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コクリコ坂から

2011年、スタジオジブリ、高橋千鶴+佐山哲郎「コクリコ坂から」原作、宮崎駿+丹羽圭子脚本、宮崎吾朗監督作品。

※この作品は新作ですが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、ご注意ください。コメントはページ下です。

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60年代の横浜のとある坂のある風景

タイトル

朝、隣に寝ている妹の空よりも先に目を覚ました松崎海(声-長澤まさみ)は、布団をたたんで押し入れに仕舞うと、とんとんとリズミカルに階段を降りて食堂兼台所に入る。

釜に仕込んだ米を確認し、ガスコンロに着火してご飯を炊き始めると、水をコップにいれ、ポピーが入った花瓶と共に、部屋の隅の机の写真立ての前に置く。

外に出た海は、日課である旗を揚げる。

それに呼応するかのように、通り過ぎる船も旗を揚げる。

台所に戻った海は、炊きあがったかものご飯をお櫃に移しながら、空、起きました?と声をかける。

女医の北斗さん(声-石田ゆり子)が食堂に降りて来る。

海がハムエッグを焼いていると、弟の陸(声-小林翼)が、弁当にご飯、もっとぎゅっと詰めてよと文句を言う。

窓から、海は二階の広小路さんに時間ですよ!と声をかける。

そこに、おばあちゃん(声-竹下景子)がやって来て、自分のハムエッグを陸に勧める。

ようやく広小路さん(声-柊瑠美)や空(声-白石晴香)も食堂に降りて来て、髪がなかなかまとまらないんだものと言い訳をする。

一方、船から自転車を波止場に降ろした風間俊(声-岡田准一)は、その自転車に乗って登校する。

海も、セーラー服に着替えると外に出る。

そこに米屋のオート三輪車でやって来たとも子おばさんに、海は、洗濯物を干すことだけ頼んで学校に向かう。

港南高校に来た海は、クラスの女の子たちから「週刊カルチェラタン」と言う、ガリ版刷りの校内新聞を見せられる。

その紙面の左下に、少女よ、なぜ、君は旗を揚げるのか…と詩のようなものが描かれていた。

海のことでしょう?と皆が騒ぎ、海も、自分のことのようだと感じ、新聞を受け取る。

昼休み、海は、毎日カレーうどんばかり食べるのぶ子や、あんぱんばかりかって来るゆう子と一緒に外のテーブルで食事を食べようとするが、海が毎日自分で作って来る弁当を友達たちはうらやましがる。

その時、にわかに周囲が騒がしくなったと思ったら、屋根に男子学生が数人上っている。

一方、下にいた数名の男子たちは用水路の金網を取り外し始める。

「カルチェラタン取り壊し反対!」と書かれた布が数本窓から下げられる。

屋根の先端に進み出た風間は、用水路に向かって飛び降りる。

港南高校の伝統「飛び込み」であった。

驚いて駆けつけた海は、思わず手を差し出し、風間もその手を掴んで用水路から上がろうとするが、周囲の男子たちから喝采された海の方が恥ずかしがって手を離してしまったので、又、水の中に落ちてしまう。

女子たちは、戻って来た海に大丈夫?と聞くが、当の海は、バカみたいと言っただけだった。

帰って来た海は、留守番を頼んでいたとも子おばさんが鯵を買っておいたと言うので、フライにしようと決める。

その後、おばあちゃんの部屋に行き、家計簿を見せると、毎日辛くない?毎日、あなたが旗を揚げているのを見ていると、お父さんが恋しいんだなって…と心配してくれる。

夕方、鯵のフライを作り、外に出て、旗を降ろそうとしていると、途中で旗が風になびき、その瞬間、今日、学校の屋根から吸いそうに飛び降りた風間君の姿が浮かぶ。

夜、妹の空が、風間君のファンクラブを作ろうかと思っているなどと、下宿人たちと楽しそうに話していた。

今日の「飛び込み騒動」を見ていたらしい。

夜、海は、自分の部屋で、もう一度、自分のことが書かれてる「週刊カルチェラタン」の詩を読み返していた。

翌日、学校に行くと、掲示板に、「伝統の飛び込みで、カルチェラタン取り壊しに抗議した」と言う貼紙が貼られていた。

放課後、空が30円で買ったと言いながら、昨日、飛び降りた瞬間を捉えた風間の写真を見せ、風間さんのサインが欲しいと言い出したので、海は呆れるが、仕方ないので、空を連れて、風間がいるはずのカルチェラタンに入ってみることにする。

カルチェラタンとは、校内にある「清涼荘」と言う古い建物の通称だった。

男子の文化系クラブが中に入っている所なので、通常、女子は近づかない場所だった。

入口に近づくと、中から男子たちが何やら議論している声が聞こえる。

外で望遠鏡を覗き込んでいた天文部の男子に、風間の居場所を聞くと、3階の考古研にいるはずだと言うので、海と空は勇気を奮って「カルチェラタン」の扉を開け、中に入る。

中の中央部分は、巨大な吹き抜け状態になっており、周囲の壁を螺旋状に階段を登って行く構造になっていた。

もう何年も掃除をしていない雰囲気で、そのあまりの汚さに愕然とした海と空だったが、かざまに会う為に3階に上り始める。

途中、文芸部や一人しかいない哲学研究会の場所を通ることになるが、癖の強い学生が突然顔を出し、入部を勧めたりし出したので、海と空は慌てる。

次の瞬間、化学研究会の場所が爆発を起こしたりする。

アマチュア無線同好会などを通り過ぎて3階に行くと、ようやく考古学研究会の部屋があったので中に入ると、生徒会長の水沼史郎(風間俊介)が「文芸部にようこそ!松崎さん」と歓迎してくれ、「週刊カルチェラタン」の風間が、ガリ版で原稿を書いていた。

空が写真を差し出し、サインをお願いしますと願い出ると、水沼が書いてやれよと促したので、風間は胸ポケットにさした万年室で写真に名前を書いてやるが、その手に包帯が巻かれていたので、海は気にかけるが、その様子に気づいたらしい風間は、昨日の飛び込みのせいじゃなく、猫に引っ掻かれただけだと言い訳し、良かったら、ガリを切ってくれ、女の子の方が字が丁寧だからと頼む。

水沼も、自分も生徒会で忙しいのでと言い訳をする。

物理の山掛けをしてやると言う交換条件で、海はガリ切りを手伝うことにする。

空は、水沼が外まで連れて行ってくれた。

海がガリを切っている間、考古研の二人が、行動あるのみなどと、熱い議論を戦わせていた。

風間は、謄写版を印刷していた。

戻って来た水沼が、今度カルチェラタン存続の為の集会をするので参加しないかと海を誘うが、海は自分は忙しいから…と断り、ガリを切り終わるとまっすぐ帰宅する。

割烹着に着替えた海は、夕食の準備に取りかかる。

広小路さんが食堂に来たので、カレー用の野菜を切ってもらうことにする。

冷蔵庫の中を確認した海は肉がないことに気づいたので、弟の陸に坂の下の肉屋まで買いに行ってくれと頼むが、空も陸も、テレビで放送中だった坂本九の「上を向いて歩こう」の曲を見ており、この後舟木一夫が出るから嫌だと言う。

仕方がないので、海は自分で出かけることにする。

外に出た所で、ちょうど自転車で下校して来た風間と出会う。

集会まだ?と聞くと、自分には門限があるので参加できなかったと言う風間は、自転車の後ろに海を乗せて坂を降り始める。

カルチェラタンに載っていた詩について聞きかけた海だったが、風間がブレーキをかけたので、彼の背中にぶつかってしまい、話すタイミングを失った海は、その後、何?と風間から聞かれた時は、いい…と言うしかなかった。

坂下の商店街の肉屋で海が肉を買っていると、風間はコロッケを二個買い、一つを海に渡してくれる。

風間は空腹で、とても家まで持たないのだそうだ。

じゃあな…と言い残し帰って行く風間に礼を言い見送った海は、コロッケをかじりながら坂を上って行く。

翌朝、広小路さんが起きて来なかったのを心配した海が部屋に行ってみると、広小路さんはベッドに寝ており、部屋の中には大きな油絵が飾ってあった。

どうやら徹夜で絵を描いていたらしい。

目を覚ましたらしい広小路さんは、ダメだ!夜描いたから、色が出ていない!とつぶやくが、海にはものすごく強烈な色彩の絵だと感じた。

ふと気がつくと、抽象画と思われたその絵の左下部分に、旗を揚げた船らしきものが描かれていたので、この絵は海を描いたものだと海は知る。

海が船を発見したらしいことに気づいた広小路さんが、良く通る船だよ。メルの旗に、良く返事をしているよ…と説明し、すぐに、そうか、メルからは見えないのか…とつぶやく。

海は、皆から「メル」と愛称で呼ばれていたのだった。

どうやら、二階の広小路さんの部屋からは見える風景だが、一階外にある旗立棒の所にいる海からは見えない風景だった。

その日も、放課後、カルチェラタンの考古学研兼文芸部室に出向いた海は、ガリきりの手伝いをしていた。

もうそろそろ帰宅しなくてはいけない時間が来たので、他にお手伝いできますか?とメルは確認するが、風間はガリを貸すよと言いながら、夜、討論集会があるんだが出ないか?と誘って来る。

海は、今日、ダメなのと答えて帰ることにする。

学校から帰りかけた海に、あんみつ食べに行かない?とのぶ子が誘って来るが、海は、お手伝いのとも子さんいないからだめなのと断る。

帰宅途中魚屋に寄ると、子持ちししゃもがあると言うので、一旦買いかけるが、何かを思い出したように、後で取りに来ますと言い残して、海は学校へ戻る。

講堂では、学生集会が行われていた。

観ると、席に座っている大半は男子学生だったが、後ろの壁に数人の女子たちが立って見ていた。

その中には空の姿もあった。

壇上で、一人の学生が、カルチャラタン取り壊し賛成の発言しているとき、席から急に立ち上がった風間が発言し始める。

壇上では発言中だ!と叱責する声が上がるが、八双飛びの要領で一気に壇上へ飛び移った風間は、古いものを壊すのは、死んで行ったものを顧みないことである!と自説を展開する。

排除しろ!と、取り壊し賛成派が風間に近づこうとするが、それをカルチェラタンの住民たちが人間バリケードを作り妨害する。

騒然としたその時、入口で外を監視していた水沼が手で合図をすると、急に、風間は「白い花が咲いてた〜♩」と、「白い花の咲く頃」を歌い出し、その場にいた全員もそれに唱和し出す。

入口から入って来た二人の教師は、歌い続けている風間を見て、にやりと笑うと、黙って帰って行く。

その後、一緒に帰宅することになった風間は、参加者の80%が建替え賛成で、水沼も身動きできないと海に説明する。

海は、お掃除したらどうかしら?きれいになったら、女子たちにとっても素敵な魔窟になるわと言い出す。

数Ⅱの山張り期待しているわと言う海は、風間からガリ版を受け取ると風間と別れる。

その直後、海は、あ!お魚屋さん!と思い出すのだった。

その夜は、北斗さんが引っ越すと言う話題で持ち切りだった。

実は、北斗さんも、港南高校の先輩だったのだと言う話もそのとき海ははじめて聞く。

生徒会長の水沼は、北斗さんの同級生の弟なんだそうである。

北斗さんは、自分の送別会に呼ぼうよ、男ども…と言い出す。

送別会の朝、いつものように海が旗を揚げていると、水沼と共に呼ばれてやって来た風間が「HOKUTOか…」と読んでみせたので、水沼は感心する。

庭にテーブルを置き始めた送別会でも、男子たちは、カルチェラタン取り壊しは校長と理事長が組んでいるなどと話していた。

海は、届いたお寿司をテーブルに持って来る。

昼食後、海は風間を連れ、家の中を案内する。

明治末に建てられた元病院だったと言う建物を見回る風間は、カルチェラタンと同じ頃に建てられたこの家が、本当に大切に使われて来てきれいな状態のままなことに驚く。

おじいさんも医者だったと言う海に、父さんもお医者さん?と風間が聞くと、ううん、船に乗ってたのと言いながら、海は風間とベランダ部分から外を眺める。

お母さんは大学の先生だよね?と風間が聞くと、海は、あの旗は、お父さんが船乗りだったから、自分が小さい頃から、お父さんが迷子にならないように毎日揚げていたのと説明する。

朝鮮戦争のとき、船が沈んでそれっきり…、あの旗竿は、ここに引っ越して来たとき、旗が揚げられないと私が泣くので、おじいちゃんが建ててくれたの…と海は言う。

元はおじいちゃんの部屋で、今はお母さんが使っていると言う書斎に来た時、風間は、海のお父さんが写っていると言う古い写真を見て愕然とする。

それは、澤村雄一郎、立花洋、小野寺善雄と名前が書かれた三人の男子学生が一緒に写った写真だった。

海は、風間の変化に気づかなかったようだが、その時、空が、北斗さんの挨拶が始まると二人を呼びに来る。

送別会から帰宅して来た風間を、父親が、遅いな。母さんに心配させるなとちょっと叱る。

母から、ご飯は?と聞かれた風間は、食べて来たと答えると、古いアルバムを棚から取り出し、それを持って二階の自分の部屋に向かう。

そのアルバムに貼られていた写真も、あの海の家で見た写真と全く同じ、三人の学生が一緒に写っているものだった。

後日、マスクをし、バケツを持った女子の一団がカルチェラタンの前に集結する。

それを入口で待っていた水沼は、ボランティーアの皆さん用こそ!と挨拶し、女子たちをカルチェラタンの中に招き入れると、そこに待ち受けていた男子たちに、男たちは危険な作業を率先してやること!と声をかける。

かくして、もう何十年も掃除されてことがないと思われるカルチェラタン内部の大掃除が男児混合で始まる。

哲学研究会の学生は、女子にカーテンの中を観られるのを嫌がるが、強引にカーテンを開け、汚れ放題の中をさらけ出してしまう。

海は、古い答案用紙の束を大量に発見するが、それはテストの山張りの大切な資料なのだと風間が説明する。

海は、学生時代の北斗さんの答案用紙が100点満点だったことを発見し、感心する。

掃除が一段落し、カルチェラタンの外に出た海は、校庭の一角でいらないものを燃やしており、そこで風間と空が楽しげに会話をしているのを見かける。

水沼も一緒だった。

空が帰ったあと、トイレに行った水沼は、横で立ちションしている風間に、お前何かあったのか?と聞く。

ここの所、風間がふさぎがちのように見えたからだった。

しかし、風間は、何もないぜ、じゃあ明日なと言い残し帰って行く。

翌朝、父の船に乗った風間は、父に聞きたいことがあると言い出し、あの写真を見せながら、ここに写っている澤村雄一郎って人が、僕の本当のお父さんだよねと聞く。

それに対し、父親は、ああ、だがお前は俺の息子だと答える。

あの日、風の強い日だった…と父は続ける。

澤村が赤ん坊を抱いて私の家にやって来た。

その直前に、赤ん坊を亡くしたばかりだった母さんが、その赤ん坊をすぐに抱いていた。

LSTの船長をやっていたんだ。最近、似て来たな。

だが、お前は俺たちの子だと父は話し終える。

うん、ありがとう…と、風間は答える。

観ると、海の家の旗が挙っていた。

その海の方は、広小路さんに、船、来ました?と聞くが、二階の広小路さんは、船の旗が見えないので、今日は来ないみたいだねと答えていた。

その日、早めに学校に出て来た風間は、いつものように謄写版で「週刊カルチェラタン」を擦っていた。

北斗の部屋に来た海は、行っちゃうんですね、お見送りしたいわ…と寂しがるが、トラック、昼だもんね、遊びに来るってと慰める。

学校の入口では、風間が「週刊カルチャラタン」の号外が配っていた。

海がそれを受け取ろうと手を伸ばすと無視されたので、海はがっかりする。

カルチェラタンの中では、風間が、中央吹き抜けの上にある大きなシャンデリアの電球を取り替え、皆から喝采を受けていた。

海の方は、黙々と一人で、整理した箱にラベルを貼る作業をしていた。

下校時、雨が降っていたが、海が校門の所で赤い傘をさして待っていると、自転車を押して風間が近づいて来る。

何となく一緒に帰りながら、海は、嫌いになったのならはっきり言ってと訴える。

風間は自分が持っていた写真を海に差し出し、そこに写っている澤村って人が、俺の本当の親父なんだ。役所で戸籍も調べて来たので間違いない。俺たちは、兄妹ってことだと言う。

それを聞いた海は混乱し、どうすれば良いの?と訴える。

風間は、今まで通りの友達だと冷めた返事をする。

その夜、下宿人たちは、空ちゃん、メル、何か学校であったの?と聞いていた。

下校して来た海が布団をかぶって出て来なくなったからだ。

空は、何もなかったと思うけど…と困惑し、姉の所に言って、お風呂は?と声をかけるが、海は、やめとく…と言うだけ。

海は、幼いとき、泣きながら歩いている自分の姿を見ていた。

朝起きて、台所に行くと、釜のご飯が炊きかかっていたので、ふと観ると、母親が朝食の準備をしている。

お母さん!帰ってたの?と聞くと、私、ずっといるじゃないと母が答える。

その時、「海!旗を揚げるよ」と言う声が外から聞こえ、旗を持った父親が立っていた。

お父さん!と言いながら海が近づくと、父は、今度は長くいられると言うので、海は思わず父を抱きしめる…

大きくなったな…、父はそう言ってくれた。

海は布団の中で涙を浮かべていた。

起きて、階段を降りて台所に行くと、いつも通り、釜の中には水を張った米が入っているだけ。

花瓶に水を入れ、ポピーを入れると、コップの水と一緒に、父の遺影の前に置く。

その時、雷鳴が響いた。

その日、カルチェラタンに行くと、水沼が、メルは幸運の女神だぜと言っていた。

掃除は大詰めを迎えており、左官屋の娘が白壁塗りの技を披露したりしていた。

考古研と文芸部の部屋に来た海は、出来上がった原稿を他人行儀に風間に渡す。

週刊カルチェラタンには、カルチェラタン建替え、半数が反対!と書かれていた。

修理し終わったカルチェラタンの時計が6時の時報を鳴らし始めると、全校生徒が珍しそうにカルチャラタンの方角に目をやる。

もう、何年も、時計は鳴っていなかったのだ。

そこへ水沼が、理事会が夏休み中に取り壊すことを決めた。緊急集会だ!と叫びながらやって来る。

それを聞いた風間は、理事長は徳丸財団の実力者だぜと忠告するが、水沼は東京へ行こう!と言い出し、メルも来てくれ、掃除を言い出した張本人だからと言う。

帰宅して布団に入った海に、隣に寝ていた空が、姉ちゃん、明日、頑張ってねと声をかけて来る。

翌朝、桜木町駅に集まった風間、水沼、海の三人は、東京の徳丸ホールに到着する。

受付のおじさんは、電話をかけながら、予約はしてあるのかと聞いて来るが、水沼はしてないときっぱり答える。

エレベーターで上がり、待機していると、秘書らしき女性が近づいて来て、社長はお会いします。社長はお忙しいので、予約していないといつになるか分かりませんよと釘を刺し、とりあえず待っているよう指示をする。

かなり3人は待たされるが、やがて、社長室の扉が開き、徳丸社長(香川照之)が、君たち入りたまえと声をかけてくれる。

社長室に3人を招き入れた社長は、別室にいた他の客にちょっと待っていてくれと声をかけ、君たち、学校はどうした?と聞いて来る。

エスケープか?と愉快そうに笑った社長は、清涼荘のことだね?と気勢を制する。

水沼は、ぜひ一度お越し下さいと頼む。

徳丸社長は海に目を付け、君はどうして清涼そうのこと知っているの?と聞くので、皆でお掃除しましたと答えると、お父さんは?と徳丸社長は聞く。

船長をしていて、朝鮮戦争のとき死にましたと海が答えると、LST…、そうか、お母さんはさぞ苦労してあなたを育てたことだろうと、感慨深げに徳丸社長はつぶやき、しばらく考えると、よし行こう!と言い出す。

すぐに、秘書に電話をして、明日のスケジュールを調整させると、明日の午後行きますと3人に伝える。

外に出た3人は良い人っているんだなと感心し、水沼は、神田の親戚の家に寄って行くと言うので、海と風間は二人で桜木町まで帰って来る。

港を歩きながら帰る海は、風間さん、もう進路は決めたんですか?と聞くと、カルチャラタンの問題が片付いたら後輩に週刊カルチャラタンは譲と風間は答える。

あの詩、風間さんが書いたの?庭からは、応答の旗を揚げていたの見えなかったと海は告げる。

私、毎日、旗を揚げて、お父さんを呼んでいたのかもしれないけど、その代わり、風間さんを呼んでくれたと思う。私、風間さんが好き!と、路面電車の駅で海は告白する。

血がつながってても好き!

風間は、電車が停まって扉が開くと、俺もお前が好きだと言い残して電車に乗って行く。

帰宅した海は、玄関に見覚えのある靴が置いてあったので、食堂に入ると、アメリカに言っていた母親松崎良子(声-風吹ジュン)が帰って来ていた。

空と陸は、アメリカ土産らしい「ビーフジャーキー」なるものをおいしそうに食べている所だった。

夜、部屋の整理をしていた母親の書斎にやって来た海は、お母さんに聞きたいことがあるの。風間俊と言う人が1年上にいるんだけど、送別会のとき、お父さんの写真見せたら、同じ写真を持っていたの。

良子は、この写真?と言いながら、3人の学生が写った例の写真を取り出す。

ちょっとややこしい話かもしれないけど、私と父さん駆け落ちして、六郷の磯崎さんの家に住み始めたんだけど、その時、お腹にあなたを抱えながら学校に行ってたの…と良子は話し始める。

でも、勉強できることが嬉しくて喜んでいた。

そんなある日、お父さんが赤ん坊を抱えて来て、立花の子だ。引き揚げ船で亡くなった。母親もこの子を産んですぐ死に、親戚は皆ピカドンだと言うの。

でも私には、お腹にあなたがいたので、とても育てられるとは思えず、そうこうするうちに、赤ん坊を欲しがっている人がいたの。

その子、良い少年になった?と聞くので、海はうんと答える。

お父さん、無鉄砲だったけど良い男だった。会いたいわ…、似ている?この写真に…と聞く良子に、海は、又、うんと答えて良子に抱きつき泣き出す。

そんな海を優しく抱いた良子は、海の気持ちに気づいて、思わず背中をさすってやるのだった。

翌朝、海と空は学校に出かけた後、良子はどこかに電話をする。

その後、喫茶店で待っていた良子の元に、風間の今の父がやって来る。

一方、港南高校には、徳丸理事長がやって来る。

カルチェラタンの前に立って、つくづくきれいになった建物を観ると感心をする。

中に入ると、「ようこそ 徳丸理事長」の貼紙と大勢の学生が階上まで埋め尽くして待ち受けており、全員の拍手で歓迎する。

なかなか立派な建物だね…と同行した校長に話しかける徳丸理事長。

天文部の学生に、今は何を観察しているのかね?と聞くと、緊張した学生は、太陽の黒点を観察していますが、まだ判明しません!と答える。

その答えを聞いた理事長は、正直でよろしいと笑う。

哲学研究会の前に来た理事長は、哲学か…と足を止める。

緊張した部員が、閣下は、樽の中に住んでいた哲学者をご存知でありますか?と「無暮雲も問いかけるが、瞬時に徳丸理事長は、ディオゲネスか!と愉快そうに笑う。

その場にいた風間は、電話だと言われ、外に出て行く。

電話は父からのもので、小野寺が来ているが、今日の4時に出航なんだ。すぐに来いと言う。

カルチェラタンでは、全員で校歌を斉唱していた。

徳丸理事長は、諸君!このカルチェラタンの価値は分かった。私が責任を持って、別の場所にクラブハウスを建てると宣言し、それを聞いた学生たちは大喜びする。

水沼は海に感謝する。

その時、風間がやって来て、海の手を取り外に照れ出して行く。

水沼は、閣下、あの二人に人正常の重大事でありますと理事長に告げる。

校門を出た二人は、ちょうど通りかかった玄さんのオート三輪に乗せてもらい港へ向かう。

しかし、街に出た所で渋滞に巻き込まれてしまい、風間と海は車を降り走って行くことにする。

二人に、しきりにすまないと詫びる玄さん。

二人は、港で待ち受けていた父が操縦するタグボートに飛び乗る。

タグボートは、大きな外国船に接近し、先にタラップに飛び乗った風間は、続いて飛び乗って来た海の身体をしっかと抱きとめる。

二人は、船長の小野寺善雄(声-内藤剛志)に出会う。

船長は、出航を15分遅らせて、デッキに二人を案内する。

立花は、君が立花の息子かと風間の顔を見、あなたが澤村のお嬢さんか…と海を観る。

そして一枚の古い集合写真を見せると、前列右から4人めが立花博だと二人に教える。

立花を中心に、小野寺と澤村が写真館で写真を撮ったとき、立花は、貴様ら、俺より先に死ぬなよと言っていたと言う。

君のご両親が亡くなったとき、俺は外国に行って不在だったが、俺も澤村と同じことをしただろうと小野寺はきっぱり言い、立派に成長した二人と握手して別れる。

小野寺の外国船が出発する時間になり、海と共にタグボートで帰る風間だったが、操縦していたいつもは無愛想な父が、思いっきりウインクして来たので驚く。

海は、それからも、毎朝、旗を揚げていた…

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

東京オリンピックが間近に迫る60年代前半くらいの横浜を舞台に、一人の少女が恋に目覚め、相手との意外な出生の秘密に悩み、その疑問が解決するまでを描く少女マンガ原作のアニメ映画化作品

往年の日活青春映画を参考にしたとかで、何となく、そう言う既成の作品に似ているのかな?と思っていたが、観てみると、従来の60年代映画とは全く違った、やはり爽やかなジブリ映画になっていた。

日活映画との決定的な違いは、ヤクザや不良が一切出て来ないこと。

相変わらず良い人ばかりが登場する。

ただし、当時を知らないスタッフが、映画を参考にしたんだろうなと思わせる箇所はあり、例えば、北斗さんの送別会のシーンで、庭のテーブルに乗っているビールはどう見てもアサヒビールだ。

もちろん、当時からアサヒビールはあるので、絶対あり得ない設定ではないが、普通に考えればキリンビールの方が自然ではないか?

当時、一般家庭のシェアの大半はキリンだったはずだからである。

アサヒビールが良く出て来ていたのは、タイアップしていた当時の映画の中だけだったような気がする。

とは言え、ガリ版切りに謄写版印刷など、コピーが普及する前のミニコミ出版の出し方などは興味深く描かれている。

後半、登場する徳丸理事長の会社は、鈴木プロデューサーが昔「アニメージュ」に勤めていた、新橋の徳間書店がモデルだと思う。

とすると、徳丸理事長は、映画のプロデューサーとしても活躍した徳間康快氏がモデルではないだろうか?

恋愛ドラマとしては、そのガリ版刷りの学校新聞に載った詩が、どうやら自分のことを書いているらしいと知るヒロインが、その執筆者と思しき少年と、学校伝統の「飛び込み」で出会い、妹の好奇心を利用する形で、文芸部の手伝いをすることになり、最終的には、路面電車の駅で互いに告白し合う所で一応完結しているように思える。

ラスト部分の、母親の突然の帰国や、出生の秘密を知る小野寺の偶然の帰還などは、映画に良くある「話を収束させる為のつじつま合わせ」だろう。

ご都合主義と言えばその通りだが、娯楽映画では良くある手法である。

もう一つの流れは、「清涼荘」通称「カルチェラタン」の取り壊しを、学生たちが協力して阻止する話。

宮崎駿が東映動画時代に担当したことで有名な「長靴をはいた猫」のクライマックスの塔にも似た、独特の形態を持つ建物として造形されている。

その中にあるのは、映画として描かれるのは珍しい「文科系クラブ」の生態だ。

青春映画の場合、運動部や音楽部などを描く例は多いが、文科系は珍しいのではないか。

元々ネクラ風の学生が集まるイメージがある文科系+議論好きな60年代の学生の組み合わせで、正に、バンカラ魔窟のイメージが興味深く描かれている。

タバコが出て来ないのが優等生風だが、当時の高校の文科系なら、タバコくらい部室でこっそり吸っていたはずである。

集会を頻繁に開いたり、色々議論し合うのは確かに当時良くあったことで、特に進学校などでは当たり前だったと思う。

そう言うエリート校っぽい学校なので、不良もいないのだろう。

若干、当時のバンカラ学生気質を美化して描いているようにも思えるが、ユーモラスに描かれているだけなので、特に押し付けがましいとも思わない程度である。

冒頭部、かなり描き込みが甘いと言うか、構図の緊張感も弱く感じるカットが続き、やや不安があったが、物語が進行して行くうちに、それほど作画に不安はなくなり、カルチェラタンが登場する頃からは全く気にならなくなった。

声優陣も特に違和感はなく、日常スケッチ風な内容と良くマッチしていたようにも思える。

こうしたさらっとした話は、文芸ものなどでは良くあるパターンなのだが、アニメとしてはまだ珍しい部類かもしれない。

派手なアクションものとか、SFやファンタジーなど、アニメで表現しやすい素材ではないものをあえて表現してみた、高畑勲監督の「思い出ぼろぼろ」(1991)などの流れに近い意欲作だと思うが、今回、この作品は、キャラクターなどにジブリ風味を残しながらも、従来のアニメとも実写表現とも又ひと味違った独特の魅力を生み出すことに成功しているように思う。

決して派手さや重厚さはないが、心地よい作品ではある。