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アツカマ氏とオヤカマ氏

「アッちゃん」や「ベビー・ギャング」で知られる岡部冬彦の二本の漫画「アツカマ氏」と「オヤカマ氏」を原作に、二人のキャラクターを共演させたコメディ映画。

ちなみに、主演の小林桂樹は、同じ原作者の実写映画版「アッちゃんのベビーギャング」(1961)と「ベビーギャングとお姐ちゃん」(1961)にも主演している。

さらに、この作品には、上田みゆき(ニッポン放送)と言うキャストロールが出てくる。

上原謙の末っ子のポッ子を演じている小学生の女の子がそれで、今や、ささきいさお夫人である、声優の上田みゆきさんその人である。

前年、ニッポン放送の開局と同時に始まった「ポッポちゃん」と言う放送劇の主人公を演じて人気を得ていた、子役時代の上田さんのキャラクターから来ているらしい。

つまり、この作品には、三つの作品のキャラクターが共演していると言う訳だ。

古い時代の漫画の映画化は、今観ると、さすがに笑いの感覚が古びており、別に大して面白くないものも少なくないのだが、この作品は実に面白く出来ている。

今観ても笑える箇所が多数あるのだ。

これは、脚本が良くできていると言うことだろう。

特に、冒頭部分のアツカマ氏こと渥美の、畳み掛けるような図々しさの連続は本当におかしく、あの天下の二枚目として知られていた上原謙までもが、ずっこける芝居をしてみせたりする。

さらに、ゲスト出演で登場する森繁のちょっとした演芸も面白く、小林桂樹と並ぶと、正に「社長シリーズ」の雰囲気そのものである。

何より、バイタリティ溢れる小林桂樹のキャラクターは実に愉快で、かつ魅力的である。

この後シリーズ化しなかったのが不思議なくらいである。

ひょっとすると、小林桂樹のこのキャラクターは、後年の「社長シリーズ」の秘書役に受け継がれているのかもしれない。

上原謙、小林桂樹、森繁久彌…と、何やら東宝作品と勘違いしそうな雰囲気もあるが、この作品は新東宝作品であり、三原葉子、江見俊太郎、細川俊夫、久保菜穂子と言った新東宝でお馴染みの顔ぶれもそろっている。

細川俊夫が演ずる、実に悲観的で何事にも消極的なダメ男と言うキャラクターも珍しい。

それにしても、劇中、ポッ子が言う「水爆ロール」という髪型のネーミングも凄い。

この当時、いかに「原水爆」が日常の話題になっていたかの証しだろう。

「ALWAYS 三丁目の夕日」と同じく、はじめて家にテレビがやってくるエピソードが巧く後半に繋がっており、さらに、当時のテレビが12万もしたことも分かる。

今から半世紀以上も昔の12万である。

課長である大宅ですら、この時代には簡単には買えない超贅沢品だったと言うことだ。

上原謙は、戦前は類型的な二枚目だったが、この時代の新東宝作品では、割り切って色んな娯楽作品に出ていたのか、やや固く見えるその容貌を、逆に巧く利用してキャラクターの幅を広げているように思える。

コメディを演じている上原謙を観るだけでも、一見の価値はあるだろう。

 

 

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1955年、新東宝、岡部冬彦原作、笠原良三脚本、千葉泰樹監督作品。

渥美謙太郎(小林桂樹)は、朝から口笛を吹きながら出社すると、会社の前に新車のスクーターが並んでいる「富士スクーター」の本社ビルに入って行く。

女子社員を呼び止めた渥美は、営業部はどこかと聞き、その女子社員と一緒に部屋に入ると、給仕のキンちゃん(井上大助)に部長は?と聞く。

今、支店長室に行っているとキンちゃんが答えると、そそくさと部長室に入り、かかってきた電話の相手をし出す。

電話をかけていたのは課長の長女ヤヤ子(久保菜穂子)だった。

そこに戻って来た課長の大宅鎌太郎(上原謙)は、自分の机で、見知らぬ男が勝手に電話をしている姿を観て唖然とする。

名前を名乗った渥美から受話器を受け取り、電話を代わった大宅は、娘から今夜の夕食は何が良いかと聞かれたので、そんなことでいちいち会社に電話して込んで良いと言いながらも、カレーで福神漬けをたっぷりと注文する。

電話を終え、渥美の素性を問いただした大宅は、三鷹工場から転勤してきたと聞くと、総務部長から聞いているとようやく納得し、向うでは何が得意だったのかと聞く。

渥美は、都市対抗で活躍した野球部の人間だと、見当違いの返答をする。

大宅は呆れ、セールスマンなど出来るか?と心配し、そもそも今日遅刻したのはどういう訳だと説教を始める。

すると渥美は、今日は転勤休暇の日であり、私が挨拶に来たのは言わばサービスですと反論し、大宅が言うセールスマンとしての心得は、要約すれば「押し、粘り、ファイト」ですねとすぐに飲み込んでしまう。

その二人のやり取りを聞いていた先ほどの女子社員向井さが子(三原葉子)は、あの人はアツカマ氏ねと得意のあだ名を早速披露したので、他の女子社員たちも愉快がり、課長はオヤカマ氏だし、冴えない先輩社員の浦賀兼彦(細川俊夫)はウラガナ氏、いつも髪を撫で付けている半田三郎(江見俊太郎)はハンサム氏と、これまで向井がつけたあだ名を再確認するのだった。

大宅課長は渥美を伴い、支店長室に挨拶に行く。

支店長(森繁久彌)は、部屋の中でゴルフのパッドの練習中だったが、その姿を観た渥美は、グリップの握りはもっと柔らかくなどと、初対面の上司にアドバイスをし出す。

その新人もゴルフをやっていることを知った支店長は興味を持ち、ここで一勝負してみんかね?と誘う。

すると、渥美も動ぜず、一発1000円でいかがでしょう?と賭けを申し出る。

しかし、先に打った渥美の球はホールを外れ、支店長のはじいた弾がホールに入ったので、支店長は1000円要求するが、渥美は、今、大きいのも細かいのも持ち合わせがないので、給料から差し引いといて下さいと、名刺を借用書代わりに支店長に渡し、恐縮して謝罪しながら帰る大宅と共に部屋を出る。

営業部に戻る途中、トイレから出てきた浦賀と出くわした大宅は、君はトイレットがいつも近いねと小言を言いながらも、今後は先輩として渥美の面倒を観てやってくれと頼む。

その後、浦賀と共に外回りに出た渥美だったが、浦賀はいつも行く相手はどこも頑固で、スクーターなんか買ってくれないんだと最初から泣き言を言う。

その言葉通り、最初にやって来た荒物屋の主人は、顔からして怖そうで、全く浦賀のセールスを聞こうとしない。

次に訪れた夫婦でやっている簾屋では、女房が元競輪選手だったとかで、いくら浦賀が、スクーターの優位性を説明しても、自転車の方が良いと譲らない。

最後に向かった桶屋の番頭も、うちにはもうスクーターは3台もあるので、一台あんたに売りたいくらいだと浦賀に言い返す始末。

確かにこれでは一台も売れるはずがなかった。

渥美は、気分直しも兼ね、昼飯でも一緒にどうです?と勧めるが、いつもは会社で弁当を食うことにしているんだが…と困った表情だった浦賀だったが、じゃあ、いつもおかずだけ頼んでいると言う「銀平」と言う定食屋に案内する。

そこの娘の茂子(遠山幸子)は、浦賀の来店を珍しがるが、渥美は茂子の名前をすぐに聞くと、その後、店に顔を出したおやじ(小倉繁)に娘を褒め出す。

呆れながらも機嫌を良くしたおやじに、渥美はスクーターを買わないかとセールスを始めたので、オヤジはうちには乗り手がない。わしは年寄りだし、茂子は踊りの稽古があるので出来ないと断る。

渥美は、それじゃあ乗り手はその内探しますよと返事をするが、そこに半田三郎が定食を食べにくる。

渥美は、君のそのポマードの匂いは良くない。せっかくのハンサムが台無しだと言い出し、スーツのポケットから取り出した200円のポマードを100円で売ると言い出す。

もともとパチンコの景品でもらったものだから原価はただなんだけど、100円はここのメシ代で良いなどと言う。

そんな渥美の目の前に置かれた焼き魚は、隣に置かれた浦賀の焼き魚の半分にも満たなかったので、露骨な差をつけられたことにがっかりする。

どうやら、茂子は浦賀に気があるようだった。

翌日、初出勤日、渥美は、会社の見本用スクーターに乗り、自分の住む町に営業に出かけていた。

出社してきた大宅課長は、見本がなくなっているので、キンちゃんに聞くと、アツカマさんが持っていったと言うではないか。

アツカマさんとは誰のことかと聞くと、向井さんが渥美さんにつけたあだ名だと言う。

その時はじめて、大宅は自分がオヤカマ氏とあだ名されていることまで聞かされ、不機嫌になる。

最初に、酒屋に乗り付けた渥美は、自転車で配達の準備をしていた酒屋のバッグを自分が背負うと、自分が配達をするから、主人(築地博)には後ろに乗って乗り心地を観てくれと頼む。

配達を終えた渥美は、次にラジオ屋に来ると店主(柳谷寛)に同じように誘うが、今度は乗って来なかったので、店主がその後、町内対抗の野球の監督として試合をしている所に近づくと、自分を代打にしないかと声をかける。

まだ自分につきまとっていることに驚いた店主だったが、バッターボックスに入っている豆腐屋は全く打てそうになかったし、渥美が、自分もこの町内の端に住んでいる住民だし、ノンプロ「富士スクーター」の3番を打っていたと聞くと、迷わず代打に起用する。

すると、3塁打を渥美が放ったので、喜んだラジオ店主は、うちのテレビを一台売ってくれたらスクーターを買っても良いと約束してくれる。

その後、今度は肉屋のご用聞き(小高まさる)を乗せて住宅地を回っていた渥美だったが、肉屋が降りた家の表札に「大宅鎌太郎」と書いてあったので、すぐに課長の家だと気づいた渥美は、図々しくも肉屋から肉を受け取っていた家内の静(花井蘭子)に、ヤヤ子さんですか?と声をかける。

静は戸惑い、自分はヤヤ子の母ですが?と答えると、お若いですねと渥美はすかさずお世辞を言って、相手を喜ばせる。

気を良くした静は、ヤヤ子を呼ぶと渥美を紹介するが、ヤヤ子は見知らぬ相手だったので戸惑う。

渥美は、昨日、部長の電話を受け継いだもので、今日は、この近くを仕事で回っていたので、ご挨拶に来ました。今度から部長の下で働く事になった者ですとちゃっかり自己紹介する。

すっかり渥美のペースに丸め込まれた静とヤヤ子は、渥美を家にあげる。

渥美は勝手口から遠慮なく上がり込むと、古い家を褒めるつもりで、つい長押(なげし)を壊してしまう。

ヤヤ子がコーヒーを出してくると、今夜はさっきのお肉でカレーですか?と渥美が言うので、静は驚いてしまう。

自分もカレーは大好物ですなどと遠慮のないことを言い出しす始末。

夕方、帰宅した大宅は、末っ子のポッ子がいないので静に聞くと、隣にテレビを観に行っていると言う。

ヤヤ子は?と聞くと、今カレーの準備をしていると言うが、お邪魔していますと声をかけて来たのは、エプロン姿になった渥美だったので、大宅は又しても仰天してしまう。

君は見本のスクーターはどうしたのか?と聞くと、今、裏庭に置いてあると言うので、けしからんと憤慨しながらも、ヤヤ子に風呂は沸いているか?と聞く大宅だったが、「先に頂きました」と渥美が答えたので、思わず服を脱ぎながらずっこけそうになる。

夕食の席に着いた渥美に、静がビールを勧めたので、今夜は彼と二人で一本かね?と心配する大宅に、今夜は、静とヤヤ子も一緒に飲みますからと、3本もビール瓶を持ってきたので、又してもけしからんと大宅は憤慨する。

そこに、隣に行っていたポッ子(上田みゆき)が帰って来て、テレビを買って欲しいとねだり出す。

あんなものは教育上良くないと大宅が反対すると、娯楽番組だけじゃなくて、良い番組もあるわよとヤヤ子が言い出す。

文化的な生活を送るのは憲法でも保障された義務ですから…と、渥美が怪しげな解説をし出すと、静は、私もたまには芝居くらい観に連れて行って欲しい言い出すし、ヤヤ子はバレーくらい観に行きたいと言い、ポッ子までもが、私もプロレスくらい観に行きたいと言い出す。

そうした会話を聞いていた渥美が、ある時払いの催促なし、10年月賦でテレビが買えるんですがどうです?と言い出したので、大宅もそれは悪くないなと言い出す。

次の日曜日、床屋に出かけた大宅は、店主(山田長政)に、店に置かれているテレビはいくらした?と聞き、去年の暮に買ったときで12万でしたと聞くと、自分には10年払いの月賦の話があるんだよと得意げに打ち明ける。

家に戻ってみた大宅は、玄関前にスクーターが置いてあるし、自宅の屋根の上には渥美が上っていたので驚く。

何をしているのか?と聞くと、ラジオ屋のアンテナ立てを手伝っているのだと渥美は答え、そのスクーターも、ラジオ屋が乗ってきたものだと言う。

そのラジオ屋が屋根の上から、そのスクーターは良いねと褒め出したので、大宅もそれ以上怒る訳にも行かず、自社スクーターを褒めるしかなかった。

そこに、ポッ子ちゃんがカールを巻いた変な髪型をしてやって来たので、何ですか?その髪は!と大宅が叱ると、これは「水爆ロール」って言うのよとポッ子ちゃんは平然と答える。

降りて来た渥美は、大宅に「13,8000円」の自社伝票を渡し、テレビ代はスクーター代との交換ですからと説明する。

その後、テレビでは金馬の落語をやっていたので、渥美も交えて楽しげに大宅も鑑賞していたが、ふと家族の目線を感じると、つまらんことやっとる!と急にばつが悪くなったのか憤慨し、立ち去って行く。

渥美は、買い物に行くヤヤ子と連れ立って帰ることにするが、今日もこれから仕事に行かなければいけない。セールスマンは、相手の都合次第で日曜日も関係ないと嘆き、ヤヤ子さんはいつ頃結婚なさるんですか?と聞く。

ヤヤ子は、したいけど、パパがあんなやかまし屋でしょう?と不満を述べると、渥美は、僕はあなたのお父さんのような人を尊敬します。パパと呼んでみたいと思いますなどと、遠回しのプロポーズのようなことを平然と言う。

その頃、家で盆栽をいじっていた大宅は、帰りの遅いヤヤ子を心配し、あいつは油断ならんとつぶやくが、それを聞いていた静は、あなたの若い頃にそっくりよと笑う。

ある日会社では、販売突撃月間と名付けられた期間の売上成績がグラフで発表される。

それを見た社員たちは皆驚く。

渥美だけが、飛び抜けて成績が良かったからだ。

半田などはうらやましがり、売る秘訣を聞くが、すると渥美は、店の主人がいないときを狙うんだと話し出す。

すると、40がらみの奥さんが出てくるから、お嬢様ですか?と聞くんですよとお世辞の言い方を伝授する。

しかし、それを聞いていた浦賀は、それはダメだ。僕も同じことをやったことがあって、お母様はおられますか?と聞いたら、本当のばあさんを連れてきたと失敗例を披露する。

そんないつも悲観的な浦賀は、大宅課長から呼ばれ、伝票と報告書の数字が全く違うじゃないかと叱られる。

そこへ、キンちゃんが、月給袋を配達に来る。

大宅は、キンちゃんに、自分の着古したスーツをプレゼントする。

ちょうど昼休みになったので、「銀平」の茂子が浦賀に、弁当用のおかずを出前で持ってくる。

一緒に伝票を渡し、来月でも良いわよと言うのを聞いていた渥美も、自分の付けも来月に回してくれと頼むが、それじゃあ、商売にならないと言われてしまう。

さっそくスーツ姿に着替えた給仕の金助は、驚くみんなをかいくぐり、部長室に入ると、支店長が呼んでいると伝える。

支店長は、電話を通じて謡の練習中だったが、大宅がやってくると、今月の帳簿はどうなっとる?うちの売上は大阪や福岡より低い。そもそも君の部下の指導がなっていない。叱るだけではダメだ。来月の販売の具体案を出したまえ!と叱りつける。

会社の屋上では、向井さが子ら女子社員がコーラスを楽しんでいたが、そこにやって来た半田は向井を呼ぶと、今度一緒に音楽会へ行かないかと誘う。

ところがさが子は、半田が櫛で撫で付けていた髪を観ながら、そのポマードの匂いを嗅ぐと胸がムカムカすると言い出す。

そこにやって来たのが渥美で、さが子の手を引いて屋上の物陰に連れて行くと、あの匂いから助けてやったなどと言い、実はレディにプレゼントしたいんだけど、何が良いのか教えて欲しいと頼む。

お菓子とお茶を交換条件に引き受けたさが子は、銀座でアクセサリーを渥美と一緒に買うのに付き合うが、たまたまその店にやって来たヤヤ子は、仲良くしゃべっているさが子と渥美を観て勘違いし、怒って帰って行く。

その後、自宅までプレゼントを持ってきた渥美だったが、不在だと知り、戻って来る途中で、駅から降り立ったヤヤ子と出会う。

喜んだ渥美はプレゼントを渡そうとするが、ヤヤ子は、勤務中にさぼっている部下は首にするとパパが言ってたわと睨みつけて帰って行く。

その日、大宅部長と浦賀は、二人だけ残業していた。

大宅は、支店長から言われた販売方針案をまとめあげ帰りかけるが、浦賀の方は、伝票と報告書の数字あわせに手間取っているようだったので、今日は一緒に飲まないかと誘うが、浦賀はまだ残ってやると誘いを断る。

一人で帰る大宅は、給料日と言うこともあり、「銀平」に立ち寄ろうとするが、店の中から、自分の悪口を言っている半田ら部下たちの声が聞こえて来たので、入口で立ち止まってしまう。

大宅のことを「ドラルドダック」などとバカにしているので、怒りたかった大宅だったが、そこはこらえて別の店に行くことにする。

そんな大宅が、「モナリザ」と言うバーに入るのを通りかかりに観かけたのが渥美だった。

大宅は、今、自分は孤独なんだと言う愚痴を聞いてくれた店のママ梨子(相馬千恵子)から優しく慰められる。

支店長は僕を無能扱いし、部下たちからはバカにされるが、ママさんの所へ来て僕は掬われたような気がすると弱音を吐きながら、もう一本お銚子を頼むと、ママは大宅の手に優しく手を重ねて席を離れて行く。

そこにやって来たのが渥美で、さっきからスタンドで飲みながら話は聞かせてもらった。この店のことは、ご家族にも内緒にしますから、口止め料はここの飲み代で…と言い、自分もハイボールを追加注文する。

自宅に帰った大宅は、静に給料袋を渡しながら、今月からスクーター代として2000円ずつ引かれるよと申し渡すが、静は、私にも蓄えがありますから大丈夫ですと答える。

その言葉に感心した大宅氏だったが、よく考えると、妻のへそくりは全部、自分の給料から出たものだと気づき憮然とする。

上着を脱ぎかけた大宅は、ポケットの中から見覚えのない小箱が出てきたので不思議に思って観ると、ヤヤ子様へと書いてあった。

「モナリザ」で大宅に近づいてきた時こっそり渥美が入れたものだったことに気づいたので、わしが叩き返してやる。ああ言う厚かましい奴は大嫌いだ!と息巻くが、プレゼントの送り主は私なんだからと言いながら、ヤヤ子はその小箱を自室に持って行ってしまうし、静は、あの人の仕事熱心な所なんか、あなたに似ているわ。私の父も、あなたと結婚する時、あんな厚かましい奴は大嫌いだと言ってたわとからかう。

上着をタンスにしまいかけていた静は、ポケットから落ちた「酒場 モナリザ」と書かれたマッチの箱を発見する。

自室に戻ったヤヤ子は、プレゼントの小箱を開けてみると、洒落たブローチが入っていたので喜ぶ。

翌朝、大宅は部下たちを集めて、先月は、大阪にも福岡にも成績で負けたので、今後はもっと厳しくやるので、諸君らもセールスの鬼になってやるんだ!と檄を飛ばしていたが、そこに遅れて渥美が出社してくる。

大宅は3分遅刻だ!と怒鳴りつけるが、渥美は、今がちょうど出社時刻で、課長の時計は3分進んでいますと反論する。

大宅は、愛用の懐中時計をバカにされたと思い怒るが、渥美は毎日3分進んでいる。一度修理に出した方が良いですよと平然としているだけであった。

挨拶の腰を折られてしまった大宅は、不機嫌ながらも仕事を始めることにし、すぐに浦賀を呼びつけると、最近に君の成績はどうしたんだ?最古参なんだから、後3台は売ってくれんと…と叱責する。

がっくりして席に戻って来た浦賀は、今度は君だと、隣の席の渥美に声をかける。

渥美は、何で僕が?と不思議がりながらも部長室に入るが、大宅は、夕べは何であんなものをポケットに入れた!とプレゼントのことを言い出したので、渥美は大宅のタバコに火を付けるために「モナリザ」のマッチを取り出すと、それをわざとらしくちらつかせる。

それに気づいた大宅は、もうそれ以上小言を言うことが出来なくなり、まあ君は成績は良いから…などと、意味不明な発言をするだけだった。

その日の退社後、銀平で浦賀と一緒に飲むことにした渥美だったが、僕なんか黄昏れている人間なんだと自嘲する浦賀の愚痴の相手をさせられるはめになる。

おまけに、浦賀はすぐに泥酔してしまい、支えて浦賀の自宅まで送り届けるしかなくなる。

はっきり自宅の住所を言わない浦賀に困らされながらも、何とか、自宅らしき家にたどり着くと、そこには浦賀の母親らしき老婆が外に出てきて、兼彦!と呼びかける。

浦賀を布団に寝かせると、浦賀の母の民子(小峰千代子)は、最近息子は、会社を首になるのではないかと苦にしていて、すぐに酔うようになったのですが、老いた私にはこの子だけが頼りなんですと、又愚痴を聞かされることになる。

民子にお冷やを一杯汲んで来てもらう間、渥美は、寝ている浦賀に向かい、ウラさん、親孝行しろよとつぶやくのだった。

翌日、一人で、浦賀の馴染み客である荒物屋、暖簾屋、桶屋に向かった渥美は、得意のおべんちゃらで相手のハートを掴み、三件ともスクーターを買わせることに成功する。

それを知らずに、その日もセールスに訪れた浦賀は、三件とも、すでに渥美が取ってしまったと知ると愕然とする。

会社では、戻って来た渥美が、今日自分が売った三台は、浦賀さんの手柄と言うことにしておいてくれと向井さが子に頼んでいた。

そこに戻って来た浦賀は、渥美に屋上まで来てくれと声をかける。

何事かと後を追って屋上に登ってきた渥美を、浦賀は、人の相手を取りやがって!と言いながら、買ってきたすりこぎで殴りつける。

心配して後を付いてきたさが子は、浦賀を止めると、渥美さんは、自分の手柄をあなたのものにしてくれと頼んでいたのよ。あなたは恩知らずよととがめる。

それを聞いた浦賀は、呆然として、すりこぎをその場に取り落とすと、しょんぼり帰るのだった。

その浦賀とすれ違いに会社にやって来たのがヤヤ子だったが、階段から、額の傷の手当をしなければと寄り添って降りて来たさが子と渥美の二人を観かけてしまう。

又しても勘違いしたヤヤ子は、胸につけていたブローチを外すと、父親の大宅の部屋にやって来て、これを返して頂戴。お小遣いをもらうつもりで来たけれど、もう良いわと言って帰ってしまう。

そんな大宅は、又、支店長から呼び出される。

支店長は部屋でマンボを踊っていたが、大宅が来ると、社長命令で、今後、成績不良の社員は辞めさせることにした。候補者を考えときなさいと言い渡す。

それを聞いた大宅は愕然とし、そんな役目はお断りです。うちの部下に成績不良な社員などいません。支店長も、もっと親心を分かった方が良いですと、猛烈に反論してしまう。

それを聞いた支店長は、重役である私に逆らうと言うことは、君にも覚悟はあるのでしょうね?今月の成績次第では、君にも辞任してもらいましょうと冷たく告げるのだった。

大宅は、はっと、自分が言ってしまったことの重大さに気づくが、もう遅かった。

うなだれて支店長室を出た大宅は、額に包帯を巻いた渥美と出会ったのでどうしたのか?と聞くが、渥美が壁にぶつかっただけだと答えたので、これで包帯を止めときなさいと言いながら、先ほどヤヤ子が置いて行ったブローチを返す。

退社後、寂しげに缶を蹴りながら会社から外に出た大宅。

浦賀も、「銀平」でしょんぼり飲んでいたが、茂子が優しく、あまり飲まないでねと言葉をかける。

又「モナリザ」に来た大宅は、ママから、あなたは善良なのよと慰められていた。

そして、ママは、私と一晩付き合って下さらない?と言い出し、今度の土曜日の晩、お芝居見物に行かないかと誘ってくる。

大宅は大丈夫だと承知する。

土曜日の夜、約束通り、大宅は「モナリザ」のママと二人で、歌舞伎の「忠臣蔵」を観に行っていた。

切腹の姿になり「良之助はまだか?」と大星力弥(美丹洋子)に問いかける塩谷判官(澤村昌之助)の姿に、観ていた大宅は思わず我が身に重ね泣き出してしまう。

その歌舞伎はテレビ中継されており、家では、静、ヤヤ子、ポッ子らが同時刻に観ていたが、大星由良之助(関三十郎)が花道を進むシーンが写った時、突然、ポッ子が、「あ!パパだ!」とブラウン管を指し示す。

静とヤヤ子は、確かに、見知らぬ女と寄り添って席に着いている大宅の姿をはっきり確認してしまう。

そんなこととも知らず、いつも通り帰宅してきた大宅だったが、静が今日はどこに行ってらっしゃったの?と聞くので、取引先のご招待で…と言い訳をしかけた大宅だったが、ヤヤ子が、テレビで観たんですからねと歌舞伎中継で大宅を観たことを打ち明ける。

あの女は誰です?「モナリザ」の女ですか?と静が鋭く斬り込んで来たので、大宅は半分観念し、勘違いするな、あの人は単なる話し相手に過ぎない。自分は今それどころではなくて、会社を辞めさせられるかもしれず、大変な状態なのだが、そうした仕事のことを家に持ち込みたくなかったから、外でちょっと発散していただけだと説明する。

すると、静は突然、私、あなたと別れさせていただきます。ヤヤ子は大人ですからともかく、ポッ子は私が連れて行きますと言い出す。

何を突然言い出すんだと狼狽する大宅だったが、そんな大変な状況になっているのなら、何故私に打ち明けて下さらなかったのです?と言う静の言葉を聞き、その場に土下座すると、私が悪かった。お前たちに心配させたくなかったから…。はじめて頭を下げます。勘弁してくれと謝罪する。

すると、泣いていた静も、もう忘れましょうと許してくれた。

大宅が、例え、僕が会社を辞めることになっても付いて来てくれるかい?と聞くと、静は、例えル○ペンになっても辛抱しますと答えたので、感激した大宅は、ありがとうと感謝して泣き出すのだった。

そうした夫婦の会話を寝室でこっそり聞いていたポッ子は、私たち、ル○ペンになるの?と聞き、ヤヤ子に「しっ!」と口止めされる。

翌日、渥美の住む牛町の富士見荘を訪ねて行ったヤヤ子は、部屋の中から、謝る浦賀の声が聞こえてきたので、ノックをためらう。

浦賀は、スリコギ棒でも、バットでも良いから、僕の頭を殴ってくれと、先日の誤解を詫びていたが、これを機会に会社を辞めることにしたと言い出したので、聞いていた渥美は驚く。

課長宛に、もう辞表を郵送したし、次の就職先も見つけてきたと言う。

渥美は早まったことを…と惜しむが、帰りかけた浦賀は、記念にこれを取っておいてくれと言い、スリコギを置いて行く。

ドアを開ける気配がしたので、その陰に隠れたヤヤ子は、浦賀が不思議そうに、その方隊を止めているのは何だい?と聞き、これはガラクタで、言わば廃物利用ですと言う渥美の言葉も聞いてしまう。

浦賀が階段を降り帰ったのを確認したヤヤ子は、ようやく渥美の部屋をノックする。

ヤヤ子は、そのガラクタを取り戻しに来たのではなく、パパのことでご相談しに来たんです。支店長さんと大げんかしたんだってと打ち明ける。

翌朝、早めに出社した渥美は、同僚たちを前に、昨日ヤヤ子から聞いたことを打ち明けていた。

向井さが子も、あんな良い課長を辞めさせるわけにはいかないと同調し、同僚たちも次々と、大宅課長の良い所を思い出して行く。

半田まで、本当は世話好きな良い人なのかもしれないと言い出す。

渥美が、僕たちが成績を上げて支店長をぎゃふんと言わすしかないと檄を飛ばしていると、20年振りに遅刻してしまったと言いながら大宅が出社してくる。

部屋に入り、机を観た大宅は、そこに郵送で届いていた浦賀の辞表が置いてあったので、中を確認して苦い顔になる。

それからと言うもの、営業課の頑張りは、成績グラフにも現れ、全員の棒グラフが伸び、渥美の棒グラフなどは、天上に突き当たり、ウの字に折れ曲がってまで伸び続ける。

かくして、営業課の成績は抜群の伸びを示し、社長は大喜び、支店長も頭を下がることになり、営業部では大宅を囲んでパささやかなパーティを開くことになる。

さが子が代表して進み出ると、みんなから集めたお金で買ったものですとプレゼントを大宅に渡す。

それを開けてみた大宅は、こんな高いものを…。わしは君たちの給料は全部知っている。これを買うには、一人千円も出さなけりゃいけなかったろう。こんな無駄遣いをわしの為に…と、感激して泣き出す。

それを観ていた部下たちも全員もらい泣きをする。

そこへ、晴れやかな顔になった浦賀が出前の料理を持って入ってくる。

スクーターを今度買うと言う浦賀は、銀平で働くことになったのだ。

それを見て喜んだ大宅は、一緒に飲まんかと浦賀を誘う。

後日、半田はさが子を奥多摩へでも行かないかと、デートをしながら誘っていた。

さが子は、もうポマードを付けなくなった半田を嫌がってはおらず、すぐに承知すると、仲良く歩いて行くのだった。

大宅家では、その日も一家そろってカレーを食べていた。

大宅は、渥美にも食べさせたいな。あの男は見直したよ。お前も婿をもらうなら、ああ言う青年をもらうべきだなどとヤヤ子に言い出す始末。

そこに、噂をすれば影とでも言いたくなるように、当の渥美が上がり込んで来て、福神漬けを土産に差し出すと、式場を5〜6件当たっときましたと言うではないか。

何のことかと唖然とする大宅を前に、ヤヤ子は、嫌だわ、渥美さんったら!と恥ずかしがり、それに対し、ご謙遜でしょうと答えた渥美の厚かましさに、思わず、聞いていた静は吹き出してしまうのだった。