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バナナ

日本で成功し、優雅に暮らす華僑家族を中心に、若者達の夢と挫折を描いた都会派ユーモア作品。

松竹作品だが、後に量産される貧乏臭い下町庶民人情話ではなく、趣味に生きる裕福な家ののんびりした生活のおかしさを描いている所が洒落ている。

同じ、獅子文六原作の松竹映画「「可否道」より なんじゃもんじゃ」(1963)に、ちょっと雰囲気が似ている所がある。

生活臭さがあまりなく、趣味に生きる人たちを描いた所がすごくモダンなのだ。

天童が旨い料理を食べることを生き甲斐としており、男子厨房に入って料理を作るシーンなどは、公開当時は、母国の中国が政治的に大変な時に、既に当時から平和ぼけ状態だった日本では、一人趣味に生きる生活を楽しんでいる中国人もいる…と言う、ちょっと風刺的な意図が込められていたのかも知れないが、これは、日本の経済成長がストップしてしまった中、暮らしにあくせくするのではなく、趣味に生きる日本人が増加した今の状況を予言しているような内容だ。

若者を演じている津川雅彦と岡田茉莉子は、二人とも美しさの絶頂期であり、特に可愛い盛りの岡田茉莉子のすっとぼけたコメディアンヌ振りは一見の価値あり。

尾上松緑が料理好きの父親を演じていたり、その妻役の杉村春子が浮気をしかける有閑マダムを、津川雅彦が空手アクションを見せるなど珍しいシーンが多い。

「刑事コロンボ」の声で知られる小池朝雄が学生服を着て登場したり、仲谷昇がキザなシャンソン歌手で歌を披露したり…と言うのも貴重。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、松竹、獅子文六原作、斎藤良輔脚本、渋谷実監督作品。

海を隔てて二つの中国がある。

中共と台湾

日本にも二つの中国人がおり、北京系と国府系

そして、ここにも中国人がいる。

在日華僑総社の会長呉天童(尾上松緑)である。

若い頃財を成し、日本人妻を持ち、今は大きな屋敷でのんきに暮らしている。

今日も、屋敷にいつも来る中国の苦学生王(小池朝雄)に小遣いを渡していた。

王は、こうした援助もありがたいが、今こそ国の為に立ち上がってくれないか。二つの中国があるのは不幸だと思わないか?と頼むが、天童は、自分は台湾生まれの言わば国府系であり、毛沢東も蒋介石も庶民から楽しみを奪うような政治ばかりしているではないか。自分は旨いものを食いたいだけで政治には関心がないと断る。

妻の紀伊子(杉村春子)が用意した朝がゆを食べようと食卓にやって来た天童は、いつもあの学生にお金などやって大丈夫なのか?と聞かれたので、学費がたったの6000円しかないそうで可哀想じゃないかと答える。

しかし、紀伊子はあの学生はアカではないかと案じており、最近深夜まで帰って来ない息子の竜馬(津川雅彦)もアカになったのではないかと言うのだった。

しかし、のんきな天童は、竜馬は全学連などに入らないし大丈夫だと諭す。

その時、二階で花瓶が落ちて壊れた音がしたので、紀伊子は何事かと声をかけるが、風でカーテンがなびき落ちただけだったのだが、口うるさい奥様に何か言われるのを避けた女中は後片付けしながらも何も答えなかったので、それが又、紀伊子の癇に障る。

竜馬はその頃、まだベッドの中で夢を見ていた。

欲しいんだ!どうしても欲しいんだ!

パパの紙入れは上着のポケットに入っているはずと考え、洋服ダンスの中の天童のスーツのポケットを探るが財布は見当たらない。

ママの宝石箱!と思いついた竜馬は、紀伊子の寝室に忍び込み、宝石箱の中の宝石類を全部盗み出そうとしていた。

その時、その紀伊子から起こされ、目覚めた竜馬は、今日は休講があるので昼から横浜に行こうと思っていると言う。

それを聞いた紀伊子は、街頭連絡に行くのね?やはりあんたはアカになったのね?と心配するが、竜馬は、これから行くのは渋谷の「キキ」と言う喫茶店でいつもの仲間と会うだけだと言う。

その中に、サキベエと言う有名になりたい女の子がおり、学生を辞めてシャンソン歌手になりたいと言い出しているので、それの相談をするのだと言う。

その頃「キキ」では、サキベエこと島村サキ子 岡田茉莉子)が仲間達の前で、自分で詩を書いて、紫シマ子と言う本名をもじった芸名にしシャンソン歌手になる。マネージャーは、この店の支配人(伊藤雄之助)にやってもらうと計画を打ち明けていた。

その支配人がやって来て、双葉ホールでリサイタルを開くことを決めた。後は、あんたの父親の許可を得るだけだと伝えに来るが、サキ子は、竜チンこと竜馬に一緒に行ってもらうが、お父っあんって全然頑固なのと渋い顔をしてみせる。

サキ子の父、島村貞造(宮口精二)は青物商の仲買人だが、突然、一人娘が有名になりたいので、シャンソン歌手になると言い出したので、呆れて叱りつけていた。

しかし、娘が連れてきた竜馬が、呉天童の息子と知ると急に態度が変わる。

呉天童と言えば、神戸の貿易商呉天源の兄として有名だったからである。

天童家に帰って来た竜馬は、天童に20万くれないか?自分も20万貯金があるので、それで車を買いたいのだとねだる。

しかし、天童は、移動は電車が一番であり、車は反対だと穏やかに伝えると、華僑総社の午餐会に出かけて行く。

サキ子と支配人は、1時に来るはずだった竜馬が現れないので苛ついていた。

その頃、竜馬は、島村貞造に誘われて、港の倉庫に来ていた。

島村が竜馬に見せたのは、青いバナナを色づかせる室だった。

ガスの熱と炭酸ガスで黄色くするのだと説明する島村は、それでも、外側は青いのに中がぐずぐずになってしまった青ボケや、風邪ひき、熟など、バナナ熟成段階での失敗例も見せる。

そこで折り入ってお願いがあるのだが…と切り出した島村が竜馬に頼んだのは、呉天源が持っているバナナの輸入ライセンスを譲ってもらえないだろうか?リベートは差し上げると言うものだった。

島村は、自分は戦前、バナナで儲けていたが、戦後になると、リンゴやみかん、菜っ葉などまで扱うようになってしまった。

もう一度、バナナ王になりたいのだと島村は懇願する。

その話を聞いた竜馬は、リベートをもらえば、車が買えるではないかと胸算用する。

早速、神戸に、叔父であるロンシン公司の呉天源(小沢栄太郎)を訪ねた竜馬だったが、竜馬から話を聞くと、日本人は砂糖にたかるアリみたいなものなので、儲かるものをを人にやる気はないと言う。

そこに、サキ子が一人でやって来たのを知った竜馬は驚くが、ガールフレンドと知った呉天源は、腹が減ったので何かごちそうしてとねだる竜馬とサキ子をある所へ連れて行く。

そこは、淡路島が見える古い建物で、呉健童と言う自分たちの先祖が建てた別荘だと天源が説明するだけあって、豪華な調度類や装飾品がある見事な建物だった。

1階がサロン、2階が食堂、3階が寝室だと言う。

竜馬は、そう言う俗悪趣味をサイテーだと感じていたが、サキ子の方は妙に気に入ったようだった。

天源は竜馬に、バナナのライセンスをやると突然言い出す。

お前を大商人にしたいからだと言う。

商売をしても受けたら欲が出る。又、商売で儲けたくなる。それが成功の秘訣だと天源は説明していたが、そこに一人の学生が現れ、天源と商売の話をすると言って部屋を出て行く。

その学生とは王だった。

1籠で2000円儲かると言うバナナの権利、もらっちゃいなよとサキ子が勧め、あんたが社長になり、私が専務、その代わり、うちのオヤジも番頭に使ってやってよ。本気でお金儲けしましょう!と言い出す。

その頃、天童は、妻の紀伊子が、女学校のクラス会に出かけたので、趣味の料理を始める。

新の旨さは家庭料理にありと信じている天童は、いつも妻が不在の時やいるときでも、旨い料理を作って食べるのが大好きだったのだ。

その頃、クラス会に出席していた紀伊子は懐石料理を楽しんでいた。

確かに、懐石料理も旨い…と天童は考えていた。

寿司、すき焼き、天ぷら…

そうした日本料理も好きだったが、天童はその日、自分が作った料理に一人舌鼓を打っていた。

一方、紀伊子の方は、マロニエ会と言う集まりで、会員の一人で新人シャンソン歌手永島栄二(仲谷昇)の歌を聴きながら、若い頃のことを思い出してうっとりしていた。

その当時、千駄ヶ谷に住んでいた紀伊子の家の2階に下宿していた学生の天童はもっと親切で優しかったし、毎日も今よりずっと楽しかった…

バー「ESPOIRE」

天童は時々、このバーに来てはジンフィズを頼み、ホステスの手を自分の両手で優しく挟んで楽しむので、「サンドイッチ」とあだ名されている。

その日も、ホステスの手を挟んで楽しんでいたが、その時来店した客達を観た天童は、妻の友達の亭主なのでまずいとホステスに耳打ちし、早々に帰ることにする。

その頃、神戸から土産を持って帰って来たサキ子は、メザシを焼いていた島村に、そんなもの食わないで、これ食ってくれよと頼んでいたが、あまりに頑固なので、自分たちの味方をするのが嫌なんだろう?見栄張らないでよと責めながら、塀越しに隣の家に土産を放り込んでしまう。

そして、サキ子が旅行仕度を始めながら、21年暮らしてきたけど、縁を切ると言い出したので島村はちょっと慌てる。

その時、焦げ臭い匂いがしたので、あわてて七輪の所へ戻った島村は、一緒に来ていた竜馬が、焦げかけたメザシを救っていたことに気づき感謝する。

竜馬は、天源から譲り受けたライセンスを披露し、台湾から120籠、横浜に着いたと教える。

その第一回分の利益だけで25万手に入った竜馬は、サキ子と一緒に兼ねてより狙っていたコンツセルが置いてある中古車屋に出向くが、もうその車は売れてしまっていた。

がっくりした竜馬だったが、サキ子は、そんな中古車くらいでがっかりしないで、今後どんどんお金が入るのだから、もっと別の車を買えば?と勧める。

あちこち見回った結果、150万もするMGのスポーツカーを竜馬は気に入り、断然これに決めた!と喜ぶ。

そんな竜馬とサキ子の様子を、あの王が密かに観ていた。

とりあえず、車は先延ばしにすることにし、一旦「キキ」にやって来た竜馬だが、自分は今まで、2000円以上使ったことがないので、今から銀座に行き贅沢しないかとサキ子を誘う。

そこに、支配人が「紫シマ子」の名前で刷ったポスターを持って来る。

印刷代に7万5000円もかかったので、そこら中に貼って来たと自慢げに言う。

窓を開けて外を観たシマ子は、本当にあちこちに貼られている自分のポスターを発見し、少しげんなりする。

道を走る車にまでべたべたと貼付けているではないか。

それを観たシマ子が、無駄よ〜…、客なんか来やしないわ…と自分を否定し始めたので、側で聞いていた竜馬は、分かんねえな、女って…と呆れる。

そんな竜馬は、最近、うちのママなんか、シャンソン歌手の永島栄二を贔屓にしているんだと教えると、サキ子は、永島だったら有名なのよ、女の方で…と顔を曇らせる。

その頃、紀伊子は自宅の鏡台の前で、しきりと白髪を撫で付けていたので、天童が染めたら?と言葉をかけると、これが中年女に魅力であり、中には美容院で脱色して白髪を作っている人だっているのよと自慢げに答え、出かけようとする天童に、お帰りは「デスポワール」?」と突然聞く。

天童が何の話だ?ととぼけると、その話が本当なら、私、よろめいちゃおうと思った…と紀伊子は言う。

銀座に繰り出してウィンドショッピングを楽しんでいた竜馬とサキ子だったが、金を持っていると使いたくなくなるらしく、サキ子は何も欲しがらず、永井荷風ってこんな気持ちだったんだろうな…などとと言い出す。

竜馬はいら立ち、せめてホテルで贅沢な飯でも食おうと誘うが、サキ子は餃子でも食べて帰らない?とまるで興味なさそう。

音楽堂でジュースなど飲んでいると、王が竜馬に近づいてきて、「いひょう閣」でお目にかかりましたねと話しかけて来ると、付き合ってくれないかと誘いかける。

その頃、天童の元にやって来た林秘書(神山繁)は、天童が時々小遣いを与えている王と言う男は学生ではないし、華僑総社に投書しているのも、何か目的があるようだと伝えていた。

怪しげな住まいに竜馬を連れてきた王は、自分は組織の中である使命を持っているものであり、アヘンを取引しているのだと打ち明け、あなたの友達になりたいし、紹介したい人もいるので会ってもらいたいと言う。

その後、王は竜馬を謎めいた建物に連れて来ると、そこの一室で行われているカジノを見せる。

その頃、紀伊子はマロニエ会のメンバー達と箱根に来ていた。

帰宅した竜馬の寝室にやって来た天童は、色々話したいことがあるのだが、最近お前は学校にも行ってないそうだな?と聞く。

竜馬は、叔父さんから先祖の呉健童を教えてもらったので、バナナで金儲けしようと思っていると打ち明けるが、それを聞いた天童は、呉健童さんは立派な人だが先祖じゃないよ。なぜ天源はおかしなことを教えたのだろう?と不思議がり、バナナと車はいかん。子供の頃、バナナを食べて疫痢になったことがあるし、輸入ライセンスなんて特権だから、ケチな金儲けなんか止めた方が良いと助言する。

さらに、君のガールフレンドは結婚する意思はあるのかね?と聞くと、竜馬はサキ子とはただの友達さと言うので、天童は分かったと言って部屋を出て行こうとするが、今度は竜馬の方が、ママのマロニエ会のことなんだけど、止めた方が良い。評判悪いんだと教える。

箱根の旅館で床に付いた紀伊子は、自分だけと二人きりで会いたいので、深夜、展望台で待っていると言う永島栄二の誘いに乗るべきかを考えていた。

こんな夜更けに二人きりで会いたいなんてただ事じゃないと思っていたからだ。

天童だって「デスポワール」に通っている。ちゃんと分かっているのだと紀伊子は考えていた。

結局、他の女学生仲間が寝ている最中、こっそり寝床を抜け出した紀伊子は、恐る恐る展望台への階段を上ることにする。

展望台では、永島栄二が含み笑いをしながら、物陰に隠れて一人待ち受けていた。

一方、サキ子は、今ではあまり乗り気ではなくなったリサイタルが間近に迫ったので、無理矢理曲を作らなければいけなくなり、自宅の庭で、「青ぶくのバナナ〜♩」などと、即興の歌をギターを弾きながら歌っていた。

それを、隣の子供が、母親から髪を切ってもらいながら聞いている。

そんなサキ子に、父の島村が、100人ばかりで総見すると伝えに来る。

芸術なんて銭かねでは買えない。ワッと世の中を騒がせて、日本一のシャンソン歌手になってくれと、以前とは180度反対の態度で言う。

サキ子は、浜相場いくら?お父っあんの腹の中、読めているんだよ。ライセンス取ろうってんだろ?と睨みつける。

話を聞くと、島村は竜馬と二人で、競輪などに最近凝っているらしい。

「キキ」でそんな竜馬と出会ったサキ子は「青ぶくの歌」が出来たと報告する。

その頃、天童の屋敷を訪れていた弟天源は、兄夫婦を前に、サキ子と竜馬を結婚させろと提案していた。

紀伊子は、竜馬にガールフレンドなんかいるの?と聞くが、天源はサキ子と言う子で欲も深そうだ。

商売で成功するには、女房が欲が深くなくては…と言いかけ、紀伊子と天童を見比べて黙り込む。

天源が帰ったあと、紀伊子は、自分はマロニエ会を抜けると天童に告げる。

そこに林秘書がやって来て、王と言う青年は、黄一派の策動で、会長のイスを狙っているらしいと天童に知らせる。

黄許昌(菅井一郎)は中華街で王と会っていた。

その家の一室では、先日、王に連れて来られた竜馬がギャンブルをしていた。

いきなり、勝負に負けて全財産をなくした男が、隣のカラスが飼ってある部屋に入ると、その場で拳銃をこめかみに当て自殺してしまうが、王がその部屋の扉の前に立ち微笑むと、みんな何事もなかったように勝負を続ける。

翌朝、サキ子が天童の屋敷に来たので、天童自ら対面し、11時だと言うのに、まだ竜馬は寝ている。弟の方が先に会ったようだが、あなたは竜馬が好きですか?結婚したいですか?と聞くと、サキ子はそんなの前近代的よと言い返す。

下手に恋愛したら、相手にサービスしたくなるじゃないですか。竜馬さんも同じ考えですと言う。

そもそも、竜馬さんは金持ちの息子で、私は青物商の仲買人の娘、立場が違い過ぎます。

会社を二人で作って、竜馬さんが社長、私が専務になったら、同じ立場になりますなどとサキ子は言う。

ようやく竜馬が目覚めたようなので、部屋に行ったサキ子が、私、今日は注意しに来たの。競輪や博打にうつつを抜かしているって?と詰問すると、竜馬はクレームで儲けたんだと平然と答える。

バナナを輸入する時、一部にどうしてもいたんだものが出る。その損害補償の代わりに、現物で支払っているんだと言うので、それは誰に聞いたのかとサキ子が聞くと、先日、公園であった男から。その後、黄さんって人に会ったと言う。

それを聞いたサキ子は、文句言ってやる!といきり立つが、竜馬はあわてて、今日6時から発表会じゃないか?とサキ子のリサイタルのことを言う。

下の階で、天童が空手のまねごとを始めると、それを観たサキ子は、竜チン、空手で殴ってやってよ、永島のこと。「キキ」のマスターに聞いたんだけど、叔母さまのことをのろけていたらしいわよと言う。

竜馬が天童にママは?と聞くと、今出かけており、お客様を連れて来るそうだと聞く。

サキ子は、王に会いに行くと、竜馬を変な遊びに誘ってくれるなと文句を言うが、王は薄ら笑いを浮かべながら、竜馬に勤労意欲なんてあるかね?あの父親や母親はどうだ?
と言っているだけのナマケモノだ。

日本には至る所に食い物屋があり、世界で一番繁盛している植民地だ。

旨いものを食いたいなんて言うのは年寄りの考えだ。

新しい中国が新しい国に生まれ変わろうとしている時に、竜馬は何をしている?とバカにしたように王は問いかける。

紀伊子は、歌手にうつつを抜かし、一家てんやわんやじゃないかと言うのだ。

その紀伊子が待ち合わせていた永島栄二と路上で会ったとき、後をつけていた竜馬が声をかけたので、紀伊子は驚いて逃げ出してしまう。

近くに茶店に永島を誘った竜馬は、ママとあんたの関係を教えてくれと迫るが、永島はとぼけて何も答えようとしない。

竜馬は、大げさな空手のポーズを始めると、テーブルをその場でまっぷたつに割ってみせる。

さすがに驚いた永島は、パトロンが欲しかったので、箱根の宿で誘っただけだと告白し出す。

展望台で紀伊子に会った永島は、こういう状況の時、パリでは男女がどうするか教えましょうか?などと甘い言葉をかけながら、紀伊子の手を触るが、その途端、何をなさるんです!と怒った紀伊子は、すぐさま階段を降りて帰ってしまったと言う。

その頃、紀伊子は自宅に戻って来ていた。

すると、テーブルに食事用の皿やナイフフォークが出してあり、台所を覗いてみると、天童がいつものように料理一人で造っているではないか。

紀伊子に気づいた天童は、お客様は?と聞き、誰も来ないことを知ると、作り立ての料理を妻に勧める。

紀伊子は、それを口にした途端、おいしいわ〜…とため息をつく。

今日のお客様は誰だかご存知だったんですか?と聞く紀伊子に、あんたのお客様は私のお客様だ。私は安心していた。あんたがうちに連れて来ると言うことは秘密をなくすることだからだ。

それを聞いた紀伊子は、空想家だったのね…と我がことにため息をつく。

私のサンドイッチと同じことだと言いながら、天童は「デスポワール」でホステスにやるように、紀伊子の手を優しく自分の両手で挟んでやる。

女の子とこんな風に遊んでいられると言うことは、うちが幸せだからさと天童はつぶやく。

紀伊子は夫の思いやりのある言葉を聞いているうちに自らの身を反省する。

そんな紀伊子に、天童は、今度、吉林省の熊の手を取り寄せて食べよう。ただし、右手だけだと言いながら、冬眠中、熊は左手でお尻を触るジェスチャーをしてみせ、左手汚いと冗談を言って紀伊子を笑わせるのだった。

その時、女中が、表に見慣れぬ人が立ていると知らせに来る。

玄関に出てみた天童に、刑事らしき二人組の男は、息子さんに逮捕状が出ていますと告げる。

その後、竜馬は黄の所に来て、クレームは違法だったそうじゃないか!外国貿易管理法違反に引っかかった!と詰め寄る。

黄は、銃で王を脅すと部屋から追い出そうとする。

王はサキ子さんいるんですよと竜馬に教え出て行くが、別室で黄と再会したときは、高飛び用の金を受け取り互いに笑い合う。

先ほどの竜馬の前での諍いは、みんななれ合いの芝居だったのだ。

その頃、サキ子の方は、双葉ホールでリサイタルを行う直前だった。

サキ子はなかなか来てくれない竜馬のことを心配していたが、竜馬は、王の屋敷の中でサキ子を探しまわっていた。

そして、子分から教えられた部屋に入ると、そこはカラスが飼ってある不気味な部屋で、竜馬はそこに閉じ込められてしまう。

サキ子は仕方なく、ステージに出ると、自作の「青ぶくの歌」半ば投げやりに歌い始める。

バナナは黄なることよけれ〜♩

客席には、父、島村が連れて来た団体客や「キキ」の仲間達、隣の母子も来ていたが、「青ぶくの歌」は、青物商の父の仲間には大受けだった。

歌い終わった後、ふてくされてステージ脇に戻って来たサキ子に、マネージャーがアンコールだよと止める。

サキ子は又、ふてくされたようにステージに戻ると頭を下げるのだった。

そんなサキ子は、島村の仲間達が作ったバナナのレイを首にかけられる始末。

一方、部屋に閉じ込められていた竜馬は、得意の空手でドアを突き破ると、かかって来る黄の子分達と戦い始める。

最後には、黄を捕まえ締め上がると、王と言う奴は悪い奴だと、既に逃げた王に罪をなすり付けようとする。

そこに、警官隊が乗り込んで来る。

その頃呉の家では、紀伊子が天童に、あなたが華僑総社の会長なんかになるから、中国人から利用されて竜馬がバナナなんてやるのよと嘆いていた。

天童も、今回の騒ぎには考えることがあったのか、今に、この日本も大変なことになる。自分は今後も、個人の和平を守っていきたいと紀伊子に告げる。

そこに謝りに来たとやって来たサキ子が、オヤジが大切なことを竜馬に教えていなかったと詫びる。

そして、おじさま、私、恋愛しちゃったのかしら?眠れなくなったの。竜馬さんのためなら赤字になってもどうなっても良いのよと告白し、帰って行く。

天童は着替えをすると、どちらへ?と聞く紀伊子には応えず、そのまま黙って屋敷を出ると、先に歩いていたサキ子に追いつく。

不思議がるサキ子に、これから警視庁に行って、竜馬と交代してやろうと思う。あいつより私の方が耐久力があるからと天童は言う。

それを聞いたサキ子は、私、感激したわ!英雄的な人ねと喜ぶ。

しかし、天童は、気が弱い父親さ。牢屋に入れられたら、差し入れをしてくれ。今日は天丼、明日は…とメニューを注文する。

二人は、東京タワーが見える坂道を一緒に降りて行く。