TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

宗方姉妹

1950年、新東宝、大仏次郎原作、野田高梧脚本、小津安二郎脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

京都の大学では、医学の講義が行われていた。

内田譲教授(斎藤達雄)は、がんと刺激の相関関係に付いて講義をしていたが、話の途中で、自分の友人に、学生時代から賄い生活の男がいて、そいつも胃がんなんだが、こいつが、最近、タバコや酒は良いんだねと言うので困っている。こういう奴に限ってなかなか死なないなどと、冗談まじりに話し、聞いていた学生たちを笑わせていた。

内田教授が部屋に戻ると、手紙を出していた宗方節子(田中絹代)が待ち受けていた。

夕べ、手紙を読んで急にこちらに出て来たと言う。

内田教授は、今、教室で冗談の種にした、自分の友人で節子の父親の宗方忠親の病状がかなり悪くて、もって1年、せいぜい後半年の余命しかないことをその場ではっきり聞かせ、父親にもマリちゃんにも知らせない方が良いだろうと言い添える。

その宗方忠親(笠智衆)は、自宅でゆっくりタバコをくゆらしていた。

そこに下の娘の満里子(高峰秀子)が来て、姉さんが自分に黙って、一人で京都へ行ってしまったとふくれてみせる。

宗方は、お前がおてんばだからだと答えるが、それを聞いた満里子は、ちょっと舌を出してみせる。

それが彼女の癖なのだ。

そんな所にやって来たのが、宗方とは古くからの知りあいである田代宏(上原謙)だった。

満里子とは、田代がフランスへ行く前の女学生時代に会って以来だったので、お互い、初対面のような印象だった。

宗方は、田代から借りた本が面白かったなどと雑談を始める。

英語が得意な満里子は、田代が神戸で家具屋をやっていると聞くと、ああ、ファニチャーねと英語で理解する。

そんな満里子のことをまだ子供扱いしている宗方は、そろそろ舌を出す頃かな?などとからかうのだった。

後日、満里子と一緒に薬師寺に来た節子は、寺の縁側でサンドウィッチの昼食をとるが、新しもの好きな満里子には、姉の寺巡りの趣味に付き合わされるのが苦手だった。

宏さんと来たことあるの?と満里子が聞くと、ここで一緒に昼食をとったことがあると節子は答え、唐招提寺へ行かない?と聞く。

神戸

満里子は一人で、田代の家具屋にやって来ていた。

今日、姉は父と一緒に寺参りをしているので、タイガースファンだと言う彼女は阪神電車でこっちに来たと言う。

満里子は好奇心丸出しで、田代の妻のことなど聞くが、田代は笑いながらないと言う。

愛人もないと言うので、タバコを一本もらった満里子は、田代さんの愛人を知っている。姉さんの日記を観たのだと言い出す。

1937年、姉が21で宏さんは大学生、雪の晩、二人は帝劇を観た後、手をつなぎあい…などと、日記で読んだことと空想を交えた話を芝居のように話す満里子のおどけぶりを、田代は終始笑顔で見つめていた。

そこに、大阪の家具屋で、パリ時代からの知りあいだと言う真下頼子(高杉早苗)が訪ねて来る。

頼子は、来客中だと知ると、田代に音楽会の切符を渡し、すぐに帰るが、帰り際、店員に、お客様が帰ったあと、田代さんに、私に電話を下さるよう伝えておいてと言い残して行く。

満里子は、その頼子に、瞬間的に嫌悪感を感じ、嫌いだな、あんな気取った人。内緒ごとみたいな匂いのする人…とはっきり口に出して非難する。

その頃、節子と宗方は、寺巡りを終え、料亭で昼食をとっていた。

満里子にも来るように、家に置き手紙を置いて来ていたが、満里子はいっこうに来る気配がない。

宗方は、節子の夫の三村が、仕事がなく家で遊んでいるのが辛いな。お前のやっているバーの方はどうだ?などと、節子の生活ぶりを聞き、大森の家は売って良い。自分はずっと京都にいる。もう、あの家には帰らんだろう。父さん、もう長く持たなさそうだ。苔寺も、これが最後と思って観ていたんだと、自分の体調に気づいた口調で伝える。

バー「アカシア」

満里子は、バーテンの前島五郎七 (堀雄二)から酒を受け取ると馴染み客のテーブルに持って行き、京都へ行ったことなどちょっと話すと、姉の節子が編み物をしながら座っているイスの隣に座る。

姉にファンション誌を見せると、あんたに似合うもんですかと冷たく答えた節子は、何で叱られたの?と満里子に聞く。

夫の三村から満里子が叱られたことを言っているのだった。

お義兄さんが、私のセーターの上で寝ていたので文句を言ったことが原因らしかった。

満里子と節子の夫、三村とは最近馬が合わなかった。

そこに、藤代美惠子(坪内美子)がやって来て、節子と二人きりになるとひそひそ話を始める。

前島は満里子に、先日、三村さんが店に来たが、雨の中、青い顔して黙って出て行かれましたと報告したので、満里子は気味悪がる。

ある日、三村(山村聡)は自宅二階の書斎で、左目の消毒をした後、眼帯をして、読書を始める。

そこに、満里子がやって来て、縁側の籐椅子の上のワイシャツを取ろうとして、その上に載っていた子猫をつまみ上げると、汚そうに廊下に落とす。

三村が猫好きなのだった。

その後、下でアイロンがけをしていた節子の側に来た満里子は、店の話、急いでいるの?義兄さんに話した?と聞く。

節子は短く、「した」と答えるが、その時、三村が外出するので、二人して見送るが、三村は愛想がなかったので、満里子は、三村がかぶって行かなかった帽子を、憎らしそうにはたいて部屋に戻る。

義兄さん、今日、私の牛乳、猫にあげたのよ。ココア飲もうと思ってたのに…と満里子が愚痴ると、あなただって、飲まない時あるじゃないと節子が言う。

いつからああなったの?いじわるになって…と満里子が聞くので、仕事がないからよと節子は返事するが、去年の5月頃、酔っぱらって帰って来たことあったでしょう?あれからよ。黄色い拍子の姉さんの日記を読んだからよと満里子は断定口調で言う。

それを聞いた節子は、あなた、私の日記読んだの?と詰問口調になるが、満里子は、姉さん、私時分どうだったかなって思って…と満里子は弁解する。

満里子は、姉さん、宏さん、好きだったんじゃないの?なぜ、結婚しなかったの?と聞いて来る。

節子は、分からなかったの。あの人のことを好きかどうか…、迷っている時に三村との話があったの。そして、その時には宏さん、もうフランスに行ってしまっていたのと淡々と答える。

その頃、三村は、飲み屋の「三銀」で一人飲んでいた。

女店員のキヨ(千石規子)は、三村の猫好きを知っているので、自分は犬の方が好き。人情があるからと話しかけるが、不人情だから猫が好きなんだ。だからお前が好きなんだと、三村からからかわれる。

店の主人(藤原釜足)は、きれいな方は、お妹さんですか?と聞き、キヨは、きれいな姉妹の奥さんを持って、もったいないよ、先生なんかと悪態をつく。

もったいないか…とつぶやきながら、三村はコップ酒を口にするのだった。

バー「アカシア」の終了時間になったので、節子はバーテンの前島を帰すと、店の灯りを消す。

そこに現れたのが田代宏だった。

節子は、満里子への手紙を拝見して、今日辺り、来られるのではないかと思っていましたと喜んで一緒のテーブルに招く。

田代は、6、7年振りですね…とつぶやき、まだしてますね?と、節子が昔からしていたやや古めかしい指輪のことを指摘する。

昔から年寄り臭いと言われていまして角、私も亡くなった母の歳になりましたと節子は感慨深げに指輪を観る。

満里子は今日休みだと伝えた節子は、ビールでも召し上がります?と勧め、お酒、強くなりました?あの頃は、ちょっと飲んだだけで真っ赤におなりになって…とからかうのだった。

その後、節子と一緒に外に出た田代は、今のお話、僕に任せて下さいと言い残して帰って行く。

翌日、田代が宿泊していた旅館に満里子がやって来て、夕べはバレーに行っていたと教えると、後2、3日いられると言う田代に、遊べる?と誘う。

その時、女中がやって来て、箱根の真下様と言う方から電話があったと伝える。

それを聞いた満里子は、箱根でランデブーでしょう?満里子、分かってるんだなどと田代をからかい出す。

その直後、今度は部屋の電話が鳴り出したので、それを勝手に取った満里子は、相手が真下頼子と知ると、田代さん、又お出かけになりましたと嘘をついて切ってしまう。

そして満里子は、呆れている田代に対し、箱根に行ってはならない。電話をかけてもいけない。満里子においしいものをごちそうするなどと、一方的な約束事を命じるのだった。

一方、箱根の旅館にいた真下頼子は、食事は二人分用意しますか?と聞きに来た女中(一の宮あつ子)に、晩の急行で帰りますと伝えた後、一人ハンドクリームを手に塗りながら、窓から見えるきれいな山をじっと眺めるのだった。

その日遅く、満里子が家に帰って来ると、まだ三村は帰っていなかった。

少し酔っている様子の満里子を観た節子は、遅いじゃない、調子に乗って…と、妹を叱る。

満里子は、映画の後、前島さんと会ったので、一緒に飲んだ。家にいるとくさくさするのよ!陰気くさくて!と反論する。

節子は、それがかえってお義兄さんをイライラさせるのよと注意するが、満里子は、自分が我慢しているつもりだが義兄さんがさせないの。あんな義兄さんに我慢することないわ。姉さん、つまんないと思わないの?と日頃の鬱憤を吐き出す。

しかし、節子は落ち着いて、結婚ってそんなもんじゃない。良い時ばかりじゃないのよと言い聞かせようとするが、満里子は、そんな古い考え嫌だわ!と吐き捨てて二階に上がってしまう。

満里子は、ハンドバッグに忍ばせていたタバコを吸おうとするが、姉が追って来た気配を察し、あわてて隠す。

節子は、マリちゃん、私、そんなに古い?あなたの新しいことってどう言うこと?私は、古くならないことが新しいことだと思っているの。あなたの新しいって、去年長かったスカートの丈が、今年は短いと言うようなことじゃないの?前島さん観てみなさい。特攻隊にいた人が、今じゃ遊んでいる…と皮肉を言う。

しかし、満里子は、自分は皆に遅れたくないの。姉さんとは、育って来た世の中違うんだもの。私、お父さんに相談して来るとまだ反論するので、節子は、行ってらっしゃい。父さん、何とおっしゃるかと返す。

後日、宗方の家に行った満里子は、縁側で父と座り、どっち、ねえ、父さん?と聞くが、宗方は、どっちが良いとか悪いと言うことはない。満里子の思い通りにやった方が良い。ただ、人がやるからやると言うのではつまらん。よく考えてやるんだね、自分を大切にするんだと答え、三村とは上手くいっているか?と尋ねる。

満里子は、どうして姉さん、宏さんと結婚なさらなかったの?と聞くが、宗方は、早く口でもあれば良いんだが…と、三村の仕事のことを心配する。

その時、庭にうぐいすが飛んで来たので、満里子が鳴きまねをしてうぐいすに鳴かそうとするが、上手くいかないので、宗方も一緒に鳴き声をまねたりしてみるのだった。

満里子は、その後、又、神戸の田代の店を訪れると、神戸が好き、すき焼きやお酒がおいしいからと無邪気に田代に打ち明ける。

思いきりお酒飲んで酔っぱらってみたいわ。家がぐるぐる回ったりして面白そうだからとおしゃべりを続けていた満里子は、急に、男女が恋愛して、どちらも好きだと口に出さなかったらどうなる?姉さんから口に出したらどうする?宏さん、姉さんから言って欲しかったんでしょう?と質問して来る。

田代は、自信がなかった。節子さんを幸せにする…と答えるが、それを「噓!」と否定した満里子は、宏さん、いつだって相手から口に出すのを待っているのよ。頼子さんから言われたら結婚する?と唐突に追求し出したので、田代は笑うしかなかった。

満里子は突如、宏さん、結婚しない?満里子と…と言い出す。

満里子、頼子さん、嫌いなの。宏さんが姉さんを好きなのは良いの。頼子さんを好きになるの嫌なの!と迫って来たので、驚いた田代は、それは満里子ちゃんの本心じゃない。そんなことを言ってしまったら、もう会えなくなるじゃないかと落ち着かせようとする。

しかし満里子は、冗談だと思っているのね?良いわよ、満里子、泣いちゃうから…と言いながら、部屋を飛び出して行く。

その後、満里子は、単身、真下頼子の家に向かうと、愛想良く出迎えた頼子に、今、宏さんに会って来たの。結婚申し込んで来たのと切り出す。

頼子は大人の余裕で、愉快な方…と笑うが、おばさまからも話して欲しいの、結婚のこと、宏さんに…と迫る。

それを快諾した頼子が、一体田代さんのどんな所がお気に召して?と聞くと、清潔でお金持ちで…と満里子が並べ始めたので、良いことばかりと頼子が笑うと、一つだけ嫌いな所がある。とても嫌な奴がいるんです。友達が…と満里子は言う。

おばさまが良く知っている方、とっても嫌な奴、大嫌い!と言い放つと、突然、頼子から身を避けるように部屋の隅のイスに座り直し、そのまま玄関に向かう。

そこで、ストッキングをたくし上げた満里子は、飾ってあった鎧の兜を引っぱり、履いていたスリッパを乱暴に脱ぎ散らかすのだった。

その頃、家にいた三村は、バーに出かけようとしていた節子に、薬を飲む水を持って来させたり、シャツのボタンを付けさせたりしながら、できたか?金…と聞いて来る。

借りたのか?と言うので、ええ、いいあんばいに田代さんにと節子が答えると、来たのか?いつ?と聞いて来る。

20日ほど前と節子が答えると、どうして返すんだ?その金…。返せるのか?と三村は追求して来る。

さらに、どうして、そのこと言わなかったんだ、俺に。借りた相手が田代だったからか?俺に知られたら困ることでもあったのか?なぜ、今まで黙っていた!田代はちょいちょい出て来るのか?いつも会っているのか?としつこく聞いて来る。

節子がきっぱり、この前はじめて…と答えると、金を貸さなければいけない約束でもあるのか?と三村はねちっこい。

節子は、宏さんはそんな人じゃありません。あなた、私と宏さんの間に、何か間違いでもあったと思ってらっしゃるのですか?誤解です!節子を信じていただきたいのです!と否定するが、三村は何も言わず、ぷいと部屋を出て行ってしまう。

二階の書斎に追って行った節子は、すみません。私、店を止めます。洋裁でも何でもします。この家も売って良いとお父さんも言ってます。お店のこと、田代さんに、はっきりお断りしますと、机に向かった三村に申し出るが、三村は冷たく、したら良いだろう。お前の好きなように…と言うだけで、すぐに、外の猫を呼びかけたりして節子を無視する。

節子は、言いようのない哀しげな表情になる。

満里子は、又、田代が宿泊していた旅館に来る。

びっくりした?この前?もう、満里子、何も思ってないのよとこの前の突然お告白の言い訳をすると、宏さん、よっぽど姉さんのことが好きなのね。あのときの言葉には、ちょっぴり本気の所もあったんだと照れる満里子。

その満里子は田代に、姉が店を止めようとしている。今日昼から、日比谷公園音楽堂で会ってくれないかと節子からの伝言を伝える。

満里子は、大丈夫です。僕に任せて下さいって言うのよと指示を出す。

3時に待ち合わせの場所で節子と出会った田代は、しばらく近くを散策するのだった。

バー「アカシア」

満里子は前島と二人で酒とタバコを飲んでいた。

すでに酔っていた満里子は、元特攻隊の前島を「プロペラ」呼ばわりし、新しいってことはな、いつまで経っても古くならないことなんだ…と、姉の受け売りで説教していた。

前島は、店が明日で最後と言うので意気消沈していた。

その時、満里子は、いきなり店に入って来た三村の姿を観て驚く。

ちょいと寄ったと言う三村に、満里子は、姉さんいないわよと教えるが、俺にも飲ませろと言う三村にウィスキーの瓶を渡しながら、満里子は前島を先に帰らせる。

満里子は三村に、ここ、明日でお終いよ。どうして止めさせなきゃいけないの?と絡むが、三村はウィスキーを飲みながら、知らんね…と静かに答えるだけ。

満里子は、そんな態度の三村に切れ、義兄さん、姉さんのことを何も知らないわね。勝手すぎるわよ、お義兄さん、お姉さん、可哀想だわと文句を言う。

だけど、マリちゃん…と言いかけた三村だったが、満里子が何よ?と気色ばむと、まあ、良いやと止めてしまう。

満里子は調子に乗り、仕事がないないって言うけど、やる気になりゃ、何でもある!何でも良いのよ。そうすりゃ、姉さんだって苦労のしがいがあるのよ。夫婦ってそう言うもんだ。義兄さんたち、夫婦止めちゃえば良いんだ!と説教するが、三村は動じず、酒飲んでぶらぶらしているのも捨てがたい。夫婦よりも面白いかもしれない。世の中には色々面白いことがあるんだよ、マリちゃんとつぶやく。

ふらりと立ち上がった三村が、コップの酒をあおったので、満里子も負けじと、自分のグラスを空ける。

お終いか…、明日で…とつぶやいた三村は、壁に向かってコップを投げつけて笑う。

満里子も真似して、コプを次々に壁にぶつけて壊し始めたので、三村はますます笑うのだった。

数日後、家事をしながら、隣の篠田さんに女の赤ちゃんが生まれたそうだけど、お祝い何が良いかしら?と話しかけた節子に、三村は、どう思っているんだ?お前…、俺たちのこと。別れた方が良いのか?と切り出して来る。

何の話が分からない節子は戸惑うが、三村は、俺はお前の気持ちを言っているんだ。喜ぶだろうと思っているんだと一方的に話す。

話が分からないと言う節子に、俺に言わせるな!お前が一番知っていることじゃないか!と三村は口調を荒げる。

どう言うことなんです?何のことなんです?はっきりおっしゃって!と迫る節子に、別れた方が良いだろうと思っているんだと三村は答える。

節子は、今まで、そんな目で私のことを見て来たんですか?それじゃあ、私が可哀想じゃないですか。今まで私がして来たことが無駄になってしまいます。あなたを信じて付いて来たんです。いつかきっと、分かっていただけると思っていたのに…と言いながら泣き出してしまう。

三村は、お前がそんな女とは思ってなかったよ。貴様、良くそんなことが言えるな!そんな所が嫌なんだ!と言いながら、節子の頬をたたき出す。

しかし、そこに満里子が来たので、叩くのを止めた三村は黙って家を出て行ってしまう。

満里子は、姉さん、どうしたの?ぶたれたのね?どうしてぶたれたの?ぶたれることない!姉さん、ぶつなんて…と怒り出す。

そして、部屋にあったピッケルを握りしめ、三村の後を追おうとしたので、それを止めた節子は、私、別れると言い出す。

満里子は、別れて良い!当たり前!お姉さん、もったいない!とこちらも泣き出すのだった。

旅館に泊まっていた田代に会いに来た節子。

話を聞き終えた田代は、長い間、ずいぶん苦労して…と同情し、何にもならない苦労でしたわと自嘲する節子に、節子さんが節子さんらしく立派になったと思いますと褒める。

そして、三村君には、僕から話します。今日は帰れるならお帰りなさいと優しく忠告すると、おじさんに話そうと宗方に会うことを約束する。

節子も立ち上がって、おっしゃって…と頼み、いつしか二人は唇を重ねようと接近するが、そのとき突然、三村が現れたので、二人は身体を離して驚く。

既に酔っている様子の三村は、三村との再会を懐かしがり、大連にはナターシャと言う白系ロシア人の娘がいましたねなどと話しかけて来る。

三村は、仕事が決まったと言い出す。

紀州熊野川の奥のダム建設現場の技師だと言い、お前も喜んでくれるだろう?と節子に言うので、節子も仕方なく頷くしかなかった。

人間、仕事がない奴はいけません。ひがみっぽくなります。今日はここで祝杯をあげようと思って来たんだと三村が言うので、田代は僕が準備させましょうと立ち上がりかけるが、三村は自分が言って来ると部屋を出て行く。

三村に仕事があったことを素直に喜んだ田代は、部屋の隅にいた節子を招き、今晩話しましょう。早い方が良いと告げる。

そこへ、女中が酒を運んで来たので、三村君は?と田代が聞くと、女中は怪訝そうに、お客様はもう帰られましたと言う。

その時、外は土砂降りの雨が振り出していた。

三村は「三銀」で飲んでいた。

眠くてたまらないキヨは、なかなか帰らない三村ともう一人の酔客に苛ついていた。

酒のお代わりをする三村に、良いよ、もう飲まなくても…と断る始末。

カウンターに一人座った三村は、今夜は実に愉快だ。女房なんて言うものは衆愚の代表に過ぎん。重宝な道具に過ぎん…とつぶやき始める。

それをテーブル席で聞いていた酔客(河村黎吉)が、先生、賛成だねと言いながらカウンターに近づいて来る。

その酔客は、俺も昨年の始めにかみさんを亡くし、その後一人でいようと思ったんだが何かと不自由で、そいつの妹をもらったんだが、一昨日の晩、池袋に行ったら、あそこに天ぷら屋があるでしょう?などと勝手に話をし始める。

その話に興味がない様子の三村は、ふらりと店を出て行ってしまう。

後に残された酔客は、あの人もやっぱり、かみさんに逃げられたのかい?とキヨに聞くのだった。

その後、三村はずぶぬれになって自宅に帰って来て二階に上る。

その直後、倒れる音がしたので、節子は満里子に様子を見に行かせる。

二階に上がった満里子は、倒れている三村に声をかけるが、やがて、悲鳴を上げる。

後日、父親の家に来ていた節子は満里子に、人間って、あんなに急に死ぬものかしら?と聞いていた。

宗方は、外で巡回の床屋に髪を切ってもらっている所だった。

父さん言ってた。死ぬはずの俺がまだ生きていて、まだはたらなくちゃ行けない人が急に死ぬなんて…と節子は続ける。

今までないないって言ってたのに、あんなに急に仕事が見つかるかしら?

しかし、じっと聞いていた満里子は、お医者さんは心臓マヒだって言ってじゃないと、姉のおかしな考えを否定すると、姉さん、余計なこと、考えなくて良いのよ。思った通り行けば良いのよ。宏さんの所。

その頃、神戸の田代の店に来ていた真下頼子は、田代の口から三村が心臓マヒで急死したことを聞いていた。

お気の毒ね、節子さん…と同情しながら、きっとあなたを頼りにしていらっしゃるわ、節子さん…と田代に言う。

そして立ち上がると、ごきげんよう。私、何となく、あなたにはお目にかかるまいと思っているの。これまでにも自分には気まぐれがあったけど、その気まぐれが案外本心だったかもしれないのと言い残して去って行く。

後日、薬師寺で、田代と節子は会っていた。

そして、昔と同じように縁側に座る。

もう14、5年経つかな?あれから…と田代は昔一緒にここへ来た時のことを懐かしそうに思い出す。

私、色々考えました。私には三村が普通の死に方ではなかったような気がします。三村の死には暗いものが感じられるのです…と節子は話し始める。

三村は私に影を残しているのです。あの人の目がいつも感じられるんです。こんな暗い影を背負ってあなたの所へは行けませんと言うのだ。

それでも田代は、私の所へ来なさいと勧める。

それでも節子は、こんな気持ちのまま行けば、あなたも暗くなります。私の気持ちがすまないんです。嫌なんです。私、こんな気持ち…と続ける。

私、自分を不幸とは思いません。あなたに会えただけでも幸せでしたと言う節子に、田代は、僕は待っています。あなたの気がすむまでと言い添えるが、節子は私のようなものを…と恐縮する。

そして、お別れします。長い間、色々良くしていただいて…と言い残した節子は、止めようとする田代の声を振り切って、去って行くのだった。

それを見送る田代は涙ぐんでいた。

喫茶店で節子を待っていた満里子は、戻って来た節子に、宏さん、一緒じゃないの?喜んだ?宏さん、どうしたの?と聞くが、節子は、宏さんと別れて来たの。私の気持ちがすまなかったの。私、自分の気がすむようにしたかったの…、良いの、これで…、これが一番気の済むこと…、私、自分に嘘をつかないことが一番良いことだと思ってるのと告げ、悪い?と聞く。

しかし、満里子は、姉さん、昔からそうねと答えるだけだった。

節子も、マリちゃんとは違うのねと苦笑する。

二人はその後、御所を抜けてぶらぶら歩きながら帰ることにする。

京都の山って、どうして紫に見えるのかしら?…と節子がつぶやく。

満里子は、お汁粉みたいとおどけてみせる。

きれいな色…、そうつぶやいて節子は歩き始めるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

小津安二郎が新東宝で撮った文芸もの。

終止、暗い芝居をしている山村聡が印象的な内容である。

性格、考え方が違う姉妹を、田中絹代と高峰秀子が演じているが、両方とも見事な存在感を見せている。

この頃の田中絹代は、落ち着いた奥様役が板についている感じで、着物姿も似合っている。

対する高峰秀子の方は、まだ幼い行動が目立つおてんば娘の役を見事に演じており、田代の前で、芝居の老人めいた口調を披露したり、ぺろっと舌を出す仕草など、お茶目な所を見せてくれる。

終始笑顔が素敵な上原謙も魅力的だが、やはり、この作品で一番注目すべきは、暗い演技に終始している山村聡の二枚目振りである。

後半、妻の元カレだったのではないかと疑っている田代と対峙するシーンなどは、陽の上原謙に対し、陰の山村聡の魅力が拮抗している。

これは、設定上、二人の魅力に差があってしまっては、その間で苦しむ節子のジレンマが描けないので、意図的に同じような二枚目タイプを配しているのだろうが、山村聡の影のある芝居と言うのははじめて観たような気がする。

静の田中絹代に対する動の高峰秀子の対象と、この物語では、二つの対称的な男女が描かれている。

田中絹代と上原謙と言えば「愛染かつら」の名コンビで有名だが、この作品は、そうした二人の関係も合わせてひねってあるような風にもとれる。

相思相愛なのに結ばれない運命にある男女と言えば、いかにも通俗設定だが、さすがに俗に堕ちていない所が凄い。

時折挿入される風景画像も清々しい。

地味な展開だし、小津作品としては、少し異色作の部類に入る作品ではないかとも思えるが、なかなか興味深い展開の作品である。

若々しいと言うより、まだあどけなさが残っている千石規子や堀雄二の姿なども珍しい。