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さや侍

2011年、吉本興業株式会社、京楽産業.株式会社、高須光聖+長谷川朝二+江間浩司+倉本美津留+板尾創路脚本、松本人志脚本+監督作品。

※これは新作ですが、最期まで詳細にストーリーを書いていますので、ご注意ください。コメントはページ下です。

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森の中、必死に走る伊香藩水位微調役・野見勘十郎(野見隆明)、途中で息が切れ、苦しげに立ち止まる。

タイトル

その野見の後を追うのは、まだ幼い一人娘のたえ(熊田聖亜)だった。

野見とたえが橋を渡っていると、向かい側から一人の粋なオンアが三味線を持って歩いて来る。

その女は、野見とすれ違い様、三味線に仕込んだ刀を抜くと、野見の背後から斬って来る。

大量の血しぶきが上がるが、野見は痛さと驚きで逃げ出し、しとめ損なった三味線のお竜(りょう)は舌打ちをする。

たえは、崖に生えた薬草を一人採って来ると、それを石で砕いて手ぬぐいにはさみ、父親の背中に湿布のように貼ってやるのだった。

野見勘十郎は、妻が死んで以来、刀の中身を捨て去り、鞘だけを差して脱藩したため、手配書が出回っていたお尋ね者の侍だった。

傷が癒え、又、たえと旅を続けていた野見だったが、突然、崖の上から銃撃される。

待ち受けていたのは、二丁拳銃のパキュン(ROLLY)だった。

野見は後頭部から大量に血しぶきを出すが、急所をそれたらしく、悲鳴を上げると、又、その場から逃げ出すのだった。

その夜、たえは、父、野見の頭に包帯をしてやる。

その後、茶店で休んでいた野見を、天井に潜んでいた坊主頭の骨殺師ゴリゴリ(腹筋善之介)がぶら下がって来て、首の骨をへし折…ったはずだった。

しかし、またもや、何とか命拾いした骨殺師ゴリゴリ(腹筋善之介)は、お堂の中で、たえから首に、薬草の湿布をしてもらっていた。

さすがに耐えかねたように、父上、いつまで逃げているつもりですか?お侍なら戦って下さい。

それが出来ないのなら、お侍らしく終わって下さい。確かに、母上様のことは残念でしたが…と、無言で寝そべっている父親に説教していた。

そのとき、お堂の周囲には、捕り手が迫っていた。

それに気がついたたえだったが、声を出す前に、捕り手に口を押さえられてしまい、お堂の中になだれ込んだ捕り手たちによって、ぐるぐる巻きにされた野見が背負われて連れ出される。

かくして、野見勘十郎の人相書きには、捕まった証しに赤い×印が付けられた。

それを発見したゴリゴリは「どう言うことだよ!」と悔しがる。

バキュンもやって来て、手配書を観る。

お竜も合流して、あたいたちも焼きが回ったようだねと自嘲しながらも、ここの殿さま(國村隼)は変わり者で、不思議な罰が待っているそうだと他の二人に教える。

捕まった野見勘十郎に、脱藩して2年と3月も逃げ回っていた野見勘十郎に、罪状を言い渡していたのは、多幸藩家老(伊武雅刀)だった。

家老は、30日の間に、母親を亡くして以来、笑顔を失ってしまった若君を笑わせることが出来たら免罪、出来なかかったら切腹と言う「30日の業」を言い渡す。

30日間、人を笑わす為に恥をかき続けるこの罰則、侍には辛いことだよな…と、バキュンが同情する。

「30日の業」を言い渡された野見勘十郎を城から外に連れ出したのは、牢見張りの倉之助 (板尾創路)と平吉(柄本時生)だった。

おしゃべりな平吉は、この業を言い渡されたのは何人目だったっけ?13人目だっけ?と独り言を言い続けていたので、倉之助 からうるさい!と叱られる。

すると、黙った代わりに、妙な鼻歌をずっと歌い続け始める。

多幸藩牢屋敷に到着した彼らは、野見を牢の中に入れるが、平吉が倉之助に、この子どうします?ずっと付いてきましたけど?と尋ねる。

たえのことだった。

仕方がないので、倉之助は、娘も父親と一緒に牢に入れてやることにする。

たえは、何故、このようなことになる前に御自害なさらなかったのです!と野見を叱りつける。

翌日、城の御前に連れて来られた野見は、みかんを半分似切ったものを両目に貼り付け、口には赤いものを頬張っていた。

しかし、若はにこりともせず、殿はこんぺいとうを口に投げ込み、家老は「切腹!」と命じ、「残り29日!」と脇の侍が声を上げる。

その顔のまま、牢でも続けていたので、たえは、一体何がやりたかったんですか?と呆れてダメ出しをする。

2日目、野見は、鼻の右の穴にうどんを差し込むと、左穴を指で押さえ、思い切り吸い込んで行く。

もちろん若はにこりともせず、殿はこんぺいとうを口に投げ込み、家老は「切腹!」と命じ、「残り28日!」と脇の侍が声を上げる。

牢屋敷に戻った野見に、又たえが呆れたようにダメ出しをする。

そんなたえに、野見は頼みがあると言い出し、腹に顔を描いてくれ、踊って見ようと思う。

たえは、絵が得意ではないので…と断るが、翌日、野見は、たえが顔を描いた腹踊りを披露する。

もちろん、結果はいつも通りだった。

牢に帰って来たたえは、何だか私が悪いことしたみたいじゃないですか!と怒る。

外で座って弁当を食っていた平吉が、親子喧嘩していますよと倉之助に言うので、仕方ないなと立ち上がった倉之助は、牢の中に向かって、静かにしろと声をかける。

中に入って来た倉之助たちに、正座したたえは、多幸藩のたえでございますと丁寧に名乗った上で、どじょうすくいをどう思います?と聞いて来る。

どじょうすくいの練習をしていた野見の姿をしばらく観ていた倉之助は、持っていた箸を二つに折ると、これを鼻に差してみろと提案する。

翌日、城の中から「切腹!」「残り26日!」と声が響いて来る。

牢に戻って来ても、野見はどじょうすくいを続けていた。

呆れるたえを見かね、いつしか見張り番の二人もアイデアを出すようになっていた。

平吉は、駕篭芸はどうかと提案する。

底を抜いた駕篭の中を飛んで潜る芸のことだったが、用意した駕篭を観た倉之助は、派手さに欠けるな…と不満点を言い出す。

平吉は、火をつけてみたら?と言い出す。

確かに、駕篭に火をつけると、危険そうで演出効果満点だった。

しかし、翌日は雨で、火をつけた駕篭はすぐに消えてしまい、効果はゼロだった。

牢に帰って来て反省会のようになり、平吉は、「え?俺のせい?雨までは予測できませんでしたよ」と愚痴をこぼす。

たえは、いきなり、そんな平吉の腰から小刀を抜くと、それを父親の前に差し出し、自害しましょうと勧める。

平吉は驚きながらも、それも良いかもと諦めかけるが、もし、30日の業の間に自害されたら、俺たちの首も飛ぶぞと倉之助が指摘すると、慌てて小刀を取り戻すと、部屋の中にあった庭箒を手に取り、これで口三味線でもやってみますかと提案する。

翌日の結果はいつも通りだった。

その日は、倉之助が「独り相撲」のアイデアを出すが、その結果も同様だった。

「駕篭の中に入った二匹の蛇を蝶結びにする芸」も失敗。

赤と黒の金魚を飲み込み、注文通り口から取り出す「人間ポンプの芸」も失敗。

土の中に全身潜り、忍者のように、竹筒だけで息をする芸も失敗。

鼻で横笛を吹く芸も失敗。

生の大蛸と人間の戦いの芸も失敗。

野見が、びっくり箱の中から飛び出す人形を演ずる「人間びっくり箱の芸」も失敗。

ブランコに足でぶら下がり、吹き矢で紙風船を割る芸も失敗。

傘の柄を尺八に見た立て吹く芸も失敗。

顔にかぶった網の先に付いた綱で石を持ち上げる顔芸も失敗。

野見が、巨大な富くじの回転箱の中に入る「人間富くじ」も失敗。

目隠しした野見が、倉之助が振り下ろす竹刀を手で受け止めようとする芸も失敗。

その日も、牢に帰って来た野見だったが、鞘を落としたのに気づいた倉之助は、それを拾って、腰に差してやる。

もうアイデアが尽きて来た平吉は、縄跳びでもさせてみます?と言いながら、牢の中で、一本の綱を野見に手渡す。

野見は、すぐに縄跳びを始めるが、二重跳びも満足に出来ない有様だった。

中二階に上がって何も言わなくなってしまったたえに気づいた倉之助は、わざと野見に、百回飛べ!二重跳びで百回飛べ!この、薄のろ!能無し!このさや侍!とののしり始める。

それを聞き、耐えきれなくなったたえが、父はお侍です!無礼は許しませぬ!と、中二階から顔をのぞかせる。

すると、父を途中で見捨てた娘が何を言う!何故考えぬ?父を、さや侍のまま終わらせる気か!と叱る。

その夜、外で座っていた倉之助は、牢の中から呼ぶたえの声に気づく。

何事かと近づくと、30日の業と言うのは、御城内でしか許されないのでしょうか?とたえが聞いて来る。

城の外で出来ないのかと思いまして。お頼みしていただけませんか?とたえは言う。

分かったと返事をした倉之助だったが、一つ聞いて良いか?と逆に言い出し、父上には切腹を望んでいたのではないか?と聞くと、父をさや侍だけでは終わらせませんとたえは言い切る。

それから、色々気を使っていただきましてありがとうございますと、殊勝に礼を言って来たので、倉之助は、何のことだ?ととぼけ、それに、まだ、許しを得られるかどうかも分からぬと答えるのだった。

翌日、ゴリゴリとバキュンは、人気の団子屋の客の列に並んでいた。

そこにお竜も合流するが、後ろの方から「割り込みしてんじゃないよ!」と怒鳴る声が聞こえたので、三人そろって後ろを睨みつけると、「すみませんでした…」と謝る声が聞こえて来る。

情報通のお竜は、今日、浜でやるらしいよと、30日の業が、はじめて城の外で行われることを教えると、バキュンは面白そうだから観に行ってみよう、お前が並んどいてくれと言い残し、お竜と出かけたので、残ったゴリゴリは、何で俺が並ばなきゃいけねえんだよ!俺も行くよと列を離れる。

海岸に作られた巨大な大砲の前に立ったたえは、この男、大砲に入り、天高く飛んでみせまする!といきなり口上を述べ始める。

殿さまは、いつもつきもののこんぺいとうを手でいじり始める。

たえの様子を笑顔で観ていた倉之助と平吉は、野見を大砲の筒の中に入れて着火する。

大砲から発射した野見は、そのまま海の中に落ちて行く。

殿さまは鼻で笑ったが、若様の方はにこりともしなかったので、結果はいつも通り「切腹!」だった。

夜、又、団子屋の列に並び直したゴリゴリ、バキュン、お竜たちは、今日の野見の芸の論評をし合っていたが、バカバカしくて面白かったと意見が合った所で、いつの間にか、売り切れた団子屋が店じまいしていたことに気づく。

牢の中では、倉之助が、今日の失敗は決して無駄ではなかったようだ。これからも民衆に公開してやることになったらしいと伝えていた。

すると、大砲に火をつけたんで、俺の心にも火をつけちまったぜなどと平吉が張り切り出したので、皆笑い出す。

翌日から、牢屋敷から城に引き立てられて行く野見に、町人たちが、頑張れよ!と声をかけてくれるようになる。

もう、野見には綱も付いていなかった。

深編み笠の僧侶が、そんな野見に手を合わせる。

城では、番号を記した木札をもらった見学客たちがどんどん詰めかけていた。

たえが、「この男、どんな馬でも乗りこなせてみせまする!」と口上を述べ、木製のロデオマシンに乗った野見が、必死に動きを激しくする馬に又がっていたが、やがて振り落とされる。

結果は「切腹!」

翌日は、魚拓ならぬ「人拓」、全身、裸の野見が墨を頭からかぶって、大きな色紙に体当たりし、その痕跡を見せる。

殿さまは思わず吹いてしまうが、照れ隠しか、いつものようにこんぺいとうを口に入れてしまったので「切腹!」と家老は叫ぶ。

翌日の出し物は、たえが刀で父の首を斬るまねをし、一瞬、野見の首が下がったようになるが、「首が戻ったぁ!」と言うセロの奇術芸。

結果は「切腹!」

翌日の出し物は「人間花火」と決まり、花火の衣装を着た野見が、一生懸命、牢の中で花火の動きをやってみる。

それを観ていたたえは、良いと思いますと満足する。

翌日、城には、29尺6寸もある、巨大なやぐらが組まれ、その上に巨大な石が置かれていた。

その石を地面に落とす反動で、紐に繋がった野見が空中に飛び上がると言う仕掛けだったが、巨石が下に落ちた際、想像以上に、砂利が飛び散る。

それを思わず避けたたえが気がつくと、いつも通り笑わない若様の左手の甲に、少し血がにじんでいた。

砂利が当たったのだ。

その日、牢に戻って来た野見に、平吉は、紙縒りを鼻の穴に差し込み、くしゃみをさせてみていたが、そんな中、倉之助とたえは、城に向かっていた。

倉之助が門を開けさせ、たえと中に入ると、倉之助は城番を呼び出し、無駄話を始める。

その隙に、たえは屋敷内に忍び入る。

若様の寝室に入り込んだたえは、無礼を詫びながら、手、大丈夫?と聞く。

若様は、向こうを向いて寝ていたので、返事はなかったが、どんな傷でも七日で直る七日草と言う薬草を持って来た。父上には効くので、あなたにもきっと効くと思うと一方的に話しかける。

だって、あなたと父上は似ているから…とたえは続ける。

私の母も流行病で死んだの。それ以来、私の父は刀を取らなくなってしまったので、始めは、そんな父親を私は恥ずかしいと思っていたが、今は違う。父は刀を持たずに戦っているのです。あなたも、母上の為に戦うの!あなたのために…と言い残し部屋を出る。

寝ていると思った若様は、目を開けて聞いていた。

翌日、城内の見物客はさらに増えていた。

その日の野見の芸は、カステラを立ち並ぶふすまを突き破りながら若殿に持って行くと言うもの。

最初の数枚は難なく突破した野見だったが、徐々にふすまが固くなり、最期の方になると、なかなかふすまは破れなかった。

それでも、最期の一枚を何とかくぐり抜けた野見は、背中に背負った風呂敷を降ろし、若殿に近寄ろうとする。

一瞬、危険を感じた家老たちが刀に手を取りかけるが、野見の様子に危険はないと感じたとのがそれを制し、野見は風呂敷から取り出したカステラを若様に差し出す。

すると、やおら若様はそれを手に取る。

しかし、その表情はいつも通り無表情なままだったので、即座に家老は「切腹!」を言い渡す。

残りは5日であった。

その5日もあっという間に過ぎ去り、泣いても笑っても後一日になる。

倉之助がそうしみじみ言うと、たえも、早かったですねぇと大人びた返事をする。

そのとき、平吉が牢に飛び込んで来て、良い話を聞いて来た。若君が好きなのは風車らしいと言う情報を持って来る。

赤ん坊の頃から、風車を見ると泣き止んだと言うくらいらしい。

それを聞いたたえは、それが本当なら望みがありますと喜ぶ。

翌日、城の中には、巨大な赤い風車が立っていた。

いつも通り、たえが口上を述べる。

この男、息を吹きかけ、大風車を回してみせます!

野見は、風車に向かって息を吹き出すが、風車はびくともしない。

それを息を詰めるように見守る見学客たち。

その中には、もちろん、ゴリゴリ、バキュン、お竜の姿もあった。

野見は、自らの鞘を握りしめ、力を込めると、さらに息を吹き続ける。

すると、風車が少し回る。

見学客の中からは、自然に「野見」コールが起きていた。

たえもいつしか、祈っていた。

すると、にわかに風が吹き始める。

若様はいつも通りにこりともしなかったが、じっと野見の姿を見つめていた。

そのとき、突風が吹き、風車が回り始めるが、風の勢いで、風車の支柱が倒れかけていた。

気がつくと、その支柱を支えていたのはたえだった。

それを驚いたように見つめる野見。

若様も、いつの間にか立ち上がっていた。

倉之助が叫ぶ。

野見〜!吹くんだ!

しかし、野見は呆然としているだけで吹けなかった。

そしてたえが支えていた支柱は倒れてしまう。

「それまで!30日の業はこれまで!」家老がそう告げる。

「野見勘十郎、明朝、辰の刻、切腹を執り行うものといたす」…

そのとき、殿さまがちょっと待て!と家老を制し、何やら耳打ちする、家老は驚き、いや、それは…と躊躇するが、やおら、有余を与えると家老は野見に言い添える。

明朝、切腹するまで、若君が笑顔を見せられれば、御咎めなしとすると言うのだった。

その日、牢では、殿から拝領した酒と、野見の好物のトウモロコシを前に、倉之助と平吉が喜び合っていた。

上様のお慈悲なんだ。施しのもろこしよなどとシャレを言い合いながら…

中二階では、歯がない野見が、必死にトウモロコシをかじっていた。

酒を飲んでいた倉之助は、辞世の句で勝負と言うのはどうだろうと言い出す。

すると、平吉が、「切腹をしなきゃ、上様、ご立腹」って言うのはどうかと提案するが、倉之助がバカにして、「切腹は 嫌だ おなかが痛いから」と、自作を自慢げに披露し、平吉から首を傾げられる。

その後も、「切腹と接吻は似て非なるものなり」などと、字数が合っていない句を詠み合う。

翌朝、城に向かう野見に、町民たちが熱い声援を送っていた。

その背後から付いて行く倉之助と平吉は、両方の辞世の句を教えたが、野見勘十郎はどっちを採用するだろうなどと話し合っていた。

そんな中、野見は、いつものように合掌している僧侶に近づくと、わざと身体を当て、その後は何事もなかったかのように曲がって城に向かう。

そのとき、はじめて、付いて来ていたたえの手を握ったので、たえは喜ぶ。

御前で白装束になった野見勘十郎だったが、そのとき、殿さまは家臣に何か言いつけ、若様の前に日傘を立てる。

そして、もっと下…と、傘の角度を下げさせる。

それを観ていた家老は、それでは、若様のお顔が見えませぬと抗議をすると、わしには見えるから良いのじゃ。わしが笑ったと言えば笑ったのじゃと殿は言う。

それを聞いていた見物客の中のお竜は、上様のご配慮だと喜ぶ。

野見勘十郎を助けようとする殿さまの配慮だと気がついたのだ。

殿さまは、野見に対し、辞世の句を詠めと命じる。

しかし、野見は何も言い出そうとしなかったので、じれた倉之助が、早く言えよと横から声をかける。

平吉は、忘れちまったのかな?と心配し、お竜も思わず、何で言わないのよ!と呼びかけてしまう。

殿さまはもう一度、何か申せと命じ、いら立った倉之助は、何でも良いから言っちまえ!と叫ぶ。

たえは、何か言って!と絶叫していた。

すると、野見勘十郎は、いきなり小刀を手にすると、自らの腹に突き立てる。

野見の頭の中では、いつまで逃げ続けるおつもりなのですか?父上はそれでもお侍なのですか?と責めるたえの声が響いていた。

慌てた介錯人が刀を振り下ろそうとするが、野見は片手でそれを制し、血にまみれた小刀を、自らの鞘に納める。

次の瞬間、介錯人は刃を振り下ろしていた。

殿さまのこんぺいとうのガラス鉢は倒れてこぼれていた。

その後、たえは一人で城を出ると、町から、大砲が据えてある海岸、お竜とすれ違った箸などを過ぎ去り帰っていた。

河原に着いたたえは、一人の僧侶が立っていることに気づく。

僧侶は傘を投げ捨てると、朝、野見から託された手紙を取り出し、それを読み始める。

父は死にました。

でも、生きていたときより元気です。

血を観ましたか?

美しかったですか?醜かったですか?

首は転がり落ちましたか?

それは上を向いていましたか?

投げ捨てた何かに追いつめられていた中、あなたは背中を押してくれたのです。

父は侍でしたか?

心配しないで下さい。

父は母と一緒にいます。

あなたにとって幸せかどうかは分かりませんが、親と子の絆は、こんなものかもしれません。

父に会いたくなったら、愛する人に出会いなさい。

愛しなさい。

めぐり〜めぐり〜♬めぐり〜めぐって〜♬

あなたが父の子に生まれた時のように、めぐり〜めぐり〜♬

いつか、父があなたの子として生まれるでしょう〜♬

めぐり~めぐり~♬めぐり~めぐって~♬ただそれだけですが〜♬

それが全てです〜♬

そうの編み笠は、いつしか川に流されて行く。

たえは合掌していた。

殿さまが作ってくれたのか、大きな父親の墓に。

気がつくと、後ろで若様も合掌してくれていた。

そのとき。墓石の後ろから、突如、白装束の野見が出て来て、「首が〜!戻った!」と、例の芸をやってくれる。

喜んだたえは父の姿を追い、その後を笑顔を取り戻した若様も追いかける。

いつしか父の姿は消えていたが、子供二人はいつまでもかけっこをしていた。

エンドロール

時は流れ、今でもトウモロコシが供えてある野見の墓石の横を、自転車に乗った松本人志が通り過ぎて行く。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

松本人志監督の第3作目。

冒頭、テレビコント風の賞金稼ぎたちによる追っかけギャグで始まるので、そう言うナンセンス路線で突き進むのかと思いきや、意外とあっさり話は展開し、古くさいお座敷芸を使った「お笑いウルトラクイズ」風の趣向になってしまう。

かつて、クレージー映画などにも同様の趣向があったが、笑ったことがない人を何とか笑わせる…と言う設定は、お笑いの振りとしては非常に危険な賭けで、最初から観客は笑わせに来るなと予期しているので、ちょっとやそっとのことで笑うことはない。

作り手側もそれは最初から承知なのか、思いっきりくだらない芸の羅列に終始するが、そこから話は、牢の見張り番も巻き込んだ共同作業の熱い展開になって行く。

最初は、父親のふがいなさを恥じていた娘も、やがて、共同作業の面白さに熱くなり、それを黙って実行して行く父親に、「武器は持たなくても戦っている男の姿」を観て共感するようになる。

ところが結末では、そうした娘の熱い思い込みとは逆に、絶えず「現実逃避していた」父親が、娘の叱責を後押しに、自ら刀を取り、自害してしまうと言う奇妙な展開になっている。

途中、城に忍び込んだたえが、寝ていた若様に伝える「父親は、刀を持たなくても戦っている」と言う、いかにも「武器を持たずとも人は戦える、生きることに立ち向かえる」と受け止められる立派な考え方が、実は全く見当外れであったと言うことになる。

結局、野見は、妻に先立たれた悲しみで武士としての生き方を放棄した。

その後も、あらゆることから逃げ続けると言う臆病な現実逃避をしていたので、最後には、その自らのふがいなさに気づき、武士として、武器を持って自らを成敗したと言うことになる。

しかし、これは観ようによっては、笑いと言う勝負にも勝てそうになかったので、又、現実逃避をして、武士の方にすり寄ったと言う風にもとれる。

こうした主人公の不鮮明な行動は、最初から意図したものなのか、それとも、何かの計算ミスなのか?

テレビのコント風な発想で着想してみたけれど、結局、笑いの方向では巧くまとめられそうにもなかったので、父と娘の情愛と言うお涙頂戴感動系の方向へ逃げたと言う風にも受け止められるし、ラストのメッセイージの方が先にあったと言うなら、そこまで延々と繰り広げられたナンセンス劇は何だったのか?と言うことになる。

その辺の解釈の仕方で、この作品は傑作のようにも思えるし駄作にも思える。

そうした玉虫色にすることによって、観客を戸惑わせるのも計算の上と言うことだったら、監督の狙いは成功していると思う。

基本的にテレビっぽい発想なので、今のテレビ好きな層には分かりやすいと感じる作品かもしれない。

それにしても、「笑い」+「泣かせ」とは…

まるで、往年の松竹新喜劇だが、それを作ったのが吉本系の芸人と言うのも面白い。

それも又、計算の上だったのか、たまたまそうなったのか…?