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阿弥陀堂だより

「癒しの映画」とでも言いたくなるような環境映像作品である。

一応、ストーリーめいたものはあるが、全編、美しい信州の風景の映像でまとめられている。

その景色を観ているうちに、こちらも、美智子同様に心が癒されて行くような気になる。

それだけ…と言ってしまえば、それだけの映画とも言える。

劇中で語られている色々な言葉に共鳴するも良し、ピンと来なければ退屈なだけかもしれない。

深い意味が込められているようにも思えるが、きれいごとだけの浅い表現のように感じないでもない。

無医村の村を描くことで、何かを訴えているような社会派の内容でもないし、都会のストレスで心を病んだエリートが田舎の美しさと人情に触れるうちに徐々に癒されて行く…と言う、何とも意外性のない展開が描かれているだけで、何か、がつんと心に響くものがないのだ。

観ているこちらが、人間として薄っぺらで理解力がないと言うことかもしれないが、何となく、地方のPR映画のように見えなくもない。

孝夫を演じている寺尾聰は、終始ニコニコしているだけの好人物としてしか描かれていないし、美智子を演じている樋口可南子も、病み上がりながら賢く、人にも優しく…と言う感じで、二人とも、あまりにも絵に描いたような理想の夫婦関係として描かれているので、感情移入しにくいような気がする。

何か劇的なドラマを描いている訳ではないので、それは致し方ない部分かもしれないが、2時間を越える長い作品の中核としては弱いような気がする。

後は、高齢の北林谷栄の演技なのか地なのか、もはや判然としなくなったような飄々とした存在感と、小百合を演じている小西真奈美の清楚な美しさで場を持たせているような印象である。

冬の祭りのシーンで鬼剣舞を舞っているのは、観客側にその姿がなく、幸田先生から剣を預かる時に、「先生に教わった剣の舞、冬の祭りで見せてくれって言われましたが、自分にできるかどうか…」と言っていた孝夫と言うことになっているのだと思うが、鬼の面を脱ぐカットがないので、ちょっと分かりにくい。

観終わって、そのシーンを考えていたとき、なぜ、美智子、小百合、ヨネが観ているのに孝夫がいないんだろう?と不思議に思い、そう言えば、幸田先生から剣をもらうとき、そんなことを言っていたなあと気づいて分かったくらいで、普通に観ていたら、別人が舞っていると解釈するはずだ。

この映画の後、2006年に亡くなった田村高廣は、まるで自分の運命を重ねているような凛としたものが感じられる。

面白いと感じるかどうかはともかく、まじめに作られた映画であることだけは確かだと思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2002年、「阿弥陀堂だより」製作委員会、南木佳士原作、小泉堯史脚色+監督作品。

二人の男女が歩いてくる。

10年前に新人賞を受賞したものの、その後10年経っても新作が書けない作家の上田孝夫(寺尾聰)と、その妻で、ガン治療のエリート医師だったものの、パニック障害と言う病気にかかってしまった美智子(樋口可南子)だった。

美智子の病気療養のため、孝夫の郷里である信州谷中村にやって来たのだった。

阿弥陀がまつってあるひなびたお堂「阿弥陀堂」にやって来た二人を、96歳になるお梅(北林谷栄)と言う老婆が不思議そうに出迎える。

孝夫は、5年前に81歳で亡くなった上田せいの孫の孝夫ですと挨拶する。

すると、噂を聞いていたらしいお梅は、奥さんは診療所で働いてくれるんですか?と聞く。

ここ谷中村は、今まで医者がいない「無医村」だったのだ。

美智子は恥ずかしそうに、月水金の午前中だけやらせて頂きますと答える。

その後、地元の小学校で、村長(内藤安彦)以下、孝夫の同級生らが集まって「上田美智子先生」の歓迎会が始まる。

同級生たちは、何で、先生のような立派な方が孝夫なんかの嫁に?と不思議がるが、美智子は、夢ばかり観ている花見百姓と一緒に暮らすのも良いかなと思って…と、夫から聞いた土地の言葉を交えて打ち明ける。

地元の言葉を知っている美智子の話を村人たちは面白がる。

村長は、これで無医村問題も解決した。今後は先生がこの村を出て行くことがないように、村民にも協力を仰ごうと思いますと挨拶する。

帰り道、美智子は、鳥の鳴き声のせいなのか、急に呼吸が速くなり、パニック障害を起こしかけるが、一緒にいた孝夫は優しく背中をさすってやる。

その夜、温泉につかり、薬を飲んだ後、孝夫と一緒に床に入るが、おばあちゃんの匂いしない?と聞く。

横に寝ていた孝夫は、そうだね。子供の頃に戻ったみたいだと答える。

翌朝、孝夫がこしらえた朝食を二人一緒に食べた後、美智子は、壁に貼られた「雨にも負けず風にも負けず…」と言う宮沢賢治の文章を発見する。

孝夫は、おふくろが書いたんだと教える。

美智子は一人で家を出かけ、その間、孝夫の読む「雨にも負けず…」の声が重なる。

美智子がやって来たのは、診療所として使う瑞穂幼稚園だった。

早朝から待っていたらしき老人たちが一斉に診療所に入って行く。

一方、孝夫の方は、恩師である幸田重長(田村高廣)の住まいを訪ねるが、幸田先生は庭先で布団たたきをやっていた。

孝夫は、胃がんで余命幾ばくもない幸田のことを案じていたが、当の幸田自身は診察を拒否し、自分の好きなように最期を迎えるつもりのようだった。

自宅にあった大量の本は、全て学校へ寄贈したと言い、部屋の中はがらんとしていた。

死ぬときくらい、きれいにしたいと幸田は言う。

孝夫は、新人賞を取ったとき、幸田からもらった手紙のことを今でも覚えていますと伝えるが、その後10年ぱっとしませんと自嘲する。

そこにお茶を運んで来た幸田の妻ヨネ(香川京子)が、今が大切な時でしょうと励まし、幸田も、自分で志した道なのだから、悔いのないよう歩むことだと言い添える。

診療所の待合室では、村の老人たちが、街へ言ったきり、なかなか村に帰って来ない子供たちのことを愚痴っていた。

自宅に戻っていた孝夫の元に、近所の田辺(塩屋洋子)おばさんが、村の広報誌を持ってきてくれたので、これからは暇な自分がやりますよと広報誌配達の仕事を引き受ける。

広報誌を読んだ孝夫は、「阿弥陀堂だより」と言うコラムに、お梅へのインタビューをまとめたらしい文章が載っていることに気づき興味を持つ。

いつも目先のことしか観て来なかったので、心配事を増やすことがなかったのが長寿の秘訣かもしれませんと書かれてあった。

診療所から戻って来た美智子と一緒に昼食をとった後、孝夫は美智子と共にお梅の阿弥陀堂へ行ってみることにする。

去年、お梅は血圧が高まり倒れたと聞いている美智子が心配して様子を見に行くことにしたのだ。

阿弥陀堂に着いてみると、お梅は昼寝をしていた。

孝夫と美智子は微笑んで、お梅が目覚めるのを待ち、血圧を測りに来たと伝えると、お梅は喜んで横になり、座布団を下にして腕を伸ばしてくる。

血圧は135ー82と悪くなかったので、美智子は安心する。

去年、どうして血圧が上がったの?と聞くと、ここには便所がないので、自分で便所を掘っていたら変になったと言うので、孝夫は、だったら自分が便所を作ってやるよと伝える。

その後、孝夫と美智子は、村の子供と一緒に手繋ぎ鬼などをして遊び、「夕焼け小焼け」を歌いながら一緒に帰る子供たちと別れる。

その後ろ姿を観ていた美智子は、何故か涙が出てしまい、自分で照れて笑ってしまう。

翌日、孝夫が阿弥陀堂に便所を作りに行くと、見知らぬ若い娘が縁側に座っていた。

お梅は、この人は口がきけないのだと言う。

小百合(小西真奈美)と言うその娘は、持っていたスケッチブックに文字を書き、3年前、のどの病気しました。今は話すことできませんと筆談にして孝夫に見せる。

耳は聞こえるようだった。

お梅が、私の話を書いてくれたんですよと言うので、この小百合が「阿弥陀堂だより」の筆者だと知った孝夫は、小説家と聞いていますと小百合に言われる(書かれる)と、10年以上本が出てないと自嘲する。

すると、お梅が、小説とは噓の話でありますか?それとも本当の話でありますか?と聞いてくる。

孝夫は、ごぼうはそのままでは食べられないけどきんぴらにするとおいしく食べられる。真実はごぼうの方かもしれないけど、小説はきんぴらにするようなものだと分かりにくい比喩に例えてしまったので、横で聞いていた小百合が、小説とは、阿弥陀像を言葉で作るようなものだと思いますとスケッチブックに書いたので、それを読んだお梅は、それなら良く分かると喜ぶ。

自分は切ない話はたくさん聞いてきたから、良い話だけ聞きたいともお梅は言う。

山がきれいに晴れ渡って見えていた。

孝夫は、阿弥陀堂だよりが載った村の広報誌を老人たちに配りながら、不便はありませんか?などと声をかけ始める。

老婆たちは、色々、興味深い話を聞かせてくれた。

阿弥陀堂だよりには、身の回りにある好きなものだけ食べてきたのが長寿の秘訣なら、貧乏はありがたいことですとお梅の言葉がまとめられていた。

ある日、孝夫は美智子と共に幸田先生の家にやってくる。

幸田は黙々と習字をしていたが、診察なら受けんよと最初に断る。

「天上大風」と量感の言葉を書いているのだった。

幸田は、人間、姿だよ。姿はその人の心を写すからねとつぶやく。

そして初対面の美智子を観ると、病気をしたんだって?と聞き、自分が病気になってはじめて病気の人の気持ちがわかるでしょうと告げる。

幸田はヨネに、愛用の日本刀を持って来させると、孝夫に受け取ってくれと差し出す。

先生に教わった剣の舞、冬の祭りで見せてくれって言われましたが、自分にできるかどうか…と孝夫は尻込みしながらも剣を受け取る。

それを観たヨネは、良かったですね。収まる所に収まってと笑顔を見せる。

わしのことなら心配いらんよと言う幸田を残し、二人は辞去することにするが、表まで送ってきたヨネに、食事の方は?と美智子が聞くと、好きなものを好きなだけと答える。

美智子は、何かあったらお電話ください。先生には内緒で…とヨネに伝えて帰る。

ある日、美智子は、孝夫を連れて渓流釣りに出かける。

もちろん初心者に簡単に釣れるはずもなく、美智子は諦めかけるが、場所を変えた所で、ようやく一匹だけ釣り上げる。

その一匹を持って帰る途中、草を摘んでいた子供たちと会い、その草をもらった美智子は上機嫌になり、口笛を吹きながら帰路につくのだった。

その夜、釣ったイワナを囲炉裏で焼いた美智子は、孝夫に食べるよう勧めるが、食べている途中で、骨酒にしようと言い出し、自ら食べかけのイワナを使い、インスタント骨酒を作ると、二人で飲み始める。

その日、美智子は、いつも常用している睡眠薬も飲まず、ぐっすり寝入ってしまう。

孝夫は、近所の田植えを手伝う事にする。

後日、阿弥陀堂に来ていた美智子はお梅に、最近眠れますかと聞き、眠れますと答えるお梅に、私も最近は良く眠れるのと嬉しそうに教えていた。

眠れない時はどうしますか?と聞くと、台所に流れている水の音を聞いているうちに、自分も水になったような気がしてきて、やがて眠りますとお梅は言う。

帰り道、睡眠薬を飲まなくなったのはいつからだったか覚えている?と孝夫が聞くと、はじめてイワナを釣った日からねと美智子も気づく。

やはり、水の音と睡眠は関係しているようだった。

美智子は、やっぱりこの村にきて良かったと孝夫の耳元で囁き、握手を求めながら、良いことって、大きな声出すと逃げちゃうんだってと笑う。

その夜、布団の中に入った美智子は、遠くから聞こえて来る声に、小鳥の声かしら?とつぶやくが、孝夫は、カエルだよ。カジカと言う清流だけに住むカエルだと教える。

美智子は、良いなぁ、山に抱かれて寝ている気分…と言いながら、そっと孝夫の布団の方に身体を入れてくる。

幸田先生に家にお邪魔すると、「自治三訣 人のお世話にならぬよう 人のお世話をするように そして報いを求めぬように」と書かれた額があったので、それを見る孝夫。

それに気づいたヨネが、ハルピンに飾ってあったんですってと教える。

ヨネは美智子に、結婚してすぐ、幸田はシベリアに強制連行され、自分は子供を連れて逃げ帰ったんだが、その途中で子供に死なれた…と昔話をし始める。

戦後11年一人で待っていて、ようやく幸田が帰って来たとき、わしが本当に良い奴だったら、帰って来なかったろうなんて言ったのよ。子供のことは、その子の天命だと思うって…とヨネは、当時の幸田の言葉を繰り返す。

お盆が近づいたので、仏壇の掃除をしていた美智子は、新しい仏壇買ってみようか?と言い出す。

孝夫は高いよと教えるが、平気よと答えた美智子は、ご先祖様がいたお陰で、あなたがいて、私もいて…、ここにずっと暮らしていて、私たちもいつかご先祖様になれたら良いと思わない?と言うので、孝夫も思わず、良いねと答える。

村の盆が始まり、村人たちは迎え火を焚いて、死者を迎える。

美智子と孝夫は、線香花火を楽しみ、年寄りたちは、阿弥陀堂に集まって、大きな数珠を回しながら、その後は暗くなるまで話をするのだった。

その様子は、まるで夢のようで、このまま覚めなければ良いと思ったりします…と孝夫は思う。

村に来て半年、美智子の村での評判は上々だった。

村長は、毎日診察してくれないかと頼みに来たが、美智子は今のままでと譲らなかった。

ある日、美智子は、小百合を診察していた。

阿弥陀堂だよりには、子供の頃は弱かったが、自分がここまで長生きしたことが一番不思議と言うお梅の言葉が書かれてあった。

美智子は孝夫に、小百合は、学生時代にかかった肉腫が転移しているようで、手術を受けさせた方が良いと教える。

孝夫は、君の専門分野じゃないの?と聞き返し、迷った時は前に進むと伝える。

美智子は、私はあの症例は過去3度経験しているけど、街の医者は経験ないみたいと言うので、総合病院に行って担当医と一緒にやれば良いと孝夫は助言する。

やれるかしら?と不安がる美智子に、君ならできる!俺が車で送り迎えするから大丈夫だと励ますのだった。

後日、街の総合病院に入院した小百合を見舞った孝夫は、今月の阿弥陀堂だよりは良いねと話しかけ、来月も期待しているよと励ます。

その後、置いてあったプーシキンをちょっと読んでみたりした後、美智子賛成が応援してくれるそうですね?上田さんにも面倒おかけすると思いますと筆談してきた小百合に、書き貯めた原稿あるのかい?と尋ね、3ヶ月分は用意してあると言う小百合の返事を聞くと、完全に良くなって出て来るんだよと励まし、ナースステーションで担当医の中村医師(吉岡秀隆)と話し合っていた美智子を待って、車で帰ってくる。

車の中で美智子は、あの中村と言う青年は、私の書いた論文を読んでくれており、とても謙虚なので良いと言う。

阿弥陀堂では、お梅が一人でお月見をしていた。

総合病院で一緒に小百合を診察した中村医師は、そうして先生のようなエリートが谷中村へいらしたのですか?と聞き、私なんか落ちこぼれよと謙遜する美智子に、自分は寂しがりなもので、つい相手が心を許せるかどうか試してみたくなるんですと謝罪する。

夜、自宅の風呂から上がってきた美智子は、孝夫が机に座って、原稿を書いているので珍しがる。

孝夫は、病室の小百合がお梅の言葉を聞けるように、代わりに何を聞こうか、まとめていたのだと言う。

それでも、自然にお梅さんの言葉に耳を傾けるってことかな?と孝夫はつぶやく。

翌日、阿弥陀堂に出向いた孝夫は、小型のテープレコーダーを取り出すと、これに録音するから、小百合ちゃんに何か話してくれとお梅に頼み、とりあえず、大切に思っていることは何かと問いかける。

お梅は、大切なのは阿弥陀さんだなぁとつぶやき、小百合ちゃんを直してやって下さいと阿弥陀様を祈る。

その後、心配で嫌な気持ちだけど、いつもの景色を観ていると、気持ちが落ち着いてくるな…と、お梅はつぶやく。

小百合は肺炎が悪化し、症状が悪化していた。

美智子は、抗生物質で肺炎を抑えようと中村医師と相談する。

病室を出てきた美智子は、心配して駆けつけてきた助役(井川比佐志)や村の人たちに、良くなるかどうか五分五分ですと正直に打ち明ける。

徹夜で治療を続けた後、美智子は、救命処置は何年かぶりだったけど、案外平気だったと中村医師に伝える。

休憩室に戻って来た美智子は、ソファに横になりながら、亡くなる人を何人くらい観ました?と中村医師に聞く。

中村医師は、30人くらいでしょうか?と答えるが、美智子は、自分は300人以上の最期を看取ったと打ち明ける。

最期に死亡診断書を書いたのは76歳になる個人タクシーの運転手だったけど、その人の最期の呼吸が終わったとき、ビルの間から光の束が部屋に差し込んで来たの。

その時、私の身体から、光の束に載って何かが出て行ってしまった。その何かとは「気」なのよね。その頃、私は妊娠していたのに、子宮内で胎児が死んで…

(回想)死産した美智子はベッドの中で、子供って、親を選んで生まれて来るのよね。私は選ばれなかった。どうして?どうして?と、見舞いに来ていた孝夫に問いかけていた。

体調を崩したのはその直後、限界だったのよね…と美智子は、中村医師に語り続けていた。

生きるエネルギーを死に吸い取られてしまい、明日を楽観できなくなっていたの。

(回想)街の雑踏の中で、急に呼吸が苦しくなった美智子は、道の端でうずくまり、不安な様子で荒い息を続けていた。

心療内科で、パニックディスオーダーと診断された。心の病気だわね。

私が、主人の故郷の谷中村に来たのは、それを直すためだったの。

問題は、心を病んでいるのかどうか。

主人の学校の先生で幸田先生と言う方は、末期ガンなんだけど、こちらの方が励まされるの。

中村先生、人の一生ってどう思います?と美智子は問いかける。

中村医師は、突然の質問に戸惑いながらも、いずれ死んで終わるんでしょうけど、僕はまだ若いから…と返事に窮する。

村に来て分かったのは…と美智子が続ける。

今を良く生きることが、良く死ぬってことかな?と…

中村医師は立ち上がり、これからは交代で様子を見に行きましょうと美智子に告げて部屋を後にする。

翌朝、迎えに来た孝夫の車に乗り込んだ美智子は、私はまだ、徹夜で患者さんの治療ができるんだ。自信持ちゃおうかな?とおどけ、何とかなりそうよ。肺炎、山を越えたわと、小百合の状態が良くなったことを教える。

孝夫は、良いおばあさんになれると思うよと答え、目標はお梅さんよねと美智子も笑う。

その日、阿弥陀堂に来た孝夫は、小百合さんの手術が成功したと伝える。

それを聞いたお梅は、良かったよ!ナンマンダブツ…と喜ぶ。

そして、帰りかけた孝夫に、優しく利口な女なんてめったにいないんだから、大事にしなきゃいけんよと、美智子のことを頼むのだった。

その後、田辺おばさんの家の稲刈りを手伝っていた孝夫は、来年は、ちゃんと自分の田んぼを持つんだとつぶやいていた。

昼食を振る舞う田辺おばさんも、いつまでも花見百姓って訳にはいかんもんなと同調する。

ある日、小百合の見舞いに孝夫が行くと、テープを聴いていた小百合はたいそう喜び、お梅さんのテープ、何度も聞き、とても心が落ち着きましたと筆談で知らせる。

孝夫が、お梅さんも、小百合ちゃんが大丈夫だって知らせたら泣いちゃってねと教えると、ありがたいですと書きながら、小百合も涙を流す。

秋の村祭りで行われる神楽を孝夫と観る美智子。

その祭り囃子を床の中で聞いていた幸田先生が起き上がり正座をする。

ミルクを持ってきたヨネが、痛みますか?と聞くと、否と答えた幸田は、母さん、葬式は、線香一本挙げてくれたら、後は普段通りにしてくれと言い出す。

それを聞いたヨネは、何ですか…と言いながら泣き出してしまうが、すぐに、良い音色ですことと聞こえてくる笛の音のことに話題を移す。

紅葉した山を散策する孝夫と美智子。

阿弥陀堂で、お梅と共にたき火をする二人。

夜、孝夫の家にやって来た助役は、美智子に小百合のことで感謝すると、議会で診療所の新築案が通ったので、村長の代理で来たと言う。

ぜひ、美智子にその所長になって、毎日診察してもらえないだろうかと言うのだった。

美智子が、診療所を作るだけではダメで、村人がどういう医療を求めているのかを聞くべきですと助言すると、助役は、先生には設計段階から参加していただき、来年秋に竣工を予定していると言うことでいかがでしょう?ご承知願えたと考えてよろしいのですね?と喜んで帰る。

孝夫は心配し、やるのかい?と聞くが、うんと答えた美智子は、望まれてやるのが女ってものよと見栄を切る。

幸田先生が臨終を迎えようとしていた。

孝夫と共に見舞いに来た美智子の目の前で、ヨネが、寝ている夫に従うように障子を開け、外の様子を見せる。

これで良い…とつぶやいた幸田は、じゃあ、先に行くからねとヨネに話しかけ、ヨネも、長くは待たせませんよと答える。

幸田の脈を観た美智子は、静かに頭を下げる。

家に来ていた他の見舞い客たちも、それと同時に頭を垂れるのだった。

河原に来た孝夫は笹舟を浮かべる。

付いてきた美智子は、先生自身で息を止められた気がすると告げる。

静かに帰ってしまった。思い出、一杯残して…と孝夫もつぶやく。

阿弥陀堂に、夫の名札を加えに来たヨネを、お梅が手を握りしめて優しく慰める。

「天下大風」と書かれた紙で作った凧を飾り、孝夫は又、小説を書き始めていた。

何と言っても姿。姿はその人の心を写す。先生の言葉に耳を傾けようと孝夫は考えていた。

やがて、谷中村に雪が降り始める。

阿弥陀堂で漬け物を漬け込んでいたお梅の元に、退院した小百合を連れて美智子と孝夫が来ると、お梅はものすごく喜んで、阿弥陀様に感謝する。

そんなある日、街の病院に車で迎えに行った孝夫に、診察を終えた美智子が近づいてきて、やっぱりできていたわ。三ヶ月ですって。子供ができたのよ!43歳になる私に…と感激したように伝える。

そうか、そうかと、孝夫も喜ぶ。

冬の祭りで、孝夫は、幸田先生から頂いた剣を持って鬼剣舞を待っていた。

それを観客に混じり見つめる小百合、ヨネ、美智子たち。

阿弥陀堂だより…

雪が降ると、里と山の境界線がなくなって白一色になります。

春夏秋冬、はっきりしていた山と里の境が消えて行き、人の一生と同じだと思います。

やがて、村に春が訪れ、阿弥陀堂では、お梅と一緒に写真を撮る小百合と孝夫と美智子の姿があった。