TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

奥様に知らすべからず

1937年、松竹大船、リチャード・コネル原作、池田忠雄+岡田豊脚本、渋谷実監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

田園調布の屋敷に住む横山ふみ子(岡村文子)は、ある朝、布団の上で音楽に合わせ体操をしていた。

その直後、用意した体重計に乗るが、「あら?」と不思議がり、一旦降りると、もう一度、片足から慎重に台に上がってみるが結果は同じ。

機嫌が悪くなったふみ子は、女中のお初(水戸光子)を呼び出すと、お前はいくつかと聞く。

お初が19と答えると、その年頃は、もうちょっとぽちゃぽちゃっとしているはずなんだけど、お前はどうしてそんなに痩せているんだい?とふみ子は聞く。

お初が、もう少し良いものを食べさせていただければ太るんですが…と答えると、ふみ子は何を言うのかと不機嫌になり、お前は腹黒いから、何か私が食べるものに太る薬でも入れているのじゃないかとあらぬ疑いをかけ、これから毎食、20カロリーずつ減らすから研究しておくようにと言いつける。

書斎で鉢植えの花に水をやっていた主人の横山(斉藤達雄)の所にやって来たふみ子は、又、目方が2kgも増えてしまったと愚痴を言うので、横山は、私は太った方が好きだし、平安時代の頃はふくよかな女性が美人だったのだと慰めるが、デートリッヒやグレタ・ガルボ、シモーヌ・シモンなどをご覧なさい。体重は最大級でも120ポンドまででなければいけないと主張し、あなたは、鈍感なロバ、略して「鈍ロバ」だと侮辱する。

すると、側にあった鳥かごの中のオウムまで「ドンロバ!」とまねをしたので、横山はオウムを睨みつける。

ふみ子が、着物でも着ようかしらと言い出したので、面倒くさくなって、着なさいと勧めた横山だったが、ふみ子は、どの着物が良いか見立てて…などと甘えて来たので、横山は、クラブに行く時間だと言い断る。

すぐに帰って来るんでしょうね?と迫られたので、すぐに帰りますと横山が答えると、お初に支度をさせると言いながらふみ子は出て行く。

その後、又オウムが「ドンロバ!」と叫んだので、横山は怒って、鳥かごを掴んで揺らすのだった。

横山は、今度は魚に餌をやりながら、自分は世界の動物の中でお前たちだけが俺の味方だ。なぜなら、一言も口をきかないからとつぶやく。

その後、クラブでビリヤードに興じていた横山は、夫婦生活で大切なのは愛ではなく忍耐です。女房を愛せますか?と男たちを前に、日頃の女房への不満を論じ始めたので、それを聞いていた川田文吉(坂本武)は、いたく感激し、まさに、女房はけしからんですなと言いながら、初対面の横山に握手を求めて来る。

川田が名刺を差し出そうとした時、ボーイが来て、奥様がお見えになっていると告げると、川田は横山にご挨拶は又いつかと頭を下げ、その場を立ち去り、入口付近で待っていた女房のみつ子(吉川満子)に会う。

何お用だと聞く川田に、みつ子夫人は、あなたの会じゃないの、忘れたの?と呆れたように返事し、歌舞伎鑑賞のことだと川田氏は思い出す。

みつ子夫人と出かけた川田は、途中で飽き、近くを通りかかった美人などの方に目をやるが、隣のみつ子夫人が膝をつねって来たので我慢するしかなかった。

しかし、そのみつ子夫人の方も、途中であくびをし出す。

やがて、休憩時間となるが、みつ子夫人は席を立とうとした川田に、その場に残って席とりをしていてくれと命じられたので、仕方なく居残ることになる。

みつ子夫人が、会場の入口付近で、他の夫人たちとおしゃべりを始めたことに気づいた川田は、前に座っていた老人に声をかけ、この席のものが戻って来たら、自分は腹痛で先に帰ったと伝えてくれと頼み、さっさと劇場を後にする。

その足で、馴染みのバーに寄った川田は、マダム(若水絹子)に、新顔の娘を呼ばせ、名前を聞く。

春江(東山光子)と名乗ったその娘を気に入った川田は、自分は女房などいないと言い、口説きはじめる。

すると、呆れたマダムが、川田の自宅に電話を入れ、みつ子を呼び出すと、春枝に代わる。

春枝は電話に出ているみつ子が誰か知らず、最近ご不幸がありませんでしたか?と聞くと、2週間ほど前にあったと言う。

奥さんが亡くなったのですか?と聞くと、驚いたみつ子は、死んだのは犬のジョンであり、あなたは一体誰なのと怒り出す。川田を出しなさい!と怒鳴り始めたみつ子夫人は、春江が黙って電話を切ると、受話器に向かって、憎々しそうにつばを吐きかけるのだった。

その頃、ふみ子夫人の方は、着物に合わせ、日本髪のかつらをかぶってみて、かつら屋に細かい手直しを命じていた。

そして、女中のお初に、最近、家の人は日本趣味になってないかい?と尋ねる。

確かに横山は、その頃料亭で贔屓の芸者蔦丸(坪内美子)相手に、日本酒を飲んでいた。

しかし、横山は時計ばかり気にしているので、蔦丸がどうしたのかと聞くと、実は家には門限があるので…と言い訳をして、そそくさと車で帰宅する。

車を降りた横山は、運転手に息を吹きかけ、酒の匂いがするかと確認するが、運転手はあまりしないと返事をし、車を発射させる。

しかし、もう門は閉まっており、そこに、「火の用心」の拍子木を打つ火の番(谷麗光)が通りかかったので、又、息を嗅いでもらった横山は、酒の匂いがしないかと聞く。

火の番がすると答えると、横山は、君と一緒に町を一回りして酒を抜こうと言い出す。

火の番から借りた拍子木を打ち、慣れぬことなので思わず指を指さんでしまう横山だったが、火の番の妻のことなどを聞くと、上手くいっていると言う。

やがて、二人は、横山家の裏手にさしかかったので、横山は火の番に手伝ってもらい、塀を乗り越えて屋敷の中に入る。

スリッパとステッキを持ち、お初に、奥様は怒っていなかったか?と聞くと、いいえと答えたので、そのまま部屋に戻り、スリッパで拍子木を打つまねなどをしていた横山だったが、その時、ステッキを床に落としてしまい、大きな音を響かせたので、扉が開いてふみ子がはいって来たことに気づき、固まってしまう。

ふみ子は、息を吐きかけさせ、趣味の手相を無理矢理見ると、感情線がむちゃくちゃですと判定する。

さらに、手のひらを嗅ぎ、安い香水の匂いがすると言い当てたふみ子は、悪い友達に誘われてつい…と言い訳する横山に、刑罰を与えます!と言い切るのだった。

横山は、大きなテーブルの上に三つコップが置いてある場所に連れて来られると、その一つに水をつぎ、そのコップの水を、離れた位置にある二つのコップに移し替えると言う単純作業を命じられる。

ふみ子は、それを二時間続けなさいと言い残し、さっさと自室に戻ってしまう。

横山は、黙って、コップの水を移し替えていたが、最後の方は面倒くさくなり、離れていたコップをくっつけると、水を両方に少しずつ注ぎ分けたりし始める。

翌朝、目覚めたふみ子夫人は、ソファの上で眠りこけていた横山を発見し幻滅する。

横山が目を覚まし、会社に行かなければ…と言うと、あなたは今日、会社に行かなくても良い。禁則です!と言い放ったふみ子は、買い物に行って好き放題に買ってやるから、覚悟していなさいと付け加える。

さらに、食事はよく噛みなさい。タバコでやけどしないように。女中をからかってはダメと、色々ダメ出しをして、お初にも、旦那様には近づかないようにと注意して出かけて行く。

あまりの扱いに唖然としていた横山は、オウムが又「ドンロバ!」と叫んだので、すぐさま、ローストにして食べてしまう。

その頃銀座の化粧品屋にやって来たふみ子は、店員から色々、新製品の説明を受けていた。

そんなふみ子に声をかけて来たのは、たまたま店にいた川田であった。

川田は、初対面のふみ子にあれこれお愛想を言う。

すっかり気を良くしたふみ子が、ハンカチを買おうと品を確認している所へやって来たのが、別室にいたみつ子夫人だった。

みつ子は、夫の川田がふみ子にべたべたしているのに気づくと、不機嫌になり、ふみ子が手にしていたハンカチを取り上げると、自分が買うと店員に頼む。

唖然としたふみ子が、それは私が買おうとしていたのですと抗議すると、はっきり買うと意思表示したのは私の方が先ですと言い張ったみつ子は、夕べ、家に電話をかけて来たのもこの女でしょう!と、まるで、ふみ子が町の女のように悪態をつき始める。

川田とみつ子が帰ったあと、怒りが収まらないふみ子は店員に、今の女は誰だと詰問する。

その頃、お初とおしゃべりをしていた横山は、空気が抜けるゴム人形のまねを披露してやっていた。

その時、ふみ子が突然帰って来たので、お初はあわてて部屋を出て行く。

憤然として横山の元に戻って来たふみ子は、銀座で町の女と言われ、屈辱されたので悔しいと訴える。

相手の名前も分かっており、麹町に住んでいる川田文吉と言う男で、電話番号も調べて来た。あなたが謝罪させないと、私死んじゃうわよと脅かす。

そこまで言われると、仕方ないので、川田なる人物の家に電話をすると、横山は、出て来た川田に、田園調布の横山と言うものだと名乗る。

すると、川田は、エンタツか?ととぼけ、隣にいて耳をそばだてていたみつ子に、あの女の亭主が抗議して来たと教えると、みつ子は脅してやりなさいよと命じたので、仕方なく、川田は、あんたの妻の方が秋風を送ったんだ!俺は柔道五段だぞ、やるなら生命保険を用意しておけと脅す。

すると、横山の方も、自分は拳闘家でミシンガの横山と呼ばれているんだ。来るなら棺桶持って来いと見栄を張り、それでは、明日午後3時、城南ゴルフリングの5番ホール側で待っていると啖呵を切って電話を切る。

それを横で聞いていたふみ子夫人は、すっかり横山を見直すのだった。

みつ子夫人の方も、夫の担架に感心していたが、自分は昔、柔道部の副将だったんだと自慢した川田は、庭に出て、鉢植えを持ち上げようとしてみるが、小さな鉢すら持ち上げることができなかった。

その夜、横山の方は、書斎で、外国人の拳闘家の写真などを参考に、ちょっと拳闘のまねごとなどしてみるが、とても様にならないと自覚する。

オウムを食った罰が当たったと、気落ちしながら十字を切る横山だったが、そんな横山を呼び、得意の手相を観たふみ子夫人は、勝つわ。でも、興奮してはいけないわとアドバイスを与える。

一人になった横山は、魚たちにえさを与えると、我、脂肪の折は、金5000円を動物愛護協会に寄付することと遺言を書くのだった。

翌日、待ち合わせのゴルフ場へ向かう途中、バス停の前まで歩いて来るが横山は、つい近くにあった「整形外科 野々宮医院」と言う看板に目を留めてしまう。

さらに、道路に目を戻した横山は、目の前に、バスではなく、ちょうど通りかかった霊柩車が止まっているのを発見し、ますます気落ちする。

そんな横山に声をかけて来たのは、偶然通りかかった蔦丸だった。

近くの喫茶店に誘った蔦丸は、あまりに元気がない横山に訳を聞こうとするが、横山は、自分は3時になると死ぬんだなどと言うばかり。

訳を知った蔦丸は、替え玉でも使えば良いじゃないとアイデアを出す。

本物の拳闘家を雇えば良いと言うのだ。

さっそく拳闘クラブにやって来た横山氏は、そこのボス(大山健二)に、強い奴がいないかと相談し、ちょうどリングで戦っていた二人を紹介される。

大きい方が20円で、小さい方が30円だと言うので、横山氏は大きい方を頼もうとするが、次の瞬間、小さな選手の方が大きな選手を倒したので、急に気が変わり、小さな選手の方を注文する。

ボスから呼ばれ、ちょっと人を横にしてくれと頼まれたヂョーヂ(笠智衆)は、ミーに?ガッデム!と張り切るのだった。

一方、バーで気落ちしていた川田の方は、春江に慰められていたが、約束の時間まで後1時間半と知ると焦り出し、用心棒みたいなのはいないかと春江に聞く。

春江は、マダムのコレにたくさんいると親指を立ててみせると、すぐさま川田はマダムに相談する。

ゴルフ場の5番ホールで会った二人は、互いに名刺を出して自己紹介するが、ヂョーヂが渡した名刺には「白洋舎」とクリーニング屋の名前が入っていたので、気づいたヂョーヂは、慌てて、横山の名刺を探して差し出す。

川田の代わりにやって来た柔道家(南部耕作)は、上着を脱ぎ、身体をほぐし始めたヂョーヂの顔をまじまじと見ると、おはんは、商売人じゃないか?リングで観たことがある良いながら近づいて来る。

それを聞いたヂョーヂの方も、あんたの方も商売人じゃろう。素人にしては落ち着きすぎていると笑う。

柔道家は、いくらもらった、これかと指を二本立てたので、ヂョーヂが首を振ると、じゃあ、これかと三本指を立てたので頷く。

30円もらって、殴り合うのはばからしいから止めとこうと意気投合した二人は、芝生の上に横になると、タバコを吸い始める。

柔道家の方は、もらった金で、女房と久しぶりに肉でも食おうと喜んでいた。

横山と落ち合い、車で帰って来る途中、ヂョーヂは、相手は大した奴じゃなく、一発でのしてやったと嘘をつく。

それを真に受け、喜んだ横山だったが、このまま帰っては女房に疑われるので、ちょっと顔に傷をつけてくれと頼む。

車を降りたヂョーヂは、横山が口にくわえていたパイプを取り上げると、その場で左目に軽くパンチをお見舞いする。

すると、見事に青あざができたので、横山は自慢げに帰宅する。

どうしたの?と聞くふみ子に、横山が勝ったよと言うと、急にふみ子は、私の部屋に来てと、しおらしい態度で誘うのだった。

部屋について行くと、急に態度が変わったふみ子は、私のあなた!私の英雄!と、横山のことを讃え始めたので、横山は、たった一発で倒した後、起こして、気付け薬を飲ませてやったよなどとヂョーヂと同じほらを吹く。

すると、ふみ子は横山に目をつむってくれと頼む。

横山が言うことを聞くと、目を開けて良いと言う声が聞こえる。

目を開けた横山が観たものは、着物を着て、日本髪のカツラをかぶったふみ子の姿だった。

これは、あなたへのサービスの一つよとしなを作ったふみ子は、おうな(うな重)を取りましょうね。一本付けてあげるわと微笑むのだった。

恐れをなした横山は、怪我の手当の為に医者に行って来ると言い残し、又、クラブに向かう。

すると、ニコニコした川田が横山に挨拶に来て、女房など、やはり、ただのメスですな。実に凶暴ですなどと言うと、今日、ちょっと喧嘩をして来たんですと言うが、横山の目の痣に気づき、どうしたのですかと聞く。

ちょっと転んだんですと嘘をついた横山だったが、互いに名刺を交換すると、二人の顔色が変わる。

横山は、新一郎ですと名乗ると、実は拳闘家を差し向けたんですと詫びる。

すると、川田の方も、柔道家を差し向けましたと打ち明けると、自分の顔の傷は、女房に引っ掻かれたものだと白状する。

二人は意気投合し、その場で握手を交わすと、馴染みのバーに向かう。

実に愉快ですな。青天白日ですななどと言いながら、二人は酒を飲み始める。

横山が春江にちょっかいを出そうとすると、川田はそれは困ると顔色を変えるが、すぐに握手して仲直りする。

その頃、二人の女房は、化粧をして家で夫の帰りを待ち受けていた。

続いて、料亭に向かい飲み直した川田が、蔦奴にちょっかいを出すと、君、君、この女は困るよと気色ばんだ横山だったが、川田と顔を見合うと、又笑顔になって握手するのだった。

川田は痛快そうに、女房なんて怖くないですよ。あんなのを押さえるのは時間の問題です!と言い切るが、とたんに表情が曇り、まさか、一生はかかりますまいと表現が弱くなる。

横山は、いつの間にか、飲んでいたビールを、二つのコップに注ぎ分けるようになっていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

渋谷実監督のデビュー作

「新青年」に載ったリチャード・コネルの翻訳小説が原作らしいが、そのせいか、洒落た恐妻コメディになっている。

松竹喜劇と言うと、泥臭い下町コメディを連想しがちだが、この作品には、そう言った泥臭さは全くない。

どのシーンも、外国映画でも観ているような、洒落たおかしさに満ちあふれている。

主人公である横山が、常に額にはめている金属製のヘアバンドのようなものは、当時流行った発明品か何かであろう。

斎藤達雄演ずるとぼけた紳士も愉快だが、何と言ってもこの作品で注目すべきは、ボクサーヂョーヂを演じている笠智衆であろう。

声を聞くと分かるのだが、ぱっと見は誰だか分からないほど若々しい。

ウォーミングアップしているシーンなどは、いかにも笠さんらしい、くにゃくにゃした動きで微笑ましい。

ふみ子とみつ子と言う、恐るべき(?)女房を演じている岡村文子と吉川満子の演技も笑わせてくれる。

1時間程度の短さで古い時代の作品だが、その感性は、今観ても瑞々しく楽しませてくれる佳品である。