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お絹と番頭

1940年、松竹大船、池田忠雄脚本、野村浩将監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

丸い枠内に松竹マークが入った周囲を、細い羽のような風車状のものがくるくる回っている会社ロゴ

タイトル

雪が降る朝。

銀座の福屋足袋店の洗面所に来た番頭の幸どんこと幸二(上原謙)は、後からやって来た番頭仲間たちを鼓舞しながら、上半身裸になると、冷たい水で身体を拭き始める。

使用人の金時(三井秀男=三井弘次)らも、寒さをこらえ、水で上半身を拭くが、そこに女中たちもやって来る。

主人(藤野秀夫)が、今日も一日笑顔で商売始めましょうと挨拶し、家族、使用人そろって朝食が始まる。

幸どんが、隣に座ったこの家のお嬢さんお絹(田中絹代)に、ご飯がこぼれましたよと注意すると、お絹の方も負けじと、醤油をかけすぎる幸どんに、もったいないと注意するのだった。

ベテラン足袋職人仁吉(小林十九二)は、縫い仕事を長年しすぎた為か、食事のときでも、ひょこひょこ右肩をあげる妙な癖を持っている。

やがてその日の仕事が始まり、幸どんは布の切断、竹(磯野秋雄)はミシン掛けなど、それぞれが分担された仕事をするが、主人の横にある電話が鳴り出しても主人が取らないので、じれた幸どんが受話器を取り、300文もの注文を受ける。

それを横で聞いていた主人は、この忙しい時期にそんなに受けて大丈夫かと心配するが、幸どんは、この時期はどこも忙しいですと答える。

仁吉から、奥から甲を持って来てくれと頼まれた幸どんが取りに行くと、ちょうどお絹が出かける所だったので、お嬢さん、今日は手習いですか?午前中もお出かけになったのですから、少しはお仕事やったらどうです。お父様の羽織を縫うのに一対何日かかってらっしゃるんですと嫌みを言うと、お絹はふくれて、良いわよ!どこへも出かけずに、羽織を縫えば良いんでしょう!と言い返して自室へ戻るが、入口においてあった荷物が崩れかかって来たので、思わず、幸どん!早く来てよ!と声を上げる。

どうしました?と幸どんが入って来ると、もう、自力で荷物を元に戻していたお絹は、どうもしないわよ!と言い返すのだった。

店に戻った幸どんは、主人が出かけようとするのを見て、又、寄席ですか?と嫌みを言う。

主人が毎日のように、寄席を聞きに行って遊び歩くのをいつも苦々しく思っていたのだ。

しかし、主人は、神田の方に良いお灸の先生がいるらしいなどとごまかそうとするので、あなたは一番お手本になる人なんだから、少しの間は店にいてもらわないとと、苦言を呈する。

使用人に説教された主人は、お絹と会い、幸どん、番頭のくせにいちいち説教するのよと言うので、いっそのこと婿にしたら?と主人が勧めると、とんでもない!嫌なこった。身震いするわなどとお絹は嫌悪感を露にする。

主人は、おてんばなお絹を女学校などへ行かせたことを公開し、幸二も、高等商業などを出させてやったことで理屈っぽくなったと反省する。

その時、隣のモーターボート屋の西川が来たと女中が呼びに来る。

裏の喫茶店で西川に会った主人だったが、西川の用事と言うのは、隣同士であるにもかかわらず、福家の地代は西川の店の地代の10分の1でしかないのはおかしいと言うことであった。

福家の主人は、これは、先代からの地主と家との特殊な関係にもとづくものなので…と説明するが、西川は承知しようとしなかった。

とにかく、この話は当分続けますよと言い残して、茶代を払って帰って行く。

西川から借りを作りたくないと思った主人は、茶代が2円だったと聞くと、3円分菓子を詰めて、西川の家に届けてくれと茶店の店員に頼む。

そして、その場から店のお絹に電話すると、これから寄席に行くのでよろしく頼むと伝える。

西川が店に戻って来ると、福家の中学生の息子が、売り物のモーターボートの寸法を測っていたので、家に帰らせて、相手をしていた店員の村瀬(近衛敏昭)に注意する。

村瀬は、お隣同士ですし、お嬢様同士が同級生と言うこともありますので…と詫びるのだった。

そこに、先ほどの喫茶店の店員が菓子折りを持って来たので、事情を聞き、そんなものが受け取れるかと機嫌を損ねた西川だったが、村瀬に食べろと勧める。

村瀬は、上杉謙信から送られた塩を、武田信玄は嘗めたそうですよと言うと、そうか、敵は負けたかと喜んだ西川は自分から菓子折りを開け始めるのだった。

一方、福家に戻って来た息子は、隣のモーターボートを参考に模型を作っていたが、幸どんを始め、竹ドンらがあれこれ口を出していた。

ある日、福家にやって来た西川は、店先でお絹と出会ったので、お主人は?と聞くが、お絹は出かけていますと答える。

たまたまそこに、主人が戻って来たので、それに気づいたお絹は、出てはダメと合図すると、主人も西川に気づいて身を隠す。

西川が帰ると、道に彼愛用のライターが落ちていたので、それを拾った主人は、懲らしめの為にしばらく預かっておくと自分の懐に入れてしまう。

その時、隣の店に入りかけた西川が振り向いたので、思わず、お絹は、自分の身体で父親の姿を隠してごまかす。

お絹は、いつもランニングに行くのが日課の幸どんに、こんな寒い日に無茶は止めるように注意するが、幸どんは聞かず、他の番頭や、隣の村瀬なども誘って、銀座通りを走り始める。

しかし、他の番頭は寒さに震え満足に走ることもできず、などは、途中でけつまずいて倒れてしまう。

心配して戻って来た幸どんだったが、その幸どんもくしゃみを始める。

店に戻って来て着替える幸どんは、くしゃみを連発し、それをお絹に聞かれてしまう。

お絹は、幸どんの額に手を当て、熱があることを知ると、すぐに、丁稚たちに布団を敷かせると、女中には、白湯とアスピリン、梅干しをたくさん持って来させる。

そして、幸どんを寝かせると、掛け布団をたくさん乗せ、女中にアスピリンを飲ませ、自分は梅干しの実と皮を剥くと、それを無理矢理幸どんに飲ませる。

幸どんは多量の掛け布団が重くて苦しがるが、丁稚たちに押さえさせたお絹は、こうしていれば汗が出ると説明し、幸どんの顔に吹き出た汗を拭いてやりながら、これから、私の言うこと聞かなきゃダメですよ。逆らっちゃダメよと釘を刺すのだった。

ある日、地主の向井(河村黎吉)の家に出向いた西川が、福家との地代の差をどうにかしてくれ、私の所だけが隣の10倍も払うのはどうも…と相談をしていた。

その時、地主がタバコに火をつけていたので、そのライターを拝借した西川は、ついいつもの癖で、自分の服の内ポケットに仕舞おうとする。

地主は、そのライターを取り戻すと、福屋とは先代からの特殊関係なのですが、こんど福屋の主人を呼んで相談してみましょうと答えるが、又、西川がライターを借りたがったので、自分のタバコの火を出し、ライターの方は着物の袖の中にしまい込む。

ある日、寄席で講談を聞いていた福屋の主人は、西川がきょろきょろしながら入って来たのに気づき顔を隠す。

どうやら自分を捜しにここへ来たらしいが、気がつくと、あろう事か隣に座ったので、そっと席を立ち上がり、立ち見席の方に逃げる。

その時、西川の方も、ようやく福屋の主人に気づいて立ち見席の方まで追って来てので、ここにいては危険と察した主人は、話の途中で帰るしかなかった。

斉藤が自宅に帰宅すると、妻の房子(岡村文子)が、息子の公世()の成績が悪いので家庭教師を付けると言い出す。

さらに、娘の(三宅邦子)が、お隣の善ちゃんが、うちのボートを参考にして見事な模型を出品したんだってと教えると、西川は、設計を盗まれたか?あの時!油断ならん!と悔しがる。

房子は、何をやっても、福屋さんの息子さんには敵わず、うちのき公世が得意なのは運動だけ。お隣には、家庭教師になる高等商業出の番頭がいるのよと教える。

も、すらりとした美男子がいるでしょう?と父親に確認するので、それを聞いた西川は、いっそのこと、うちの婿にせんか?と言い出す。

房子は、福屋のご主人が何と言うか…と案じ、 も又、私の方はそう慌ててないからなど、ゆとりで答える。

翌日、店で仕事を手伝っていたお絹は、表に西川が立って中の様子をうかがっていることに気づくと、横で仕事をしていた父親の姿を隠すため、つい立てを引っ張る。

しかし、西川の本当の目当ては、番頭の幸どんの方だった。

一応、ご主人は?と、横の窓から声をかけるが、お絹は、大久保彦左衛門に会いに出かけておりますと言いながら、つい立てで父親の姿を巧みに隠す。

すると、西川はあっさり諦めたようで、又表の方に回ると、幸どんに向かって、ちょっと手招きしたりする。

その様子で、西川の目的を察したお絹だったが、電話がかかって来て、父親を呼ばねばならなくなったので、つい立ての後ろにいた父親に、西川さんが来ているからひそひそ話でしてねと頼む。

電話の相手は地主で、家に来てくれと言う内容だった。

談判が苦手な主人は、幸どんを呼ぶと、自分の代わりに地主に会いに行ってくれと頼む。

その夜、地主は妻と共に、一人娘の留美子(坪内美子)に、いくつもの見合い写真を見せていたが、娘はどれにも首を振るばかり。

その時、福屋が来たと女中が告げに来たので応対に行くと、待っていたのは主人ではなく見知らぬ幸二だった。

幸二は、主人の代理で来たことを詫びると、理路整然と、福屋の地代は先代からの約束であるはずだと話し始める。

すると、話の途中で席を立った地主、「相当な大物が来た。留美子、これを逃したら、もう良縁はないぞ」と言い、娘と妻をこっそり応接室の外に連れて来て中をのぞかせる。

しかし、ソファに座った幸二の後頭部しか見えないことに気づいた地主は、わざと、応接室のふすまの近くで話しかけ、幸二を振り向かせるようにしむける。

そして、再び外に出て娘にどうだ?と聞くと、お父さんはどう思っているのと聞くので、敵ながらあっぱれと思っていると答えると、だったら良いじゃないのと笑いながら立ち去る。

その様子を観ていた妻は、あの子が白い歯を見せたのははじめてだから気に入ってますよと教える。

地主は上機嫌になり、メロンでもお出しなさいと妻に命じる。

翌日、福屋を呼び出した地主は事情を話し、娘を不憫だと思って、幸二を婿にくれないかと切り出す。

交換条件と言っては何だが、地代は今のままで良いことにすると言うので、福屋の主人は、喜んで、本人の意向を確かめてみましょうと答える。

その頃、福屋では、足袋をまとめて紙紐で束ねる仕事をしていたが、あまりにお絹の仕事がダメなので、幸二が注意をしていた。

お絹は、あんたは男のくせに細かすぎる。あんたは人のあらばかり拾いすぎる。そう言うのを姑根性と言うのだと反論するが、最後には耐えきれなくなって、癇癪を起こすと席を立ち、泣きながら自室に戻って来るが、ちょうど帰宅した主人がそれを見とがめて事情を聞く。

お絹は、いくら遠縁と言っても、あんな生意気な番頭は出して!と訴える。

そんなに嫌いか?と確認した主人は、これ幸いとばかりに、幸二を呼ぶと、地主の家の婿に行かないかと勧める。

幸二は、お嬢さんはどうなんでしょう?と聞くが、あれも喜んでくれるはずだと聞くと、せちゃんに、もと学校のこと教えてあげたかった…と残念がりながらも、しばらく考えさせてくれと返事を保留する。

翌朝、洗面所でいつものように上半身を拭いていた幸二に会ったお絹は、やせ我慢しちゃダメよと語りかけると、意外にも、幸二は、はいと素直な返事しかしなかったので、お絹はちょっと不思議がるが上機嫌だった。

その日、父親の寄席通いに付き合うことにしたお絹だったが、途中で、甘味屋によりお汁粉など注文した所で、父親がまだ西川のライターを使っていることに気づき、まだ返さないの?と注意する。

父親は、お前の希望通りに事が運びそうだ。幸二が向井さんの所の婿になるのだと言い出す。

それを聞いたお絹は、急にお汁粉を食べる箸が止まり、急に用事を思いついたから、自分は先に帰ると言い出す。

店に戻って来たお絹は、働いていた幸二の横を通り過ぎ、自分の部屋に入ると、内側から鍵をかけ、小引き出しの中にしまっていた幸二の写真を裏返しにすると、一人物思いにふけるのだった。

その日の食事時、ご飯のお代わりをした幸二は、女中たちがこそこそ噂話をしながら、自分にはほんのちょっぴりしか、ご飯をよそってくれないことを知り、不思議がる。

女中たちは、幸二の方を見ながら、図々しいわねとか、人間並みによく食べられるわね。腹が黒いのよなどと幸二の悪口を聞こえよがしに言う。

食事の席にやって来ないお絹を心配した主人が、部屋に呼びに行くが、中から鍵がかけられていることに気づくと、お絹!返事だけでもしろ!と呼ぶと、いるわよ!あっち行ってらっしゃいよ!と言う、お絹の超えだけが帰って来る。

横の窓から中をのぞいてみると、羽織を縫っているので、そんなことはしなくて良いと声をかけると、お絹は窓の障子すらしめてしまう。

怒った主人は、障子を破ると、開けないと、たたき壊してしまうぞ!と声を荒げる。

年末の12月20日、西川やす子が銀座の店にやって来たので出迎えた村瀬が驚くと、今日は自分たちが出る合唱会じゃないのと、店に貼ってもらっていた「東京合唱団演奏会」ポスターを見せながら、お隣の絹子さんをお誘いしようと思って…と説明する。

すると村瀬は、今、お絹さんは、女中からの情報によると、好きだった幸どんがお婿に行くので、この二日間ばかりろう城中らしいと教え、外に落ちていたと言う、くしゃくしゃになった幸二の写真を見せる。

それを聞いたは、よっぽど好きだったのね。じゃあ私、絹子さんに謝らなくちゃ、お婿さんに来るのうちですものと言うと、村瀬は、ご冗談でしょう。地主の向井さんの所へ行くんですよと訂正する。

やす子は、自分の所ではなかったと知ると、バカにしてるわとむくれるが、村瀬は、お互い友達のために尽くしましょうと頼む。

絹子を喫茶店に呼び出したやす子は、お姫様はお姫様らしくしっかりしなさいと励ますが、お絹は、当事者になると、なかなか言えないものよと気の弱い所を見せる。

やす子は、私も当事者よ。事情を知らなかったら、危うく仇になる所だったと打ち明け、私の音楽祭にいらっしゃいよと誘う。

その頃、福屋では、女中と金時たちが、お嬢さんが帰って来る前に、旦那様に話した方が良いと打ち合わせをしていたが、正にそこに主人が戻って来て、何をしとる?と聞く。

金時が代表して、お嬢様のことで…と言い出すと、主人もお絹のことで?と興味を示し話を聞こうとするが、金時は上がってしまい、なかなか話の要点に触れられなかった。

音楽堂で開催された合唱大会を聞くことにしたお絹だったが、やす子たちが歌う歌声を聴きながら、涙ぐんでいた。

その頃、西川夫婦も自宅のラジオで合唱大会の中継を聞いていたが、どれがやす子の声なのか分からないと困惑していた。

そこに女中が、福屋さんが来たと知らせに来る。

珍しいなと西川は不思議がるが、妻の房子は、縁談のこと、しっかり話して下さいよと釘を刺す。

応接室に招き入れられた福屋の主人は、今まですれ違いばかりだったことを詫びながら、お願いがあるので、あなたのお助けをお願いしますと低姿勢で頭を下げて来る。

何事かと西川夫婦が聞くと、実は、地主の向井さんが、うちの番頭を婿に欲しいと言って来たのだが…と打ち明けると、困るのは私です。やす子の婿にも欲しいのに…と口を挟む。

しかし、福屋の主人は、ところが、うちの娘が想っていたようで、部屋の中に籠って、親を寄せ付けないのです。今日は、お嬢さんに誘われたんですが、うちの娘の幼なじみで親友であるお嬢様のお父さんから地主の向井さんの方に、事情を説明していただけないでしょうか。娘を助けて下さい。その代わり、私の所の地代を上げて、こちらと同じにしましょうと頼み込む。

その条件を聞いた西川は納得し、今日からは、私たちも友達同士になりましょうと承諾する。

一安心した福屋の主人はタバコを取り出し、ライターで火をつけようとすると、それを見つけた西川が、ライターを奪い返したので、福屋はばつの悪い顔になる。

それでも、新しい船はまだですかね。息子が待っているんですよと話題を変えようとすると、そうそう何でも思い通りになると思われても困ると、西川はちょっとむっとなる。

その日、帰って来たお絹は、部屋に入ると鍵をかけようとするが、鍵が見当たらない。

不思議に思ってきょろきょろしていると、鍵を降ろしたのはいつの間にか中で待ち受けていた父親で、逃げ出すとするお絹を捕まえると、無理矢理座敷に連れて行く。

驚いたことに、そこで待っていたのは幸二だった。

主人は、お前が嫌いだって言うから、てっきり本気にしていたら…と文句を言うと、お絹も、お父様が早のみこみするからよ。娘のことより地代の方が大切なんでしょうと言い返す。

主人は幸二に対しても、どうして好きと言わなかったと聞くと、幸二は、お嬢様に嫌われていると思っていましたと言う。

それを聞いた主人は、お絹に謝れと命じるが、お絹は頑固に嫌よと拒否する。

だったら、幸二に出て行ってもらうぞと脅すと、お絹は仕方なさそうに頭を下げる。

主人は一安心したように、年が明けたら式を挙げることにしようとつぶやく。

大晦日

福屋のものたちは、全員そろって年越しそばを食べていた。

幸二の横で蕎麦をすする絹は嬉しそうだった。

竹は、隣に座った金時に、どうして除夜の鐘は108突くのか?と聞くが、金時に答えられるはずもない。

すると、仁助が、厄払いだよと言い出す。

お互い、四苦八苦苦労して来ただろう?

4×9(四苦)と8×9(八苦)を計算してご覧と言うので、竹が勘定してみると、確かに4×9=36、8×9=72で、合わせると108であることに気づいた竹が感心し、金時も、さすが年の功だねと仁助を褒める。

お絹は、雪が降り続いている外を振り返り、「ずいぶん積もったわね」とつぶやき、幸二も同じように振り返って窓の外を眺めるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「愛染かつら」(1938)の田中絹代と上原謙が再びコンビを組んだ他愛無いラブコメ映画。

タイトルから想像するとシリアスな文芸もののような印象もあるが、互いに好き合っているのに言い出せないばかりに、別れかけてしまう悲喜劇を描いた軽いタッチの作品になっている。

遠縁の関係から、銀座の足袋店の番頭を任された、まじめで頭の良い青年が、怠け癖がある主人とその娘にあれこれ注意をしているうちに、関係がぎくしゃくしてしまい…、隣の店の主人の娘や、地主の家の娘との縁談が決まりかけてしまい、元々好きだった足袋屋の娘が落ち込んでしまうと言う展開だが、隣の西川家の娘に三宅邦子、地主の娘に坪内美子が扮している。

上原謙は、正に絵に描いたような美男子だし、田中絹代も童顔で可愛い頃である。

この作品をユーモラスに進行して行くコメディリリーフにも近い役を勤めているのが、福屋の主人藤野秀夫と西川を演じている斉藤達雄、そして地主向井を演じている河村黎吉だろう。

河村黎吉は、後の東宝サラリーマンものの代表「社長シリーズ」の原点と言われる「三等重役」(1952)の主役だった人である。

この3人ののんきな中年が織りなす、互いの適齢期の娘との意思疎通の悪さのおかしさは、時代を超えたものだろう。

ラストの除夜の鐘の解説なども、今聞くと新鮮なトリビアである。

戦後、その達者な演技で名脇役となる三井弘次が、この時代は三井秀男と名乗っていたことも、この作品ではじめて知った。

相当古い作品だが、今観て、理解できないような部分はないように感じる。