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当りや大将

車にわざとぶつかって、治療費や慰謝料を騙し取る「当たり屋」と言う商売が社会問題になっていた頃の作品である。

この作品をコメディと紹介している文章も見かけるが、いわゆるコメディではないと思う。

あえて言えば、今村昌平監督の「豚と軍艦」(1961)などの「重喜劇」に近い雰囲気かもしれない。

前半は、若さに任せ、自堕落ながらもパワフルに毎日を過ごす大将らの無軌道振りを描いているが、途中から話の調子が変わり、何となく黒澤の「生きる」(1952)を連想するような感動話になる。

しかし、「生きる」が死を自覚した役人自らの決意から始まっているのに対し、こちらでは、薄幸な女の怨念に突き動かされて…と言った、やや唐突と言えば唐突とも感じるが、一見怪談仕立て風になっている。

大将が聞いたおばはんの声は、大将の心の中から聞こえて来た良心の呵責だったのかもしれない。

轟夕起子演ずるホルモン屋台のおばはんは、子供の為に、まさに毎日、お愛想と汗まみれになって働くと言った一生懸命さが良く描かれているし、お初を演じる中原早苗の男勝りのあばずれ振りも見事。

ぎすぎすに痩せた浜村純は人情派の刑事を良く演じており、町を仕切る王様役の山茶花究も相変わらず存在感がある。

町の様子は、一見ロケのように見えるが、そうだとすると、良く撮影が出来たものだと感心する。

セットだとしても、エキストラも含め、白黒作品と言うこともあるのだろうがリアルに見える撮り方をしている。

長門裕之は、何も考えず、ただ欲望だけで生きている無軌道青年を良く演じている。

唯一劇中気になったのは、おばはんが歌う「雪の降る町に〜♩」と言う曲。

明らかに「雪の降るまち」のメロディなので、本来なら「雪の降るまちを〜♩」ではないかと思うのだが、最期に歌う大将の歌まで「雪の降る町に~♩」と言っている。

これは何か意図的なものなのか?

曲はそのまま同じものなので、権利的に配慮したものとは考えにくい。

歌などもきちんと覚えていないおばはん特有のいい加減さを表現しているのかもしれない。

とにもかくにも、久々に見応えがある秀作だと感じた。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1962年、日活、新藤兼人脚本、中平康監督作品。

大阪駅からタクシーを停めた客が「釜ヶ崎」と行き先を告げると、運転手は露骨に嫌がるような声で「え?釜ヶ崎?当たられますで」と答える。

タイトル

電車の高架線脇の広場では、今日も、大将(長門裕之)らが、朝から賭けに明け暮れていた。

今日は、継ぎに来る電車の番号当てをしていたが、そこに「大将!お客さんや!」と仲間が呼びにくる。

喜んで付いて行った大将は、目当てのタクシーが近づいてくると、自ら車の前に飛び出て、追突されたように装うと、大げさに「痛い痛い!」とわめき出す。
仲間たちもその周囲に集まり、タクシーを責め始めるが、後部座席の窓を開けて、下で苦しんでいる大将の姿を観た客は、嬉しそうに笑っていた。

仲間たちは、人を怪我させといて、何笑っているんだと気色ばむが、そこに、パトカーが数台近づいてきたので、形勢不利と悟った大将とその仲間たちはクモの子を散らすように、タクシーの周囲から逃げてしまう。

大将はタクシーの番号覚えとけよと、仲間たちに告げる。

パトカーから降り立った山内刑事(浜村純)は、タクシーの客を観て驚く。

大将は、タクシーは相互タクシーだったと軍曹(杉山俊夫)先任伍長 (玉村駿太郎)上等兵(近江大介)
二等兵(杉山元)ら仲間から報告を聞いていたが、その身体にはどこも怪我した様子はなかった。

彼こそ「当たり屋(自ら車に飛び込み、大げさに騒いで賠償金を譲り取る詐欺)」n名人としてこの辺では知られた存在だったのだ。

その頃、地元警察署の所長室では、新任の署長(嵯峨善兵)が、話には聞いていたが、タクシーの運転手もここの警察は当てにならんと言ってたよなどと、出迎えた次長(宮崎準)に笑いながら話していた。

次長は皮肉を言われていると感じ恐縮すると、この町に長く住み、今では住民たちから「どぶのキリスト」と呼ばれている山内刑事から、釜ヶ崎の状況の説明をさせる。

山内刑事は、この地区には3万5000人も住んでおり、ヤンコと呼ばれるドヤに泊まって暮らしている日雇い労働者が大半を占めていること。

古物商が200軒もあり、ありとあらゆるものがそろっていること。

つまりこの地区は「泥棒市場」であり、市場の入口に立ちん坊と呼ばれる見張りが160人も立っており、とても全員を検挙することなど不可能なこと。

職にあぶれたものは、朝からバクダンを飲んで地面に寝転がるか、451(シゴイチ)と言うサイコロ賭博に明け暮れていること。

質屋も食堂も多数あり、100円もあれば1日食えること。1泊50円の宿が250軒もあること。

パン助は1300人もいることなどを署長に説明する。

その後、逮捕した売春婦を入れた牢の前に来た山内刑事は、「ポリ公のアホ!」と大騒ぎしている女たちに怒鳴りつける。

特に、弁天のお初 (中原早苗)の気の強さは人並み以上で、山内の叱責など、どこ吹く風と言った風情で悪態をつく。

釜ヶ崎の中にある「ホルモン屋台」には、毎晩のように大将らが入り浸って飲んでいた。

屋台のおばはん(轟夕起子)は、いつも明るい声で、ホルモン食べて精を付け、女子はん作りなさいよなどと客たちの相手をしていた。

おばはんには、チビ勝(頭師佳孝)と言う6歳の男の子がおり、女手一つで育てていたのだった。

おばはんは、いつも「雪の降る町に〜♩雪の降る町に~♩」と口癖のように歌っていた。

そこに、釈放されたお初が飲みに来たので、大将は抱いてやろうかとちょっかいを出してくるが、しっかりしたお初は、わしは人間やど!人権蹂躙や!うちを抱きたいのなら2万両持って来い!などと吹きかけ、帰って行く。

大将の家は、高架線の下に無断でこしらえた、いつも電車が通るとがたがた揺れる一人分のバラックだった。

翌朝、寝過ごして10時の貨物で眼を覚ました大将は、向いのバラックに住んでいるおばはんから、眼が腐るでと叱られる。

大将も負けずに、夕べ食ったホルモンは、ゴム草履を食っているみたいで食えたもんじゃなかった。赤犬を仕込んで来てやと頼む。

おばはんは肉屋に仕入れに出かけるが、チビ勝ことおばはんの息子の勝男は、大将と一緒にいると言う。

チビ勝は大将に良くなついており、牛乳をコップについでくれたりする。

牛乳を飲み干した大将は、チビ勝を連れてガラス屋に向かい、ガラスを調達すると、チビ勝に、カメラ屋を狙えと命じる。

チビ勝は、カメラ屋の窓ガラスに石を投げて壊すと一目散に逃げる。

店主が怒って外に出てきたときを見計らって、ガラスを背負った大将が「ガラス修理〜」と通りかかったので、何も知らないカメラ屋の主人は、大将にガラスの修理を依頼する。

そうやって、チビ勝外資で狙った店の窓ガラスを壊し、その近くをさりげなく大将が通ると言う商売は結構成功するが、中には、取りかかった大将に向かい、なかなかええ段取りやなと見透かす相手もいた。

そう言う場合は素通りするのだが、相手もガラスは壊れたままなので、仕方なく大将を呼び止めるしかなかった。

その夜、大将はホルモン屋台で、この金儲けのやり方に感心する仲間たちに、この商売の弱点は。一遍通った町は二度と通れないと冗談まじりに話していた。

しかし、おばはんは、チビ勝の教育に悪いと言い出す。

そこに、どぶのキリストこと山内刑事がやって来て、今度の署長は厳しいので、博打場を潰すし、当たり屋もいかんと言い出す。

しかし、そんな言葉もどこ吹く風かと言った態度の大将や仲間たちの態度を観た山内刑事は、お前ら、性根の底の底まで腐ってるぞと説教する。

その後も、大将は当たり屋を止めなかった。

タクシーに飛び込むと、大げさに全身包帯姿になり、仲間たちと共に客の屋敷まで押し掛け、5万円をせしめる。

2万を大将が取り、2万を仲間たちに与えると、残り1万で道頓堀の食堂に「まむし」を食いに行く。

「いづもや」と言う店の女給は、昼間から酒を飲み騒ぐ大将たちを侮蔑のまなざしで眺め、店員と共に、場違いな客に対峙するが、結局、大将たちが開き直ったため、飲み食い代をただにして、愉快そうに帰ってくる。

大将と仲間たちは、天王寺のお伝(武智豊子)の売春宿に乗り込むと、奥で博打をやっていた女たちに混ざって遊び始める。

大将は、お前の望み通り2万持ってきたから抱かせろとお初に挑み、お初も喜んですぐに承知し二階に上がる。

しかし、お初はまず、ビールでも飲もうと言い出し、一丁やらへん?と博打を誘う。

大将も乗り、その場で花札賭博を始めるが、どんどんお初に金を巻き上げられてしまう。

下で遊んでいた仲間たちも同様で、全員、女に金を巻き上げられ、すっからかんになってしまう。

大将は、借用書書くから、1万貸してくれとお初に泣きつき、その場で借用書を書くと、お初の口紅を親指の腹に付け、拇印を押す。

大将たちは、その1万円を元手に、効果下の広場の博打場に向かい、451を始めるが、すぐに、警察が手入れに来る。

しかし、そこは博打場と言っても、勝負をする木箱があちこちに並んでいるだけなので、山内刑事たちも、その木箱を蹴倒して行くくらいしかなく、警察が帰ると、又、大将たちは木箱を起こして勝負を始める。

それを背後に見送りながら、山内刑事は同行した署長に、ご覧のように、果てしなきイタチごっこですと愚痴る。

大将は、その日はついており、どんどん勝ち続ける。

10万ばかり貯めた時、この辺一帯を仕切る古物商の王様(山茶花究)が、子分に連れられてくると、1対1の勝負をしないかと大将に挑んでくる。

大将は受けて立つことにし、丁半博打を始める。

結果は「丁」と言った大将の勝ち。

しかし王様は諦めず、古物商の店を賭けると言い出す。

すると、2回戦目は、「半」と言った王様の勝ち。

食い下がる大将は、10万円借り、勝負をするが、又しても「半」で負けてしまう。

都合10万の借金を背負ってしまった大将は、バラックの自宅に戻るとふて寝を始める。

すると、チビ勝がやって来て、気落ちしたらあかんで。母ちゃんがいつも言うとると励ますので、ふと、何かに気づいた大将は、起き上がってチビ勝に対峙すると、「お前の母ちゃん、金貯めとるんやないか?」と聞く。

チビ勝は、俺を帝国大学行かす為に貯めとるらしいと言う。

その夜、閉店間際にホルモン屋台に出向いた大将は、おばはん、チビ勝を帝国大学に行かすんやてなと聞き、うちの母親はかつて、擬音で一二を争う美人やったが、堂島の偉い方に惹かれて、俺を生んだ後死んでしもうたんやと打ち明け話をおばはん相手にし始める。

父親は、堂島の金融業をやっているのだとも。

その日は終わり、店を畳むのを手伝って、おばはんと一緒に自宅に帰る道すがら、おばはん、うちの父ちゃんに金預けてみたらどうや?と切り出す。

郵便貯金なんかより、大きな額になると言うのだ。

おばはんは、10年前、自分は家を飛び出し、道頓堀で働いていたが、その時、帝国大学でと言う男に騙されて、お腹は大きくされるし、有り金は残らず持ち逃げされたんやと打ち明ける。

それを聞いた大将は、その偽大学生に対するおばはんの仇やなと調子を合わせると、気持ちを理解してもらえたと思ったのか、自宅から預金通帳を持ち出すと、大将の父親に預けると言う。

何と、預金は18万もあった。

翌日、古着屋で派手なスーツを手に入れた大将は、靴を買い、床屋に行くと、お初に会いに行き、金が出来たから、車でも借りて遠出しようと誘い、この中から、王様に借りた10万の金を返すと言う。

すると、お初は、借金なんて踏み倒すもんと決まっとるやないかと言い、それもそうやなと同意した大将は、オープンカーを借りると、お初に運転させ、神戸に向かう。

高級ホテルのスペシャルルームに泊まった二人は、ベッドインするが、お初は、腕に貼っていた絆創膏を剥がすと、その下には「貸しうりおことわり」と刺青が入っていた。

その夜も、何も知らないおばはんはホルモン屋台でいつものように懸命に働いていた。

贅沢三昧な料理を食い散らかした大将とお初は、翌日は六甲へ向かうことにする。

六甲の山の上に登った大将は、記念に立ち小便することにする。

帰りの車で、大将は、もう残金はびた一文ない!とつぶやいていた。

自宅に帰り着いた大将は、チビ勝からお土産はないのかと聞かれたので、何が欲しいんや?と聞くと、電気機関車屋と言うので、その足で古着屋と靴屋に行き、元のダボシャツ姿に戻ると、服と靴を売った金で電気機関車の模型を買い、チビ勝に持ってきてやる。

近所の子供たちもうらやましがり、その夜、自宅で寝ていた大将は、帰って来たおばはんから声をかけられると、電気機関車のお礼を言われる。

翌日、ホルモン屋台で飲んでいたお初は、神戸でスプリングの利いたベッドにネタなどと自慢話をしていた。

そこに、山内刑事がやって来て、昨日は大将とどこかへしけこんだそうやなとお初をからかう。

お初らが山内刑事を煙たがり一斉に帰ると、大将がいないことに気づいた山内刑事は、お初と神戸まで行ったそうやと噂をおばはんに教える。

山内刑事はしみじみと、あいつらは根は良い奴なんだけど、何か大切なものを失っている。道徳観がないわとつぶやき帰って行く。

そこにふらりと大将が現れたので、おばはんは、気を悪うしたらあかんでと前置きし、わての金、大丈夫やろな?ええスプリングに寝たと聞いたさかい、もしや?と思うたんやと聞く。

すると大将は、悪びれる風もなく、おばはんの金、みんな使うてしもたんやと打ち明ける。

何やて!と気色ばんだおばはんは、奥から出てくると、大将につかみかかり、自ら焼酎を何杯もがぶ飲みし始める。

大将は、おばはん、無茶したらあかへんでと止めるが、あの金はな、7年間、ホルモン炊いて、焼酎に水を混ぜて、血と汗で貯めた金や!もう、帝国大学も絶望や!わての人生真っ暗や…と、おばはんは嘆く。

そして、ふらふらと屋台を出たおばはんは、車が通る道路の方に歩いて行ったので、大将はあわてて追いかけるが、酔ってもうろうとしたおばはんは、走ってきた自動車にぶつかり倒れてしまう。

わしの真似したらあかんがなと言いながら、その身体を抱き上げた大将だったが、おばはんは帝国大学…とつぶやいて、息絶える。

おばはんの遺体は霊柩車で焼き場に向かうことになり、近所の仲間たちが総出で手伝う。

山内刑事は、おばはんの家の中から、戸籍謄本を見つけ出し、実家があるらしき河内へ連絡をする。

ちび勝と共に、焼き場から帰って来た大将は、自宅前にオート三輪が止まっていることに気づく。

河内からやって来たおばはんの兄(加藤武)だと言う。

遺骨を前にした兄は、おばはんは秋子と言うらしく、一遍勘当された身だったようだが、こうなっては、先祖の墓に入れてやるしかないと言い、帰りかける。

大将は、もう一つ、子供も…とチビ勝を連れて行ってもらうように頼む。

兄は、本当に秋子の子でっしゃろな?と疑いながらも、秋子は貯金かなにか、残してるものはありませんでしたか?と聞いてくるが、大将はこの家だけですと答える。

すると兄は不機嫌そうに、こんなもん、薪にもならしまへんわと吐き捨てると、荷台にちび勝を乗せ、オート三輪で帰って行く。

遠ざかって行くチビ勝の姿を見送りながら、大将は、これで全部すんだぞ!と愉快そうに伸びをする。

ところが、翌朝目覚めて、戸を開けた大将は、そこにちチビ勝がいることに気づく。

訳を聞くと、向こうにはガキが8人もいたので、家出して来たらしい。

腹をくくった大将は、その日から、チビ勝を連れて、又、ガラス割りの商売を始めると、チビ勝を伴い、博打場通いも始める。

お初に会いに行こうと、お伝の店の前までやって来た大将だったが、どこからか、「大将」と呼ぶおばはんの声が聞こえてくる。

周囲を見回しても誰もいなかったが、又「大将」と呼ぶおばはんの声が聞こえる。

翌日、山内刑事に呼ばれて警察署に行くと、おばはんはチビ勝の為に学資保険に入っていたと言う。

大学に入る時、金がもらえる保険だが、今後はお前がチビ勝の為にかけ続けるか?と言うので、大将ができないと答えると、途中解約の場合、払い戻し金として5200円あると言いながら、山内刑事は現金を取り出して大将に渡す。

自宅に戻って来た大将は、見知らぬおっさんが待っているのに気づく。

その男は、だるま屋と言う文房具の店の主人で、この前、34、5の女が店にやって来て、ランドセルや文房具を買って、明日取りにくると言い残して帰ったきり、姿を見せなくなった。

釜ヶ崎中探してみたが、その女の人は、買った晩に自動車事故で亡くなったそうやな。取りに来られんはずや…とだるま屋の主人はつぶやき、とにかく、この品物は買ってもらったものやから、置いて行きますと言う。

神妙に話を聞いていた大将は、ランドセルや文房具を前に、ご苦労さんでしたと礼を言い、主人を送り出す。

外にいたチビ勝に、お前いくつになるんや?と聞く、6つだと言うので、来年入学やないかと大将はつぶやく。

その夜、大将は、小屋の中で又、おばはんが歌う「雪の降る町に〜♩」と言う声を聞く。

外に出ても聞こえるので、大将は呆然と立ち尽くすのだった。

翌日から、大将は、すっかり元気がなくなり、仲間たちもどうしたのか不思議がる。

ホルモン屋台も、すっかりペンキを塗り替えられていた。

お初も、通りかかった大将に声をかけるが、大将の様子はおかしかった。

大将は、とある公園の前に来ると、そこで無邪気に遊んでいる子供たちが歌う「メダカの学校」を聞く。

その夜、宿直で警察署に残っていた山内刑事の所にやって来た大将は、あの広っぱに、5200円でブランコこしらえよう思いますねんと言い出す。

大将?と普段とは明らかに違う大将の様子に不審を感じた山内刑事に、大将は、おばはんの霊に取り憑かれましたんや。おばはんの金ちょろまかしたのはわいや!と告白し、その場で泣き崩れる。

翌日、高架線脇の広場に、ちび勝つと二人でブランコをこしらえている大将に姿があった。

そこに、話を伝え聞いたらしい王様がやって来て、何してるんや?ここはわしの博打場やど!と聞き、ブランコ作ってますのやと答える大将に、いら立った王様は、ぶちこわしてしまえ!と手下たちに命ずる。

木作りのブランコは、あと言う間に破壊されてしまう。

しかし、雨が降る翌日も又、大将はあたらにブランコを作っていた。

やって来た王様は、又、そのブランコを破壊させる。

その様子を、近くから山内刑事も観ていた。

翌日、またもや、大将はブランコを立てていた。

王様は、又、そのブランコを取り壊させる。

倒れた大将に駆け寄ってきた山内刑事は、大将、もう止めとけと制する。

しかし、大将は、今度は鉄のブランコを立てますのやと言う。

お初や仲間たちに金の工面を頼んで歩いた大将だったが、仲間たちは、王様に逆らったら、ここでは生きていけへんとビビる。

その後、町の鉄工所に、ブランコを作れないかと頼みにくるが、今までそんなもん作ったことないけど、金さえもらえば…と主人は答える。

そうした大将のひたむきさを知った山内刑事は、止めとけ。あの広っぱは警察の問題やと言い聞かすが、大将はもう聞いていなかった。

警察署に戻って来た山内刑事は、署長に、何とか広場のことを解決できるよう頼んでいた。

大将は、大きな通りに来ると、急に眼が輝く。

金を作る方法を思いついたのだった。

いつものように、道路に飛び出し、車の前に当たった大将だったが、身体をかわす暇もなく、そのまま轢かれて大将は死んでしまう。

大将のつやには、お初や仲間たち、そして山内刑事も来ていた。

お初は、大将アホやな…。とうとう辺り損ねたやないか…と遺体に話しかける。

そこへ、大将らしい良いお通夜やないかと言いながらやって来たのは署長だった。

大将を犬死にさせてしまいましたと嘆く山内刑事の言葉を聞いた後、大将の遺体に手を合わせた署長は、私はメンツにこだわり過ぎたようだ。決して大将を犬死にさせんよ。大将は我々に勇気を与えてくれた。鉄のブランコを作ろう!と言う。

その言葉を聞いた山内刑事は号泣し出す。

翌日、霊柩車に大将の遺体を乗せ運ばれて行く。

その頃、博打場の広場にやって来た王様は、お前ら、今日だけ止めといてやれと客たちに告げる。

山内刑事とチビ勝が、霊柩車に乗って行く。

山内刑事の脳裏には、夜、一人でブランコを作る大将の姿が見えていた。

「雪の降る町に〜♩」

その後、高架下の広っぱには、立派な鉄のブランコが出来ており、もう博打場は消え失せていた。

「雪の降る町に~♩」大将の声が聞こえてくる。

ブランコの前には「大将のブランコ」と言う記念碑が建てられていた。

並んで、並んで、割り込んだらあかんでと言うチビ勝の声が聞こえてくる。