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かた破り道中記

当時の関西喜劇人総出演といった観のある大作で、喜劇と言うよりは、感動歴史秘話のような印象の作品になっている。

劇中、芸人たちの細かいくすぐりなどは随所に挿入してあるものの、基本的に、メインの役者たちは真面目な演技をしており、決しておちゃらけてはいない。

特に、主役径春を演ずる伴淳は、自らの身分に驕る事なく、ひたすら民衆の事を思いやる名君として、シリアスな演技を貫き通している。

登場場面は少ないながら、森繁演ずる近藤勇もしかり。

長兵衛役のアチャコのシリアスな演技と言うのもなかなか珍しいのではないか。

フランキー、森繁、伴淳、森光子と揃えば、後年の東宝作品「駅前シリーズ」などを思い浮かべるが、この作品は、その原点「駅前旅館」が作られた翌年の作品になる。

冒頭にいきなり登場する「私の秘密」の高橋圭三にも驚かされるが、登場人物は今や懐かしい人たちばかり。

仇討ちの場面の野次馬として、中田ダイマル、ラケット、ハースケンの屋敷にいる召し使い役の中国人に夢路いとし、喜味こいし、フグの毒で泡を吹いて倒れる家臣に藤田まこと、その姿におびえる侍は大村崑、百姓一揆に襲われる代官が横山エンタツなら、その妾は森光子、側近が茶川一郎、一揆を起こす農民には秋田AスケBスケ、馬医者の弟子に堺駿二、他にも大泉滉 や、ミスワカサなど、多士済々。

ちなみに、ハースケンに扮しているユスフ・トルコとは、プロレスのレフェリーとして当時有名だった外国人。

ラストは、社会派映画を観るような言い知れぬ感動さえ覚える、ちょっと意外な拾い物をしたような秀作である。

 

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1959年、松竹京都+関西喜劇人協会、森田竜男脚本、福田晴一監督作品。

NHK公開生番組「私の秘密」、司会はお馴染み「どうも、どうも」の高橋圭三。
回答者席には、映画俳優のフランキー堺、森光子、伴淳三郎、そして、近藤勇の曾孫で学生作家の近藤勇太郎(森繁久彌)の四人。

最初の秘密は、その中の、近藤勇太郎にちなんだ問題と言う事で、学生服姿の彼が舞台中央に進み出る。

そして、問題となる人物が登場するが、車椅子に乗った物凄い老人。

天保生まれの130才だと言う。

近藤勇太郎が以前会った事があると言うヒントで、戦前の自分が七つか八つの頃、近藤勇の墓の前で会った吉川径春(伴淳三郎)さんではないかと、勇太郎は言い当てる。

時は慶應3年に飛ぶ。

吉川径春は、周防富岡藩の国元へ参勤交代で帰る途中、勤皇派が秘かに集めている倒幕用の武器を探す大目付指令の捜索隊に遭遇する。

捜査隊たちは、土下座をしている農民の荷物の中に鉄砲を発見する。

その頃、とある宿場町、長兵衛(花菱アチャコ)率いる日蓮宗身延講の一団が通りかかると、目の前で仇討ちが始まる。

20年前父親堀田久兵衛を殺された仇討ちをするという老けた侍は堀田孫兵衛(榎本健一)、その堀田が刀を向けている相手は、自分は、津軽藩士、榎木武太夫(大久保怜)といい、人違いだと慌てている。

仇には二の腕に蝙蝠の刺青があるはずだと堀田が言うので、榎木が両腕の袖をたくしあげるが、腕には何もない。全くの人違いだったのだ。

その頃、国元へ戻った径春は、一人娘の妙(山田百合子)と、若侍の白坂桂之助(小笠原省吾)が仲睦まじく弓の練習をしている姿を微笑ましく眺めていた。

そこへ家老の伊織(立原博)が現れ、長州から北山内膳正(大邦一公)が訪ねて来たと径春に告げる。

内膳正の要件は、倒幕用の武器として新式の連発銃を購入したので、それを秘密裏に京都まで運んではくれまいかと言うものであった。

勤皇派に組する径春は、その申し出を承知し、アメリカの商人ハースケン(ユスフ・トルコ)の公館へ、内膳正と共に出向く。

そこでは、ラシャメンお春(森明子)に想いを寄せながらも、ハースケンに奪われてしまった通事で、写真家でもある霜月秋太(フランキー堺)がいた。

彼の通訳を介して連発銃の契約をハースケンと交わそうとした内膳正は、日本人の足元を見たハースケンが、昨日まで五千両と言っていた金額を、にわかに六千両に値上げして来たので困惑してしまう。

その話を横で聞いていて義憤にかられた径春は、その差額の千両は自分が建て替えると言い出す。

かくして、連発銃の運搬を翌日に控えた径春は、その夜、家臣たちにフグ鍋を振舞うが、その毒が当ってしまい、駆けつけた馬医者、仁徳庵(柳家金語楼)の治療の甲斐もなく、部下の大半を失ってしまう。

同じフグ鍋を食べたはずの径春や妙は、万一を考えて鯛ちりに変えていた伊織の配慮により助かった事が分かる。

しかし、この家臣激減の椿事を、何とか幕府に悟られないように、径春らは頭を悩ます事になる。

その頃、自らの仇討ち人生に疑問を持ちはじめた堀田孫兵衛は、すっかり仲良しになり、一緒の宿に相部屋していた榎木武太夫考案の一個で腹一杯になるダンゴなるものを試食させてもらっていた。

そのダンゴで、一旗揚げようと言うのが榎木武太夫の夢だったのだが、食べても何の効果もなかった。

同じく、その宿に泊まっていた長兵衛は、身延講の仲間たちに、金儲けの話があると切り出す。

さるお殿さまから、自分の家臣に化け、京都までの秘密の荷物の運搬を手伝ってくれたら、一人五両もらえるのだと言う。

あまりに旨すぎる話だと怪しむ仲間たちであったが、頭巾姿で現れた径春本人の言葉を聞き、すぐさま同意する事になる。

座骨神経痛の持病を持つと言う堀田孫兵衛と榎木武太夫も、その話に加わると言う。

さらに、急遽近くからかき集めて来た、ごまのはい、物乞い、果ては、腹話術師などまで加わる始末。

こうして、侍姿に変装した彼ら臨時雇いのメンバーで、葛籠に連発銃を忍ばせた大輸送作戦が始まるが、仲間に加わっていた陣内と銀次は、途中で葛籠の中を怪しみ、夜中、宿の倉に忍び込むと、中に置いてあった葛籠の中の銃を発見してしまう。

しかし、ちょうど外で逢い引きしていた旅館の使用人男女(何都雄二、ミヤコ蝶々)が、その姿を発見したために大騒ぎとなり、一人はその場で斬り殺したものの、もう一人には逃げられてしまう。

こうして、運んでいる品物が大変なものであった事が参加者全員に発覚してしまうが、長兵衛一行も、孫兵衛たちも、このまま最後まで付いて行く決心をする。

問題は、新井の関所をどう切り抜けるか。

一計を案じた長兵衛は、出入りで出た死体を菩提寺に運ぶヤクザ一家に身をやつし、棺桶の中に死体役の人間と共に連発銃を忍ばせて、無事、役人(トニー谷)の目をごまかす事が出来たのであった。

やがて、岡崎藩に到着した一行であったが、すでに径春が用意していた路銀も残り少なくなり、しかも、大政奉還がなり、藩中は、血気にはやる若侍たちが、倒幕派阻止のため厳重な警護に当るピリピリした状態である事を知る。

そうした中、ここまで乗って来た自らの大名駕篭まで売り払い、路銀の足しにして、自らも歩く事になった径春は、夜、とある山中で、長兵衛の一人娘で、今は、小姓に扮して、自分の身の回りの世話をしてくれていたお絹(川口京子)とつかの間の安息の時間を楽しんでいた。

そこへ現れたのが、岡崎藩の若侍「若桜隊」の一派。

連発銃の入った葛籠を巡って、径春一行との壮絶な戦いが始まるが、両者とも、多数の犠牲者を出してしまう。

中でも、今まで、参加者たちの束ね役であった長兵衛の死は、一行の気持ちを挫けさせてしまう。

翌朝、各自色々な言い訳をして、径春の前から去ろうとしだす者たちに対し、お絹は涙ながらに、亡き父、長兵衛は今のみんなの姿を悲しんでいるはずと、全員を説得しようとするが、もはや、その言葉にも効果はなく、孫兵衛たちも一旦は立ち去るが、山中に荷物諸共置き去りにされ呆然とする径春、妙、白坂桂之助、伊織らの前に、やがて、元のメンバーたちが戻って来るのだった。

その頃、径春たちの行動を察知していた京都所司代(曽我廼家明蝶)は、新撰組の近藤勇(森繁久彌)に、連発銃奪取を命じていた。

とある橋のたもとで、食事休憩していた径春は、白米の御飯を食べている自分と妙以外のメンバーたちは、全員、近くの畑からとって来た大根等を煮ただけの雑炊で空腹を我慢している事を目の当たりにし、たまたま、橋を渡って代官所に詰め掛ける農民一揆の光景を発見して、伊織と共にその仲間の振りをして、代官所から米俵を盗み出そうとするが、逃走の途中、その正体が農民たちにばれ、二人は、彼らのアジトに連れて行かれ、縛り上げられてしまう。

そんな二人を探しに来て、その場所にやって来た孫兵衛や他の仲間たちは、縛られている径春が、自分達の食べる米を奪おうとしていた事情を知り、助けようとするが、農民の代表の大男は元侍と名乗り、かなり強そう。

しかし、何か感ずるものがあった孫兵衛は、その大男の二の腕をめくって見ると、そこには蝙蝠の刺青!

彼こそ、孫兵衛が長年探しつづけていた仇敵であったのだ。

そんな互いに戦おうとする二人を見て、径春は、自分達は、世直しの為、連発銃を運搬中なのだと説明し、自分達も同じ世直しを願っているのだと言う農民たちの心を開かせる。

その言葉に打たれた孫兵衛は、自分の仇討ち等、もはや何の意味はないと悟り、目の前のかがり火で赦免状を燃やしてしまうのだった。

かくして、近隣の農民たちも、運搬の列に加わり、物凄い数の行列になった径春たち一行は、新撰組が待ち構えていると言う長州藩からの密使の言葉を聞き、進路を山中越えに変更する。

一方、張込ませていた密偵の報告から、その進路変更を知った近藤勇は、いち早く、山中に柵を作り、径春一行の到着を待ち受ける事になる。

やがて、そんな近藤勇と新撰組が目にしたものは、子供、女まで交えた、膨大な民衆の行列だった…。