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緑の小筐

滝から川に投げ落とされた緑の小筐の運命を辿ることによって、川に住む生き物から海に住むクジラまでの映像、さらには川の周辺に住む人間たちの営みを子供に紹介する、理科と社会科を兼ねた勉強映画とも受け取れるし、小さい頃家を出て行った父を想う子供の気持ちが、死んだと思われていた父親を母の元に呼び返す感動ファンタジーとも取れるが、父が家を出る動機が今ひとつ釈然としないので、大人の眼で見ると、何となくすっきりしない映画に映ってしまう。

夫が妻に説明する、旅に出る動機の説明は、何となく理屈では分かる。

子供が出来、その将来を考えると、自分の知識のなさ、世間知らず振りではいけないと気づき、今から勉強し直そうと考える、これ自体は立派な心がけだろう。

しかし、いきなり乳飲み子と妻を人気のない山奥に置いて、夫が下界に降りて行ってしまうと言うことは無責任きわまりない行動ではないだろうか?

子供や青年が、知識を求めて旅に出ると言うのとは訳が違うからだ。

自分が幸せになれば、妻や息子も幸せになるはずだと言う手前勝手な理屈も良く分からない。

男のロマンとか夢だけを正当化しているようにも聞こえる。

最初は、家族3人で山を下りようとするのかと思っていたが、結局、山を降りるのは夫だけ、それまで、絵に描いたような幸せな家族愛を描いた(ややわざとらしい)映像が続いていただけに、この急展開には最後まで違和感が残った。

父親の乗った船が遭難し、死亡したと思われた時期が、山を降りてからどのくらい経過した時期かが分からないのも、物語を落ち着かせなくしている要因だと思う。

サチオは赤ん坊から、文字が書ける小学校低学年くらいの少年になったように見える。

と言うことは、そんなに長期間、夫は妻子を見捨てていたと言うことになる。

手紙は最初のお手紙(これは、父の乗った船の遭難を知らせる漁業会社からの手紙のことだろう)以来一度も来ていないと妻がサチオに言っているので、その間、頼りすらなかったと言うことだろう。

仮に、サチオの年齢を5歳と考えると、5年間音信不通だったと言うことになる。7歳と考えると7年間…!

それでは、世間勉強ではなく家出である。

山を降り、すぐに捕鯨船生活をはじめて、便りを出す間もなく遭難してしまったと言うなら、江口は、残りの歳月を、無人島暮らししていたことになる。

それはそれで「天罰」でも受けたかのような不自然な話である。

山に閉じこもっているだけではダメだと言いながら、その後は海での捕鯨生活と言う、別の閉鎖社会に乗り換えただけで、さらに、無人島と言う閉鎖社会で孤立してしまうと言う皮肉。

結局、江口は、世間を学ぶどころか、山での生活以上の孤独の中で数年を送らざるを得なくなる。

そんな父を子供が呼び戻す。

子供のいる家庭こそが幸福の証しであると言うことに父も気づいたと言うことなら、まるで「青い鳥」みたいな教訓話なのだが、父が山を降りてからは、誰が主人公だか分からないような描き方になっているので、子供の目線で観ていると、その教訓は伝わって来ない。

子供のサチオを主人公と考えると、願いを込めて川に緑の小筐を流したら、その願いが天に通じて、ある日、突然、父が戻って来ると言う魔法のような話に感じるはずである。

しかし、サチオは主人公と言うにはあまりにも描写されていない。

途中で時々、挿入映像として出て来るだけ。

あえて言えば、この物語の主人公は緑の小筐なのである。

緑の小筐が辿る運命こそが、子供たちがこれから辿るであろう人生を象徴しているのかも知れない。

あるときは急流に流され、あるときは長時間停滞し、あるときは身の危険にも遭遇し、それでも最後は、最初に希望した所(父親の手元)にちゃんと収まると言う、正に人間の人生そのものである。

ただ、それに子供たちが気づくのは、ずっと後年、大人になったときのことだろう。

この映画は、そんな教訓をタイムカプセルのように、観客の心の中に埋め込む作品なのかも知れない。

 

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1947年、大映、松下東雄脚本、斎藤一郎音楽、島耕二原作+脚本+監督作品。

ハープをかき鳴らす手元から、オーケストラの全容が写り…

白い花散るたそがれの〜♩そこはかとなき物思い〜♩まぶたに愛しく浮かび来るは〜♩緑の小筐〜♩ああ、わが青春の緑の小筐〜♩(と女性コーラス※歌詞は正確かどうか自信がありません)

タイトル

山道

山の中から木を切る音が響く

斧で木を切っていた木こりの江口(夏川大二郎)は、大木が倒れると、したの方に向かい「オーイ!」と大声をあげる。

すると、下にある家の前にいた妻が「はーい!」と答える。

「飯はまだか〜!」と江口が叫ぶと、「今、行きます〜」と答えた妻は、おひつとやかんを持って山道を登り出す。

夫はそれに気づくと「オーイ!走るな!走るな!」と叫びながら、自分の方から降りて行き、途中で合流した妻に「走るなって言うのに…、赤ん坊がびっくりしてるぞ」と注意する。

岩場で、二人の昼食を始めようとしていた時、空を飛んで行く飛行機の爆音が聞こえる。

木片をナイフで削っていた江口は、その飛行機を見つめる。

妻が、お腹空いたでしょう?とおにぎりを渡すと、江口の方は掘り上がった木製の魚を妻に渡し、あごで川に入れるように促す。

妻がその木の魚を川に浮かべると、魚は生きているように、川の流れにそって下流に流れて行った。

江口は、いつかあれも広い広い海に行くんだなとつぶやくと、妻も調子を合わせ、いつかどこかの魚屋さんに並んでいるのよと答え、二人は笑い合う。

ある日、家の中にいた江口は妻に、確かに今日だな?と言うので、妻が何が?と聞くと、赤ん坊だよ。うっかりしておれんな。明日は村に行って来るかな、産婆さんに…と江口は続ける。

妻は呆れて、先日、産婆さんに診てもらったけど、早めに行くって言ってました。今日は月代わりだから、後1月くらいは大丈夫よと笑う。

しかし、例外だってあるだろう。村からここまで半日はかかるよと江口は食い下がる。

そして、もう名前は考えてあり、男ならサチオ、女ならサチコ、幸せな人間になって欲しいんだと教える。

男、女、サチオ、サチコ…と呪文のようにつぶやきながら、江口は暖炉に薪をくべていた。

やがて、江口が家から飛び出すと、村に駆け下りて行き、産婆さん(浦辺粂子)の手を引いて山に駆け上って来る。

途中で、産婆さんをおぶった江口だったが、何とか家の前まで来ると、産婆さんを降ろして、自分はその場に倒れてしまう。

しかし、家の中から、お湯を沸かして下さいよと産婆さんの声がすると、慌ててやかんを一旦手に取り、すぐに、大きな鉄鍋に持ち替えて湯を沸かして家に持って行く。

じっと外で辛抱する江口だったが、やがて赤ん坊の泣き声が聞こえ、家に近づくと、産婆さんが、坊ちゃんですよと伝える。

家に入った江口は、土足のままとも気づかず妻の寝床に近づき、つい立ての上からそっと顔を出すと、妻の横に寝ている赤ん坊の顔を確認する。

喜んだ江口は、男の子生まれたぞ〜!と叫びながら、山を走り回る。

花畑で花を摘んだ江口は、家に持って帰ると、妻に手渡す。

少し時間が経つと、その赤ん坊を手製のゆりかごに乗せ、江口は妻と一緒に、木を切る仕事を再開する。

ブランコも作ってやり、赤ん坊を抱いた妻を乗せてやる。

そんな幸せ一杯の江口だったが、麓から配達されて来る新聞記事には熱心に眼を通していた。

ある日、江口は妻に、こんなことを突然言い出すと驚くかもしれんが…と前置きし、しばらくこの山を離れようと思う。出来れば海で働いてみたいと思うと言い出す。

船に乗るの?と妻が聞くと、うんと言う。

幸男が生まれたときから考えていたんだ。このままではいけない。何とかしなけりゃいけないって…と江口は続ける。

お前は今の生活、幸福だと思うかい?と聞くので、妻が、思います。あなたは?と聞き返すと、江口は、俺にはそう思えないと言う。

世の中には山だけじゃない。日本のように広い海に囲まれたような国に住む者にとって、山にこもっているのはどうだろう?

人間の本当の幸福を掴んでみたいんだ。

俺たちには子供が育って行くんだよ。俺たちは良いさ、一生炭焼きさ。オヤジもそうだったし、俺もそうだった。でも、それが一番の幸福だろうか?

記者とか電車とかを新聞で読むだけって情けないじゃないか。

俺が幸せになれば、お前やサチオも幸せになるんだよ。何より、幸男を幸せにしたいんだ。

必ず良かったと思う日が来るに違いないんだと力説する江口の言葉を聞いていた妻は、分かりましたわ、あなたと答える。

その晩、ごちそうが膳に乗った。

かくして、翌朝、江口は山を降りて旅立って行った。

やがて季節が移り、妻の元に一通の手紙が届く。

夫、江口が乗船した栄宝丸が暴風に遭遇し、難破したと思われると言う知らせであった。

妻は絶望のあまり号泣する。

もはやこの世に亡き者と〜♩(…とコーラスが入る)

思われたもう〜♩

(時間経過)

お寝坊さんは誰と誰?〜♩

一人の少年が朝布団の中で眼を覚ます。

4、5歳に成長したサチオだった。

表に飛び出したサチオは、山水を引いた水道から水を顔にぴしゃぴしゃかけると、寝間着で拭き、家に入ると、お父ちゃん、おはよう!と江口の写真を前に朝の挨拶をする。

お父ちゃん、まだ帰って来ないの?と母に聞くと、母は、もう少し先かも知れないよ。お母さんも幸男もこんなに待っているのだから、きっと帰っていらっしゃるよと答えながら、サチオの前に朝食を用意してやると、少し頭が痛いといい、お母ちゃん、ちょっと横になるから、今日はサチオ、一人でお食べと言いながら、布団の枕に額を押し付ける。

海って怖いの?とサチオが聞くので、怖いって訳じゃないけど、山の中だって、大風や大雨が降ると怖いでしょう?滝の水が川になって流れ、いつかは海に流れ着くのだよ。心配しなくても良いから、外で遊んでおいでと母は優しく答える。

外に出たサチオは、花を摘むと、滝から川に投げ込む。

花が川に流れている様子を観ていたサチオは、家に戻ると、花を持ってきたと母に告げ、まだ、頭痛い?と言いながら、母の布団の中に潜り込む。

そして、身体とても熱いよと心配するので、母は手ぬぐいをサチオに渡すと、これを濡らしてきておくれと頼む。

サチオは手ぬぐいを外で濡らして持って来ると、母はそれを自分の額に乗せる。

サチオは、部屋の中に寝転ぶと、紙に何かを書き、お父ちゃんに手紙を書いたよと見せる。

そこには「サチオのお父ちゃん お母ちゃんが病気です 早く帰って来て下さい」と書かれてあった。

母がそれを読むと、タンスの上に置いてあった小筐を持って来たサチオは、これに入れて、滝の上から流せば、この筐、海のお父ちゃんの所に着くねと言う。

母は、黙って、手紙を折り畳んでやる。

急ぎだ♩急ぎだ♩(…とコーラスが入る)

又、滝上にやって来たサチオは、緑の小筐を川の中に放り込む。

坊やの手紙を入れてある♩

緑の小筐を流しておくれ〜♩

父さんの所まで届け手遅れ〜♩

やがて、緑の小筐は浅瀬の所にたどり着き、そこで停まってしまう。

その側には、いつか江口と妻が流した木製の魚も留まっていた。

すると、猿が小筐に近づいてきて、いたずらしようと手に取るが、すぐに興味を失ったのか、川に投げ捨てる。

その小筐を押し出したのはカエルだった。

小筐は流れ始めるが、その内、又、浅瀬に乗り上げてしまい、そのまま雪に埋もれてしまう。

その小筐の横をスキーヤーが滑り降り、雪を跳ね上げて行く。

サチオは、寒さの冬、震えていたが、やがて、夏の姿になり、頭の頭巾を取る。

雪溶けが始まり、又、小筐は川に流れ出す。

村の子供たちが、用水路を流れる小筐に気づき、何だ?何だ?と追いかけ始めるが、とても追いつけず、そのまま見送る。

川の近くで、猟師が討ち落とした鳥の羽の一枚が、小筐の上に乗る。

やがて、川に遊びに来ていた女子大生二人がそれを見つけ、拾い上げる。

女子大生の一人は、小筐の上の羽根を自分の鼻の下にヒゲのように挟んで、女友達に近づきからかう。

やがて、一緒に川遊びに来ていた男子大学生2人は、この小筐をどうするか相談した結果、この小筐が幸福を求めているなら、又、川に戻してやろうと言うことになる。

女子大生は小筐を花と一緒に流してやる。

やがて、小筐はダム湖にさしかかり、動きが止まってしまう。

やがて、放流が始まり、小筐は吸水口に吸い込まれて行く。

高い橋の上から、流れてきた小筐を見つけた小学生たちが、石をぶつけようとする。

やがて、川に浮かぶ船に乗っていた一人の青年が、流れてきた小筐に気づき、拾い上げようと前屈みの姿勢になった時、背中に背負っていたリュックから、いくつかのリンゴがこぼれ出し、小筐と一緒に流れ始める。

その下流では、川の浅瀬の中で祭りの神輿を担ぐ男らがいた。

男に一人が小筐に気づくと拾い上げるが、すぐに興味を失い、神輿の中に入れてしまう。

その神輿の様子を見ている父と幼い娘の姿があった。

神輿は川岸に上がり、そこで「わっしょい!わっしょい!」と練り始める。

父さんに肩車されてそれを観ていた女の子は、その神輿の中に小筐が入っているのに気づく。

その小筐は、いつしか神輿から地面に落ちてしまう。

それを観た女の子は、思わず手にしていた風船を離してしまう。

夜、一人のその場所に戻って来た女の子は、小箱がまだ落ちているのに気づき拾おうと近づくが、一瞬早く、締め込み姿の大人に拾われてしまう。

大人は、その小筐に興味を持たず、近くにあったかがり火の中に放り込んでしまう。

少女は、そのかがり火の中で燃えかけた小筐を観ると、木の枝で下からつつき、外にはじき出す。

そして落ちて火が消えた小筐をこっそり家に乗って帰って、布団の中に隠す。

そこへ、クミ子は帰って来たかい?ずいぶん探したんだよと言いながら、いなくなった女の子を捜し歩いていたらしき父親が帰って来る。

サチオの映像が挿入される。

その夜、クミ子が寝ていると、不思議な夢を見る。

クミ子は、大きな木の扉から外に出ると、森の中で巨大な炎を発見、目が光るフクロウが近づいて来たり、木の周囲で、何やら妖精のような女性たちが大勢踊り始める。

怖くて、又、ドアから木の中へ入ろうとしてもドアは開かない。

妖精たちは、徐々にクミ子の方に迫り、何事かを訴えるように手を差し伸べてくる。

クミ子は布団の中で泣き出していた。

その両脇に寝ていた両親は、悪夢にうなされていると気づき、なだめて寝かす。

翌日、クミ子は、他の子供たちが見守る中、小筐を又、川へ流すのだった。

やがて、小筐は淀んだ港の川に流れ着く。

その時、暴風警報が発せられ、最大風速25mの風が港に吹き始める。

灯台近辺も暴風雨が吹き荒れる。

後日、沖を走行中の漁船の船長が、双眼鏡をのぞいていると、とある島の岩の上に手を振っている人影を発見する。

救出した遭難者は、顔中ヒゲだらけになっていたが、船長を観るなり、自分は栄宝丸に乗っていた江口だと名乗る。

その船長も、あれほど懸命に探していた江口が生きていたと知り、驚くと同時に感激し、二人は固く抱き合う。

船長は、すぐにでも港に帰りたいが、まだ一つもやっつけてないのでなと恐縮し、江口も、私も手伝いましょうと申し出る。

その船は捕鯨船だった。

やがて、一頭のクジラを発見、見事にしとめて港に寄港する。

漁業会社の社長も、江口の生還を喜び、君は幸運をつかんだと言うことだと言う。

その頃、港では、捕って来たクジラを解体していた。

その時、クジラの腹の中から出てきた不思議な小筐を、社員の一人が漁業会社へ持って来る。

会社にいた船長たちは、その小筐を珍しそうに眺め、開けようとするが、どうやって開ければ良いのかさえ見当がつかなかった。

その騒ぎを、二階の社長室で聞きつけた江口も、その小筐を階段から観ていたが、はっと気づくと、その箱を自ら手に取り、箱根細工の要領で、複雑な動作の末、蓋を開けるが、中には何も入っていなかった。

それを見た全員はがっかりするが、江口は、蓋の裏側にへばりついていた紙を発見する。

それをその場で読み始める江口。

「サチオのお父ちゃん お母ちゃんが病気です 早く帰って来て下さい」

江口は、この筐は、自分が山にいた時、自分が作ったもので、この手紙を書いたのは自分の息子に違いないと社長に教える。

それを聞いた社長は、君はすぐにでも山に帰った方が良いと言ってくれる。

江口は直ちに、列車、バス、馬車を乗り継ぎ、懐かしい山に登って行く。

すると、子供が見えたので、持っていた杖代わりの木の枝を差し出しながら「オーイ」と呼びかける。

縄跳びをしていたらしき少年は、まさしくヒロシだったが、突然、見知らぬおじさんから声をかけられたので逃げかける。

江口は、「サチオ!」と呼び止め、大きくなったな。お父ちゃんだよと頭をなでながら、背負ってきたリュックの中から、緑の小筐を取り出すとそれをサチオに見せる。

すると、サチオは急に泣き出して、江口に抱きつく。

江口は、サチヲを肩車すると、一緒にブランコに乗り、「お母ちゃんは?」と聞くと「あっち」とサチオが答えたので」「オーイ!」と妻に呼びかける。

サチオも「お母ちゃ〜ん!」と呼びかける。

二人の声に気づいた妻は、「はーい!」と答え駈けて来る。

妻は、ブランコに乗る二人の姿を発見、呆然とする。

江口は、緑の小筐を妻に渡す。

妻はその緑の小筐を観て、涙ぐむのだった。