TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

8時間の恐怖

鈴木清太郎名義時代の鈴木清順監督作品で、動く密室とも言うべきバスを使ったサスペンス劇になっている。

この作品は、1957年の3月6日に公開されてるが、約一ヶ月後の4月16日には、似たような設定の杉江敏男監督「三十六人の乗客」と言う東宝作品が封切られている。

公開時期の近接から考え、一方がパクったと言うより、当時、ミステリやサスペンスがちょっとしたブームになっていたことから来る偶然だと思う。

個性的と言うか、記号的で分かりやすいキャラクターの乗客たちがそろっているが、その中心的存在となるのは、物怖じせず行動力がある女性夏子を演じている利根はる恵と、一見冷徹そうな護送犯ながら、意外なことにヒーローのような存在になる森を演じている金子信雄。

この当時の金子信雄は、髪の毛もふさふさで、ちょっと観、誰だか分からないほどの容貌である。

学生を演じている二谷英明も、ちょっと判別しにくいくらい若い。

原ひさ子は、この当時からすでに老婆のイメージである。

ストーリー的には、バスが出発してしばらくの間は、怪談風のメロディをバックに、いかにも安手のスリラー仕立て。

乗客たちも、皆、いかにもわざとらしいと言うか、パターン通りの滑稽な演技をしているし、全体的に、通俗ドタバタ娯楽風になっている。

ギャングたちが乗り込んで来る途中からは、さすがにドタバタ風な演出は薄れて来るが、なぜ、明らかにギャングと思われる二人組から呼び止められたのに、走っていたバスを停めてしまったのかとか、なぜ、夏子は、山の中に仕掛けられている狩猟用の罠があることをあらかじめ知っていたのかとかなど、今ひとつ釈然としない部分がある。

スリルはあるが、謎解き要素などはほとんど意図していない内容と言って良いだろう。

途中から、赤ん坊を中心に、客たちの心が通じ合って行く過程なども描かれているが、ヒューマンドラマとして見応えがあると言うほどでもない。

助からないと分かると、躊躇なく仲間すら殺してしまう冷酷なギャングを演じた植村謙二郎と、下品で小ずるいセールスマンを演じた柳谷寛は、パターン的な演技とは言え印象に残る。

今となっては、かなり古めかしく感じてしまう通俗スリラー映画と言うべきかも知れない。

 

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1957年、斉藤耕一原案、柳田五郎+築地六郎脚本、鈴木清太郎監督作品。

駅に機関車が停まっているが、いつまで経っても出発しそうにない。

水害で、列車が立ち往生していたのだ。

駅の構内は、列車の出発を待ちくたびれた乗客で埋まっていた。

そこに、助役(井東柳晴)が、橋本行きの臨時バスが出ると報告する。

しかし、そのバスが通る林道は崖崩れが良く起きる危険な走路で、先日もトラックが墜落したと言う曰く付きの難所だった。

小難しい屁理屈を言って助役に詰め寄る女学生(香月美奈子)、明後日の株式総会に出なければ大変なことになると威張る中山泰造社長(深見泰三)と社長夫人(三鈴恵以子)、学生大会が開かれるので出席せねばとわめく学生青木亮二(二谷英明)、セールスマンに取っては、1分1秒が命なんだと詰め寄る花島正吉(柳谷寛)などで、構内は騒然となる。

その内、中山社長が、国鉄の村岡局長は、自分の後輩なんだなどと言い出したので、駅長(織田政雄)は慌てて、社長と社長夫人を自分の机の前に招き入れ、特別扱いし出す。

やがて、橋本行きのバスが出発しますと駅員が知らせたので、花島などは、社長に荷物まで持って列の先頭に並ぶが、バスが駅前に到着すると、列の順番など関係なく、全員我勝ちにバスに駆け寄る。

駅長が、バスの運転手村越順平(山田禅二)に、どうして遅れのか聞くと、自分と同じでこいつも古いので言うことを聞かんとバスの調子が悪いことを知らせる。

バスの周囲に群がっていた客の中で、一人の娘吉岡ハル(福田文子)が、明後日東京で試験があるのだと言うので、周りの客たちは、女学校か?などと質問するが、彼女が差し出したのは、映画会社の名前が入った封筒だった。

どうやら女優の新人試験を受けに行く所らしい。

その時、駅員が駅長に駆け寄ってきて何事かを耳打ちする。

駅長は、すぐに客たちに向かい、今、警察から連絡があったのだが、高槻の銀行を襲撃し、2千万を奪った2人組のギャングがこの辺に逃げ込んだらしい。

二人はトレンチコートを着ており、その内の一人はピストルを持っていると言う。

彼らは、奥沢から山の中に逃げ込んだかも知れず、いつバスを襲撃するか分からないので、特にお急ぎでない方は、列車の方をご利用くださいと勧める。

これには客たちも困惑し、かなりの人数は列車に戻って行った。

そんな中、一人の女志村夏子(利根はる恵)が、「乗りましょうよ。ちょっとした西部劇だわ」と言い出しさっさとバスに乗り込んだので、女子学生も同調し、こんなときは女の方が強いななどと言いながら、それに釣られて何人かがバスに乗り込む。

駅長は、途中の山小屋には、時々刑事がいることもあるし、バスにも刑事が乗っているので大丈夫でしょうと乗客たちを慰める。

確かに、それらしき精悍そうな男が最前列に乗っていたので、後ろの客があんたが刑事さんかね?と話しかけるが、刑事はその隣に座っていた浅野敬吉(成田裕)で、精悍そうな男は護送される殺人犯森公作(金子信雄)だった。

森は、銀行ギャングに崖崩れ、いつでも好きな時に現れるが良いと、ふてぶてしくつぶやく。

バスはようやく出発し、駅長は笑って見送るのだった。

窓から見える夜道は不気味で、学生の青木は、女学生に何か聞こえるだろう?と聞き、その会話を聞いた他の客たちもびくびくし出す。

農夫の柳川義太郎(永井柳太郎)の妻しづ(原ひさ子) などは、数珠を取り出して大げさに祈り始める始末。

セールスマンの花島は、寝るから車内の電気を消してくれと運転手に頼むが、運転手が電気を消し、その直後、急ブレーキをかけると、花島はあわてて入口から外へ飛び出すとする。

学生の青木は、灯りは点けておいた方が良いのじゃないかと提案し、結局、車内のライトは点けたままになる。

運転手に、山小屋までは遠いのかね?などと客が聞いていると、又、バスは急停車する。

前方に怪しげな光が見えたからだ。

客たちは、銀行ギャングじゃないかと怯えるが、志村夏子が自分が観に行ってやると言い出しバスを降りたので、吉岡ハルも後に付いて行く。

途中、ハルは、ハイヒールを山道に片方取られ、慌てるが、結局、灯りの正体は、危険を知らせる警報ライトだったことが分かる。

バスの中では、二号の阿久津澄江(志摩桂子)とその若い燕の高田富夫(中原啓七)が、パトロンの遠藤が帰って来てやしないかなどと話し合っていた。

そんな中、花島は乗客たちに、自分は日本服飾販売会社の者でと自己紹介し、それはどういう会社かと聞かれると、女性用の下着などを売っているセールスマンだと説明し、その場で鞄の品物を取り出すと、女性たちに売り込み始める。

その一方、乗客たちの間の、新聞が回り始める。

「中共引揚者 夫婦会い 夫と妻を殺害」と言う記事が載っていた為だった。

その妻を殺害した男こそ、今このバスで護送されている森公作だった。

その時、その森の隣の席に座っていた村上時枝(南寿美子)が抱いた赤ん坊が泣き出し、時枝まで泣き出したので、後部座席の女が赤ん坊をあやしてやる。

夏子は、花島に「宣伝屋さん、こっちに来て座りなさいよ」と声をかける。

やがて、夜が空け、運転手も眠気を催してきたので、バスを停め、仮眠を取り始める。

護送犯の森は、隣の席の時枝に、何か心配事がおありですか?と尋ね、人様のことをとやかく資格はなかったと自己反省する。

運転手は、バスを降り、タバコを吸いながら、目の前にかかった橋が老朽化してており、危ないなとつぶやいていた。

乗客を降ろして、バスだけで渡れば?と、男客が助言するが、その時、何で停まっているんだ?列車に遅れると言いながら、花島が勝手にバスを運転して橋を渡り始めたので、運転手はあわてて止めようとする。

橋を途中まで渡った花島だったが、良く見ると、橋がぼろぼろだったので、急に怖じ気づくが、そのまま勢いに任せ、突破するしかなかった。

バスの後部には、止めようとした運転手がしがみついていた。

乗客や運転手は、花島の無謀な行動を責めるが、花島は平身低頭謝り、とりあえず渡ったんだからと言うことで許してもらう。

ところが、そんな騒ぎの後、運転手がバスを出発させようとすると、赤ん坊を抱いた時枝の姿がないことに気づく。

もしかしたら死ぬな…と森がつぶやき、バスを停めろと言うもの、停めるなと制止するもので、車内は騒然となるが、柳川しづは又、拝み始める。

結局、バスは停まり、高田富夫と花島は、崖から下をのぞき、降りて行く。

森は、死にたい奴は勝手に死ぬさ…と覚めたことを言うので、夏子は、あんたは絞首刑さと嘲るが、森は怒るでもなく、夏子にタバコを一本ねだる。

やがて、富夫がたき火を起こすように指示を出し、学生の青木がバスに戻って来て濡れた服を着替えながら、女が飛び込んだと女学生に教える。

それを聞いた森は、運が悪かったんだな、助かっちゃうなんて…と苦笑する。

河原では、濡れた時枝の着物を着替えさせようとしており、富夫は2号の阿久津澄江に、あんたの着替えを貸してくれと頼む。

気がついた時枝は、突然「和子!」と赤ん坊の名を呼び始める。

赤ん坊は既に息をしていなかったが、助けた浅野刑事は、火に暖めたら息を吹き返すよと言う。

しかし、時枝は錯乱し、又、川に飛び込もうとするので、男たちで押しとどめる中、夏子が、あの犯人に力を借りようと言い出す。

さっき読んだ新聞記事で、あの森が元軍医だと言うことを知ったからだった。

全員バスに戻り、バスが動き出した中、森は赤ん坊を蘇生しようと、裸にして、尻を叩いたりし始める。

そんな中、女たちが言い争いを始める。

赤ん坊を蘇生させるなんて無駄だと心ないことを言う者がいたので、少しは母親の気持ちを考えなさいと諌めるもの、母親が赤ん坊と一緒に死のうとするものかと反論するもの。

そんな雰囲気を変えようと、青木がこんな時は歌でも歌おうと言い出し、ロシア民謡を歌い出すと、社長夫人のやすが頭が痛いと言い出し、中山社長も、そんなロシアの歌なぞ歌うようなアカでは就職なぞ出来んぞなどと言って止めさせる。

バスが停まると、車の後方から今のロシア民謡を拭く口笛が聞こえて来る。

赤ん坊を治療しながら、森が吹いていたのだった。

それに気づいた青木は、又民謡を高らかに歌い始める。

その内、中山社長まで、無意識に足でリズムを取るようになる。

やがて、谷の向うから、滑車を使って二人の男がバスの方向へ渡って来ると、そのバス停まれ!と声をかけて停めさせる。

ギャングと気づいた浅野刑事は、思わず、森と手をつなぐために持っていた手錠をポケットに隠す。

運転手は驚き、思わずハンドルを切り損ねて、バスは危うく山道からはみ出て落ちかけてしまう。

サブと呼ばれる子分の君塚三郎(近藤宏)と兄貴と呼ばれるトレンチコート姿の大井大助(植村謙二郎)がバスに乗り込んで来ると、大井は銃を向け、森に赤ん坊への治療を止めろと命じる。

赤ん坊が死のうが生きようが関係ないと言うのだ。

そして発砲すると、思わず、ここには刑事も乗っているんだ!と花島がばらしてしまったので、あわてて立ち上がった浅野刑事は大いに足を撃たれてしまい、大井の命令で、サブからバスの外に放り出されてしまう。

サブは、客たちをいたぶり出し、吉岡ハルに強引にキスをしたりする。

山小屋に刑事がいるかも知れないと聞いたギャングたちは、みんなに知らん振りをしろ!と命じる。

赤ん坊のことが気がかりな時枝が立ち上がるが、大井が突き飛ばして座らせる。

たまらず、夏子が、山小屋に刑事がいるとは限らないんだから、赤ん坊を助けてやってと懇願する。

結局、問題の山小屋の横を通り過ぎても、刑事らしき人影はおらず、安堵した大井は、サブにガイド役を命じ、細い橋を渡る。

その時、反対方向から警察のジープトラックが近づいてきた。

サブは、バスが停まると、客を装い、ドアの外に出て、刑事二人(久松晃、花村典克)を明るく出迎える。

刑事たちは、バスのことを聞いていなかったらしく、何だね?今頃…と聞いて来て、来る道では何でもなかったかね?2人組の男に出会わなかったかねなどと聞いて来るが、大井がバス後部で、赤ん坊に銃を突きつけていることを知っている運転手は、何もなかったと答えるしかなかった。

その時、今まで息がなかった赤ん坊が突然泣き出す。

息を吹き返したのだった。

時枝は喜び、一旦、ジープに戻りかけていた刑事は、何事かとバスの奥を覗き込む。

その時、夏子が、刑事さん取り締まって頂戴と言い出したので、客たちは緊張するが、奥さんを泣かす悪い旦那をと続けたので、時枝を捨てた夫のことだと言うことになり、刑事はそのままジープに乗って去ってしまう。

一難去ったサブは、トランジスタラジオをどこからか持ち出して来て聞き出す。

バスは再び走り出すが、小川を渡ろうとした所で、突然ストップしてしまい、クラクションも鳴り出して停まらなくなる。

本部との無線交信をするため停止していた警察ジープに乗っていた刑事たちは、そのクラクションを聞くと、どうした?と上の方から声をかけて来るが、運転手がボンネットを開け、中の様子を調べると、何とかクラクションも止まる。

バスは、車輪をぬかるみに取られてしまい動きが取れなくなっていた。

夏子は、バスの下に潜り込んでいた青木と何事かを打ち合わせしていたが、サブが近づいて来ると、トイレがしたくなった風を装い、夏子だけ山の方にサブと一緒に離れる。

客たちは全員で、バスを押すことになるが、青木は、夏子から聞いた指示を小声で全員に伝えて行く。

サブは、山に入る間、あれこれ夏子を口説こうとしていた。

夏子は、小用をたすため、草むらの中に入る振りをし、その辺に仕掛けてあった狩猟用の罠を見つけ出す。

戻って来た夏子は、サブに、さっきの話は本当?と、自分と分け前を二分しても良いと話していたサブの話に乗る振りをする。

サブは喜んで、その場で夏子を抱こうとするが、夏子はショールを脱ぎ、女はムードが好きなのよなどと言いながらサブをじらし、草むらの中に誘い込むと、サブと抱き合い、横になり転がる振りをしながら、巧みにサブを罠の方に連れて来る。

拳銃で乗客たちを脅しながら、バスを押させていた大井は、突如森の中から自分を呼ぶサブの声が聞こえてきたので、何事かと森へ入って行く。

その頃、夏子は草むらの中を遠回りして、バスの通り道へ向かっていた。

大井は、森の中で、トラばさみに足を噛まれているサブを発見する。

サブは、一杯食わされた!と叫びながら助けを求めるが、大井は、この足じゃ動けないと言い残してその場を立ち去ろうとする。

すると、裏切られたと悟ったサブが、密告してやる!と叫び出したので、再び戻って来た大井は、その場でサブを射殺してしまう。

その後、大井は、バスの元に走って戻るが、その頃、ぬかるみにはまり込んでいたバスがようやく動き出していた。

客たちは全員、急いでバスに乗り込むと出発しようとするが、その時、夏子が戻っていないことに高田富夫が気づき、阿久津澄江が止めるのも聞かずバスを降りると、夏子を探しに行く。

その時、夏子が座っていた席から、夏子が落としていた財布を拾ったのが花島だった。

やがて、バスの進行方向の崖の上の草むらに姿を現した夏子を発見すると、高田は夏子を抱えてバスに戻って来る。

大井も、元の場所に戻って来るが、既にバスが走り出していたので、銃を撃ちながら追いかけて来るが、客たちは全員、席の下に身を伏せ難を逃れる。

夏子の身体の上を自らの身体で覆いかばってくれたのは森だった。

夏子は、森にタバコを差し出しながら、あんた、軍医だったんだってと話しかける。

森は、筍軍医さと謙遜する。

どうして奥さん殺したのさと聞いてきた夏子に、森は、10年振りに日本に帰ってきた時、母も亡くなっており、急に知りあいに会いたくなって妻を実家に訪ねたが、話をしている時に、よった亭主が帰って来て暴れ出したので殴ったら、妻が止めやがった。気がついたら、二人とも死んでいたと森は語る。

その時、吉岡ハルが、荷物棚にさっきのギャングたちが置いて行った鞄を発見する。

降ろして中を確認すると、銀行から盗んだ2千万円がそっくり入っていたので、花島たちは興奮する。

社長や夫人も、その大金を観ると、これだけあれば会社が何とかなると言い出す。

時間は12時5分だった。

花島は、これで、俺たちが町に着いたら、ギャングをやっつけて金を取り戻した英雄と言うことで一躍有名人になると浮かれ出し、中山社長と酒を酌み交わし始める。

その時、一瓶床に落として酒をこぼしてしまったので、それを観ていたやす夫人は、不吉な…と不安がる。

もう一本の酒を飲み、よった花島は夏子の隣に座ると、どうやってギャングをやっつけたのか聞く。

夏子は冷静に、罠にかけたのよと答えるが、花島はしつこく、どうやって犯人をて名付けたのですか?などと聞き出したので、青木が止めたまえ失礼じゃないかと注意するが、花島は逆上し、人生経験がない者がよけいなことを言うな!あなたの人生の経験もお聞かせ願えませんかと、再び夏子に迫りながら、拾った夏子の財布を広げて客たちに見せる。

そこには、彼女が売春婦である証しがあった。

夏子は諦めたように、そうさ、私はパン助さ。パン助に助けられたんじゃ、あんたらの名誉が傷つくってのかい?バカにしやがってと開き直る。

花島は、黒人を相手にしている夏子のことをバカにする。

その時、時枝が森の所へ赤ん坊を抱いてきて、熱があるんですと訴える。

森は、赤ん坊の様子を見て、脳膜炎を起こしかけている。頭を冷やす為に水はないかと聞く。

客が水筒を持っていたが、それだけの量では足りなかった。

やがて、車窓から川が見えてきたので、時枝はバスを停めて下さいと頼むが、花島は、君たちにバスを停める権利はないぞと言い出す。

赤ちゃんにも人格はあるんだと青木が抗議すると、おれたちにもぱるんだと中山社長たちが立ち上がる。

しかし、バスが停まったので、花島が怒ると、運転手は、バスも水を欲しがっていると言いながら、ボンネットから上がっている煙を示す。

仕方なく、青木や高田が川まで降り、水をバケツに汲んで、上に運び上げる。

それを受け取った中山社長は、バスまで運んでくれと言われたので、最初はむっとするが、バスに運び入れる頃にはその仕事を楽しんでいるようだった。

花島は、運転手が一向に、エンジンに水をかけるそぶりを見せないので、騙されたと察し怒り出す。

その頃、バスを追ってきていた大井は、近道を通っていた。

客たちは全員、赤ん坊の面倒を観始める。

森は運転手の側に来ると、あんたのお陰で医者らしいことやったと感謝する。

すると、運転手は、満州で自分も妻子を死なせてしまったと辛い打ち明け話をする。

バスが出発すると、高田は、バスの天上にぶら下げていた2千万円の入った鞄を見つめ、その中の現金を妄想する。

やがて、バスは、崖崩れの場所に到着する。

客たちは全員外に出て、道をふさいだ大木や石を崖下に落とし始めるが、その時、バスに一人戻って来た高田は、天上に吊るしてあった鞄を奪い取り、反対方向へ逃げ出す。

大木を動かしていた客たちは、バスの背後で銃声を聞き、驚いて振り返ると、そこにあの大井の姿を発見する。

高田から鞄を取り返した大井は、銃で運転手を脅しながら、バスを動かせ!他の者は石をどかせるんだ!と命じる。

その時、時枝が、和子がバスの中に入ると言い出したので、森が大井に、バスの中の赤ん坊を渡してくれ。そしたら仕事をすると頼む。

しかし、大井は、早く仕事をしろ!赤ん坊は預かっておくと言う。

その時、運転席から降りてきた運転手が赤ん坊を抱えていたので、大井は運転手を殴りつけると、赤ん坊を奪い取る。

赤ん坊は火がついたように泣き出し、それを見かねた夏子が前に出ると、帰して頂戴と訴える、

他の女客たちも、夏子の横に並ぶ。

老婆の柳川しづは、赤ん坊はあんたのことが嫌いなんだよと言う。

大井は仕方なく、赤ん坊を地面に置いて相手に渡すと、仕事をしろと命じる。

客たちが石をどけ終わると、大井は、全員崖っぷちに並べと言い出す。

そして、まず、やす夫人を蹴り落とそうとするが、夏子は、サブの礼がしたいので、こっちに来いと呼ぶと、サブの足は骨が見えてたぜ。同じようにお仕置きしてやると言いながら、木の枝を振りかざすが、その時、トランジスタラジオが銀行ギャングがバスに乗って逃亡中!現在、根っこと有家付近を通過中の見込みと臨時ニュースを流し出す。

大井がそのニュースに気を取られている隙に、客たちは散り散りに逃げ出す。

森は大いに飛びかかると、銃を持った手を崖の方に突き出させる。

その崖下には、花島が身を隠していたので、目の前に現れた拳銃を奪い取ってしまう。

焦った大井は、地面に置いていた2千万円の入った鞄を持ち上げようとしていたが、その背後に近づいた柳川義太郎が木の枝で大井の頭を殴りつける。

地面に倒れた大井が立ち上がろうとすると、花島が自分に銃を向けている。

仕方がないので、バスに飛び乗ると、自ら運転してその場を逃げ出す。

そこに、刑事たちが乗った警察ジープが到着し、客たちから事情を聞くと、すぐさまバスを追跡し始める。

大井は、くねくねと曲がりくねった山道を、猛スピードで逃げていたが、背後に迫る警察ジープに気を取られた瞬間、ハンドル操作を誤って、崖下にバス諸とも墜落してしまう。

客たちの元に戻って来た刑事たちは、あの人は立派なことをしたんだとかばう青木に、法は曲げられないと言いながら、森の手に手錠をかける。

客たちは、ジープの荷台に全員乗せられ、橋本へと向かう。

荷台の夏子は、ジープの助手席に乗せられた森に、タバコを渡す。

吉岡ハルは、もう女優になるのは諦めて国に帰るとつぶやく。

その時、誰かが「汽車よ!」と叫ぶ。

しかし、花島だけは、今更間に合ったって、どうしようもないよ!と癇癪を起こすのだった。

遠くに、煙を吐いて走る列車が見えていた。