極東生命のキーパンチャー尾花啓子は、ノイローゼからの自殺なのか?と、記者たちが警察署内で刑事に群がる。

刑事が、尾花啓子の姉常子(小園蓉子)を警察署内に招き、妹さんが外泊したことはないかと聞く。

常子は、昨年末、一度だけ、終電車に乗り遅れてたと言うことで、翌朝帰宅したことが会ったと話す。

さらに刑事は、妹さんは妊娠しており、それを苦にした自殺ではないかと教えると、それを聞いた常子は泣き出し、妹の日記に変えてあったが、新宿のバーではじめて会った男と一緒に「流浪の民」を歌ったことがあると書いてあったと言う。

「猟人日記 本田」と書かれた大学ノートを鼻歌まじりにめくるのは、電子計算機技師本田一郎(仲谷昇)だった。

4月16日 ホテルを出て、4件目の飲み屋で獲物に遭遇

四谷の静かな旅館へ向かった。

2時間くらい抱いたが、相手はバージンだった。

極東生命のキーパンチャーらしく、バッグにそっと数千円投入しておいた。

追記 9月10日、獲物とランデブーしてから半年後、自ら命断つ…哀悼…と太田は日記に書き込む。

キャストロール

サングラスをかけた女がバーに現れ、店にいたバイオリニストに、以前この店で「流浪の民」をリクエストしたものがいなかったと聞く。

そう言えば、アルトの女が突然歌い出し、それに合わせて、アルトの男が合唱したことがあったと思い出す。

そのアルトの男の名前を聞くと、大学のコーラス部のリーダーだった人で本田さんと言うが、最近来なくなったと言う。

バイオリニストから、何とかその本田が在学したと言う大学名を聞き出した女は、その後、「アジア・モラル大学」に、結婚相談所のものと言う名目で問い合わせの電話を入れる。

本田一郎は立派な学生で、かつて、赤ん坊を助けるため、福岡に飛んだこともあり、新聞記事にもなった。

何でも、何千人に一人の血液型の持ち主だと言うことらしい。

今は、パレスホテルに滞在中で、昭和電気の電子計算機技師をやっていると教務課の松山は教えるが、電話を終えた後、本田一郎なら、関西物産の社長令嬢と結婚していたはずだと同僚から聞かされ困惑する。

サングラスの女は、パレスホテルにJC航空と名乗り、本田の部屋番号を聞き、305号室と知る。

その本田一郎が、ちょうどパレスホテルに帰って来たので、お代わりしましょうか?と受付係が電話で伝えると、サングラスの女はあわてて電話を切ってしまう。

本田は、ホテルを抜け出すと、茗渓荘と言うアパートにやって来る。

ここでは、映画やテレビの脚本を書いていると言うふれこみで借りていたのだった。

その部屋の中に置いてあった「猟人日記」を取り出した本田は、寂しかったろう…と言いながら、又、鼻歌を歌いながらベッドでノートを広げ、これまで遭遇してきた過去の女たちのことを思い出していた。

洋服ダンスから、「S」のイニシアルが入ったネクタイを取り出した本田は、その日着ていく衣装を身に着け、タンスの内側の鏡に自らの姿を映しながら、片言の日本語で「私、サブラです」と口にしてみる。

レコードショップへ行ってみると、4人連れの女たちがおり、3人グループが結婚話をしている最中、一人だけ無視し、帰りも、付き合いがあるからと言い訳しながら一人で店を後にした相川なる女を獲物として眼をつける。

その女を尾行した本田は、女が一人で洋画の「外人部隊」の看板の前に停まり、映画館に入ったのを見届けると、すぐ後を追って中に入ると、わざとぶつかり、片言の日本語で謝る。

女はすぐにその言葉に反応し、フランスの方ですか?と聞いてきたので、アルジェリアですと答える。

映画の舞台になった国と知った女は興味を持ったのか、そのまま一緒に並んで映画を観ると、バーで酒を飲み、これまで結婚話も数度あったけど、断って孤独生活を楽しんでいると言う彼女のアパートへ誘われる。

部屋の中には、男のヌード写真集が置いてあったので、セックスに興味はあるようだと感じた本田はその場で抱きつく。

女は少し抵抗したが、やがておとなしくなる。

女は相川房子と言った。

翌日、新聞を読んでいると、見覚えのある女の顔写真と共に、集金係と言うその女が殺されていたと言う記事を読んだ本田は、最近の獲物の一人ではなかったかと記憶を探る。

津田君子 10月16日 千葉…「猟人日記」にはそう記してあった。

スーパーマーケットの店員だと言う女で、その日は休日だと言いヘルスセンターの案内にいた。

平和荘と言うアパートの案内地図をもらい、再会を約束した。

彼女(茂手木かすみ)が絞殺された日、関係があったらしい。

しかし、俺にはアリバイがあった。

その日、本田は別の女と一緒だったのだ。

追記として、11月5日、津田君子殺される。私が追求されることはないだろう…と本田は書き込む。

後日、絵を描いていた女学生に近づいた本田は、自分はロンドンタイムスの特派員で1週間前に日本へ来たけど、日本のことを知りたいので案内してくれないかと嘘をつき近づくと、観光バスで、一緒に都内観光をした後、酒に誘う。

その後、車でホテルに向かおうとすると、女学生は自宅のある阿佐ヶ谷へ行ってくれと頼む。

玄関脇の下駄箱には「小杉」と言う名前が書いてあったが、その上には「尾花」と言う名札が付いていたので、本田はつい、自殺した尾花啓子のことを思い出す。

小杉と言うその女学生が言うには、尾花と言う人は、最近越してきた人で、自分の二階に住んでいるのだと言う。

女学生小杉美津子()の部屋に招き入れられた本田は、相手の女のコーヒーカップを持つ手が震えていることに気づき、その場で押し倒し、スラックスを降ろそうとするが、女は「今日はダメなんです」と必死で抵抗したので、諦めて帰りかける。

本田が、あなたには恋人がありますねと指摘すると、否定した小杉美津子は、本当はあなたが好きなんですと訴え、自分の電話番号をスケッチブックに書いて本田に渡す。

アパートを出た本田だったが、物足りなさを覚え、いつ来ても歓迎すると言っていた相川房子のことを思い出し、そのアパートへ行ってみることにする。

ノックをするが返事はなかった。早朝4時45分と言う時間では熟睡している可能性が高かった。

念のため、ドアノブを回してみると難なく開いたので、中に入り電気を点灯してみると、そこには絞殺された相川房子の死体が転がっていた。

本田はあわてて電気を消すと、外に逃げ出す。

誰があんなことを…

夜道で、警邏中の警官とすれ違った本田だったが、幸いにもタクシーで四谷三丁目まで帰って来ることが出来た。

相川房子も絞殺された。だが、俺には関係ない…。この俺が、死をまき散らせているのではないか?バカな!そんなことがあってたまるか!単なる偶然に過ぎない…本田はそう結論づけ、

12月22日、相川房子が殺された…と「猟人日記」に書き込む。

昭和電気の部屋にいた本田は新聞をチャックしてみるが、まだ相川房子の死亡記事は載っていなかった。

そこに仕事の打ち合わせに来た社員が、奥様と離ればなれと言うのはお寂しいでしょう。いつ、大阪へ?と聞いてきたので、明日飛行機で…と本田は答える。

翌日の飛行機の中で、本田は、タイピスト殺されると言う記事を発見する。

大阪に到着した本田を空港まで迎えに来たのは、妻の種子(戸川昌子)だった。

種子は、心斎橋の店を予約しておいたと言い、その後、そのキャバレーで踊る。

その時、ステージ上に登場した踊り子が、アクロバチックなポーズをとったのを観た本田は、思わず、絞殺死体を連想し、めまいを起こしてしまう。

屋敷に帰った本田と種子は、老いた家政婦(岸輝子)から、父親はもう寝たと知らせれる。

種子の部屋は、何枚もの油絵が飾ってあった。

全て種子が描いた作品なのだが、どれも不気味なイメージが描かれていた。

種子と本田の夫婦生活は、メキシコ旅行先での出来事以来、大きく狂ってしまっていた。

メキシコで種子が生んだ子供が骨のない奇形児だったのだ。

そのショックを受けた本田と種子は、互いに性的関係が持てなくなってしまっていた。

翌日、飛行機で又東京に戻って来た本田だったが、今でも彼の社会的地位は、種子の一家に支えられている状況に代わりはなかった。

結果的に、今の本田は、女から女への性の狩猟者のような存在になってしまっていた。

本田はふと、小杉美津子も、殺されているのではないだろうか?と言う不安に苛まれる。

彼にとって、相川房子事件の唯一のアリバイ証言者だったからだ。

1月15日、以前受け取った電話番号に電話をしてみると、ちゃんと小杉美津子が出たので安心した本田は、今夜11時半にアパートへ来てくれと約束を取り付ける。

夜、小杉美津子のアパートへ行った本田は、下駄箱に靴を入れると、部屋をノックするが返事がない。

ドアノブを回すと、鍵はかかっておらず、部屋の中に入れたが、誰もいなかったので、本田は不思議がる。

約束をしていたのにいないとはどういうことか分からなかったのだ。

一旦机に座り、タバコを吸い始めた本田だったが、洋服ダンスから見覚えのあるネクタイの一部がのぞいているのを発見し驚愕する。

そのネクタイには、「S」のイニシアルが入っていた。

まさかと思いながら、タンスを開けてみた本田は、中から倒れかけてきた美津子の死体を発見する。

彼女の首に巻き付けられていたのは、本田のネクタイだった。

管理人や警察に知らせると、確実に彼の社会的地位は終わってしまうことは明らかだった。

誰かが本田を罠にかけようとしている。

驚いて、死体を元のようにタンスの中に押し込むと、扉を閉め、タバコの吸い殻を押収し。アパートから逃げ出そうとした本田だったが、なぜかドアに鍵がかかっており、中からは開かなくなっていた。

仕方なく、美津子の部屋の窓から裏側に抜け出た本田は、靴下姿で玄関まで戻って来るが、下駄箱に入れたはずの彼の靴がなくなっていた。

物音がしたので、あわててアパートから逃げ出した本田は、タクシーを拾ってアパートまで帰って来る。

途中、サイレン音が近づいてきたので本田は怯えるが、運転手が言うには火事場に向かう消防車だった。

靴下を脱ぐと、右足の親指が怪我していたので、ハンカチを巻いて応急措置をとる。

自分の洋服ダンスの中にあるはずのネクタイを確認しようと扉を開けた本田だったが、中から倒れかかってきたのは、竹箒にカミソリが何枚も挟み込んであるもので、本田はそのカミソリで頬を切ってしまう。

タンスの中にはネクタイもなかったし、驚いたことに、机の上に置いたはずの「猟人日記」もなくなっていた。

犯行現場に致命的遺留品と言う記事が載った新聞が頭に浮かぶ。

刑事が来るとしても、まさか今日来はしまいと高をくくっていた本田だったが、そこに突如乗り込んで来た刑事たちによって、あっさり手錠をかけられてしまう。

裁判の第一審では、本田のアパートの布団入れから相川房子のストッキングが見つかったり、イタリア製の本田の靴が出てきたり、被害者の体内から採取した精液からRH-AB型の血液反応が出たりと、本田に取って圧倒的に不利な証拠がそろい、結局、津田君子殺しでは証拠不十分で無罪。相川房子と小杉ミツ子殺害では有罪となり死刑判決が下された。

畑中健太郎(北村和夫)弁護士は、第二審の弁護士を務めることになる。

一審を担当した和田弁護士に挨拶に行くと、最初から勝ち目はないと言われてしまうが、「猟人日記」に書かれていた女のリストを渡してくれる。

そのリストを一件ずつ潰して行くことにした畑中だったが、最初に会いに行った団地妻は、本田との関係を聞かれるのを嫌がって追い返す。

続いて、歌手の丸山明宏(美輪明宏)が歌っている「銀パリ」で若い娘と会うと、たった一回だけあったことがあると言う。

異常性欲者と思うかと言う質問には、何にも知らないと言う彼の証言を信じるわと言う。

事務所で、弁護士の卵、藤睦子(十朱幸代)と調査方針を話し合っていた畑中は、病院から電話が入り、赤ん坊が生まれ、男の子だったと知らされる。

畑中にとっては、5人目の子供だったので、特に慌てる風もなく、調査に出かけて行く。

最初に会いに行った小野充子は不在で、赤ん坊をあやしていた母親らしきは、今、城南大学の図書館に行っていると言う。

帰り際、畑中が、この子は、充子さんのお子さんですか?と聞くと、母親はとんでもないと否定する。

畑中が次に会ったのは、松田京子と言う19歳の娘だった。

レストランで食事中だった京子は、ところてんを注文した畑中に便乗し、自分も頼むと、色んな格好をさせられたけど、特に異常性欲者とも思わなかったとあっけらかんと答え、勘定も畑中に任せてさっさと帰ってしまう。

茗渓荘に来た畑中は、本田さんはタンスの中に竹箒があったはずだと言ったそうだが、竹箒ならそこに立てかけてあったと管理人から聞く。

さらに、部屋の中から女の鳴き声が聞こえて来たとかみさんが言っているけど、いくら何でも、そんな怪談じみたことはないだろうとも。

小野充子と大学で会った畑中は、やはり、あの母親が抱いていた赤ん坊が本田の子だと教えられる。

認知させるつもりはなく、本田は何も知らないのだとも…

畑中は、赤ん坊が写った写真を欲しがるが、小野充子が渡そうとしなかったので諦め、帰り際に、子供は生まれてみてはじめて嬉しいものだ、自分も今日、5人目が生まれたところですと打ち明けると、充子は黙って赤ん坊の写真を渡してくれた。

その足で、病院で生まれた自分の赤ん坊に対面に出かけた畑中だったが、そこで藤と再開する。

本田が今も雑踏の中に入ると、付いて来る女はいくらでもいるだろうが、それは現在のモラルでは許されまいことだと畑中は藤に語りかける。

その後、東京拘置所で本田と対面した畑中は、もう一度、記憶を辿って「猟人日記」を書いてくれないかと言う申し出を断る。

しかし、そんな本田に畑中は、二審では、道徳では裁かせないと伝える。

畑中を雇っているのは、本田の父親である原会長だった。

被害者の爪の間から採取した血液型は、当初AB型とだけ発表されたが、それが後に、RH-になったと畑中は藤と話し合う。分泌液からRHは判断できない。

11月5日 沖田君子殺害

相川房子が殺された1月15日、本田は小杉の所に行ったことになっている。

本田はなぜ、自らのアリバイを消すような殺人を犯したのか?

本田を陥れるために犯行を犯したのか?

怨恨か?

全ての物証は、作られたものと仮定して、一つ一つ半賞してみる。

畑中は、事務所の黒板に整理ながら、藤と二人で事件の再検討をしていた。

血液型のことを専門家に聞きに行った藤は、RH-AB型と言うのは、2000人に1人しかいない珍しいものだと聞かされる。

藤は、昨年、その血液型の輸血の要請がなかったか調べてみると、一件だけ「赤芽球症」で必要と言う依頼があったが、調べてみると、その該当者がいない病院があったので、すぐに電話で畑中に連絡する。

その後、藤は、アジア・モラル大学へ向かい、本田は、その珍しい血液の為、学生時代、赤ん坊を救ったことがあると聞かされ、当時の新聞を見せられる。

新聞には、赤ん坊がかかっていたのは「赤芽球症」と書かれてあった。

喫茶店で、畑中と落ち合った藤は、都内に住む「RH-AB型」で輸血した人間のリストを見せる。

二人で手分けして、そのリストを洗ってみることにする。

まず、その中の山崎幸太郎 (中尾彬)に会いに出かけた藤だったが、最近輸血は申していないと言う。

畑中の方は、アルコール中毒気味の中年男に近づくが、輸血したのは、もう1年も前だと言う。

こんな男の血を使うとは思えなかった。

続いて、畑中は、トルコ風呂「アリババ」のヤスエと言う女にぞっこんだと言う谷川清次(山田吾一)に会いにトルコ風呂へ向かう。

谷川のお気に入りだと言う寺田ヤスエを指名し1300円の料金を払ってしばらく待っていると、当の谷川が部屋から出てきて帰る所だった。

ヤスエは、畑中をスチーム風呂に入れると、谷川は週に2回来てくれる。

前に女がいたらしいけど、自分の初日が去年のクリスマスイブだったのだが、その時の客が谷川だったのだと聞かせてくれる。

それは、相川房子が殺された晩だと気づいた畑中は、急用を思い出したので帰ると言い、トルコ風呂の前の屋台で飲んでいた谷川と合流する。

供血はいつしたかと遠回しに聞くと、1月に行ったと言う。

前の女のことに付いて聞くと、昨年暮れ、トリスバーで隣に来た女が手紙をくれたのだと言いながら、その手紙を見せてくれたが、そこには明後日22日9時待ってるね。京子と書かれてあった。

でも、その京子とやらは消えちまったと言うので、どんな顔だったかと聞くと、鼻の左脇にほくろがあったと言う。

畑中は酒をおごると言いながら、それとなく、その手紙を取ってしまう。

宝石商の佐田良介 (天坊準)は畑中に、やはり鼻の脇にほくろがある女が宝石を買いたいと連絡をして来たので、ホテルであったが、そこで飲んだビールに睡眠薬でも入っていたのか、眠ってしまい、気がついたら女はいなくなっていたと言う。

小杉美津子が殺されたのは15日。その前日に、ほくろの女が現れていた。

ホモバーで働いている三上信也(三橋敏男)に会いに出かけた畑中だったが、なかなかミツコと店では名乗っているらしい三上信也が帰って来ないので、諦めかけて店を出るが、そこに帰って来た三上と出会う。

三上は、自分の誕生日の1月15日に電話でホテルに呼び出されたが、相手はマスクをかけていたので、男か女かは分からなかったけど、ちょっとマスクをずらした時、鼻の横にほくろがあったことを覚えていると証言する。

どうやら、三上信也は精液を女に採られ、佐田は寝ている間に血液を採られた可能性がある。

藤はもう一度、山崎幸太郎を訪ね。精液を取られたことはないかと聞くと、人工授精用に看護婦に売ったと言う。

その看護婦とやらは、マスクをしていたと言う。

事件に関係あると思わなかったのか?と聞くと、僕は分泌型だから、血液はO型のはずだと否定する。

新宿のバーで藤と落ち合った畑中は、津田君子の体内から採取された精液はO型と言い、今、拘置所にいる本田には「猟人日記」をもう一度書かせていると教える。

そして、バイオリン弾きを呼ぶと「流浪の民」をリクエストする。

すると、バイオリン弾きは、最近こんな曲をリクエストする人はいないとぼやくので、前に女の人が頼みに来なかったか?と聞くと、そう言えば…と思い出し、その女には鼻の横にほくろがあった。その女は、本田の名前と出身大学の名を聞いたと教えてくれる。

畑中は藤に、所轄署に行ってくれと頼む。

翌日、事務所にいた畑中は、電話で、尾花啓子は妊娠5ヶ月だったと聞くと、藤に、新聞広告に尾花常子の尋ね人の広告を出そうと提案する。

大変なお金がいりますが?と藤から確認された畑中だったが、金を出すのは、関西物産の社長ですと納得させる。

尾花常子は生きているのかどうか?

やがて、広告を観て、女が住んでいると言う阿佐ヶ谷の緑荘と言うアパートの連絡がある。

そこは、殺された小杉美津子のアパートと同じだった。

その二階の尾花の部屋に入ってみた畑中は、机の中から「猟人日記」を発見する。

中を確認すると、彼女の妹尾花啓子のページと、最初のページのにカ所が破り取られていることに気づく。

東京拘置所に向かった畑中は、猟人日記を本田に見せ、破り取られている最初のページには誰のことを書いていたのかと聞く。

すると、本田は黙り込んでしまう。

誰だか思い出せません、しばらく考えさせて下さいと逃げてしまう。

その後、一旦事務所に戻った畑中は、本田が突然、控訴を却下したとの連絡を受け驚く。

急遽、藤と共に大阪に飛んだ畑中は、関西物産の原会長に面会するが、会長は一挙に10も老けたように感じたと言う。

その後、種子に会いに屋敷に向かった二人だったが、種子は病気らしく、昼間からカーテンを締切った寝室のベッドに、顔まで布団に包まって横になっていた。

家政婦が天窓のカーテンを少し開け、明かりを部屋の中に入れる。

あなたのご主人は控訴を取り下げましたと報告すると、種子は顔を全部出してみせる。

その鼻の横にはほくろがあった。

しかし、家政婦から渡されたクレンジングクリームでそのほくろを拭くと、きれいに取れてしまう。

家政婦は、お分かりになりましたねと、畑中と藤に告げると、又、カーテンを閉めて、部屋を暗くする。

そして、家政婦は、種子の書いた日記を渡すと、トルコ風呂の時の文字と同じはずですと言う。

猟人日記をアパートに置いてきたのはあなたですね?と畑中は家政婦に問いかける。

原会長の居場所を聞くと、散歩して来ると言って出かけたと言うので、海岸にいた原会長に会いに行った畑中は、帰りの車の中で藤に、会長は隠居なさるそうだと伝える。

私は、自分の心を絵に込めようとした。

しかし、夫の逮捕、記者たちの来訪で体調を崩し、裁判所は、テープレコーダーに私の声を吹き込んで行った…と、種子の心の声が始まる。

そのベッドでの証言中も、何度か私は発作を起こした。

そもそも、妊娠9ヶ月と言うのに、なぜ夫とメキシコなどに旅行に行ったのだろう?

2ヶ月後、私は恐ろしいけいれんを起こした。

その後、セックスをしようとすると、避妊の用意をしても、他の男性に対しても、それは起こるようになった。

日本に帰り、夫の本田とは、土曜日だけの逢瀬を楽しむようになった。

ある日、私はハンドルを東京に向けていた。

朝方、本田の泊まっているホテルの前に来た私は、朝帰りしてきた夫のいつもとは違う姿を観てしまう。

夫の服から鍵を見つけると、婆やに合鍵を作らせた。

夫の秘密のアパートで見つけた「猟人日記」の最初のページには、自分のことが書いてあった。

ペッティングには慣れているようで、処女にあらずと書かれてあった。

私はその時、本当の処女だったのだ。

私は、記者を装い、鼻の横にほくろがある尾花常子に近づいて、色々話を聞き出すと、彼女を殺害し、死体は埋めた。

それ以後、私は、尾花常子に成り代わった。

夫と同じ血液型を持つ男たちを使い、血液や精液を採取した。

美大生の小杉美津子には、バイト代を渡して、夫をアパートまで連れてきてもらった。

その時、私は、洋服ダンスの中に隠れていたのだ。

後日、夫が来る前に、彼女を絞殺し、タンスの中に隠したのだった。

今も、種子は、自らの顔をメイクしていた。

今に私は、ぶよぶよの女になって、病院のベッドの作に首を吊るだろう。尾花常子として…

バカな娘…

あの男の腕の中でわなないたなんて…

心神喪失状態になった本田一郎は、東京拘置所から釈放される。

それを迎えに行った藤は、家政婦の婆やさんは自殺しましたと本田に教える。

畑中は本田に、これからは、あなた自身の問題です。法律的には救われましたが、道徳的にはどう生きるかがね…と話しかけながら、プレゼントとして、本田の子供の写真を手渡し、それはあなたのお子さんだと教える。

その後、1人になり、新宿のバーの隅で飲み始めた本田だったが、いつしか「流浪の民」の曲が聞こえて来た。

そして、それに合わせて歌い始める女の声。

いつしか、本田も声を合わせ「流浪の民」を歌い始めたので、スタンドに座っていた他の客たちは、何事かと本田の方を振り返る。

本田は、どこからも曲が聞こえないバーの隅で「流浪の民」を歌い続けていた。