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ゲド戦記

原作の名はずいぶん昔から知っていたが、なぜか読まないまま来たので、あくまでもこの映画だけの感想である。

何となく、「もののけ姫」(1997)や「ハウルの動く城」(2004)に共通する部分を感じる、かなりダークなファンタジーである。

一見、壮大なスケールの物語のようだが、実際にはメインのキャラクターの数は意外と少なく、内々の戦いになっている。

絶えず不安に駆られているアランが主人公だが、彼の不安の原因は結局語られないままであり、冒頭の父殺しの動機も分からない。

一方、テルーの方も良く分からないキャラクターであり、幼い頃、両親に酷いことをされ捨てられたと言う過去を持つことから、人嫌いになっているが、何故か、生に対してはまじめな意見を持っており、生をないがしろにするアランを最初は嫌う。

二人は、相反する性格のように見えて、孤独であると言う共通点も兼ね備えているので、いつしか心を通わすようになる。

この辺は、思春期特有の心理だと思うので、特に違和感はないが、なぜテルーが、生きることに前向きなのかという部分は良く分からない。

「もののけ姫」での、自然と共に育ち、自然の一部のように化したサンが、人間の代表であるアシタカと対立する構図とは明らかに違うので分かりにくいのだ。

話をさらに分かりにくくしているのは、テルーは最終的に竜に化身できる「永遠の命」を持った特別の存在(初対面のハイタカも、彼女に何かを感じる)であり、どうやら、アランの方も、同じ可能性を持った存在だったように感じる(クモがそう指摘している)

このように、二人とも、通常の人間とは違った「特別な存在」なので、どちらも現実味に乏しく、観客は感情移入しにくいのだ。

結局、普通の人間と思われるのは、テナーと俗っぽいウサギたちだけということになり、全体的に、魔法使いと特別な存在だけで進行している物語ということになる。

ハイタカも含め、特別な存在が語る言葉は理想であり、神の声のようなもの。

特に「聖書」のような宗教本に日頃から馴染んでない普通の日本人に取って、そうした言葉は何となく「説教」に聞こえてしまう。

「もののけ姫」では、自然と共生する人間と言う、きわめて日本人にとって馴染みの深い語り口だったものが、この作品では、何となく「馴染みのない他国の宗教説話」になってしまっているのだ。

この物語が、あまり心に響かないのはそう言うことではないだろうか?

とは言え、菅原文太のハイタカの声に、妙な説得力があるのはさすがだと思う。

ビジュアル的にも話の展開的にも、特にはっとするような新鮮なイメージが登場するでもなく、全体的に凡庸な印象なのも、作品のインパクトを弱めているように思える。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2006年、「ゲド戦記」製作委員会、アーシュラ・K・ル=グウィン 「ゲド戦記」原作、宮崎駿 「シュナの旅」原案、丹羽圭子脚本、宮崎吾朗脚本+監督作品。

ことばは沈黙に
光は闇に
生は死の中にこそ
あるものなれ
飛翔せるタカの
虚空にこそ
輝ける如くに

-「エアの創造」-(…とテロップが出る)

嵐の海に浮かぶ船の上では、風の司(声-加瀬康之)に波のうねりを納めてもらおうと船員が呼ぶ。

ところが、風の司は、風も波も、その真の名を思い出せない…と戸惑う。

その時、雲の中から一匹の竜が舞い降りてきて、もう一匹出現した竜と戦い始める。

その様子を見た風の司は、竜が共食いをするなんて…と驚いたようにつぶやくのだった。

その頃、国の議会では、国王(声-小林薫)を中心に、各地で起きている動物や乳児の死亡の報告の善後策を講じていた。

国王は、ルート(声-飯沼慧)に詳しい調査を依頼する。

ルートは、光が弱っていると国王に教える。

その時、竜が近海に現れたと言う報告が届く。

それを聞いたルートは、かつて人間は大地と海を選び、自由を求めた竜は空を選んだが、その竜が姿を現したと言うことは、黄昏が迫った証拠か?と不安がる。

会議室を出た国王に出会った二人の侍女が、アレン様の姿が見えないと報告するが、そこにやって来た妃(声-夏川結衣)がよけいなことで国王を患わせてはいけないとたしなめ、国王には民のことだけをご心配くださいと助言する。

妃の配慮に感謝に、自分の部屋に一人戻って来た国王は、廊下に並んだ彫像の方に何かを感じ振り返るが、まさかな…と自分で否定し、部屋に入ろうとする。

その時、彫像の影に隠れていた息子のアレン(声-岡田准一)が飛び出してきて、持っていた探検で国王を刺すと、国王の持っていた剣を奪って逃げ去る。

倒れた国王は、一言「アレン…」と口に出す。

タイトル

一人の旅人が船で陸地に到着する。

旅人は、浜辺に朽ち果てていた巨大な難破船を観る。

中には人間の白骨もあった。

その時、向うの丘の方に、狼が集まっている声を聞く。

狼が集まっていたのは、馬に乗って一人やって来た若者アレンを狙っていたのだった。

馬から降りたアレンは、狼の群れに周囲を囲まれ、お前たちが僕の死か…とつぶやく。

そんなアレンに、一匹の狼が飛びかかろうとするが、眼をつぶったアレンが気づくと、何故か狼の群れは逃げ去っていた。

旅人は近づいてきて、大丈夫かと声をかける。

アレンは気絶していたが、夜になると、旅人と共にたき火を囲み、パンも分けてもらう。

名前を聞かれたアレンが答えると、エンバッドの地のものか?と旅人は聞く。

アレンは持っていた剣が見当たらないのであわてて周囲を探すが、旅人の側に置いてあり、この剣は魔法で鍛えてある。今のお前には抜けまいと旅人は言う。

アレンは、暗闇の中の何かに怯える。

翌朝、一緒にたびをすることになったアレンは旅人の名を尋ねる。

旅人はハイタカ(声-菅原文太)と名乗る。

やがて、雨が降り始めたので、軒下を借りようと近くの農家をのぞくと、そこはもぬけの殻だった。

農民が土地を捨てるとは…、凶作だけではなかろうとハイタカはつぶやく。

これからどこへ?とアレンが聞くと、目的地のことならわしにも分からんとハイタカは答える。

やがて二人は、ポートタウンと言う街に到着する。

街に入ったアレンは、手かせ、足かせをはめられ、鉄格子の付いた荷車に乗せられている少女の姿を観て驚愕する。

罪人ですか?と聞くと、奴隷たちだ。ここでは人間も商品になっているとハイタカが教えてくれる。

ハイタカは、露天商の女主人(声-倍賞美津子)からアレンの為にマントを買おうとするが、店主の女が差し出したのはまがい物だった。

ハイタカがそれを指摘すると、本業が占い師だと言うその女は、お前だって魔法を使えない魔法使いじゃないかと嘲る。

その後、街をさまよっているうちに、アレンは、ハジアと言う麻薬売り(声-内藤剛志)から声をかけられ、この世の辛いことを忘れられると言われるが、戻って来たハイタカに注意される。

その路地の奥には、ハジア中毒になり廃人同様になった人間たちがうずくまっていた。

それを観たアレンは嘔吐を催す。

公園にやって来たアレンは、この街はおかしいと言い、ハイタカは、ここだけじゃない。人間の頭も変になっている。世界の均衡を崩そうとしている。そんなことが出来る動物は一つしかない。わかるか?と答える。

アレンはしばらくここで休んでいると言い、しばしハイタカと別れる。

やがて、風が吹いてきて、何かに怯えたアレンは逃げるようにその場から走り出すが、その時、3人の甲冑姿の男に追われている少女の姿を見かける。

顔にやけどの後がある少女に追いついた男ウサギ(香川照之)は、お前は魔女だと言いながら奴隷として捕まえようとするが、その時、近くに潜んでいたアレンに気づくと、部下に始末を命じる。

しかし、命乞いをしてみろと部下から嘲られると、最初は弱々しかったアレンの表情が急変し、命などいるものかと言いながら、持っていた剣を抜かずに使い、あっさり倒してしまう。

もう一人の部下も倒されたウサギは、怖じ気づいて逃げ出して行く。

アレンは少女に近づこうとするが、少女はその手を払いのけ、テルー!と呼ぶ女の声の方に駈け去って行く。

港の側に一人やって来たアレンは、疲れたこともあり、その場で横になり居眠りをするが、ショックを受け目覚めると、先ほどのウサギが、部下を増やして戻って来ており、アレンを痛めつけた後、奴隷として連れて行くことにし、アレンが持っていた剣は、古くさいので売れないと判断、足蹴にして立ち去る。

アレンは、手かせ、足かせをされ、他の奴隷たちと一緒に牛車に乗せられて移動していたが、途中、牛たちがみんな停まってしまう。

御者は不思議がるが、その時、不思議な光が、荷車の中には仕込んで来て、入口から、光になったハイタカが入ってくると、アレンの手かせと足かせを魔法で破壊して救い出す。

どうしてここが分かったんです?とアレンが不思議がると、君を捜していたら、人狩りに連れて行かれてと聞き、仕方なく、もの探しの呪文を使ったのだとハイタカは説明する。

その後、ハイタカは、荒れ地に立つ一見の民家にやって来て戸を叩く。

用心深く中から誰何したのは、テナー(風吹ジュン)と言う女性だったが、ハイタカが名乗ると、驚いたように戸を開け、怪我をしていたアレン共々中に招き入れる。

テナーは、久しぶりね、ゲドとハイタカに呼びかける。

何故旅を?と聞くテナーに、ハイタカが、大賢人は忙しい。旅にはなかなか出られん。世界が不安定になっている。力が弱っていると説明すると、テナーは驚いたように、魔法も?と尋ねる。

その時、奥から眠りを覚まされたらしい少女が起きてきたので、テナーは、あの人は私の昔馴染みと紹介し、ハイタカには少女のことをテルーと紹介する。

人嫌いだと言うテルーだったが、ハイタカには警戒心を見せなかった。

一方、顔にやけどのあるテルーの様子を見たハイタカは、何か思い当たったようだが、すぐに、まさかな…と否定する。

その頃、城に戻って来たウサギは、女の魔女クモ(田中裕子)の部屋に入ると、奴隷に逃げられたと報告する。

クモは、お前の代わりなどいくらでもいるのだぞと言いながら、青い光を手のひらの中に出現させ、それを握ると、急にウサギは胸を押さえて苦しみ出す。

クモは、奴隷を連れ去った男の顔は分かっています。顔に傷のある魔法使いですと言うと、それを聞いたクモは、大賢人か…。再会を喜ぼうぞ、ハイタカ…とつぶやく。

翌朝、目覚めたテルーは、テナーを探しながら家の中を見て回っていたが、ベッドの中に寝ている見知らぬ少年を見つけて驚く。

戻って来たテナーから、ハイタカの連れとして紹介されたアレンだったが、テナーはじっと睨みつけるだけだった。

4人で朝食をとった後、ハイタカとアレンは、テナーの畠を、牛を使って耕す手伝いをすることになる。

力仕事をしたことがなかったアレンは、すぐに手にマメを作ってしまう。

小休止することにしたハイタカは、この世は全て均衡に成り立っている。ところが人間には人間を支配する力がある。真の名を知ることにおいて、魔法使いはそのものを支配することが出来るなどと教える。

昼食を運んで来たテナーは、テルーは今年生まれた子羊の具合が悪いので一人で面倒を観ていると教える。

その日の畑仕事を終えたハイタカとアレンが家に戻って来て、アレンが牛を動物小屋に入れようとすると、中で子羊の面倒を観ていたテルーは、アレンの姿を観るなり、又睨みつけ、何しに来た。ここを出て行け!命を大切にしない奴など大嫌いだ!と言い残して家に戻る。

夕食時、テナーは農作業に慣れているハイタカに、あなたは元々ヤギ飼いだものねと話していた。

夜、そのハイタカの隣で寝ていたアレンは悪夢にうなされていた。

海の上に立っていたアレンは、急に油のような黒い水に変化した海に捉えられようとしもがき苦しむが、その時岸辺にハイタカらしき人物が手を差し伸べてきたので、その手を取って助かろうとするが、ハイタカと思っていた人物は、自分が殺した父親だった。

その父親も、油のような黒い水に変身し、アレンに襲いかかって来た。

ハイタカは、うなされていたアレンを揺り起こす。

心配したテナーも様子を見にくる。

翌朝、ハイタカはアレンの馬に乗り出かけると言い出す。

見送るテナーに、この馬を借りると伝え、あの子のことを観ていてくれ。夜には戻ってくると言い残し出かけて行く。

そのハイタカとすれ違うように、テナーの家に近づいてきたのは、噂好きの近所のおばさん二人(梅沢昌代)だった。

彼女たちは、テナーのことを魔女だと思い込んでいるくせに、子供の為の薬だけは、ただでせしめに来るような女たちだった。

おばさんたちは、テナーの家から出てきたアレンにも驚き、あれこれ噂しながらも、テナーから熱様しをもらえないかと頼み、テナーが薬を渡してやると、こそこそ悪口を言いながら帰って行く。

そのおばさん二人と帰り道に会ったのが、ハイタカを探していたウサギの部下たちだった。

ウサギが、この辺で見知らぬ旅人は観なかったか?と金をちらつかせて聞くと、おばさんたちはすぐさまテナーの家にいると教えるが、ウサギは金も渡さずテナーの家に向かう。

テナーの家の柵を壊し、庭に入り込んで来たウサギは、魔法使いに会いに来たと告げるが、出かけて今はいないと聞くと、これで、汚名返上だぜと言い残し、さんざん庭を荒らして帰って行く。

アレンは、柵を直す手伝いをしながら、自分とテルーとの出会いのことをテナーに打ち明ける。

テナーは、自分は、ロークの大賢人と呼ばれるハイタカ一人に、クライアチュアンの墓所から光の中に連れ出してもらったのだと打ち明ける。

その頃、街に来ていたハイタカは、古道具屋の前で、アレンの失った剣を見つけそれを買おうとしていた。

その時、背後にやって来て、クモ様のお呼びだと声をかけたのがウサギだったが、振り返ったハイタカの顔は、全く別人に変化していた。

ウサギは人違いだったと思い込み帰って行くが、古道具屋は、又、元の顔に戻ったハイタカを観て驚く。

そのハイタカから、クモとは何者か?と聞かれた古道具屋は、この街でただ一人魔法が使える奴だと答える。

クモの城の前にやって来たハイタカは、こんな所にいたとはな…クモ…とつぶやく。

その日の仕事を終えたテナーがアレンと家に戻ってくると、テルーの姿が見えなかったので、アレンに裏にいると思うから呼んで来てくれと頼む。

アレンが外に探しに行くと、裏で一人歌っていたテルーの姿を発見する。

テルーは、アレンの呼び声に気づかないらしく、そのまま歌い続けていたが、その歌を聴いていたアレンはいつしか涙ぐみ泣き出してしまう。

歌い終わったテルーは、ようやくアレンのことに気づくが、もうアレンを避けることなく、その後二人は、夕日を観ながら岩に腰掛ける。

アレンは、僕は父を殺したんだと打ち明ける。嫌なことされたの?と聞くテルーに、いや、父は立派な人だった。ダメなのは僕の方さ。自分の中にもう一人自分がいるようだ。僕は君が言うように、ここにいちゃいけないんだ。早く行かなければ奴が来てしまうと不思議なことを言う。

その頃、ウサギはクモに、ハイタカは荒れ地に住んでいますと報告していた。

クモは、ウサギに何事かを耳打ちする。

その後、塔の上に立っていたクモの側に、上空を舞っていたタカが急降下してきたので、挨拶のつもりか?ご苦労なことだと、クモはつぶやく。

夕食の席にアレンの姿がないので、外に観に行ったテルーは、入口の柵が開いたままなのを発見、アレンは出て行ったのだと悟る。

一人道を歩いていたアレンは、テナーの家の方を振り返り、さようなら、テナーさん、テルーとつぶやいていた。

やがて、行き止まりに迷い込んだアレンは、何者かの気配を察し、川の中に逃げ込む。

その川に溺れて行くアレンの様子を、クモは城の中の盃に満たした水の中に写して観ていた。

その後、ベランダに出たクモは、巨大な鳥のような姿に変身して飛び立って行く。

その頃、テナーは、家にやって来たウサギに捕まっていた。

テルーも捕まるが、お前は伝言役になれ。魔法使いに伝えろ。クモ様の館まで来いとなと言い残し、部下たちにテルーを杭に縛り付けて立ち去る。

川辺に倒れていたアレンに近づいたのは、もう一人のアレンだった。

あそこに出現したクモは、悪いが、こいつは俺がもらって行く。去れ!と命ずる。

すると、もう一人のアレンは静かに消え去って行く。

アレンが目覚めると、そこはクモの館の中の寝室だった。

クモは、あの男から逃げ出したのは賢明だった。あの男は危険な男だと言いながら、飲み物を勧める。

アレンは飲み物に警戒するが、毒などは言っていないと聞くとそのまま飲み干す。

ハイタカには何度も助けてもらったと言うアレンに、なら、ハイタカが旅をする訳を知っているか?とクモは聞いてくる。

永遠の命の為だ。奴はそれを探している。そして、それを他のものに奪われないようにしているのだとクモは教え、そなたが永遠の命を持つ運命を持つものだと告げる。

飲み物の魔力に犯され始めていたアレンは、そのクモの言葉を素直に聞くようになっていた。

不老不死の力が欲しくはないかと聞かれたアレンは、僕は死にたくないと答える。

すでに正気を失いつつ会ったアレンに、クモは、私に真の名を差し出せと命じる。

アレンは、レバンネンと真の名前を教えてしまう。

クモは、準備は整ったぞ、ハイタカ…と告げる。

その頃、庭先に縛られていたテルーは、渾身の力を込めて縛られていた杭の地面から引き抜くと、手も綱から解き放つ。

外に走り出た所で、ちょうど馬に乗って帰って来たハイタカと遭遇。

テナーが捕まったとテルーが伝えると、持っていた剣を、アレンに必要なものだと言いテナーに預けたハイタカハ、家に戻っているようにテルーに命じ、自分は街に戻ることにする。

その頃、城に連れて来られたテナーの前に姿を現したクモは、地下牢に入れておけとウサギに命じる。

テナーは気丈にも、あの人に悪いことしたら、ただじゃ置かないからね!とクモに向かって叫んでいた。

そのときテナーは、クモの背後に立つアレンの姿に気づく。

クモは、おいでレバンネンとアレンを呼び、もう完全に操っているようだった。

地下牢に入れられたテナーは、こんな所にいると、墓所を思い出すわとつぶやく。

ハイタカは、クモ、再び過ちを犯すつもりかと口に出しながら馬を走らせていた。

館の門の前では、ウサギと部下たちがハイタカの到着を待ち伏せていたが、接近してきたハイタカは、あっという間にウサギたちの上空を飛び越えると、魔法で閉じていた門を開け、さっさと中に侵入してしまう。

館の中に入ったハイタカは、黄泉の国の境で別れたきりだが、テナーを返してもらおうと、姿を見せたクモに話しかける。

クモはかつて、ルルンの知恵の書を使い、人の魂まで操ろうとしたので、罰せられた魔法使いだった。

生死の両界を分つ扉を開けてやると言うクモに、世界の均衡を壊すつもりか?とハイタカが問うと、とっくに壊れているではないか。人間の手によって…。私は永遠不滅の存在になるのだとクモは言い。ハイタカ、お前の相手は私じゃないと告げる。

ハイタカの前に現れたのは、クモに魂を操られたアランだった。

クモは、その男が生を独占しようとしている男だ!と叫ぶと、アレンは剣を持ってハイタカに向かってくる。

一瞬、アレンはハイタカを刺し貫いたかに思えたが、ハイタカは脇に剣を挟み、アランの動きを封ずると、その耳元に、不死は生を失うことだ。この世に永遠に生きながらえるものはない。持っているものはいずれ失うものばかりだ。わしらの命も…と囁く。

それを聞かされたアレンの眼から涙が溢れてくる。

その時、裏門から入ってきたウサギが縄を投じ、ハイタカを縛り上げてしまう。

ハイタカは、魔法の力が弱まっていることに気づく。

それを観ていたクモは、お前の力はここでは使えんよと嘲笑する。

縛り上げられたハイタカは、テナーの入れられていた地下牢に投げ込まれる。

その頃、テルーは家には帰らず、剣を持ってクモの館へ向かって走っていた。

T字路に来て、左右どちらへ行くべきか迷っていると、一方の道の先にアレンが見え、招いているように見えたので、その方向へ向かうと、クモの館に到着できた。

アレンは、テナーさんはあの館に捕らえられている。ハイタカも。僕はこの先には行けない。そして、その剣を僕に渡してくれ。君なら出来る!僕は魔法使いに捕われている。と妙なことを言うので、あなたはここにいるじゃない?とテルーが聞くと、アレンは不安で一杯だ。いつしか心の闇は逃げてしまった。闇と共にあるべきもの光…、それが影になってしまった。自分は、ただ身体を追いかけている影だと、テルーの目の前にいたアレンは告げる。

アレンの影は、テルーが持っていた剣に触れると、父さん!と叫び、剣もろともテルーを抱きしめるのだった。

アレンの影は、君に僕の名をあげる。レバンネンだと教える。

単身、クモの館の忍び込んだテルーは、わずかな石垣の出っ張りを伝わり、中に侵入する。

声がする部屋の前に来たので中の様子をうかがってみると、そこでは、ウサギが部下たちと酒盛りしている所だった。

会話の中で、アレンは上の部屋に閉じこもっている。魔法使いの弟子としては役に立たなかったなどと言っている。

やがて、テナーとハイタカを出そうとウサギが立ち上がる。

その間、上の部屋に向かったテルーは、アレンと再開し、剣を渡そうとするが、すっかり気落ちした様子のアレンは、僕にはそれを受け取る資格はないと拒絶する。

あの時みたいに二人を助けて!二人とも死んじゃうんだよ!大切なものがなくなっちゃうんだよ!と訴えながらテルーは泣き出す。

大切なものって何だろう?とアランが問うので、命に決まっているとテルーが答えると、終わりが来ると分かっているのに…とアランはつぶやく。

そんなふがいないアランを観ていたテルーはいら立ち、アランが怖がっているのは生きること!一つしかない命が怖いのね。命は自分だけのもの。生きて、次の誰かに引き継ぐんだわ。そうやって命はずっと続いているの!

テルーは、アランの真の名を呼び、私も真の名をあげる。テハヌーよとアランに告げ、二人は固く抱き合う。

その時、竜が大空に向かって飛び立つ。

アランは、もうすぐ夜明けだ。二人を助けなきゃと口にし、テルーもうん!と力強く答える。

二人は、城の中を走り、別の塔の上に集まっているハイタカやテナー、ウサギたちの姿を発見、棟を飛び越えて近づこうとする。

ハイタカを塔の端に立たせ、テナーに突き落とすよう命じたクモは、この世の清算は私に任せろとうそぶくが、どうして良いか固まってしまったテナーに、まだ終わった訳ではない。もう少しで夜明けが来る。希望の足音が聞こえてくるとハイタカはつぶやく。

その希望の足音とは、塔にやって来たアランとテルーの二人だった。

アランは、止めろ!二人を自由にしろ!と呼びかけるが、クモは手のひらに青い光を発生させると、それを握りしめ、死の淵を観て泣け!と言う。

その途端、アランは胸を締め付けられ苦しみ出す。

それを観たハイタカは、呼び出しの術だと言う。

アランは苦しみながらも、お願いだ、抜けてくれ!命の為だ…と言いながら、テルーから受け取った王の剣を掴むと、今まで抜けなかった剣が光と共に抜ける。

クモは、その剣で右手を斬り落とされ、驚愕する。

アランは、テナーやハイタカの鎖も剣で斬る。

観ると、クモはいつの間にか老婆になっていた。

ハイタカが言うには、魔法で年をごまかしていたらしい。

テナーは、魔法使いが死を怖がるなんておかしいわと嘲笑する。

クモは、ロークの大賢人たちめ、俺を追い出しやがって…とハイタカを恨んでいる言葉を吐くと、身体を油のような黒い水に変身させ、右手を元に復活させると、テルーの身体を包み込み、連れ去ってしまう。

アランは、そのクモを追って塔を走る。

塔の内側の石階段を上るクモは、魔法で階段を崩し、アランの追跡を妨害するが、アランは八双飛びの要領で石段を飛び上がって行く。

朝日が昇りかけていた。

クモは、死は怖いぞ…とつぶやく。

アランは、そんなクモを塔の天辺まで追いつめ、光から眼を背けて、闇だけを観ている。生を手放そうとしていると追求する。

クモは、嫌だ、なくなるのは嫌だとわめき、塔の天辺部分は崩壊する。

アランは落ちかけるが、かろうじて片手で天辺部分に捕まっていた。

クモは、右手を膨らませ、邪魔する奴は消えてしまえ!と言いながら、掴んでいたテルーを圧殺しようとする。

何とか、アランが天辺に這い上がった時、クモは、死んだ、死んだ可哀想と嘲る。

彼女の足下には、息絶えたテルーの身体が横たわっていた。

朝日が昇った中、クモは、急げ、急げ…とつぶやいていた。

その時、「待ちなさい」と呼びかけながら、死んだはずのテルーが起き上がる。

それを見たクモは「永遠の命だ!」と驚く。

テルーは、影は闇に帰れ!と叫ぶ。

クモは「命をくれ…」と訴えるが、テルーの身体は竜に変身していた。

その途端、クモの身体は燃え始め、塔全体が崩壊し始める。

「テハヌー!」と呼びながら、アランはジャンプする。

別の塔から地上に降りてきたハイタカとテナーは、アランの馬と出会う。

テナーは、あの子たちは?と案ずるが、ハイタカは、心配ない。彼には翼があると教える。

アランは、テルーが化身した竜に乗って空を飛んでいた。

地上に降り立ったアランは、そっと両手を差し伸べ、竜の顔を愛おしそうに触る。

ありがとう、テルー…、僕は償いの為に国に戻るよ。いつか又、君に会いに来ていいかな?

竜は、テルーに戻っていた。

アランは、テルーと共に、テナーとハイタカの所へ戻る。

4人は再会し、テナーの家で楽しい食事を一緒に取った後、アランはハイタカと共に旅に出る。

手を振って見送るテルーは、空を飛ぶ5匹の竜の姿を観るのだった。