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現代っ子

倉本聰原作のテレビドラマの映画化らしいが、元々の番組の方にあまり記憶がない。

父親を事故で亡くし、母子4人で貧しいながらも生きなければならなくなった家族の物語だが、どことなく、フジテレビ系の「若者たち」(1966)の設定に似ていると感じた。

若い兄弟たちが、社会の矛盾とぶつかり、互いに喧嘩などもしながらも、たくましく生きていく姿を描いているが、生徒に作文を書かせ、それを週刊誌に売っている教師とか、友人をタレントに仕立て、自らはマネージャーとしてマスコミに売り出そうとする金持ちの息子とか、貧富の差に疑問を持つチコなど、当時の社会情勢をうかがわせる興味深い素材がいくつも登場する。

社会問題をふんだんに盛り込んだ下町人情劇とでも言った所だろうか?

下手に処理すると暗くなりがちの題材だが、好夫ややすしと言った前向きで元気なキャラクターが救っている。

中山千夏が演じているチコは、あっけらかんとした男兄弟とは違い、やや内省的で、じっと耐える子と言う風に個性に差が付けてある。

次男好夫が中学生くらいらしいので、その姉に当たるチコ役の中山千夏は、中学校の上級か高校生くらいと言う設定なのだろうが、同級生役の田代みどり同様、かなり幼く見える。

この映画では、老人問題が取り上げられている。

仕事一徹で生きてきたのに、家族にも恵まれず、定年を迎え、先行きも真っ暗な老人のむなしさ、寂しさを、嵯峨善兵が良く演じている。

それに対し、何も救いの手も差し伸べようとしない社会に、好夫の怒りの声が響く。

「若者たち」もそうだが、60年代は、こうした「まじめなドラマ」が多かったな…と思い出させる。

日活作品としては珍しく、ちらり登場する渥美清は、テレビの人気タレントと言う当時のイメージそのままで出ている。

作品全体のイメージも、当時の日活作品としては異色な部類なのではないだろうか?

ちなみに、安川先生を演じている安川実とは、ミッキー安川のことである。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1963年、日活、倉本聡+弘田功治脚本、中平康監督作品。

二段ベッドの上から、鳴り出した目覚まし時計を紐で引っ張ったチコ (中山千夏)は、別の紐を引っ張って、下のベッドで寝ている弟の好夫(市川好郎)の掛け布団を引きはがす。

彼ら自身が作ったオートメーション装置だった。

朝食を待つ間、好夫は姉ちゃんのおならが迷惑だ。少しは下で寝ているこっちの身分になってくれと文句を言うが、台所で聞いていた母親正子(菅井きん)は、ガスは上に登って行くのだから大丈夫と、変な慰めを言う。

朝食を食べ終えていたやすし(鈴木ヤスシ)は、靴下の親指部分の破れが繕ってなかったので、母親にぼやきながらも親指をマジックで黒く塗りつぶしてごまかすと、家を飛び出て行く。

その時、玄関の引き戸を乱暴に閉めたので、警官をやっている父親の表彰状が傾いてしまう。

正子が叱ったので、又戻って来て、額を直すと出かけて行く。

チコも同じように、玄関の引き戸を閉める際、表彰状が歪んだので又戻ってきて直して出かけて行くが、最後に家を出た好夫が勢い良く引き戸を閉めて出かけると、父の表彰状は全部外れて傾いてしまう。

タイトル

学校にやって来た好夫は、「お父さん」と題する作文の発表をし、クラスメイトから大受けになる。

お巡りをやっている父さんは、週二階夜勤がある。

50になったのに、交通課に回され、毎日のように交通整理の練習をしているが、それを母さんが褒めます。この分だと、父さんも母さんも長生きしそうだと思いました…と明るく朗読する好夫。

それをニコニコしながら聞いていたのは、担任で、生徒たちの作文を「現代っ子」と題してマスコミに売っている安川先生(安川実)だった。

その安川先生が、次の朗読者を指名した時、用務員のおじさんが入ってきて、先生に何事か耳打ちする。

安川先生は、「何立て?!」と驚いて、今、作文を読み終えたばかりで笑顔の好夫の方を見やる。

数分後、安川先生は黒板に、「好夫君のお父さんが亡くなった」と書き、全員自習になっていた。

早退するよう言われた好夫は、必死に走って帰宅していた。

自宅に集まった大人たちが、白タクを捕まえようとして殉職だった…などと噂している。

やすしは、親戚のおじさんに、金がかかりそうかい?と聞き、その直後、サチと好夫を二階に呼ぶ。

二階に上がる階段には「立ち入り禁止」の札が下がっていたので、他の大人たちは上がれなかった。

やすしは、親父の葬式は、俺たちだけでやるんだ、俺が葬儀委員長、好夫が運営委員、チコが会計と役割を割り振る。

これからは大人はいらない。

そして、今後、泣いたら罰金だ!と約束し合う。

かくして、子供らだけで準備した葬式が始まり、好夫が流すテープレコーダーの読経の中、築地署の警官だった父、市村一郎は、一階級特進したとの報告が警視総監(小泉郁之助)からある。

家の外では、好夫の仲間たちが幔幕を張ろうとし、叔父五郎(桂小金治)を慌てさせていた。

葬式は鯨幕だと言いながら、大人たちが幔幕を剥がそうとして一悶着あるが、結局、五郎が、喪主が良いって言うなら良いんだよと言うことで、幔幕になる。

次男好夫が、後のことは心配するな。俺たち3人は生活力あるから、母さん守って生きて行く。父さん、かっこ良く死んでくれたので、それで良かったと思っていると弔辞を読む。

やがて、争議は無事終了し、雨が降って来る中、借りてきた花輪をビニールに包んだり、外では仲間たちは奮闘していた。

客たちの中、五郎は一人大声で歌っている。

二階では、ヨッチン、黒字になったよとサチが好夫に報告していた。

母正子が泣き出すが、やすしが止しなよと声をかける。

正子は、やすしが下から聞こえて来る唄に合わせて叩いていた徳利のことを、父さん愛用のものだから止めてくれと逆襲する。

好夫も止めて下さいと言い出す。

泣くと罰金を取られるから…と、涙をこらえて懇願する。

しかし、チコは、先に50円出して泣き出す。

好夫は、止めて下さい。今、細かいのがないので止めて下さいと頼む。

一家は引っ越すことになり、家財道具を屑屋(野呂圭介)に売るが、父の表彰状だけは売れないと、チコが取り返す。

総額を聞くと、たった323円にしかならないと知った好夫は、ただで良いと言い出し、その代わり…と屑屋に頼み込む。

引っ越し先に、いる道具をリヤカーで一緒に運んでもらうことにしたのだ。

やすしと好夫は、五郎の家の二階に住まわせてもらうことにするが、五郎の女房はるみ(新井麗子)は、6畳一間で月400円は安すぎるなどと露骨に迷惑がり、死んだ兄貴の子供たちだ!と主張する五郎と言い争いになる。

そんな夫婦喧嘩の声が聞こえる二階では、やすしと好夫が、カーテンと窓を一緒に紐で引っ張れるオートメーションを作っていたが、それを観ていた五郎の息子三平(榊原秀春)は、一言「古いよ」とバカにする。

母、正子とチコは、やすしの友達である小川清(市村博)の家に、住み込みのお手伝いとして入ることになる。

好夫がお好み焼きを手みやげに挨拶に行くと、小川社長(小沢栄太郎)が豪華なステーキの夕食を出してくれ、自分は、隅田川で艀舟を使った運輸業をやっていると自慢話を披露する。

やすしは清と、大体1日600円として月1万8000円。家賃6000円と、1日2食の食事代と光熱費を2000円として差し引くと、月1万の給料ではどうかなどと、家政婦の月給に関して相談し合っていた。

その内、「なじかは知らね〜ど 心わびて〜♩」と、妻、圭子(岸輝子)のピアノ伴奏で石田社長が歌う「ローレライ」の歌声が聞こえて来る。

やすしは好夫と艀舟の上で、母親を働かせたり、友達の世話になるのは嫌なんだと愚痴る。

しかし、好夫は、女は仕事ないと更年期障害になるらしいなどと言い出し、兄ちゃんだって腹楽んだから問題ないよと慰める。

チコこと市村千鶴子は城明南高校に転校し、小川社長の次男、健(前野霜一郎)通称ゴジラと同じクラスになる。

チコは、早速、クラスの中の「新入りを採点する」と言う遊びのターゲットにされる。

放課後、チコ同様貧しい同級生のアコ(田代みどり)は、来月修学旅行で関西に行くけどどうする?と聞くので、チコは自分で貯めた金で行こうと思うと伝える。

二人は、クラスの中で、トロイ・ドナヒューかチャキリスに似ていると噂の男の子、キッチンの所へ行かないか?などと話し合っていた。

アコは、ゴジラがチコのことを好きなのを見抜いていた。

ある日、好夫が洗濯物を干していると、向かいの家の二階に住んでいるエリ(渚ユリ)が、あんたんとこ、兄ちゃんいるやろ?などと声をかけて来る。

どうやら、やすしに気がある様子。

しかし、好夫にとっては、叔母はるみや三平たちとの物干竿の奪い合いの方に必死だった。

とは言え、そこは居候の身、結局、エリの家の物干し台を使わせてもらうことになるが、やすしの洗濯物は機嫌良く干してくれるのに、好夫の洗濯物は脇に乱雑にかけられるだけだった。

芸能マネージャーに憧れている小川清は、やすしに、何か歌ってみろと無理強いし、東京タワーの下のテレビ局に連れて来る。

やすしは、そこに人気者の渥美清がおり、自分の方に近づいてきたので喜ぶが、渥美清が声をかけたのは、ターキーさんこと、プロデューサーの水の江瀧子だった。

結局売り込めなかったやすしは、今はおかしな奴が受ける時代なんだと清からおだてられるが、バカにするな!と啖呵を切って帰る。

清は、次にやすしを隅田川の艀舟の所へ連れて来るが、そこでももめていたので、船で生活をしている洋子(松原智恵子)が、喧嘩と勘違いしてパトカーを呼んでしまう。

艀船の住人、田原老人(嵯峨善兵)は、社長の息子さんだよと洋子に教える。

やすしの方は、先日殉職した警官の子供と分かり、パトカーに乗って下宿先まで送ってもらえるが、それを観た三平は、エリからも頼まれていたこともあり、両親に、もっとやすしたちを大切にしなけりゃいけないと言い出す。

やすしから、清に良いように利用されたことを聞かされた好夫は、売れる面かいと兄をバカにしながらも、その後、小川社長の家に乗り込むと、清さんは兄を不真面目に利用しすぎると抗議する。

それを聞いたゴジラは、兄ちゃんが悪いんだとチコに謝る。

好夫の抗議を黙って聴いていた小川社長だったが、つまるところ、好夫の要求は、兄やすしの就職を世話しろと言うことだと言うことに気づく。

小川社長は、東京港から、鉄鋼、石炭、食料などを艀舟で運んでおり、一隻の船にはトラック40台分の荷物が積めるなどと自慢する。

その後、田原老人の船を訪ねた好夫は、一人暮らしじゃ寂しいだろうから、自分たちが一緒に住んでやろうかと申し込み、田原老人も了承する。

結局、やすしと好夫は、田原老人の船で生活をすることになり、兄弟に家を出て行かれると知った五郎は、あの子らを家にいづらくさせたのは誰だ?とはるみに嫌みを言っていた。

エリは、やすし宛の手紙を書くと、三平にやすしに渡してくれと託すが、家に持って帰って来た三平の怪しげな様子から、手紙をめざとく見つけたはるみは、手紙を奪い取り、「今まで黙っていたけど、あんたが好きよ。佃の渡しで待っているわ」と言う内容を読み、亭主が浮気をしていると勘違いしてしまう。

たまたま、外で、五郎とエリが談笑しているのを観かけたので、水をぶっかけてやる。

それを観ていた三平は、母ちゃん、何か勘違いしているんじゃないの?と呆れ、佃の渡しでやすしを待っていたエリは、待ちぼうけを食わされる。

ある日、学校で、好夫は又作文を読んでいた。

家での実力者は母ちゃんであり、五郎おじさんの家での実力者ははるみおばさんだったなどと言い。クラス中に受けていた。

それを面白がった安川先生は、その好夫の作文を週刊誌に売り、その文章が載ってしまったので、恥をかいた五郎おじさんから好夫は叱られる。

五郎の家の二階で、引っ越しの荷物をまとめていたやすしは、向かいの部屋のエリから、女に恥をかかせるなんて分かっちゃいない男などと嫌みを言われるが、手紙を受け取っていないやすしには、何のことかさっぱり分からなかった。

チコのクラスでは、男女関係について学生たちが話し合っていた。

ゴジラは、こそこそ付き合うのではなく、公開制にすれば良いと提案し、株式市況みたいにクラス全員の「よろめき市況」を毎日発表すれば良いと言うことになる。

その日から、女の子たちの「よろめき市況」が発表されるようになるが、チコはいつも「できず」だった。

ある日、アコと一緒に帰る途中、補助金のことを聞かれるが、チコは、自分は貯金があるから、アコがもらいなよと、自分は遠慮する。

小川邸に戻って来たチコは、清のズボンのアイロンがけなどをやり、清から小遣いをもらうと、その金を瓶に積め、庭の池の橋の下に沈めて隠すが、それを二階の母の所に来ていた好夫が目撃してしまう。

夜、小川社長は、正子らの家族のことを、金には恵まれとらんが、ちゃんとまとまっているし、温かい関係が出来ている不思議な人たちだと感心していた。

健だって、チコちゃんの所に入り浸りじゃないかと言うと、黙って聞いていた妻の圭子は、女の子だからですよと付け加える。

やすし、好夫、チコの三人兄弟は、「気にしない♩」と歌いながら帰宅して来る。

翌日、艀舟に引っ越した好夫は、友達たちを船に招いて、田原老人の船の中などを見せてもらう。

田原老人は学生たち相手に、20の時からこの仕事をはじめて、40年近くやっていると自慢げに話して聞かせる。

夜、好夫が、船の端から、川に尻を突き出し大便をしようとしていると、やすしと洋子が、そばで甘いムードの会話をしていることに気づく。

洋子は、田原のおじさんは酒を飲むと暴れてばかりと言いながら、あなたも飲むの?とやすしに聞く。

松原は、二人きりだと思ってやすしと一緒に船の上に寝転がるが、時々、近くから「ポチャン」と言う水音が聞こえて来るのを、ネズミの仕業と思い込んでいた。

翌日、田原老人は、石田社長から休むように言い渡される。

やすしが、朝、船に乗って仕事に出かける時、川っぷちに一人取り残されている田原老人に元気よく手を振るが、なぜ田原老人が休んだか知らなかった。

スクラップを艀舟に積み込む仕事を手伝ったやすしは、先方の船の早川(垂水悟郎)と言う男から、今度そっちの船に乗るから、爺さんによろしくなと挨拶される。

チコは、その間も、池の中の瓶に、こっそり貯金を貯め続けていた。

クラスで、キッチンはアコと京都で会うんだってと言うゴジラに、チコは、私と遊ぼうよと誘っていた。

仕事から帰って来たやすしは、洋子に声をかける。

その頃、田原老人は、船の中で一人酔っぱらい、やすしたちが飾っていた父の表彰状に酒を浴びせかけていた。

洋子は、やすしとパチンコに出かけ、早川がこの船に近々乗るようになると聞くと、もう一人この船に来ると、田原のおじさん、ここを追い出されるの。あの人、もうすぐ定年なのよと教える。

その夜、船にいた好夫は、物が壊れる音がするので外に出て近くを見渡すと、小川運輸の会社の玄関のガラスに、石を投げつけている田原老人を発見する。

近寄って辞めさせ、何でこんなことを…と聞くと、酔った田原老人はその場に泣き崩れる。

翌日、好夫は、小川運輸の事務員(草薙幸二郎)に、ガラスを割ったのは自分だと名乗り出て、3000円弁償しろと言われてしまう。

それを知ったやすしは、何故、本当のことを言わなかったんだと呆れ、洋子に、こいつはちょっとした男気を出したんだと説明する。

翌日登校した好夫はクラスメイトたちに金のことを相談する。

すると、仲間たちは、安川先生を強請るんだ。先生は、いつも僕たちのことを寝たにして週刊誌に売って儲けているからと言う。

ところが、安川先生に会いに行った好夫らは、蕎麦をごちそうになっただけで丸め込まれてしまう。

それを知った仲間たちは呆れていたが、その時、三丁目の喫茶店で、高原先生と二人で会っている安川先生を観たと言う目撃情報が入る。

早速、公衆電話から、安川先生に電話をかけるが、翌日、あさお、ともゆき、へそ、よしお、みつひこ、かつおの五人は、安川先生から、罰として、居残り掃除を言い渡される。

高原先生とは、仕事の用で会っていただけだったのだ。

チコは、修学旅行前日、ゴジラと二人で、旅行先でもずっと一緒にいようねと約束し合っていた。

家では、娘の修学旅行の準備をしてやっている母正子の元へやって来た石田社長の妻の圭子が、チコちゃん、自分の小遣いで修学旅行に行くんですって?と感心し、チコちゃんに持たせてやってくれと、菓子などを渡す。

ところが、帰宅してきたチコが池の中に沈めていた秘密の貯金瓶を取り出してみると、中には「借金3000円 好夫」と書かれた紙が入っているだけだった。

それを知ったやすしと母は、船の中で好夫を叱りつける。

しかし、好夫はやすしに、田原のおじさんに兄ちゃんは何をしてやったんだ!と言い返し、喧嘩が始まる。

艀舟の上には、チコが一人でぽつんと座っていた。

やすしは、小川んちで金借りようと提案するが、正子は、チコは嫌だって、絶対嫌だって言っていると言う。

好夫は船の上に上がり、チコに近づくと、チコは、もうすんだ?喧嘩…と聞く。

そして、ヨッチン、観てご覧よ、日本橋の灯り、きれいよ。光っているのはいつもあちら。越前堀はいつも真っ暗…。私が神様なら、二つを足してにで割るのに…とつぶやく。

側にいた田原老人は、すっかり落ち込んでいた。

祭りの日

法被姿になった三平は、艀舟に来ると、洋子に、お祭りと49日だからやすしたちに佃島に来るようにと伝言を頼む。

小川社長は、小川運輸の会社内で、田原老人に退職金を渡していた。

祭りの最中、田原老人はふらふらと雑踏の中を歩き、好夫の学校の校庭に無断に侵入すると、そこで体操をやっていた生徒たちの前で、自分も体操し始める。

その様子を、教室の窓から観て気づいた好夫は、急いで校庭に降りると、田原老人を校門の方へ押しやり、いつか貸した3000宴返せよと言い聞かせ、帰るように説得する。

田原老人は、お前らのオヤジの偉いのは表彰状だけだ。お前のオヤジが何だ!と悪態をつくが、すすに、船で待っている。ヨッチン、怒るなと謝る。

教室に戻った好夫は、寂しげに校門から出て行く田原老人の姿を見る。

教室では、我が国の憲法では、最低限の人間らしい生活を保障されていると習う。

好夫は、五郎おじの家での49日の集まりに出席するが、すぐに、ちょっと心配だからと言い、船に戻る。

やすしもその後を追う。

船の中には誰もおらず、よっちゃんへと書かれた紙と3000円が置いてあった。

見渡すと、船の中はきれいに片付けてあり、父の表彰状もなくなっていた。

異変を感じ、隣の船の洋子を呼ぶと、おじさん見なかったか?と聞くと、さっきまでその辺にいたと言う。

やすしと好夫は周辺を探していたが、すぐに、海面に浮かんでいる何枚もの表彰状を発見する。

田原のおじさんも、紐に捕まっただけで川に沈みかけていた。

洋子は、助けを呼びに走り、好夫は川に飛び込む。

周囲から人も集まり、何とか、田原老人を救い出す。

その好夫の功績は新聞に載り、人命救助の英雄としてラジオのインタビューなどにも答える。

安川先生と出向いた警視庁で、警視総監賞までもらう。

一緒にもらった金一封は1000円だった。

外に出ると、仲間たちが好夫を迎えに来ていた。

父親の表彰状より大きな賞状をもらい、得意な気持ちで船に戻って来た好夫だったが、早川と一緒に迎えたやすしは、爺さん行ってしまったと言う。

見ると、一人船に乗り、遠ざかって行く田原老人の姿があった。

洋子が言うには、横浜の方へ行くらしかったが、仕事の当てはなく、プータローになるつもりらしかった。

早川は、酒を飲まなくたって、俺たちだってああなるかも知れねえぞとつぶやく。

好夫は、せっかく人命救助したって、これじゃあ意味ないじゃないか!と憤る。

翌日、登校した好夫は、安川先生に呼び出される。

雑誌の記者(梅野泰靖)がインタビューに来ていたのだ。

記者は、人命救助のことに着いてあれこれ質問して来るが、好夫はいつもと違い黙りこくっているだけだった。

たまりかねた安川先生が、お前、どうして黙っているの?と聞くと、好夫はようやく口を開き、マスコミは偏っている。助けた人の話は聞くのに、どうして、助けられた老人の話を聞かないの?と問いかける。

これには、記者も苦笑し、その老人は元気になったかい?と聞いて来るが、好夫はさっさと帰ってしまう。

好夫は、信号がない大通りで、なかなか渡れない小学生たちを観かね、自ら、旗を出して車を止める。

トラックの運転手は文句を言うが、好夫は、子供を渡らせてやって下さいと謝る。

長島が打ったの、カステラ一番だの、白鳥を焼いて食べるだの、オリンピックだの、いくつものニュース音が街の風景に重なる。

マスコミって、てんで偏っていると思わない?人命救助したって、これじゃ、意味ないじゃないか!好夫の声が重なる。