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PERFECT BLUE

1998年、竹内義和脚本、村井さだゆき脚本、今敏監督作品。

※この作品はミステリであり、後半謎解きがありますが、最後まで詳細にストーリーを書いていますのでご注意ください。コメントはページ下です。

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赤、青、緑の3人ヒーローが、怪人を相手に戦うヒーローショーが行われている遊園地。

テレビと違うし、ちゃちいなどとぼやきながら、少年2人が会場を後にする。

その遊園地には、みまリンこと霧越未麻(声-岩男潤子)と雪子(声-古川恵実子)、レイ(声-新山志保)が組んだアイドルユニット「チャム」のショー待ちをしているファンたちがたむろっていた。

衣装部屋では、未麻が舞台へ出る前の緊張感と戦っていた。

タイトル

電車で帰宅している未麻。

その後、未麻は地元のスーパーで買い物

事務所で、田所社長(声-辻親八)とマネージャーのルミ(声-松本梨香)が、新作のドラマの打ち合わせをしている中、未麻は悩んでいた。

チャムのライブショーでは、客席の前でしゃがんでいたアルバイトスタッフ内田(声-大倉正章)の一人が、片手を未麻の方へ伸ばし、彼の目からすると、あたかも彼の手のひらの上で未麻が歌って踊っているように見えるようにしていた。

その時、客席の背後で数人立ってしゃべっていた不良グループの土居正(声-陶山章央)たち数名が、ステージ目がけてものを投げ始める。

内田はそのグループに近づいて注意するが、不良グループは反論し、喧嘩騒ぎになる。

その時、会場から空き缶が不良たちに投げつけられ、帰れコールがわき起こる。

ステージ脇のスタッフたちは、この状態ではステージを中止するしかないかと言い出すが、今日は特別な日だった。

客席が騒然とする中、ステージ上の未麻は「止めて!」と叫ぶ。

今日だけは、皆と楽しみたかったのに…

内田は、不良から殴られたのか鼻血を出していたが、ステージ状の未麻に注目する。

今日で、チャムを卒業します。これまで、本当に幸せでした、今後は新人女優として頑張ります!と未麻が言い出したので、内田や客席のファンたちは呆然となる。

マスコミだけが写真を懸命に撮っていた。

ショーが終わり、車に乗り込もうとしていた未麻に、ファンの男の子がファンレターを手渡す。

(以上の画面にスタッフ・キャストロール続く)

マンションの自室に帰って来た未麻は、風呂にお湯を張りながら、熱帯魚に餌をやり、ベッドにうつぶせに倒れ込む。

そして、3人組で写っていたチャムのポスターをはがしながら、アイドルの未麻とはさようなら…とつぶやくと、持って帰って来た数通のファンレターを読み始める。

その中の一通に、「未麻の部屋」を観るのが楽しみだ。リンク貼ったと書かれてあったが、未麻には何のことか分からなかった。

その直後、電話が鳴ったので出てみると、故郷の母からだったので、少し話すが、風呂の湯が溜まったブザーが鳴ったので、電話を切って風呂のお湯を止めに行く。

すると、又電話が鳴り出したので、又、母親が話したりなくてかけて来たのかと呆れながら部屋に戻った未麻だったが、それはFAXの着信を知らせるものだった。

FAXから出て来たペーパーには「裏切者」と大きな文字をコラージュした不気味な内容が書かれていた。

「あなた、誰なの?」未麻はテレビ局のスタジオで、自分に与えられた一言だけのセリフを練習していた。

昨日の「未麻の部屋」にリンク貼ったと言う内容が書かれたファンレターのことを聞いたルミは、それはインターネットのHPのことで、パソコン通信の一種だと教える。

「ダブルバインド」と言うドラマは今、主役女優と山城役の掛け合いを撮影していた。

その時、事務所の田所社長が様子を見にやって来て、プロデューサーと脚本の渋谷(声-塩屋翼)もスタジオにやって来たので、ADの手嶋(声-秋元羊介)は、主役女優にファンレターを渡すと共に、一緒に混ざっていた未麻宛の一通を田所社長に手渡す。

田所は、未麻は使いにくいと言う渋谷やプロデューサーに、もうちょっと活躍させてもらえないだろうか?アイドルは卒業させたのでと頭を下げた後、何気なく、未麻宛のファンレターを開封するが、その時、爆発音がスタジオ内に響いて、倒れた田所社長の手は血にまみれていた。

ファンレターの中から床に落ちた手紙には、「警告」「本物だ」などと言う文字がコラージュされていた。

その日、自宅マンションに帰った未麻は、買ったばかりのパソコンのインターネット接続をルミにしてもらっていた。

ルミが、色々やり方を説明するが、メカ音痴の未麻にはチンプンカンプンだった。

とりあえず「未麻の部屋」と言うHPをのぞいてみると、そこには、未麻の日記が書き込まれていた。

電車を降りる時は左足から降りるのがくせになっていることや、雪子とレイが、自分の21回目の誕生日を祝ってくれたこと、スーパーで、ミネラルウォーターと牛印の牛乳、そして熱帯魚の餌を購入したことなど、まるで本人が書き込んだように詳細に事実が書かれていたので、未麻は何よ?これ…と唖然となる。

「あなた、誰なの?」、ドラマ「ダブルバインド」の現場で、ようやく未麻のセリフのシーンが来た。

それに対し、ヒロインは麻宮冬子、亡くなったあなたのお姉さんの主治医よと答える。

その後、ファッションショーの仕事をこなす未麻

マネージャーのルミは田所社長と、未麻の今後について口論していた。

田所社長は、日高ルミがアイドル歌手をやっていた頃と今は時代が違う。レコードなんて利益のうちに入らんと説教するが、その時、そのレコードで頑張っている新生チャムの二人を連れて担当マネージャーが事務所に戻って来る。

その頃、「ダブルバインド」を観た元未麻ファンたちは、ビデオショップで、何で日本でサイコサスペンスを撮るとああなる訳?などと批判をし合っていた。

その言葉を、同じショップにいた内田も偶然耳にする。

その日、事務所に向かった未麻は、ネットの書き込みが気になって、電車を降りるとき、左足から踏み出せず、ちょっとパニックを起こして外に飛び出す。

その後、事務所に到着するが、ビルの前でたむろしていたファンたちから声をかけられても無視して入って行く。

エレベーターに乗り込んだ未麻は、壁に、この前のコンサートで騒いでいた不良グルプのリーダー土居正が交通事故で死亡した記事が破られて貼られていることに気づく。

締まりかけた扉の向こうに見える入口付近に、内田の姿を観たような気がした。

事務所に来ると、雪子とレイの二人になった新生チャムの新曲が、ヒットチャートの83位に入ったのでマネージャーとお祝いしている所だった。

これまで、上位に入ったことがなかったチャムを知っている未麻は我がことのように喜ぶが、そんな未麻に、ルミが次の回のドラマ台本を渡す。

ドラマのスタジオでは、「ダブルバインド」が新しい展開を見せ始めたので、プロデューサーは脚本の渋谷を褒めるが、渋谷は、未麻は大丈夫かな?事務所的に…と心配していた。

そんなスタジオに、内田が紛れ込み、8mmビデオでスタジオ内を撮影していた。

渋谷の新しい脚本では、未麻演ずる高倉よう子は、ストリップ小屋でレイプされ、がらっと性格が変わると言う展開になっていた。

それを知ったルミと田所社長は口論となる。

ルミは、未麻にそんな役はやらせられないと言うのだったが、その口論を聞いていた未麻は、やると言い出す。

その日、帰宅途中の電車の中で、未麻はガラス戸に写ったアイドル姿の自分自身が、私、絶対に嫌だからねと未麻に語りかけたような気がした。

スタジオに作られたストリップ小屋のセットで、ストリッパー役の未麻は、観客から無理矢理レイプされるシーンの撮影に臨むが、そのシーンも、内田はスタジオの隅からじっと観ていた。

いくら芝居とは言え、元アイドルがやるにしては、あまりの無惨なシーンに観かねたルミは、泣きながらスタジオを飛び出して行く。

その日、田所社長の車で帰宅することにした未麻だったが、ルミの姿が見えないことに気づく。

社長に聞くと、用事を頼んだのだと言う。

社長は、未麻のその日の演技を褒めると、ご褒美に食事をしに行こうと誘う。

未麻は、無理に喜んでみせる。

ところが、食事の後、マンションに帰り着いた未麻が観たものは、水槽の中の熱帯魚たちがみんな死んでいる姿だった。

未麻は、部屋の中で狂ったように暴れ回る。

だから言ったでしょう?あれがアイドルの仕事?

パソコンモニターに、又、アイドル姿の未麻の姿が写り、そう未麻に語りかける。

内田は、自宅でパソコンを打っていた。

かつての未麻ファンたちは、「バブルバインド」の視聴率が上がったことをコンビニの本棚の前で、雑誌を読みながら噂していた。

あんなの未麻りんじゃないって言ってましたよ、全部、脚本家が悪いって…と、ファンは話し続ける。

その店にも、内田が潜んでいた。

未麻は、アイドル姿の自分から、本当はアイドルに戻りたいと思っているくせに…。汚れたアイドルなんて誰も好きになれないもんね。もう、あの光の中には戻れない。これからは、私が、あの光の中で輝くのよ…と一方的に責められていた。

アイドル姿の未麻は、窓から外に飛び出ると、妖精のようにどこかへ消えて行った。

その幻影に向かい、窓から未麻は、待って!待ってといつまでも叫んでいた。

ある日、脚本家の渋谷は、自宅マンションの地下駐車場に車で帰って来る。

自分の駐車スペースの名札が貼ってある場所が、「バブルバインド」のポスターで隠されていたので、渋谷はそれをはがすが、どこからか、未麻がチャム時代に歌っていた歌が流れて来たので、誰かいるのか!と警戒して呼びかける。

しかし、返答はなく、エレベーターに乗ろうと扉を開くと、ひときわ音響が響き渡り、チャムの歌がかかっているラジカセがエレベーターの中に置いてあることに気づく。

しばらくして、エレベーターの扉が開くと、そこには、両目から出血した渋谷の惨殺死体が座り込んでいた。

パトカーの遊具に乗った子供がいるデパートの屋上で、元未麻ファンたちが、渋谷惨殺事件のことをあれこれ噂し合っていた。

内田もその側にいた。

未麻は、田所社長の車で移動していたが、対向車線を走って来た車の窓に、アイドル姿の自分の幻影を観たので、思わずドアを開け、道路に飛び出して、走り去った車の方を観る。

田所社長は、何事かと驚いて、運転席から道路の真ん中に立っている未麻に声をかける。

事務所に残っていたマネージャーのルミは、その日の未麻のスチール撮りの仕事のことで悩んでいた。

カメラマンの村野(声-江原正士)が、脱がせの名人だと言う男だったからだ。

その心配を聞いていたチャムの二人は、今頃、未麻姉ぇ、ケッボーン!よとおどけていた。

その言葉通り、未麻のスチール撮りは、カメラマン村野の巧みな話術で、いつしかヘアヌードになっていた。

一方、チャムの二人は、いつも通りライブショーをこなし、客席にいた内田は、その姿を8mmで撮影していた。

未麻は、スチール撮りの後、後悔のあまり、部屋に閉じこもってしまう。

あのアイドル姿の未麻が出て来て、ほら言ったでしょう?私がレイや雪子と一緒に歌うのと言いながら、ライブのステージに加わって行く。

未麻は、私は女優…と自分で自分を納得させるしかなかった。

未麻は、自宅マンションの風呂の中に頭まで浸かり、お湯の中でバカヤロー!と叫んでいた。

やがて、未麻のヘアヌード集が発売され、元ファンたちも好奇心から雑誌に群がるが、内田は立ち読みしていたファンの手から雑誌を奪い取ると、その書店にあった未麻の雑誌類を全部買い占めてしまう。

内田は自宅のパソコンで、誰かとメールをし合っていた。

メールの相手は、MI-MINIAさん、あれは私じゃないの。偽者なの。いつも私の邪魔ばかりするのと書いて来たので、内田は、僕が始末する…と返信する。

ドラマ「ダブルバインド」のロケ、未麻が、自分以外のもう一人の存在に怯え、主人公の女医に、先生、私、怖いんです!と訴えかけるロケを、雨の中にも関わらず撮影していた。

しかし、そのセリフの最中、未麻は野次馬の中にあの内田の姿を発見、動揺したのでNGになるが、雨がひどくなって来たので、その場は撤収になる。

気がつくと、内田の姿は消えていた。

レイと雪子のチャムコンビは、その日、ラジオの収録日だったが、田所社長が久々に、未麻を連れて収録スタジオに遊びに来る。

しかし、未麻には、ブースの中に、レイと雪と一緒にアイドル姿の自分自身が座っているように見えたので、パニックになり、その場を逃げ出してしまう。

未麻は、放送局の廊下を飛ぶように逃げるアイドル姿の自分を追い始める。

あなた、誰なの?

どんどん遠ざかって行くアイドル姿の未麻は答える。

言ったでしょう?私が本当の未麻だって…

放送局の外に飛び出した未麻は、ライブ会場のスポットライトに見えるトラックのヘッドライトが接近するのに気づき、思わず、その前に立ちふさがってしまう。

トラックを運転していたのは内田だった。

気がつくと、未麻は自宅のベッドにいた。夢だったのか?

チャイムが鳴り、出てみると、マネージャーのルミで、HPを観たけど、イメチェンへの抗議にしてもやりすぎよと同情してくれる。

幻想が実体化することはあり得ないわよ…、ドラマの収録で、主人公の精神科医ヒロイン麻宮冬子は未麻に告げる。

その収録中、又しても、見学者の中に、内田の姿を観る未麻。

気がつくと、又、未麻は自宅のベッドの上にいた。

又チャイムが鳴り、マネージャーのルミだったので、夢と現実の区別がつかなくなった未麻は、昨日は本当だったの?と思わずつぶやいてしまい、手に持っていた紅茶のカップを握りしめて割ってしまう。

血だらけになった未麻の手を観たルミは、どうしたの?!と驚きの声を上げる。

ドラマのヒロイン麻宮冬子は、幻影が実体化するでしょうか?と聞く山城に、幻影が依代(よりしろ)を作ったら?と冬子は答える。

自宅マンションに宅配ピザを頼んだカメラマンの村野は、いきなりナイフを取り出した配達人から片目を突かれる。

その配達人は、室内に逃げ込んだ村野を追って来て、執拗に突き刺すが、ユニフォームを来た配達人の顔は、未麻のように見えた。

ヘアヌード写真集の映像…

テイク3!と言うADの声

未麻は、又ベッドの中で目覚める。

電話が鳴り、出てみると田所社長からで、村野が殺されたと言う。

俺が迎えに行くまで待ってろと言う田所社長の言葉を遠くで聞きながら、電話を切った未麻は、洋服ダンスを開けてみる。

すると、「FGG」の紙袋の中に、血まみれの宅配のユニフォームが詰め込まれていた。

その時、チャイムが鳴ったので、社長が来たと思った未麻は、急いで紙袋をタンスにしまい込んで、ドアを開けに行くが、外に待っていたのはマスコミ陣で、チェーンを付けたままのドアの隙間からマイクを突き出し、村野殺害への感想を聞いて来る。

未麻は呆然として立ちすくむだけだった。

その日、車で移動中、ルミは、事件のことを気にしちゃダメよと未麻を慰めるが、未麻は、私、生きているのかな?…と独り言を返すだけだった。

ドラマ「ダブルバインド」の収録は続いていた。

未麻演ずる患者の様子を観察したヒロイン麻宮冬子は、彼女は解離性同一性傷害、つまり「多重人格」だと診断する。

山城は、よう子の人格はどこへ行ったんだ?と戸惑う。

平凡な女の子が、ストリップ劇場でレイプされたことで、彼女は別人格になり、元の高倉よう子はもういないと麻宮冬子は答える。

私はモデルよ…、よう子は自らを納得させるようにつぶやき、次の瞬間、スタッフたちの拍手でドラマを終える。

「バブルバインド」がクランクアップしたのだ。

プロデューサーは、田所社長やルミに、未麻の健闘を褒め、打ち上げで会おうと言って別れる。

未麻は、着替えに控え室に戻るが、廊下で、ヒロイン役の女優とぶつかってしまう。

女優は、幻影が実体化することはないのだから、早く夢から覚めなさいと苦笑して去って行く。

その時、あの内田が未麻に近づいて来る。

田所社長は、未麻の次の仕事はビデオ映画の主演だ。お色気シーンがあるが仕方ないだろうとルミに告げて、一足先に事務所に帰る。

内田は未麻に迫ると、未麻リンの振りしやがって!と言いながらナイフを突きつけて来る。

この口がカメラマンをたらし込んだのか?本当の未麻が毎日メールをくれるんだ。お前が邪魔だって…と言いながら、内田は未麻の服を破りつかみかかって来たので、思わず廊下を逃げ出した未麻は、いつしか、無人のストリップ小屋のセットに入り込む。

内田は、ステージの上で未麻を捕まえ押し倒すが、未麻は近くに、大道具さんの道具ベルトに挟まったなぐり(トンカチ)が置いてあることに気づく。

内田はズボンを脱ぎ、未麻をレイプしようと覆いかぶさるが、手を伸ばして、なぐりを掴んだ未麻は、それを内田の側頭部に叩き付ける。

内田はうめき声を上げ、ステージの上に倒れる。

姿が見えなくなった未麻を探していたルミは、服を破られた未麻が廊下の壁に寄り添って立っているのを見つけあわてて駆け寄る。

訳を聞き、ストリップ小屋のセットに行ったルミだったが、そこには内田の死体はなかった。

夢でも観たんじゃないの?と、ルミは未麻に言うしかなかった。

ルミが運転する車で自宅マンションに帰って来た未麻は、隣の部屋にルミがいることを確認し、事務所の田所社長に電話をかけるが誰も応答しない。

田所社長は両目を刺された姿で、内田の死体と一緒に、ビルの屋上に捨てられていた。

未麻は、部屋の壁に、いつか剥いだはずのチャムのポスターが貼ってあり、水槽には、死んだはずの熱帯魚が泳いでいるのを見つける。

違う!ここは私の部屋じゃない!思わず叫ぶ未麻。

そうよ、ここは未麻の部屋だもの…と言いながら、真っ赤なアイドルウェアを着て現れたのは、マネージャーのルミだった。

やっぱり、アイドルは歌わなきゃ。アイドルはファンが守ってくれるの。MI-MANIAさんは失敗だったけどねと言いながら、アイスピックを持って近づいて来たルミは、必死に抵抗する未麻の肩甲骨の辺りを突き刺す。

未麻は、窓伝いに隣の部屋に逃げようとするが、ルミは執拗にアイスピックで突き刺そうとして来る。

隣のマンションに飛び移った未麻だったが、ルミも飛んで来て追いかける。

未麻は、アイスピックをはね飛ばすが、ルミは、廊下に置いてあった傘を持ってさらに追って来る。

二人は、回廊状でもみ合いになり、そのまま地上のゴミ収集のポリ袋の上に落下する。

無人の待ちに走り出た未麻をさらに追って来た赤いアイドルファッションのルミは、傘で未麻の脇腹を突きかかって来て出血させるが、ビルのガラスも割ってしまう。

軽やかに飛びながら未麻を追って来るアイドル姿の未麻は、ビルのガラスには、ぜいぜい息を切らせながら走っている太ったルミの姿しか写っていなかった。

傘で、未麻の首を圧迫して来たルミの、かつらを思わずむしり取った未麻だったが、その途端、我に帰ったようになったルミは、よろけて、自分が割ったガラス窓の破片の上に倒れ込む。

腹を尖ったガラス片で傷つけたルミは、自分でカツラをかぶると、ヨロヨロと道路に出て行くが、そこに配送トラックが迫って来る。

それを見た未麻は思わず走り出て、ルミの身体をはね飛ばし自分も倒れ込む。

急停車したトラックから降りて来た運転手と助手は、道路脇に倒れている血まみれの二人を観てパニックになり、救急車を呼びに向かう。

精神病院に入れられたルミは、未麻が見舞いに持って来た花束を渡され、アイドルのように一人喜んでいた。

看護婦たちは、サングラス姿で病院に来ていた未麻が、あの女優の未麻ではないかと噂し合っていたが、まさか、あんな売れっ子がこんな所に来るはずがないと思っていた。

病院を出て、自分の車に乗り込んだ未麻は、サングラスを外すと、バックミラーに映る自分の顔に向かって、私は本物だよとつぶやきながら一人微笑むのだった。

夭折したアニメ作家今敏監督の長編デビュー作。

アイドルやストーカー、インターネットにサイコサスペンスと、今でも通用する色んな要素を旨く絡ませ、面白い話に仕立ててあるが、発表当時の流行の最先端を描いている分、今となっては、やや古めかしく感じる部分もあるのは致し方ない所だろう。

やや気になる点と言えば、リアルな作風とは言え、2次元キャラクターの情報量は、やはり実写などに比べると少ないので、特に女性キャラの区別がつきにくい点が惜しまれる。

チャムの3人などは、正直、アニメを見慣れない大人には見分けがつきにくいはずだ。

絵に描く美男子や美女と言うのは、大体、作家のパターンで似たような造形になってしまうことが多く、結局、髪型やアクセサリーなどで区別するしかないからだろう。

この作品に関しては、結果的にチャムは事件に無関係だったから良いようなものの、事件に絡んでいたとしたら、観客はかなり混乱したのではないだろうか?

とは言え、そう言うアニメ表現のあやふやさを旨く利用した作品であることも確かである。

途中から登場して来るアイドル姿の未麻が、現実の未麻だけに見える幻影なのか、実態があるのか、ドラマ「ダブルバインド」の話とも錯綜して、観客は最後まで混乱させられる。

この夢と現実が混同して行くと言うパターンは、その後の「パプリカ」にも通じるものがある。

もう一点、設定上、やや不自然に思えたのは、ドラマの中でのレイプシーン。

まず、ドラマの中で未麻が演じていた高倉よう子と言う女性の職業はストリッパーと言う設定だったのだろうか?

普通の女の子が、コスプレ姿などでストリップ小屋のステージには立たないだろう。

何かの事情があって、途中から急にストリッパーになったと言うことなのだろうか?

又、ストリップ小屋で客が集団で踊り子をレイプするなどと言うのもかなり不自然な設定だ。

それはあくまでも、劇中劇の中での特殊な設定と考えても、そう言う表現が、女性視聴者が多いテレビ放送に耐えられるだろうか?と言う疑問が浮かぶ。

テレビドラマには疎いので何とも断定はしにくいが、90年代後半頃のテレビの性表現は、そんなに緩くはなかったような気がする。

入浴シーンなどで、女優のお色気サービスがあるなどと言うのとは全く違う表現だからだ。

アイドルから脱皮したばかりの新人女優が出ているのだから、ゴールデンの番組ではなく、深夜枠での番組と言う設定で、当時はそう言う表現もあり得なくはなかったのかも知れないが、今の感覚で観る限り、あまり現実感がある設定とは思えない。

ミステリとしても、決して明快に解決している訳でもなく、あくまでも観客があれこれ自分で納得するしかないストーリーだが、アニメと言う表現を巧く使った新しいタイプのサスペンスとしては成功していると思う。

返す返すも、惜しい才能を失ったと感じさせる作品である。