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駈け出し刑事

藤原審爾原作の映画化作品。

新人刑事が捜査を通じて知った苦い現実を描いている。

新人刑事の成長物語であり、特に目新しい趣向はないが、地味ながら安心して観ていられる娯楽作品になっている。

日活の刑事物は何本か観てきたが、みんなそれなりに味があって面白い。

そもそも、邦画の中で、刑事物と言うのは青春ものと並び、あまり大きな失敗がないジャンルのように思える。

この作品では、伊藤雄之助と高品格が、それぞれタイプは違うが、ベテラン刑事の味わいを良く出している。

後年、テレビの人気ドラマ「大都会」などで刑事役をやっていた高品格は、元々その風貌からヤクザ役が多かった人だが、ヤクザ顔が似合う強面タイプの人は刑事役も似合うので、この作品での刑事役もハマっている。

話そのものは、最初の方から薄々犯人像が想像できるような作りになっており、ミステリとしての意外性は薄い。

観客は、薄々犯人像に気づくからこそ、新田がやがてたどり着く悲劇性を想像し、胸を痛めながら話の展開を追うことになる。

どうやら、吉永小百合主演の「こんにちは、20歳」の併映作品だったらしいが、こちらは、渋いと言うか、地味なキャスティングの作品だけに、この二本立てがどの程度当たったのか興味ある所である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1964年、日活、藤原審爾原作、山田信夫脚本、前田満州夫監督作品。

警察学校で警官の卵たちが訓練する姿を背景にタイトル

警官になった新田正介(長門裕之)が色々な仕事をこなしていく所を背景にキャストロール

捜査課に配属された新田は、新宿署の署長室に挨拶に来るが、緊張しまくったその姿を見ながら頑張れよと声をかけたのは、たまたま署長室にいた寺山刑事課長(河上信夫)だったが、そんな課長のことなど眼にも入っていなかった新田は、その後、刑事控え室に入ると課長を捜すが不在だと勘違いしてしまう。

それで、近くに座っていた男に新任の挨拶をしかけるが、その男は刑事どころか、万引きで取り調べられている犯人だったので、部屋にいた刑事達は全員笑い出す。

そこに戻って来た刑事課長は、又、初対面だと思い込み、又緊張して挨拶しかけた新田に、さっき聞いたよと苦笑し、お茶を運んで来た伊藤刑事に、やっとお茶汲みの後釜が出来たなと声をかける。

新人刑事の最初の仕事はお茶汲みだったのだ。

刑事課長は、ベテランの坂崎刑事(伊藤雄之助)に、新田を連れて顔つなぎに行ってくれと頼む。

張り切って坂崎刑事の後に付いていった新田だったが、坂崎刑事が最初に寄ったのは、「栄」と言う花屋だった。

そこの店員、野村綾子(長谷百合)を新田に紹介すると、頼んどいたチューリップの球根をもらいに来たと坂崎は伝えるが、その間、ラジオから殺人事件のニュースは流れて来るし、パトカーは通りを走り抜けるしで、新田はそわそわし出す。

坂崎刑事は、こんなことしてて良いのでしょうか?と聞いてきた新田に、刑事の仕事は100m走ではなくて、マラソンだと教え、落ち着かせると、付近一帯の質屋を一軒一軒周り、新田を紹介して行く。

新田は自分の名刺を置こうとするが、坂崎はその名刺の角を折り曲げ、刑事とすぐ分かるように印をつけとくんだと注意する。

あまりに質屋ばかり回り続けるので、一体何軒あるんですかと新田が聞くと、最近できた店をあわせると、その一帯だけで質屋だけで83軒もあると言う。

坂崎が疲れたか?と聞くと、新田はやせ我慢をしていいえと応えるので、自分が先輩に連れて歩いたときはくたくたになったし、こんなことをして下らないなと思ったものだ。君も1年間くらいは遊ぶんだなと声をかけると、新田も今自分は嘘をついていましたと正直に応えるのだった。

一ヶ月後、新田は立派なお茶汲みになっており、時々顔を見せるブンヤの柴田とも顔なじみになる。

何か情報を聞きたがっている柴田に聞こえるように、人斬りマサがそろそろ泥を吐きそうだな…などと口に出した坂崎は、柴田がその言葉を真に受け、部屋を飛び出して行くと、他の刑事達と共に、殺しだと声をかけ、新田を現場に連れて行く。

現場は「権藤金融事務所」と言うビルだった。

張り切って最初に死体に近づいた新田は、側に落ちていたブロンズ像を、「凶器です!」と言いながら取ろうとしたので、坂崎は思わず「触るな!」と叱りつける。

そこに、警視庁の捜査一課が到着する。

捜査一課長(宮崎準)が、死体をひっくり返してくれと声をかけて来たので、新田は張り切って死体を抱き起こそうとするが、あまりの死に顔の凄まじさに驚き、思わず手を離して死体を床に落としてしまう。

被害者は権藤千太郎(山田禅二)、犯人は二人以上と推定され、凶器は死体の側に落ちていたブロンズ像で指紋が残っていた。

皆川捜査主任(陶隆司)は、その場で、捜査一課の刑事と所轄の刑事に仕事を振り分けて行く。

最後に、捜査一課の宗田刑事(高品格)に、被害者の手帳に人の名前が16人分くらい書いてあるので、それらのアリバイを当たってくれと依頼し、新田に同行するよう命じる。

部屋を出る時、坂崎は新田に、あれはうるさい男だから、上座なんかに座るなよと小声で注意する。

宗田と共に最初に話を聞いた飲み屋の女将も続いて会ったトラックの運転手も、権藤のような男は殺されて当然だと、あも犯人を捜している刑事を非難するような口ぶりだった。

その次に入った「小野田不動産」の小野田は、警官時代、新田と面識があった男だったが、今は堅気になっているのだと言う。

そんな小野田も、やはり、あこぎな真似をしていた権藤は殺されて当たり前だ。あんた達は馬鹿げていますよなどと言う。

途中、雨が降り出したので、軒先でちょっと雨宿りをしていた新田は、通り過ぎて行く坂崎たちと出会ったので挨拶をする。

宗田と共に、丸ノ内線の四谷駅で降りた新田は、その電車に乗っている綾子の姿を偶然目撃する。

捜査開始5日が過ぎ、刑事達に少し焦りが出始めていた。

帰って来た刑事にぬるい茶を出してしまい、その茶を捨てられたので、火を落としてしまったので…と新田が言い訳すると、茶が冷めないうちに帰って来いとでも言いたいのか?と逆ギレされてしまう。

そんな張りつめた空気を和らげようと、今日の早慶戦は早稲田が勝ったのか?と誰にともなく聞く坂崎。

一人、早慶戦の帰りでうかれ騒ぐ学生達を観るため、外に出ていた新田は、道路の向こう側を歩いて行く着物姿の綾子を見つけたので声をかけるが、綾子は気づかないのか、そのまま通り過ぎようとする。

それで、通りを渡り、路地の中に入った綾子に声をかけた新田だったが、ようやう新田に気づいたかのような綾子は、恥ずかしそうに、寄るも働いているんですと着物の言い訳をし、店にお寄りになりませんか?と誘う。

綾子が働いている店は「SWAN」と言うバーだった。

カウンターでビールを飲みながら、新田は先日、地下鉄で若い男の人と一緒だったあなたを観かけたと話すと、それは弟だろうと綾子は応える。

新田は、足の甲に出来たマメを気にしながら、毎日歩いているので…とつい愚痴をこぼしてしまう。

すると綾子は、新田に何か言いかけようとするが、その時指名が入り、綾子はその客の席に行くと、やがて、その客とツイストを踊り始める。

しかし、その表情は能面のように無表情だった。

カウンターにいたバーテンも、綾ちゃん、踊るの珍しいですねと新田に話しかけたくらいだった。

新田が店を出ると、後から店を出てきた綾子が途中まで送ると言い出す。

綾子は、新田さん、私観たんですと突然言い出す。

何のことかと戸惑う新田だったが、嵐の夜、店が早じまいしたので、10時に出て権藤のビルの近くに来た時、3人の男女があわててビルから飛び出して来ると、車に乗って逃げるのを観た。車はトヨペットで、男2人に女が1人だったと言うのだった。

すぐさま新田に取調室に連れて来られた綾子は、やはり、権藤なんか殺された方が良かったんです。新田さんが痛そうに足を引きずっていることを考えると黙っていられなくなったと言う。

車の洗い出しなど捜査方針が変更されるが、新田と宗田は相変わらず、手帳の捜査の続行だったので、又、メモとは、腐っちゃいますね…とつい愚痴を行った新田に、生意気言うな!捜査は合同捜査なんだと宗田は叱りつける。

結局、手帳に書かれた人物から手がかりは見つからなかった。

宗田はそれでも、これで手帳に書かれた人物が無関係だったと言うことが分かったんだから無駄ではないと言うが、新田は、足で捜査することに疑問を感じますと又愚痴を言ってしまう。

宗田はそんな新田に、よけいなことを考えるなと言う。

しかし、捜査本部に戻って来てみると、すでにホシは挙がっており、3人の男女は山形組の愚連隊だったと言う。

まだ、自白はしていないらしく、刑事達は裏を取りに出かけるが、新田は、残ってブンヤの相手をしろと言われてしまう。

すっかり腐った新田だったが、その直後、綾子を車で送ってくれと言われたので、家まで送り届けることにする。

車の中で新田は、ブンヤの煙幕係なんて…、これでも刑事なのかなって情けなくなりますよと又綾子に対し愚痴をこぼす。

男女の笑い声が聞こえるジャズ教室の前で綾子が車を降り、奥の路地に向かった時、新田は座席に落ちていたコンパクトに気づき、後を追う。

綾子が住むアパートは、うらぶれた貧乏アパートの一室だった。

ノックをすると、無表情な綾子が出てきて、コンパクトを見せると受け取るが、一緒に部屋から顔を出した管理人のイクと言うおばさんは、上がってもらったら?と勧める。

部屋の奥には、綾子の母親らしき女性が寝ていた。

身体が不自由なのだと言う。

新田を前に管理人のイクは、権藤は殺されて良かった。以前、ここのおフミさんら家族は、今のジャズ教室の場所でダンス教室をやって暮らしていたのだが、お父さんがなくなった後、土地の委任状を権藤に勝手に売り飛ばされて、訴えても、今まで貸した借金の利子があるので、これでとんとんだなどと言われる始末で、残された家族は今ここに越してきたのだと言う。

イクと一緒に、部屋を出て帰りかけた新田は、暗い感じの青年と出くわす。

今帰って来た、綾子の弟の野村敏夫(鍵山順一)だった。

敏夫が部屋に入ると、イクは、あの子も昔はあんなじゃなかった。上の学校に行けなくなって…、綾子も権藤から妾になれとか嫌なことを言われていたのだと教えるのだた。

掲示部屋の坂崎に電話をしてみると、もうホシが吐きそうだと言うので、急いで帰ると言うと、明日ゆっくり来いと言われてしまう。

やけになった新田は酔って帰宅すると、二人暮らしの母親相手に又、明日から起こさなくて良い。刑事なんてバカバカしくて…。女を送っていったら、つまらない世間話聞かされている間に、犯人検挙、本部解散だってさ。明日から俺、絶対お茶汲みなんかしないからねと愚痴をこぼしながら寝てしまう。

母親は、壁にかかった亡き夫の遺影を見上げ、あなたと同じですよ、正介は…とつぶやく。

ところが、翌日新宿署に出向いた新田は、まだ捜査本部の貼紙が貼ったままであることに気づく。

部屋に入ると、刑事達が全員暗い顔をしている。

坂崎が言うには、ホシはやっていないと言っている。

麻薬を探しに行ったが何も見つからないし、権藤が出てきたので、慌てて逃げ帰ったらしい。

これで又振り出しに戻ったと坂崎は言う。

その話を聞き終えた新田は、権藤の手帳に書いてあった名前の中で、小野田が怪しいと言い出す。

自分が警官時代、ヤクで挙げたことがあると言うと、坂崎は驚いたように、何故それを早く言わん!と叫ぶ。

取調室に呼び出された小野田は、2、3日前に権藤に呼び出され、ペイを売りさばけないかと持ちかけられたが、自分は断ったが、一緒に行った直が、別れる前に、興味があるようなことを言っていたと言う。

権藤を殺してヤクを奪い、花恵と言うレコの所に行ったのではないか?と言う小野田の話を裏付けるため、上野に住んでいる花恵を呼び出し、ヤクを奪った直次郎はヤクァに追われている。殺されても良いのかな?と刑事達が脅しをかけると、口が堅かった花恵も最後には落ち、井上直次郎は指名手配になる。

直次郎は、横浜にヤクを売りに行った模様と言う情報で横浜方面伊刑事達は向かうが、その後、横浜から上野に回った模様と言う連絡が入ったので、新田達は上野で直次郎を張ることにする。

大勢の人でごった返す駅前で張っていた新田は、直次郎そっくりのサングラスの男が近づいてきたので、思わずその場で捕まえようと手を伸ばしかけるが、それを止めたのは宗田刑事だった。

直次郎は既に横浜で捕まったと言う連絡が入ったと、坂崎が近づいてきて、宗田と挨拶を交わすと新田と一緒に歩いて帰ることになる。

新田は、宗田さんといると息が詰まると坂崎に打ち明ける。

二人は途中、立ち小便をするが、最近尿が黄色いのだと言う新田に、その内気にならなくなると坂崎は教える。俺も、刑事としてではなく、この仕事を通して人間として完成しようと思っていたが、いまだにその境地に達してないなどと話してると、警官が自分らを観ていたので、ばつが悪くなり、二人はそそくさと本部に帰る。

新田は、これから家に来ないかと誘う坂崎に、これからいく所があるのでと断ると、5年早いぞ。俺が結婚したのは刑事になって5年目だと、訳知り顔で坂崎は見送る。

新田は又「SWAN」に来て綾子と会う。

新田は、綾子の顔色が悪いと指摘した後、権藤の経理結果を、今調べさせている。これで何もかも解決ですよと教える。

そして、事件のけりがついたら、あなたを誘惑しようと思っていると綾子に告白するのだった。

その頃、捕まった井上直次郎(深江章吾)は、俺が権藤のビルに行ったときは、もう権藤は殺されていた。若い男女がやったんだと訴えていた。

しかし、凶器のブロンズ像に残された指紋の一つは直次郎のものだった。

直次郎は頑固に自分じゃないと否認し続けたが、本庁の刑事達は、渋谷の社長殺しの方に全員出向くことになったので、刑事部屋ではささやかなお別れ会が行われる。

本庁の刑事達が部屋を後にする時、新田は宗田に近づき、又お会いしましょうと別れの挨拶をする。

宗田は、殺しで会うのは嫌だねと言い残して去って行く。

坂崎は、刑事部屋の中で育てている花を眺めていた。

新田は、栄花店の綾子に今夜会っていただけませんか?と電話をして、7時に待ち合わせをすると、一緒にボウリングを楽しむ。

綾子もボウリングははじめてらしかったが、新田もはじめてだった。

普通の若者のようにやってみたかっただけなのだが、腕は綾子の方が上だった。

綾子は、これから御暇になるんですの?と聞いて来るが、今後は裏付け捜査と言うものをやるんです。少しの疑問も残さないように…と言う新田は、綾子には感謝状が出ているとも教える。

しかし、綾子は、そんなものはいらないと断る。

翌日から、坂崎と新田は裏付けにかかる。

綾子は、権藤に取られた金の中から、戻って来る分があると言われたので新宿署に来ていたが、新田は不在と知り、帰りかけた時、取調室から出てきた直次郎とすれ違う。

外に出た時、綾子はちょうど帰って来た坂崎と新田と出会い、気を効かした坂崎が言って来いと眼で合図をしたので、新田は綾子を送って行くことにする。

残金が帰って来たんですねと新田が聞くと、入口の所で直次郎と言う人に会ったと綾子は教え、あの人死刑になるのでしょうか?権藤を殺してもですか?と逆に聞き返して来る。

新田は、飲み屋の女将も同じことを言っていたと言うと、綾子は興奮したかのように、私もですわ。権藤なんか人間じゃありませんと罵倒する。

家を売ったのも、母を入院させたかったし、弟も大学に行かせたかった為なのに、今頃お金が戻って来てもどうしようもないんです。嫌いです!刑事さんなんか!と言い残し、綾子は若松町のバス停からバスに乗り込む。

新田は綾子に話しかけようとするが、バスの扉は閉まり、走り去ってしまう。

その夜、新田は自宅の布団の中で考え込んでいた。

綾子は、新宿署の刑事部屋の入口で直次郎と会ったと言っていたが、直次郎の写真は新聞に出ていない。なぜ、綾子は直次郎の顔を知ってたのか?

早慶戦の夜、自分が綾子に呼びかけたのに、なぜ綾子は気づかない振りをしていたのか。

コンパクトを届けにアパートへ行ったときも何故かよそよそしかった。

俺の期待が大き過ぎたからだろうか?

新田は、タバコに火を付ける。

隣の部屋で寝ていた母が、早く寝ないと、明日が辛いよと声をかけて来るが、新田はまだ推理をめぐらせていた。

あの人は、事件を境に人が変わった。

直次郎は、事件への関わりを否認している…

翌日、新田は、井上直次郎を拘置所に護送する任務を仰せつかり、一緒に護送車に乗り込む。

新田は、絶望的な直次郎の眼を観、タバコを吸わせてやろうとするが、直次郎は関心を示さない。

しかし、拘置所について、車から降ろそうとしたとき、直次郎は「俺じゃない!逃げる所を観たんだ!若い男女がやったんだ!」と叫びながら暴れ始める。

拘置所の建物を観て、自分が処刑されると言うことが実感できたのだろう。

その後、新宿署の屋上に坂崎を呼び出した新田は、直次郎は本当に犯人なんでしょうか?と疑問をぶつけてみる。

しかし坂崎は、確証を持って来い。どんな奴だって、絞首刑は嫌だ。泣きもするし、わめくことだってする。

女子高生殺しの犯人なんて、50日も頑張ったが、やっぱり奴がホシだった。

坂崎は、「捜査本部」の貼紙の所へ新田を連れて来ると、破れと命じる。

しかし、新田が「破けません。ブロンズ像の指紋が残っているではないですか!」と言い動かないのを知ると、自ら破り捨てる。

その日新田は、綾子への感謝状を持って行く事になる。

新田は坂崎に、指紋の謎。解決できますと言い残して「栄花屋」へ向かう。

綾子は配達に出ていたが、すぐに戻って来たので、新田が感謝状を渡そうとすると、いらないと拒絶する。

もう一人の店員タミの方が珍しがって、その感謝状を読んでみたりする。

それでも綾子は、御受けできませんと言うので、新田はタバコを吸う振りをして、マッチを貸していただけませんかと綾子に頼む。

そして綾子から受け取った店のマッチを、こっそりハンカチに包んで持ち帰ると、指紋係に鑑定を依頼する。

しかし、綾子の指紋は、ブロンズ像に残っていた指紋と合わなかった。

新田は、自分の疑念が間違っていたことを知りほっとするが、直次郎が叫んだ「若い男女がやったんだ!」と言う言葉を思い出す。

その頃、綾子は、公衆電話から、秋葉原の中沢電気商会で働いている弟の敏夫に電話をするが、出かけていると言うので、背後に次ぎの客が電話を待っていたこともあり、姉さん、決心したと伝えて下さいとだけ言い終えて公衆電話ボックスから出る。

新田も中沢電気商会に来て、配達に出かけたと言う敏夫の帰りを待っていた。

その間、敏夫の机から、彼が触ったであろう金属棒のようなものを証拠品として持ち帰ろうとしていた時、敏夫が帰って来て、その様子を見た途端、何もかもばれたと察したのか、持っていた商品をその場に落としてしまう。

取調室に呼ばれた敏夫は、最初何もしゃべろうとしなかったが、新田が敏夫君と声をかけると、僕がやったんです!殺すつもりはなかったんです!と突然自供し泣き伏せる。

事件当夜、敏夫と綾子は、家の支払いをするため、嵐の中を権藤のビルにやって来た所で、ビルから飛び出して車に乗り込む3人組を目撃する。

階段を上り、自分も一緒に階段を上って行ったが、権藤には姉一人が金を渡しに部屋に入るが、その直後、姉が呼ぶ声が聞こえたので、部屋に入ってみると、権藤が姉に襲いかかっていたので、思わず側にあったブロンズ像を持って姉を助けると、権藤はゴルフクラブを持って対抗してきた。

自分はそのゴルフクラブの攻撃をかわし、思わずブロンズ像で権藤の後頭部を殴った所、権藤はその場で倒れてしまったので、姉を支えながら階段を下りて逃げた。

その際、下から昇ってきた直次郎に会ったと言うのだった。

敏夫は新田に、姉さんは何もしていない。姉さんが捕まってしまったら母さんが死んでしまうので、御願いします!と懇願して来る。

綾子の家に向かう覆面パトカーの中で、坂崎は新田に、正当防衛になるだろうと敏夫の今後の可能性を教える。

新田は、僕は人間が信じられなくなりましたとつぶやくが、君だって人間だぜ?俺たちは裁くんじゃない。真実を見つけるんだ…と語りかけた坂崎は、以前脱獄6年目の男を捕まえに行ったときのエピソードを聞かせる。

その男はまじめに更生しており、まだ4つくらいの子供と、お腹の大きな妻に見送られて朝出勤する所だった。

こちらも辛いよ。真実を知るってことはね…。

でもその男、捕まった後、これでようやくぐっすり眠れますと頭下げたんだ…と話終えた坂崎は、運転していた制服警官に、隣近所の手前、せめてその帽子だけでもとっておいてくれと頼む。

綾子のアパートに行くと、部屋の鍵は閉まっていた。

それで物陰で帰りを待つことにした二人だったが。間もなく綾子が帰って来て管理人のイクが出迎える。

どうやら、綾子は、戻って来た金を使い、母親を入院させてきた帰りらしかった。

さらに、敏夫と二人でどこかへ行くつもりらしい。

綾子はイクに、もっと早く行くべきだった。怒ったり呆れたりしないでと伝えていた。

何も知らないイクは、留守は大丈夫だから、早く帰って来なさいよと声をかけて部屋に戻る。

綾子は自室に入ると、無人の部屋の中を見回し、元気だった頃、母と敏夫と共に家族そろって写った写真立てを眺め、それを引き出しの中にしまい込むと、感謝状を広げてみて、それを再び丸めると、ドアから出ようとする。

その時、目の前に、坂崎と新田が立っていることに気づくが、坂崎に促され、黙って同行することにする。

新田は、手錠を取り出すが、かけないままだった。

元は綾子ら家族の住まいだったジャズ教室の前を通り過ぎ、覆面パトカーの前に来た時、綾子が感謝状を新田に渡したので、新田は悔しがり、思わず手錠をかけようとするが、それを坂崎が止める。

綾子は泣いていた。

坂崎は、行こう…、新田君と声をかけ、新田が開けた後部ドアに綾子が乗り込む。

その時、ジャズ教室の中から、楽しそうな男女の笑い声が聞こえて来る。

全員乗り込んだ覆面パトは、静かに走り出すのだった。