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歌舞伎十八番「鳴神」 美女と怪龍

歌舞伎の映画化らしいので、その方面の知識がない自分には退屈な話かな?と思いきや、何と、悪知恵の働く女がバカな男をたぶらかす、いつの世も変わらぬテーマを描いた艶笑譚だった。

東千代之介や乙羽信子、殿山泰司辺りを除けば、あまり馴染みのない歌舞伎出身の役者が多いような印象もあるが、これは、劇中、歌舞伎のシーンも兼ねるからだろう。

東千代之介なども、ちゃんと歌舞伎の舞台のシーンの方では、厚化粧に歌舞伎衣装で登場している。

主役の雲の絶間姫を演じる乙羽信子は、天真爛漫で計算高い、現代っ子のような姫を演じている。

北山の山中で、笛や竪琴を奏で、侍女がエロティックな踊りを踊って男の気を惹く所など、「日本誕生」での、天宇受女命(アメノウズメの神)を連想するようなシーンもある。

滝の周辺はセットだが、そこまでの道のりは本当に山でロケをしており、女性達やスタッフ達はさぞ大変な撮影だったと思う。

冒頭、江戸時代の芝居小屋前の群衆とか、過去にさかのぼり、御所に出入りする農民や法兵たちの群衆シーンは、歌舞伎舞台との差を出そうと言う意図もあったのだろうが、さすがに今観ると凄い。

滝壺の中で時折頭部を見せる竜はゴム製ではなく、どうやら木製で、口が開く仕掛けがあり、螺旋状に天に昇るシーンでは、あたかも工芸品が舞い上がっているような姿に見える。

ちょっと、後年の「怪竜大決戦」の竜に雰囲気が似ている。

伊福部昭の音楽は古風な雅楽と言った感じで、時折、太鼓や三味線の音色が効果音風に入り、お馴染みの耳に残るような特撮風なメロディラインとはおもむきが違っている。

早雲王子を演じている河原崎国太郎や、小野春風を演じている瀬川菊之丞、滝野を演じている河原崎しづ江らのとぼけた演技が楽しい。

この映画が、どの程度オリジナルの歌舞伎をアレンジしているのか分からないが、ほぼこういう話だとすると、歌舞伎とはその大仰な表現スタイルとは違い、中身はずいぶんくだけた庶民派娯楽だったんだなと改めて感じた。

 

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1955年、東映京都、新藤兼人脚本、吉村公三郎監督作品。

江戸時代、歌舞伎で「鳴神」の芝居が始まる。

朝廷に仕える内裏、小野春道(瀬川菊之丞)が文屋豊秀(東千代之介)に、帝の前で披露するための舞いを見せてみよと命じる。それを一緒に観る息子の春風(片岡栄二郎)。

その時、花道から入ってきたのは、藁で作った竜を掲げた農民一行。

内裏の前に跪くと、このところの日照り続きで、農民達は苦しんでいます。天子様は天の御子で何でも出来ると聞いているので、そのお力で、どうか雨を降らせて欲しいと頭を下げる。

それに応対した春道は、後で沙汰するから帰れと命じるが、農民達はいつも同じことを言われていたので、今日は引き下がらない。何としてでもここでお答え願いたい「さあ!」「さあ!」「さあ!」とかけ声の応酬が始まる。

下がりおろう!と3人の警備のもの達が見栄を切った次の瞬間、画面は歌舞伎の洋式的な舞台から往時の世界の映画的表現に変わり、御所の門から外へ押し出された農民達は、一斉に門を打ち叩いて騒ぎ出す。

農民達の怒りは当然で、もう100日も雨が降っていないのだった。

春風などは、これは何者かが、三千世界の龍神を封じ込める呪術でもかけているのではないかと冗談で言うが、文屋豊秀も、何者かの権謀術策かも知れないと同意する。

そこにやって来たのが関白基経(嵐芳三郎)で、表の騒ぎは何事じゃと聞く。

そして、文屋豊秀と春風に、帝の前で舞う練習はしておるか?お褒めの言葉をもらわんとダメですぞと言い残してして帰って行く。

続いてやって来たのは、蓑を着て、鎌と笠を両手に持った早雲王子(河原崎国太郎)、春風や豊秀の前でおどけてみせながら、そちら今ほど、関白基経に叱られていたなと笑う。

加持祈祷を取って、雨降る、降らないは、朝廷やお前達のせいか?とからかわれた豊秀は、かくなる上は鳴神上人でも読んで知恵を借りては?と提案する。

噂をすれば影とやら、そこに当の鳴神上人(河原崎長十郎)が、黒雲坊(市川祥之助)、白雲坊(殿山泰司)と言う弟子二人を引き連れてやって来たので、早雲王子は退散する。

鳴神上人は、過日、三条天皇のお妃がご懐妊したとき、法力を持って男子にして欲しいとの依頼があり、その褒美には北山戒壇堂の建立をして下さるとのことだった。

自分は、大寒の最中の37日間祈り続け、無事若宮様がご誕生あそばされたにもかかわらず、戒壇堂のことはお沙汰なし。これはどういうことかと詰問して来る。

小野春道は、とっくに手配は済んでいるはずと困惑するが、嵯峨に来てみれば分かる。草ぼうぼうだと鳴神上人は言う。

今、天下干ばつして雨が降らないのは、わしが三千世界の龍神を封じ込めているからだ。返事を持って来い!と一喝して帰って行く。

残った春道らは、階段堂のことはどうしたと言うことだろう?と不思議がっていると、又、早雲王子が戻って来て、わしが桃井中将(中野市女蔵)に中止させたとしらっと言う。

桃井中将を呼んで確認すると、確かに、早雲王子に言われたので、建立は中止したと言うではないか。

早雲王子は、戒壇堂など建立したら、叡山三千の法師達が黙ってないだろうからだと言う。

その言葉通り、噂を耳にした遠真僧(吉田義夫)率いる僧兵が神輿を担いで御所内に乱入すると、警護のものなど足蹴にして、庭先を練り歩く始末。

その騒ぎを聞きつけ、又、関白基経が何事かとやって来たので、叡山の僧兵達が怒っておりますと、文屋豊秀が慎んで教える。

その頃、自室に戻っていた早雲王子は、私にとっては世の中が騒げば良いだけ。世が世なら、自分が帝になっていたはずで、くものたえま姫には手ひどく打たれたしな…などと、従者相手に愚痴っていた。

後刻、琴を弾いていた雲の絶間(くものたえま)姫(乙羽信子)は、侍女の滝野(河原崎しづ江)から、御所からお呼びですと伝えられる。

御所では、日本一の学者と言われる安部清明(高松錦之助)が、鳴神上人の法力を解くには、「遊仙叢」と言う書物に書いてある読めない二カ所の漢文を読み解けば良いと関白基経らに解説していた。

そこに、滝野を従え、雲の絶間姫がやって来たので、今、安部清明から聞かされたことを小野春道が伝え、「遊仙叢」は姫の祖父が書いた漢文であり、姫にその読めない部分を読んで欲しいと頼む。

安部清明も、法力を解くには急所を突くしかないが、その為には、上人が読めない字を読むしかないと説明する。

話を聞いた雲の絶間姫は、大江維時も読めなかった漢文を自分が読めるはずがないと苦笑しながら断ろうとするが、背後に控えていた滝野が、家にはおじいさまの書物もたくさん残っておりので、今晩一晩考えてみては?と進言する。

その場にいた関白基経も、読めれば、どんな望みもかなえてあげましょうと言うので、姫は承知して「遊仙叢」を受け取ると帰る。

早雲王子は、又、関白基経が望みのものは何でもかなえてやるなどと言い出したと呆れる。

自宅に帰り着いた雲の絶間姫は、これを読んだくらいで雨が降るだろうか?と素朴な疑問を口にするが、滝野は、何でも望みはかなえてやると言っていたではないですか。今にニコニコなさいますよと意味ありげに微笑む。

戸惑う姫に対し、滝野は、文屋豊秀様と縁組みさせていただくのですよと教え、何やら、姫に耳打ちする。

そこに小野春風が訪ねてきて、朝廷も腰が座っていないので困る。うちの親父もはっきりしないなどと雑談を始め、本当に「遊仙叢」が読めますか?と心配そうに尋ねる。

姫は、読んでみるつもりでございますとしとやかに答えるが、あれを読んだくらいで雨が降るだろうか?と春風も案ずるが、そこに今度は、文屋豊秀がやって来たと侍女が知らせに来たので、姫は春風に遠慮してくれと言い出す。

侍女に連れられ別棟に連れて行かれそうになった春風だが、姫と文屋豊秀のことが気になるので、ここの方が涼しいからと言って、廊下に居座ることにする。

部屋に通された豊秀も、「遊仙叢」は難しいので、心配してきたと言うが、雲の絶間姫は、私はすらすらと読んでみせますから。結んだ紐を解くように…と余裕で答え、ご褒美として、あなた様と夫婦にさせていただこうと思います。御依存ございませんか?と嬉しそうに伝える。

それに対し、豊秀の方も依存はなく、親同士が勝手に決めた春風の妹との縁談など気にしていないと言う。

それには、廊下で聞いていた春風もがっくりしてしまう。

兄妹そろって振られたことが分かったからだ。

動揺した春風は、足下にあった茶碗を蹴飛ばして壊してしまうが、その音を聞いた豊秀が怪しむと、くものたえま姫の方は、猫でございましょうと、しらっと噓を言うのだった。

その後、帰宅した小野春道は、日が沈んだので、ようやく昼の猛暑は終わったと喜んでいた。

しかし、娘の錦の前(田代百合子)がそうした父をからかうので、娘に学問など刺させると言いくるめられてしまうと春道は嘆く。

すると、錦の前は、その内、お嫁に行きますからと慰める。

そう言われた春道は気になって、お前が3つの時にわしが決めた豊秀さんは嫌いか?と聞いてみるが、そこに春風が帰って来て、変な風が吹いてきたぞ。大風ですよ。悪い風が吹いてきて、お前なんぞ吹き飛ばされてしまうぞと妹をからかうと、大笑いし出す。

翌日、御所の関白基経の元へやって来た雲の絶間姫は、一晩考えましたが、夜明けにはすらすらと…と「遊仙叢」を読み解いたことを報告する。

そして、それを披露する前に私の望みを叶えて下さいと願い出たので、既に事情を承知している春風は、がっくりしてしまう。

さらに雲の絶間姫は、早雲王子に証人として立っていただきたいと申し出る。

春風が、早雲王子を呼んで来ると、姫は、文屋豊秀様と夫婦にさせていただきたいと言い出したので、関白基経は、そのようなことなら容易いことと、すぐに承知してくれる。

しかし、それを聞いた早雲王子は、そのようなことなら、わざわざ自分が証人に立つ必要もなくバカバカしいと言い放つ。

すると、姫は、前前より早雲王子様には、自分と夫婦になれとうるさいほどに言われていましたので、今、証言していただかないと…と嫌みを言う。

早雲王子は、あれは冗談だったのに…、と言い訳をしながらも、姫の願いを引き受けたと言うしかなかった。

そして、それでは「遊仙叢」の心を聞きましょうと早雲王子が姫に詰め寄ると、目指すは鳴神上人の法力を破ることであり、「遊仙叢」は上人の前で呼んでみたいと思うと言い出す。

それに呼応するかのように、背後に控えた滝野までもが、障子に耳ありともうしますから、ここで読んでは、誰かに告げられる恐れがありますと言い添える。

それを聞いた早雲王子は、我らを疑っているのか?と一瞬気分を害するが、関白基経は得心し、確かにここで読む必要はなく、鳴滝上人の法力を破れば良いのだから、明日、北山へ旅立ってくれと姫に依頼する。

自分の思いが一つも敵わなかった早雲王子は、鞍馬山の氷室から取り寄せた氷を使った「削り氷(けずりひ)」を一つ奪い取って自室に戻ると、女って底意地が悪いからな。「遊仙叢」なんか読める訳はない。鳴神上人の前で読むと言うのはごまかしだ。学問を鼻にかけると怪我をするよと悪態をつきながら、かき氷を食べるのだった。

その日の夕方、雲の絶間姫と文屋豊秀は二人きりでデートをしていた。

豊秀は、王子はあなたに何と言っていたのです?とか、他にも男が言いよったのですか?とかしきりに姫に質問するので、姫は、私があなたのものになるとはっきり分かったからではありませんか?と、豊秀の嫉妬心を微笑む。

そして、蛍になぞらえた歌を歌ってみせたりする。

翌日、雲の絶間姫は北山に出発することになる。

姫の乗る輿の進む側には、大勢の農民達が集まってきて、皆、雨を降らせてもらえるよう、成功を祈るのだった。

やがて、姫が馬に乗り換える北山の麓に来ると、すでに、文屋豊秀や小野春風らが待ち受けていたが、そこに早雲王子も馬に乗って見送りに来る。

姫は、皆様、雨具のご用意はよろしいですか?とあくまでも余裕の言葉をかける。

文屋豊秀が自ら両手を差し出し、鐙にして姫の足を持ち上げ馬に乗せる。

かくして、雲の絶間姫は、馬番の老人と、みよし(日高澄子)うてな(浦里はるみ)と言う二人の侍女を従い、動物の白骨などが落ちている、北山に登って行く。

やがて、滝の音が聞こえて来たので、「遊仙叢」を侍女に取り出させた姫は、それを広げかけると、笑いながら崖の下に捨て去ってしまう。

侍女達は驚くが、あんなもの、元々読めもしないし、法力も効きもしないよ。いよいよ敵地に乗り込みましょうと笑顔で告げる。

鳴神上人は、滝のすぐ側に小さな庵を作り、そこで日夜、竜が潜む滝に向かい祈り続けていた。

一緒に山にこもっていた白雲坊は黒雲坊に、行の訳を知っているか?と聞き、黒雲坊も、早く都に帰って女子の顔を見たいものだなどと話しながら、又の下に隠していた酒瓶を取り出すと、昼日中から酒を飲もうとしていたが、その時、下から登って来る姫と侍女達の姿を発見する。

ただちに、鳴神上人に報告するが、上人は物の怪の類いであろうと相手にしない。

その頃、麓で待ち受けていた文屋豊秀や小野春風らは、鳴神上人は、12の時から荒法師に混じり修行をしたので、全く女人など近づけないのだと小野春道から聞いていた。

その場で一緒に待っていた滝野は、今に雨が降り出しますよと、余裕の笑顔を見せていた。

その夜も、鳴神上人は祈りを続けていた。

滝壺の中には、竜の頭が見え隠れする。

黒雲坊と白雲坊は眠りこけていたが、突如、笛の根が響いてきたので驚いて目覚める。

見ると、女2人が笛や竪琴を使い音楽を奏で、それに合わせて一人の女が踊っているではないか。

上人も気づき、二人の弟子に観て参れと命ずる。

黒雲坊と白雲坊が女達の近くに寄って様子を観ていると、それに気づいた女達は目配せし合い、曲を変えると、踊りももっと激しいものに変える。

すっかり、妖艶な女の踊りに見ほれた黒雲坊と白雲坊は、持っていた酒を勝手に飲み始め、堂々と舞台に上がって女たちの仲間になる。

山の麓では、文屋豊秀が寝付けず山の方を見やっていたが、そこに小野春風も近づいてきて一緒に心配する。

しかし、滝の側では、酔いつぶれた黒雲坊と白雲坊が眠りこけていた。

くものたえま姫は、そっと鳴神上人の庵の側に近づく。

その姫に気づいた鳴神上人は、物の怪か?と怪しんで声をかけるが、雲の絶間姫は、自分は足も手もある人間で、山に住んでいる夫に別れた女でございますと哀れそうに打ち明ける。

話に興味を持った上人は、別れたとは、生き別れか?死別か?と問いかけ、姫は、教がちょうど四十九日だと教える。

死別と知った上人は気の毒がり、南無阿弥陀仏と供養をしてやる。

姫は、その夫の形見の薄衣を洗おうと思っておりましたが、この日照り続きで一滴の水もなく、多岐には水があると聞き、険しい山を登って参りましたと嘘をつくが、上人は信じ込んでしまう。

添い遂げていた夫とは、さぞ仲が良かったのだろうな?と上人が興味深そうに聞いてきたので、姫は、とっても…と、うらやましがらせるような目つきで答える。

その内、話をもっと聞きたがった上人は、姫を自分の側に近寄らせて、抱かんばかりに姫の話をねだる。

その様子を岩陰から密かに覗いていたみよしとうてなは、女人禁制のお山では、すぐに薬が効いてきますよと頷き合う。

姫は、自分と夫の清水での出会いを、さも本当のことのように話し始める。

話に夢中になって聞き惚れていた鳴神上人だったが、時折、滝壺の方から竜の唸り声が聞こえ、姫が怯えると、慌てて呪文を唱えて竜を鎮めると言う動作を繰り返すようになる。

姫は話に夢中になったように装い、出会った愛おしい人に会いたさに、裾をからげてこのように桂川を渡りましたと言いながら、足を着物からわざと出して、上人に見せつける。

その色気に徐々に捕われ出した上人を見て取った姫は、わざと上人の身体を触ると、上人は興奮し過ぎて気絶してしまう。

そこに、みよしとうてなが近づいてきて、哀れな上人の姿をあざ笑うが、姫は二人の侍女に何やら耳打ちをする。

そして、自ら滝壺の水を口に含むと、それを口移しで上人の口に流し込んでやる。

その直後、気がついた上人が、今、爽やかな冷水が咽を通ったので気持ちが良くなったとつぶやいたので、姫は流し目で観ながら、それはこの私がこの口から飲ませましたと告白する。

すると、にわかに表情が変わった鳴神上人は、その方の企みは分かった!わしのをたぶらかせて、法力を封じようとしているのだな!と睨みつけてきたので、姫は、そんな疑いをかけられるとは…、死んで身の潔白を証明しますと言いながら滝壺に飛び込もうとしたので、慌てた上人はそれを押しとどめ、さすれば尼になれと勧める。

感極まったかのように見せかけるため、姫はその場に気絶する芝居をする。

鳴神上人はあわてて姫を抱きかかえると、姫は気がついたような振りをして、和尚様と呼びかける。

それを喜んだ上人は、早くこの黒髪を切って尼になるのだと重ねて勧めるが、それを聞いた姫は、この黒髪を切る?と、さも驚いたように答えると、急に脇腹を押さえて苦しそうな振りをする。

上人は、ますます慌てるが、姫は背中をさすってとか腰をさすってと言いながら、とうとう、胸をさすってと頼む。

何も知らない鳴神は、言われるがままさすっていたが、胸に手を入れた所で、何だ!これはと驚く。

すると、急に恥じらった姫は、何をなさいます!和尚様ともあろうお方が女子の乳を触るなど!と怒りを込めて上人を追求する。

鳴神はもうすっかり舞い上がり、破戒じゃ!そなたと一緒に地獄に堕ちよう。夫婦になれば良いと言い出す。

それを聞いた姫は、夫婦になりますのには、やはりお盃を…と答え、脇に控えていた侍女二人を呼び寄せると、用意周到な二人はちゃんと盃の準備をしている。

まずは姫が一杯盃を飲み干した後、鳴神上人に盃を手渡し、姫自ら酌をしてやると、酒と言うものも飲んだことがなかった上人は、おいしそうに酒を飲み干し、これで夫婦だと安心するが、姫はそんなことでは許さず、どんどん酒を勧める。

上人が断ろうとすると、姫は、私の尺では飲めませんか?とだだをこねた振りをし、いつしか上人の持つ盃は巨大なものに変化して行く。

すっかり酩酊した上人の盃に、さらになみなみと酒をついだ雲の絶間姫だったが、酒に映った影を観て、蛇が!…と怯える。

上人は、これは龍神封じの密法の固めが施してある注連縄(しめなわ)が映っているだけだと安心させた直後、その場に酔いつぶれてしまう。

竜封じの秘密を聞き届けた雲の絶間姫は、すぐさま侍女達に手伝わせて着物をたぐり上げると、短刀を持って注連縄の所に走りより、えいっとばかりに断ち切ってしまう。

すると、にわかに風が起き、庵にかけてあった不動明王の掛け軸も燃え上がってしまう。

封印が解けた竜は、雨を降らせると、螺旋状に天に向かって昇って行く。

山の麓で待っていた文屋豊秀らは、雨が降ってきたので驚いていた。

滝野は、やっぱり降りましたねと笑顔でつぶやく。

農民達は大喜びだった。

雨の中、急いで山を下りる雲の絶間姫は、本当に良い雨ですこと…とにこやかに笑う。

その頃、雨で目が覚めた黒雲坊と白雲坊は、泥酔して倒れていた鳴神上人を抱き起こし、注連縄が切られましたと教える。

正気に戻った鳴神上人は「さては!」と叫ぶ。

(ここから又、歌舞伎の舞台劇となり)

鳴神上人は、大勢の子坊主達を前に暴れ始め、「こしゃくな!かくなる上は、雷になってあの女を…」と言いながら、(衣装代わりすると)花道に消えて行くのだった。