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風の女王

1938年、松竹大船、片岡鉄兵原作、野田高梧脚本、佐々木康監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

スキー場でスキーを楽しむ二人の女性、松永由紀子(三宅邦子)と横田多恵子(森川まさみ)は、同じ会社に勤めるタイピスト同士。

ホテルに戻った多恵子は、雪山の美しさに感嘆の声を上げる由紀子に、お父さん、口見つからないの?と尋ねる。

54ですもの…と答える由紀子に同情しながらも、互いの趣味性の違いなどをからかい合っていた二人だったが、多恵子が会社の三瀬のことを話題にあげる。

三瀬のことに由紀子が興味を持っていることを知っていた多恵子が、自分も興味があるので、二人で散歩に誘い、わざとぶつかって、あの人の態度を観察し、私とあなたのどちらに興味があるかどうか調べてみないか?と言うのである。

由紀子は面白がり、すぐにその話に乗ってくる。

会社に戻った由紀子は、出来上がったタイプを福井五郎専務(佐野周二)に手渡しに行った所、もう一つやって欲しいことがあると依頼される。

退社後、日劇前で三瀬(笠智衆)と落ち合った由紀子だったが、多恵子は家から用があると連絡があって来れなくなったと言う。

トンカツ屋に入った三瀬は、前から君と二人で会いたかったなどと話し始めると、専務の横田とは学生時代からの知りあいなのだが、部長の甥と言うことで専務になっているが、細君は、ここ2、3年寝たきりだし、洋行に誘ったりして付き合っている横田君にも飽きているようだなどと陰口を叩いた後、君と結婚してもらいたいと思っているんだと打ち明ける。

その告白に、由紀子は喜ぶが、家庭的な負担のことがあるので…と言い、即答は避ける。

その頃、由紀子の両親は、こんな小石川の真ん中に住んでいることはなく、池袋の奥なら、もっと安い家があるなどと新聞を観ながら話し合っていた。

そこに、ケーキを土産に由紀子が帰って来て、父(奈良真養)の肩をもんでやる。

二階に上がると、妹の布江(高杉早苗)が、福井五郎と言う人から速達が来ていると持って来る。

至急お目にかかりたい御話があるので、明日正午丸の内の「アリゾナ」に来てくれませんか?あなたに、美しい降伏をもたらしたい気持ちで一杯ですと言う内容を読んだ由紀子は、明日丸の内まで来てくれない?護衛としてと布江に頼む。

その手紙を確認した布江は、今時、30前の青年重役にこんな手紙をもらうなんて、アメリカ映画のようだわと茶化し、その手紙で紙飛行機を折ると、部屋の中を飛ばしてみせる。

翌日「アリゾナ」で福井専務と会った由紀子は、連れて来た妹の布江を音楽をやっていると紹介する。

布江は仕事の話が始まる前に席を立とうとするが、それを制した福井専務は、今度一人、女の人をパリに派遣して、化粧品の科学的研究をして来てもらいたいのだが、今、ある人に話が漏れて、猛烈な売り込みがあるのだと説明する。

その話を聞き終えた由紀子は、近いうち、会社を辞めさせていただこうと思っているの…と切り出したので、福井は驚いて、会社のどんな所が気に入らないんですか?誰かが入れ知恵をあなたにしたようだ。明日辞表を書くなんて思いとどまってくれませんか?と頼む。

福井と別れ、帰途についた由紀子に、布江は、姉さん、バカみたい。あんないい話断るなんてと話しかけて来たので、由紀子は、ああ言って、誘惑して来たらどうする?と反論する。

翌日、会社では、多恵子が福井の服のゴミなどをつまんで愛想を振りまいていた。

そこに電話が入り、福井が出ると、電話の相手は布江で、電話では言いにくい話なので会っていただきたい。姉にも内緒でと言って来たので、不審に感じた福井は、由紀子を呼ぶと、今、妹さんから会いたいと言う電話をもらったけど、大丈夫ですか?と確認する。

すると由紀子は、御随になさってかまいませんわと言うと自分の席に帰ってしまう。

再び「アリゾナ」で福井に会った布江は、重役なら、パリに行けと言えばいいだけで、昨日のような言い方だと、姉は、後で何かを要求されるのではないかと疑いたくなりますと注意する。

それを聞いた福井は、確かに賢くなかったかもしれないと反省する。

布江は、個人として、姉を友達にしたかったのではないですか?だったら私が友達になってあげてもいいわ。姉は、あなたの恋愛を受け入れるような人ではない。愛人と言ってもいいわと大胆なことを言い出したので、驚いた福井は、自分には女房がいるのだと説明するが、布江は、私はただ、姉が出世してくれれば良いのとあっけらかんと答える。

布江は、ピアニストとして後援して欲しい。本当はあなたのことが好きなのと言い出したので、歩きましょうか?と外に連れ出した福井は、車で家まで送って行く。

車を降りた布江は、今度はこの車でドライブ連れて行って下さいねと頼むが、福井は、さあね…とごまかすしかなかった。

帰宅した布江を側に呼んだ父は、どこへ行っていた?と聞く。

布江は平然と、姉さんを幸せにしてもらいたくて、銀座に行ったと答えると、非常識な!誰に頼まれてそんな余計なことを!と父は叱る。

しかし、布江は、裏があれば、その裏を利用すれば良いのよとドライな物言いをするので、父は、人間は人から後ろ指を指されるようになったらもう失敗だと説得する。

それでも布江は、そんな考えなら生活は楽にならないわ。父さんだって、会社辞めさせられたじゃないと反論したので、横で聞いていた母(葛城文子)は、父さんが会社を御辞めになったのは定年で、退職金ももらっていると説明する。

布江は、部屋の外に立って話を聞いていた由紀子の姿を見つけると、おしゃべりね、知らないわよと言い捨てて二階に上がる。

二階に上がった由紀子は、あなたはこれまで黙ってたのに…と、妹の態度の急変に戸惑う。

布江は、もう、黙ってないわ!と毅然と反論する。

由紀子は、あなたは、こんな程度の貧乏にも辛抱できないのねと哀しむが、その夜、布団に入った布江の目は涙で濡れていた。

翌日、会社では、三瀬が由紀子に誘いをかけ、多恵子にも浅田飴など分けてご機嫌を取っていた。

多恵子は三瀬がいなくなると由紀子に近づき、あの人、遊びに来いって言ってなかった?男ってものは、できるだけ冷淡にしている方が良いの。行くときは私も一緒に行ってあげると助言する。

その夜、三瀬の家に出向いた由紀子は、専務から洋行のことを切り出されて迷っていることを打ち明けると、じゃあ、いっそのこと会社を辞めちゃいなよ。社員同士の恋愛も御法度だし、こちらの親戚で文句を言うような奴などいないと言う三瀬の言葉を真に受け、じゃあ、会社よすわと答える。

すると、三瀬が馴れ馴れしくてなど握って迫って来たので、由紀子は驚いて、そんな人とは思わなかったと逃げようとする。

三瀬は、帰りたまえ!信用のおけない男の所にいたら君も不安だろう。帰りたまえと表情をこわばらせる。

その時、多恵子がやって来て、こんなことだろうと思って来たら…、由紀子さん逃げなさい。この人、あんたなんか愛していない。私と約束した仲なのと告白する。

驚いた由紀子はそのまま帰宅する。

残った三瀬は多恵子に、バカだなぁ、もう少しで、会社を辞めると言ってたのに…と残念がり、君をパリに行かす為だよ。君が美容部員になり僕と結婚すれば、美容院を建てるよ。それがプランじゃないかなどと甘い言葉をかける。

しかし、多恵子は、あんたがあの女に近づくのが黙っていられないのとすねるので、三瀬は、ちぇっ、しようがないなぁ…と苦笑するのだった。

ある日、福井専務はホテルに松永文江を訪ねてやって来る。

受付で3階の136号室だと案内されたので、そこに行ってみると、待ち受けていた文江が、家出して来ちゃったのといいながら福井を出迎える。

福井は、どうしたんです?こんな所に呼び出したりして?と不思議がるが、無一文で飛び出して来たので、ここの支払いはあなたにお願いしようと思って…などと文江は平然と言う。

承知しなかったら?と福井が抵抗すると、あれを飲むわと言いながら、文江は薬瓶のようなものを取り出してみせる。

文江は、すぐ家を探しに行きましょう。アパートでもいいわ。ピアノは持ち出せなかったのなどと要求して来たので、福井は、ピアノを買えって言うんですか?と心底呆れたように答える。

文江は、ホテルに備え付けの封筒や、石坂洋次郎の「若い人」の本などをバッグに詰め始める。

そこに福井から知らせを受けた由紀子が立っていた。

文江は、姉さん、何しにきたの?などとふてくされるが、由紀子は、私と一緒に帰りましょうと声をかける。

福井は、サンルームで待っていると言い、姉妹を二人きりにする。

由紀子は、こんな所にいて危険だと思わないの?男なんて信用できないわと説得するが、文江は、くらい穴蔵に戻すようなことはしないで頂戴と反論する。

あの人に心を許しちゃダメよ。男って皆、野心を持っているんですからと諭そうとするが、文江は口笛など吹き出し無視する。

サンルームにやって来た由紀子は、あなたが悪いんです。あなたが突っぱねてくれたら、妹は帰って来るんですと福井を責めるが、福井は、あなたは僕を誤解している。妹さんを傷つけるようなことはしない。僕には女房がある。ただ、たった一つのことを控えて来た。僕はあなたを愛していると由紀子に告白する。

しかし、由紀子は帰ると言うので、福井は、妹さんのことは安心していて下さいと福井は声をかける。

翌日、会社で仕事をしていた由紀子に近づいて来た三瀬は、又、数寄屋橋の所で待っていると声をかけて来る。

そんな三瀬の様子を、多恵子もうかがっていた。

三瀬はさらに、電話で、布江と話していた福井の方を観ながらほくそ笑んでいた。

スケート場で布江と滑っていた福井は、もう9時半だから帰ろうと説得していたが、布江はもう一度、銀座へ行きたい。明日から心を改めて勉強するからとねだる。

そうした二人の様子を陰ながら監視していたのが三瀬だった。

結局、一人で帰ることになった布江に近づき声をかけた三瀬は、これから銀座へでも行きませんかと誘い、タクシーを停める。

翌朝、福井が歯を磨いていると女中が三瀬の名刺を持って来て、応接室で待っていると告げる。

応接室で待っていた三瀬は、女事務員を洋行させる件、君は松永由紀子を行かせるだろう?と聞いて来る。

義務があるはずじゃないか?君は、彼女の妹を妾にしていると言う噂があるじゃないか。それが知れたら、病気の奥さんにとっては命取りだと脅迫して来る。

洋行させるのは、横田多恵子にしたまえと迫る三瀬に、福井は、考えとくと答え、社員同士の恋愛は禁止だからねと付け加えるが、三瀬は、僕は君と違って品行方正だからさと言い捨てて帰る。

新しい家でピアノを弾いていた布江は、やって来た福井に、あれから妙な人に会った。三瀬って言う人と教える。

それを聞いた福井は、あんな男に近づいたら危険だ。あんな男と付き合うなら、もう責任は負えない。今日限り手を引くと言い聞かせる。

しかし、布江は、なぜもっと人間らしく扱って下さらないの?と甘えて来たので、だだっ子だなあ…と福井が呆れると、勝手にしますわ!三瀬さんの方が人間らしく扱って下さいますものなどと言い出したので、思わず、福井は布江の頬を叩いてしまう。

布江は、それでも、堕落する!あなた、私をちっともかまって下さらないじゃない!堕落したってかまわないわ!と抵抗し続ける。

部屋の外に出てみると、階段の所に由紀子が待っており、買えって頂戴と布江に頼む。

布江が出て行くと、由紀子は、我慢できない噂が出ているのと福井に訴える。

それを聞いた福井は、あいつはある計画を立てている。布江さんにまで手を伸ばしているんです。詳しい話は車の中で…と言いながら、由紀子を外に連れ出す。

妹のことを案じ躊躇する由紀子に、引きずってでも帰って来ますと福井は約束する。

その後、三瀬の家にやって来た福井は、ちょうど、多恵子とすき焼きを食べかけていた所を目撃し苦笑する。

多恵子は驚き、私、会社の帰りに寄っただけで…と言い訳しかけるが、福井は、夫婦でないことは良く分かっていますと言い残して、由紀子が待っていたホテルに帰って来る。

由紀子は、あの人、あなたを愛しているんです。愛していると言ってくれれば落ち着くんです。私に入ってくれたじゃないですかと布江のことを案ずるが、福井は、意志が弱かったんです。後悔していますと答えるしかなかった。

翌日、会社で、三瀬と多恵子を呼び出した福井は、君たちには退職してもらう。複雑な事情は君たちの胸に聞きたまえと告げる。

三瀬は逆上し、社員の妹を妾にするのはいいのか?と詰め寄ろうとするが、横にいた他の重役が、そう言うのを牽かれものの小唄と言うんだとたしなめる。

三瀬は、受け取った辞表をその場で破り、憤然として出て行く。

福井は由紀子に、布江が今日も帰って来ないことを教える。

その後、布江からの電報を受け取った福井は、とある旅館に駆けつける。

布江が泊まっていた部屋に夜遅くやって来た福井は、女中が下がろうとしたので、僕は別の部屋にしてくれと頼むが、女中が気の毒相に、今日は満員で…と言うと、じゃあ、僕の布団は隣の部屋に敷いてくれと頼む。

布江は、あなた、私を叱る?と聞くので、無理にでも連れて帰るよと言いながら、福井は隣の部屋の布団に入る。

外は嵐模様だった。

翌朝、由紀子が連絡を受けて駆けつけて来るが、福井と布江の様子がおかしいことに気づく。

福江は由紀子に、私が改めて福井さんに愛してもらえたら喜んでくれる?と聞き、うなだれた福井は、弱かったんです。あなたにあんな立派なことを言ったのに…と弁解する。

事情を知った由紀子は、あなただけは信じていたのに…今のあなたは、三瀬さんよりもっと卑しく見えますと言い残して旅館を出て行く。

残った福井も旅館を出ると、富士山が見える海岸に一人やって来て、暗く沈み込むのだった。

それから数日後、由紀子は、フランス行きが決まり、重役たちに見送られて客船に乗っていた。

由紀子は、船に見送りに来ていた布江から、福井の手紙を読まされていた。

そこには、あなたと結婚しなければいけませんが、僕はなんて惨めな立場に陥ったのか?などと書かれていた。

布江は、私、どうすれば良いの?と聞き、由紀子も、分からない。姉さんだって分からないと言うしかなかった。

やがて、出航の銅鑼が鳴り、キャビンに出た由紀子は見送りの人々に挨拶をする。

その見送る人たちの中には、両親もいた。

布江は、姉さんと二人きりで話したかったのと言うが、由紀子は良いの。もう、何も言わなくても…とつぶやく。

布江は、ねえさん、私を許してくれる?留守の間勉強するわ。今度会うときは、立派な人になるわ。許すって行って頂戴!と泣きつくが、私たちの間で謝ることなどないのよ。これから本当の生活が始まるの。これまでは夢だったのよと言う由紀子も又泣いていた。

船は出港して行く。

港に一人残った布江が、その船をいつまでも見送っていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

ちょっと不思議な感覚の女性映画。

貧しく世間知らずな姉妹の物語だが、男経験が浅く、計算高い男の魔手に難なく引っかかってしまい、ますます男性不審になってしまった姉と、その姉に想いを寄せる専務を横取りしておもしろおかしく暮らそうと考える野心的な妹の話になっている。

女を利用し、人を陥れるのもいとわない小悪党に笠智衆、優柔不断で、小娘に良いように操られているうちに、人間としての道を踏み外してしまうことになる情けない男に佐野周二と言う意外なキャスティングが面白い。

どちらとも最低の人間であり、観客が同情する余地はない。

笠智衆が演じている三瀬の方はまだかわいげがあるが、佐野が演じている福井は、本当にどうしようもないバカである。

良くこんな救いようない嫌な役を引き受けたもんだと思うほど。

最初は、年下の娘を適当にあしらっているつもりで、結局はその色香に負けてしまう…と言う展開自体はまだ理解できる。

その過ちに後悔し…と言うのも分かるが、それ以後の福井の行動が何も描かれておらず、情けない手紙だけで終わるので、ダメな男と言う印象しか残らないのだ。

例えば、会社をきっぱり辞め、病身の妻と二人きりの生活に徹するとか、何か、男のけじめ的な行動があっても良かったように思えるが、その辺が女性向けの映画なので、省略されてしまったと言うことなのだろう。

では、ヒロイン二人の方は魅力的かと言うと、これも観ていて苛つく嫌なキャラクターであり、どちらにも感情移入できないと言う所が凄い。

嫌な女と嫌な男しか出て来ない映画なのだ。

布江は自由奔放に生きようとして、純血を失っただけで、他には何も得るものはなかった愚かな女。

小さな野心に燃えていた横田多恵子も、得たものは退職と醜聞だけ。

一見主役風の由紀子の最後の洋行も釈然としない。

あれほど会社を辞めると言っていたはずなのに、結局は、愛情騒動の外で、どこか冷静に計算していたと言う風に見えてしまうからだ。

福井と妹が過ちを犯した後の、彼女の葛藤、会社側の説得など、色々あったはずなのだが、そこがきれいさっぱり省略されてしまっているからだと思う。

主要な人物たちの描き方に掘り下げがなく、誰が主役なのかもはっきりしないような描き方をしているため、何となく、頭の悪い男女の自業自得ドタバタ劇のように見えてしまうだろう。

全員が嫌な人間に見えてしまうのも、そこだと思う。

庶民の悲劇性を描いた一種のメロドラマであり、教訓話のような意図も含んで作られたものかもしれないと想像したりする作品である。